HSC77前注視領域:第85・90類の実務論点

2026年3月会合を見据えた分類リスクと社内対応

エレクトロニクス、センサー、電池、光学機器、医療機器。こうした領域は、製品の進化スピードが速い一方で、HSコードの境界線が揺れやすい領域でもあります。
その「揺れ」が企業実務に直撃するタイミングが、WCO(世界税関機構)のHSC(Harmonized System Committee:Harmonized System Committee)での検討や整理が進む局面です。直近では、HSC第76回会合(2025年9月開催)で多数の分類判断が行われ、HS解説書(Explanatory Notes)の改訂や分類意見(Classification Opinions)の整備も進みました。次回HSC77は2026年3月にWCO本部で開催予定とされています。

本稿は、HSC77を見据えて企業が特に注視したい第85類(電気機器等)と第90類(精密機器等)の実務論点を、法的根拠となる注(部注・類注)を軸に、現場で使える形に落とし込んだものです。


HSコードは「世界共通の言語」だが、現場では「境界線の運用」が勝負になる

HSはWCOが管理する国際的な品目分類で、6桁コードを基礎に各国が関税・統計で運用します。200を超える国・地域が採用し、国際貿易貨物の大半(98%超)がHSで分類されると説明されています。

一方で、現場が悩むのは「似た機能の製品が複数の章・類にまたがる」ケースです。特に第85類と第90類は、次の事情で境界線が難しくなります。

  1. 物理量を測る製品が、電気的にはセンサーや基板で構成される
  2. 製品がモジュール化し、部分品やユニットとして取引される
  3. ひとつの筐体に複数機能(表示、通信、測定、制御)が入る

ここで重要なのは、HS分類の法的な出発点が「見出し(Heading)の文言と、関係する部注・類注」であることです。通則1の考え方として、部・類・節の表題は参照の便宜であり、分類は見出しの文言と注に基づいて決める、という構造が明示されています。


HSCで何が動くのか

企業が注視すべき成果物は3つ

HSC(Harmonized System Committee)は、分類の難所について国際的な統一解釈を積み上げる場でもあります。第76回会合では、分類判断が多数行われ、HS解説書の改訂や分類意見の作成などが実施されたことがWCOから公表されています。

企業実務への影響が出やすい成果物は、概ね次の3つです。

  1. 分類判断の蓄積(各国税関の判断に影響)
  2. HS解説書(Explanatory Notes)の改訂
  3. 分類意見(Compendium of Classification Opinions)の整備

分類意見は、HSCで採択された重要・難解な分類判断をまとめたもので、WCOは「分類意見はHS解説書と同じ位置づけだが、特定製品に関するもの」と説明しています。
ただし、HS解説書や分類意見は一般に法的拘束力そのものではなく、各国法令や運用の中で参照される性格のものです。例えばカナダCBSAは、HS解説書と分類意見は法的拘束力はないが分類の際に考慮すべきと整理しています。
この整理は、企業として「法的根拠(見出し+注)を土台に、解説書や分類意見で解釈を固める」という実務フローを取るうえで重要です。


第85類の実務論点

論点1:85.07 蓄電池は「補助部品込み」で広く捉えられる

第85類注3は、85.07項の「蓄電池」概念を広げています。要旨として、蓄電池には、エネルギーの蓄積・供給機能に貢献する、または蓄電池を損傷から保護する補助部品(接続子、温度制御装置、回路保護装置など)と一緒に提示するものを含み、さらに蓄電池が使用される物品の保護ハウジングの一部を取り付けたものも含む、とされています。

実務で何が起きるか

ビジネス現場では、次のような設計・購買の変化が分類リスクを呼びます。

  1. BMS(保護回路、温度管理、コネクタ)を載せた電池パック
  2. 製品筐体の一部と一体化したバッテリーモジュール
  3. 「電池ユニット」と「電池+周辺回路」の境界が曖昧な部材調達

注3の構造を踏まえると、補助部品が付いたからといって直ちに「電池ではない」とは言い切れません。逆に言えば、電池の範囲が広いからこそ、電池以外の機能(例えば、外部電源からの変換・制御など)がどの程度入っているか、製品仕様書と回路構成で説明できる状態にしておくことが、後工程のトラブル(申告差、修正申告、供給遅延)を減らします。


論点2:85.34 印刷回路の定義は「できること」より「含まないもの」を読む

第85類注8は、85.34項の「印刷回路」を定義し、境界線を明確にしています。注8の骨格は次の通りです。

  1. 印刷技術や膜回路技術で、導体や接触子等の印刷した構成部分を絶縁基板上に形成して得た回路であること
  2. 電気信号の発生・整流・変調・増幅ができる素子(例:半導体素子)は除く
  3. 印刷工程で得た素子以外の素子を結合した回路、個々の抵抗器・コンデンサー・インダクターは含まない
  4. 薄膜回路・厚膜回路で、受動素子と能動素子から成るものは85.42項に属する
    これらが注として明記されています。

実務での落とし穴

よくある誤解は「基板っぽいものは全部85.34」という短絡です。注8は、印刷回路が含まないものを強く書いています。つまり、部材が「基板」だとしても、

  1. 何が実装されているか
  2. 印刷工程で形成された部分なのか、後付け部品なのか
  3. 薄膜・厚膜の回路で、能動素子を含むか

この3点を棚卸ししないと、85.34の前提が崩れます。

会社としての実務対策

調達仕様書やサプライヤー図面に、次の項目を必須化すると、分類根拠の説明が一気に楽になります。

  1. 実装部品の有無(IC、トランジスタ、抵抗、コンデンサ等)
  2. 製造工程(印刷、めっき、エッチング、薄膜・厚膜の有無)
  3. 当該基板が単体取引か、特定装置専用の部分品か

論点3:半導体ベースのセンサーは「物理量を電気信号に変換する」定義が核

第85類注12は、85.41項・85.42項で使う用語を定義しており、半導体ベースの変換器やセンサーの範囲を示しています。
注12では、物理現象や化学現象に関連する現象として、圧力、音波、加速度、振動、移動、方向、ひずみ、磁界強度、電界強度、光、放射能、湿度、フロー、化学物質濃度などが挙げられています。
また、半導体ベースセンサーについて、半導体の内部または表面に生成したマイクロ電子構造体または機械構造体などから成り、電気特性または機械構造体の変位により生ずる物理量・化学量を検出し、それらを電気信号に変換する機能を有する旨が示されています。

第85類と第90類の境界で起きやすいこと

センサー製品は、同じ「測る」でも次のように分岐します。

  1. 素子としてのセンサー(半導体デバイス側の整理が効く)
  2. センサーを含む測定機器(第90類の測定・検査機器に寄る)
  3. 通信や制御まで含むユニット(複合機能で判断が難しくなる)

ここで注12の価値は、製品が「どこまでが変換素子で、どこからが機器・システムなのか」を説明するための共通言語になる点です。設計部門が「センサーです」と言っていても、通関実務では、注の定義に当てはまる要件(構造、変換の仕方、組込み要素)で整理し直す必要が出ます。


第90類の実務論点

論点4:第90類注2の「部分品・附属品」は三段階で決まる

いちばん多いミスは、段階を飛ばすこと

第90類注2は、部分品・附属品の帰属を三段階で決める構造です。要旨は次の通りです。

  1. 当該部分品・附属品が、第90類、第84類、第85類または第91類のいずれかの項(ただし8487、8548、9033を除く)に該当する場合は、その項に属する
  2. それ以外で、特定の機器(または同一項の複数機器)に専ら又は主として使用する部分品・附属品は、その機器の項に属する
  3. その他は90.33項に属する
    この骨格が注として明示されています。

企業実務への示唆

現場で起きがちなのは「この装置の部品だから90類」という思い込みです。注2は、まずその部品自体が84類や85類として成立していないかを先に見よ、と言っています。
つまり、測定装置の部品でも、電気的な機能部材が強いものや、独立した電気機器として評価されうるものは、90類に残らず85類側へ引っ張られる余地があります。注2の段階を社内ルール化しておくと、判断の属人化を減らせます。


論点5:第90類注3は、第16部の複合機械・機能ユニット規定を持ち込む

第90類注3は「第16部の注3及び注4の規定はこの類においても適用する」と定めています。
これは、測定・検査装置が複数機器の組合せや機能ユニットとして構成される場合に、主たる機能や明確に規定された単一機能で分類する、という第16部側の考え方を第90類でも使うという意味です。

実務で効くポイント

測定システムは、センサー、制御ユニット、表示、通信、電源などがセットになりがちです。設計が一体化するほど「複合機械」「機能ユニット」の論点が立ちます。
このとき、機能を言語化せずに「完成品名」で分類を決めに行くと、後から説明が破綻します。注3・注4の枠組みで、どの単一機能に向けて結合されているのかを先に定義し、構成表(BOM)と機能ブロック図で示すのが、監査や税関照会で強い運用です。


論点6:光学式の測定・検査は、9013と9031の二択で迷ったら注5を確認する

第90類注5は、90.13項と90.31項のいずれにも属するとみられる光学式測定機器・光学式検査機器は90.31項に属する、と定めています。

実務での使いどころ

外観検査、寸法測定、レーザーやカメラを用いた検査装置など、光学要素を使う測定機器は増え続けています。注5は「光学要素があるから9013」と短絡しないための安全装置です。
特に、現場での機能説明が「光学機器」寄りになっている場合は、測定・検査という目的機能を軸に整理し直すと、分類の一貫性が保ちやすくなります。


ケーススタディ

VRヘッドセットが9004.90に整理される理由から学ぶ、境界線の考え方

日本税関の分類事例では、スマートフォンに接続して使用するVRヘッドセットが9004.90として示されています。事例では、筐体にCPU、凸面レンズ、焦点リング、音量キー、micro USBコネクター、加速度・ジャイロ・近接センサー、タッチパッド等が組み込まれ、スマートフォンの画面を拡大し、頭の動きを検出してスマートフォン側へ送信する仕組みが説明されています。
そのうえで、通則1および6の適用により9004.90と整理されています。

ここから得られる実務上の教訓

  1. 電子部品やセンサーが入っていても、製品の本質が別の見出しに明確に当てはまると、そちらが優先されうる
  2. 「何ができるか」だけでなく、「見出し文言に何が書かれているか」「注で何が除外・包含されているか」が勝つ
  3. VR機器でも、単体で表示機能を持つもの、通信機能が主のものなどは別の論点になりうるため、仕様差を前提に個別判断が必要

この事例は、85類と90類の境界で悩むときほど「注の定義と、製品の主たる性格」をぶらさないことが重要だと示しています。


ビジネス側が今すぐやるべき社内アクション

分類を「担当者の経験」から「再現できる手順」へ

分類の品質を上げるコツは、判断を早い段階で仕組みに落とすことです。おすすめは次の3本柱です。

1. 設計変更フローに、HS影響レビューを組み込む

電池の補助部品追加、基板の実装変更、センサーの統合などは、まさに第85類・第90類の境界を動かします。リリース前に「見出しと注に照らした分類影響」を確認するだけで、後工程の修正コストが激減します。

2. 分類根拠ファイルを標準化する

最低限、次のセットを社内テンプレート化すると強いです。

  1. 製品仕様(機能、構成、入出力、用途)
  2. 主要部材リスト(BOM)
  3. 見出しと注に基づく判断プロセス(通則1からの道筋)
  4. 参考情報として、HS解説書や分類意見、過去の照会結果

HS解説書はWCOがHS分類を支援する目的で刊行し、見出しの範囲や技術的説明、識別の実務ガイダンスを提供する、と日本税関も説明しています。
分類意見についても、HSCでの分類決定がまとめられる旨が整理されています。

3. 重要品目は事前教示や照会で、予測可能性を取りに行く

日本税関は、輸入申告で関税率表に沿ったコード記載が必要であり、透明性・予測可能性向上のために文書の事前教示を開示していると説明しています。
社内の「売上上位品目」「規制対象にかかりやすい品目」「調達が頻繁に変わる品目」は、優先度を付けて事前に論点を潰すほうが、結果として安いです。


HSC77の先にあるHS2028

今から準備して損をしない理由

WCOはHS2028改正が受諾されたこと、そして2028年1月1日に発効することを明記しています。
また、受諾後の残り2年間の実施準備期間に、相関表(Correlation Tables)の作成、HS関連ツールや刊行物の更新、加盟国側の実装準備が進む、と説明しています。

第85類・第90類は、技術進化の中心にあるため、改正による影響が出やすい領域です。HSC77は、HS2028へ向けた「解釈の地ならし」が進む局面としても、企業のウォッチ対象になります。


まとめ

第85・90類は「複合化」が分類リスクを増幅する。だから、注を軸に社内プロセスを固める

第85類は、電池、基板、半導体センサーといった部材の定義が注で細かく整備されており、製品のモジュール化が進むほど注の読み込みが利益に直結します。
第90類は、部分品・附属品の三段階ルールや、複合機械・機能ユニット規定の持ち込み、光学式測定の整理など、境界線に強い注が並びます。

HSC77という外部イベントを「他人事」にしないために、社内では次の順番が効果的です。

  1. 製品仕様の変化を、HS分類の変化として捉える
  2. 注を起点に、再現可能な分類根拠を残す
  3. 重要品目は、早めに照会して予測可能性を確保する


免責事項

本記事は一般的な情報提供を目的として作成したものであり、特定の取引・製品に対する関税分類の結論や法務・税務上の助言を行うものではありません。HSコードの最終判断は、個別商品の仕様、取引形態、提出資料、各国税関当局の運用等により左右されます。実際の申告や契約への適用にあたっては、最新の法令・通達等を確認のうえ、必要に応じて通関士・専門家への相談、または税関への事前教示制度の利用をご検討ください。

 

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投稿者: shima

嶋 正和 株式会社ロジスティック 代表取締役社長

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