アジアで電子COが標準化するほど、原産地検証リスクは上がる

いま企業が備えるべき実務ポイント

原産地証明書は長年、「紙が届くかどうか」「押印やサインが揃っているか」という世界で運用されてきました。しかしアジアでは電子COの実装が加速し、原産地情報がデータとして国境を越えて流れる時代に入っています 。通関は速くなる一方で、原産地の誤りや不整合が見つかりやすくなり、検証や照会のリスクも上昇しています 。

本稿では、アジアで起きている変化を一次情報中心に整理し、企業実務として何を整備すべきかを経営者と現場の両方の視点で解説します。

何が変わったのか

ASEAN域内では電子Form Dが原則に

ASEANでは、ATIGAのForm DがASEAN Single Window(ASW)を通じて電子的に発給・受領される運用が拡大してきましたが、2024年1月1日から「完全実装」段階に移行しました 。加盟国間でのe-Form Dの発給・受領が原則となり、紙は「技術的な問題が発生した場合のみ」という位置づけです 。

シンガポール税関も、2024年1月以降は加盟国が電子送信を全面実施しており、域内の輸入税関が紙のForm Dを受け付けない場合がある点を明示しています 。これは原産地証明の評価軸が「紙の提出」から「データの到達と整合」へ移行したことを意味します。

二国間でも原産地データの政府間送信が拡大

シンガポールと中国の間では、EODES(Electronic Origin Data Exchange System)により優遇原産地証明や関連証憑の電子送信が運用されています。中国は2020年5月から電子PCOの全面送信を義務化しており、企業は特恵関税を活用する際にePCOを利用しなければなりません 。

さらに2025年12月11日からは、RCEPでもEODESが拡張され、シンガポール発中国向けのRCEP等のPCOが電子送信できるようになりました 。

各国の発給業務もスマート化で集約が進む

タイでは外国貿易局がForm D申請をSmart C/Oシステムに統合し、2025年4月25日12:00をもって従来のEDI経由のForm D申請を終了しました 。4月28日からは完全にSmart C/Oシステムに移行し、RCEPやAJCEP、非特恵原産地証明書なども同システムに統合されています 。

日本のEPAでもデジタル化が段階的に進行

日本でも、EPAの第三者証明でJCCIが発給するCOについて、PDF発給の拡大や協定別のデータ交換導入が進められています 。日タイEPAにおけるe-COのデータ交換は、日本への輸入において2025年6月2日から本格運用が開始されました 。日インドネシアEPAでは、2024年1月以降インドネシア発給機関が紙の原産地証明書の発給を廃止し、原則としてe-COのみとなりました 。

システム障害も現実に起きる

電子化が進むほど、システム障害の影響も顕在化します。マレーシアでは、ASWゲートウェイの技術的問題により2026年1月14日からe-Form Dの送受信が不能となり、一時的に紙のForm Dに回帰しました 。送受信は2026年1月20日に全面復旧しましたが 、同様の障害は2025年6月にも発生しています 。

電子化は「止まらない」のではなく、「止まったときの手当まで含めて制度」と捉える必要があります。

なぜ電子COで原産地検証リスクが上がるのか

原産地情報が税関のリスク分析に直結

WCOの相互接続フレームワークでは、COデータ交換の目的として、輸入国がCO情報にアクセスしてリスク分析や必要な措置を取れるようにすることが明記されています 。電子的な原産地情報交換により、申告時点での真正性チェックをリアルタイムで行えるようになり、スキャン書類の確認負担も減少します 。

つまり電子COは、通関の時短ツールであると同時に、税関側の検証能力を引き上げるインフラです。企業側の入力ミスや根拠不足は、以前より早く広く検知されるようになります。

データ交換は世界的に拡大中

WCOの2022年調査では、回答した税関当局のうち22当局(26.2%)がCOのデータ交換を実装済みと回答しており、2016年以降に実装が増加したことが示されています 。政府間電子送信が真正性の担保や不正リスク低減に有効だという整理も示されています。

アジアはその中心であり、ASEANのe-Form Dや各国の単一窓口接続が積み上がるほど、「データでもらうのが当たり前」になっています。

制度設計自体が不正回避を前提にしている

日本税関のRCEP解説資料では、輸入の優遇税率適用には原産性の確認に加えRCEP原産国の特定が必要であること、関税差がある品目では迂回輸入の機会が生まれるためそれを防ぐ意図でルールが設計されている点が明示されています。この構造の下では、税関も企業も「制度上、検証が起きるのが前提」と考えるべきです。

企業実務で陥りやすい落とし穴

電子CO時代のリスクは、不正をしていなくても運用の弱さで発火します。

落とし穴1: HSコードが通関分類と原産地証明でズレる

電子化により、HSコードはより機械的に突合されます。マレーシア当局の案内でも、輸入国のHS2022導入によりHS2017のままのPCOだと輸入者が優遇申請で苦労する、転換作業が未完了のため当面HS2017を使うべきだといった現場課題が公式に言及されています 。

企業側は、分類の正しさに加え、協定ごとのHS版や運用要請まで管理対象に入れる必要があります。

落とし穴2: 原産性の根拠がデータ入力の裏で薄い

RCEPでは原産国特定に付加価値や工程などを裏付ける証憑が求められます。製造原価明細、インボイス、工程フローなど、何をどの条件で揃えるかは協定と商品で変わります。

電子COでは証明の提出は簡単になっても、後日の照会に耐える根拠作りが不要になるわけではありません。

落とし穴3: 紙の提出で何とかなる、が通用しにくい

域内では紙を拒否し得る、と公式に書かれています 。現場が旧来の癖で紙を回していると、優遇否認という形でコストが顕在化します。

落とし穴4: システム障害時の代替手順が社内に落ちていない

マレーシアのASW障害のように、現実に止まります 。止まったときに、どの条件で紙に切り替え、どの書類をどこに提出し、復旧後に何を再送するか。ここを決めていないと、出荷と通関が詰まります。

落とし穴5: データ交換が進むほど税関側の検知が早い

WCOのフレームワークは、CO情報へのアクセスがリスク分析に使われ、不正抑止につながることを明確にしています 。企業のミスは、発覚が「事後」から「申告時点」へ寄っていきます。

電子CO時代の検証フロー

以下の流れで検証が強化されています:

  • 輸出者が申請し、発給機関が電子COを発給
  • 単一窓口などを介して、輸入国側へCOデータが送信
  • 輸入申告時に、税関がCOデータと申告データを突合
  • リスク基準に合致すれば、追加資料要求や事後検証へ
  • 不整合があれば、優遇否認、追徴、ペナルティ、サプライチェーンの遅延

このプロセスの3)から4)が電子化で一気に強化されています 。

いま企業が整備すべき7つの実務アクション

経営としては「コスト削減」より「否認と遅延の回避」を狙うべき局面です。

1) HSコードを分類と原産地で同一マスターにする

協定別にHS版、品目別規則、社内採番、顧客採番が混ざると事故が起きます。最低限、社内の正本を一本化し、協定や国で必要な表記揺れを枝番管理にします 。

2) 原産性の根拠を案件単位で束ねる

商品別に、工程フロー、BOM、原価、仕入先証明、過去の発給実績をパッケージ化して保管します。出荷や申請の都度集めると対応が遅れます。

3) 申請データの入力品質をチェックリスト化する

電子交換では、コード表や必須項目の誤りがそのまま相手国に飛びます。出荷前に、原産地証明用のデータだけを抜き出して機械的に検算する工程を入れます 。

4) RCEPはどのProof of Originで運用するかを先に決める

RCEPではCOに加え複数の原産地申告があります。取引先ごとに必要な制度が変わるため、販売契約の段階で合意しておくのが安全です。

5) 障害対応の代替手順を輸送と通関まで含めて整備する

ASWゲートウェイ障害で紙に戻る、復旧で再び電子に戻る、という事実が公式に示されています 。物流会社や通関業者に何をいつ渡すかまで手順書に落としておきます。

6) 主要レーンで電子送信の到達確認を運用に入れる

電子COは「発給された」だけでは不十分で、「輸入国が受領できる状態で到達している」ことが重要です。EODESやASWのように送受信が前提の仕組みでは、参照番号やステータス確認が設計されています 。

7) 月次で優遇否認と差戻しの原因を棚卸しする

電子化が進むほど、否認や照会はデータ上の癖として現れます。否認が起きてから直すのではなく、否認が起きそうなパターンを先に潰す運用へ変えるのが肝です 。

まとめ

アジアの電子COは貿易円滑化のために進んでいます。ASEANのe-Form D全面実装は、偽造リスク低減や税関の検証時間削減につながると公式に述べられている通り、方向性は明確です 。

企業側の要点はひとつです。原産地証明を「書類作成」ではなく「データ品質と証拠管理」として扱う会社ほど、優遇の取りこぼしと検証リスクを同時に減らせます。

参考にした主な一次情報

ASEANのe-Form D全面実装告知 、シンガポール税関のASW案内とEODES案内 、WCOの相互接続フレームワークとデジタル化調査 、経産省のEPA COデジタル化リリース 、マレーシアMITIのASW障害告知 、ジェトロのタイC/Oスマート化報道 、タイDFTのSmart C/O移行告知 、日本税関の日インドネシアEPA案内