EVバッテリー分類:監査で問われる3つのリスク

はじめに:分類は「関税」だけでは終わらない

EVバッテリーは高額で、国際物流では危険物輸送や環境規制とも接続しやすい商材です。そのため、品目分類(HSコード)が一度ずれると、関税・特恵・規制対応が連鎖し、税関の事後調査(ポストクリアランス監査)で説明責任が一気に重くなります。

制度面でも、世界貿易機関の貿易円滑化協定は、各国が事後調査を採用し、結果をリスク管理に活用することを求めています。(WTO)
つまり、監査は例外イベントではなく、前提として組み込むべきリスクです。

本稿では、EVバッテリー分類を監査目線で深掘りし、監査で問われやすい3つのリスクと、ビジネス側で実装できる対策まで落とし込みます。なお、品目分類は最終的に各国税関の判断が前提です。迷う論点は事前教示(アドバンスルーリング)等で当局見解を取りに行くことが、監査コストを最小化します。(税関総合情報ポータル)

前提整理:なぜEVバッテリー分類は監査論点になりやすいのか

監査は「申告の整合性」を再構成してくる

監査の本質は、結論としての税番よりも、当時の申告が取引実態と整合していたかの検証です。世界税関機構のPCAガイドラインでも、事後調査は企業の商取引システムや契約、会計・非会計記録などの記録群を検証してコンプライアンスを測る、と整理されています。(世界関税機関)
EVバッテリーは、仕様変更や梱包形態の違いが起きやすく、この整合性が崩れやすい領域です。

バッテリーは税・物流・環境が連鎖しやすい

バッテリーは、通関分類だけでなく、危険物輸送の試験証跡、返品・回収品の取り扱い、国境を越える場合の環境手続など、社内の複数部門データがつながります。部門ごとに言葉がずれると、監査で矛盾として浮き上がります。

提示形態で分類論点が変わる

セル、モジュール、パック、さらに制御・保護部品とのセットのされ方で、説明が難しくなります。ここで重要なのは、機能として蓄電池なのか、あるいは別の機器・部品として提示されているのかを、当時の提示形態に即して説明できるかです。

まず押さえる分類の土台:85.07(蓄電池)とバッテリーパック

HS上の位置づけ

HS2022では、85.07が電気式蓄電池で、リチウムイオンは8507.60に位置づきます。(世界関税機関)
実務では、まず85.07を起点に、各国の国内細分に落とす流れになります。

バッテリーパックが85.07に属し得る理由

監査で誤りが出やすいのが、いわゆるバッテリーパックです。日本税関の関税率表解説では、セルを連結する回路を有する蓄電池(バッテリーパック)は、接続子、温度制御装置、回路保護装置、保護ハウジングなどの補助機構を含むか否かを問わず85.07項に属し、たとえ特別な装置とともに使用されるよう設計されていても85.07項に属する、と明確に整理されています。
この一文を説明できるかどうかが、監査での勝敗を分けやすいポイントです。

同じ解説では、使用済み蓄電池やそのくずは85.49に区分されることも明示されています。返品・回収品が絡む場合、ここがリスク3に直結します。

監査で問われる3つのリスク

リスク1:課税リスク(追徴、加算、延滞、そして利益率の毀損)

分類のずれが最初に刺さるのは課税です。税差が大きいほど、監査では重要度が上がります。加えて、特恵関税を適用している場合は、原産地ルール判定の前提(HS)が崩れ、影響範囲が広がります。

監査で典型的に起きるパターンは次の通りです。

  1. バッテリーパックを別の枠(例:車両部品としての扱い)で説明していた
    当局側から見ると、なぜ蓄電池として扱わなかったのかが質問になります。85.07に属し得る根拠を、当時の提示形態と機能で説明できないと不利になります。
  2. 仕様変更やサプライヤー変更で、社内マスターと実物がずれていた
    監査は、品名、型番、仕様書、BOM、写真、梱包形態から申告貨物を再構成します。事後調査が記録群を検証するプロセスであることは、WCOのPCAガイドラインの定義とも一致します。(世界関税機関)
  3. 申告の説明が「結論のみ」で、根拠が残っていない
    事後調査は過去が対象です。根拠資料が残っていないと、当時正しかったことを示せません。

実務対策の要点は、税番の正解を当てることに加え、当時の判断材料と判断プロセスを再現できる形で残すことです。

リスク2:貿易政策リスク(対象品目の特定ミスが「回避」疑義につながる)

EVバッテリーは政策対象になりやすい分野で、当局目線では分類が各種措置の入口になります。ここで問題になるのは、単なる誤りとしての分類ミスを超えて、結果として政策措置の適用を回避したように見えるリスクです。

特に次の条件が重なると、説明責任が重くなります。

  1. 高額で税額影響が大きい
  2. グループ内取引など取引形態が複雑
  3. 仕様や品名が曖昧で、仕様書が弱い
  4. 物流書類と通関書類で貨物説明がずれている

実務対策の要点は、分類メモを税番を決める紙ではなく、疑義を潰す紙として作ることです。最低限、次は揃えます。

  1. その製品の機能を一文で言い切る
  2. 付属部品が蓄電池の機能に寄与する補助機構であることを整理する
    日本の関税率表解説が、補助機構を含んでも85.07に属する旨を示しています。
  3. 提示形態を証拠化する
    梱包写真、構成表、同梱物一覧は、後から効く証跡です。

リスク3:安全・環境リスク(危険物輸送と使用済み境界の崩壊)

ここがEVバッテリー特有の深い落とし穴です。分類は税関申告だけではなく、危険物輸送と環境規制のデータとも結びつきます。

論点A:UN38.3試験とテストサマリーの整備不足

リチウム電池は、国連の試験・基準マニュアルの38.3で試験手続が示されています。UN Manual of Tests and Criteria (国連欧州経済委員会)
米国のPHMSAは、リチウム電池のテストサマリー要件が2022年1月1日に有効となり、その後2024年5月10日に改訂が有効になったことを明示しています。(パイプラインおよび有害物質安全管理局)

監査で起きやすいのは、申告は新品の蓄電池なのに、危険物輸送側の証跡(試験、テストサマリー、型番一致)が出せないケースです。この場合、分類以前に貨物の同一性が疑われます。

論点B:新品と使用済み・くずの境界

HS2022では、電気電子機器の廃棄物・くずとして85.49が整理され、使用済み蓄電池の定義も示されています。具体的には、8549.11から8549.19における使用済み蓄電池は、破損や摩耗などで使用できず、再充電もできないもの、とされています。(世界関税機関)
日本の関税率表解説でも、使用済み蓄電池やそれらのくずは85.49と整理されています。

EVでは、返品、解析返送、リファービッシュ、リコール回収などが混在します。社内では返品でも、外形的に回収・処分目的に見えると、分類だけでなく必要手続も変わり得ます。

論点C:国境を越えると環境手続が重くなる

バーゼル条約の電子廃棄物改正は、2025年1月1日に発効したと公式に示されています。(バーゼル条約)
返品・回収品が環境手続の対象に見える状況で、通関上は新品として扱っていると、書類全体の整合性が崩れます。

実務対策の要点は、分類担当だけで完結させず、通関、物流(危険物)、品質保証(試験証跡)、環境(廃棄物手続)を型番単位でつなぐことです。

監査に強い会社がやっている実務設計

1. 分類根拠を再現可能なメモにする

次の要素を必ず入れます。

  1. 製品の機能、構造、用途
  2. セル、モジュール、パックの構成と同梱物
  3. 補助機構の役割(接続子、温度制御、回路保護、ハウジングなど)
    バッテリーパックが補助機構を含んでも85.07に属するという整理が根拠になります。
  4. 結論の税番(HS6桁と国内細分)
    HS2022上の8507.60(リチウムイオン)など、HS側の位置づけも紐づけます。(世界関税機関)
  5. 判断に使った証跡の所在(仕様書、BOM、写真、テストサマリー、梱包資料)

2. 事前教示を戦略的に使う

日本税関は、輸入予定貨物の税番や税率等について事前に照会し、回答を受けられる制度を案内しています。(税関総合情報ポータル)
論点が割れる可能性がある型番は、監査で争うよりも、早期に当局判断を取りに行く方が総コストを抑えやすいです。

3. 変更管理を分類の仕組みに入れる

分類ミスそのものより、ミスが放置された状態が監査で致命傷になりがちです。最低限、次をルール化します。

  1. 型番変更、材料変更、BMS設計変更、梱包変更のたびに分類レビュー
  2. サプライヤー変更時に、仕様書と写真を再取得し同一性を確認
  3. 危険物輸送の証跡と税番情報を型番で紐づけ

監査が記録群を検証する以上、記録の整合性が通る仕組み作りが本質です。(世界関税機関)

よくある監査質問と、即答できる答え方

質問1:なぜこの貨物は85.07なのか

答えの骨子は、蓄電池の機能と提示形態です。バッテリーパックが補助機構を含んでも85.07に属すること、特定機器用に設計されていても85.07に属することを、当局向けに言語化します。

質問2:UN38.3試験とテストサマリーはあるか。型番と一致するか

国連マニュアルの38.3で試験手続が示されていること、米国PHMSAがテストサマリー要件の発効日と改訂日を明示していることを踏まえ、証跡の所在と更新管理を即答できるようにします。(国連欧州経済委員会)

質問3:返品・回収品は新品か、使用済みか。分類と手続の整理は

使用済み蓄電池の定義(再充電できない等)と85.49の位置づけを理解し、契約書と物流指示書の言葉まで含めて整合させます。(世界関税機関)
国境を越える場合は、バーゼル条約の改正発効日(2025年1月1日)を前提に、社内フローが動くようにします。(バーゼル条約)

まとめ:監査で強いのは「分類の正解」より「説明の再現性」

EVバッテリー分類は、課税、貿易政策、安全・環境が一本の線でつながる領域です。監査で問われるのは、結論の税番よりも、当時の実物に基づき説明できるか、そして同じ判断を社内で再現できるかです。(世界関税機関)

今日からの優先順位は次の通りです。

  1. 主要型番について、分類根拠メモを整備する
  2. 危険物輸送の証跡(UN38.3、テストサマリー)と税番を型番で紐づける
  3. 返品・回収品の新品と使用済みの判断基準を、契約と物流指示書の言葉まで揃える
  4. 迷う論点は事前教示で当局見解を取り、監査リスクを先に潰す (税関総合情報ポータル)

 

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投稿者: shima

嶋 正和 株式会社ロジスティック 代表取締役社長

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