「HSコードの違いで税関と争いになった場合の反論設計」

HSコードの違いで税関と争いになった場合の反論設計:実務報告書

国・地域ごとに手続や証拠法則は異なりますが、HSの一般通則(GRI)、部・類注、WCO解釈資料に基づく国際的に通用する骨格で整理しています(各国の国内法的位置づけは異なるものの、WCOの一般通則(GRI)・解説書(Explanatory Notes)・分類意見(Compendium of Classification Opinions)は世界的に参照されます)。

エグゼクティブ・サマリー

勝敗を分けるのは「事実の特定」と「GRI→法的注→解説書→先例」の適用順序です。

反論は、①製品の客観的特性(材質・機能・構造・用途・状態)、②適用すべきHS版(例:HS2022)、③GRIと部・類注の文言解釈、④WCO解説書・分類意見、⑤国内外の事前教示・裁判例の整合性、のピラミッドで構築します。

実務では、「分類根拠ドシエ」を作り、試験成績・図面・BOM・写真・使用実態を一体で提示することが有効です。

裁判・審査前に輸入国の事前教示(Advance Ruling/BTI/CROSS等)の探索・取得で論点を先詰めし、可能なら和解(再分類・追徴縮減)も選択肢に。

1. 反論する場合に用意すべき情報・資料(チェックリスト)

A. 製品実体を示す一次資料(”何ででき、何をし、どのように使うか”)

  • 仕様書・カタログ・取扱説明書(機能・用途・原理・主たる機能)
  • BOM(部品表)・材質構成比(質量%・体積%・繊維混率・化学濃度、CAS番号)
  • 設計図・断面図・回路図・CAD(構造・作動機構・組立状態)
  • 物理的数値(寸法・重量・密度・繊度・糸番手・gsm・目付・電圧電流・ワット数・容量・メッシュ等)
  • 写真・動画・実物サンプル(未組立/組立後/使用状態/包装形態:セット品の全体像)
  • 製造工程・加工内容(編む/織る/鋳造/射出/機械加工/化学反応の有無 等)
  • 使用実態・顧客層・販売チャネル(「用途による分類」が争点のときの補助)

B. 客観性を担保する第三者エビデンス

  • 公的・公認試験成績(JIS/ISO準拠の化学分析、繊維試験、電気安全、材料特性)
  • 学術的・工学的意見書(化学・機械・電気・繊維などの専門家鑑定)
  • WCO資料:
    • 一般通則(GRI)(解釈の順序・複合品/未完成品/セット・本質的特性など)
    • 解説書(Explanatory Notes)(各見出しの包含/除外例)
    • 分類意見(Compendium of Classification Opinions)(難事例の先例)
  • 輸入国の事前教示・公開データベース(日本の事前教示回答、米国CROSS、EU BTI など。自社品や類似品の先例を検索)

C. 手続・バージョン管理

  • 適用HS版(HS2017/2022/2027…)と輸入(又は輸出)日。解釈資料も同版に合致させる。
  • 対象国の関税表(国内サフィックス)と部・類注の国内解釈告示(必要に応じて)
  • 過去の通関実績(同一/類似品の税番・通関地・時期・数量・相違理由)

実務TIP:案件ごとに「分類根拠ドシエ」を1冊化(目次例は付録A参照)。

2. 反論の設計:論点マップ(優先度順)

2.1 適用ルールの順序(GRIの階段)

  • GRI 1:見出しの文言+部・類注(Legal Notes)で判断できるか
  • GRI 2(a)/(b):未完成品・混合物・材料別商品の扱い
  • GRI 3(a)-(c):複合品・セット品の優先順位(より具体的/本質的特性/最後の順序)
  • GRI 4:類似品への準用(稀)
  • GRI 5:容器・容れ物の扱い
  • GRI 6:小見出し(6桁)以下の決定

2.2 部・類注(Legal Notes)の効力

章・部の注解は見出し文言に優先しうる”法規範”です。「部品」「部分品」「アクセサリー」「セット」「医療用」「食品の調製品」「繊維の加工段階」「電気機械の部品」等の定義条項が多く、ここで勝負が決まることが多い。

2.3 WCO解説書・分類意見の位置づけ

  • 解説書は各見出しの包含・除外例や技術的説明を与える補助資料
  • 分類意見は難事例の具体的結論集。直接の法拘束力は法域により異なるが、説得的根拠として用いられる(引用・類推適用)

2.4 製品事実の特定:よく争点化するポイント

  • 本質的特性(essential character):複合品・セット品で「主たる性質」を与える構成要素は何か(GRI 3(b))
  • 用途基準 vs 物理的特性:用途が見出し文言に組み込まれているか否か
  • 未完成品/組立て前の完成品みなし(GRI 2(a))
  • 混合物/溶液の支配的成分・機能(GRI 2(b), 3(b))
  • 部分品/アクセサリーの定義該当性(部・類注、特に機械類・輸送用機器関連)
  • キット販売・販売形態(セット該当性・包装の通常性:GRI 3・5)

2.5 国内・域内の先例との整合

日本の事前教示回答(公開)、米国CROSSの拘束的事前裁定、EUのBTIなど、公表先例の提示は強力です。完全一致商品の先例がなくても、技術的・機能的に実質同等の比較を行います。

3. 反論メモの構成(テンプレート)

第1 争点の整理

  • 税関主張の税番(根拠文言・注解・先例)
  • 当方主張の候補税番(優先順位・差異)

第2 適用ルール

適用HS版・GRIステップの特定

第3 事実(Fact)

材質・構造・機能・用途・包装・セット性・完成度など、係争に関係ある属性のみを測定値と試験成績で列挙

第4 法規範(Rule)

見出し文言、部・類注(条番号付)、WCO解説書の該当箇所、分類意見(番号・年版)

第5 当てはめ(Application)

  • A見出し:除外理由(注解×、解説書×)
  • B見出し:包含理由(注解○、解説書○、先例整合)
  • 複合・セット:本質的特性の論証(質量・価格・機能寄与・消費行動)

第6 結論(Conclusion)

  • 最終税番・根拠の簡明な要約
  • 代替案(主位/予備の位置付け)と、関税・規制影響

4. 品目別:資料の要点(抜粋)

  • 化学品・調製品:有効成分・不揮発分・溶媒/安定剤・pH・粒径、CAS、MSDS、混合割合、反応有無
  • 繊維・衣類:混率(wt%)、糸番手、織/編、目付、漂白/染色/整理加工の有無、付属品の重量比
  • 機械・電気機器:主たる機能、演算/制御の有無、電源仕様、出力、部品と完成品の関係(部・類注該当性)
  • 雑貨・セット品:セット性(通常の小売包装か)、本質的特性の所在(価格・重量・機能寄与)

5. 裁判・審査での主張例(ひな型フレーズ)

  • 「GRI 1および当該章注Xにより、本件商品は見出しYYYYに包含される」
  • 「税関主張の見出しZZZZは、部・類注Yで明示的に除外される構成要素Aを前提としており、本件には適合しない」
  • 「複合品である本件は、機能寄与・価格構成・重量比の全てで部品Bが支配的であり、GRI 3(b)に従い見出しYYYYが妥当」
  • 「WCO解説書(該当見出し)と分類意見No.___は、同質の技術的特徴を備えた品目をYYYYに分類しており、整合的」

6. 先例・裁定の活用

  • 日本の事前教示(公開データベース):類似品の税番・根拠を検索
  • 米国CROSS(拘束的裁定の検索・比較)。裁判所(CIT/CAFC)判決も論理の参照に有用
  • EUのBTI:EU域内で3年有効の拘束的情報。公開BTIデータベースで比較

注意:他国の裁定は自国での法的拘束力は通常なし。ただし、説得的資料として引用価値は高い(比較論法)。

7. プロセス設計(時系列)

  • ファクト収集:上記チェックリストを埋め、測定値と写真で「見える化」
  • ルール適用:HS版を確定し、GRI→部・類注→解説書→分類意見の順で候補を絞る
  • 先例探索:日本の事前教示、米国CROSS、EU BTIを横断比較
  • 事前的な当局対話:可能なら事前教示の取得・照会(輸入国)。紛争予防に最良
  • 審査・不服手続 → 訴訟:記録化した分類根拠ドシエと鑑定書で立証
  • 経済影響の算定:関税差額、SPS/技術規制・貿易救済の有無も併せ評価

8. 裁判の際に支援を依頼すべき専門家

  • 関税・通関に強い弁護士(行政訴訟・関税法・通関実務の経験者)
  • HS分類スペシャリスト/通関士(GRI運用・先例調査・ドシエ作成)
  • 技術系鑑定人(化学、材料、電気、機械、繊維 等の学位+実務のある専門家)
  • 第三者試験機関(JIS/ISO準拠試験を迅速実施できる国内外のラボ)
  • 公認翻訳者(技術文書・裁判向け宣誓翻訳)
  • データ・経済分析専門家(関税差額や供給網影響の定量化)

9. 税関側主張への代表的な”切り返し”

税関側の典型主張反論の考え方(資料の当て方)
「用途ベースの見出し」適用見出し文言に用途要素が含まれているかを検証。含まれない場合は物理的特性を優先(GRI 1)
「部分品(parts)」扱い部・類注の定義に合致するかを条文で照合。他の見出しにより具体的に記載されていれば、部品ではなく当該見出し
未完成・組立前GRI 2(a)により完成品みなしの要件(主要特性の保持)を満たすかを構造・写真で論証
複合品・セット本質的特性の所在を重量・価格・機能寄与など定量で示す(GRI 3(b))
混合物・調製品有効成分・濃度・機能と解説書の包含/除外で当てはめ。必要に応じ成分分析

10. リスク低減のプリエンプティブ策

  • 輸入国の事前教示制度の活用(日本・米国・EUほか)
  • WCOトレードツール/出版物で最新版HSの確認(HS2022、HS2027など)
  • 社内標準:「新製品=HSレビュー」「セット化=GRI 3(b)判定表」「化学品=分析票」
  • 相手国差異の把握:HS6桁は共通でも、国内サフィックス(8–10桁)は各国で異なる。関税率・規制影響を事前に洗い出し

付録A:分類根拠ドシエ(提出パッケージ)構成例

  • カバーメモ(1–2頁):争点・結論・候補税番(主位/予備)
  • 製品カード:技術要約(材質・機能・用途・寸法・写真)
  • 試験成績・鑑定書(JIS/ISO)
  • GRI・部/類注の引用と当てはめ表(版・条番号明記)
  • WCO解説書・分類意見の該当箇所(該当見出しを特定)
  • 輸入国の先例(事前教示・BTI・CROSS)抜粋(類似点/相違点の表)
  • 経済影響の試算(関税差・納税/還付影響)

付録B:主要リソース(実務で参照頻度が高い公的情報)

  • WCO:一般通則(GRI)(公式PDF)
  • WCO:解説書(Explanatory Notes)(購入または購読が必要/概要ページ)
  • WCO:分類意見(Compendium of Classification Opinions)(購入・閲覧)
  • WCO Trade Tools(HS法的注・解説・分類意見のオンラインビュー)
  • 日本税関:事前教示制度/公開事例
  • 米国CBP:CROSS(拘束的裁定データベース)
  • EU:BTI(域内拘束的関税情報)

最後に(重要な留意点)

  • 本書は一般的情報であり、特定の法域での法的助言ではありません。案件ごとに輸入国の手続法・証拠法則をご確認ください。
  • HSの改正(版の違い)や各国の通達改正は適時アップデートされます。反論時は適用時点の版と告示を必ず特定してください。
  • タイムラインの重要性:不服申立て・訴訟には期限があります。税関の決定通知受領後、速やかに専門家と協議し、期限管理を徹底してください。

 

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