AANZFTA改訂をビジネスで使い切るネガティブリスト導入と原産地規則アップデートの実務ポイント

第1章 AANZFTAアップグレードの全体像

AANZFTA第2議定書(Upgrade)は、2023年8月に署名され、2025年4月21日に効力を発生しました。cil.nus
もっとも、「全締約国一斉」ではなく、批准を終えた国同士の取引から順次新ルールが適用されるため、旧ルールとの二重運用期間がしばらく続きます。dfat+1

現時点で、豪州、ニュージーランド、ブルネイ、ラオス、マレーシア、シンガポール、ベトナムなどでアップグレード発効済みと整理されており、タイなどは指定日から順次加わる形です。businesschamberqld+1
さらに、累積等の一部規定については、国ごとに適用除外や遅行適用が通知されているため、「国名だけ」で判断せず、実際の取引相手同士で第二議定書が発効しているか、関連条文がフル適用かどうかまで確認する必要があります。customs+1

日本はAANZFTAの当事国ではありませんが、ASEAN・豪州・NZに拠点を持ち、現地法人から域内輸出・サービス提供・投資を行う日系企業にとって、今回のアップグレードはコストとリスクに直結します。mfat+1
本社側の投資判断やサプライチェーン設計でも、「どの組み合わせに新ルールが乗るか」を押さえているかどうかで、意思決定の質に差が出ます。mfat

第2章 ネガティブリスト導入をどうビジネスで使うか

1 ネガティブリスト化の中身

サービス貿易の約束方法には、大きくポジティブリストとネガティブリストの二つがあります。oia.pmc+1

  • ポジティブリスト方式
    開放する分野だけを列挙するため、「書いていない分野」は読み替え・行政解釈に依存しやすく、外資から見ると不透明さが残りがちです。regulation
  • ネガティブリスト方式
    原則として全分野を開放したうえで、例外的に残す制限を「留保」としてリスト化する方式で、どの規制が残るかを一覧で把握しやすくなります。aph+1

アップグレードAANZFTAでは、サービス分野の市場アクセスについてネガティブリスト方式を導入し、従来ポジティブリストだった当事国はネガティブリストへ移行することが義務付けられています。oia.pmc+1
投資分野についても、全ての当事国がネガティブリストでコミットメントをスケジュールする形に整理され、方式の統一と透明性の向上が意図されています。oia.pmc+1

さらに、アップグレード協定には、将来の一方的な自由化を一定範囲で固定化するラチェットメカニズムや、MFN条項の強化・整合など、サービス・投資の制度アーキテクチャを近年のメガFTA水準に近づける要素が組み込まれています。mfat+1

2 ビジネス側から見たネガティブリストの価値

ネガティブリストの最大の価値は、「どこまで自由化されるか」よりも、「どこに制限が残るか」が具体的に見えることです。aph+1
進出形態や案件ごとの採算検証で、次のような問いに対して、条文・留保ベースで答えを出せるようになります。

  • 業種・サブセクターごとに、外資規制・出資比率制限・合弁義務が残るかどうか
  • 支店設置か現地法人か、少数持分か完全子会社かなど、参入形態ごとの規制の違い
  • 役員・幹部の国籍・居住要件、プロフェッショナル資格要件といった人材面のハードル
  • ライセンス・認可・登録などの事前規制がどの程度残っているか

ASEANは同じASEANといっても、各国で規制の癖・行政運用が大きく異なります。aanzfta.asean+1
ネガティブリストは、現調チームや法務だけでなく、事業部・投資審査会議が「国・業種・形態」の組み合わせごとにリスクを瞬時に比較できるようにすることで、新規案件のGo/No-go判断をスピードアップさせます。aph+1

3 ラチェット条項の現実的な使い方

アップグレードでは、選択されたセクターについて、将来の一方的な規制緩和を固定化するラチェットメカニズムが導入されました。oia.pmc+1
これは、ある国がサービス・投資規制を自主的に緩めた場合、原則としてその緩和水準を協定コミットメントとしてロックインし、後戻りしにくくする枠組みです。oia.pmc

ただし、ラチェットは万能ではありません。対象分野・対象措置は留保のつくり方に左右され、あらゆる規制緩和が自動的にロックインされるわけではありません。mfat
経営サイドにありがちな「ネガティブリスト+ラチェット=全面的な自由化加速」という期待は危険で、実務としては次が現実的な対応になります。

  • 留保表を読み、ラチェットがかかる領域と、なお裁量的規制余地が残る領域を切り分ける
  • 各国で実際に規制が変わった際に、即座にビジネスモデル・価格設定・出資構造へ反映できるインテリジェンス体制を用意する
  • M&AやJV、長期サービス契約では、「規制変更時の価格調整・再協議・解除」条項を入れておき、ラチェットを見越したオプションを契約レベルで確保する

これにより、規制緩和が起きたタイミングで、競合より早く参入モデルや出資比率を引き上げることができ、ラチェットを「攻めの要素」として活用できます。aph+1

第3章 原産地規則アップデートの核心

1 アップグレード原産地規則の全体像

原産地規則は、AANZFTAの関税メリットを取るかどうかを決める「収益スイッチ」であり、アップグレードではこのスイッチの構造自体がアップデートされています。dfat+1
ニュージーランドのナショナルインタレスト分析などによれば、原産地規則章には新規条文・改正条文が多数追加され、品目別原産地規則(PSR)は数百件規模で見直されています。mfat

ABFのカスタムズノーティスによると、2024年3月1日からAANZFTAのPSRはHS2022の品目分類に基づく新バージョンが導入されており、これはFTA合同委員会が2023年5月にHS2022のPSR付属書を承認したことを受けたものです。abf
同時に、累積、直送・経由規定、原産地証明の方法、輸入後の還付請求手続きなど、運用面の改善もパッケージで導入されています。miti+1

実務的に効くポイントは、おおよそ次の五点に整理できます。

  • 完全累積の導入・拡張により、域内各国を組み合わせたサプライチェーン設計がしやすくなること
  • 直送・経由に関する規定・証憑要件が明確化され、ハブ経由輸送の不確実性が減ること
  • 証明書ベース一択から、自己証明・電子原産地証明など複数の証明方法が併存すること
  • 輸入後の原産確認に基づく還付請求が可能になり、ポストクリアランスでメリットを取り返しやすくなること
  • PSRがHS2022に整合し、HS変更に伴う「分類のズレ」やPSR適用ミスを減らす設計になっていること

2 完全累積が変えるサプライチェーン設計

累積とは、協定域内で行われた加工や使用された原材料を「一つの原産性判断」の中に足し込める仕組みで、原産品として扱える範囲を広げる道具です。miti+1
AANZFTAアップグレードでは、域内各国の材料・加工・付加価値を広く累積できる完全累積に近い形が導入され、どの累積条項を適用するかは当事国ごとの参加状況・留保によって左右されます。mfat+1

例えば、部材をマレーシアで調達し、ベトナムで主要加工を行い、シンガポール拠点を経由して豪州へ輸出するような分業型サプライチェーンでは、累積を正しく使えば原産地判定が格段に取りやすくなります。miti
一方で、どの国間で第二議定書が発効しているか、累積条項がその組み合わせに適用されるかを誤解すると、「原産性を満たしているつもりで証明書を出したが、実際には要件未達だった」という事故が起き得ます。mfat+1

ここは、社内で次のような整備をしておくと事故率が大きく下がります。

  • 主要取引国の組み合わせごとに、「第二議定書発効状況」と「累積条項の適用可否」を図示したマトリクスを作る
  • 累積前提で組んだBOM・原価計算に、国別の参加状況が変わった場合のアラートを組み込む
  • 調達・SCM・通関チームで同じ累積の前提を共有し、バラバラの解釈で証明・申告をしないようにする

3 直送要件の実務的なクリアの仕方

原産地規則でトラブルになりやすいのが、第三国経由時の「直送要件」の解釈です。mfat
アップグレードでは、直送・経由・積み替えに関する規定・証憑要件が明確化され、保税倉庫での限定的な作業など、許容される範囲を明記する方向で整理されています。abf+1

実務では、次のような対策が効果的です。

  • よく使う物流ルートごとに、直送要件を満たすために必要な書類(B/L、倉庫証明、インボイス、在庫管理記録など)を標準セットとして定義しておく
  • フォワーダー・3PLとの契約・SOPに、「原産性維持に必要な書類・情報の取得」を明示的に組み込み、単なる輸送委託で終わらせない
  • 保税区域で行う可能性のある作業(検品、ラベリング、再梱包など)を棚卸しして、どこまでが「許容される加工」かを規定と突き合わせ、作業指示書に落とし込む

こうしておくと、ハブ港変更や緊急の振替輸送が発生しても、原産性が崩れない範囲で運用でき、後から「直送要件を満たしていない」と否認されるリスクを抑えられます。abf+1

4 証明方法のアップデートとコンプライアンス

豪州政府の案内によれば、アップグレード後も従来型の原産地証明書は維持されつつ、自社による原産地自己申告や電子的な原産地証明の利用余地が拡大します。abf+1
また、第三者インボイスが用いられる場合の取り扱いについても、「合理的な範囲の情報提供」で足りるとするなど、書類作成の摩擦を下げる方向性が示されています。dfat+1

自己証明は、発行コストやリードタイムを削減できる一方、誤りがあった際の責任が企業側に直接跳ね返りやすいという特徴があります。mfat
したがって、営業現場が「楽だから全部自己証明に切り替える」と走るのではなく、次のような線引きが現実的です。

  • 自己証明を使う品目と、引き続き第三者発行の証明書を使う品目を分ける
  • 自己証明を行う品目については、BOM・原価計算・原産性ロジックを内部監査可能な形で固定し、改ざん防止・変更管理のルールを整える
  • 輸入側で税関事後調査が入った場合を見据え、原産性判断の根拠書類を一定期間保管するレコードキーピングルールを更新する

これにより、「関税メリットは取れたが、後から否認されて追徴とペナルティ」という最悪のパターンを避けながら、証明コストの削減を利益に変えられます。abf+1

5 PSRとHS2022:分類ミスをどう防ぐか

ABFの通達によれば、AANZFTAのPSRは2024年3月1日以降、HS2022に基づくコードに再構成されており、一定期間は旧HS2017表記の原産地証明も受け入れる経過措置が設けられています。ftalliance+1
ASEAN側の告知でも、AANZFTAのPSRをHS2022で検索できるオンラインツールが提供されており、実務者はHS2022コードから直接PSRを引けるようになっています。aanzfta.asean+1

落とし穴は、HSの移行が「単なるコードの言い換え」ではない点です。abf

  • サブヘディングの分割・統合により、適用されるPSRそのものが変わる
  • 旧HSベースの証明書と、新HSベースの輸入申告のコードが整合しない
  • 社内システム・BOMが旧HS前提のまま残り、原産性判定ロジックが実態とズレる

これを避けるためには、「全品目一斉」ではなく、収益インパクトの大きい順に重点的に対応するのが現実的です。

  • 主力輸出入品目から順にHS2022への再分類を行い、それに応じてPSRを引き直す
  • コード変更があった品目は、原産性判定を再実行し、必要なら原材料構成や生産プロセスを見直す
  • サプライヤーに対して、HS表記の統一と、HS2022ベースの原産地証明・自己申告フォーマットへの移行を要請する

こうした「上から順に潰す」やり方であれば、リソースを極端に増やさずに通関トラブルを抑えつつ、PSRの更新を利益に結び付けられます。aanzfta.asean+1

第4章 経営と現場が今すぐやるべきチェック

ここからは、「明日から何をするか」という観点で、サービス・投資とモノ(原産地・通関)に分けて整理します。

A サービス・投資(ネガティブリスト側)

  • 自社の提供サービスを棚卸しし、まず売上比重の高い分野について、相手国の留保表を読みにいく
  • 進出形態(支店・現法・JV・フランチャイズ・委託)ごとに、出資規制・人の移動規制・ライセンス要件を分解して把握する
  • 規制変更があった場合、ラチェットが効く領域かどうかを法務・経営企画が判定できる体制を整え、事業部に通知するフローを決める
  • 長期契約には、規制変更時の再協議・価格調整・解除に関する条項を標準化し、投資先国ごとのリスクプロファイルに応じて微修正する

ネガティブリストは、「読めば武器、読まなければ何も起きない」ツールです。aanzfta.asean+1
結局のところ、留保表を読める体制と、読んだ内容を案件に落とし込む運用があるかどうかが、競争力の差になります。mfat

B モノ・サプライチェーン(原産地側)

  • 主力品目からHS2022整合を進め、PSRを再確認する(ABFノーティス・各国通達・PSR Finderをセットで参照)aanzfta.asean+1
  • 累積の適用関係を、主要取引国の組み合わせごとに図示し、営業・SCM・通関が共通の前提で動けるようにするmiti
  • 物流ルートごとに、直送要件を満たす証憑セット(B/L、倉庫証明、在庫記録など)を標準化し、フォワーダーとの契約に組み込むabf
  • 自己証明を導入する場合、BOM・原価計算・証憑保管ルールを先に整え、対象品目を限定しながら段階的に広げるmfat
  • 未批准国が絡む取引については、旧AANZFTAルールまたは他FTA(RCEPなど)運用が残る前提で手順を二重化し、「どの契約にどのルールを使うか」を明示するdfat+1

特に最後の「二重運用」は、2025年以降しばらく現場負荷の中心になり得ます。customs+1
国内システムや業務マニュアルで「AANZFTA=一つのルール」という前提が残ったままだと、誤適用や見落としが起きやすいため、「相手国別に旧・新ルールを自動判別するフラグ」を持たせるなど、設計レベルの見直しが有効です。

第5章 よくある誤解と失敗パターン

  • 誤解1 発効したから全締約国で新ルールが一斉適用される
    実際には、批准を完了した国同士の取引で順次適用され、未批准国が絡む取引では旧ルールが残ります。customs+1
  • 誤解2 ネガティブリスト化=即座に全分野が自由化
    ネガティブリストは制限を見える化する仕組みであり、自由化の範囲は留保次第です。ラチェットも対象分野に限られ、万能ではありません。oia.pmc+1
  • 誤解3 HS更新はコード表示を変えるだけ
    実際にはPSRの内容や適用関係、社内システムの判定ロジックまで波及し、経過措置期間中は旧HSと新HSが混在するため、整合設計をしないと通関トラブルの温床になります。miti+1

まとめと実務メッセージ

AANZFTAアップグレードは、サービス・投資ではネガティブリストとラチェットにより透明性と将来の自由化期待を高め、モノでは累積・直送・証明方法・PSR更新によって現代的なサプライチェーンに合わせた枠組みに近づけるものです。oia.pmc+1
ただし、企業にとっての実益は自動的には降ってこず、「どの取引に新ルールが乗るのか」「留保表とPSR・HSをどう読み替えるか」を社内で設計し直すことが必要です。mfat+1

やるべきことを一言でまとめると、次の三つです。

  • どの国同士の取引に第二議定書が適用されるか、社内で一覧化する
  • サービス・投資では、主要ビジネス分野について留保表を読み、ラチェットを含めた規制プロファイルを整理する
  • モノでは、HS2022整合・PSR再判定・累積と直送要件・証明方法を前提に、原産性判定ロジックと証憑運用を再設計する

これができれば、AANZFTAは「知っている条文」から「利益とリスクをコントロールする仕組み」に変わり、ASEAN・豪州・NZをまたぐビジネスにおいて、他社より一歩先のポジションを取ることが可能になります。abf+1

本稿は一般的な情報提供であり、個別案件への法的助言ではありません。具体的な適用にあたっては、取引国の最新運用や税関実務、社内の証憑状況を踏まえ、必要に応じて現地専門家への確認を行うことを推奨します。mfat+1

  1. https://www.dfat.gov.au/trade/agreements/in-force/aanzfta/asean-australia-new-zealand-free-trade-agreement
  2. https://www.mfat.govt.nz/jp/trade/free-trade-agreements/free-trade-agreements-in-force/asean-australia-new-zealand-free-trade-agreement-aanzfta/upgrading-aanzfta
  3. https://www.abf.gov.au/help-and-support-subsite/CustomsNotices/2024-07.pdf
  4. https://cil.nus.edu.sg/databasecil/2023-second-protocol-to-amend-the-agreement-establishing-the-asean-australia-new-zealand-free-trade-area/
  5. https://www.dfat.gov.au/news/aanzfta-upgrade-enters-force
  6. https://businesschamberqld.com.au/article/new-rules-for-exporters-brunei-lao-pdr-malaysia-singapore-australia-and-new-zealand/
  7. https://www.customs.govt.nz/customs-information-and-legislation/legislation/international-agreements/free-trade-agreements/asean-australia-new-zealand-free-trade-area-agreement-aanzfta
  8. https://www.mfat.govt.nz/assets/Trade-agreements/AANZFTA/AANZFTA-upgrade-National-Interest-Analysis.pdf
  9. https://oia.pmc.gov.au/sites/default/files/posts/2023/08/AANZFTA%20Impact%20Analysis.docx
  10. https://www.regulation.govt.nz/assets/RIS-Documents/ris-mfat-asean-mar09.pdf
  11. https://www.aph.gov.au/-/media/02_Parliamentary_Business/24_Committees/244_Joint_Committees/JSCT/2023/Second_Protocol_ASEAN_NZ_FTA/1_AANZFTANational_Interest_Analysis.pdf
  12. https://aanzfta.asean.org/aanzfta-sector-portals/trade-in-services-sector
  13. https://www.dfat.gov.au/trade/agreements/in-force/aanzfta/official-documents/official-documents
  14. https://www.miti.gov.my/miti/resources/Preferential%20Certificate%20of%20Origin/Announcement/Announcement_-_AANZFTA_PSR_in_HS_2022.pdf
  15. https://www.abf.gov.au/importing-exporting-and-manufacturing/fta/free-trade-agreements/asean
  16. http://www.ftalliance.com.au/newsdetails/31261
  17. https://aanzfta.asean.org/product-specific-rules-finder/
  18. https://www.aseanbriefing.com/news/what-the-aanzfta-second-protocol-means-for-asean-trade/
  19. https://vntr.moit.gov.vn/news/viet-nam-thailand-and-the-philippines-to-implement-the-obligations-of-transposing-services-schedules?page=21
  20. https://indonesia.embassy.gov.au/jakt/MR25_022.html

ASEAN e-Form D 完全電子化の実務対応(2025年版)

以下は、ご提供いただいた文章を加筆修正し、正確性を確認した上で読みやすく整理した「ASEAN e-Form D 完全電子化の実務対応(2025年版)」です。customs+2


本ガイドは、現場でそのまま使える実務対応マニュアルとして作成しています。customs+1

結論(何が変わったか)

2024年1月1日以降、ATIGA(ASEAN物品貿易協定)の原産地証明書Form Dは、電子形式(e-Form D)のみでの発給・受理が原則となりました。 紙のForm Dは関税特恵申請に使用できなくなり、各国税関とASEAN公式声明でこの方針が明確化されています。 ただし、ASW(ASEAN Single Window)システム障害時などの例外的状況においてのみ、紙Form Dの発給・受理が臨時措置として認められています。customs+1

用語解説

  • ATIGA:ASEAN Trade in Goods Agreement(ASEAN物品貿易協定)customs
  • ASW:ASEAN Single Window(各国NSWを接続する政府間ネットワーク)miti+1
  • e-Form D:ATIGAの電子原産地証明書(税関間でASW経由で送受信)customs+1

仕組みの全体像

電子化された原産地証明書のフローは以下のとおりです。customs

  1. 輸出者が各国のNSW(National Single Window)または原産地証明システムでForm Dを申請・承認取得customs
  2. ASW経由で輸入国税関へ電子送信(e-Form D)miti+1
  3. 輸入申告時にe-Form Dのリファレンス番号等を申告すると、輸入国税関がASWから原本データを自動取得し、特恵審査を実施customs

シンガポールではTradeNet/NTP(Networked Trade Platform)から送信し、相手国へのe-Form D送受信の具体的手順が公式ハンドブックで提供されています。customs

輸出側の現場フロー

事前準備(国別システムの入口)

各国で以下のシステムを使用します。miti+2

  • シンガポール:NTP(Networked Trade Platform)でe-Form Dを送信。ICSガイドに沿って申請後、電子送信を実行customs
  • マレーシア:MITIのePCOで申請。2020年3月18日以降、紙Form Dの発給を停止し、すべてASW経由で送信(通常・B2B・第三国インボイスを含む)miti
  • インドネシア:商業省e-SKAで申請後、ASW送信。電子Form Dは紙と同等の法的効力を持つmiti
  • フィリピン:BOC/DTIのe-COポータルで電子発給・受理を実施customs
  • タイ:商務省/税関の電子COおよび検証システム(TCOIS)を運用miti

送信の実務手順

Form D承認後、送信画面で輸入国・リファレンス番号等を確認し、電子送信を実行します。 シンガポールNTPの操作手順は、ICS手順書に画面付きで詳細に記載されています。customs

取引先(輸入者/通関業者)へは以下の情報を通知してください。customs

  • e-Form Dのリファレンス番号
  • 発給日
  • 数量・品番等のキー項目
  • 念のためPDF出力(表示用)も共有(税関照会時の参照用)

自国システム上で送信成功/受領状況を監視し、問題発生時の問い合わせ窓口も明示しておきます。customs

輸入側の現場フロー

輸入申告書にe-Form Dのリファレンス番号等を入力すると、輸入国税関がASWからe-Form D原本データを自動照会します。 到着時点でデータが未着の場合、後日ASW到着データで紐付けられることがあります。 相手国での入庫検索機能(例:シンガポールのInbound Enquiry)も活用可能です。customs

照合エラーや番号不一致時は、輸入者側で各国の検証サイト(例:タイTCOIS)を参照し、通関へ照会してください。customs

典型的なユースケース

Back-to-Back(B2B)e-Form D

中継国での再輸出に伴うBack-to-Back(B2B)はe-Form Dでも可能です。 原本のリファレンス番号/発給日をBox 7等へ記載し、部分積での数量管理などOCP(運用規程)の規定に従います。 シンガポールの実務では、B2B申請時に先行貨物のe-Form Dリファレンス番号を参照することが認められています。customs+1

第三国(第三者)インボイス

ATIGAでは第三国インボイスが認められています。 Form D上のチェック欄または備考欄で表示します(様式のBox 13に該当するチェックボックスがあります)。fta.miti+1

有効期間

Form Dの有効期間は原則12か月です。 遡及発給・紛失再発行(Certified True Copy)等の条件もOCPに規定されています。fta.miti

障害時のコンティンジェンシー

ASW障害など技術的理由がある場合のみ、紙Form Dの発給・受理が認められます。 輸出者はPDF出力を輸入者に送付し、輸入者が税関に照会するという暫定対応が案内されています。customs

保存期間・監査対応

各国の保存期間は以下のとおりです。customs

  • シンガポール:通関関連記録は5年保存(電子可)customs
  • マレーシア:一般に7年保存(会社法・税関実務)miti

実務のポイント

  • e-Form Dリファレンス番号 ↔ 輸出入申告番号 ↔ 貿易書類(Invoice/BL)の突合リストを定期作成customs
  • HSコード/原産地基準(WO/CTC/RVC)の根拠資料(BOM、コスト表、工程表、ベンダー宣誓書等)を案件単位で監査トレーサビリティ可能にするcustoms

30日で完全電子化に移行するチェックリスト

Week 1:ポリシー&体制

  • 取引先別に協定・品目別PSRとForm D利用有無を棚卸しcustoms
  • 各国アカウント(NTP/ePCO/e-SKA等)と通関委任の権限管理を確認(送信権限の付与/見直し)customs

Week 2:データ整備

  • HSコード・原産地判定ロジックのマスタ化(PSR・RVC計算式・第三国インボイスの表示方針)customs
  • e-Form D項目(リファレンス番号/輸送情報/原産地基準コード等)をERP・申請システムに必須化customs

Week 3:UAT(ユーザ受入テスト)

  • 小口案件で送信→相手国受領→輸入側通関の通番紐付けをテスト(Inbound検索含む)customs
  • 障害時手順(PDF共有・税関照会テンプレート)をドライランcustoms

Week 4:本番&定着

  • すべてe-Form D送信へ切替(紙は保険用途のみ)customs+1
  • 月次の突合・未着/照合不一致のKPIを可視化(未着率、差戻し率、B2B案件の二重控除防止など)customs

国別システム入口(抜粋)

  • シンガポール:Singapore Customs – ASW(電子送受信の総合ページ)とICS手順書customs
  • マレーシア:MITI ePCO/お知らせ(紙発給停止・ASW送信)miti
  • インドネシア:商業省e-SKA(電子Form D説明)miti
  • タイ:TCOIS(CO検証)miti
  • フィリピン:DTI/BOC e-COポータル(2024年1月からフル電子発給・受理)customs

e-Form DとAWSC(自己証明)の使い分け

AWSC(ASEAN-Wide Self-Certification)は、認定輸出者(CE)がインボイス上の原産地宣言で特恵申請できる制度です。 e-Form Dとは代替関係になり得るため、品目・相手国体制・社内統制で選択します。 Back-to-Back宣言(AWSC版)もOCPに規定があります。customs

よくある質問(FAQ)

Q1. e-Form Dの有効期間は?
原則として発給日から12か月です。 遡及発給・再発行の条件もOCPに定めがあります。fta.miti

Q2. 第三国インボイスは使える?
使用可能です。 Form D様式の該当欄に表示します。customslegaloffice+1

Q3. B2B(中継輸出)は電子でもOK?
可能です。 原本のリファレンス番号/発給日を明示し、数量合算管理等のOCPルールを遵守してください。customs+1

Q4. 送信成功なのに相手国で見つからないと言われた
PDFを輸入者へ送り、税関に照会してもらいます。 ASW障害・ゲートウェイ遅延等の切り分けが必要です。customs

Q5. 書類の保存は何年?
国により異なります(例:シンガポールは5年、マレーシアは7年)。 自社ポリシーは最長基準で統一することを推奨します。miti+1

実務テンプレート

対取引先(輸入者)連絡テンプレート

text件名:ATIGA e-Form D 送信完了のご連絡(Ref No.: XXXX)

・発給国/発給機関:[国名/機関名]
・e-Form D Ref No.:[XXXX](発給日:[YYYY-MM-DD])
・対象Invoice/HSコード/数量:[…]
・第三国インボイス:有/無
・B2B:有(元Ref No.[XXXX])/無

参考:e-Form DのPDF表示版を添付(税関照会用)

障害時(ASW不達)一次対応フロー

  1. 自国ポータルで送信ステータス再確認customs
  2. 表示用PDFを輸入者へ送付customs
  3. 輸入者が現地税関へ照会(リファレンス番号提示)customs
  4. 相互に再送または手動照合で復旧customs

本ガイドは、2024年1月以降の完全電子化に対応した最新の実務内容を反映しています。 各国システムや社内体制に応じて、カスタマイズしてご活用ください。customs+1

  1. https://www.customs.gov.sg/files/news-and-media/Circular_22_2023_amended__29_Jan_2024_.pdf
  2. https://www.miti.gov.my/index.php/pages/view/3911
  3. https://customs.gov.sg/businesses/rules-of-origin/asw/
  4. https://customs.gov.sg/businesses/certificates-of-origin/how-to-apply-for-b2b/
  5. https://fta.miti.gov.my/index.php/pages/view/17
  6. https://www.customslegaloffice.com/global/what-is-third-country-invoicing-tci/
  7. https://customs.gov.ph/wp-content/uploads/2025/10/2025-204-AOCG-MEMO.pdf
  8. https://www.facebook.com/BureauOfCustomsPH/posts/bocadvisory-effective-january-1-2024-eligible-goods-destined-for-asean-member-st/699796075660078/
  9. https://miffi.com.ph/assets/pdf/Advisory_Files/MIFFI_OPERATIONS%20Notice_Jan%2016%202024.pdf
  10. https://www.jiffa.or.jp/en/news/entry-5026.html
  11. https://www.miti.gov.my/miti/resources/Preferential%20Certificate%20of%20Origin/Announcement/Slide_ASW.pdf
  12. https://global-scm.com/blog/?p=3107
  13. https://ask.gov.sg/customs/questions/clz9bs3x2020gf966c1pxojey
  14. https://www.laotradeportal.gov.la/en-gb/site/display/2068
  15. https://www.eabc-thailand.org/eabc-asean-wide-self-certification-survey/
  16. https://www.jmcti.org/mondai/database/report/2024/ASEAN
  17. https://www.instagram.com/p/DPftmF9DAG2/
  18. https://x.com/ASEAN/status/1975425994270834752
  19. https://www.v-servelogistics.com/media/vserve2017/file_pdf/20092350214_152-2563%20%E0%B9%80%E0%B8%AD%E0%B8%81%E0%B8%AA%E0%B8%B2%E0%B8%A3%E0%B9%81%E0%B8%99%E0%B8%9A%20e-ATIGA%20Form%20D%20Electronic%20Process%20Specification%20V0.04.pdf
  20. https://www.facebook.com/InternationalTradeCentre/posts/are-you-an-asean-exporterwere-working-with-the-asean-secretariat-to-strengthen-t/1129378019384893/

ASEANに加盟予定の東ティモールについて

A. 東ティモールの概要

実務メモ:現時点(2025年9月)で、対東ティモール向け日本産品の輸入時は上記5%+2.5%が原則。一方、東ティモール原産品の対日輸入は、日本のLDC特恵(特別特恵)対象で多くが無税になり得ます(Form A等の要件充足が前提)。 Ministry of Foreign Affairs of Japan+2Japan Customs+2


B. ASEANへの参加の経緯(時系列の要点)

  • 2022年11月:ASEAN首脳会議で**「原則承認」(11番目の加盟国として)。オブザーバーとして各会合に出席。 2023年に「完全加盟ロードマップ」**をまとめる方針。 ASEAN
  • 2023年5月ロードマップ採択(第42回首脳会議)。実装進捗報告を注視。 ASEAN+1
  • 2025年
    • 3月:ASEAN事務局とADBが**能力強化プログラム第2弾(CBP 2.0)**開始。ロードマップの「優先合意群」への対応を加速。 ASEAN+2ASEAN+2
    • 7月第58回外相会議(AMM)で、完全加盟に向けた支持再確認・ASEAN事務局内の東ティモール・ユニット稼働等を明記。 ASEAN
    • 直近の見通し2025年10月・クアラルンプール正式加盟の儀式・最終化と報道。 CNA

ポイント正式加盟の発効は、署名・批准・寄託等の国内手続の完了を経て効力発生(“式典=即時発効”とは限らない)。ただ、外相会議やASEAN公式リリースからは最終段階に入っていることが読み取れます。 ASEAN


C. ASEAN加入で起こるビジネス上の変化

1) 関税(ATIGA)を中心に

  • 域内関税の基本像:ASEANのATIGA域内関税の大幅撤廃を目的。先行加盟6か国は99.65%の品目で関税撤廃済み。新規加盟国も段階的スケジュール(センシティブ例外を含む)で最終的にゼロ%に近づくのが通例。東ティモールも自国の譲許表(削減工程)を策定・公表していく運び。 ASEAN+1
  • 東ティモールの現行MFNとの関係:今は**MFN5%(一律)**だが、**ATIGA発効後は「ASEAN原産品」に限り段階的に低下→原則0%**へ。非ASEAN原産(例:日本原産)はATIGAの対象外Timor-Leste Customs Authority+1
  • 日本から東ティモールへの輸出
    • 短期:ASEAN正式加盟直後は、日本原産にはATIGAの特恵なし。当面は**MFN5%+売上税2.5%**が目安。 Timor-Leste Customs Authority
    • 中期:東ティモールがAJCEP(日本-ASEAN包括的経済連携)に追加加入(別途手続)すれば、日・東ティモール間に協定特恵が広がる余地。現時点で日本政府も加盟支援の意向を表明。 Ministry of Foreign Affairs of Japan+1
    • 補足(WTO/ITA)情報通信機器などITA品目2027/2030年までにMFN無税へ(原産地を問わず)。電気電子系の対東ティモール輸出は個別HSでゼロ化時期を要確認。 World Trade Organization
  • 東ティモールから日本への輸出
    • **日本のLDC特恵(特別特恵)**により、多くの品目で無税(Form A等の原産性証明が前提)。当面の優遇として実務的に最も使いやすい。 Ministry of Foreign Affairs of Japan+1
  • ASEAN内サプライチェーン活用
    • 加入後は、ATIGAの原産地規則(一般にRVC40%やCTH等)を満たすASEAN原産として組み立てれば、東ティモール向け域内ゼロ関税が狙える(譲許表に依存)。e-Form Dや**自己申告(AWSC)**の活用が実務の肝。 ASEAN+1

2) 当面の優遇・支援/ハーモナイズ(制度面)

  • 能力強化(IAI/JAIF・CBP 2.0):ASEANのIAI(格差是正)、日本のJAIFにより、東ティモール官庁の制度整備・人材育成を重点支援2025年3月に第2期プログラム始動。これにより移行期の“緩やかな適用”や運用安定化が期待できる。 ASEAN+1
  • 関税・通関の整合
    • AHTN(8桁):ASEAN共通の**品目表(AHTN 2022)**を採用へ。HSとの整合が取りやすくなり、品目分類のブレが減る。 ASEAN+1
    • ASW/e-Form DASEAN Single Window国家シングルウィンドウを接続し、ATIGAのe-Form Dを電子交換。紙のCO依存が低下し、通関の可視性・迅速化につながる。 ASEAN+2ASEAN+2
    • ACTS(域内トランジット):域内単一担保・単一申告で陸送トランジットを簡素化。将来的に東ティモールが参加すればロジコスト低減に寄与。 acts.asean.org+1
  • 投資・サービス
    • ACIA(投資保護・内外無差別の枠組み)とATISA(サービスのネガティブリストベース化)へ段階的に編入。参入透明性・保護が向上。 ASEAN+1
    • MNP協定(ビジネス人材の一時入国)で、ビジネス訪問者・企業内転勤等の扱いが整理され、人の流れがスムーズに。 Centre for International Law

まとめ(ハーモナイズの道筋)
AHTN採用 → ASW接続(e-Form D/AWSC) → ATIGA譲許表の履行 → ACIA/ATISA/MNPの国内整備 →(必要に応じて)ACTS参加という順で、**制度面の“ASEAN化”**が進む見込みです。 WTO Regional Trade Agreements+4ASEAN+4ASEAN+4


D. 日本企業の実務アクション(すぐできること)

1) HSコード単位の影響洗い出し

  • 対東ティモール輸出入で使うHS8桁(AHTN想定)を棚卸。現行MFN(5%)+売上税2.5%、WTO/ITAのゼロ化時期(2027/2030)、将来のATIGA譲許(域内ゼロ化)可能性をコード別にマッピング。 Timor-Leste Customs Authority+2Trade Information Portal+2

2) 原産地戦略の見直し

  • ATIGAのRVC40%/CTHを満たすASEAN内生産・加工の設計(発効後にe-Form Dで享受)。日本からの完成品直送は当面MFNのまま、AJCEP追加加入の時期をモニター。 ASEAN+2Enterprise Singapore+2

3) 通関電子化の準備

  • e-Form D/AWSCの運用実務、ASW接続国の受入状況(相手税関の受信・照合プロセス)を理解。社内/通関業者とデータ項目・運用手順を詰めておく。 Singapore Customs

4) 調達・販売の“当面の優遇”活用

  • 対日輸入(東ティモール原産)はLDC特恵で無税が広い。コーヒー等の一次産品だけでなく軽工業品の育成輸入の芽も検討。 Ministry of Foreign Affairs of Japan

5) 制度整備の進捗を定点観測

  • 正式加盟の最終化(2025年10月クアラルンプール)、ASEAN・東ティモール政府の**「優先合意群」実装**、投資・サービスのネガティブリスト公表等を四半期ベースで確認。 CNA+1

留意点(不確実性)

  • 正式加盟の効力発生日ATIGAの個別譲許表(削減カレンダー)は、署名・批准・官報告示を経て確定します。実務適用は法令公布・関税令改正の確認が必須です(ASEANも「優先合意群」整備を継続中)。 ASEAN

付録:ミニ早見表

テーマ“いま”加入後に起きること(概念)
関税(対TL輸入)MFN一律5%+売上税2.5%(物品税あり)ATIGAに基づきASEAN原産は段階的に**0%**へ(譲許表次第) Timor-Leste Customs Authority+1
日本→TL(日本原産)当面はMFN(5%+2.5%)AJCEPへの東ティモール加入が成立すれば協定特恵(時期未定) Ministry of Foreign Affairs of Japan
TL→日本(TL原産)LDC特別特恵広く無税(Form A等)継続(TLがLDCである限り) Ministry of Foreign Affairs of Japan
電機・ICT多くがMFN2.5%WTO/ITA2027/2030までにMFN0%(対象HS限定) World Trade Organization
通関・証明紙CO中心ASW/e-Form D/AWSCで電子化・迅速化 ASEAN+1
品目表(自国表)AHTN 2022へ整合(HS8桁統一) ASEAN
投資・サービス個別法制ACIA/ATISA/MNPの枠組み適用で透明性・保護向上 ASEAN+1

出典の要所(抜粋):