中国、鋼材輸出に新たな許可要件 2026年1月から何が変わるのか

2026年1月1日から、中国は一部の鉄鋼製品について輸出時に「輸出許可証」を求める制度を開始します。対象はHS10桁ベースで約300品目とされ、原料から半製品、鋼板・コイル、めっき材、形鋼、鋼管など広い範囲をカバーします。輸出実務に直結するため、調達・販売・物流の現場が先に影響を受けやすいテーマです。 (ジェトロ)

本稿は、2026年1月27日時点で確認できる一次情報と信頼できる報道に基づき、制度の要点と実務対応を整理します。 (中国商务部)

要点サマリー

項目内容
施行日2026年1月1日
根拠文書商務部・海関総署 公告2025年第79号(文書日付は2025年12月9日、公表は12月12日)
対象一部鉄鋼製品(HS10桁で約300品目、詳細は公告添付リスト)
申請に必要な主要書類輸出契約、メーカー発行の製品品質検査合格証明
許可証の発給機関商務部および委託を受けた省級・一部副省級都市の商務主管部門など(企業属性で管轄が分かれる)
実務細則未規定事項は公告2024年第65号に従う

上記は、ジェトロの整理と中国商務部の公告本文に一致します。 (ジェトロ)

1. 何が変わったのか 輸出許可証が必要になる

今回のポイントは「鉄鋼の輸出が全面禁止になる」ではなく、対象品目を輸出する際に、通関前提として輸出許可証を取得し、税関手続で提示できる状態にしておくことが求められる点です。公告2025年第79号は、既存の「輸出許可証管理貨物目録(2025年)」を調整し、鉄鋼製品の一部を当該目録に追加する、と明記しています。 (中国商务部)

実務上は、次のどこかで詰まると出荷が止まります。

  1. 対象品目かどうか(HS10桁の判定、製品仕様の確定)
  2. メーカー品質証明の手当て(発行主体・記載内容・タイミング)
  3. 許可申請の受付・審査(申請窓口の確認、差戻し対応)
  4. 通関時の整合(申告HS、インボイス記載、許可証の一致)

制度は、輸出企業の社内手続ではなく、出荷そのものに影響する運用ルールです。 (中国商务部)

2. 対象範囲は広い 原料から完成品まで

ジェトロは対象をHS10桁で約300品目と整理しています。 (ジェトロ)
JOGMECやCISTECの解説でも、原材料・一次形状品(銑鉄、再生鉄鋼原料、鉄鋼くず等)から、半製品(ビレット、スラブ等)、熱延・冷延、めっき・コーティング、その他鋼材や鋼管まで、産業チェーン全体を網羅する構成である点が強調されています。 (JOGMEC 石炭資源情報)

ここで重要なのは、一般に「鋼材」と聞いて想起する薄板・形鋼だけではなく、半製品やスクラップ類も含み得る設計になっていることです。対象判定を甘く見ると、契約済みの出荷直前にストップするリスクが上がります。 (JOGMEC 石炭資源情報)

3. 申請に必要なもの 契約と品質証明が鍵

公告2025年第79号は、対象品目を輸出する際、輸出契約とメーカー発行の製品品質検査合格証明で許可を申請すると明記しています。 (中国商务部)

この要件は、現場に次の行動を迫ります。

  • 取引スキームの再設計
    例えば、商社が輸出者でメーカーが別の場合、品質証明の入手ルートと責任分界を契約に落とし込む必要があります。
  • 書類の整合管理
    品質証明に紐づくロット、規格、品名、仕様が、インボイスや通関申告とズレると差戻しの原因になります。
  • リードタイムの織り込み
    許可取得の所要日数は案件・地域でブレます。月末集中出荷やスポット案件ほど遅延が表面化しやすくなります。

制度の狙いとして「品質」を前面に出している点は、各種報道でも繰り返し言及されています。 (Reuters)

4. 誰が許可証を出すのか 窓口が分かれる

公告本文は、商務部および委託を受けた省級地方の商務主管部門、さらに一部副省級都市の商務主管部門などが分担して許可証を発行するとしています。加えて、北京で国務院国資委監督下の企業は商務部許可証局が発行し、それ以外は所在地の省級または副省級都市の主管部門が発行する、と管轄分岐も書かれています。 (中国商务部)

ここは日本企業側も無関係ではありません。なぜなら、許可取得の窓口が誤っていると、申請差戻しで出荷遅延になり、そのコストはサプライチェーン全体に転嫁されやすいからです。

5. なぜ今なのか 貿易摩擦と「量は増えたが値は下がる」構造

背景として複数の論点が重なっています。

  • 輸出量の増加と対外摩擦の増加
    JOGMECは、輸出価格の下落や低付加価値品の増加、反ダンピングなど貿易摩擦の増加に触れています。 (JOGMEC 石炭資源情報)
  • 国際的な保護主義の圧力
    ロイターも、増加する中国鉄鋼輸出が各国で反発を招いている点を背景として報じています。 (Reuters)
  • WTO整合性を意識した「監視・管理」手段
    ロイターは、中国商務部が本制度をWTOルールに沿うものと説明していること、輸出量の制限そのものではない旨を述べたことを報じています。 (Reuters)

ビジネス目線での読み方はシンプルです。中国が輸出の蛇口をすぐに締めると断定はできない一方、輸出フローを制度的に追跡し、品質証明を紐づけることで、今後より強い運用(対象拡大、審査厳格化、別制度との連結)に移行できる土台が整う、という点に意味があります。 (中国商务部)

6. 日本企業にとっての実務インパクト

中国から鋼材・鋼材加工品を調達する企業、または第三国向けに中国製鋼材を扱う商社・物流企業は、次の影響を見込むべきです。

  1. 納期リスクの増加
    許可取得が前工程として追加されるため、従来のリードタイム設計が崩れます。スポット輸送や短納期案件ほど影響が出ます。 (中国商务部)
  2. 契約実務の論点増
    契約条件に「輸出許可証の取得と提示」「未取得時の解除・遅延免責」「追加費用負担」「代替調達」などを明確化しないと、揉めやすくなります。
  3. HS判定の重要度が上がる
    対象品目がHS10桁で規定されるため、分類の揺れがそのまま通関可否に響きます。 (ジェトロ)
  4. 品質証明書の標準化圧力
    「メーカー発行の品質検査合格証明」が要件に入ったことで、従来のミルシート運用や検査体系が弱いサプライヤーは遅延要因になります。 (中国商务部)

7. 今日からできるチェックリスト

輸入者・購買側(日本企業)向け

  1. 調達品目が対象かをHS10桁で特定する
    現行のインボイスHSと、実際の仕様を突合する。
  2. サプライヤーに確認する
    対象なら、どの当局窓口で許可申請するのか、申請に必要な品質証明は誰がいつ発行するのか。
  3. 出荷条件を更新する
    出荷前に許可証写しの提出を求め、未取得時の対応(納期延長、代替、キャンセル)を条文化する。
  4. 物流と通関の手順を見直す
    ブッキング前に許可取得状況を確認するゲートを設ける。

輸出者・商社側(中国側サプライヤーを含む)向け

  1. 対象判定のワークフローを固定する
    設計変更・規格変更がある場合、HSと対象判定が変わる前提で管理する。
  2. 品質証明書のテンプレートと発行責任を決める
    ロット、規格、数量、品名が契約・インボイス・申告と一致するように統一する。
  3. 申請窓口を間違えない
    公告にある管轄分岐(商務部許可証局、地方商務主管部門、副省級都市など)を確認する。 (中国商务部)
  4. 細則は公告2024年第65号で補完される前提で読む
    同公告には、許可の申領、許可機関、通関使用回数に関する枠組みが示されています。 (中国商务部)
    ロイターは、鋼材の輸出許可について有効期間や通関での利用回数が論点になる旨も報じています。 (Reuters)

8. 今後の注視点

  • 対象リスト(HS10桁)の改訂有無
    制度開始後に、対象の微調整が入る可能性があります。 (中国商务部)
  • 審査運用の実態
    申請が集中する時期や地域で遅延が恒常化するか。
  • 品質要件の厳格化
    「品質証明が必要」という設計は、将来的に具体的な規格適合や検査要件の強化につながり得ます。
  • 各国の通商措置との連動
    反ダンピングやセーフガードなど対外措置の状況次第で、輸出管理がより政策的に使われる余地があります。 (JOGMEC 石炭資源情報)

メキシコ自動車関税の即時実務整理

2026年1月1日施行の「関税引き上げ」を、経営判断と現場オペレーションに落とす

2025年12月29日、メキシコは官報(DOF)で輸入関税(IGI)を改定する政令を公布し、2026年1月1日から発効しました。対象は1,463の関税分類(タリフライン)に及び、税率は5%から50%まで引き上げられています。改定は多業種に広がりますが、完成車と主要部品が直撃領域で、サプライチェーンの意思決定を即座に迫る内容です。 (Sidof)

本稿では、関税率の事実関係を官報の条文ベースで押さえたうえで、輸出者(サプライヤー)と輸入者(メキシコ側)双方が「今日から何を変えるべきか」を、優先順位付きで整理します。


1 何が変わったのか

ポイントは「特定国向け関税」ではなく、「一般税率(IGI)の底上げ」です。メキシコと自由貿易協定(FTA)がある国であっても、協定の原産地規則を満たせない取引では一般税率が適用されます。つまり、実務上は「FTAを使えない輸入(または使わない輸入)」のコストが上がった、と理解するのが正確です。 (ジェトロ)

施行日は2026年1月1日です。官報の経過規定(Transitorios)で明記されています。 (Sidof)

加えて、同じ経過規定で、メキシコ経済省が「FTAが発効していない国からの輸入」について、国内の投入財確保の観点から追加の制度的手当てを実施し得る旨も書き込まれました。今後、例外措置やプログラムの調整が出る可能性があるため、改定後もウォッチが必要です。 (Sidof)


2 自動車で何が上がったのか

官報本文には、対象のHSコード(メキシコの関税分類)と税率が列挙されています。自動車関連では、完成車(HS 8703、8704)で50%が確認できます。あわせて、自動車部品(HS 8708)でも25%、35%、36%、一部7%など、品目により幅をもって設定されています。 (Sidof)

実務で効く範囲が伝わるよう、代表例を抜粋して示します(全件ではありません)。

区分代表例(メキシコ関税分類)政令で確認できる税率(IGI)コメント
乗用車8703.22.99、8703.23.99 ほか50%乗用車の複数区分で50%が列記
電気乗用車8703.80.01(電気、ただし中古を除く)50%EVでも50%が明記
貨物車8704.21.99、8704.31.99、8704.41.99 ほか50%トラック側も50%が列記
電気貨物車8704.60.02(電気、ただし中古を除く)50%商用EVも対象
部品(例)8708.10.03(バンパー類の一部)25%品目ごとに税率が異なる
部品(例)8708.40.08(ギアボックス用途の鍛造品の一部)35%部材系も対象に含まれる
部品(例)8708.29.06(車体関連の一部)36%25%以外の設定も存在

この改定は、報道上「非FTA国からの完成車が20%前後から最大50%へ」などと説明されることが多く、完成車・部品を中心にコスト上昇が見込まれるという整理は概ね一致します。 (El Economista)


3 経営に効く論点は3つだけ

現場には論点が大量に発生しますが、経営判断としては次の3点に集約できます。

論点1 FTAが使える取引か(使えている取引か)

今回上がったのは一般税率です。従って、同じ部品でも、協定税率で輸入できれば影響は限定されます。一方で、原産地規則が曖昧なまま輸出している、証憑が弱い、サプライヤー宣誓が遅れる、といった状態だと、一般税率適用で一気にコストが跳ねます。 (ジェトロ)

論点2 完成車か、部品か、部材かで打ち手が変わる

完成車は関税が価格に直結します。部品や部材は、メキシコ側の生産(調達)に乗るかどうかで、価格転嫁の構造が変わります。特に8708は税率が一律ではなく、部品表(BOM)単位で「どこが上がるか」を切り分ける必要があります。 (Sidof)

論点3 今後の例外・プログラム調整の余地がある

経過規定で、経済省が投入財確保のための法的手当てを実施し得ることが明記されました。現時点で何が出るかは確定していませんが、メキシコ側のプログラム(産業分野別の優遇制度など)に動きが出る可能性は、実務上の重要リスクです。 (Sidof)


4 即時にやること 72時間で終えるチェックリスト

ここからが本題です。輸出者が主体でも、輸入者(メキシコの通関主体)と握らない限り対策は回りません。最短で回る順番に並べます。

1 該当品目の棚卸し(HSコード起点)

・メキシコ向けの輸出品目を、完成車、主要部品、材料、設備に分ける
・各品目について、メキシコの関税分類(8桁)で通関しているコードを回収する
・官報の改定対象に入っているかを照合する(8703、8704、8708は優先) (Sidof)

ここで重要なのは、社内のHSコードではなく、メキシコ側で実際に申告しているコードに合わせることです。現場では「日本側の品目コード」と「メキシコ側の申告コード」がズレているケースが珍しくありません。

2 原産地の棚卸し(FTA適用可否起点)

・現行取引が協定税率で入っているか、一般税率で入っているかをメキシコ側に確認する
・協定を使っているなら、原産地証憑の型式、保管場所、更新頻度、例外品目の扱いを点検する
・協定を使っていないなら、使えない理由を分類する(原産性不足、証明が間に合わない、体制がない、など)

「FTA締結国だから大丈夫」ではなく、「原産地規則を満たし、証憑が揃い、申告が回っているから大丈夫」です。 (ジェトロ)

3 コスト影響の即時計算(価格改定の根拠を作る)

・対象品目について、関税率、課税価格(CIFベース)、輸入頻度を並べる
・関税増分を、部品単価、車両1台当たり原価、年間影響額に落とす
・誰が負担するか(売価転嫁、仕入値調整、物流条件変更、在庫吸収)を役員判断に上げる

完成車は50%が見える一方、部品は25%以外も存在します。品目別に計算しないと誤差が大きくなります。 (Sidof)

4 契約とインコタームズの見直し(揉める前に線を引く)

・関税増分を誰が負担するかを、契約条項と運用で一致させる
・価格条項の改定ルール(発効日、遡及、在庫の扱い)を明文化する
・メキシコ側での通関主体(輸入者)の責任範囲を明確化する


5 中期で効く打ち手 30日で設計する

短期対応の次は、構造対応です。

A 調達国と生産地の再設計

今回の改定は「非FTAルートのコスト上昇」を意味します。従って、調達国の選定や、メキシコ域内生産、FTA圏内調達への切替が、定石になります。報道でも、非FTA国からの輸入が影響を受ける構図が繰り返し指摘されています。 (Reuters)

B 部品表(BOM)単位での関税最適化

8708の中でも税率は一様ではありません。自社のBOMのどこが改定対象かを特定し、代替可能な部材から順に入れ替えると、費用対効果が出やすいです。 (Sidof)

C 例外・支援策のウォッチ体制

経過規定により、経済省が投入財確保のための制度手当てを行い得ることが明記されています。追加の告示や運用が出た場合、先に気づいた企業がコスト面で優位に立ちます。 (Sidof)


6 まとめ

今回のメキシコ関税改定は、完成車と部品の収益構造を短期間で変え得るイベントです。結論はシンプルで、やるべきことは次の順番です。

・メキシコ側の申告HSコードで改定対象を特定する
・FTA適用の可否を、証憑と申告運用まで含めて点検する
・増分関税を品目別に試算し、価格と契約に落とす
・中期では、調達国、生産地、BOMの再設計に踏み込む
・経済省の追加措置の可能性を前提に、官報・通達を継続監視する (Sidof)