車載センサーは、いまやクルマの付加価値の中心です。ところが貿易実務の現場では、センサーは関税分類が揺れやすい代表格でもあります 。なぜなら、車両の部品なのか、電気機器なのか、計測機器なのか、あるいは半導体デバイスなのかという境界線上に立ち続けているからです。wcoomd
そして2028年1月1日にHS2028が発効します 。HSの最初の6桁が変われば、輸出入申告、原産地証明、社内マスター、取引先との品目管理まで連鎖的に影響します。特にセンサー群は、分類根拠が曖昧なままだと、切替時に一斉に火を噴きやすい領域です。aeb+1
この記事では、HS2028で自動車用センサー群の切替判断をどう進めるべきかを、経営・事業・SCM・貿易管理の目線で、実務に落とせる形まで深掘りします。制度の正確性を優先し、確度の高い一次情報に基づいて整理します。

まず押さえるべきHS2028の公式タイムライン
HS2028は、単に「2028年に番号が変わる」という話ではありません。準備の起点は2026年1月です 。wcoomd
世界税関機構(WCO)は、2025年3月の第75回HSC会合でHS2028改正勧告を暫定採択し、2025年12月末に正式採択された後、2026年1月に公表され、2028年1月1日に発効すると明記しています 。aeb+1
またWCOは、HS2028と現行HS2022の相関表(Correlation Tables)を整備しており、実装のための重要な参照資料になると説明しています 。global-scm+2
つまり企業側の現実的な勝負どころは、2026年から2027年にかけて、どれだけ分類根拠とマスター整備を詰められるかです。
なぜ自動車用センサーは分類が揺れやすいのか
車両部品扱いにしたくても、HSのルールがそれを許さないケースがある
現場で頻出する誤解は「車に使うのだから車両部品(第87類)でよい」という発想です。ところが、HSは用途だけで決める体系ではありません 。janronconsult
HSのSection XVII(車両等のセクション)のNote 2では、「部品・付属品」として分類されないものを明確に列挙しており、その中に「第85類の電気機器」と「第90類の機器(計測・検査等)」が含まれます 。traide+1
言い換えると、あるセンサーが第85類や第90類に該当するなら、たとえ車載専用品であっても、原則として車両部品として分類できない構造になっています 。ここが、センサー分類の根本的な難しさです。janronconsult
半導体としてのセンサーという概念が、すでにHSの中に組み込まれている
HS2022では、半導体デバイスの定義の中で「Semiconductor-based sensor(半導体ベースのセンサー)」が定義されています 。圧力、加速度、磁場、光、湿度などの物理・化学量を検知し、電気信号へ変換するもの、という考え方です 。hts.usitc
さらに重要なのは、これらの定義に該当する物品について、見出し8541や8542が他の見出しより優先される、という優先規定が存在する点です 。customsmobile
この構造があるため、同じ「センサー」という呼び名でも、
- 半導体デバイスとしてのセンサー
- 計測機器としてのセンサー
- 電気機器としてのセンサー
- 車両部品としてのセンサー
に分岐し得ます。HS2028への切替判断は、この分岐を放置したまま相関表だけで置換すると、高確率で破綻します。
切替判断の前提を揃える
HS2028対応は、コードの付け替え作業ではなく、分類根拠の棚卸しです。センサー群では特に、次の2つを先に揃えると後工程が崩れにくくなります。
製品群を「素子」「モジュール」「アセンブリ」で分ける
自動車用センサーと一口に言っても、輸出入される姿が違います。分類が変わるのは、むしろここです。
- 素子寄り: ダイ、ウェハ、パッケージICに近いもの
- モジュール寄り: PCB、コネクタ、筐体、補正回路、通信インタフェースを含むもの
- アセンブリ寄り: ハーネス一体、ブラケット一体、車両の特定機能ユニットに統合されたもの
同じ機能を担うセンサーでも、この姿の違いで候補章が変わることがあり、HS2028の相関表だけでは吸収できません。
技術情報は「分類のための記述」に翻訳して整理する
分類の議論で行き詰まる会社ほど、設計資料があっても分類判断に必要な記述になっていません。最低限、次の項目を製品ごとに揃えると判断速度が上がります。
- 検知対象(圧力、加速度、光、電磁波など)と検知原理
- 出力が電気信号なのか、データ通信なのか
- 内蔵回路の範囲(信号変換のみか、演算・制御まで含むか)
- 実装形態(半導体チップ、パッケージ、基板実装、筐体一体)
- 車両以外への転用可能性(専用品か汎用品か)
- 輸出入時の構成品(付属品、ケーブル、ソフトの扱い)
この翻訳ができると、HSのセクション注・類注の適用可否を論理的に追えるようになります。
自動車用センサー群のHS2028切替判断フレーム
ここからが本題です。HS2028の切替判断を、意思決定と実装の両面で崩れにくい形にします。
ステップ1 現行コードの根拠を分類する
まず、現行HSコードが「なぜそのコードなのか」を4つに分類します。
- 税関の文書回答や事前教示に基づく
- 類似品の公的な分類事例に基づく
- 通関業者や取引先の提示を採用した
- 社内慣行で決めた
この4つは、HS2028移行時のリスクがまったく違います。特に、後ろ2つは相関表を当てる前に根拠の再構築が必要です。
ステップ2 まず6桁で論点を収束させる
HSは6桁が国際共通の基礎で、各国はその下に細分を付けます。HS2028の改正も、まず6桁のレベルで構造が変わります 。wcoomd
センサー群の切替判断は、いきなり国別の細分(日本の9桁など)から詰めるより、6桁の所属の筋を通した方が早く確実です。ここで重要になるのが、前述のセクション注です 。車両部品に寄せたくても、第85類や第90類に該当するなら排除される可能性があることを先に踏まえます。janronconsult
ステップ3 相関表は「置換表」ではなく「出発点」として使う
WCOはHS2028とHS2022の相関表を整備し、実装の重要な参照資料になるとしています 。wcoomd
ただし、相関表は次を保証しません。
- 旧分類が正しかったこと
- 国別の細分がそのまま対応すること
- 複合品やモジュールの本質的な所属判断
したがって、相関表を当てた後に、センサー群の中でも境界品目だけは必ず再判定の対象に残すのが実務的です。
ステップ4 影響評価は関税だけで終わらせない
ビジネス判断としての切替では、税率だけを見ると失敗します。特に自動車部品はEPA利用比率が高く、原産地規則との整合が利益に直結します。
つまりHS2028切替は、関税率の変更だけでなく、原産地判定ロジックや、協定バージョン管理にも波及します 。global-scm
判断が難しいセンサー群ほど、事前教示を戦略的に使う
センサーは、複合品・新技術・半導体境界の要素が重なりやすく、社内だけで決め切るとブレます。ここで効くのが税関の事前教示です。
日本税関は、輸入前に関税分類と税率を照会し、文書による回答を得られる制度として事前教示を案内しています 。これにより、原価計算や販売計画を立てやすくなり、申告前に税番が固まることで通関が円滑になるとされています 。global-scm
さらに、文書による回答は原則として一定期間尊重されることや、全国の税関で一貫して扱われることなど、実務上の安定性も示されています 。global-scm
HS2028の切替判断では、全品目を事前教示に出す必要はありません。費用対効果が高いのは、次のタイプです。
- 8708(車両部品)と85類・90類の境界にいるセンサー
- 素子とモジュールの境界にいる製品(同じ型番でも出荷形態が複数ある)
- 高関税国向けで、税率差が利益を左右する製品
- EPA適用可否が案件の採算を左右する製品
経営と現場が合意しやすい「切替判断」の落としどころ
ここまでの話を、意思決定に落とし込みます。ポイントは、分類の正解を当てることより、社内で再現可能な判断基準を作ることです。
切替判断を3層に分ける
センサー群は、製品ごとに確実性が違います。判断を次の3層に分けると、意思決定が進みます。
- 確定層: 公的根拠があり、HS2028でも相関表で素直に移れる見込みが高い
- 要検証層: 相関表は引けるが、境界論点が残るため再判定が必要
- 要外部確定層: 事前教示や主要国の判断を取りに行くべき
この区分があると、2026年に全社的な作業量とコストを見積もれます。
マスターは二重持ちが現実解になりやすい
HS2028の発効日は2028年1月1日です 。輸入申告は原則その時点で最新HSで行う前提になるため、直前での一括更新は危険です 。wcoomd+2
多くの企業で現実的なのは、
- 現行HS(運用用)
- 次期HS(HS2028想定)
をマスターで併存させ、取引・国・時点で使い分けられる設計にすることです。特に、協定ごとにHSバージョンが違う原産地判定では、この設計が後から効いてきます。
2026年からの実務ロードマップ
最後に、企業の動き方を具体化します。WCOの公式スケジュールに合わせると、2026年が準備の起点です 。wcoomd
2026年上期
- WCO公表のHS2028改正内容を精読し、センサー群の影響範囲を特定
- 現行分類の根拠を棚卸しし、要検証層と要外部確定層を切り分け
- 相関表を使った一次マッピングの試作を開始(暫定)
2026年下期から2027年
- 境界品目の再判定と、社内分類基準の文書化
- 必要品目は事前教示の取得を進める(特に高関税国、EPA重要品)
- ERP、PLM、貿易システム、顧客提出書類の二重コード運用を設計
2027年下期から2028年直前
- 国別細分の確定版への置換、最終テスト
- 取引先との品目マスター突合、インボイス記載やEDI影響の最終確認
- 発効日に合わせて運用切替
まとめ
自動車用センサー群のHS2028切替判断で一番危険なのは、相関表で機械的に置き換え、現行の分類根拠の弱さをそのまま引き継ぐことです。センサーは、第87類の車両部品に見えても、第85類や第90類に該当すれば部品扱いが排除され得るという、HSの構造的な難しさを抱えています 。janronconsult
一方で、タイムラインは明確です。2026年1月に改正勧告が公表され、2028年1月1日に発効します 。aeb+1
この2年の間に、センサー群を素子・モジュール・アセンブリで棚卸しし、根拠の強い分類に再構築し、必要なものは事前教示で確定させ、マスターとシステムを二重運用に耐える形へ整備する。これが、経営にとっても現場にとっても、最も損失が出にくい切替判断になります。
- https://www.wcoomd.org/en/media/newsroom/2025/april/hsc-provisionally-adopts-the-recommendation-for-hs-2028-amendments-at-75th-session.aspx
- https://www.aeb.com/en/magazine/articles/hs-code-2028.php
- https://global-scm.com/blog/?p=3091
- https://transx.com/wco-issues-correlation-tables-for-the-2022-harmonized-system-changes/
- https://www.wcoomd.org/en/topics/nomenclature/instrument-and-tools/hs-nomenclature-2022-edition/correlation-tables-hs-2017-2022.aspx
- https://www.janronconsult.com/analysis-of-section-xvii-of-the-hs-nomenclature/
- https://traide.ai/en/blog/customs-tariff-and-vehicle-parts-how-to-classify-them
- https://hts.usitc.gov/search?query=8542
- https://www.customsmobile.com/rulings/docview?doc_id=NY+N020350&highlight=NY+N020350
- https://global-scm.com/hscf/wp-content/uploads/2026/01/HS2028_Strategic_Roadmap.pdf
- https://www.tarifftel.com/blog/hs-2028-your-guide-to-the-next-harmonised-system-update/
- https://www.wcoomd.org/-/media/wco/public/global/pdf/events/2019/hs-conference/semiconductors-and-the-future-of-the-hs_sia-white-paper_april-2019.pdf?la=fr
- https://www.youtube.com/watch?v=1tMy0_mKtR4
- https://www.freightamigo.com/en/blog/logistics/navigating-the-semiconductor-industry-logistics-imports-and-innovation/
- https://www.semiconductors.org/wp-content/uploads/2018/05/21st-WSC-Joint-Statement-May-2017-Kyoto-Final.pdf
- https://tradeint.com/insights/a-deep-dive-into-hs-code-8541-definition-chapter-section-exporters-examples/
- https://www.customs.go.jp/kyotsu/yogosyu.htm
- https://rulesoforigin.org/rules/8541
- https://www.jetro.go.jp/world/qa/J-150902.html
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