2028年1月1日に発効が予定されているHS条約の改正(HS2028)は、すべての輸出入者にとって避けては通れない重要課題です。このガイドでは、HS2028改正への準備を円滑に進めるため、「いつまでに、誰が、何をすべきか」を体系的に解説します。
HS2028改正の概要とスケジュール
HS2028改正は、2028年1月1日の発効に向けて以下のスケジュールで進められています。企業の対応計画もこの公式スケジュールに準拠する必要があります。
- 暫定採択: 2025年4月、世界税関機構(WCO)のHS委員会(HSC)第75回会合にて、改正勧告案が暫定的に採択されました。
- 正式採択: 2025年12月末にWCO理事会で正式に採択される見込みです。
- 内容公表: 2026年1月頃に改正内容の詳細が公開される予定です。
- 発効: 2028年1月1日に全世界で一斉に発効します。
今回の改正には、299セットの改正案や、世界保健機関(WHO)の国際一般名(INN)リストに基づく医薬品441品目の分類見直しなどが含まれており、広範囲な品目が影響を受ける可能性があります。
また、WCOは2025年10月のHSC第76回会合で、現行コード(HS2022)と新コード(HS2028)の相関表(Correlation Tables)の整備を開始しました。この相関表は、コード移行作業における最も重要な参照資料となります。
企業への主な影響範囲
HSコードの変更は、関税率だけでなく、企業のサプライチェーン全体に多岐にわたる影響を及ぼします。
- コスト・財務: 品目分類の変更により関税率やFTA特恵税率が変動し、関税・消費税などの税負担額が変わる可能性があります。これは見積もりや販売価格、原価計算に直接影響します。
- 通関・規制: 輸出入申告で参照するHSコードが変わると、他法令(例:化学物質規制、食品衛生法)に基づく許認可や証明書の紐付けを再設計する必要があります。
- 原産地管理: FTA/EPAの原産地規則(品目別規則:PSR)はHSコードの版に準拠しているため、コード変更に伴い原産資格の再判定や、サプライヤーからの原産性証明の再取得が必要になります。
- ITシステム: ERP、商品マスター、貿易コンプライアンスシステム(GTM)などの改修が必須です。特に日本では、HS6桁に国内細分(3桁)を加えた9桁の統計品目番号やNACCS用の10桁コードが使用されるため、これらの桁数も考慮したシステム更新が求められます。
対応プロジェクトのロードマップ
フェーズ1:調査・計画(現在〜2026年上半期)
- プロジェクト体制の構築: 貿易コンプライアンスやサプライチェーン部門を主幹とし、通関、調達、営業、財務、ITなど関連部署を横断する専門チームを設置します。
- データ棚卸し: 過去24ヶ月分の輸出入実績(品目、現行HSコード、仕向国・原産国、FTA適用有無、関税額)を一覧化し、分析の土台を整えます。
- 情報収集の開始: WCOや各国税関の公式発表、特にHS2022とHS2028の相関表の公開を継続的に監視します。
フェーズ2:影響評価・分析(2026年下半期〜2027年上半期)
- 新旧コードの突合: 公表された相関表を基に、自社品目の新旧HSコードの対応関係(1対1、1対多、多対1など)を洗い出します。
- 優先順位付け: 「取引金額 × 関税率の変動幅」や「FTA依存度」「規制への影響度」などを基に対応の優先順位を決定し、影響の大きい品目から重点的に分析します。
- 財務影響の試算: 品目や取引先ごとに、関税負担額の増減シナリオをシミュレーションし、価格戦略や収益計画への影響を数値化します。
フェーズ3:導入準備・実行(2027年下半期〜2028年1月)
- 分類の確定: 分類が難しい境界品目については、日本の事前教示制度や、主要国のBTI(Binding Tariff Information)などを活用して、税関の公式見解を取得します。
- システム改修: 品目マスターに新旧HSコードを併記する期間を設け、2028年1月1日以降は新コードが自動で適用されるようシステムを改修します。
- 対外コミュニケーション: 取引先へのHSコード変更通知、価格条件の見直し、サプライヤーへの原産性証明の再依頼などを計画的に進めます。
- 本番切替とモニタリング: 2028年1月の発効後、申告実績を監査し、誤分類や追加納税などのリスクを早期に検知します。
よくある失敗例と対策
- 国内細分コードの更新漏れ: HS6桁のみを更新し、日本の9桁/10桁コードの確認を怠ると、申告エラーの原因となります。
- FTA原産地規則の版ズレ: HSコードの版が変わったことに気づかず、古いPSRに基づいて特恵税率を適用し続け、追徴課税を招くケースです。
- 影響評価の非効率: 影響度を考慮せずに全品目を一律に対応しようとすると、リソースが分散し、重要な品目の対応が遅れます。
- 事前教示の未取得: 分類に迷う品目を社内判断のみで処理し、後日、税関との見解の相違から修正申告や追徴に至るリスクです。
FTAでAIを活用する:株式会社ロジスティック