貿易実務の基礎|HSコード分類の「通則3」をやさしく解説

── 複数の項が競合するとき、どのルールで決着をつけるか ──

2026年3月16日

HSコード(輸出入統計品目番号)を決定するとき、通則1・通則2を経ても「この商品は複数の項に当てはまりそうだ」と迷うケースがあります。そのときに登場するのが、**関税率表の解釈に関する通則(以下、通則)の「通則3」**です。

通則3は、「二以上の項に属するとみられる物品」に適用される最終調整ルールであり、3つのサブルール(a)(b)(c)で構成されています。重要なのは、これらに優先順位があることです。まず(a)を試み、それでも決まらなければ(b)へ、それでも決まらなければ(c)へと進みます。

本記事では、通則3の(a)から(c)までを、条文の意味から実務での使い方までビジネスパーソン向けにわかりやすく深掘りします。


第1章 通則3の「入口条件」を正しく理解する

通則3はいつ登場するか

通則3が適用されるのは、主に次の2つのケースです。

  1. 通則2(b)の規定を適用した結果、物品が二以上の項に属するとみられる場合
  2. その他の理由によって、物品が二以上の項に属するとみられる場合

通則2(b)は「複数の材料・物質からなる製品について、それぞれの材料に対応する項を候補として挙げてよい」と認める入口の規定です。その結果として複数の項が競合するとき、決着を下すのが通則3の役割です。

また「その他の理由」とは、たとえば「スポーツ用品」であり同時に「電子機器」でもあるウェアラブル端末のように、物品の性格そのものが複数の項にまたがるケースを指します。

通則3を使う前に確認すること

注意: 通則3は、通則1(部注・類注・項の規定)で分類が確定しない場合にのみ使います。

関税率表の部注・類注に「この項にはXXを含まない」「この項はYYのみとする」と明記されている場合は、通則3を持ち出す前に通則1で判断が決まっています。実務では、「部注・類注・項の規定を読んで、そこで答えが出ないか」を必ず確認することが第一です。


第2章 通則3(a):最も特殊・限定的な項を選ぶ

条文の意味と「特殊限定性の原則」

「最も特殊な限定をして記載をしている項が、これよりも一般的な記載をしている項に優先する。」

つまり、競合する項のうち**「より具体的・詳細に商品を描写している項」を採用する**というルールです。これを「特殊限定性の原則」または「特定性の原則」と呼びます。

具体例で理解する

  • 例① 名称は種類に優先する(電気カミソリの場合)
    • 85.10項:電気かみそり(名称による記載)
    • 85.09項:電動装置を自蔵する家庭用電気機器(種類による記載)
    • 結論: 85.10項は「電気カミソリ」という商品名そのものを記載しており、より具体的であるため85.10項が優先されます。
  • 例② 自動車タイヤの場合
    • 40.11項:ゴム製の空気タイヤ(素材・形態による限定)
    • 87.08項:自動車の附属品(用途による一般的な記載)
    • 結論: 「ゴム製の空気タイヤ」のほうが限定的・具体的な記載であるため、40.11項が優先されます。

通則3(a)の重要な例外

見落としがちですが、通則3(a)には重要な例外があります。

「AとBからなる複合品」について「A専用の項」と「B専用の項」が競合しているとき、どちらの項も物品の全体ではなく一部しか記載していないため、特殊性は同等(等しく特殊)とみなされます。この場合は通則3(a)での決着がつかないとして、次の通則3(b)へ進みます


第3章 通則3(b):本質的特性(重要な特性)による分類

条文の意味

「(a)の規定により所属を決定することができないものは、(中略)当該物品に重要な特性を与えている材料又は構成要素から成るものとしてその所属を決定する。」

適用対象となる4つの物品

通則3(b)が適用できるのは、次の4種類に限られます。自社商品がどれに当たるかを確認しましょう。

区分内容
混合物二以上の材料・物質を混ぜ合わせたもの
異なる材料から成る物品異なる種類の材料を組み合わせて作った物品
異なる構成要素で作られた物品異なる機能(役割)を持つ部分を結合した物品
小売用のセットにした物品特定の目的のために共に包装された二以上の物品

「重要な特性(本質的特性)」をどう判断するか

どれか一つが絶対的な基準というわけではなく、**「どの要素が消費者にとっての価値・用途・機能を本質的に与えているか」**を以下の要素から総合的に判断します。

  • 材料・構成要素の性質
  • 容積・数量・重量
  • 価格(コスト構成)
  • 物品全体における当該材料の役割・機能

小売用セットの3要件

「小売用のセット」として通則3(b)を適用するには、次の3要件をすべて満たす必要があります。

  1. 異なる項に属する二以上の物品からなること
  2. ある特定の必要性を満たすため、または特定の活動を行うために共に包装されていること
  3. 再包装しないで、使用者に直接販売する状態に包装されていること

具体例で理解する

  • 例① サンドイッチとポテトチップスのセット
    • 牛肉入りサンドイッチ(16.02項)とポテトチップス(20.04項)のセット。牛肉(サンドイッチ)が本質的特性を与えていると判断され、16.02項に分類されます。
  • 例② おもちゃ入りチョコレートエッグ
    • 外側がチョコレートで、内側におもちゃの入ったカプセルが内包されているもの。混合・複合品ですが、チョコレートが本質的特性を与えていると判断され、18.06項(チョコレート)に分類されます。

第4章 通則3(c):数字上の配列で最後の項

条文の意味と実務上の位置づけ

「(a)及び(b)の規定により所属を決定することができない物品は、等しく考慮に値する項のうち数字上の配列において最後となる項に属する。」

通則3(c)は、通則3(a)でも(b)でも分類を決定できなかった場合(例:2つの構成要素が等しく本質的特性を与えており、優劣がつけられない場合など)の**「最後の手段」**です。

等しく競合する複数の項がある場合、関税率表における番号(項番)が後に来るもの、すなわち数字が大きい項を機械的に選びます。実務上ここまで来るケースは稀ですが、分類根拠の最終防衛線として認識しておく必要があります。


第5章 通則3全体の適用フロー

実務でHSコードを決める際の通則3の判断フローは以下の通りです。

  1. 通則1を確認:部注・類注・項の規定で決まれば終了。
  2. 通則2を確認:通則2(b)等の適用で複数の項が競合したら通則3へ。
  3. 通則3(a)を適用:より特殊・限定的な記載の項を選ぶ。決まれば終了。
    • ※各項が物品の「一部のみ」を記載し、等しく特殊とみなされる場合は4へ。
  4. 通則3(b)を適用:本質的特性を与えている材料・構成要素の項を選ぶ。決まれば終了。
  5. 通則3(c)を適用:どうしても決まらない場合のみ、数字上の配列で最後となる項を選ぶ。

第6章 実務担当者が知っておくべき3つのポイント

  • ポイント①:「なぜこの項か」を論理的に説明できるか税関審査や事後調査の場面では、「通則3(b)を適用し、重量とコスト構成から本質的特性がXXにあると判断しYY項とした」と論理的に文書化できることがコンプライアンスリスクの低減につながります。
  • ポイント②:本質的特性の説明は「客観的なデータ」で支える「なんとなくこちらがメインだから」という主観は通用しません。仕様書、重量、価格比率などの客観的なデータを用意して税関に説明できる体制を整えましょう。
  • ポイント③:事前教示制度を積極活用する判断が難しい場合は、輸入前に税関の**「事前教示制度」**を活用することを強くお勧めします。回答は原則3年間尊重され、安心して輸入計画を立てられます。

まとめ:通則3を「道具」として使いこなす

規定内容決め手
通則3(a)特殊限定性の原則より具体的・限定的な記載をしている項が優先
通則3(b)本質的特性の原則物品に重要な特性を与えている要素の項を選ぶ
通則3(c)後順位の原則等しく競合する項のうち、最後(番号が最大)の項を選ぶ

実務では、通則3(b)の「本質的特性」の判断が最もよく議論になります。仕様書・コスト分析・使用用途の3点を整理してから判断に臨むことが、正確な分類の第一歩です。


参考リンク(情報出所)

本記事の作成にあたり参照した公式機関・一次資料です。

免責事項

本記事は、2026年3月16日時点において公開されている公式機関の資料をもとに、一般的な情報提供を目的として作成したものです。実際のHSコードの決定は商品の詳細な仕様等により異なるため、特定の貨物に対する分類の正確性を保証するものではありません。実際の申告にあたっては、通関士や税関へ必ずご確認ください。

チップレット分類の証拠チェックリスト完全版

8542で行けるかを、名称ではなく証拠で固めるための実務ガイド

半導体業界では、先端パッケージで接続された小さな補助ダイが chiplet と呼ばれ、UCIe は package level の die-to-die I/O を対象にした業界標準として整備されています。けれども、税関実務で chiplet という呼称そのものが税番を決めるわけではありません。分類で問われるのは、輸入時点の構造が第85類の法的定義にどう当てはまるかです。 (Newsroom)

日本税関の2026年輸入統計品目表では、8542 は 8542.31 のプロセッサー及びコントローラー、8542.32 の記憶素子、8542.33 の増幅器、8542.39 のその他に分かれています。公開されている第85類注12では、集積回路をモノリシック、ハイブリッド、マルチチップ、マルチコンポーネント集積回路に整理し、85.41 と 85.42 は 85.23 を除いて他の項に優先するとしています。実務上は、用途説明より先に、構造説明を法文の言葉で出せるかが勝負です。 (税関総合情報)

なぜ、証拠チェックリストが必要なのか

日本税関の事前教示の案内では、照会書に加えて、サンプル、写真、原材料、加工工程の分かる資料などを添えて提出できるとされています。さらに現行の通達では、参考資料に不備がないかを確認し、足りなければ補正や追加資料を求め、提出された照会書と資料等をもとに所属区分を検討すると明記されています。つまり、chiplet 案件では「どの税番を主張するか」より前に、「何を証拠として最初に揃えるか」が重要です。

ビジネス面でも、文書による事前教示は、輸入前に関税率を把握しやすくし、原価計算、輸入計画、販売計画を立てやすくします。しかも、案内資料では、文書による回答内容は全国どこの税関でも原則3年間尊重されると説明されています。chiplet のような境界案件では、分類の安定性そのものが利益率と納期管理に直結します。

公式資料が示す、分類が割れる境界線

同じホール系でも 8541 と 8542 に分かれる

日本税関の分類例では、4個の端子を有するホール素子は、InSb の層を持つフェライト基板とフェライトヨークからなり、リードフレーム上に搭載され、ワイヤボンディングされる構造として 8541.51 に分類されています。これに対し、1つのパッケージ内に2つのリダンダントセンサーを有するデュアルダイホールセンサー集積回路は、2つのセンサーがモノリシック集積回路で、その他の能動又は受動回路素子を含まない構造として 8542.39 に分類されています。似た機能でも、分類を分けるのは用途名ではなく、内部構造です。

モジュールという商品名だけでは決まらない

日本税関の分類例には、別々のプロセスで製造されたトランジスタ、ダイオード、集積回路などを銅のリードフレーム上に搭載し、金属線で結び、樹脂成形した電力モジュールを 8542.39 とした例があります。逆に、日本税関の総説では、85.23 又は 85.42 の MCO とみなせず、個別の機能も持たないメモリーモジュール、たとえば SIMM や DIMM は、16部注2に基づいて分類し、ADP 機械用なら 84.73 項に入ると説明しています。モジュールという名称は、8542 を保証しませんし、8542 を排除もしません。決め手は、どこまでが不可分な集積構造で、どこからが別機能のモジュールや部分品かです。

国際的にも、IC の定義は広がってきた

EU の公式規則でも、2017年1月1日から electronic integrated circuits の定義が multi-component integrated circuits を含むように拡張され、その結果、従来は heading 8542 から外れていた品目が 8542 に分類されるようになったと説明されています。chiplet や advanced packaging の案件で「昔はモジュール扱いだった」という社内記憶だけに頼るのは危険です。制度側も、集積の実態に合わせて定義を広げてきたからです。

実務で使えるチップレット分類の証拠チェックリスト

1. 輸入時点の完成状態を、1枚で説明できるか

最初に必要なのは、輸入する状態そのものの固定です。裸ダイなのか、1パッケージ品なのか、インターポーザ付きなのか、基板実装済みなのかを、外観写真、型番、梱包単位、輸入品目名で一致させてください。税関は照会書と参考資料を前提に審査し、資料不足なら補正や追加提出を求めます。

2. ダイと周辺部品の一覧表を作っているか

第85類注12は、モノリシック、ハイブリッド、マルチチップ、MCO を構成要件で分けています。したがって、ダイ数、センサーの有無、抵抗器、コンデンサー、インダクター、発振系部品の有無を、部品レベルで一覧化しておく必要があります。カタログの機能説明だけでは足りません。部品表とパッケージ構成表が必要です。

3. その他の能動又は受動回路素子の有無を白黒つけているか

第85類注12のマルチチップ集積回路の定義は、その他の能動又は受動回路素子を含まないことを前提にしています。日本税関のデュアルダイホールセンサー IC の分類例でも、その他の能動又は受動回路素子を含まないことが明示されています。ここは、最も争点になりやすいので、BOM と断面図で曖昧さを残さないことが大切です。

4. PCB、キャリア、リードフレームの役割を説明できるか

MCO の定義には、ピン、リード、ボール、ランド、バンプ又はパッドを通して PCB その他のキャリアへ組み立てる部品として一体化されていることが書かれています。一方で、MCO とみなせないメモリーモジュールは、84.73 や 85.48 など別の整理に移ります。つまり、PCB が単なる搭載先なのか、機能を持つ別体ボードなのかを説明できないと、8542 の主張は弱くなります。

5. 写真だけでなく、X線画像や側面図まで用意しているか

日本税関の分類例そのものが、ホール素子の X線画像や、デュアルダイホールセンサー IC の側面図を掲載しています。これは、図面や画像が単なる補足ではなく、内部構造を示す有力な証拠だということです。chiplet 案件では、外観写真だけではなく、X線画像、側面断面図、ダイ配置図、ワイヤボンドやリードフレームの説明図まで揃えるのが安全です。

6. 製造工程と工程別 BOM を提出できるか

税関の案内では、事前教示の際に原材料や加工工程の分かる資料を提出できるとされていますし、通達でも資料不備があれば追加提出を求めるとしています。chiplet は前工程、後工程、先端パッケージ、テスト工程が分かれるため、工程表がないと、どこで不可分の一体物になったのかを説明しにくくなります。工程フローと工程別 BOM は、技術資料であると同時に分類資料でもあります。

7. 商品名ではなく、法文の言葉に置き換えて説明しているか

社内では chiplet package、compute tile、I/O die、advanced package という呼び方で十分でも、税関にはそれだけでは伝わりません。説明文は、第85類注12の言葉、つまりモノリシック、ハイブリッド、マルチチップ、MCO、半導体ベースセンサー、インダクターなどの法文に寄せて書くべきです。名称ではなく、法的定義へのマッピングができて初めて、説明が通関書類になります。 (税関総合情報)

8. 迷った段階で、文書による事前教示に切り替える基準があるか

chiplet 案件は、8541、8542、8473、8543 の境界をまたぐことがあります。資料が揃っているのに社内で見解が割れるなら、通関現場まで持ち込まず、文書による事前教示に切り替える方が合理的です。日本税関の案内では、文書回答は輸入計画と販売計画を立てやすくし、全国で原則3年間尊重されるとされています。経営判断としても、分類の不確実性を早く消す価値は大きいと言えます。

この記事の結論

chiplet 分類で本当に問われるのは、先端技術をどれだけ詳しく知っているかではありません。輸入時点の構造を、税関の法文で、証拠付きで翻訳できるかです。公開資料を並べてみると、税関はすでに、ホール素子、デュアルダイセンサー IC、電力モジュール、メモリーモジュールのような境界事例を、内部構造と一体性で見分けています。chiplet 案件でも、勝ち筋は同じです。名称で押し切らず、証拠で組み立てることです。

参照資料

  1. UCIe Consortium, Specifications。package level の die-to-die I/O 標準に関する公式説明。 (UCIe Consortium)
  2. Intel, Explaining Common Chip Terms。chiplet を small companion dies connected with advanced packaging と説明する公式記事。 (Newsroom)
  3. 日本税関, 輸入統計品目表 85類 2026年1月1日版。8542.31、8542.32、8542.33、8542.39 の現行区分。 (税関総合情報)
  4. 日本税関, 第85類注 12。モノリシック、ハイブリッド、マルチチップ、MCO の定義と、85.41 と 85.42 の優先関係。
  5. 日本税関, 関税率表解説・分類例規 85類。ホール素子、電力モジュール、デュアルダイホールセンサー IC の分類例。
  6. 日本税関, 85類総説。SIMM、DIMM など、MCO とみなせないメモリーモジュールの取扱い。
  7. 日本税関, HS2022 の概要。事前教示で提出できる参考資料と、文書回答のメリット。
  8. 日本税関, 関税法基本通達 第2章。資料不備時の補正、追加資料、補足説明の扱い。
  9. 欧州委員会, Implementing Regulation 2020/524。MCO を含む形に integrated circuits の定義が拡張されたことの公式説明。

免責事項:本記事は公開資料に基づく一般的な情報提供であり、個別貨物の最終的な税番、税率、原産地認定、他法令適用を保証するものではありません。実際の申告前には、最新の法令、分類例規、事前教示制度、所轄税関への確認を行ってください。