ワクチン分類再構築:HS 2028が示す新基準をビジネスでどう使いこなすか

2028年1月1日、国際貿易の共通言語であるHSが大きく更新されます。特にワクチンは、従来の「一括でまとめる分類」から、「病原体や用途に応じて見える化する分類」へと構造ごと作り替えられます。今回の改定では、人用ワクチンの見出しが新設され、6桁レベルで38の細分類へ拡張されます。(世界税関機構)

この変更は、製薬・医療商社だけの話ではありません。調達、サプライチェーン、通関、データ分析、価格交渉、官民連携(緊急時の優先通関や免税措置など)まで、ビジネス実務に波及します。(世界税関機構)


HS 2028とは何か。なぜワクチンで大改定が起きるのか

HS(Harmonized System)は、世界中で取引される貨物を統一ルールで分類し、関税率表と貿易統計の土台になる制度です。世界税関機構(WCO)が管理し、200以上の国・地域が関税・統計の基礎として利用しています。(世界税関機構)

HSは通常、数年単位の見直しサイクルで改正されますが、HS 2028はCOVID-19の影響も受け、技術的検討期間が例外的に延長されたことが明記されています。HS 2028は2028年1月1日に発効予定で、移行のための準備期間が設けられる、という位置づけです。(世界税関機構)

このHS 2028で、公衆衛生は中心テーマの一つとされ、ワクチンを含む「健康危機対応の必需品」がより識別しやすい形に改められます。(世界税関機構)


いまのHS 2022が抱えていた課題。人用ワクチンが6桁1本に集約されていた

現行のHS 2022では、人用ワクチンは6桁で3002.41にまとめられています。獣医用ワクチンは3002.42です。(世界税関機構)

世界保健機関(WHO)とWCOが共同でまとめたHS 2022の参照資料でも、人用ワクチン(COVID-19ワクチンを含む)は同じ6桁の3002.41に分類される旨が示されています。(世界税関機構)

この「人用ワクチンは1本」という構造は、ビジネスの現場で次の問題を起こします。

  1. どの疾病向けワクチンがどれくらい貿易されているか、統計で見えにくい
  2. 特定ワクチンを対象にした免税、簡素化、優先通関などの政策を設計しづらい
  3. 緊急時に、対象品目を税関システム上で素早く識別しづらい

これらは世界貿易機関(WTO)の委員会報告でも、現状は「人用ワクチンの見出しが一つ」であり、政策と統計の面で難しさがあった、と要点が整理されています。(WTO)


HS 2028の核心。ワクチンが3002から独立し、3007と3008へ再配置される

HS 2028では、ワクチンが従来の3002(人血、免疫産品、ワクチン等)から構造的に切り離され、新しい見出しへ移されます。

  • 新見出し 30.07(3007):人用ワクチン
  • 新見出し 30.08(3008):その他のワクチン(獣医用を含む)

この点はWCOのHS 2028概要ページ、および改正条文(勧告文書)で明確に示されています。(世界税関機構)

同時に、旧来3002の中にあった「ワクチン、毒素、培養微生物…」の枠組みも改められ、3002.4系列はワクチンではなく「毒素、培養微生物等」へ整理されます。(世界税関機構)

実務で押さえるべきポイント:コードの書き換えは、単なる桁合わせではない

社内システムや取引先マスタに「3002.41=ワクチン」という固定観念があると、2028年の切替時に申告エラーが出やすくなります。HS 2028では、3002.41という概念そのものが別体系へ移るためです。(世界税関機構)


人用ワクチン(3007)はどう分かれるのか。病気別に6桁コードが付く

HS 2028の新見出し3007では、人用ワクチンが疾病群に沿って細分化されます。設計思想として、WCOは次の2点を明示しています。

  • アウトブレイクになりやすい疾病と、風土病的な疾病を区別する
  • WHOの予防接種ガイダンスに沿って、対象集団やプログラム特性を踏まえた範囲にする

これにより、人用ワクチンの貿易フローの透明性が上がり、緊急時の政策対応や国際的な供給監視がやりやすくなる、という狙いです。(世界税関機構)

3007のコード体系(要点)

以下は、改正条文(HS 2028勧告文書)に基づく、3007の主要区分です。(世界税関機構)

区分代表的な6桁コード帯含まれるワクチン(例)
麻しん・風しん等3007.11〜3007.19麻しん、麻しん風しん混合、水痘、帯状疱疹、MMR、MMRV、その他組合せ
ポリオ・DTP等3007.21〜3007.29ポリオ、ジフテリア破傷風混合、DTP、A型肝炎、B型肝炎、Hib、五種混合・六種混合、その他組合せ
小児系の重要ワクチン群3007.31〜3007.35BCG、その他の結核、肺炎球菌、ロタ、HPV
熱帯病等を含む群3007.41〜3007.47髄膜炎(単価・多価)、腸チフス、コレラ、デング、狂犬病、マラリア
呼吸器系の重点群3007.51〜3007.59インフル(単価・多価)、RSV、コロナウイルス、これらの組合せ
アウトブレイク対応群3007.61〜3007.66黄熱、天然痘・エムポックス、エボラ、脳炎、チクングニア、ストレプトコッカス
その他3007.90上記以外

この中で、ビジネス上とくに重要なのが「コロナウイルス」の枠が6桁で独立する点です。HS 2022ではCOVID-19ワクチンも3002.41に集約されていましたが、HS 2028では人用ワクチン体系の中で識別される方向になります。(世界税関機構)

例外的に「まだ大きく取引されていない」領域も入る

WCOは、BCG以外の結核ワクチンについて「その他の結核ワクチン」を設けたこと、さらにストレプトコッカス(特にB群溶連菌に関するパイプライン)向けの見出しを設けたことを説明しています。取引量がまだ大きくない品目をHSに入れるのは例外的だが、重要ワクチンが必要な場所に届いているかを監視できるようにする意図がある、とされています。(世界税関機構)


その他ワクチン(3008)はどう扱われるのか。獣医用は1本で残る

新見出し30.08(3008)は「その他のワクチン」で、ここに獣医用ワクチンが入ります。条文上は、少なくとも次の2区分です。(世界税関機構)

  • 3008.10:獣医用ワクチン
  • 3008.90:その他

ここは、人用(3007)ほど細かくは分かれません。したがって、獣医用領域で疾病別の統計や政策を行いたい場合、国別の上乗せ桁(7桁以上)での運用が焦点になります。HSは6桁が国際共通で、7桁以上は各国が設定することが前提です。(世界税関機構)


ビジネスへのインパクト。通関だけでなく、経営判断のデータが変わる

1. 調達と供給リスク管理の精度が上がる一方、社内データの作り直しが必須になる

WCOは、より正確な貿易データがモデリングや予測、サプライチェーン管理、価格指数、マーケット把握に役立つと述べています。これは政府向けの説明ですが、民間企業でも同じです。(世界税関機構)

一方で、企業側は次の対応が必要になります。

  • 商品マスタのHSコードを3002.41から3007系へ振り替える
  • これまで「ワクチン」と一括だった分析軸を、疾病群別に再設計する
  • 過年度データとの比較のために、旧HSとの紐付け(マッピング)を用意する

2. 通関実務では「申告コードの誤り」が遅延や追加対応の引き金になる

HSは関税率だけでなく、統計、規制、検査、申告書の審査ロジックにも結びつきます。WCOはHS 2028で、緊急時の迅速通関や免税措置を運用しやすくする狙いを明確にしています。(世界税関機構)

したがって、切替直後に旧コードで申告すると、形式面での差し戻しが増えやすくなります。特に、複数疾患の混合ワクチンは3007内で専用の組合せ区分が複数あるため、社内の判断ルールが曖昧だとミスが出ます。(世界税関機構)

3. 契約条項や価格条件にも影響する

国際取引では、契約書・インボイス・原産地関連資料にHSコードが書かれることがあります。HS改定後にコードが変わると、次のような実務摩擦が起こり得ます。

  • HSコードを前提にした価格条件や通関手配の責任分界が曖昧になる
  • 取引先が旧コードのまま出荷書類を作成し、通関側で修正が発生する
  • 社内監査で「コード改定対応が未実施」と判定される

2028年1月1日までに何を準備すべきか。実務ロードマップ

WCOは、HS 2028改定が受け入れられた後、移行までの期間に相関表(HS 2022とHS 2028の対応表)作成や解説書類の更新、各国での制度・IT・教育対応が必要だと説明しています。(世界税関機構)

これを踏まえ、企業側の実務としては次の順番が安全です。

1. まず棚卸し:自社が扱う「ワクチン」を疾病群で仕分けできるか確認する

  • 商品名だけでなく、対象疾病、混合か単独か、用途(人用か獣医用か)を整理
  • 3007のどのグループに入るか、医薬品部門と通関部門で共通言語を作る

2. 次にマッピング:旧コードと新コードの対応表を社内用に作る

  • HS 2022の3002.41、3002.42を出発点に、HS 2028の3007系、3008系へ振り替える
  • 複合ワクチンは専用コードがあるため、単純な置換にしない

3. システム対応:マスタ、申告連携、帳票テンプレートを一括点検する

  • ERPや輸出入管理システムのHSコード欄
  • 通関業者に渡す商品明細のテンプレート
  • 輸出入申告の連携(EDI)で参照しているコード辞書

4. 取引先との合意形成:サプライヤーに「新HSでの分類根拠」を求める

  • どの疾病群のワクチンとして扱うか、書類で確認できるようにする
  • 将来の監査や問い合わせに備えて、判断根拠を残す

5. 最後に運用訓練:切替直後の差し戻しを想定した体制を作る

  • 初期の問い合わせ対応窓口
  • イレギュラー品目(臨床試験向け、特殊用途など)のエスカレーション経路

よくある誤解。ここを間違えると現場が止まる

誤解1:HS 2028のコードは、今すぐ使い始めてもよい

HS 2028は2028年1月1日に発効予定で、各国での制度改正とシステム更新を前提に準備期間が置かれる、とWCOは説明しています。したがって、原則として適用前に新コードで申告する運用は現実的ではありません。(世界税関機構)

誤解2:3007の分類は「成分」だけ見ればよい

HS 2028の3007は、疾病群と組合せ区分を前提に設計されています。混合ワクチンには専用区分があるため、名称・用途・対象疾病の整理が重要です。(世界税関機構)

誤解3:6桁が変われば、各国の7桁以上も自動で同じになる

HSは6桁が国際標準で、7桁以上は各国が独自に細分化します。WCOの参照資料でも、国内レベルは税関当局へ確認すべき、と明記されています。(世界税関機構)


まとめ。HS 2028のワクチン再分類は、通関の話で終わらない

HS 2028では、ワクチン分類が「3002の一部」から独立し、人用は3007で疾病群別に大幅に細分化されます。これにより、緊急時の優先通関や政策対応、需給の可視化が進む一方、企業側はマスタ、帳票、取引先連携、社内ルールを作り直す必要があります。(世界税関機構)

2028年1月1日は、通関部門だけの節目ではありません。調達、SCM、経営企画、データ分析まで関わる「分類基盤の改定」です。今のうちに、ワクチンを疾病群で語れる状態にしておくことが、最も費用対効果の高い準備になります。


文章校正(読みやすさの最終チェック)

  1. 用語を統一しました(HS 2022、HS 2028、見出し、6桁コード、国内桁)。
  2. 数字と日付の表記を統一しました(2028年1月1日など、相対表現を避けました)。
  3. 一文が長くなりすぎないよう、段落を短く分割しました。
  4. 根拠が必要な箇所は一次情報(WCO、WTO、公式文書)を優先して参照しました。

 

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投稿者: shima

嶋 正和 株式会社ロジスティック 代表取締役社長

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