ファーストセール:代表的な否認・却下事例

代表的な否認・却下事例

  • Meyer Corp. v. United States(CIT 2021→再度CIT 2023)
    取引は米国向け・二重売買自体は認定されたものの、関連者間でのアームズレングス立証が不十分としてCITが否認(親会社の財務資料等の未提出が致命傷)。※その後CAFCが2022年・2024年に差戻ししており最終結論は係属中だが、「証拠不足だと否認される」好例ArentFox SchiffBDOホワイト・アンド・ケースFindlaw
  • HQ H307028(CBP本庁・AFR審理, 2020–2021頃, アパレル)
    中間業者が独立した買主として機能していない(実質は代理)、発注や工場選定の主導が輸入者側—などからボナファイド売買性を否定し、First Sale不採用Customs Mobile
  • HQ H097035 → 再検討HQ H215658(関連者間ファーストセール, 2011–2013)
    アームズレングスの証拠不足・完全なペーパートレイル欠如を理由に最初の売買価格の採用を否定。再検討でも結論は維持。 CROSSCustoms Mobile
  • H316892(Machinery CEEが現場で否認→本庁で内部助言扱い, 工具)/2022年の否認事例報道
    インコタームズや書類関係から中間業者がタイトル/危険負担を負っていないと判断→最初の売買が“売買”になっていないとして不採用(時点の港判断)。 CROSSSandler, Travis & Rosenberg, P.A.HKTDCリサーチ
  • HQ H303114(2019, 木工ツール/小売)
    契約条項で「タイトル移転」と書いてあっても、実取引でのタイトル・危険負担移転の実証が無いとして否認(“条項の宣言だけでは足りない”)。 Customs Mobileバーンズリチャードソン
  • HQ H326891(2024, 食品原料)
    多段階取引だが、上流の売買はボナファイドでないとして、輸入者→米国顧客の下流売買のみを有効な売買と認定=First Saleは使えず、上流価格は不採用Customs Mobile

共通する「否認パターン」(要チェック)

  • 中間業者が“買主”としての実体を欠く(自ら仕入先選定・価格交渉・タイトル/危険負担を負っていない)。 Customs MobileSandler, Travis & Rosenberg, P.A.
  • アームズレングス立証が弱い(関連者間で財務・原価+利益等の裏付け不提出)。 ArentFox Schiff
  • 完全な紙のトレイル不足(契約/PO/各段インボイス/支払/船荷証券/仕様などが噛み合わない)。 Customs Mobile
  • タイトル/危険負担の移転が曖昧(条項ベタ書きだけ、Incotermsの整合性不備)。

ファーストセールは実務上可能か

短く言うと――“認められるが、簡単ではない”です。
CBP(米国税関)はファーストセール自体を合法な評価方法として明確に認めて
います(Nissho Iwai判決/CBPガイダンス)。ただし、条件と証拠が揃っていることが前提で、書類が弱い案件は普通に否認されます。Justia LawU.S. Customs and Border ProtectionCROSS

なぜ「簡単ではない」のか

  • CBPは、①米国向けに明確に仕向けられている、②二つの真正な売買、③アームズレングス価格――という3要件を厳密に見ます。どれか欠けると否認の典型。U.S. Customs and Border ProtectionCROSSミラー・アンド・シェヴァリエ
  • 近年のMeyer事件では、裁判所が「余計な追加要件」を却下しつつも、立証責任は輸入者にあることを改めて示しました。つまり“使えるが、ちゃんと証明せよ”という姿勢です。Justia LawFindlaw
  • 政府自身も利用の広さや承認率の統計は把握していないと示唆(データ不足)。ゆえに「一般にどれくらい認められるか」の平均値は公表されていません。usitc.gov

実務感(目安)

  • 要件と証憑が揃えば:通常は受理されます(審査・照会は来ます)。
  • あいまいなまま出す:高確率でCF-28/29(照会・更正通知)否認の流れ。近年も否認事例が報じられています。Sandler, Travis & Rosenberg, P.A.Mohawk Global

“認められやすく”するコツ(超要点)

  • 完全な紙のトレイル:契約/PO/各段のインボイス・支払い証跡/B/L/仕様・US向け表示/関連者間の価格妥当性の裏付け。U.S. Customs and Border Protection
  • パイロット運用→横展開:数SKUで試し、照会対応の型を作る。
  • 不安なら事前照会(Part 177):評価に関する見解を取ってから本格導入。※CBPのバリュエーション裁決や解説にもT.D.96-87の考え方が繰り返し示されています。CROSSCustoms Mobile

補足(重要):「“F”インジケーター
2008年のFarm Bill1年間だけ“First Sale使用時に7501の行にFを付す”という報告義務がありました(後にレトロ申告も実施)。恒久義務ではありません。最近のCBP公式ページも、その一時的制度として説明しています。U.S. Customs and Border Protection+1

結論:ファーストセールは普通に通ります(制度として確立)。ただし**“出せば通る”ほど緩くはない**。3要件を書類で明確に立証できる体制があるかどうかで、体感の通りやすさが決まります。

ファーストセールの土台となった「日商岩井(Nissho Iwai)事件」って何?

結論
サプライチェーンに「メーカー → 商社(中間業者) → 米国の買い手」という三者売買があるときでも、条件を満たせばメーカー→商社の“最初の売買価格”で関税評価してよい、と連邦巡回控訴裁(CAFC)がはっきり示した有名判決です。以後の“ファーストセール”の土台になりました。Justia Law


何が起きた?

  • 当事者と品目
    メーカー=川崎重工(日本)、中間業者=日商岩井、米国の買い手=NY州の公共交通当局(MTA)。品目は地下鉄の車両Justia Law
  • 争点
    米国税関(当時)は**「商社→MTAの価格(高い方)」で関税計算。日商岩井側は「メーカー→商社の価格(低い方)」**を使うべきと主張。Justia Law
  • 判決(1992年)
    連邦巡回控訴裁は商社→MTA価格ではなく、メーカー→商社価格で評価すべきと判断し、下級審(CIT)の判断を覆しました。Justia Law

何を基準にしたの?(“Nisshoテスト”)

判決は、最初の売買価格を使える条件を整理しました。要はこの3点です:

  1. 米国向けに明確に仕向けられている(clearly destined for the U.S.)
  2. **真正な売買(bona fide sale)**がある
  3. アームズレングス(関連者間でも価格が歪んでいない)
    これらを満たすとき、メーカー→中間業者の価格を取引価格(transaction value)として採用できる、と明記しています。Justia Law

その後、実務ではどう運用されている?

  • 財務省決定 T.D. 96-87CBP裁決が、Nisshoの考え方を具体化。
    「インポーター申告価格が原則」だけど、上の3条件を書面で立証できれば**“ファーストセール”が使える**、という運用が確立。必要書類は契約/PO/各段のインボイス・支払証跡/B/Lなど完全なペーパートレイルCustoms Mobile
  • CBPの**インフォームド・コンプライアンス(ICP)でも、“真正な売買”と“米国向け売買”**の確認ポイントが案内されています。U.S. Customs and Border Protection

ビジネス目線での要点

  • イメージ
    メーカー(日本) → 商社(海外) → 米国輸入者
    ↑この左側の最初の価格で評価できれば課税ベースが下がる関税コストが下がる。ただし3条件+証憑がカギ。Justia LawCustoms Mobile
  • 実務Tip:三者でNDA→書類共有→数SKUで試行照会対応の型を作って横展開。CBPはケースバイケースで見るので、書類の厚みが成否を分けます。Customs Mobile