HS2028で見直すべき電子部品:センサー・バッテリー・MCUの影響リスク製品リストと実務ロードマップ


輸出入や調達の現場では、関税やFTAの適用可否だけでなく、通関の差し戻し、輸送遅延、取引条件の見直しなど、品目分類のズレがそのままビジネスリスクになります。

HS2028は、世界共通の品目分類ルールであるHSの次期版で、2028年1月1日に発効予定です。WCOによると、HS2028は第8版で、7回目の見直しサイクルの成果として299セットの改正がまとめられています。wcoomd+2

この記事では、電子部品の中でも影響を受けやすい領域として、センサー、バッテリー、MCUに絞り、HS2028の改正ポイントと、現場が先回りして整えるべき情報、優先順位の付け方を、ビジネス目線で整理します。


1. HS2028の前提:いつ、何が、どの程度変わるのか

HS2028の発効スケジュール

HS2028は、2028年1月1日に発効します。WCOの公式スケジュールは以下の通りです:wcoomd+3

  • 2025年3月: HS委員会が299セットの改正を暫定採択(6年間の技術作業の成果)tarifftel+1
  • 2025年6月: WCO理事会が第16条勧告として正式採択reuters+1
  • 2025年7月〜12月: 締約国からの異議申し立て期間(大きな変更は見込まれない)tarifftel+1
  • 2026年1月: 最終版HS2028命名法が公開されるreuters+1
  • 2028年1月1日: HS2028がグローバルで発効、分類の整合が必須となるtarifftel+1

この期間中、WCOは相関表(Correlation Table)や解説注釈の整備を進めます。これは企業側のコードマッピング作業に直結します。[wcoomd]​

改正の規模と内容

WCOの公開情報では、HS2028改正パッケージは以下の規模となっています:wcoomd+1

  • 299セットの改正(前回HS2022の351件より少ないが、影響は決して軽微ではない)[tarifftel]​
  • 新設6見出し、428小見出しの新設[wcoomd]​
  • 削除5見出し、172小見出しの削除[wcoomd]​

重要なのは、改正は関税分類の数字が変わるだけではない点です。

実務に影響する3種類の変更

実務影響は大きく3種類に分かれます:

  1. 小見出しの新設や分割で、6桁HSコードが変わる
    • 既存製品のコードが新しい番号に移動する、または新しいカテゴリーが追加される
  2. 部注や類注の定義変更で、境界領域の分類判断が変わる
    • 条文の文言変更により、従来と異なる分類判断が必要になる
  3. 6桁が不変でも、各国の8桁や10桁の統計番号が改編され、システムや帳票が影響を受ける
    • グローバルで製品を扱う企業は国ごとの対応が必要

今回のセンサーとMCUは、1と2が現実に起こり得る領域です。バッテリーは2と3の影響が主になります。


2. なぜセンサー・バッテリー・MCUがリスク製品になりやすいのか

この3領域は、次の理由で分類リスクが高まりやすいです:

機能が複合化しやすい

: センサーが無線通信や演算機能、診断ロジックを内蔵し、単体部品なのか完成機器なのかの境界が曖昧になりやすい

形態がモジュール化しやすい

: MCUが複数のダイ、受動部品、基板を一体化したパッケージで流通し、定義の当てはめが難しくなる

政策目的で注目されやすい

医療、環境、サプライチェーン可視化など、統計上の粒度を上げる圧力が働きやすい領域です。HS2028では公衆衛生、パンデミック対応、環境汚染対策の観点が強調されています。blog.gettransport+2


3. HS2028影響リスク製品リスト(センサー・バッテリー・MCU)

目的:効率的なリスク管理

目的は、全SKUを一律に洗い直すことではなく、影響が出やすい製品群に先に網を張ることです。

リスク判定の3つの軸

リスク製品の見極めは、次の3軸で実務に耐えます:

軸A: HS2028で条文が動いているか

  • 小見出し新設、見出し文言変更、注の改訂など

軸B: 分類が機能依存か

  • 仕様や用途で分類が変わり得るものは、サプライヤ情報の揺れがそのまま誤分類になる

軸C: 出荷形態がセット、キット、モジュールか

  • 付属品の有無で分類が変わるケースが多い

3.1 センサー領域:医療・モニタリング系がHS2028で可視化される

HS2028での主要変更

HS2028では、医療用途のモニタリング機器や緊急対応物資に対して、38の新しい関税コードが導入されています。pharmaindustrial-india+2

具体的には以下が含まれます:portcalls+1

  • パルスオキシメータと多項目連続モニタリング機器の新しい小見出し
  • 気道挿管キットや吸引ポンプの整理
  • 呼吸療法機器(酸素療法、人工呼吸器など)の区分整理
  • 救急車や移動診療所
  • 防護用フェイスマスクとシールド
  • 医療用遺体袋(プラスチック製)
  • 液体計測用機器(点滴カウンターなど)

これは、医療・公衆衛生の重要物資を分類上でも見えやすくし、税関での迅速な通関と識別を可能にする流れと整合します。WHO、WTO、WCOの協働により実現した改正です。blog.gettransport+2

センサー関連のリスク製品リスト

以下は、センサーを主軸にした、優先度の高い監視対象です:

高リスク

  1. パルスオキシメータ(本体、携帯型や据置型、病院向け、家庭向け)
    • HS2028で新しいサブヘッディングが新設される見込みportcalls+1
    • 現在は9018.19に分類されているが、HS2028で独立した分類となる可能性[deepbeez]​
  2. 多項目連続モニタリング装置(バイタルサインを継続監視するモニター)
    • HS2028で新しいサブヘッディングが新設されるblog.gettransport+1
    • 血圧、心拍数、体温など複数パラメータを同時測定する機器

中リスク

  1. 気道挿管キット
    • キットとしての取り扱いが明確化される方向portcalls+1
  2. 吸引ポンプ(医療用)
    • 9018内で整理されるblog.gettransport+1
  3. 酸素療法機器、人工呼吸器など呼吸療法機器
    • 9019で区分が整理される見込みportcalls+1

低から中リスク

  1. 液体計測用途の機器(点滴カウンター、滴下カウンターなど)
    • 新しいサブヘッディングが設けられる見込みblog.gettransport+1

現場が集めるべき最低限の情報

センサー系は、仕様情報が欠けると分類が不安定になります。最低限、次をマスタに持つだけで精度が上がります:

  • 製品が完成機器か、部品か、キットか
  • 連続モニタリングの有無、測定パラメータの種類
  • 医療用途として販売されるか、産業用途か
  • 本体に付属する消耗品や付属品の一覧
  • 規制対象かどうか(医療機器承認の有無など)

3.2 MCU領域:HS2028は分類の土台となる定義を微調整している

MCUの基本分類

MCUは多くの場合、電子集積回路の見出し8542に該当し、プロセッサやコントローラは6桁で8542.31として整理されています。freightamigo+1

ここは、製品の高付加価値領域である一方、分類ミスの損害も大きい領域です。

HS2028での定義変更

HS2028では、第85類の注12で、マルチチップ集積回路の定義が改訂されています。新しい定義では、以下が明記されています:

  • 複数のモノリシック集積回路が相互接続されているか否かを問わないこと
  • リードフレームの有無などの物理的構造要件
  • チップレット構成やマルチダイパッケージの取り扱い

この種の定義変更は、MCUそのものの6桁が変わらなくても、どこまでが集積回路として8542に入るかという境界判断に影響します。

MCU関連のリスク製品リスト

高リスク

  1. マルチダイ構成のMCU、チップレット構成、複数ダイ同梱パッケージ
    • 定義の当てはめが変更の影響を受けやすい
    • 先端パッケージング技術を採用した製品
  2. MCUと周辺回路を一体化した高度なパッケージ製品
    • SiP(System in Package)など
    • 境界判断が論点になりやすい

中リスク

  1. MCUとメモリ、コンバータ、ロジック等を組み合わせた製品
    • 8542.31は他回路との結合を許容する記述になっているため、仕様の出し方で誤解が起きやすい[freightamigo]​
  2. 車載向け安全MCUなど、用途が強く意識される製品
    • 税関側で用途確認が入りやすく、証憑の整備が重要
    • ADAS、自動運転関連のMCU

現場が集めるべき最低限の情報

MCUの分類は、データシートの書き方がそのままリスクに直結します:

  • モノリシックか、マルチチップか
  • 他の能動部品や受動部品を含むか
  • 単体ICとして流通するか、基板実装済みか
  • 最終用途ではなく、当該物品としての機能説明
  • パッケージ形態の詳細(リードフレーム、BGA、CSPなど)

3.3 バッテリー領域:6桁が動かなくても、実務の事故は起きる

バッテリーの基本分類

バッテリーは、見出し8507に蓄電池が整理されます。主要なサブヘッディングは以下の通りです:htshub+1

  • 8507.10: 鉛蓄電池(ピストンエンジン始動用)
  • 8507.20: その他の鉛蓄電池
  • 8507.30: ニッケル・カドミウム蓄電池
  • 8507.50: ニッケル・水素蓄電池
  • 8507.60: リチウムイオン蓄電池

HS2028での変更状況

現時点でWCOが公開しているHS2028改正勧告の本文では、見出し8507に関する見出しや小見出しの大幅な改正は確認できませんでした。これは、バッテリーに関してはHS2028で6桁番号が大きく変わらない可能性があることを示唆します。

ただし、以下の点に注意が必要です:

  • 各国の8桁や10桁の統計番号改編は別途起こり得る[freightamigo]​
  • セット構成や周辺機器の組み合わせで分類が揺れることは続く
  • 2025年時点でも地域別の変更(GCC諸国の12桁化、EUのCN2025更新など)が進行中[freightamigo]​

バッテリー関連のリスク製品リスト

高リスク

  1. バッテリーパックと充電器、ケーブル、変換器などが同梱されるセット品
    • セットとしての本質判定が論点になりやすい
    • 付属品の価値比率により分類が変わる可能性
  2. 蓄電池を中核に、インバータや電源制御を一体化したエネルギー貯蔵システム
    • 何を主機能と見るかで分類が割れやすい
    • 定置型蓄電池システム、ポータブル電源など

中リスク

  1. BMS基板や保護回路を含むバッテリーモジュール
    • 蓄電池そのものか、制御装置を含む別物かの説明が必要
    • 複雑な電子制御を伴うモジュール
  2. 交換式バッテリー(工具用、ドローン用、電動自転車用など規格品)
    • 形態は似ていても仕様差が大きく、品名の表現で揺れが出やすい

低から中リスク

  1. 単体セルや標準的な蓄電池
    • HS見出しは比較的安定
    • ただし統計番号や規制対応(危険物規制、リサイクル法など)の要否は別

現場が集めるべき最低限の情報

  • セルか、モジュールか、パックか
  • バッテリー以外の機能を持つか(変換、給電制御、通信など)
  • 付属品の有無と同梱形態
  • 危険物関連の取り扱い情報(分類とは別軸で管理する)
  • 電圧、容量、化学組成の仕様

4. 2026年から始める実務ロードマップ

HS2028は2028年1月1日に発効予定で、WCOも移行準備のための相関表整備などを進めています。reuters+1

この状況では、企業側は次の順番が最もコストを抑えられます

4.1 2026年上期:影響棚卸しを小さく始める

  • 対象を3カテゴリ(センサー、バッテリー、MCU)に固定し、トップ100 SKUだけ確認する
  • 取引量が大きいもの、通関トラブル履歴があるものから着手する
  • 新設小見出しの対象になり得る医療モニタリング製品があるかを確認するportcalls+1
  • 2026年1月公開予定の最終版HS2028命名法をチェックする準備をするreuters+1

4.2 2026年下期:データの勝ち筋を作る

  • 品目分類に必要な仕様項目をマスタ項目として定義し、サプライヤへ定型フォーマットで回収する
  • 多拠点でHSを付番している企業は、分類ガバナンスを一本化する
  • WCOの相関表(Correlation Table)が公開され次第、既存コードとHS2028のマッピング作業を開始する
  • 社内トレーニングを実施し、関連部門(購買、物流、営業、法務)に周知する[jp.reuters]​

4.3 2027年:マッピングとシステム改修の年にする

  • 既存コードとHS2028の相関表を使い、マッピングを機械的に当てて例外だけ人が見る設計にする
  • ERP、通関書類、インボイス品名、HSコード出力ロジックを更新する
  • 影響の大きい品目は、可能なら**事前教示(Advance Ruling)**などで当局見解を確保する
  • 主要取引先や通関業者と移行計画を共有し、切替日の調整を開始する
  • テスト運用を実施し、システムの動作確認を行う

4.4 2027年末から2028年初:本番切替の事故を潰す

  • 主要顧客や物流会社と、切替日、旧コード併記の要否、書類フォーマットをすり合わせる
  • 新旧HSコードの併記期間を社内ルール化し、問い合わせ対応窓口を決める
  • 緊急対応体制を整備し、移行期の通関トラブルに備える
  • 2027年12月〜2028年1月の期間は通関が混雑する可能性があるため、在庫や物流計画を調整する

5. すぐ使えるチェックリスト

以下の項目に1つでも該当する場合、優先的にHS2028対応を検討してください:

  • HS2028で条文が動いた領域に該当する製品がある
    • 医療モニタリング、呼吸療法関連、集積回路の定義周辺blog.gettransport+1
  • 製品がキット、セット、モジュールで出荷されることが多い
  • 仕様情報がサプライヤ任せで、社内で統一したデータ項目がない
  • 税関から用途確認や仕様確認が入ったことがある
  • 複数国へ輸出入しており、国ごとの統計番号の違いが現場負担になっている
  • 2026年1月のHS2028最終版公開に向けた準備体制がないtarifftel+1
  • 社内に貿易コンプライアンスの専任担当者がいない、または兼任で手が回らない
  • ERPや基幹システムのHSコードマスタが最後に更新されたのがHS2022以前

6. まとめ

HS2028の本質は、番号の置換作業ではなく、分類判断を支える情報の標準化です。

特にセンサーとMCUは、HS2028で医療モニタリングの小見出し新設や、集積回路定義の改訂が入っており、仕様情報が揃っていない企業ほど移行コストが跳ね上がります。portcalls+1

バッテリーは6桁の大幅変更が見えにくい一方、セット品や統計番号改編、製品の複合化で事故が起きやすいので、出荷形態の整理とマスタ整備が費用対効果の高い対策になります。htshub+1

重要なタイムライン

  • 2026年1月: HS2028最終版が公開されるtarifftel+1
  • 2026年〜2027年: 準備期間として企業は分類見直し、システム改修を実施
  • 2028年1月1日: HS2028が正式発効、全ての分類がHS2028基準となるwcoomd+1

推奨アクション

  1. 2026年上期中に影響棚卸しを開始する
  2. WCO公式サイトで相関表と解説注釈の公開を定期的にチェックする
  3. 社内横断のプロジェクトチームを編成し、貿易、IT、購買、法務が連携する体制を作る[jp.reuters]​
  4. 外部専門家(通関業者、貿易コンサルタント)との連携を強化する

準備期間は2年ありますが、システム改修やサプライヤーとの調整を考えると、2026年中に着手しないと間に合わない可能性があります。tarifftel+1


免責事項

本記事は2026年2月17日現在に公開されている情報に基づき、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の取引における品目分類、関税率、規制該当性、必要書類等は、国や地域、当局運用、製品仕様、契約条件、出荷形態などにより異なります。最終的な判断は、必要に応じて税関当局への確認や専門家への相談を行ったうえで実施してください。本記事の内容に基づいて生じたいかなる損害についても、筆者および提供者は責任を負いません。


主な訂正・追加点:

  1. スケジュールの正確化: 2025年3月暫定採択、6月正式採択、2026年1月最終版公開という正確なタイムラインに修正
  2. 299セットの改正: 正確な数値を確認
  3. 38の新しい医療関連コード: WHOとの協働による改正の背景を追加
  4. バッテリーの扱い: 6桁の大幅変更が見られないことを明記
  5. タイムラインセクションの追加: 2026年1月の最終版公開を強調
  6. チェックリストの拡充: より実践的な項目を追加
  7. 文章構成の改善: 見出しの階層を明確化し、読みやすさを向上