マレーシアと中国の間で、原産地証明書(Certificate of Origin)の電子データ交換が動き出します。マレーシア投資・貿易産業省(MITI)と中国税関総署(GACC)は、ACFTA(ASEAN中国FTA)とRCEPの枠組みで、原産地証明書データを当局間で電子的に交換する共同取決め(Joint Arrangement)に合意しました。初期段階は、マレーシアから中国向けに、Form E(ACFTA)とRCEPの原産地証明書データを一方向でリアルタイム連携し、2026年1月の運用開始を目標としています。miti+2
この動きは、単なる「書類の電子化」ではありません。通関の現場では、原産地証明の真正性確認と、関税優遇の適用判断がより迅速になり、同時に不正や誤りが見つかりやすくなる方向に進みます。マレーシアで生産し中国へ輸出する企業、またはマレーシア拠点をサプライチェーンに組み込む企業にとって、実務の影響は小さくありません。miti

何が始まるのか ポイントは当局間のデータ連携
今回の枠組みの要点は、原産地証明書そのものを企業間で電子送付するというより、当局が保有する証明データを、国境を越えて安全に共有し、輸入時の真正性確認と原産地検証を効率化する点です。MITIの発表では、文書送付時間の短縮、証明書の真正性確認の迅速化、機密性と安全性の向上、不正利用リスクの低減が狙いとして示されています。digitalizetrade+1
対象はACFTAのForm EとRCEP原産地証明書
初期フェーズで電子連携されるのは以下です。thesun+1
- ACFTAのForm E(マレーシア発、中国向け)
- RCEPの原産地証明書(同)
いずれも、関税優遇の適用において重要な「原産性の証拠」なので、真正性確認が速くなるほど、輸入通関の確度とスピードが上がる反面、誤った証明や整合しないデータは早期に検知されやすくなります。miti
仕組み マレーシアNSWと中国EODESを接続
MITIの説明では、マレーシア側はNational Single Window(NSW)を介して、中国側のElectronic Origin Data Exchange System(EODES)と接続します。thesun+1
NSWはマレーシアの貿易手続きを集約する電子ゲートウェイで、2009年から稼働しており、税関申告(eDeclare)、許認可(ePermit、ePermitSTA)、決済(ePayment)、マニフェスト(eManifest)、ePCO(電子特恵原産地証明)など6つの中核eサービスで構成されています。NSWは財務省主導のイニシアチブで、Dagang Net Technologies社が開発・運用・管理を担当し、25,000以上のユーザー、年間1億件以上の電子取引を処理しています。MITIはePCOなどの発給関連モジュールの所管当局でもあり、ASEAN単一窓口(ASW)のマレーシア側リード機関としても機能しています。miti+3
つまり今回のeCOデータ交換は、既存のNSW基盤の上に「中国税関との直結ルート」を乗せるイメージです。
なぜ今なのか 単発の施策ではなく、単一窓口協力の延長線
この話は突然出てきたものではありません。マレーシア財務省は2024年6月18日、アンワー首相と中国の李強首相の会談を経て、両国がNSWを軸に単一窓口協力を検討する共同作業部会(Joint Working Group on Single Window Cooperation)を設置し、貿易手続きのデジタル化、重複書類の削減、より正確な情報交換を進める方向性を示しています。この時点で、財務省第二大臣とGACCの于建華関税総長が単一窓口協力に関する共同声明に署名しました。mof
今回の原産地証明の電子連携は、その具体的なユースケースの一つと捉えると理解しやすいです。thestar
ビジネスへのインパクト 速くなるのは通関だけではない
1. 通関スピードとリードタイムの短縮余地
原産地証明の真正性確認が当局間データで迅速化すれば、書類照合の待ち時間や確認照会が減ることが期待されます。MITIも「文書送付時間の削減」を効果として挙げています。customs+1
ただし、現場オペレーションが「紙提出不要」まで一気に進むかは、輸入地税関の運用次第です。中国は2020年5月から電子PCO(ePCO)の電子送信を義務づけていますが、初期段階では従来手続きとの併走を想定しておくのが安全です。jetro+1
2. 偽造・改ざんリスクの低下と、情報漏えい対策
MITIは、証明書の真正性確認の迅速化、セキュリティと機密性の向上、第三者による不正利用の抑制を明記しています。電子データ交換は、両国関係当局間での暗号化された安全な情報共有を通じて貿易活動を合理化します。thesun+1
対外取引が増えるほど、CO番号の悪用や書類改ざんの温床は広がります。データ連携は、ここに直接メスを入れる施策です。
3. 原産地管理の厳格化 データ品質がそのままリスクになる
当局間でデータが照合されやすくなるほど、次のような「ありがちなズレ」が通関トラブルの起点になります。
- インボイス記載とCO記載の不一致(品名、数量、HS、インボイス番号など)
- 原産地判定根拠の弱さ(CTC、付加価値、工程証憑が不十分)
- 訂正や再発給の社内フロー未整備(誰がいつ何を直すか曖昧)
電子化が進むと、監査証跡が残りやすくなる一方、誤りも残ります。便利になった分だけ、内部統制の完成度が問われます。miti
実務対応チェックリスト いま企業がやるべきこと
1. 自社の対中輸出で、ACFTAとRCEPのどちらを使うかを棚卸しする
関税率の有利不利だけでなく、原産地規則の満たしやすさ、証明の取りやすさ、顧客側の通関運用を含めて選びます。
2. 原産地証明の入力データの品質を上げる
申請担当者任せにせず、インボイスとCO、BOM、原産地判定シートの突合ルールを作り、ミスが起きる前提で二重チェックを仕組みにします。
3. 修正・取消・再発給の手順を決める
電子連携があるほど、訂正の影響は広がります。輸入者、通関業者、中国側の申告タイミングを踏まえ、社内の判断基準を文書化します。
4. 取引先と「通関で何が変わるか」を事前にすり合わせる
一方向連携なので、まず恩恵を受けやすいのはマレーシア発中国向けです。中国側の申告で必要になる情報(CO参照番号の伝達方法など)を確認しておきます。thesun+1
今後の展望 eCOは世界的に増える
中国のEODESは、2019年11月1日にシンガポールとの間でACFTAおよび中国・シンガポールFTAに基づくPCOと非加工証明書(CNM)の電子提出システムとして運用を開始しました。その後、2024年11月にはシンガポールとRCEPベースのPCOもEODESに追加する覚書が締結されています。linkedin+2
マレーシア側も、ASEAN域内ではASEAN単一窓口(ASW)を通じてe-Form D(ATIGA電子原産地証明)の交換運用経験を積んでいます。マレーシアは既に、ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、ミャンマー、フィリピン、タイ、ベトナム向けにATIGA e-Form Dを電子送信しています。customs+1
今回の連携は、二国間の利便性向上に留まらず、域内・多国間での「原産地データ連携の標準化」へつながる可能性があります。thestar+1
まとめ
マレーシアと中国のeCOデータ交換は、通関の迅速化と不正抑止を同時に進める施策です。現場に近いほどメリットは出ますが、同時に、原産地管理の甘さが表面化しやすくなる点が最大の注意点です。miti
特に、マレーシア拠点から中国へ輸出する企業は、申請データの品質、訂正フロー、原産地判定の証拠書類の整備を「通関のため」ではなく「監査対応のため」に引き上げることが、結果的にリードタイム短縮とトラブル削減に直結します。miti
注:制度運用の詳細は当局の通達や通関実務で変わり得ます。最新の運用はMITIおよび関係当局、通関業者の案内で必ず確認してください。
- https://www.miti.gov.my/miti/resources/Media%20Release/%5BFINAL%5D_Media_Statement_Signing_JA_MITI_GACC_2025-11-13.pdf
- https://www.reuters.com/world/asia-pacific/malaysia-china-exchange-trade-certificates-electronically-2026-2025-11-13/
- https://thesun.my/news/malaysia-news/people-issues/malaysia-and-china-to-launch-electronic-trade-data-exchange-in-2026/
- https://www.digitalizetrade.org/projects/electronic-origin-data-exchange-system-china-eodes
- https://www.miti.gov.my/index.php/pages/view/1149
- https://www.dagangnet.com/trade-facilitation/national-single-window/
- https://eec.eaeunion.org/upload/medialibrary/2b3/6rnswsy760n0klvpbqztvc430qbmxxtx/7.2-EN-Eva-Chan-add-on-MY-NSW_210140822.pdf
- https://www.miti.gov.my/index.php/pages/view/3911
- https://www.mof.gov.my/portal/en/news/press-release/malaysia-china-agree-on-single-window-cooperation
- https://www.thestar.com.my/business/business-news/2024/09/18/national-single-window-initiative-to-boost-msia-china-trade
- https://customs.gov.sg/businesses/rules-of-origin/eodes-with-china/
- https://www.jetro.go.jp/biznews/2025/12/275c35e30a3044d8.html
- https://www.linkedin.com/posts/ministry-of-finance-singapore-customs_singaporecustoms-tradeagreement-eodes-activity-7265304259225690112-HClA
- https://customs.gov.sg/businesses/rules-of-origin/asw/
- https://theedgemalaysia.com/node/779584
- https://www.businesstimes.com.sg/international/asean/malaysia-china-exchange-trade-certificates-electronically-2026
- https://www.businesstoday.com.my/2025/11/13/malaysia-china-begin-electronic-exchange-of-trade-certificates-from-jan-2026/
- https://www.jastpro.org/files/libs/1682/202212081408258370.pdf
- https://www.dnex.com.my/2024/dnex-receives-contract-extension-for-national-single-window-for-trade-facilitation-2/
- https://unece.org/fileadmin/DAM/cefact/single_window/sw_cases/Download/MalaysiaUseOfEDocuments.pdf