半導体は、関税・原産地・輸出入規制・統計・契約条件まで巻き込んでビジネスを動かす中核品目です。 その土台となるのが、HSコードを中心とした品目分類であり、2028年1月1日に次期版HS(通称HS2028)が発効します。wcoomd+1
WCOの公表では、HS2028に向けた改正パッケージは「299セットの改正」としてHS委員会(HSC)で暫定採択され、2025年末のWCO理事会(Council)での正式採択を経て、2026年1月に公表され、2028年1月1日に発効するタイムラインが示されています。 HS改正は単なる「コード表の更新」ではなく、発効日をまたぐ取引、在庫、長期契約、サプライチェーン全体のデータ連携に一斉に影響します。global-scm+2

なぜERP対応が重くなるのか
WCOは、HS改正の実装には「事実上約2年半」の準備期間が必要であると整理しており、その中に相関表(Correlation Tables)の整備、解説書改正、各国の関税率表・関連法令改正、システム更新を含めています。 企業側では、ERPや関連システムのマスタ更新・インターフェース改修・周辺業務の見直しが、このスケジュールに乗って進むことになります。wcoomd+1
つまりHS改正は、貿易実務だけでなく「データとシステムの大規模改修」を前提にした国際ルールであり、その中核にERPが位置します。youtube
HS2028で半導体が注目される理由
WCOや各国解説によれば、HS2028改正は新技術や貿易実態の変化への対応を目的としており、その改正議題の一つとして半導体および半導体ベースのトランスデューサー(一般に各種センサー類を含む)が明示されています。 このため、半導体は「たまたま変わるかもしれない品目」ではなく、「改正射程に入っている品目」と位置づけられます。global-scm+1
半導体とその周辺(センサー、モジュール、基板、製造装置、材料)は、次の広い領域に直結します。global-scm+1
- 関税とコスト:HSコードは関税率、追加関税、免税措置の起点であり、特に地政学的に政策が動きやすい分野ほど分類精度がコストに直結する。
- 原産地判定とFTA/EPA:品目別規則(PSR)はHSコードに紐づくのが一般的であり、版が変わると参照関係や運用が揺れる。
- 輸出入申告とリードタイム:差戻しや照会は出荷遅延や違約リスクにつながる。
- 統計・KPI・管理会計:HSコードは通関統計だけでなく社内品目体系にも使われるため、分類変更は前年対比やカテゴリ別粗利の見え方を変える。
半導体分類が難しい理由
8541と8542を軸とする体系
現行HS2022では、半導体デバイスは8541、電子集積回路は8542が分類の中心です。tsukanshi+1
- 8541:半導体デバイス(ダイオード、トランジスタ、半導体ベースの変換器=トランスデューサー等)kanzei+1
- 8541.51:半導体ベースの変換器(semiconductor-based transducers)dutyskip+1
- 8542:電子集積回路(プロセッサ・コントローラ、メモリ、アンプ、その他、などの6桁区分)deepbeez
このように、半導体は「とりあえず電子部品」で片付ける領域ではなく、国際的に細かい切り分けが前提の領域です。tsukanshi
境界線で起きやすい3つの論点
半導体分類で揉めやすいポイントは、そのままERPマスタ設計上の事故ポイントと重なります。global-scm
- 単体デバイスか、集積回路か、モジュールか
同じ「チップ」に見えても、ウェハ、ダイ、パッケージ、マルチチップ、モジュール化などで扱いが変わります。 これに合わせて過去の改正や注釈が見直されてきました。global-scm - トランスデューサー(センサー)なのか、測定機器なのか
素子単体か、ハウジングや補正回路を含むか、表示や制御機能を持つかで、8541系・90類等との境界が変わります。 ERP上で「品目名」と「型番」だけでは、こうした属性差が情報として落ちてしまい、後で分類根拠を再構成できません。deepbeez+2 - 部品か、特定機器の部分品か
多用途な半導体は、機器側の部品として見たくなる一方で、注釈上は半導体側の番号を優先する考え方が採られる例があります。 このため、どの属性に基づいて分類したかをERP内で残せる設計が必須になります。deepbeez+1
ERP設計の中核思想
HS2028対応を「HSコードの置換作業」として捉えると失敗しやすく、「分類データの版管理プロジェクト」として設計する必要があります。 半導体分類のHS2028対応において、ERPに求められる設計思想は次の4点です。global-scm+2
設計思想1:HSコードを「値」ではなく「版付きデータ」として持つ
ERPの品目マスタにHSコード欄が1つだけ、という設計はリスクが高く、少なくとも以下を持たせる必要があります。global-scm
- HS版(例:HS2022、HS2028)を明示するフィールド
- 有効開始日・有効終了日
- 判定根拠(社内判断メモ、仕様書リンク、事前教示・裁決、通関士見解など)を紐づける仕組み
HS2028は2028年1月1日発効であり、発効日前後にまたがる出荷・輸入は必ず発生します。 日付で切り替えられない設計は、現場を破綻させます。wcoomd+1
設計思想2:グローバル6桁と国別拡張桁を分離する
HSは6桁が国際共通で、その下の桁は各国が独自に拡張します。 ERPでは、グローバル6桁と国別桁を論理的に分離した方が安定します。tarifftel+1
推奨される持ち方の例:
- グローバルHS6桁(全社共通キー)
- 国別品目番号(各国の追加桁、必要な国だけ)
- 取引条件別例外(委託加工、キット、サンプル等)の管理テーブル
こうしておくと、HS2028で6桁が動く場合でも、国別追加桁・国内制度変更を切り離して管理できます。global-scm
設計思想3:品目属性を「分類可能な粒度」で持つ
半導体分類で効いてくる属性は、型番だけでは表現できません。 最低限、次のような属性をERP内で保持する必要があります。global-scm+1
- 形態:ウェハ、ダイ、パッケージ、モジュール、基板実装品
- 種別:半導体デバイス、半導体ベースのトランスデューサー、電子集積回路、部分品
- 構成:単体、マルチチップ、複合化(マルチコンポーネント等)
- 機能カテゴリ:プロセッサ・コントローラ、メモリ、アンプ等(8542の区分に対応)
設計思想4:分類変更を「ワークフロー」として扱う
Excelマッピングで置換して終わらせ、登録ルールや承認フローを変えないのが、HS改正対応で最も危険なパターンです。global-scm
- 誰が、いつ、どの根拠で、どの版のHSコードに変更したか
を、ERP内の承認フローとログで追える状態にする必要があります。 分類は監査対象であり、「説明可能性」がガバナンスの中核となります。global-scm
HS2028に向けたERP実装ステップ
HS2028改正に対して半導体関連企業が現実的に動くためのステップを、業務成果物ベースで整理します。global-scm
ステップ1:影響範囲の確定
成果物:対象品目リスト、リスク優先度、責任部門の割当。global-scm
- 自社品目を、半導体関連の観点でセグメント(ディスクリート、IC、センサー素子、モジュール、基板実装品、部分品、試作品等)。
- 売上・調達額、国別取引量、関税影響、監査リスクを軸に優先度を付与。
半導体は品番数が多いため、全品目を同じ熱量で扱うと破綻します。リスクベースで切るのが現実的です。global-scm
ステップ2:ERPデータモデル改修
成果物:マスタ項目設計、版管理設計、入出力IF仕様。global-scm
必須要件:
- HS版と有効日管理
- 国別コードの分離
- 根拠資料リンク・分類メモ・承認フロー
- 申告システム、通関業者、物流EDIとの連携項目の整合
ステップ3:HS2022→HS2028マッピング設計
成果物:マッピングルール、例外判断基準、再判定フロー。global-scm
- WCO相関表に基づく自動変換範囲を定義(一対一は自動、分岐は再判定へ)。global-scm
- 再判定に必要な技術情報の収集ルート(設計、品質、サプライヤー)を整備。半導体は「データがない」ことが最大のボトルネックになりやすい領域です。global-scm
ステップ4:周辺業務への波及対応
成果物:業務手順書改定、教育資料、統制ポイント設計。global-scm
見落とされやすい連鎖:
- 原産地判定ロジック(PSR参照、社内原産地計算)
- 価格条件(関税転嫁条項、DPP・見積ロジック)
- 出荷停止ルール(HS未設定・承認未了・例外コード)
- 監査対応(説明責任を果たせる資料保管)
ステップ5:テストと切替計画
成果物:移行手順、発効日跨ぎテスト、例外取引テスト。global-scm
半導体企業で必須となるテスト例:
- 2027年末受注・2028年初出荷
- 2027年末輸入・2028年以降補正申告
- 返品・無償交換・サンプル・修理逆流
- 同一品目の複数国出荷(国別桁の相違)
ステップ6:運用定着
成果物:分類ガバナンス、定期棚卸、モニタリング指標。global-scm
- 分類変更の窓口を一本化。
- 仕様変更・製造委託先変更・梱包形態変更など、変更検知の仕組みを整備。
- 申告差戻し率、分類照会件数、監査指摘件数をKPI化。
よくある失敗パターンと回避策
- 失敗1:HSコード欄だけ差し替えて終わる
回避策:有効日・版・根拠・承認の4点セットでデータモデルを設計し、まずERP内の「データの姿」を変える。global-scm - 失敗2:センサーやモジュールを一括で同じ分類に寄せる
回避策:形態と機能を属性として持ち、分類判断の再現性を確保する。半導体は同一カテゴリに見えて境界論点が多い領域です。global-scm - 失敗3:国別実装差を無視してグローバル統一を強行する
回避策:グローバル6桁と国別桁を分離し、国別例外を許容する設計にする。tarifftel+1 - 失敗4:発効日を跨ぐ取引の例外処理が決まっていない
回避策:受注日、出荷日、輸入申告日、インボイス日など、どの日付でHSを確定するかを業務ルールとして明文化し、システム参照日付を統一する。global-scm
経営層に伝えるべきポイント
HS2028対応は貿易部門だけのテーマではなく、半導体・センサー領域では分類が政策と市場の両方に直結しやすいため、ERP全体に影響が及びます。 WCOの議論やEU文書でも、改正対象例として半導体・トランスデューサーが挙げられており、今後の相関表や各国実装で具体的なコード変更が明らかになります。global-scm+2
だからこそ、HS2028対応を「一度きりの置換作業」と見るのではなく、「分類データを版管理し、説明可能な形で維持できる企業体質への転換」として位置づける方が、投資対効果は高くなります。global-scm+1
本稿の要点整理
- HS2028は2028年1月1日発効、2026年1月公表のスケジュールで進んでいる。wcoomd
- HS2028勧告パッケージは299セットの改正から成り、半導体ベースのトランスデューサーを含む半導体・センサー領域が改正議題に含まれている。global-scm
- 半導体は8541・8542を軸に国際的に細分化されており、トランスデューサーやIC区分など、ERPで属性を持たないと分類根拠を再現できない領域である。kanzei+2
- ERP対応の核心は、HSコードを「版・有効日・根拠付きのデータ」として管理し、グローバル6桁と国別桁を分離し、分類変更をワークフロー化する設計にある。global-scm+1
- https://global-scm.com/blog/?p=3807
- https://www.wcoomd.org/en/media/newsroom/2025/april/hsc-provisionally-adopts-the-recommendation-for-hs-2028-amendments-at-75th-session.aspx
- https://global-scm.com/blog/?p=3325
- https://www.wcoomd.org/-/media/wco/public/global/pdf/topics/nomenclature/activities-and-programmes/exploratory-study-on-a-possible-strategic-review-of-the-hs/final-report-of-the-hs-exploratory-study-2024-english.pdf?db=web
- https://www.youtube.com/watch?v=1tMy0_mKtR4
- https://global-scm.com/blog/
- https://global-scm.com/hscf/archives/34
- https://tsukanshi.com/hscode/code/14416/
- https://www.kanzei.or.jp/statistical/tariff/detail/index/j/854151000%E2%80%A0
- https://www.dutyskip.com/hs-browse/8541-51-semiconductor-based-transducers
- https://deepbeez.com/d/hs/transducer
- https://www.tarifftel.com/blog/hs-2028-your-guide-to-the-next-harmonised-system-update/
- https://global-scm.com/hscf/archives/477
- https://www.youtube.com/watch?v=Mtvc5-iCCeM
- https://global-scm.com/hscf/
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