HS2028の改正は、HS条約第16条に基づくWCO理事会の勧告として、締約国へまとめて回付される形で進みます。ここでいう「改正勧告パッケージ」は、HS2028版の根幹となる改正の束で、企業実務では「今使っているHS2022の6桁が、どこでどう変わり得るか」を左右する最重要の一次情報です。 (wcoomd.org)
以下、ビジネスマン向けに、公開一次情報から確度高く言える範囲で中身をまとめます。個別の号レベルの差分一覧は、HSC第75回会合報告の付属文書(Annex)に入っているため、コード単位の全件精査はその正式テキストで行うのが前提です。 (EUR-Lex)

1. パッケージの規模と構成
WCOのHS委員会(HSC)は、HS2028に向けて次を暫定採択したと公表しています。 (wcoomd.org)
・HS2028改正提案 105件
・HS解説(Explanatory Notes)改正 5件
・HS2028改正勧告(Article 16 Recommendation)として、HS2028向け改正セット合計299(第7次見直しサイクルで合意した改正の全パッケージ)
この299セットが、HS本文の見出し、号、注などの見直しを束ねた「改正の本体」です。 (wcoomd.org)
補足として、同じHSC会期で「分類決定」や「分類意見」も多数出ていますが、これは改正勧告パッケージとは別枠です。ただし実務では、分類の統一運用に影響し得るため、主要品目は併せてウォッチ対象になります。 (wcoomd.org)
2. 企業が理解すべき改正の狙い。改正は何のために入るのか
EUがWCO理事会での採択に向けて示した公式説明では、HS2028の改正セット(299)は次の目的を持つと整理されています。 (EUR-Lex)
- 貿易パターンの変化、新技術の発展を反映する
- 社会、環境、セキュリティの観点で、取締りやモニタリングをしやすくする
- 取引量が少ない見出しや号の整理で体系を簡素化する
- 国際標準や新商品、製品組成の変化に合わせ分類をしやすくする
- 仏語版と英語版の整合性を改善し、解釈のズレを減らす
- 不正や違法取引への対抗、健康と環境保護のため、特定分野で見出しや号を新設する
ここがポイントです。HS2028は「単なる番号の付け替え」ではなく、政策目的に直結する識別力を上げる改正が含まれる、と公式に説明されています。 (EUR-Lex)
3. 分野別にみたHS2028の主な改正テーマ
ここからが、企業にとって具体的な影響が出やすい領域です。以下は「改正の例として公式に言及されているテーマ」を中心に整理します。
3-1. 環境、循環経済。廃棄物と回収装置が焦点に入る
公式説明の中で、環境対応として明示されているのが次の領域です。 (EUR-Lex)
・プラスチック廃棄物に関する規定
・単回使用プラスチック
・使用済タイヤ由来のゴムや粉末
・ガラス繊維の廃棄物
・回収を促すためのリバースベンディングマシン(回収機)
・健康と環境保護に資する分野での見出しや号の新設
企業実務での含意は、廃棄物や再生原料だけでなく、回収や分別に使う装置そのものが、統計や規制目的で識別されやすい体系へ向かう可能性が高い、という点です。 (EUR-Lex)
3-2. 公衆衛生。ワクチンはより細かく識別される方向
EU側の説明では、パンデミック対応の反省を踏まえ「ワクチンや健康関連グループ」を明示しています。 (EUR-Lex)
さらにWTOの公式ニュースでは、HS2028で「人用ワクチン」のために新見出し3007を設け、その下に7つの区分を置く案が説明されています。 (WTO)
企業側では、医薬品、ワクチン原体や製剤、関連する供給網の統計管理や規制対応が、6桁レベルから細分化され得る点を早めに織り込む必要があります。 (WTO)
3-3. 食品、農業。機能性、配合物、サプリが論点化
公式説明の中で、食品側は次が例示されています。 (EUR-Lex)
・農業産業で重要性が増しているグループ
・食品強化用のミックス(food fortification mixes)
・食品サプリメント(food supplements)
食品と化学、医薬の境界にいる商品ほど、章注や定義の見直しで分類の根拠が変わりやすくなります。品名だけでなく、用途、配合、摂取形態、表示まで含めた説明責任が重くなる領域です。 (EUR-Lex)
3-4. 電機、機械、先端製造。新製品と機能の進化が改正を駆動する
公式説明では、技術進化や新製品への対応として、次が例示されています。 (EUR-Lex)
・電動アシスト自転車(e-bikes)
・半導体とトランスデューサー
・清掃ロボット
・ドローン
製品の機能や構成が進化すると、従来の「どれに近いか」では説明しづらくなり、分類のための定義整備が必要になります。これらは、輸出入の主力品目になりやすいだけに、企業インパクトが大きい領域です。 (EUR-Lex)
3-5. セキュリティ、取締り。不正や違法取引の識別を強める
HS2028改正の狙いとして、公式に「不正や違法取引への対抗」が挙げられ、例として次が明示されています。 (EUR-Lex)
・違法薬物の製造(illicit manufacture of drugs)に関する分野
・単回使用プラスチック
・ワクチン
・ヒートポンプ
・回収機(reverse vending machines)など
ここは関税だけでなく、輸出入規制、許認可、統計、監視という複数目的が重なるため、品目説明の精度と証跡の整備が重要になります。 (EUR-Lex)
4. 手続き面の重要ポイント。いつ確定し、いつ企業が全文を見られるか
WCOは、HSCで暫定採択された勧告を理事会へ上程し、2025年末の正式採択後、2026年1月に公表、2028年1月1日に発効すると説明しています。 (wcoomd.org)
またEUの説明では、理事会が勧告した改正は、締約国が6か月以内に異議を出さなければ受諾されたものとみなされる仕組みが整理されています。 (EUR-Lex)
実務上、改正勧告のドラフトはHSC第75回会合報告のAnnex Q(文書NC3358Ba)に含まれる、とEU側文書で明記されています。 (EUR-Lex)
5. 企業向けまとめ。HS2028改正勧告パッケージをどう読むべきか
今回のパッケージは、299の改正セットを束ね、環境、健康、セキュリティ、新技術への対応を強く意識した内容です。 (EUR-Lex)
しかも、プラスチック廃棄物、ワクチン、食品サプリ、e-bikes、半導体、清掃ロボット、ドローン、ヒートポンプ、回収機など、企業の実需に直結する対象が公式に例示されています。 (EUR-Lex)
次にやるべきことはシンプルです。
・自社の主力品目が、上で挙げたテーマ領域に入るかを棚卸しする
・入るものは、HS2028の正式テキストと相関表が出た瞬間に、6桁の置換と定義差分を精査できる状態にしておく
