米国の関税回避取り締まり強化:日本企業が知っておくべきリスクと対応策

はじめに

2026年に入り、トランプ米政権による関税回避の取り締まりが大幅に強化されています。2025年8月に設立された省庁横断の「貿易詐欺対策タスクフォース」は、原産国の虚偽申告や迂回輸入など違法な関税逃れに対して、民事・刑事両方の罰則を科す姿勢を明確にしています。日本企業にとって、この取り締まり強化は対米ビジネスにおける新たなコンプライアンスリスクとなっており、適切な理解と対応が急務となっています。strtrade+1

貿易詐欺対策タスクフォースの全貌

省庁連携による執行体制の構築

米国司法省は2025年8月29日、国土安全保障省傘下の米国税関・国境警備局(CBP)と連携した「貿易詐欺対策タスクフォース」を正式に立ち上げました。この組織は司法省の民事局と刑事局が中心となり、違法に関税を支払わない事業者に対する法執行を強化する目的で設立されました。司法省は、国内投資の財源としての関税徴収を損ない、違反者に不当な競争優位をもたらす貿易詐欺を容認しない姿勢を明確に示しています。[crdb]​

2025年12月18日には、わずか1日で3件の執行事例が発表され、企業が合計1億ドル以上の罰金を支払う合意が成立しました。この異例のペースは、タスクフォースが本格的に稼働し始めたことを示しています。[akingump]​

取り締まり対象となる違反行為

貿易詐欺対策タスクフォースが取り締まる主な違反行為は以下の通りです。[crdb]​

第一に、輸入品の関税分類の虚偽申告があります。製品を実際よりも低い関税率が適用される分類に意図的に申告することが該当します。[crdb]​

第二に、原産地の虚偽申告が対象となります。高関税国からの製品を低関税国産と偽って申告する行為です。[crdb]​

第三に、課税評価額の過少申告が含まれます。一般的には商品の取引額を実際よりも低く申告し、関税額を減らす行為です。[crdb]​

第四に、トランスシップメント、つまり迂回輸入・輸出が特に重点的に取り締まられています。note+1

3つの法的枠組みによる執行

1930年関税法に基づく民事罰

司法省は違法行為に対する執行手段として、まず1930年関税法を活用しています。この法律は輸入者に対し、輸入品の正確な課税評価額や関税分類を申告するための「合理的な注意義務」を課しており、詐欺や過失による虚偽申告を禁じています。違反した輸入者は罰金を含む民事罰を科される可能性があります。[crdb]​

虚偽請求取締法(FCA)による厳格な制裁

近年、より厳しい制裁が可能な虚偽請求取締法(False Claims Act:FCA)による執行が増加しています。FCAは関税を含む米国政府への金銭の支払いを回避するために故意に虚偽情報を提出することを禁止しており、違反者には懲罰的損害賠償などより厳しい民事制裁が科されます。morganlewis+1

FCAに基づく責任が認定された場合、3倍賠償(トリプル・ダメージ)と請求ごとの金銭的罰則が含まれるため、その影響は甚大です。インフレ調整後の2018年以降の制裁金額は、違反1件あたり最低11,181ドル、最高22,363ドルとなっています。つまり、本来支払うべき関税額の3倍に加えて、違反1件ごとに最大2万ドル以上の罰金が科される可能性があります。japanese.pillsburylaw+2

トランプ政権は2025年4月、米国のアパレル企業が輸入した衣料品の価格を過少申告したことがFCA違反に当たるとして訴訟を提起しました。また、2025年3月、7月、8月、12月にも複数のFCA執行事例が発表されており、衣類から食品、産業資材まで幅広い分野に及んでいます。[crdb]​

刑事訴追のリスク

違法な関税回避は民事罰に加え、直接的な刑事罰を負うリスクも伴います。合衆国法典(USC)18編は連邦政府による刑事訴追の手続きを規定しており、虚偽の課税価格に基づく輸入(541条)や虚偽申告による輸入(542条)などに対する罰則を定めています。[crdb]​

司法省のマシュー・ガレオッティ次官補代理は2025年5月、刑事局の職員宛ての覚書で、優先して取り締まるべき企業犯罪として「関税回避を含む貿易・関税詐欺」を挙げました。これは、政権が関税回避を重大犯罪として位置づけていることを明確に示しています。[crdb]​

迂回輸入対策が最重点課題に

40パーセントの追加関税と罰金

トランプ政権が特に神経をとがらせているのが「迂回輸入(トランスシップメント)」です。トランプ大統領は2025年7月の大統領令で、相互関税の回避を目的とした迂回輸入に対して40パーセントの追加関税と罰金を科すと定めました。diamond+2

この規制では、CBPが迂回輸入と判断した貨物に対し、元の国の税率の代わりに一律40パーセントの追加関税が課されます。さらに、合衆国法典19編1592条に基づくその他の罰金や、原産国に適用される通常の関税も課されます。重要なのは、CBPは法律で認められている罰金の軽減や免除を適用しない方針を示していることです。[note]​

広範な迂回輸入の定義

具体的なルールは2025年12月時点で未発表でしたが、政権高官は迂回輸入の定義を広く捉える意向を示しています。生産や加工を行っていない第三国を原産国として偽るケースだけでなく、輸入品が第三国産の原材料を相当程度含む場合も迂回輸入として扱われる可能性があります。[crdb]​

さらに、CBPと商務省長官は6カ月ごとに、迂回スキームに使用されている国と特定の施設のリストを公表するとしています。このリストは公共調達、国家安全保障審査、商業的デューデリジェンスに活用されることになります。[note]​

中国製品の第三国経由輸出への懸念

トランプ政権が迂回輸入を問題視する背景には、高関税を課されている中国製品が第三国を経由して米国に輸入されることへの強い懸念があります。米国の対中関税率は貿易加重平均で2025年11月時点で38.6パーセントと、主要貿易相手国の中で群を抜いて高い水準にあります。[crdb]​

関税措置を受けて対中輸入は減少しましたが、その一方でベトナムや台湾に対する貿易赤字は2025年6~7月に2カ月連続で過去最高を更新し、タイも9月に過去最高となりました。こうした貿易構造の変化について、米国内では中国企業がこれらの国を通じて米国に迂回輸出しているとの見方が強まっています。[crdb]​

実際、英国の調査会社キャピタル・エコノミクスによる2025年9月時点の試算では、中国から米国への輸出減少分のうち、およそ8分の1は第三国経由で米国に間接輸出されているとされています。[crdb]​

日本企業への具体的な影響

サプライチェーンの中国依存リスク

日本企業にとって深刻な問題は、東南アジアなどに生産拠点を移転しても、部品や原材料の中国依存が続いていることです。OECDがまとめた付加価値ベースの貿易額によると、米国の輸入に占める中国のシェアは2017年の21.6パーセントから2022年に20.9パーセントと微減にとどまりました。通常の輸入額ベースで中国のシェアが21.6パーセントから16.6パーセントに減少したのとは大きな差があります。[crdb]​

さらに懸念されるのは、ベトナムやメキシコからの輸入に占める中国の付加価値割合が、同じ期間に2~4ポイント以上増加したことです。ASEAN全体でも4ポイント弱の上昇となっています。[crdb]​

付加価値割合基準による新たな不確実性

迂回輸入規制が第三国から調達した原材料の付加価値割合に基づく場合、米国向け製品の原産性判定に新たな不確実性が生まれます。米国の非特恵の原産地規則として用いられている「実質的変更基準」では、主に製造工程における製品の特徴や用途の変更に着目して判断されており、これまで付加価値割合は重視されてきませんでした。[crdb]​

さらに、中国企業が外国に設けた工場から調達した材料も「中国産」と見なされる可能性があり、企業は製品の原産性を一から見直さざるを得ない状況です。[crdb]​

ASEAN進出日系企業の対応

ASEAN進出日系企業の間では、中国製部材を含む製品が迂回輸入規制の対象になることを懸念し、現地調達化を進める動きが出ています。一方で、サプライチェーンをさかのぼって原材料の原産国をすべて把握するのは困難との声も聞かれ、新たな規制に警戒感が高まっています。[crdb]​

企業が取るべき具体的な対応策

コンプライアンス体制の総点検

企業は現行のルールに照らして、米国向け製品の原産国、関税分類、申告価格が適切かを改めて確認することが最優先です。特に以下の点を重点的にチェックする必要があります。[crdb]​

関税分類の正確性については、CBPの事前教示制度を活用することで、輸入前に正式な分類判定を得ることができます。これにより事後的な追徴課税や罰則のリスクを大幅に軽減できます。[crdb]​

原産国表示の適正性については、最終製造工程だけでなく、主要部材の原産国まで遡って確認する必要があります。[crdb]​

申告価格の妥当性については、取引価格が市場価格と大きく乖離していないか、関連会社間取引における移転価格が適切かを確認すべきです。[crdb]​

記録保管体制の強化

CBPによる監査や調査に備えて、原産国や関税額の判断根拠となる資料を適切に保管する必要があります。米国の法律では、輸入関連書類を5年間保管することが義務付けられています。[crdb]​

保管すべき主要書類には、インボイス、パッキングリスト、船積書類、原産地証明書、製造工程記録、部材調達記録、価格決定に関する書類などが含まれます。これらの書類は監査時に迅速に提出できるよう、体系的に整理しておく必要があります。[crdb]​

迂回輸入リスクの評価

CBPは2025年12月、CTPAT(テロ防止のための税関・産業界パートナーシップ)参加者向けのガイダンスを公開しました。このガイダンスによると、対中関税の対象品目の迂回輸入が顕著に増加しており、具体的には以下の品目が多いとされています。[crdb]​

対象品目は、鉄鋼・アルミニウム製品、繊維・アパレル製品、自動車・同部品、電子機器、ソーラーパネル、農産品です。[crdb]​

CBPは迂回輸入が疑われる兆候として以下を挙げています。[crdb]​

第一に、表示されている原産国と製造に必要な製造能力の不一致があります。[crdb]​

第二に、合理的なサプライチェーン上の理由がないにもかかわらず、低コスト国または自由貿易協定締結国を経由した輸送ルートが使用されていることです。[crdb]​

第三に、過去の取引パターンから逸脱した価格設定が見られることです。[crdb]​

企業はこれらの兆候に該当する取引がないか自己点検し、リスクのある取引に従事しないよう注意する必要があります。[crdb]​

自主開示制度の活用

司法省は2025年5月に「企業の取り締まりと自主開示に関する指針」を更新しました。この指針では、不正行為を自発的に司法省に開示するなど特定の条件を満たした企業については起訴を見送るとしています。[crdb]​

万が一、関税申告に誤りがあったことが判明した場合、隠蔽するのではなく、速やかに当局に自主開示することで、刑事訴追を回避できる可能性があります。この制度は、企業が主体的にコンプライアンスを強化するインセンティブとなっています。[crdb]​

サプライチェーンの可視化と再構築

長期的には、サプライチェーン全体の可視化を進め、各工程での付加価値や原産国を明確に把握できる体制を構築することが重要です。特に多段階のサプライチェーンを持つ企業は、一次サプライヤーだけでなく、二次、三次サプライヤーまで原産国情報を把握する必要があります。[crdb]​

必要に応じて、中国製部材への依存度を下げるため、調達先の多様化や代替サプライヤーの開発を検討すべきです。ASEAN現地調達化を進めることで、迂回輸入のリスクを軽減できる可能性があります。[crdb]​

内部告発制度への注意

企業が特に注意すべきは、米国の内部告発制度です。司法省は2025年5月、「企業告発者報奨金パイロットプログラム」を更新し、告発対象となる行為に「貿易・関税・通関詐欺」を新たに加えました。[crdb]​

FCAは連邦政府だけでなく第三者(告発者)にも違反者を被告として提訴する権限を与えており、2025年の執行事例のほとんどが告発者による提訴が発端となっています。告発者は回収された金額の一定割合を報奨金として受け取ることができるため、従業員や取引先が告発するインセンティブが存在します。[crdb]​

このため、企業は社内のコンプライアンス意識を高め、不正が発生しにくい体制を構築することが重要です。[crdb]​

おわりに

トランプ米政権による関税回避取り締まりの強化は、単なる一時的な政策ではなく、高関税時代における新たな執行の常態となりつつあります。日本企業は、短期的なコスト削減よりも、長期的な法的リスクの回避を優先し、適法な関税削減策を実施することが求められています。[crdb]​

貿易詐欺対策タスクフォースによる執行は2026年も加速すると予想されており、企業は早急にコンプライアンス体制を強化する必要があります。専門家の助言を得ながら、自社のリスクを正確に評価し、適切な対応を講じることが、対米ビジネスを継続する上で不可欠となっています。[akingump]​

免責事項

本記事は2026年2月9日時点で公開されている情報に基づいて作成されており、一般的な情報提供を目的としています。個別の法的助言や税務アドバイスを提供するものではありません。米国の関税法制や執行方針は頻繁に変更される可能性があるため、実際のビジネス判断を行う際には、必ず米国通商法に精通した弁護士や税関ブローカーなどの専門家にご相談ください。本記事の内容に基づいて行われた行動の結果について、筆者および発行者は一切の責任を負いかねます。

韓国への関税25%引き上げ表明を実務で読む。米韓合意「不履行」批判が企業に与える波紋

2026年1月下旬、米国で「韓国からの輸入に対する関税を25%に引き上げる」という発言が報じられました。政治ニュースとして消費すると見落としがちですが、ビジネスの現場では、調達コスト、価格交渉、出荷計画、通関対応が同時に揺れます。

本稿では、報道で示されている論点を整理しつつ、企業が取るべき実務対応を、できるだけ具体的にまとめます。

背景整理 何が起きたのか

報道の共通項を、実務に必要な粒度で並べると次の通りです。

・米韓間で一定の通商合意が成立し、韓国向け関税が引き下げられていた
・その見返りとして、韓国側の対米投資やエネルギー購入などがパッケージとして語られていた
・しかし米側は、韓国側の履行が不十分だと主張し、関税を25%へ引き上げる考えを示した
・韓国側は、正式な通知を受けていないという趣旨の反応も報じられた

この時点で重要なのは、誰の主張が正しいかではありません。企業にとっての本質は、関税が交渉カードとして再び前面に出てきたこと、そして発効日や適用範囲が流動的になり得ることです。

なぜ今、25%なのか。政治より先に見るべき構造

今回の動きは、関税を使って相手国の国内手続きを動かす圧力設計として読むのが実務的です。二国間の合意は、相手国の議会や制度手続きを通らないと実行に移せない場合があります。一方で、米国側は関税を早く動かせる局面がある。ここに非対称性が生まれます。

企業にとっての教訓は次の2点です。

・相手国の国内政治が止まると、関税が再び上がる前例になり得る
・合意の法的形式や国内での位置づけが曖昧だと、実務スケジュールが読みにくくなる

影響を受けやすい業界 自動車だけでは終わらない

報道では、自動車、木材、医薬品などが例として挙げられています。ただし、どこまでが対象になるのかは、表現の幅があり、品目限定なのか、より広範囲に及ぶのかが読み取りにくい局面です。

ここでやってはいけないのは、対象が一部に限られる前提で、対策を遅らせることです。現場は、対象が広い場合の損益耐性まで含めて準備したほうが安全です。

企業が直面する実務論点 契約、価格、通関が同時に揺れる

国別関税の変動は、だいたい次の順番で現場を直撃します。

  1. 取引条件の再交渉
    関税は輸入者負担が原則でも、実際には価格に転嫁されます。関税転嫁条項が弱い契約ほど、短期間で粗利が削られます。
  2. 出荷計画の見直し
    発効日や適用範囲が確定しない局面では、前倒し出荷、在庫積み増し、代替ソース探索が同時進行になります。
  3. 原産地と品目の再点検
    国別関税は原産地判定に依存します。韓国由来とみなされる条件、第三国工程を挟む場合の判断は、サプライチェーン設計そのものに跳ね返ります。
  4. 追加措置との重なり
    制度によっては、別の追加関税と重なり、合算の税負担が想定以上になるリスクがあります。対象品目の棚卸しと影響試算は必須です。

日本企業の見立て 当事者でなくても影響は回り込む

日本企業にとっての主な影響経路は3つあります。

・韓国の対米輸出が鈍ることで、部品や素材の需要構造が変わる
韓国メーカー向けの中間財を供給している企業は、米国向けラインの調整が連鎖し得ます。

・米国市場での競争条件の変化
韓国製品の価格が上がれば、同等品を供給できる企業には商機が生まれます。一方で、韓国企業の現地化が加速すると、調達先が米国内へ移る圧力も強まります。

・北米サプライチェーンの再編コスト
多元化は中長期では強靭化につながりますが、短期では監査、仕様変更、認証、物流設計などのコストが先に発生します。

今すぐやるべき実務チェックリスト

発効日や正式通知が流動的なほど、準備は前倒しが安全です。次のチェックは、今日から始められます。

  1. 対象品目の洗い出し
    自社製品や部材が、韓国原産として米国へ入る経路を棚卸しします。自動車関連、木材関連、医薬品関連は優先度を上げます。
  2. 契約条項の確認
    関税転嫁条項、価格改定トリガー、インコタームズ、引渡し時点を点検し、再交渉が必要な取引を特定します。
  3. 通関面の即応
    品目分類の再確認、原産地を裏づける証憑、米国側輸入者との連絡ルートを整備します。
  4. シナリオを2段で作る
    A: 一部品目のみ25%
    B: 広範な品目が25%
    両方でコスト影響、価格改定の必要幅、代替案を試算します。
  5. 政策カレンダーの監視
    相手国の手続き進捗、米国側の正式な手続き、施行日の公表を追跡し、社内のアラート条件を決めます。

まとめ 政治コメントより先に、現場の耐性を作る

今回の「韓国への関税25%」は、韓国向けニュースであると同時に、合意の国内手続きが遅れれば関税が再び動くというシグナルでもあります。報道時点では、適用範囲や開始時期が読み切れない要素が残り、だからこそ不確実性が最大のコストになります。

企業側が取るべき合理的な動きは、政治的な評価ではなく、対象範囲の棚卸し、契約と通関の即応設計、そして複数シナリオでの損益耐性づくりを前倒しで進めることです。

トランプ大統領による欧州追加関税の撤回が示す米欧貿易の新局面


2026年1月21日、米国のドナルド・トランプ大統領は、グリーンランド領有に反対する欧州8カ国に対して表明していた追加関税を撤回すると発表しました。この発表は世界経済フォーラム年次総会が開催されているスイス・ダボスで、NATO事務総長マーク・ルッテとの会談後になされたものです。わずか数日前まで激化していた米欧間の通商摩擦が、急転直下で緩和に向かった背景には、北極圏をめぐる戦略的な合意形成があります。iwate-np+3

関税発動予告から撤回までの経緯

トランプ大統領は1月17日、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、フランス、ドイツ、英国、オランダ、フィンランドの8カ国に対し、2月1日から全製品に10パーセントの追加関税を課すとSNSで表明していました。さらに6月1日からは税率を25パーセントに引き上げ、米国によるグリーンランド完全取得に関する合意が成立するまで継続するとしていました。この発表は欧州各国に衝撃を与え、対象となった8カ国は共同声明を発表して米国の姿勢を「危険」と批判していました。[jetro.go]​[youtube]​

しかし1月21日、トランプ大統領はルッテNATO事務総長との協議を経て、「グリーンランド、そして北極圏全体に関する将来の取引の枠組み」を形成したとして、2月1日の関税発動を撤回すると発表しました。大統領はこの合意について「実現すれば米国と全てのNATO加盟国にとって大きな利益となる」と述べましたが、具体的な合意内容については明らかにしていません。CNBCのインタビューでは「少し複雑な構想」であり、協議が進展するにつれて詳細を提供すると説明しています。stlpr+3

EU側の対抗措置と貿易協定承認の延期

一方、EU側もトランプ政権の圧力に対して強硬姿勢を示していました。欧州議会は1月20日、2025年7月に米国と合意した貿易協定の承認を延期することで合意しています。この協定では、EUが全ての米国製工業製品に対する関税を撤廃し、米国は欧州製品への関税を15パーセントに設定する内容が含まれていました。47news+3

欧州議会の議員は「これは極めて強力な手段だ。米国の企業が欧州市場を諦めることに同意するとは思えない」と述べ、協定承認延期が米国への圧力手段であることを示唆しています。昨年7月の合意では、EUは7500億ドル相当の米国産エネルギー製品を購入し、さらに6000億ドルを米国に投資することに同意していました。この協定の猶予期間は2月6日に終了し、EUが延長措置を取るか新協定を承認しない限り、2月7日に対米関税が発動する状況にありました。diamond+2

グリーンランドの戦略的価値と北極圏をめぐる競争

今回の関税騒動の背後には、グリーンランドの戦略的・経済的価値の急上昇があります。地球温暖化に伴う北極の海氷融解が加速しており、北極圏は地球平均に比べて4倍の速さで温暖化が進んでいるとされています。これにより、欧州とアジアを結ぶ北極航路や北米北岸を通る北西航路といった新たな海上交通路の開発価値が急速に高まっています。nikkei+1

グリーンランドには、ウランやグラファイト、レアアースといった米国の安全保障にとって重要な鉱物資源が豊富に眠っており、携帯電話やコンピューター、電池などのハイテク機器に不可欠な資源の供給源として注目されています。米国や西側諸国は、重要鉱物市場における中国の支配的な立場を緩和しようと、グリーンランドへの関心を強めている状況です。米戦略国際問題研究所の専門家は「北極の海氷融解は、経済と安全保障の競争に向けた全く新しい舞台をつくっている」と指摘しています。biz.chosun+2

ビジネスへの影響と今後の展望

今回の関税撤回により、欧州企業は差し迫った追加負担を回避できましたが、米欧間の通商関係は依然として不安定な状況にあります。2025年8月から既に米国は欧州製品の大部分に15パーセントの関税を課しており、欧州の製造業者は出荷の遅延、価格の引き上げ、利益率の低下といった影響を受けています。国際商業会議所の副事務総長は「企業は前例のない高関税率という現実に直面している」と述べ、米国経済に深刻な影響が出ない限り状況が改善する可能性は低いと指摘しています。[reuters]​

日本企業にとっても、米欧間の通商摩擦は重要な関心事です。欧州市場への輸出や現地生産を行っている企業は、EU側の対抗措置や市場環境の変化を注視する必要があります。また、北極圏の開発競争が激化する中で、資源アクセスやサプライチェーンの再編が今後のビジネス戦略に影響を与える可能性があります。

グリーンランドと北極圏をめぐる「取引の枠組み」の具体的内容が今後明らかになるにつれて、国際貿易環境はさらなる変化を迎えるでしょう。2月6日の貿易協定猶予期限、2月7日の潜在的な関税発動日という重要な日程が迫る中、米欧の協議動向を継続的に監視していくことが、グローバルに事業展開する企業にとって不可欠となっています。

日米「15%相互関税」枠組みの適用範囲と時期


輸出側(日本企業)にとっては見積もりと契約条件、輸入側(米国側の輸入者)にとっては申告実務に直撃するのが、この「15%」です。ポイントは、15%が一律上乗せではなく、原則として米国の通常税率(Column 1=MFN)を含めた合算で15%になる設計だという点です。japan.kantei+1

1. 今回の「15%」は何を意味するのか

日米合意の実装として、米国は日本原産品について、原則「ベースライン15%」の関税枠組みを適用しました(ほぼ全品目が対象)。一方で、自動車・同部品、航空宇宙(民間航空機)などは別扱いのルールが設定されています。whitehouse+1

ここで誤解が多いのが、15%が「追加で15%」だと思われやすい点です。実務上のコアは次のロジックです。

2. 適用ロジック:MFN込みで合算15%

CBP(米国税関・国境警備局)のガイダンスでは、日本原産品の相互関税は、品目ごとのColumn 1税率(従価税、または従価税相当)に応じて決まります。whitehouse

基本ルール(一般品目)

Column 1税率が15%以上の場合
追加の相互関税は0%(実務上は専用のChapter 99番号9903.02.72を申告)whitehouse

Column 1税率が15%未満の場合
Column 1と相互関税の合算が15%になるように調整(いわば「15%までの上乗せ」、HTSUS番号9903.02.73を使用)whitehouse

特定税率(従量税など)の扱い

Column 1が従量税や複合税率の場合は、税額を課税価格で割って従価税相当に換算し、その換算率が15%未満かどうかで判定します。whitehouse

実務上の要点

ACE(米国の電子申告システム)は、所定のChapter 99番号を組み合わせて申告すると、結果として15%になるよう計算を置き換える運用が示されています。whitehouse

3. 適用範囲:対象と例外をどう切り分けるか

対象の基本

対象は「日本原産品」です。出荷地が日本かどうかではなく、米国の原産地判定(実質的変更など)で日本原産と扱われるかが起点になります。実務では、サプライチェーン上の加工地が絡む製品ほど、原産地の取り違えがコスト差に直結します。

例外1:民間航空機(Civil Aircraft Agreement)

民間航空機協定(WTOの民間航空機協定)に該当する日本原産の民間航空機(軍用機と無人機を除く)および関連部品等は、相互関税に加えて、アルミ・鉄鋼・銅など一部の232条追加関税から外れる扱いが明示されています(専用のChapter 99番号9903.96.02で申告)。whitehouse

例外2:232条対象品目は原則「相互関税の対象外」

日本原産品でも、232条措置(鉄鋼、アルミ、銅、自動車・同部品など)対象は、相互関税の上にさらに重ねるのではなく、232条側の枠組みで扱う整理が示されています。jetro+1

例外3:特定の医薬品や天然資源など(ゼロ化の可能性)

大統領令では、米国内で入手困難な天然資源やジェネリック医薬品などについて、相互関税率を0%に修正できる枠組みが置かれています。該当性の判断と運用は、今後の当局通知とHTS改正の具体化を前提に、個社での品目当て込みが必要です。whitehouse

4. 時期:いつから何が変わったのか(実務の時系列)

今回の論点は「発効日が1回ではない」ことです。大枠は次の理解が安全です。

重要日程

2025年8月7日(米国東部時間00:01以降)
日本原産品に対する相互関税の適用が開始されました。初期運用では専用のHTS番号9903.02.30で申告する扱いが示されました。japantimes+2

2025年9月4日
日米合意を実装する大統領令が公表され、15%ベースラインと、セクター別扱いの枠組みが明示されました。govinfo+1

2025年9月16日(米国東部時間00:01以降)
申告用のChapter 99番号が更新され、従来番号9903.02.30がACE上で使用不可となり、新番号9903.02.72と9903.02.73へ移行しました。加えて、自動車・同部品と民間航空機の取り扱いがこの日から明確に運用開始となっています。whitehouse

遡及と修正の実務

大統領令には、2025年8月7日以降の輸入に遡って適用する旨が置かれ、CBPが返金や修正の手順を案内する形になりました。特に2025年8月7日から9月15日の間に輸入実績がある企業は、当時の申告内容が新ルール下で適切か、輸入者と通関業者と一体で棚卸しする価値があります。federalregister+2

5. 自動車・同部品:別建てで「MFN込み15%」へ

自動車・同部品は232条の枠で再設計され、2025年9月16日以降に輸入される日本原産の自動車・同部品について、Column 1税率に応じて「合算15%」となるよう調整する運用が示されています。whitehouse

  • 自動車でColumn 1税率が15%以上:HTSUS 9903.94.40(追加関税0%)
  • 自動車でColumn 1税率が15%未満:HTSUS 9903.94.41(合算15%)
  • 自動車部品でColumn 1税率が15%以上:HTSUS 9903.94.42(追加関税0%)
  • 自動車部品でColumn 1税率が15%未満:HTSUS 9903.94.43(合算15%)whitehouse

6. ビジネスマン向け:現場が最初に確認すべき3点

自社品目のColumn 1税率が15%未満か
未満なら、原則として15%まで引き上げられるため、価格と利益への影響が大きくなります。whitehouse

232条対象に該当しないか(鉄鋼、アルミ、銅、自動車など)
相互関税で処理するのか、232条側で処理するのかで、申告番号も請求書の説明も変わります。jetro+1

申告の「番号」と「順番」
Chapter 99番号は付ければよいのではなく、複数の追加関税や救済関税が重なる場合に、CBPが示すシーケンスに沿って並べる必要があります。現場では、輸入者側の通関ルールとテンプレート改修が先行課題になります。whitehouse

まとめ

米日15%相互関税枠組みは、単純な一律上乗せではなく、MFN込みで合算15%に調整する設計です。発効は2025年8月7日、申告番号の更新と自動車・民間航空機の具体運用は2025年9月16日が節目となりました。まずは自社品目が「15%未満か」「232条か」「例外(民間航空機等)か」を切り分け、輸入者・通関業者と一緒に申告ルールと過去実績の点検まで進めるのが、最短で損失を止める動きになります。japan.kantei+2


免責事項
本稿は公開情報に基づく一般的な解説であり、個別案件の法的助言ではありません。実際の適用は、最新のHTS改正、CBPのCSMS、通関実務(ACE設定)に従って確認してください。


    1. https://japan.kantei.go.jp/103/statement/202508/07kaiken.html
    2. https://www.jetro.go.jp/biznews/2025/08/4599e222a3e3b82d.html
    3. https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/2025/07/further-modifying-the-reciprocal-tariff-rates/
    4. https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/2025/09/implementing-the-united-states-japan-agreement/
    5. https://www.japantimes.co.jp/business/2025/08/07/economy/reciprocal-tariff-effective/
    6. https://www.govinfo.gov/content/pkg/FR-2025-09-09/html/2025-17389.htm
    7. https://www.federalregister.gov/documents/2025/09/16/2025-17908/implementing-certain-tariff-related-elements-of-the-united-states-japan-agreement
    8. https://www.jetro.go.jp/biznews/2025/09/df5c001da8c7a39e.html
    9. https://www.congress.gov/crs-product/IN12608
    10. https://www.youtube.com/watch?v=JRLUQvYLK1w
    11. https://www.thompsoncoburn.com/insights/u-s-japan-trade-agreement/
    12. https://www.nri.com/jp/media/column/kiuchi/20250708.html
    13. https://www.chrobinson.com/it-it/resources/insights-and-advisories/client-advisories/2025q3/09-17-2025-client-advisory-us-japan-agreement-implementation-trade-agreement-tariff-modifications/
    14. https://www.jetro.go.jp/biznews/2025/08/df401b87949acc2a.html
    15. https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/us_tariff/pdf/00_20250822.pdf
    16. https://www.jetro.go.jp/ext_images/biz/seminar/2025/4692b7c6204944b6/gaiyo20250925.pdf
    17. https://www.pref.toyama.jp/documents/49618/2_jetro0827.pdf
    18. https://www.meti.go.jp/tariff_measures/pdf/2025_0901_02.pdf

    【2025年版】米国相互関税の新方針と実務対応:税率「合計15%」ルールと遡及還付の現場論点

    2025年から本格運用が始まった米国の「相互関税(Reciprocal Tariffs)」。
    この制度で企業の明暗を分けるのは、税率の高さそのものよりも、「どの申告コード(Chapter 99)を使い、どの例外を適用し、いつの貨物まで遡れるか」という実務精度の差です。

    相互関税はHTSUS第99章の追加コードで実装されますが、交渉結果や大統領令によって矢継ぎ早にルールが上書きされています。現場がこのスピードに追随できないと、過払いによるキャッシュフロー悪化、申告誤りによるペナルティ、そして数年後の事後調査(Audit)という「三重のリスク」を抱え込むことになります。

    本稿では、最新の大統領令とCBPガイダンスに基づき、見落としがちな実務リスクを整理します。


    1. 何が「新方針」なのか:一律課税から「トップアップ方式」へ

    制度開始当初(2025年4月5日)は、原則として「一律10%の追加(9903.01.25)」という単純な構造でした。しかし、その後の交渉と7月31日の大統領令により、現在はより複雑かつ精緻な「国別調整モデル」へと移行しています。

    「新方針」の核心は以下の3点です。

    1. 国別レートへの移行
      交渉状況や安全保障上の整合性を踏まえ、国ごとに調整された相互関税率(9903.01.43〜など)が適用されます。
    2. 「合計15%」の上限設計(トップアップ方式)
      EUや日本など特定のパートナー国に対し、「一般税率+相互関税=上限15%」となるよう追加税率を調整するルールが明文化されました。
    3. 迂回輸出への厳格な罰則
      第三国を経由した迂回(Transshipment)が認定された場合、通常の相互関税ではなく一律40%の懲罰的追加関税が課される仕組みが導入されました。

    CBPはこれに伴い、2025年8月7日以降の輸入に対し、新しい国別コード体系(9903.02シリーズ)を適用する運用を開始しています。


    2. 日本向けルールの深層:「合計15%」と遡及還付の罠

    日本企業にとって最も重要なのは、9月4日の大統領令で確定した「合計15%(Top-up to 15%)」ルールです。

    • 一般税率(Col.1)が15%未満の場合:不足分のみを相互関税として上乗せし、合計で15%にする。
    • 一般税率が15%以上の場合:相互関税の追加はゼロ(免除)。

    このルールは2025年8月7日の輸入分まで遡及適用(Retroactive Application)されますが、ここで実務上の「揉め事」が多発しています。

    最大の論点は「還付金(Refund)の帰属」です。
    過払い分の関税は、CBPから輸入者(Importer of Record)に対して還付されます。しかし、DDP取引などで輸出者が関税負担をしていた場合、あるいは事後精算条項がある場合、その還付金をサプライヤーや顧客にどう配分するか。ここが契約で曖昧なままだと、経理処理も含めて多大な調整コストが発生します。


    3. 通関現場が変わる:Chapter 99コードが「主役」に

    相互関税の導入により、通関申告は「第99章(Chapter 99)のコード選定」が最重要タスクとなりました。対象品目には課税コードを、対象外品目には除外コードを正確に付番する必要があります。

    現場でミスが起きやすい4つのポイントを解説します。

    3-1. 「例外」の適用ミスは致命傷

    カナダ・メキシコ産品の除外コード(9903.01.26等)や、Annex IIリストに基づく特定品目除外(9903.01.32)は、「自動適用」ではありません。申告時に正しい除外コードを入力し忘れると、システム上で関税が計算されてしまいます。

    3-2. 「日付管理」が関税額を決定する

    制度変更の端境期にある貨物は、インボイス日付ではなく「輸出港の出港日」「米国港への到着日」で適用税率が決まります。特に「8月7日以前に積載され、10月5日までに輸入された貨物」への救済措置など、日付要件は極めて細かいため、B/L(船荷証券)の日付管理がそのままコストに直結します。

    3-3. エントリー分割(Split Lines)の要請

    製品価格の20%以上が米国原産である場合、その「米国原産部分」を相互関税の対象外にできるルールがあります。ただし、これを適用するには1つの製品を「米国原産分」と「それ以外」の2行(Two lines)に分割して申告する必要があり、インボイスの書き方から変えなければなりません。

    3-4. 「チャプター99」の優先順位

    セクション301、232条関税、そして今回の相互関税。複数の追加関税が重なる場合、CBPは「どの順番でコードを並べるか」を指定しています。ブローカー任せにしているとエラーの原因になるため、指示書での明確化が必要です。


    4. 見落としがちな実務論点:FTZとコンプラ

    4-1. FTZ(対外貿易地域)の「入域時」固定
    相互関税対象品をFTZに入れる場合、”Privileged Foreign Status”(特権的外国貨物)としての登録が求められるケースがあります。これにより、税率やHS分類が入域時点で固定されるため、「出すタイミングで税率が変わるかも」という期待が通じない可能性があります。

    4-2. 迂回輸出(Transshipment)のリスク管理
    7月31日の大統領令以降、CBPは原産地偽装の取り締まりを強化しています。単に第三国を経由しただけでなく、「実質的な変更を伴わない加工」を経て米国へ入った貨物が迂回と認定されると、40%の追加関税(9903.02.01)が課されます。調達部門は、サプライヤーの製造工程が「原産地規則を満たす実質的変更」に該当するかどうかを、従来以上に厳格に確認する必要があります。


    5. ビジネス向け実務チェックリスト

    過払いとコンプラ違反を防ぐため、以下の項目を社内タスクとして定着させましょう。

    1. 影響額の試算
      輸出品目ごとに、米国HTSUSの一般税率を確認し、「合計15%」ルール適用後の最終コストを算出する。
    2. 判定ロジックの確立
      相互関税の対象か、例外(Annex IIや232条対象)か、米国原産比率は20%を超えるか等の判定フローを作成する。
    3. 通関指示書の更新
      ブローカーに対し、適用すべきChapter 99コードと、複数の追加関税がある場合の申告順序を明確に指示する。
    4. 物流証憑の保全
      救済期間の適用可否を即断できるよう、「積載日」「出港日」「到着日」が分かる書類をセットで保管する。
    5. 契約条項の点検
      遡及適用による関税還付が発生した場合、その金銭を誰に帰属させるかを売買契約や覚書で明確にする。
    6. 2026年シナリオの準備
      相互関税の法的根拠を巡る訴訟リスクも含め、制度が変更・撤廃された場合の対応(Protestによる権利保全など)を準備しておく。

    まとめ

    2025年の相互関税は、単なるコストアップの問題ではなく、「複雑なルールの海をどう泳ぎ切るか」というコンプライアンス能力のテストでもあります。

    特に「合計15%」の遡及適用と還付実務は、企業の利益に直接影響します。足元の通関を確実に回しつつ、2026年以降の法的変動も見据えた「堅い」実務体制を構築してください。

    米国2025年関税が戦後最高水準に達した理由と日本企業の実務対応

    2025年の米国は、関税政策が「戦後最高水準」と評される領域に踏み込み、企業のコスト構造とサプライチェーン設計に直接影響を与える一年となりました。平均実効関税率は1930年代以来の水準に達したと推計され、関税がマクロ経済だけでなく、個社の価格決定や契約実務にまで波及しています。

    どこまで関税水準が上がったのか

    イェール大学The Budget Lab(TBL)は、2025年11月17日時点で、消費者が直面する平均実効関税率(消費シフト前)が16.8%に達し、1935年以来の高水準と推計しています。貿易構造の変化を織り込んだ「消費シフト後」の平均は14.4%で、こちらも1930年代後半以来の高さです。

    年初時点での平均関税は約2.4%とされており、そこからの上昇幅は極めて大きいものです。APは、2025年11月の実効関税率が消費シフト前で約17%となり、年初からおよそ7倍に跳ね上がったと報じています。

    「戦後最高水準」という表現が難しい理由

    関税水準は「どの母数で平均するか」によって数字が変わるため、実務では指標の違いを理解して読み解く必要があります。

    Banque de Franceは、2025年1〜9月に米国の平均関税が約14ポイント上昇し、制度上の平均が18〜20%程度に達したと分析する一方、税関収入と輸入額の比率で計る事後的な実効関税率は9.7%と整理しています。これは「制度上の税率は極めて高いが、免除や原産地ルール、調達・消費シフトの結果として、観測される実効負担は相対的に低く見える」という構造を示しています。

    TBLの「消費シフト前の実効関税率」は、消費や調達が動く前に家計・企業が直面するコストを示す指標であり、価格見積もりや契約交渉の前提を置くにはこちらの考え方が実務上なじみやすいといえます。野村の解説でも、2025年8月7日時点で平均関税率は約19%とされ、1930年代前半以来の水準に近いとの見立てが示されており、市場参加者の感覚とも整合的です。

    何が関税を押し上げたのか

    2025年の特徴は、単一の対中関税ではなく、複数の枠組みが短期間で積み上がった点にあります。

    対中関税の追加・強化に加え、カナダ・メキシコ向けの関税上乗せや、鉄鋼・アルミ、自動車とその部品、金属含有率の高い機器、銅関連などへの高関税が段階的に導入されました。2025年4月5日からは、多数の国・品目に広く適用される「相互関税(reciprocal tariffs)」と国別の上乗せ措置が開始され、結果として平均関税が一段と跳ね上がったと整理されています。

    Banque de Franceは、こうした措置の累積によって、2025年の米国関税水準がスムート・ホーリー法時代に近い水準へと接近したと指摘しています。

    企業コストとマクロへの影響

    TBLは、2025年の関税のマクロ影響を次のように推計しています。

    • 総合物価は短期で1.2%押し上げられ、平均世帯の負担増は約1,700ドルに相当
    • 実質GDP成長率は2025年に0.5ポイント、2026年に0.4ポイント押し下げられ、長期的には米経済規模が恒常的に約0.3%縮小
    • 失業率は2025年末に0.3ポイント上昇し、2025年末時点の雇用は約46万人分減少

    品目別の影響では、アパレル、金属含有率の高い電気機器やコンピューター、自動車などが特に大きな打撃を受けるとされています。自動車については、短期で価格が13%上昇(平均新車価格で約6,500ドル)、長期でも5%上昇(約2,500ドル)するとの推計が示されています。

    一方で財政面では、関税収入は急増しています。APによれば、2025年11月までの関税収入は2,360億ドル超に達しており、関税は事実上、大規模な間接増税として機能しています。もっとも、貿易赤字の改善や内需への波及は単純ではなく、駆け込み輸入などによって月次の貿易赤字が大きく変動した局面も報告されています。

    日本企業が今優先すべき7つの実務対応

    1. 品目別・通関単位で影響額を可視化する

    平均関税率の数字だけでは、自社の損益へのインパクトは見えません。HTS(HS)コード単位で棚卸しを行い、どの品目がどの関税枠組みの対象になっているかを整理し、月次輸入額ベースでインパクトを試算することが第一歩です。

    TBLが示すように、「消費シフト前」と「シフト後」で関税負担の見え方は変わるため、見積もり・価格転嫁の議論では、まずシフト前の実効関税率(16.8%など)を基準値として置く方が保守的で安全といえます。

    2. 価格条項とサーチャージ条項を再点検する

    2025年の米国関税は、「導入して上げる」だけでなく、「一時停止・除外・再導入」が繰り返される揺れの大きい年でした。売買契約では、関税変更を価格に反映するトリガーの定義、再交渉期限、サーチャージ(追加料金)の算定方法、下振れ時の価格調整の扱いまで、条項を具体化しておく必要があります。

    特に長期契約やTier構造のサプライチェーンでは、関税変動が下流でどのように転嫁・分担されるかを、価格調整条項と連動して明文化しておくことが実務上の安定につながります。

    3. 原産地とサプライチェーンの「二重最適化」

    関税回避のために単純に仕向国や積出国を変えるだけでは不十分な場合が多くあります。Banque de Franceが指摘するように、免除や協定適用の有無が平均コストを左右するため、原産地規則、FTA/EPAの活用、サプライヤー監査コストなどを含めた「原産地+サプライチェーン」の二重最適化が求められます。

    その際には、原産地証明書の取得・保存、サプライヤーからの原産地宣言の検証プロセス、米国側での通関立証に耐えうる記録管理体制までをパッケージで設計することが重要です。

    4. 自動車・金属系は多段階の「波及」を前提に設計する

    自動車や金属含有率の高い製品は、完成品だけでなく鋼材・部品・サブアセンブリなど、多段階で関税コストが累積します。価格転嫁が難しいサプライヤーほど、設計変更(素材変更・仕様簡素化)、代替材の検討、在庫調整や生産タイミングのシフトといったオプションを早い段階から検討する必要があります。

    特にEV関連部材やハイエンド電子部品は、特定国依存度が高いケースが多く、関税だけでなく制裁・輸出規制のリスクも重なるため、調達戦略全体を見直す契機として位置付けるのが現実的です。

    5. 「米国向け最終製品に組み込まれる部材」を把握する

    日本から直接米国に輸出していない場合でも、メキシコや東南アジアで組み立てられた製品に自社部材が組み込まれ、最終的に米国へ輸入されるケースでは、間接的に関税負担が取引条件に跳ね返ります。APが報じるとおり、中国からの輸入減少と同時に、メキシコ・ベトナム・台湾などからの輸入が増加する局面では、米国の関税政策を起点に調達再編が連鎖的に発生しています。

    そのため、Tier1だけでなく、海外拠点・主要サプライヤーを通じて、最終仕向国・最終用途をマッピングし、「対米向けに組み込まれる部材」のボリュームと価格条件を把握することが不可欠です。

    6. 「除外・例外」情報のモニタリングをルーチン化する

    TBLは、2025年秋の農産品などの関税除外拡大が、平均実効関税率の見え方に影響したと指摘しています。こうした除外リストや一時的な免除は企業の関税コストに直結する一方、更新頻度が高く、官報や通達をスポットで追うだけでは見落としやすいのが実情です。

    実務としては、週次程度で関係官庁・連邦官報・専門ニュースをモニタリングし、自社SKUへの該当性をチェックするフローを整備することが有効です。社内では、関税コスト削減の一環として、除外申請や制度利用の検討プロセスも含めて標準化しておきたいところです。

    7. IEEPA関税を巡る訴訟と還付の「権利保全」

    IEEPA(国際緊急経済権限法)に基づく関税については、司法判断の帰趨によっては還付の余地が残るとされています。米議会調査局(CRS)は、米国国際貿易裁判所(CIT)が2025年5月に「IEEPAは関税賦課権限を付与しない」と判断したこと、最高裁が上訴審を受理し、2025年11月初旬に口頭弁論を予定したことなど、手続の流れを整理しています。

    JETROは、CITが2025年12月15日に清算手続の仮差止め申立てを棄却した一方、将来的に違法判断が出た場合の還付可能性や、清算と異議申立て(原則180日以内)のタイミングを巡る実務論点を詳しく解説しています。日本企業としては、輸入者としての立場か、サプライヤーとして価格条件に関与する立場かを踏まえ、清算・異議申立て・記録管理を含めた権利保全方針を、取引先との間で明確にしておく局面にあります。

    高関税が「新常態」になり得るという前提

    2025年の米国関税は、単なる税率変更ではなく、サプライチェーンと価格決定の前提を組み替えるイベントだったと位置付けられます。平均実効関税率が1930年代以来の水準に達したという推計が複数示されている以上、短期の例外措置や交渉結果に一喜一憂するより、「高関税が当面の標準シナリオである」という前提でコスト設計と契約実務を固めることが、企業にとって現実的なアプローチとなります。


    注記: 本稿は公開情報に基づく一般的な解説であり、個別案件の法務・税務・通関判断を代替するものではありません。最終判断は、自社の取引実態と最新の公式発表、並びに専門家の助言に基づいて行う必要があります。

    米国の相互関税・関連301動向

    本日の週次アップデートです。過去72時間の一次ソースだけで「米国の相互関税・関連301動向」を要点整理しました。

    発表日発効日施策/対象対象HS/HTS公式URL
    2025-12-102026-01-01開始(段階適用:2027-01-01=10%、2028-01-01=15%)セクション301:ニカラグア由来(CAFTA-DR非原産)に段階的追加関税。既存の相互関税18%等と累積可HS個別指定なし(原則「ニカラグア産すべて」うちCAFTA-DR原産除外)USTR発表。(United States Trade Representative)
    2025-12-12 公示追って実施通知(FR告示参照)上記301実施のFederal Register告示(段階適用の実装手続)同上USTR/FR告知(要旨)。(C.H. Robinson)
    2025-11-262026-11-10まで延長対中301「除外」178件の延長(産業・医療品等)該当HTSは除外リスト明細参照USTR発表/報道。(United States Trade Representative)
    2025-04-05/09(参考)運用中IEEPAに基づく「相互関税」9903.01.34のCBP実務:米国起源価額20%以上は米国分を非課税計算。申告行分割の要件HTS 9903.01.34(相互関税)CBPガイダンスFAQ。(U.S. Customs and Border Protection)

    補足メモ

    • ニカラグア措置は「CAFTA-DR非原産」のみ追加関税対象。CAFTA-DR原産は新設関税の適用外だが、相互関税18%(IEEPA)やMFNが別途乗る点に留意。サプライチェーン設計では、原産地判定と相互関税の“積み上げ”を前提にシミュレーションが必要です。(United States Trade Representative)
    • 申告実務では、相互関税の課税ベースは「米国起源価額を除く非米国分」。エントリーを米国分と非米国分で2行に分けるCBP運用が明示。(U.S. Customs and Border Protection)

    米国がニカラグア製品に段階的な301条関税を決定2026年は実質猶予、2027年以降にコストが上がる構図


    米国がニカラグア製品に段階的301条関税を決定

    米国はニカラグアに対する301条調査を受け、CAFTA-DRの原産要件を満たさないニカラグア産品に段階的な追加関税を導入することを決定しました。ustr+1
    税率は2026年に0%で開始し、2027年に10%、2028年に15%となる設計で、既存の相互関税18%と重なることで総負担が大きくなり得ます。trade+1


    1. 何が決まったのか

    USTRの発表および官報に示された決定内容の骨子は次のとおりです。govinfo+1

    • 2026年1月1日から新たな301条関税を導入するが、税率は0%で開始する
    • 2027年1月1日に301条関税を10%に引き上げる
    • 2028年1月1日に301条関税を15%に引き上げる
    • いずれも、当該日以降に「消費のために輸入される、又は保税蔵置場から引き取られる」貨物に適用されるとされるgeodis+1
    • 対象は、ドミニカ共和国・中米・米国自由貿易協定(CAFTA-DR)の原産地要件を満たさないニカラグア産品(CAFTA-DR非原産品)とされるustr+1
    • 追加関税は他の関税措置(いわゆる相互関税18%など)が存在する場合、それらに上乗せされ得るtradecomplianceresourcehub+1
    • ニカラグア側の行動に応じて、税率水準やスケジュールの修正可能性をUSTRが示しており、将来の上振れリスクを内包しているgovinfo+1

    ここで重要なのは、この301条関税が「ニカラグア産品一律」ではなく、「CAFTA-DR上の“原産品”ではないもの」に絞られている点です。govinfo
    同じニカラグア生産品でも、CAFTA-DR原産として認定されれば301条追加分は回避し得る一方、非原産と判断されれば301条関税が課される二分構造になります。greenworldwide+1

    参考として、税率の段階スケジュールは以下のとおりです。geodis+1

    適用開始日301条追加関税率対象
    2026年1月1日0%CAFTA-DR非原産のニカラグア産品govinfo
    2027年1月1日10%同上govinfo
    2028年1月1日15%同上govinfo

    制度上は2026年から始まるものの、0%でのスタートとなるため、実務的には2026年が「助走期間」、2027年以降がコストインパクトの本番という構図になります。ustr+1


    2. 301条の枠組みと今回の狙い

    通商法301条は、米国の通商に不当な負担を与える「不当・不合理・差別的」な外国政府の措置に対し、追加関税などの対抗措置をとり得る枠組みです。congress+1
    今回USTRは、ニカラグアの労働権・人権・法の支配に関する政策・慣行が不合理であり、米国の通商を負担・制約していると判断し、301条関税を発動したと説明しています。ustr+1

    実務的には、通商摩擦の対象が「関税水準」だけでなく、労働・人権・ガバナンスなどの非関税領域へ広がっていることを示す事案とも評価できます。ustr+1
    調達・生産委託の現場にとっては、価格だけでなく、人権・コンプライアンス面の評価がサプライヤー選定に直結する局面が一段と強まったと言えます。ustr+1


    3. 調査開始から最終決定までの時系列

    今回の追加関税は、短期間で決まったものではなく、以下のようなプロセスを経ています。ustr+1

    • 2024年12月10日:USTRがニカラグアに関する301条調査を開始ustr+1
    • 2025年10月20日:USTRが、最大100%の追加関税やCAFTA-DR優遇の停止等を含む対抗措置案を公表し、検討オプションとして提示reuters+1
    • 2025年11月19日まで:パブリックコメントを募集し、2000件超の意見が寄せられるgovinfo
    • 2025年12月10日:USTRが最終報告・アクションを公表し、「CAFTA-DR非原産品を対象とする段階的関税」を採用する方針を明示thompsonhinesmartrade+1
    • 2025年12月12日:官報に「アクション通知」が掲載され、影響を限定しつつ圧力を高める設計として「CAFTA-DR非原産に限定」「2年の段階導入(0%→10%→15%)」の趣旨が説明されるgovinfo+1

    官報では、コメントで賛否が拮抗したこと、複数業種から除外要望が出たことに触れたうえで、「CAFTA-DR非原産に限定すること」「2年かけて税率を引き上げること」により、混乱を抑えつつ企業にサプライチェーン移管の時間を与える判断をしたとされています。greenworldwide+1


    4. 米国・ニカラグアの貿易規模と影響業種

    USTRの国別ページによると、2024年の米国の対ニカラグア財輸入は46億ドル、財輸出は27億ドルで、財貿易総額は約74億ドルとされています。ustr
    サービスを含めた米国とニカラグアの総貿易額は87億ドルとされ、米国側の財貿易赤字は19億ドルです。ustr

    JETROは、USITC統計に基づき、米国の対ニカラグア輸入の主要品目として、点火用配線、綿製Tシャツ、金地金、葉巻たばこ、綿製セーター・プルオーバー、コーヒーなどを挙げています。jetro
    官報では、繊維・アパレル、葉巻、コーヒー、家具、医療機器、牛肉・食肉、カカオ、キャッサバ粉、園芸、米、シーフードなど、多様な産業から除外要請が出ていたことが列挙されており、これらの分野で影響への懸念が強かったことがうかがえます。govinfo

    日本企業にとっても、例えば「米国向け製品をニカラグアで組立・縫製し、第三国素材を多く使用しているケース」や「ニカラグア経由調達により原産判定が複雑化しているケース」では、CAFTA-DR原産判定の結果が米国側のコストに直結する構造になります。greenworldwide+1


    5. 見落としがちな論点:相互関税18%との二重構造

    今回の301条関税は、既存の相互関税などに上乗せされ得ると説明されています。tradecomplianceresourcehub+1
    相互関税そのものは、2025年4月2日の大統領令に基づく世界的な「レシプロカル関税」措置の一部であり、その後の7月31日付大統領令で国別税率が修正され、ニカラグアは18%に設定されています。whitehouse+1

    米国商務省系のTrade.gov解説でも、2025年4月2日に相互関税が発表され、ニカラグアが18%の相互関税対象国とされ、その水準がCAFTA-DRの無税メリットを事実上打ち消すものだと説明されています。trade
    そのうえで、CAFTA-DR非原産品については2027年以降、ここに301条関税10%/15%が上乗せされる可能性があるため、「相互関税+301条関税」という二重構造のコストを前提にした設計が必要になります。trade+1


    6. 企業が今すぐ確認すべきポイント

    官報は、2年の段階導入により、企業がCAFTA-DR域内の他国へ生産を移転する時間を確保する意図を明記しています。govinfo
    2026年の税率0%は「猶予」であり、2027年以降のコスト上昇に備えて、2026年中に以下の点を洗い出すことが肝要です。greenworldwide+1

    ニカラグア関連の米国向け取引の棚卸し

    • ニカラグア由来の完成品・部材・半製品のリストアップ
    • 米国側のImporter of Record(輸入者)の特定
    • どの品目がCAFTA-DR原産として運用されているか/できていないかの整理greenworldwide+1

    原産判定・証拠書類の整備

    • BOM、工程表、仕入先証明、原産地証明の運用状況の確認
    • グループ会社や委託先任せにせず、監査可能な形で証跡を整理することgreenworldwide+1

    今回の301条関税は「CAFTA-DR原産か否か」で課税の有無が分かれるため、原産管理の精度が粗利に直結します。chrobinson+1

    価格・契約条項の見直し

    • 2027年・2028年の関税上昇を織り込んだ価格改定条項(関税転嫁・再交渉条項・サーチャージ等)の検討
    • インコタームズと通関コスト負担者の再確認
    • 関税コストがどのPLに落ちるかを契約上明確化することgeodis+1

    生産・調達の「逃げ道」の設計

    • CAFTA-DR域内他国への生産移転・拠点分散(官報も企業が移転できる時間を確保する意図に言及)greenworldwide+1
    • 原材料・生産プロセスの見直しによるCAFTA-DR原産要件の充足
    • 物流ルートとして「ニカラグア経由」を続ける妥当性の再評価govinfo+1

    政策の上振れリスクを前提としたモニタリング

    • USTRは、ニカラグア側の改善状況に応じて税率やスケジュールの変更を行い得ると明記しており、今後も通知や追加ガイダンスのフォローが必須です。ustr+1

    7. ざっくり試算:2027年以降のコスト感

    最後に、追加関税のインパクトを把握するための簡易的な計算例です。実際の税額はHS/HTS分類、通常関税率、優遇の有無、評価方法等により変動しますが、「相互関税+301条関税」のオーダーを確認する目的です。trade+1

    前提

    • 相互関税:18%(ニカラグアに対して設定されたレシプロカル関税)sullcrom+1
    • 301条関税:2028年に15%(CAFTA-DR非原産品が対象)ustr+1

    ケースA:課税価格100(他の税なしと仮定)

    • 相互関税 18% → 18
    • 301条関税 15% → 15
    • 追加関税合計 → 33

    この場合、非原産品のまま米国へ輸入すると、2028年時点では「相互関税+301条追加関税だけで課税価格の33%」の上乗せとなり得ます。trade+1
    したがって、「CAFTA-DR原産として301条部分を回避できるか」「それでも残る相互関税18%を価格設計で吸収・転嫁できるか」が、調達・販売戦略の最重要ポイントになります。trade+2


    8. 2026年は準備年、2027年が分水嶺

    • 米国はニカラグア産品のうち、CAFTA-DR非原産品に対して301条追加関税を段階導入する(2026年0%、2027年10%、2028年15%)。ustr+1
    • この301条関税は、既存の相互関税18%等に上乗せされ得るため、累積負担が大きくなる可能性がある。tradecomplianceresourcehub+1
    • 官報は、「影響を限定しつつ圧力を高める設計」として、対象をCAFTA-DR非原産に限定し、2年の段階導入で企業の移転時間を確保する趣旨を説明している。govinfo
    • 日本企業の実務上の急所は、原産判定・証跡整備・価格/契約設計・代替生産/調達設計・政策モニタリングの5点に集約される。greenworldwide+1

    2026年の0%は「助かった」ではなく「準備せよ」というシグナルであり、2027年の10%時点でどこまで原産管理とサプライチェーン再設計を終えられるかが、粗利を守れるかどうかの分水嶺になると考えられます。greenworldwide+1

    1. https://www.govinfo.gov/content/pkg/FR-2025-12-12/pdf/2025-22690.pdf
    2. https://ustr.gov/about/policy-offices/press-office/press-releases/2025/december/ustr-section-301-action-nicaraguas-acts-policies-and-practices-relating-labor-rights-human-rights
    3. https://www.trade.gov/country-commercial-guides/nicaragua-import-tariffs
    4. https://geodis.com/us-en/resources/customs-corner/us-trade-representative-announces-new-tariffs-nicaraguan-imports-not
    5. https://www.tradecomplianceresourcehub.com/2025/12/11/trump-2-0-tariff-tracker/
    6. https://www.greenworldwide.com/new-section-301-action-on-nicaragua-establishes-phased-tariffs-for-non-cafta-dr-imports/
    7. https://www.congress.gov/crs_external_products/IF/PDF/IF11346/IF11346.28.pdf
    8. https://ustr.gov/about-us/policy-offices/press-office/press-releases/2024/december/ustr-initiates-section-301-investigation-nicaraguas-acts-policies-and-practices-related-labor-rights
    9. https://www.ustr.gov/about-us/policy-offices/press-office/press-releases/2024/december/ustr-initiates-section-301-investigation-nicaraguas-acts-policies-and-practices-related-labor-rights
    10. https://www.reuters.com/world/americas/us-proposes-trade-measures-against-nicaragua-over-labor-rights-2025-10-20/
    11. https://www.strtrade.com/trade-news-resources/str-trade-report/trade-report/october/tariff-increase-cafta-dr-suspension-among-possible-actions-against-nicaragua
    12. https://www.thompsonhinesmartrade.com/2025/12/ustr-announces-section-301-tariffs-on-nicaragua/
    13. https://www.govinfo.gov/app/details/FR-2025-12-12/2025-22690
    14. https://ustr.gov/countries-regions/western-hemisphere/nicaragua
    15. https://www.jetro.go.jp/ext_images/theme/wto-fta/news/pdf/w_c_monthly_report-202511.pdf
    16. https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/2025/07/further-modifying-the-reciprocal-tariff-rates/
    17. https://www.sullcrom.com/SullivanCromwell/_Assets/PDFs/Memos/Tariffs-Tracker-Updated-Modified-Reciprocal-Tariff-Rates.pdf
    18. https://www.chrobinson.com/en-us/resources/insights-and-advisories/client-advisories/2025q4/12-17-2025-client-advisory-ustr-announce-phased-section-301-tariffs-nicaraguan-goods-outside-cafta/
    19. https://passportglobal.com/us-tariff-rates-by-country-2025/
    20. https://www.ey.com/en_vn/technical/tax/tax-and-law-updates/customs-global-trade-alert-april-2025-trump-administration-executive-action-alert-implications-for-vietnam-businesses
    21. https://kpmg.com/us/en/taxnewsflash/news/2024/12/tnf-ustr-initiates-section-301-investigation-nicaragua-labor-human-rights.html
    22. https://www.cmtradelaw.com/2024/12/ustr-launches-section-301-investigation-of-nicaraguas-labor-and-human-rights-practices/
    23. https://unctad.org/system/files/official-document/ditcinf2025d3.pdf
    24. https://www.supplychainbrain.com/articles/42986-ustr-announces-15-tariffs-against-nicaragua-over-human-rights-abuses
    25. https://en.wikipedia.org/wiki/Tariffs_in_the_second_Trump_administration
    26. https://www.straitstimes.com/world/USTR-proposes-100-tariffs-on-Nicaraguan-goods-after-finding-labor-abuses
    27. https://www.whitecase.com/insight/ustr-opens-unprecedented-section-301-investigation-nicaraguan-labor-rights-practices
    28. https://www.as-coa.org/articles/tracking-trump-and-latin-america-trade-tariffs-threatened-mexico-over-water-sharing
    29. https://www.federalregister.gov/documents/2025/12/12/2025-22690/notice-of-action-nicaraguas-acts-policies-and-practices-related-to-labor-rights-human-rights-and
    30. https://www.federalregister.gov/d/2025-22690
    31. https://info.expeditors.com/newsflash/ustr-announces-section-301-action-on-nicaragua
    32. https://www.nnrglobal.com/insight/new-section-301-tariffs-on-products-of-nicaragua/
    33. https://havanatimes.org/news/us-proposes-axing-nicaragua-from-cafta-adding-100-tariffs/
    34. https://nicotineinsider.com/2025/10/21/nicaragua-faces-100-tariffs-after-ustr-report/
    35. https://www.chrobinson.com/it-it/resources/insights-and-advisories/client-advisories/2025q4/12-17-2025-client-advisory-ustr-announce-phased-section-301-tariffs-nicaraguan-goods-outside-cafta/
    36. https://www.strtrade.com/trade-news-resources/str-trade-report/trade-report/december/tariffs-other-enforcement-actions-possible-against-imports-from-nicaragua
    37. https://marcasur.com/en/noticia/united-states-announces-phased-tariff-measures-on-noncafta-nicaraguan-imports-5059&f=12-2025
    38. https://geodis.com/us-en/us-proposes-trade-sanctions-against-nicaragua-over-labor-and-human-rights-concerns
    39. https://ustr.gov/about-us/policy-offices/press-office/press-releases

    スイス追加関税要素の導入と遡及適用 — 企業実務で本当に効く“読み方”と打ち手


    米国は、スイスおよびリヒテンシュタインを対象としていた相互関税(Reciprocal Tariff)を改定し、従来の39%の追加関税を「実質15%」を上限とする新たな枠組みへ移行させることを正式に発表しました[1][2]。最大のポイントは、この新ルールが2025年11月14日に遡及適用されることです[3][4]。結果として、11月14日以降に旧税率(39%など)で納税した貨物について、条件を満たせば払い過ぎた関税の返金(リファンド)が実現します。

    1) 何が変わったのか:39%→15%への大幅な負担軽減

    今回の通知(米・商務省/USTR連名)の核心は、これまで課されていた高率の相互関税を、MFN税率(一般税率)との合計で「15%」に収まるよう調整する点にあります[5]。

    実務上の計算はシンプルです。

    • MFN税率が15%未満の場合: 追加関税(相互関税)= 15% − MFN税率
    • MFN税率が15%以上の場合: 追加関税(相互関税)= 0%(MFN税率のみ課税)

    このロジックは実質的に「“MFN税率か15%の高い方”を適用する」という内容になります。これにより、多くの品目で従来の39%の相互関税が撤廃され、15%が新たな上限として機能します。

    2) 「遡及適用」の範囲と返金対象

    通知は2025年12月10日頃に発表されましたが、HTSUS(米関税率表)の改定は、2025年11月14日 午前0時1分(米東部時間)以降に“消費のために搬入(entered for consumption)”または保税蔵置から“消費のために払い出し(withdrawn for consumption)”された貨物に適用されます[1]。

    この遡及措置により、11月14日から新ルール発表日までの間に、旧税率(MFN税率+39%など)で輸入申告・納税した貨物については、新ルール(上限15%)との差額が過大納付となり、返金の対象となります。

    3) “15%上限”だけじゃない:品目によっては「相互関税ゼロ」に

    さらに重要なのが、PTAAP(Potential Tariff Adjustments for Aligned Partners)に該当する品目は、相互関税の対象外(=MFN税率のみ適用)となる点です[6]。通知の関連AnnexではHTSUSコードのリストが示されており、主な対象カテゴリは以下の通りです。

    • 一部の農産品
    • 米国内で不足する天然資源(unavailable natural resources)
    • 航空機および関連部品
    • ジェネリック医薬品、その原料・成分、化学前駆体 など

    企業実務では、「自社品目が ①“合算15%”なのか、②“相互関税ゼロ(MFNのみ)”なのか」をHTSUSレベルで見極めることが、コスト削減効果の大小を分けます。

    4) 変わらないものも多い:誤解しやすい注意点

    スイス当局(連邦政府ニュース)や専門家のレポートでは、次の点が強調されています[1]。

    • 232条関税は別枠: 鉄鋼・アルミなどに対する232条追加関税は、今回の枠組みとは別に継続されます。
    • 高関税品目への誤解: 元々15%を超える高関税(例:トラック25%)が付いていた品目は、その税率が維持されます(「全てが一律15%になる」わけではありません)。
    • 調査中品目への配慮: 医薬品・半導体など、232条調査が進行中の分野については、追加関税が15%を超えないよう配慮する「意図」が示されています。

    5) 企業アクション:遡及返金を“取りこぼさない”ための段取り

    遡及適用がある局面で最も重要なのは、迅速な証憑の整理と手続きの設計です。

    (1) 対象期間(11/14以降)の輸入データを特定する
    Entry Summary(通関申告)単位で、課税額・HSコード・原産国・輸入者(IOR)をリスト化します。

    (2) “MFN vs 15%”計算で過大納付額を試算する
    MFN税率が低い品目(特に0%品目)に39%が課されていたケースが、最も返金余地が大きくなります。PTAAP Annex該当品はさらにインパクトが大きいです。

    (3) 返金手続きの手法を具体的に指示する
    返金請求は原則、米国側の輸入者(IOR)が行います。エントリーが未確定(Unliquidated)であれば「Post Summary Correction (PSC)」での訂正・還付が最速です[7]。確定済(Liquidated)の場合はProtest(異議申立て)となるため、米国側通関業者にステータス確認と最適な手続きを至急指示してください。

    (4) “暫定措置リスク”を契約に織り込む
    この枠組みは2026年3月31日までに最終合意に至らない場合、見直される可能性があるとされています[8]。長納期の取引では、関税変動リスクを織り込んだ価格調整条項を契約に盛り込むことを検討しましょう。

    6) 日本企業への示唆:スイス経由サプライチェーンの“原産地”がコストを決める

    スイスは医薬・精密機器・時計などの高付加価値品の集積地です。日本企業にとっても、スイスでの最終加工、スイス企業からの部材調達、スイス拠点を介した米国販売など、サプライチェーン上で今回の関税改定が着地コスト(landed cost)を左右します。枠組みには迂回輸出への対策も含まれており、原産地管理の重要性が一層高まっています。

    まとめ

    今回のニュースは単なる「関税引き下げ」ではなく、企業実務では次の3点に集約されます。

    1. 従来の39%相互関税が「実質15%上限」の差分課税に置き換わった。
    2. 11/14への遡及適用により、PSC等を通じた具体的な返金実務が発生する。
    3. PTAAP該当品は相互関税がゼロになる可能性があり、HSコードの特定精度が損益に直結する。

    (注)本稿は公開情報に基づく一般解説です。返金の可否やPSC・Protest等の最適手続は、個別の申告状況・品目・HSコード等で変わるため、必ず米国側通関業者/専門家と個別に確認してください。

    引用:
    [1] Reduction in US additional tariffs to enter into force retroactively https://www.news.admin.ch/en/newnsb/L6leIAwrwS1PWKnVDYNOY
    [2] Reciprocal US tariffs – overview and implications https://www.s-ge.com/en/article/news/2025-e-usa-ct10-reciprocal-tariffs
    [3] Switzerland says lower US tariffs to be applied retroactively … https://www.reuters.com/world/europe/switzerland-says-lower-us-tariffs-be-applied-retroactively-november-14-2025-12-10/
    [4] Switzerland says US tariff reduction statement published in … https://www.reuters.com/world/europe/lower-us-tariffs-switzerland-take-retroactive-effect-november-14-2025-12-09/
    [5] Tariff Adjustments on Imports from Switzerland Retroactive … https://www.strtrade.com/trade-news-resources/str-trade-report/trade-report/december/tariff-adjustments-on-imports-from-switzerland-retroactive-to-nov-15
    [6] U.S. Tariffs – Client Updates – GEODIS https://geodis.com/us-en/resources/customs-corner/us-tariffs-client-updates
    [7] CSMS # 66336270 – Guidance – Implementation of Tariff- … https://macmap.org/OfflineDocument/USADMIN/Measure_Extraordinary_USA_16.pdf
    [8] United States revises tariffs on products from Liechtenstein and … https://kpmg.com/us/en/taxnewsflash/news/2025/12/united-states-revises-tariffs-liechtenstein-switzerland.html

    【2025年12月合意】米英「医薬品ゼロ関税・薬価改革パッケージ」の全貌と実務インパクト


    2025年12月1日、米英両政府は医薬品貿易および薬価に関する歴史的な合意を発表しました。これは単なる「関税撤廃」のニュースではありません。**「米国市場へのアクセス権」と引き換えに「英国の医療制度(NHS)が相応の対価を支払う」**という、極めて戦略的かつ実利的な取引(ディール)です。

    本記事では、この合意が医薬品のサプライチェーン、薬価戦略、そして日本企業の投資判断に与える影響を解説します。

    1. 「米英医薬品合意」の核心:何を交換したのか?

    合意の要点は、**「英国が米国の要求通りに薬価・医療支出を引き上げる代わりに、米国は英国製医薬品を『追加関税』の脅威から完全に保護する」**というバーター取引です。

    米国側のコミットメント:完全なゼロ関税の保証

    • 対象: 英国原産の医薬品、原薬(API)、医療技術。
    • 内容: 少なくとも3年間、関税を0%に固定。
    • 特記事項: 通常のWTO関税だけでなく、通商拡張法232条(国家安全保障)に基づく追加関税や、通商法301条(不公正貿易)に基づく調査・報復措置からの免除を確約。

    英国側のコミットメント:市場の魅力向上

    • 薬価支出の拡大: 新規医薬品への純支出を約25%増額(過去20年で最大規模)。
    • NICE評価基準の緩和: 費用対効果の閾値(Threshold)を引き上げ、高額薬を採用しやすくする。
    • VPAGリベートの引き下げ: 2026年のリベート率を**14.5%**へ大幅に引き下げ、さらに向こう3年間は15%を上限とするキャップ制を導入。

    この合意は、本年5月に進展した「米英経済繁栄協定(EPD)」の具体的成果として位置づけられています。

    2. なぜ今「ゼロ関税」が重要なのか?(WTOとの違い)

    「医薬品の関税はWTO協定でもともとゼロではないか?」という疑問はもっともです。1994年のWTO医薬品協定(ゼロ・フォー・ゼロ)により、主要国間の医薬品関税は原則撤廃されています。

    しかし、2025年の地政学リスクは「WTOの外」にあります。

    米政権は「医薬品の海外依存は安全保障リスク(232条)」あるいは「各国の薬価統制は米国へのただ乗り(フリーライド)」であるとして、WTO税率とは別枠の10〜100%の追加関税を課す構想を掲げてきました。

    今回の合意のビジネス上の価値は、**「英国だけが、この追加関税リスクから『制度的に』免除された」**という点にあります。EUや日本からの輸出が潜在的な追加関税リスク(あるいは既に発動された措置)に晒される中、英国は「確実な避難所(Safe Haven)」としての地位を確保しました。

    3. 英国市場の変化:NICE改革とVPAG修正

    英国は米国市場へのアクセスを守るため、自国の医療財政ルールを大きく変更します。

    3-1. NICE(医療技術評価機構)の基準緩和

    費用対効果評価(HTA)の厳格さで知られるNICEですが、今回の合意により新薬の承認基準となる「閾値」を引き上げます。

    • 変更内容: 1QALY(質調整生存年)あたりの許容コストを、従来の2万〜3万ポンドから、2万5千〜3万5千ポンドへ上方修正。
    • 影響: これまで「高すぎる」として償還を拒否されていたがん治療薬、希少疾患薬、遺伝子治療などが、NHSで採用される可能性が飛躍的に高まります。

    3-2. VPAG(自発的制度)リベート率の適正化

    製薬業界にとって最大の朗報は、売上の一部を政府に返還する「VPAG」制度の見直しです。

    • 現状(2025年): 新薬に対するリベート率は**22.9%**まで高騰し、英国でのイノベーション投資を阻害する要因となっていました。
    • 合意後(2026年〜): リベート率は**14.5%**へ急低下し、さらに3年間は「上限15%」が保証されます。これにより、英国事業の予見可能性(Predictability)と利益率が大幅に改善します。

    4. サプライチェーンと投資への実務インパクト

    4-1. 「対米輸出ハブ」としての英国

    英国製造拠点の競争優位性は明確です。

    • 関税コスト差: 他国(EU・日本等)からの対米輸出に追加関税が課されるシナリオにおいて、英国産(0%)は圧倒的なコスト競争力を持ちます。
    • 規制調和: GMP相互承認(MRA)の活用により、査察コストも最小化されています。

    4-2. 投資判断のポイント

    ModernaやBMSなどが英国への追加投資を表明していますが、各社は以下のバランスを見て判断する必要があります。

    • プラス要因: 対米アクセスの保証、英国内の薬価環境改善。
    • リスク要因: ゼロ関税の保証期間が現時点では「少なくとも3年間」であること。また、VPAGの15%という水準は欧州他国と比較して依然として低くはないこと。

    5. 日本・アジア企業にとっての機会とリスク

    チャンス:3つの視点

    1. 対米輸出ルートの再構築:高マージンの新薬やバイオシミラーについて、追加関税リスクのある日本・EU拠点ではなく、英国拠点での製造・最終包装(Secondary Packaging)を行うことで関税を回避するスキーム。
    2. 英国市場での再挑戦:過去にNICEで償還不可となった製品や、採算性から投入を見送った希少疾患薬の再申請検討。
    3. CDMO・エコシステム活用:英国のCDMO(開発製造受託機関)への委託需要増を見越した提携や投資。

    リスク:2つの懸念

    1. 3年後の「クリフ」リスク:米国の政権交代や方針転換により、3年後にゼロ関税枠組みが延長されないリスク。投資回収期間のシミュレーションには保守的なシナリオが必要です。
    2. 英国財政の持続可能性:薬価支出を25%増やすことによるNHS財政への圧迫が、将来的に別の形での規制強化(処方制限など)につながる可能性があります。

    6. ビジネスパーソンが今すぐ行うべきアクション

    1. 関税インパクトの試算(P/Lシミュレーション):自社の主力対米輸出品について、「現状ルート(日本/EU発)」と「英国経由ルート」での関税・物流コスト総額を比較する。特に「セーフガード関税」が発動された場合の感度分析を行う。
    2. 英国薬価戦略のアップデート:新しいNICE閾値(£25k-£35k/QALY)とVPAGリベート(15% Cap)を前提に、英国での上市計画とプライシングを見直す。
    3. サプライチェーンのオプション検討:完全な工場移転ではなく、英国のパートナー企業(CDMO等)を活用した「製造の一部英国化」による原産地規則(Rules of Origin)クリアの可能性を探る。

    おわりに

    今回の合意は、医薬品ビジネスにおいて**「貿易政策」と「薬価政策」が不可分になった**ことを象徴しています。英国は「高い薬価(=イノベーションへの対価)」を受け入れることで、「産業の安全(=対米アクセス)」を買いました。

    今後、日米間や日欧間でも同様の「管理貿易的アプローチ」が議論される可能性があります。ヘルスケア産業の担当者は、薬事規制だけでなく、通商政策の動向を注視する必要があります。


    Would you like me to…