輸入実務で「バッテリーパック」とひとくちに言っても、実際には電池セルそのもの、セルを収納する筐体、据置型エネルギー貯蔵設備のコンテナ、車載機器として固定されるモジュールなど、対象は広く、分類の論点も分岐します。 ここで取り上げるCBP Headquarters Ruling Letter HQ H351314(2026年1月20日付)は、狭義のバッテリーパックそのものではなく、ピックアップトラック荷台に固定する鋼製トランスファータンク(ディーゼル燃料など非可燃性液体の移送用タンク)の関税分類を扱った裁定です。
ただし、この裁定は次の2点で、電池関連製品の分類検討にも強くつながります。
車両用の部品(8708)として扱いたいという主張に対し、より具体的な品目(7309)が追加米国解釈規則に基づき優先されることを明確に示したこと。 輸送用コンテナ(8609)の要件を、フィッティングや運用実態に踏み込んで判定しており、同裁定で参照されるバッテリーエネルギー貯蔵システム用コンテナ(HQ H329722)と合わせて、電池関連の筐体やコンテナ製品に直結する論点を含むこと。 以下、HQ H351314を軸に、ビジネス目線で整理していきます。
1. 結論:なぜ7309.00.00になったのか HQ H351314は、先行裁定であるNY N333141(2023年6月7日付)を確認・維持し、対象となる鋼製トランスファータンクをHTSUS 7309.00.00(鉄鋼製で容量300リットル超、機械的または熱的装置を備えない貯蔵タンク等)に分類しました。 裁定文では、当該品目に適用される一般税率(Column 1 General rate)は0%(無税)であることも明示されています。
裁定上の主要な争点は、概ね次の3点に整理されます。
7309か、輸送用コンテナの8609か。 車両の部分品として8708に分類できるか。 容量要件から見て7310に該当しないか(容量300リットル超か否か)。 結論だけを見て「車に載せる装置は車両部品」と短絡しがちですが、CBPはこの裁定で、品目の機能と設計、そして法体系上の優先順位を丁寧に整理しています。
2. 事実関係:CBPが見た「商品」の姿 裁定を読み解くうえで重要なのは、CBPがどの状態の製品を「輸入される物」として認定したかです。 HQ H351314が認定した事実関係は、次のようなポイントに集約されます。
鋼製タンクで、表示容量は100ガロン(約378.5リットル)、14ゲージ鋼板を用いた直方体形状。 上部に2インチの開口部が2か所あり、ディーゼル燃料などの非可燃性液体を移送する用途として販売される。 ピックアップトラックの荷台にボルトで固定して使用し、トレーラーに積み替える運用は想定されていない。 輸入時に固定用キットが付属し、持ち上げ用のリフティングアイを備えるが、構造上、頻繁かつ容易な脱着を前提とする設計ではない。 輸入時点ではポンプ等の機械的装置や加熱・冷却等の熱的装置を備えていない。 推奨充填容量は96ガロンとされるものの、タンク自体の容量は100ガロンであり、300リットル超であることは変わらない。 ここで重要なのは、「リフティングアイがある」「トラックに載る」といった要素だけでは、直ちに「輸送用コンテナ」や「車両部品」には結びつかないという点です。 CBPは、固定構造と運用の想定(据置的に荷台に固定されるか、繰り返し輸送に用いるか)を重視して評価しています。
3. 争点その1:なぜ8609の「輸送用コンテナ」ではないのか 8609見出しは、道路・鉄道・船舶・航空など複数の輸送モードで、繰り返し使用されることを前提とした輸送用コンテナ類を対象としています。 HQ H351314は、解説書(Explanatory Notes)における「フィッティング(フック、リング、キャスター、支持部など)」の概念を軸に、8609への該当性を検討しています。
HQ H351314のロジックを実務向けに整理すると、ポイントは次の通りです。
8609は単に「運べる箱」ではなく、積み替えや輸送中の固定のためのフィッティングを備え、車両や船舶への積載と荷下ろしを繰り返す構造・設計であることが前提。 液体・ガス用コンテナについても、複数の輸送モードに取り付け可能な支持構造を持つ場合に8609となり、それ以外は材質等に応じて別見出しへ分類されることが解説書で示されている。 対象タンクの固定構造は、ピックアップトラックへの恒久的な取り付けを想定しており、ドアツードア輸送を支えるフィッティング(キャスターや標準コーナーキャスティング等)を欠く。 以上から、対象物品は8609が想定する「輸送用に特別に設計され装備されたコンテナ」には該当せず、8609から除外される。 HQ H351314は、バッテリーエネルギー貯蔵システム(BESS)用の鋼製コンテナを8609ではなく7309に分類したHQ H329722を引用し、同様の考え方を踏襲しています。 HQ H329722では、BESS用コンテナについて「貨物を輸送するためではなく、所定の場所で電池を収納・保管するための容器」であるとして、8609ではなく7309.00.00と結論づけています。
この判断枠組みは、電池関連設備の「コンテナ型」商品にもそのまま波及します。 外観がコンテナに似ていても、運用としてドアツードア輸送を前提とするか、輸送環境の動的荷重に耐える構造か、積み降ろし用の仕様がどこまで備わっているかといった要素が、分類を左右し得るということです。
4. 争点その2:なぜ8708の「車両部品」より7309が優先されるのか 依頼者側は、当該タンクを8708(自動車の部分品及び付属品)に分類することを主張しました。 これに対してCBPは、追加米国解釈規則1(c)(Additional U.S. Rule of Interpretation 1(c))を前面に出し、「部品・付属品」の見出しは、より具体的な品名で規定された見出しに優先されない、という原則を確認しています。
HQ H351314では、たとえ車両に取り付けて使用する専用品であっても、鉄鋼製で一定容量を超え、機械的または熱的装置を備えない「タンク」という具体的な品名見出し(7309)が存在する以上、8708よりも7309の方が具体的であり、優先されると整理しています。 また、Section XVIIの解説書においても、部品・付属品が同部の見出しに分類されるためには、「他の見出しでより具体的に規定されていないこと」が条件になると説明されており、この点からも8708への分類は否定されています。
この構図は、バッテリーパックの分類で頻出する論点と同型です。 例えばEVや産業機器向けの電池であっても、電池そのものとしての具体的見出し(一般には8507)が存在する場合、「車両部品」や「機械の部品」に寄せる主張は通りにくくなる局面があり得ます。
5. 争点その3:7310ではなく7309になる容量要件 HQ H351314で扱うタンクの容量は100ガロンであり、裁定文中でも約378.5リットルと明示されています。 7309と7310の分岐は「容量が300リットルを超えるかどうか」という明快な線引きであり、裁定では、当該タンクは300リットル超であるため7310から除外され、7309に該当すると結論付けています。
ビジネス実務では、容量が境界付近にある商品や、安全上の推奨充填量とタンク容積が異なる商品が少なくありません。 そのため、次の点を社内で明確にしておくことが重要です。
「容量」の根拠となる資料は何か(設計図、試験成績書、カタログ表示、タンク刻印など)。 タンク容積と推奨充填量が異なる場合、分類上どちらを説明の軸に据えるか。 輸入時点で仕様が固定されているか(容量変更の余地がある設計かどうか)。 HQ H351314では、推奨充填容量96ガロンという説明が追加されても、タンク容積が100ガロン=300リットル超であるという事実は変わらないとして、7309の要件を満たすと判断しています。
6. ビジネスへの落とし込み:設計・調達段階から分類を織り込む HQ H351314は、分類が「用途の主張」ではなく、「設計仕様」と「輸入時点の状態」によって決まりやすいことをあらためて示しています。 この観点から、設計・調達の段階で押さえておきたいポイントを整理します。
6-1. 8609を狙うなら、設計要件を明文化する 8609での分類を狙う製品(コンテナ型筐体、ラック型輸送容器、設備用モジュールなど)では、次の問いに答えられないとリスクが高まります。
複数の輸送モード(道路・鉄道・船舶・航空)をまたいで使用する設計か。 積載と荷下ろしのためのフィッティング(フォークリフトポケット、タイダウンポイント、キャスター、標準コーナーキャスティング等)を備えているか。 ドアツードア輸送と繰り返し使用を前提としていることが、仕様書と販促資料の両方で整合的に示されているか。 逆に、現場への据置使用が前提で、輸送は一回限り、輸送環境の動的荷重も想定していない設計であれば、8609以外の見出しを前提に検討した方が整合的な場合があります。 これは、BESSコンテナについて7309.00.00としたHQ H329722や、同様に鋼製バッテリー筐体を7309.00.0090としたNY N317967の方向性とも一致します。
6-2. 「車両部品」主張は、具体的規定に勝てない 車両に固定するから車両部品、という直感は、追加米国解釈規則1(c)の前では崩れやすいことが、HQ H351314で明確に示されました。 開発部門やサプライヤーが「車両向け専用品」と説明していても、分類はより具体的な品名見出しに引き寄せられる可能性があります。
通関・税務の観点からは、早い段階で次の点を確認することが重要です。
製品が名称で特定される見出し(タンク、電池、変圧器、冷却装置など)に入りうるか。 輸入時点で機械的装置や熱的装置を備えるのか、ポンプや制御装置を含むセットとして輸入されるのか。 HQ H351314は、ポンプが同時に輸入されない以上、タンク自体は7309の「装置を備えない容器」に該当すると判断しています。
7. バッテリーパックに直結する教訓 分類は原産地と優遇税率にも連鎖する
ここからは、HQ H351314の考え方を、バッテリーパック周辺の裁定に接続して整理します。 バッテリーパックは、分類だけでなく、原産地認定、貿易救済関税、FTA優遇の可否に直結します。
7-1. 「バッテリーパック」の分類は、まず8506か8507か 電池が一次電池か二次電池(蓄電池)かで見出しが分かれることは、NY N286124が典型例として示しています。 この裁定では、さまざまな電池セルから構成される2種類のバッテリーパックについて、非充電式モジュールは8506、充電式モジュールは8507に分類される組合せが示されており、同一の「バッテリーパック」であっても、構成と機能に応じて8506・8507の両方が適用され得ることが読み取れます。
実務では、商品名に「バッテリーパック」と付いているからといって8507と決め打ちするのは危険です。 例えば、内蔵された一次電池を充電せずに交換前提で使用する緊急用バッテリーパックが8506に分類された例など、一次・二次の切り分けが結果を大きく左右する裁定が複数存在します(個別裁定の詳細は品目ごとに確認が必要です)。
7-2. 原産地は「組立国」ではなく「セルの国」になりやすい 多くのバッテリーパックは、セルの製造国とパック組立国が異なります。 NY N329305では、セルをメキシコでパック化した製品について、分類・マーキング等の観点から、バッテリーパックの本質的特徴を与えるのはセルであるとして、原産地がセル製造国(中国またはシンガポール)と認定され得ることが示されています。
HQ H316545では、USMCA上の原産地認定では要件を満たして優遇対象となる一方、Section 301の追加関税適用を判断する原産地(実質的変更の分析)ではセルの原産国が重視され、中国原産とされる可能性があるという二層構造が示されています。 このように、セル原産国の変更が、同じ組立工程でも追加関税の対象可否を変えてしまうケースがあり得ます。
7-3. USMCAは「関税分類の変化」要件により落ちるパターンがある NY N356710は、USMCA適用可否の観点で非常に示唆的です。 この裁定では、完成品のバッテリーパックが8507.60に分類され、使用されている中国製セル(18650)も同じく8507.60に分類されるため、USMCAで求められる関税分類変更要件を満たさず、原産品と認められないと結論づけています。
他方、HQ H316545のように、同じ見出し内での分類であっても、RVC(付加価値)ベースのルールを適用することでUSMCAの要件を満たせる場合もあります。 このように、分類は単なる通関費用の話にとどまらず、サプライチェーン設計と価格戦略そのものに直結する要素であることが分かります。
8. 実務チェックリスト:HQ H351314型の論点を社内で潰す 最後に、HQ H351314の学びを、電池関連も含めた横断チェックリストとして整理します。
輸入時点の構成はどうか(ポンプや冷却装置、制御盤が輸入時に一体か、別送・後付けか)。 設計思想は「固定設置」か「反復輸送」か(仕様書・マーケ資料との整合を含めて確認)。 フィッティングや支持構造は「輸送用」なのか「設置用」なのか(8609判定の核心)。 部品分類(8708等)を主張する前に、より具体的な品名見出しが存在しないか(追加米国解釈規則1(c)の観点)。 電池は充電式か一次電池か、化学系は何か(8506と8507の分岐を左右)。 FTA・USMCAの原産判定で、関税分類変更要件やRVC要件を満たせる構成か(NY N356710等で示される「同一分類で詰む」パターンへの注意)。 裁定は特定の事実関係に基づくため、仕様やサプライチェーンが変わる場合は再評価が必要であり、Part 177に基づく裁定は原則として当該事実関係に拘束される点を理解しているか。 まとめ:HQ H351314が教える「分類は機能と設計で決まり、部品論は最後に来る」 HQ H351314は、車両に搭載される鋼製タンクであっても、輸送用コンテナ(8609)や車両部品(8708)ではなく、より具体的に規定された鋼製タンク(7309)に分類され得ることを示しました。 この裁定が示す「具体的な品名見出しが優先される」「輸送用コンテナの要件はフィッティングと運用実態にある」という考え方は、バッテリーパックやBESSコンテナの分類にもそのまま当てはまります。
さらに電池分野では、分類が原産地認定やUSMCAなどの優遇税率の可否、Section 301の追加関税の有無にも連鎖するため、開発・調達の段階から分類を前提に仕様を設計することが、コスト・リスクの両面で大きな差を生みます。 本稿は一般的な情報提供であり、個別案件に対する法的助言ではありません。具体的な案件では、製品仕様や取引条件にもとづき、通関士や通商法専門弁護士と連携しつつ、必要に応じて19 CFR Part 177に基づく事前裁定取得を検討することをおすすめします。
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