2026年2月4日、世界税関機構(WCO)から半導体業界および関連する機械メーカーにとって、極めて重い意味を持つ提案がなされました。それは、2028年のHSコード改正(HS 2028)において、半導体製造装置の部分品(パーツ)を分類するコードを劇的に細分化するという案です。
これまで、多くの半導体関連パーツは、第8486項の「部分品および附属品」という大きなバスケットの中に一括りで分類されてきました。しかし、今回の提案はその「ドンブリ勘定」の時代を終わらせるものです。
本記事では、HSコードの専門家の視点から、この細分化の真の狙いである経済安全保障との連動と、企業が直面する実務上の課題について深掘り解説します。

「その他」に隠れていた戦略物資の可視化
まず、現状のHSコードの問題点をおさらいします。
現在のHS 2022では、半導体製造装置(露光装置やエッチング装置など)の部品は、主に「8486.90」というコードに分類されます。ここには、高度な光学レンズや制御基板といった戦略的な重要部品から、単なる金属製のカバーやネジのような汎用的な部品までが、すべて同じ番号の下に混在しています。
この状態では、各国の規制当局は、どの国にどれだけの「重要技術」が流れているのかを統計データから正確に把握することができません。
今回WCOが提示した細分化案は、この不透明さを解消するためのものです。具体的には、従来の「部分品」というコードを分解し、例えば「プラズマ制御用部品」や「搬送用ロボットアーム」、「特殊光学系ユニット」といった機能や用途に基づいた固有のコード(サブヘディング)を新設しようとしています。
これにより、税関は輸入申告された貨物が、単なる修理用パーツなのか、それとも製造能力を左右するコアコンポーネントなのかを、HSコードを見るだけで判別できるようになります。
輸出管理との完全な紐付け
ビジネスマンが最も警戒すべきは、この改正が単なる統計の精緻化ではないという点です。これは明らかに、各国の輸出管理(安全保障貿易管理)の実効性を高めるための布石です。
HSコードが細分化され、特定の高性能部品に固有の番号が振られるということは、その番号に対して輸出規制のフラグを立てやすくなることを意味します。
これまでは、8486.90というコードで申告されただけでは、それが規制対象かどうかは税関のシステム上では判別できず、審査官の知識や企業の自己申告に依存していました。しかし、2028年以降は、特定のコードが入力された瞬間に、自動的に該非判定書の提出を求めたり、検査対象としてロックしたりするシステム運用が可能になります。
つまり、HSコードの選定ミスが、即座に「無許可輸出」の疑いという重大なコンプライアンス違反に直結するリスクが高まるのです。
エンジニアと通関士の連携が必須になる未来
この改正案がそのまま採用された場合、企業の実務にはどのような変化が求められるのでしょうか。最大の変化は、通関部門だけではHSコードを決められなくなるという点です。
図面と仕様書が分類の決定打
これまでの「8486.90(部分品)」であれば、それが半導体装置に使われることさえ分かれば分類が可能でした。しかし、細分化された新コードでは、「それがどのような機能を持つか」「どの工程(前工程か後工程か)に使われるか」「汎用品か専用品か」といった技術的な詳細情報が必要になります。
通関担当者が、製品の外見や名称だけでこれらを判断することは不可能です。設計図面や仕様書を読み解けるエンジニアが、分類プロセスに関与しなければなりません。
「専用品」の証明責任
また、新コード体系では「専ら半導体製造装置に使用されるもの」と「汎用性があるもの」の境界線が厳格化される見込みです。
企業側は、自社の部品が他の用途(例えば医療機器や一般産業機械)には転用できない「専用設計」であることを、客観的な資料で税関に証明する準備が求められます。
まとめ
WCOによる半導体製造装置用パーツの細分化案は、ハイテク貿易における透明性を極限まで高めようとする国際社会の意思表示です。
2028年はまだ先の話ではありません。数万点に及ぶ補修部品マスタを持つメーカーや商社にとって、すべての部品のスペックを洗い出し、新コードへ移行する作業は年単位のプロジェクトになります。
「たかがパーツのコード変更」と侮らず、今のうちから技術部門と連携し、製品情報のデータベース化を進めること。それが、2028年以降も世界のサプライチェーンから締め出されないための唯一の防衛策です。
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