更新日:2026年2月22日
本稿の要点
- HS2028は、WCO(世界税関機構)により改正が受理され、2028年1月1日に発効します。企業の関税、規制対応、需給計画、データ分析に直結する改正です。(世界関税機関)
- WCOはHS委員会の最新の分類決定を公表し、あわせてHS解説(Explanatory Notes)改訂も示しています。これらは現行版運用の精度を上げると同時に、将来のHS改正を読むための重要な手掛かりになります。(世界関税機関)
- 実務のポイントは、単にコードを置き換えることではありません。品目分類ガバナンス、マスタデータ、契約、社内統制、事前教示などを一体で整備し、移行リスクを管理することが成果を左右します。(世界関税機関)

いまWCOが公表している「3つのレイヤー」を整理する
レイヤー1:HS2028改正(法的な品目表の更新)
WCOは、HS2028改正が受理されたことを公表しており、改正は299セットの変更からなります。HS2022と比べ、新設の見出し(Heading)や細分(Subheading)が増える一方、削除も行われています。改正は2028年1月1日に発効し、各国が国内関税率表へ落とし込むための実装期間が設けられています。(世界関税機関)
ここで重要なのは、HSは関税率表だけでなく、統計、輸出入規制、各種ライセンスや証明手続にも広く使われる「共通言語」だという点です。WCO自身も、HSが多くの国・地域で税関関税と国際貿易統計の基礎になっていることを説明しています。(世界関税機関)
レイヤー2:HS解説(Explanatory Notes)の改訂(公式解釈のアップデート)
HS解説は、WCOが公表する公式解釈であり、条文(見出しや注)だけでは読み切れない範囲や判断基準を補います。WCOは、HS解説が公式解釈であること、2022年版は複数巻で構成されること、そして改訂が順次反映されることを明示しています。(世界関税機関)
今回WCOが「HS委員会第76回会合の決定」として公表している解説改訂は、2026年1月1日から適用される改訂として位置付けられています。つまり、HS2028の話とは別に、現行版運用の精度を引き上げるための改訂が並走している、という理解が必要です。(世界関税機関)
レイヤー3:分類決定(Classification Decisions)(具体的商品の「判例集」に近い役割)
WCOが公表する分類決定は、HS委員会が個別商品について下した分類判断の一覧です。今回公表されている文書では、特定の商品ごとの分類番号に加え、場合により分類根拠(適用した一般解釈規則など)が示されています。(世界関税機関)
注意点として、WCOは分類決定や改訂に関して、輸入国・輸出国での実装状況を確認するよう明確に注意喚起しています。実務的には「国際的に強い説得力を持つが、そのまま自動的に各国で拘束力を持つとは限らない」資料です。(世界関税機関)
HS2028改正は、どこが「ビジネスに効く」のか
公衆衛生と緊急対応が、統計と通関を変える
HS2028は、公衆衛生と健康危機対応を重要テーマとして掲げ、緊急時に必要となる物資の可視性向上を狙っています。WCOは、救急車、個人用防護具、人工呼吸器、診断機器などに関する細分化を示しています。(世界関税機関)
この方向性は、単なる統計用途ではありません。緊急時の簡素化手続や迅速通関、政策的な優遇措置を設計するために、コードの粒度が重要になるという発想です。これは、医療機器メーカーや商社だけでなく、グローバルに医療関連品を扱う物流・調達部門にも影響します。(世界関税機関)
ワクチン分類の再設計は、規制と需給計画の前提を変える
WCOは、HS2028でワクチン分類を大きく組み替え、ヒト用ワクチンを中心に新たな見出し・細分を設ける方針を示しています。ヒト用ワクチンは見出し30.07に整理され、細分は38の6桁コードに分かれる、と説明されています。(世界関税機関)
WHOも、WTOおよびWCOとの連携の下で、ヒト用ワクチン等について新たなコード体系が2028年1月1日に導入されることを発信しています。国際機関が同じ方向を示している点は、企業にとって「この改正が各国実装へ進む確度が高い」ことを読み取る材料になります。(世界保健機関)
サプリメント新設見出しは、係争リスクと統制コストを下げ得る
HS2028では、サプリメントのための新見出し21.07が創設され、区分や定義を法的注で整える方針が示されています。WCOは、HS2022ではサプリメントの包括的定義がなく、国ごとに裁判例などを通じて分類が分かれ、係争や統計上の把握困難につながっていた、と背景を説明しています。(世界関税機関)
ビジネス上の本質はここです。サプリメントの分類が安定すれば、関税コストのブレだけでなく、許認可や表示規制など周辺規制との整合が取りやすくなり、結果としてサプライチェーン全体の統制コストが下がる余地があります。(世界関税機関)
プラスチック廃棄物と単回使用製品は、コンプライアンスの地雷原になりやすい
WCOは、バーゼル条約に整合する形でプラスチック廃棄物の区分を再構築し、有害な廃プラ、PIC手続対象、その他といった区分の可視化を進める方針を示しています。これは、廃棄物輸出入、リサイクル原料取引、包装材ビジネスにとって、コードの変更が許認可要件や通関手続に波及し得る領域です。(世界関税機関)
「分類決定」と「解説改訂」を、企業がどう使うべきか
1つ目の使い方:自社の品目分類の根拠を、説明可能にする
WCOの分類決定文書は、個別商品についてどのHSコードが妥当とされたか、場合によりどの一般解釈規則が使われたかを示します。たとえば、第76回会合の分類決定リストでは、食品、プラスチックフィルム、通信機器部品、電気用接続品など多分野の具体例が並びます。(世界関税機関)
これを自社に当てはめる際は、同一商品かどうかよりも、争点が似ているかを見ます。構造、機能、用途、形状、成分、提示形態などの判断軸が似ていれば、税関説明資料としての説得力が増します。(世界関税機関)
2つ目の使い方:各国実装の差を前提に、リスク管理をする
WCOは、HS委員会決定について、各国が適用できない場合に通知する仕組みを整え、通知一覧を更新する運用も示しています。2001年6月30日の勧告は、適用できない場合の通知や理由提示などを求め、透明性を高める狙いがあるとされています。(世界関税機関)
実際にWCOは、特定のHS委員会決定を適用できない国・地域があることを一覧で公表しており、2025年12月5日付の一覧も公開されています。企業側は「WCO資料で整理できたから終わり」ではなく、自社の主要仕向地で同様に運用されるかを確認する設計が不可欠です。(世界関税機関)
3つ目の使い方:HS2028移行の「先行指標」として読む
HS2028そのものは2028年に発効しますが、移行準備は既に始まっています。WCOは、発効までの期間に、HS2022とHS2028の相関表(Correlation Tables)作成、HS解説などツールの更新、加盟国支援を行う方針を示しています。(世界関税機関)
分類決定や解説改訂は、現行版の解釈統一に資するだけでなく、どの分野に分類の摩擦や抜けがあるかを示すシグナルにもなります。HS改正は多くの場合、こうした摩擦を制度側で解消する方向に動きます。ここを読むのが、ビジネスマンの「深掘り」です。(世界関税機関)
企業が今から着手すべきHS2028対応ロードマップ
2026年:棚卸しと、ガバナンスの再設計
- 重点SKUを絞る
売上上位、関税率が高い、規制が絡む、過去に税関照会や修正申告があった、これらに該当するSKUを優先対象にします。 - 品目分類の根拠管理を標準化する
品番ごとに、製品仕様書、用途、構造、成分、写真、カタログ、設計図などの証拠をそろえ、分類根拠の説明資料をテンプレート化します。分類決定や解説改訂は、根拠の「外部参照」として組み込みます。(世界関税機関) - 国別差分を可視化する
主要仕向地について、同一品番でもコードが異なる運用があり得る前提を置き、どこに差分があるかを一覧化します。WCO自身が「適用可否の通知制度」を設けていることは、差分が現実に起きることを示しています。(世界関税機関)
2027年:マッピングと、外部確度の獲得
- 相関表と国内実装案に合わせてマッピングを更新する
WCOは相関表整備を進める方針を示しています。相関表が出た段階で、旧コードから新コードへ「機械的に置換できない品目」を抽出し、分類判断が必要な品目を前倒しで潰します。(世界関税機関) - 事前教示(Advance Ruling)で、拘束力のある確度を取りに行く
WCOは、事前教示制度が、輸出入前に分類等の判断を得て予見可能性を高める目的である、と説明しています。日本税関も、輸入前の照会で関税率適用の確実性が高まり、取引の予見可能性が上がる旨を案内しています。重要品目ほど、制度を使って確度を確保するのが合理的です。(世界関税機関)
2028年:切替えと、監査対応
- システム切替えと取引先連携
ERP、PIM、通関システム、原産地管理、輸出管理、受発注システムなど、HSコードを持つ箇所は多岐にわたります。切替え日は通関実務に直結するため、取引先や通関業者との連携計画を前提に進めます。(世界関税機関) - 税関監査と統制設計
切替え直後は誤分類が増えやすい局面です。分類根拠の説明可能性、事前教示の取得状況、国別差分管理の整備が、監査対応力になります。(世界関税機関)
見落としがちな論点:医薬品成分(INN)と分類の実務
医薬品・原薬領域では、INN(国際一般名)に関する分類参照情報が実務で重要になります。WCOは、HS委員会で決定されたINNの分類を整理した参照用の表(Excel)を提供していますが、同時に「法的・公式な地位はない」こと、改正により過去の決定が影響を受け得ることも明示しています。扱う商品領域によっては、便利な参照である一方、依存し過ぎない運用設計が必要です。(世界関税機関)
まとめ:HS2028は「通関の話」ではなく「経営の話」になっている
HS2028は、単に分類表が新しくなるイベントではありません。公衆衛生、サプリメント、プラスチック廃棄物など、政策と規制の要請が品目分類の構造に入り込む度合いが強まっています。(世界関税機関)
一方で、日々の実務を動かすのは、分類決定と解説改訂という「運用のエンジン」です。ここを読み解き、社内の分類ガバナンスとデータ基盤を先に整えた企業ほど、2028年の切替えをコストではなく競争力に変えられます。(世界関税機関)
参考資料
- WCOニュースリリース:HS 2028 Amendments(2026年1月21日)(世界関税機関)
- WCO解説:Amendments effective from 1 January 2028(HS2028発効・レビューサイクル等)(世界関税機関)
- WCOニュースリリース:ワクチン等の分類更新(2026年1月21日)(世界関税機関)
- WHOニュース:ワクチン等の新コード導入(2026年2月2日)(世界保健機関)
- WCOニュースリリース:サプリメント分類の改正背景(2026年1月23日)(世界関税機関)
- WCOページ:Latest Classification Decisions(第76回会合の関連資料ダウンロード)(世界関税機関)
- WCO資料:Classification Decisions – HS Committee 76th Session(分類決定一覧)(世界関税機関)
- WCO資料:Amendments to the HS Explanatory Notes – HS Committee 76th Session(HS解説改訂)(世界関税機関)
- WCO資料:Amendments to the Compendium of Classification Opinions – HS Committee 76th Session(分類意見集の改訂)(世界関税機関)
- WCOページ:Application of HS Committee decisions(適用できない場合の通知制度)(世界関税機関)
- WCO資料:List of HS Committee decisions which cannot be applied(2025年12月5日版)(世界関税機関)
- WCOページ:INN Table(参照用、法的地位なしの明示)(世界関税機関)
- WCOページ:Advance rulings for Classification(事前教示の目的)(世界関税機関)
- 日本税関:Advance ruling on tariff classification(事前照会の説明)(税関総合情報)
免責事項
本記事は、公開情報に基づき一般的な情報提供を目的として作成したものであり、特定の取引、品目、国・地域に対する法的助言、税務助言、通関判断を提供するものではありません。品目分類は個別商品の仕様・用途・提示形態、各国の法令・運用、行政解釈等により結論が変わり得ます。実務適用にあたっては、最新の一次資料および関係当局の公表情報を確認し、必要に応じて通関専門家や当局への事前照会等を行ってください。
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