スイス追加関税要素の導入と遡及適用 — 企業実務で本当に効く“読み方”と打ち手


米国は、スイスおよびリヒテンシュタインを対象としていた相互関税(Reciprocal Tariff)を改定し、従来の39%の追加関税を「実質15%」を上限とする新たな枠組みへ移行させることを正式に発表しました[1][2]。最大のポイントは、この新ルールが2025年11月14日に遡及適用されることです[3][4]。結果として、11月14日以降に旧税率(39%など)で納税した貨物について、条件を満たせば払い過ぎた関税の返金(リファンド)が実現します。

1) 何が変わったのか:39%→15%への大幅な負担軽減

今回の通知(米・商務省/USTR連名)の核心は、これまで課されていた高率の相互関税を、MFN税率(一般税率)との合計で「15%」に収まるよう調整する点にあります[5]。

実務上の計算はシンプルです。

  • MFN税率が15%未満の場合: 追加関税(相互関税)= 15% − MFN税率
  • MFN税率が15%以上の場合: 追加関税(相互関税)= 0%(MFN税率のみ課税)

このロジックは実質的に「“MFN税率か15%の高い方”を適用する」という内容になります。これにより、多くの品目で従来の39%の相互関税が撤廃され、15%が新たな上限として機能します。

2) 「遡及適用」の範囲と返金対象

通知は2025年12月10日頃に発表されましたが、HTSUS(米関税率表)の改定は、2025年11月14日 午前0時1分(米東部時間)以降に“消費のために搬入(entered for consumption)”または保税蔵置から“消費のために払い出し(withdrawn for consumption)”された貨物に適用されます[1]。

この遡及措置により、11月14日から新ルール発表日までの間に、旧税率(MFN税率+39%など)で輸入申告・納税した貨物については、新ルール(上限15%)との差額が過大納付となり、返金の対象となります。

3) “15%上限”だけじゃない:品目によっては「相互関税ゼロ」に

さらに重要なのが、PTAAP(Potential Tariff Adjustments for Aligned Partners)に該当する品目は、相互関税の対象外(=MFN税率のみ適用)となる点です[6]。通知の関連AnnexではHTSUSコードのリストが示されており、主な対象カテゴリは以下の通りです。

  • 一部の農産品
  • 米国内で不足する天然資源(unavailable natural resources)
  • 航空機および関連部品
  • ジェネリック医薬品、その原料・成分、化学前駆体 など

企業実務では、「自社品目が ①“合算15%”なのか、②“相互関税ゼロ(MFNのみ)”なのか」をHTSUSレベルで見極めることが、コスト削減効果の大小を分けます。

4) 変わらないものも多い:誤解しやすい注意点

スイス当局(連邦政府ニュース)や専門家のレポートでは、次の点が強調されています[1]。

  • 232条関税は別枠: 鉄鋼・アルミなどに対する232条追加関税は、今回の枠組みとは別に継続されます。
  • 高関税品目への誤解: 元々15%を超える高関税(例:トラック25%)が付いていた品目は、その税率が維持されます(「全てが一律15%になる」わけではありません)。
  • 調査中品目への配慮: 医薬品・半導体など、232条調査が進行中の分野については、追加関税が15%を超えないよう配慮する「意図」が示されています。

5) 企業アクション:遡及返金を“取りこぼさない”ための段取り

遡及適用がある局面で最も重要なのは、迅速な証憑の整理と手続きの設計です。

(1) 対象期間(11/14以降)の輸入データを特定する
Entry Summary(通関申告)単位で、課税額・HSコード・原産国・輸入者(IOR)をリスト化します。

(2) “MFN vs 15%”計算で過大納付額を試算する
MFN税率が低い品目(特に0%品目)に39%が課されていたケースが、最も返金余地が大きくなります。PTAAP Annex該当品はさらにインパクトが大きいです。

(3) 返金手続きの手法を具体的に指示する
返金請求は原則、米国側の輸入者(IOR)が行います。エントリーが未確定(Unliquidated)であれば「Post Summary Correction (PSC)」での訂正・還付が最速です[7]。確定済(Liquidated)の場合はProtest(異議申立て)となるため、米国側通関業者にステータス確認と最適な手続きを至急指示してください。

(4) “暫定措置リスク”を契約に織り込む
この枠組みは2026年3月31日までに最終合意に至らない場合、見直される可能性があるとされています[8]。長納期の取引では、関税変動リスクを織り込んだ価格調整条項を契約に盛り込むことを検討しましょう。

6) 日本企業への示唆:スイス経由サプライチェーンの“原産地”がコストを決める

スイスは医薬・精密機器・時計などの高付加価値品の集積地です。日本企業にとっても、スイスでの最終加工、スイス企業からの部材調達、スイス拠点を介した米国販売など、サプライチェーン上で今回の関税改定が着地コスト(landed cost)を左右します。枠組みには迂回輸出への対策も含まれており、原産地管理の重要性が一層高まっています。

まとめ

今回のニュースは単なる「関税引き下げ」ではなく、企業実務では次の3点に集約されます。

  1. 従来の39%相互関税が「実質15%上限」の差分課税に置き換わった。
  2. 11/14への遡及適用により、PSC等を通じた具体的な返金実務が発生する。
  3. PTAAP該当品は相互関税がゼロになる可能性があり、HSコードの特定精度が損益に直結する。

(注)本稿は公開情報に基づく一般解説です。返金の可否やPSC・Protest等の最適手続は、個別の申告状況・品目・HSコード等で変わるため、必ず米国側通関業者/専門家と個別に確認してください。

引用:
[1] Reduction in US additional tariffs to enter into force retroactively https://www.news.admin.ch/en/newnsb/L6leIAwrwS1PWKnVDYNOY
[2] Reciprocal US tariffs – overview and implications https://www.s-ge.com/en/article/news/2025-e-usa-ct10-reciprocal-tariffs
[3] Switzerland says lower US tariffs to be applied retroactively … https://www.reuters.com/world/europe/switzerland-says-lower-us-tariffs-be-applied-retroactively-november-14-2025-12-10/
[4] Switzerland says US tariff reduction statement published in … https://www.reuters.com/world/europe/lower-us-tariffs-switzerland-take-retroactive-effect-november-14-2025-12-09/
[5] Tariff Adjustments on Imports from Switzerland Retroactive … https://www.strtrade.com/trade-news-resources/str-trade-report/trade-report/december/tariff-adjustments-on-imports-from-switzerland-retroactive-to-nov-15
[6] U.S. Tariffs – Client Updates – GEODIS https://geodis.com/us-en/resources/customs-corner/us-tariffs-client-updates
[7] CSMS # 66336270 – Guidance – Implementation of Tariff- … https://macmap.org/OfflineDocument/USADMIN/Measure_Extraordinary_USA_16.pdf
[8] United States revises tariffs on products from Liechtenstein and … https://kpmg.com/us/en/taxnewsflash/news/2025/12/united-states-revises-tariffs-liechtenstein-switzerland.html

 

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