HS2028で注視すべき主要章を深掘りする:改正ポイントと実務ロードマップ

HS2028はいつ、どれくらい変わるのか

HS2028は、世界税関機構(WCO)が管理するHS品目表の第8版で、2028年1月1日に発効します。通常は約5年ごとの見直しですが、今回の第7次レビューサイクルはCOVID-19の影響を受け、2019年7月から2025年6月までの6年間に延長されました。 (世界税関機構)

改正の規模感として、HS2028は299件の改正セットからなり、全体として1,229の項(headings)と5,852の号(subheadings)で構成されます。HS2022との比較では、新規の項が6、号が428追加され、項が5、号が172削除されています。 (世界税関機構)

ビジネスの観点で重要なのは、HSが関税率表と貿易統計の土台であり、通関・規制対応・データ分析・契約条件の多くがHSコードを起点に回っている点です。HSの更新は、単なる税番の付け替えではなく、企業のマスタデータと運用設計に直接影響します。 (世界税関機構)

ビジネス影響を見誤らないための3つの変化パターン

HS2028の実務影響は、次の3パターンで起きやすいです。

1. 新設コードによる「可視化」の強化

過去は一括りだった品目が細分化され、統計・規制・優遇措置の対象として見えやすくなります。公衆衛生分野の必需品が代表例です。 (世界税関機構)

2. 定義や注の追加による「境界線」の明確化

似た用途・似た成分の製品が、どちらの章に入るべきかの判断基準が、注で具体化されます。健康食品と医薬品の境界などが典型です。 (世界税関機構)

3. 国際条約や政策目的と連動した「規制対応型」改正

廃棄物や環境規制のように、国際的な枠組みに合わせて分類体系を組み替え、越境移動の監視や執行をやりやすくする方向です。 (世界税関機構)

注視すべき主要章を深掘り

第30類:医薬品(ワクチンと医療目的栄養製剤)

何が変わるか

HS2028では、ワクチンの分類が大きく再設計されます。従来30.02に含まれていたワクチンが、30.07(ヒト用)と30.08(その他、獣医用を含む)へ再編され、より詳細な下位分類が付与されます。 (世界税関機構)

特にヒト用ワクチン(30.07)は、6桁レベルで38の号に細分化され、疾患別の把握がしやすくなる設計です。 (世界税関機構)

また、30.04(医薬品)の見出し文に、pharmaceutical nutritional products(医療目的の栄養製剤)が明示され、章注で定義が追加されています。定義は、ビタミン、ミネラル、必須アミノ酸、脂肪酸を含み、特定の疾病・障害・医療状態の治療目的で用意された製剤を想定し、ラベル等に用途・有効成分濃度・用法用量・適用方法などの記載が求められる構造です。さらに、一般的な健康維持向け推奨量より有意に高い含有量であることも条件として示されています。 (世界税関機構)

どの企業が影響を受けやすいか

医薬品メーカー、ワクチンの原薬・製剤サプライヤー、医療系商社、官公庁案件を扱う事業者、緊急対応物資を扱う物流事業者です。公衆衛生関連では、非常時に簡素化手続や迅速通関、免税措置などが設計されやすく、その前提として分類の明確化が進んでいます。 (世界税関機構)

実務の打ち手

  1. 30.02で運用しているワクチン系SKUを棚卸しし、30.07と30.08への移管対象を事前に特定する
  2. 30.04の「医療目的栄養製剤」に該当しうる製品は、製品表示・添付文書・用途説明の整備を先に進め、分類根拠として提示できる形にする
  3. 緊急対応案件を想定する場合、通関上の優遇措置や規制対応の設計が国別に変わるため、輸入国側の運用を前提に分類根拠を固める (世界税関機構)

第21類:食品調製品(新設21.07のインパクト)

何が変わるか

サプリメント分野の最大のポイントは、新設の21.07です。HS2028では、dietary supplements(栄養補助食品)を21.07として明示し、2107.10(規定の形状での定量投与形態)と2107.90(小売包装だが定量投与形態ではないもの)に区分します。 (世界税関機構)

さらに、21.07のための定義が章注に入ります。たとえば、measured doses(定量投与形態)は、カプセル、錠剤、アンプルなどとして定義されています。 (世界税関機構)

加えて重要なのが、Section IV(食品関連の部)の注で、定量投与形態のサプリメントは原則として21.07を優先する、ただし第30類(医薬品)は例外という優先関係が明示される点です。ここが、食品と医薬の境界に直撃します。 (世界税関機構)

WCOは、従来サプリメントが複数の見出しに分散し、裁判例や照会が多く、国ごとに分類が割れやすかったことを背景に、法的確実性と規制対応、統計精度を高める狙いを説明しています。 (世界税関機構)

どの企業が影響を受けやすいか

健康食品・サプリのメーカー、OEM、越境EC、ドラッグストア向け卸、原料商社、機能性素材を扱う企業です。製品カテゴリの中心が21.06から21.07へ動く可能性があり、関税だけでなく、社内カテゴリ管理や商品マスタ、原産地規則の取り扱いにも波及します。 (世界税関機構)

実務の打ち手

  1. 自社製品を、形状(定量投与か否か)、小売包装、用途表示、成分設計の観点で分類候補に分解して整理する
  2. 21.07と30.04の境界は、章注で定義が増えた分、文書での根拠提示が以前より重要になる。規制部門と貿易部門の連携を前提に運用設計する (世界税関機構)

第39類:プラスチック(廃プラとシングルユースの制度対応)

何が変わるか

環境対応では、39.15(プラスチックのくず等)の再構成が特に重要です。HS2028は、バーゼル条約の枠組みに整合する形で39.15を再編し、有害なプラスチック廃棄物を識別する3915.40の導入など、複数の新しい区分を設けます。 (世界税関機構)

WCOは、越境移動を監視・執行するうえで、HSコードだけでは規制対象かどうか判断しにくいことがコスト増や運用の複雑化につながる点を指摘し、バーゼル条約上の区分とHSの連携を強めることで、官民双方のコンプライアンス負荷を下げる狙いを説明しています。 (世界税関機構)

あわせて、Chapter 39に新しい注が入り、single-use(シングルユース)を「通常、一度の使用後に廃棄またはリサイクルされ、反復または長期使用を意図しないもの」と定義します。これにより、シングルユース製品を統計・政策の観点で一貫して扱いやすくなります。 (世界税関機構)

さらに、具体的な品目でも可視化が進みます。たとえば、使い捨てストローが3917.24や3917.34として明示されます。 (世界税関機構)

どの企業が影響を受けやすいか

樹脂原料、包装材、日用品、飲食向け資材、リサイクル、廃棄物の越境移動に関わる事業者です。特に廃プラの輸出入は、国際条約や各国実務との整合が問われやすく、コード変更がそのまま輸送書類、許認可、社内審査の作り直しに直結します。 (世界税関機構)

実務の打ち手

  1. 39.15の対象(廃棄物・スクラップ)を扱う場合、取引スキームと書類(成分、汚染の有無、混合状態、用途)をHS2028の区分に合わせて再点検する
  2. シングルユース判定は、商品設計と用途説明に依存する。購買仕様書や製品仕様の記載を、分類根拠として使える粒度に整える (世界税関機構)

第87類:車両(救急車・移動診療車の可視化)

何が変わるか

公衆衛生の教訓を受け、救急車と移動診療車が新設・明確化されます。救急車は8703.12、移動診療車(mobile clinics)は8705.50として整理されます。 (世界税関機構)

どの企業が影響を受けやすいか

車両メーカー、架装メーカー、医療設備メーカー、官公庁・自治体向けの調達に関わる企業です。分類の可視化は、緊急時の優先通関や免税措置、統計上の需要予測などの設計に関わります。 (世界税関機構)

実務の打ち手

  1. 8703や8705周りで運用している車両の仕様差を整理し、救急車・移動診療車に該当する要件を文書化する
  2. 監査対応として、車両用途の説明資料、搭載医療機器の一覧、架装仕様書を分類根拠として整備する (世界税関機構)

第48類・第63類・第90類:防護具と医療機器(統計精度の上昇が実務を変える)

何が変わるか

HS2028では、健康危機対応の必需品が複数章にまたがって細分化されます。例として、保護用フェイスマスクが48類に4818.60として追加されます。 (世界税関機構)

63類では、保護マスクを6307.31として区分し、顔に密着し空中粒子をフィルタリングするなど、要件を注で定義しています。 (世界税関機構)

90類では、パルスオキシメータ(9018.15)、マルチパラメータ患者モニタ(9018.16)、ガスマスク・保護マスク(9020.10)、滴下計数器(9028.21)などの可視化が進みます。 (世界税関機構)

WCOは、こうした新設・細分化が、緊急時の簡素化手続、迅速通関、免税措置などの運用を支え、備えの計画にも資する点を明示しています。 (世界税関機構)

どの企業が影響を受けやすいか

医療機器メーカー、衛生用品メーカー、病院向けサプライヤー、自治体・公的調達に関わる企業、災害備蓄やBCPを扱う企業です。

実務の打ち手

  1. 同じ名称でも規格や性能でコードが変わり得る領域なので、製品仕様をHS判定に耐える形で標準化する
  2. 調達・営業・貿易実務で品名がぶれやすい品目は、社内で名称辞書とスペック項目を統一する (世界税関機構)

第88類:航空機(無人航空機の遠隔操縦概念の明確化)

何が変わるか

無人航空機の区分では、8806.21から8806.29に関して、for remote-controlled flight(遠隔操縦)を章注で定義します。遠隔地のオペレーターが運航し、補助的な自律飛行機能を含み得るが、オペレーターが介入できることが前提、といった考え方が示されています。 (世界税関機構)

どの企業が影響を受けやすいか

ドローンを扱うメーカー、物流・点検・測量などの運用事業者、部材サプライヤーです。分類の明確化は、データ集計や規制運用の基礎にもなります。

実務の打ち手

  1. 自律飛行機能の有無だけでなく、遠隔操縦としての運用実態を説明できる設計資料を整える
  2. 完成品だけでなく、主要部材の扱いも含めて、通関実務の説明線を一度作り直す (世界税関機構)

日本企業が見落としがちな論点

HSは国際的に6桁が共通ですが、日本の税関申告では9桁の統計品目番号が使われます。日本の9桁は、6桁のHSコードに3桁の国内コードを加えた構成で、輸出と輸入で国内3桁が一致しない場合もあるため、輸出用と輸入用のコード表が別になります。 (税関ウェブサイト)

このため、HS2028対応は6桁の読み替えだけで終わらず、日本側の9桁マスタ、輸出入それぞれのコード体系、ERPや通関システムのデータ連携まで含めて設計し直す必要が出やすい点に注意が必要です。 (税関ウェブサイト)

2026年から2028年1月までの実務ロードマップ

WCOは、発効までの準備期間に、HS2022とHS2028の対照表(correlation tables)作成、HS解説書(Explanatory Notes)や関連ツールの更新、加盟国への技術支援を進める方針を示しています。加盟国側でも法令改正、IT更新、手続・刊行物の更新、教育訓練が必要とされています。 (世界税関機構)

企業側の現実的な進め方は、次の順番が安全です。

1. 影響棚卸し

製品マスタから、該当しやすい章(30、21、39、87、48、63、90、88)を中心に、現在の6桁と9桁を抽出し、影響候補を先にリスト化します。 (世界税関機構)

2. 分類根拠の再構築

新しい注や定義が入った領域は、分類根拠をスペックと文書で説明できる状態にしておくことが最優先です。サプリメントと医薬、医療目的栄養製剤、シングルユース、PPEなどは典型です。 (世界税関機構)

3. システムと運用の改修

関税分類は現場の申告行為であり、マスタ、商品名、仕様書、通関指示書の一貫性が崩れるとミスが出ます。国際6桁の変更と国内細分の変更を同時に扱う前提で、社内のデータ連携を点検します。 (税関ウェブサイト)

4. 取引条件と価格への反映

コード変更により関税率や規制手続が変わる場合、価格条件や納期、通関責任分界にも影響します。契約更新のタイミングとHS切替のタイミングを同じプロジェクトで管理します。

免責事項

本記事は、HS2028に関する公開情報を基に一般的な情報提供を目的として作成したものであり、特定の取引、製品、国・地域に対する通関判断、法令解釈、助言を提供するものではありません。実際の品目分類や輸出入手続、規制対応、関税率の適用可否は、製品仕様、用途、表示、取引実態および各国当局の運用により異なります。最終的な判断にあたっては、税関当局、通関業者、専門家への相談や事前教示等の活用を含め、必ず最新の一次情報を確認してください。本記事の内容に基づいて生じたいかなる損害についても、執筆者は責任を負いません。

 

FTAでAIを活用する:株式会社ロジスティック

Logistique Inc.

投稿者: shima

嶋 正和 株式会社ロジスティック 代表取締役社長

コメントを残す