米国CBPが下したセット分類の否認。多機能タブレットとキーボードの分離課税がもたらすコスト増の衝撃

2026年2月1日、米国税関国境警備局(CBP)から、電子機器メーカーや輸入業者にとって看過できない重要な裁定が下されました。それは、タブレット端末と着脱式キーボードがセットで販売される製品について、今後は一つの製品(セット)として扱わず、それぞれ個別のHSコードに分類して課税するという方針決定です。

これまで、多くの企業はこれらのセット品を自動データ処理機械(ノートパソコン等と同等)として一括で申告し、関税上の恩恵を受けてきました。しかし、今回の決定はその商習慣を根底から覆すものです。

本記事では、この技術的な分類変更がなぜ行われたのか、そして企業実務にどのような金銭的・事務的負担を強いることになるのかを深掘り解説します。

通則3の解釈変更、セット品としての特権喪失

まず、これまでの通関実務の常識をおさらいします。

通常、異なる物品(タブレット本体とキーボード)が小売用にセット販売される場合、HSコードの分類ルールである関税率表の解釈に関する通則3(b)が適用されます。これは、セット全体に本質的な特性を与えている構成要素(この場合はタブレット本体)のHSコードで、セット全体を分類するというルールです。

これにより、附属のキーボードもタブレット本体と同じコード(通常は8471.30項など)に分類され、本体が無税であればキーボードも無税で輸入することが可能でした。

しかし、今回のCBPの裁定は、この解釈を厳格化しました。CBPは、着脱式キーボードはタブレットの機能に必須ではなく、それ単体でも独立した商品価値を持つ周辺機器であると判断しました。その結果、セットとしての分類を否認し、タブレットはタブレット、キーボードは入力装置(8471.60項など)として、別々に申告することを求めたのです。

なぜこれがコストアップに直結するのか

HSコードが分かれるだけであれば、単なる事務手続きの問題に見えるかもしれません。しかし、この分離には致命的なコストリスクが潜んでいます。

最大の懸念は、対中制裁関税(通商法301条)やその他の懲罰的関税の適用です。

IT製品の多くは、WTOの情報技術協定(ITA)により基本税率は無税です。しかし、米国が中国などの特定国に対して課している制裁関税は、HSコードごとに細かく指定されています。

もし、タブレット本体(8471.30)が制裁関税の除外対象であっても、分離されたキーボード(8471.60)が制裁対象リストに入っていれば、キーボードの価格分に対して25パーセント等の追加関税が発生します。これまではセット全体の価格に対して関税ゼロだったものが、今後はキーボード部分だけ高率の課税を受けることになるのです。

さらに、品目分類が変わることで、これまで適用できていたFTA(自由貿易協定)の原産地規則を満たせなくなるリスクもあります。セット品としての原産地判定と、単体部品としての原産地判定では、計算式や必要となる部材の要件が異なるためです。

実務担当者が直面するインボイス作成の苦悩

この決定は、通関書類(インボイス)の作成業務にも多大な負荷をかけます。

これまでは、製品セット1式として1行で記載すれば済みました。しかし今後は、一つの箱に入っている商品であっても、インボイス上では本体とキーボードを別の行に分け、それぞれの単価(FOB価格)を明記しなければなりません。

ここで問題になるのが、セット価格の内訳です。

多くのメーカーはセット品としての販売価格しか設定しておらず、附属品の個別の原価や振替価格をインボイスに記載する準備ができていません。税関に対して妥当な価格内訳を提示できなければ、恣意的な価格操作(ダンピングや評価申告漏れ)を疑われるリスクが生じます。

企業が今すぐ着手すべき対応策

このCBPの方針転換を受けて、米国向けに電子機器を輸出する企業は、以下の3つの対策を講じる必要があります。

第一に、影響品目の洗い出しと関税試算です。

自社の製品ラインナップの中で、キーボードやペン、ドックなどが同梱されている製品をすべてリストアップし、それらが分離課税された場合の関税コストをシミュレーションしてください。特に対中関税の対象となるか否かは最優先の確認事項です。

第二に、インボイスシステムの改修です。

セット品番を入力した際に、自動的に本体と付属品の行に分解し、適切な単価を割り振って出力できる仕組みを構築する必要があります。手書き修正はミスの温床となるため推奨されません。

第三に、製品構成の見直しです。

関税コストが許容できないレベルになる場合、セット販売をやめて別売り(アンバンドル)にするか、あるいは付属品の調達先を関税のかからない国へ変更するサプライチェーンの再編を検討する必要があります。

まとめ

米国CBPによる多機能タブレットの分離分類決定は、単なるコードの変更ではなく、企業の利益率を直撃する実質的な増税措置です。

この決定は、今後タブレット以外の製品(スマートウォッチとバンド、ゲーム機とコントローラーなど)にも波及する可能性があります。セット品という魔法のヴェールが剥がされた今、企業は一つひとつの構成品に対する厳密なコンプライアンスとコスト管理を求められています。

 

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投稿者: shima

嶋 正和 株式会社ロジスティック 代表取締役社長

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