HSコードの見直しは、単に番号を合わせる作業ではありません。監査で問われるのは「その番号にした理由を、第三者が追跡できる形で説明できるか」です。
そのために必要なのが、結論ではなく根拠と証跡を束ねたドシエです。
本記事では、監査対応に耐えるためのドシエを3種類に分解し、雛形としてそのまま社内展開できる粒度まで深掘りします。なお、個別商品の最終判断は税関照会や専門家レビューを前提にしてください。

そもそもHSコードは何が「監査対象」になりやすいのか
HSは、世界税関機構が策定する国際的な品目分類で、6桁コードを世界標準として運用します。各国は6桁の後に自国用の細分を追加できます。(世界税関機関)
HS分類は、見出し語だけでなく、解釈ルールに従って行うことが前提です(一般解釈規則)。(世界税関機関)
さらに、分類の公式解釈の中核資料として解説書(Explanatory Notes)が位置づけられています。(世界税関機関)
日本実務で重要な注意点は「申告で使う桁数」です。日本では申告に9桁の統計品目番号を用い、上6桁は国際共通のHS、下3桁は国内細分です。輸出と輸入で国内細分が一致しない場合があります。(税関総合情報)
この「国際6桁と国内細分のズレ」や「製品仕様変更に伴う分類影響」が、監査で火種になりやすいポイントです。
監査でよく出る質問は、だいたいこの5つ
監査対応を強くするには、質問パターンを先に固定しておくのが近道です。
- その商品は何か(機能、材質、構造、用途、セットの有無)
- なぜその分類か(どの解釈ルールと注に基づくか)
- 競合する分類は何で、なぜ排除したか
- 過去から何が変わったか(仕様、用途、構成、梱包、販売形態、資料)
- 申告や帳簿書類にどう紐づくか(どの申告・許可番号が裏付けか)
この5つに機械的に答えられるように作るのが、次の3種ドシエです。
監査対応に耐える3種のドシエ雛形
ドシエ1:製品ファクトドシエ(事実を確定する箱)
目的は、分類の前提となる客観情報を、監査で通るレベルで固定することです。
分類の議論が揉める多くの原因は、法解釈より先に「製品の事実関係」が社内で曖昧な点にあります。
雛形:最低限の構成(そのまま章立てに使えます)
- 基本情報
・社内品番、型式、取引名、申告品名候補
・サプライヤー、製造者、製造国
・用途(業務用、一般消費者用など)
・販売形態(単品、セット、バンドル、同梱物) - 製品の中身が分かる情報
・材質と配合、主要成分の割合
・部品構成(BOM)と各部品の役割
・寸法、重量、電気仕様などのスペック
・製造工程の要点(分類に影響する場合) - 機能と動作原理
・何をする製品か
・どうやってそれを実現するか(センサー、駆動、加熱、化学反応など) - 画像・図面・資料
・外観写真(複数アングル)
・断面図や構造図
・取扱説明書、仕様書、技術資料
・マーケ資料は補助扱いに留め、技術資料を主にする - セット・容器・包装の情報
・小売用セットか、部品の寄せ集めか
・専用ケースや容器があるか(分類影響が出やすい領域)
監査で強い書き方のコツ
・形容詞を減らす(高性能、最新、便利ではなく、数値と構造で書く)
・用途は「実際の販売・使用実態」を優先(想定用途だけだと弱い)
・仕様変更履歴を必ず残す(いつ、何が、なぜ変わったか)
ドシエ2:分類ロジックドシエ(結論に至る道筋を固定する箱)
目的は、第三者が追試できる分類判断の再現性を作ることです。
HS分類は一般解釈規則に従い、見出し語、部注・類注などを踏まえて決定します。(世界税関機関)
また、公式解釈資料として解説書が重要視されます。(世界税関機関)
雛形:分類ロジックの章立て
- 対象範囲の宣言
・この判断がカバーするSKUの範囲(色違い、容量違い、付属品違いの扱い)
・判断の対象外(仕様が異なる派生品) - 適用するコード体系の明示
・国際6桁HS
・日本の申告用9桁(統計品目番号)
日本では申告に9桁を用い、6桁HSと国内3桁で構成されます。(税関総合情報) - 分類の結論
・章、項、号、国内細分までの結論
・品名表現(申告品名の推奨表現) - 判断プロセス(一般解釈規則に沿って書く)
・ルール1:見出し語と注で決まるか (世界税関機関)
・ルール2:未完成品、混合品、組立前等の論点があるか (世界税関機関)
・ルール3:競合する見出しがある場合、最も具体的、主要な特性、最後の順等で整理 (世界税関機関)
・ルール4:類似品での整理が必要か (世界税関機関)
・ルール5:ケースや包装の扱いが影響するか (世界税関機関)
・ルール6:号以下の決定の論理 (世界税関機関) - 競合見出しの排除理由
・候補Aを排除する理由(注により除外、機能が異なる、材質が違う等)
・候補Bを排除する理由 - 根拠資料リスト
・参照した解説書、分類意見、税関公表情報、社内過去判断
解説書は国際的な公式解釈として位置づけられています。(世界税関機関)
日本でも分類支援資料や事前教示の公表を行っています。 - 変更に弱い点(監査で一番効くパート)
・材質が変わると分類が変わる閾値
・付属品や同梱でセット扱いになる条件
・用途の変更で見出しが変わり得る条件
ここを先に書いておくと、仕様変更時に自動でアラートを出せます。
ドシエ3:ガバナンス・証跡ドシエ(監査での説明責任を支える箱)
目的は、個々の分類の正しさだけでなく、会社としての管理体制と証跡の連鎖を示すことです。
監査対応の勝負どころは「資料があるか」だけではなく、「会社として再発防止できる統制があるか」です。
雛形:ガバナンスの章立て
- 役割分担
・分類の一次作成(貿易管理、通関部門など)
・技術情報の提供責任(開発、品質、購買)
・最終承認(責任者)
・通関業者が関与する場合の境界(最終責任は誰か) - 品目マスター運用ルール
・新規採用品の分類フロー(いつ分類し、いつマスターに登録するか)
・既存品の見直しトリガー(仕様変更、用途変更、セット構成変更、HS改正など)
日本税関の統計コード運用上、輸出入で国内細分が異なることがあるため、用途別にマスターを分ける判断も現実的です。(税関総合情報) - 証跡と申告の紐づけルール
日本の制度では、輸入者等に帳簿書類の保存義務があります。輸入では帳簿7年、書類5年、電子取引情報5年が基本です。
さらに、帳簿の記載事項と書類の関係が明らかになるよう整理して保存することが求められます(許可書番号などで紐づける考え方)。
ドシエ3には、次の紐づけ仕様を明文化して入れます。
・社内品番 と 申告統計品目番号 の対応
・社内品番 と 輸入許可情報 の対応
・許可書番号 と インボイス、契約書、BOM、ドシエ一式 の対応 - 監査対応手順(当日の動きまで決める)
・事前通知が来たら誰が窓口か
・何日分の申告を、どの粒度で出せるか
・質問への回答テンプレート(事実、判断、証拠、影響範囲、是正案)
輸入事後調査では、帳簿書類等の提示・提出を求められることがあり、正当な理由なく拒否等をすると罰則が科され得る旨が説明されています。
このため、ドシエ3は「出せる状態」を維持するのが核心です。
- 文書管理
・版管理(作成日、改定日、改定理由、承認者)
・保管場所(電子保管の場合のルール)
・保存期間(社内規程を関税法上の期間に合わせる)
3種ドシエを最短で立ち上げる手順
一気に全品目を完璧にしようとすると止まります。ビジネス向けには、リスクベースで回すのが現実解です。
- 対象選定
・関税額が大きい品目
・分類が揺れやすい品目(複合材、セット品、用途が幅広いもの)
・過去に修正申告や指摘があった領域 - ドシエ1を先に作る
分類会議の前に、開発や購買からファクトを回収して確定させる。ここが最重要です。 - ドシエ2で判断を固定
一般解釈規則の順に、競合見出しの排除理由まで書き切る。(世界税関機関) - ドシエ3で運用に落とす
マスター登録、変更管理、保存、監査対応の導線を決める。保存義務と紐づけ要件は外せません。 - 年次の見直しをスケジュール化
HSは定期的に改正されます。運用としては、年次で棚卸しの枠を確保しておくと事故が減ります。(世界税関機関)
監査対応の最終兵器:事前教示をどう組み込むか
分類が難しい品目や金額影響が大きい品目では、税関への事前教示(書面回答)を戦略的に使うべきです。
事前教示は、輸入前に関税分類と税率等について照会し、回答を得られる制度で、回答書の添付により審査で尊重される旨が示されています。有効期間は3年です。
また、日本税関は文書による事前教示回答を原則公開し、品名や番号等で検索できる形にしています(非公開期間は最長180日)。
ドシエへの組み込み方はシンプルです。
・ドシエ2の根拠資料として回答書を格納
・ドシエ3に、回答書の有効期限管理と再照会トリガーを登録
・品目マスターに、回答書の参照番号と版を持たせる
これで、監査での説明は格段に短くなります。
文章校正後のまとめ
監査対応に強いHSコード管理は、個人の経験や通関会社任せでは成立しません。
製品の事実を固める箱、分類ロジックを再現できる箱、統制と証跡の連鎖を示す箱。この3つに分けてドシエ化すると、監査対応は仕組みに変わります。
まずは、関税影響が大きい上位品目から、ドシエ1と2を作り、最後にドシエ3で運用を固定してください。保存期間と紐づけの要件を最初から満たしておくことが、監査での最大の防御になります。
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