チップレットは、複数の小さなシリコン片を1パッケージ内で組み合わせて大きな機能を作る設計として広がっています。UCIeは、マルチベンダーのchiplet componentsを組み合わせる標準化を進め、TSMCも、もともと1つのSoCにあった機能を分割したchipletsの再統合を前提にした実装技術を打ち出しています。だからこそ、技術の話に見える第85類注12が、通関実務と事業判断の論点になります。HS2028の改正内容はすでにWCOから公表されており、2028年1月1日に発効予定です。 (UCIe Consortium)

まず結論
今回のポイントは、チップレットを一律に新しい税番へ動かす話ではありません。現行HS 2022の第85類注12では、マルチチップ集積回路は「相互に接続した」2個以上のモノリシック集積回路であることが要件ですが、HS2028ではここが「相互接続の有無を問わない」に改められます。つまり、複数ダイを実用上不可分に一体化した製品について、ダイ間接続の有無だけで8542から外れやすかった境界を、より広く、より明確に整理し直す改正だと読むのが実務的です。 (wcoomd.org)
注12は、なぜそこまで重要なのか
ここでいう注12は、第85類注12です。この注記は、半導体デバイスと集積回路の定義を置き、集積回路の中をモノリシック、ハイブリッド、マルチチップ、マルチコンポーネント集積回路に分けています。さらに、日本税関の関税率表解説でも、注12に該当する物品については85.41項と85.42項が、85.23項を除いて他の項に優先すると明記されています。注12は、単なる注釈ではなく、8541と8542へ入れるかどうかを決める入口です。 (税関ウェブサイト)
なぜチップレットで論点が噴き出すのか
UCIeは、chiplet componentsを組み合わせてより大きなSoCを構成できる標準化を進めており、標準パッケージ配線やインターポーザ経由での接続を想定しています。TSMCも、もともと1つのSoCにあった機能を分割したchipletsを再統合する実装を前提にしています。つまり、チップレットは「単一ダイ中心」の発想ではなく、「複数ダイを1つの製品として売る」発想です。分類実務が注12に注目するのは自然な流れです。 (UCIe Consortium)
現行ルールのどこが引っかかりやすいのか
現行HS 2022のマルチチップ集積回路は、2個以上のモノリシック集積回路が相互に接続され、実用上不可分に組み合わされ、しかも他の能動素子や受動素子を含まないことを求めています。したがって、複数ダイを1パッケージに収めていても、ダイ間の接続がない、あるいは説明資料上で接続関係を立証しにくい製品は、現行定義では議論がぶれやすくなります。 (wcoomd.org)
一方で、UCIeのようにダイ間通信を前提にしたチップレット製品は、現行ルールでもマルチチップ集積回路に当たり得ます。今回の改正は、そのうち特に、非接続または接続説明が弱い複数ダイ一体品の不確実性を下げる方向に働くと見るのが自然です。これは条文差分から導ける実務上の読み方です。 (wcoomd.org)
HS2028で何が変わり、何が変わらないのか
HS2028で変わるのは、マルチチップ集積回路の定義における「相互に接続した」という条件です。WCOが公表した改正勧告では、2個以上のモノリシック集積回路について、相互接続の有無を問わない文言に置き換えられています。ここが、チップレット分類への直接的なインパクトです。 (wcoomd.org)
一方で、変わらない条件もあります。実用上不可分に一体化されていること、モノリシック集積回路が2個以上であること、そして他の能動又は受動回路素子を含まないことは残ります。つまり、チップレットという商品名だけでは足りず、ダイ数、実装構造、追加部品の有無が引き続き決定的です。 (wcoomd.org)
さらに重要なのは、追加部品があるから直ちに8542から外れるとは限らない点です。現行注12には、マルチコンポーネント集積回路という別の受け皿があり、集積回路に加えてシリコンベースセンサー、アクチュエーター、オシレーター、レゾネーター、一定の受動部品やインダクターなどを一体化した回路を想定しています。実務では、「8542か否か」よりも、「8542の中でマルチチップなのか、MCOなのか」を見誤らないことの方が大切になる場面があります。 (税関ウェブサイト)
事業にどんな影響が出るのか
1. 見積もりと販売計画が、設計図面に依存しやすくなる
日本税関は、書面による事前教示によって税番と税率を事前に確認でき、正確な原価計算や販売計画に役立つと説明しています。逆に言えば、チップレット製品の税番判断が注12の条文差分に左右される局面では、営業側の見積もりも、設計側が出すダイ構成図や部品表の精度に強く依存します。技術資料が曖昧なままでは、事業計画の精度も落ちます。 (税関ウェブサイト)
2. 商品名ではなく、構造説明が主役になる
WCOの現行注12もHS2028改正案も、判断の軸を「チップレット」「SiP」といった呼称ではなく、モノリシックICの数、相互接続の有無、追加の能動素子・受動素子の有無に置いています。実際、米CBPでも、センサー系製品について8542.39に入る例と、8542のハイブリッド集積回路に当たらないとされた例が並存しており、境界は商品名ではなく構造で分かれています。 (wcoomd.org)
3. 2026年から2027年は、待つ期間ではなく棚卸しの期間
WCOは、HS2028が2028年1月1日に発効するまでの残り2年間で、HS2022とHS2028の相関表作成、解説書の更新、各国の実施支援を進めるとしています。これは企業側にとって、現行SKUの棚卸し、既存の税番根拠の見直し、説明資料の標準化を進めるための猶予期間でもあります。改正が発効してから慌てるより、今のうちに「どの製品が注12の境界にいるか」を洗い出す方が合理的です。 (wcoomd.org)
4. 事前教示は、取るだけで終わらない
日本税関の書面による事前教示は、提出すれば通関審査で尊重され、有効期間は3年です。ただし、法令改正があった場合には、その前提が崩れます。HS2028で注12の文言が変わる以上、既存の事前教示を持っている企業も、そのまま自動的に安心とは言えません。対象製品が改正後の定義にどう当てはまるかを、改めて確認する必要があります。 (税関ウェブサイト)
実務で今すぐ確認したい5つの質問
- その製品は、モノリシック集積回路を2個以上含んでいるか。
- ダイ間は電気的に接続されているか。接続されていない場合でも、HS2028では救済される可能性があるか。
- 抵抗器、コンデンサー、インダクターなど、他の能動又は受動回路素子は入っていないか。
- センサー、アクチュエーター、オシレーター、レゾネーターなどを一体化しており、マルチチップではなくMCOとして見るべき構造ではないか。
- 既存の税番根拠や事前教示は、2028年以降もそのまま使える前提か。法改正で見直しが必要ではないか。これら5問は、ほぼそのまま注12の条文に沿った確認項目です。 (税関ウェブサイト)
経営層向けに一言でまとめると
注12改正の本質は、チップレット時代の複数ダイ一体品を、古い単一ダイ中心の読み方から少し解放することです。ただし、何でも8542に入るわけではありません。勝負を分けるのは、マーケティング名称ではなく、ダイ構成、接続関係、追加部品の有無を説明できる社内データです。分類の論点は、設計、調達、営業、通関が同じ図面を見る体制を作れるかどうかに移っています。 (wcoomd.org)
参考資料
- World Customs Organization, Chapter 85, HS Nomenclature 2022. (wcoomd.org)
- World Customs Organization, 2028 Recommendation, NG0304Ba, Chapter 85 Note 12 amendment. (wcoomd.org)
- World Customs Organization, HS 2028 amendments page. (wcoomd.org)
- World Customs Organization, announcement on provisional adoption and publication timeline for HS2028. (wcoomd.org)
- Japan Customs, 第85類解説と注12の優先規定。 (税関ウェブサイト)
- Japan Customs, Advance Ruling on Classification. (税関ウェブサイト)
- Japan Customs, Disclosure of Advance Ruling on Tariff Classification. (税関ウェブサイト)
- UCIe Consortium, Specifications. (UCIe Consortium)
- UCIe Consortium, Introduction to Chiplets. (UCIe Consortium)
- TSMC, The Whats, Whys, and Hows of TSMC-SoIC. (TSMC)
- U.S. Customs and Border Protection, ruling search results on sensor-related 8542 classifications. (CROSS Customs Rulings)
免責事項
本記事は、2026年3月16日時点で公開されている一次資料と公的資料をもとに作成した一般的な情報提供です。個別製品の税番、関税率、原産地判定、規制該当性、通関可否を保証するものではありません。最終判断は、実貨の構成、最新の法令、各国の国内実施、税関の事前教示又は専門家の確認に基づいて行ってください。

