製品仕様の揺れに負けない、HSコード区分を社内で回し切るための実務設計
電動化とIoTが進むほど、BMS(Battery Management System)と各種センサーは、輸出入の現場で「分類が割れやすい」代表格です。理由は単純で、どちらも電池・制御・計測の境界に立つ部品やモジュールになりやすく、輸入形態(単体か、ユニットか、完成品の一部か)によって客観的性格が変わるからです。
しかもHSコードは、6桁までは国際的に共通でも、各国はその先を拡張して運用します。たとえば日本は9桁の統計品目番号を使い、6桁HSと国内コードの組み合わせで申告します。輸出と輸入で国内コードが一致しないこともあります。つまり、同じ製品でも「国」「輸出入」「申告実務」の条件によって結論が揺れやすいのが現実です。
そこで本記事では、BMSとセンサーの区分を短期間で安定させるための「BMS・センサー分類:実務アクションパック」を、ビジネス実務の観点から深掘りします。目指すのは、単発の正解探しではなく、社内で再現できる判断の仕組みを作ることです。

1. まず押さえるべき前提
HSコードは情報ではなく、運用のインフラである
1-1. HSは6桁までが世界共通——ただし最新版の読み替えが必要
HSは世界の貿易品目を体系化した分類で、WCO(世界税関機構)が管理しています。定期的な改正を重ねており、2022年1月1日に発効したHS 2022(2022年版)は、WCO公表資料によれば最新の改正版に位置付けられています。WCOはさらに、加速改正手続き(accelerated amendment process)の枠組みの下で、一定の品目について継続的な更新を進めています。
一方、各国の関税率表は6桁HSを基礎にしつつ、8桁や10桁などに拡張して詳細管理します。EUではCN(Combined Nomenclature)が8桁、TARIC(統合関税品目番号)が10桁という体系で運用されます。
1-2. 事業インパクトは「関税」だけではない
BMSやセンサーの分類が崩れると、次の領域に連鎖します。
- 関税・通関の遅延、追加資料要請
- 原産地(EPA/FTA)の判定、原価計算への波及
- 輸出管理や規制品目スクリーニングの誤判定
- 取引先への見積価格や納期コミットの崩れ
つまり分類は、貿易実務にとどまらず、営業・調達・設計変更管理・マスタ管理までを含む業務基盤です。
2. BMSの分類をブレさせない「3つの分岐」
同じBMSでも、輸入形態で見える性格が変わる
BMSは大きく次の3パターンに分けると、実務が回しやすくなります。
分岐A:電池セルと一体で入ってくるか
一体なら「電池として扱う」根拠が取りやすい
HSの第85類では、見出し8507(電気蓄電池)について、「蓄電池には、蓄電・給電機能に寄与する、または損傷から保護する付属部品を伴って提示されるものを含む」とされており、例として電気コネクタ、温度制御装置(サーミスタ等)、回路保護装置が挙げられています。電池が組み込まれる機器の保護筐体の一部を含む場合もある、という趣旨です。
この注記が実務上有力なのは、BMSが「電池を成立させる付属要素」として説明しやすいからです。セルと制御基板、温度保護、筐体などを含む構成は、製品の客観的性格が電池に寄りやすくなります。
米国の公開裁定(HQ H155376)でも、セルや基板などから成るBMSを、電池機能を支える構成として見出し8507に分類した例が示されています。EUの品目実務でも、BMSを含む一体型の電池システムをCNコード8507 60 00(リチウムイオン蓄電池)に紐づけて扱う記載が、EUR-Lex掲載の関税規則文書に見られます。
実務アクション セル同梱や電池ユニット形態であれば、BMS単体の機能説明より先に「8507注記に当てはまる付属部品か」を起点に整理すると、社内合意が速まります。
分岐B:配電・制御の盤やユニットとして成立しているか
成立しているなら「制御・配電機器」側の検討が必要
見出し8537は、8535や8536の機器を2つ以上備えた、電気の制御または配電用の盤・パネル・コンソール等を対象にします。
BMSが「電池の付属」ではなく、設備側の制御盤として独立している場合、8537が候補になり得ます。たとえば、充放電設備やラックの電力系統を制御する盤で、遮断・切替・保護を担う構成(リレー、遮断器、端子台など)が明確に備わり、盤としての客観的特性が強いケースです。
実務アクション 仕様書や図面から、8536に該当し得る構成要素(スイッチング・保護・接続の機器)を洗い出し、盤としての成立性を確認します。
分岐C:計測・監視・制御の「機能装置」寄りか
機能装置なら「計測・自動制御」側も同時に検討する
BMSは電池の保護・監視・均等化・通信まで含むことが多く、制御ロジックが強い場合があります。このとき、次の観点で計測・自動制御側の候補が浮上します。
- 9031:その他の測定・検査機器(第90類で他に特掲されないもの)
- 9032:自動調整または制御用の機器
実務アクション BMSの要件定義を、保護(過電流遮断等)・調整(セルバランス等)・計測(電圧・温度等)・通信(CAN等)に分解し、どの機能が「客観的性格の中心」かを社内で文章化します。ここを曖昧にしたままHS番号だけ決めると、設計変更のたびに崩れます。
3. センサー分類は「完成した計測機器」か「素子・IC」かで世界が変わる
実務で迷うポイントを先に固定する
センサーは、同じ測定対象でも製品の完成度によって分類が変わりやすい領域です。実務では、まず形態を次の2つに分けます。
3-1. 完成した計測機器・計測装置として販売されるセンサー
第90類の見出しから当てにいく
代表的な見出しは以下のとおりです。
- 9025:温度計、湿度計、気圧計など
- 9026:流量、液位、圧力など(液体・気体の変数)
- 9031:第90類の他の見出しに特掲されない測定・検査機器
- 9032:自動調整または制御用機器
実務アクション 型番単位で「測るだけ」か「制御まで自動でやる」かを分けます。センサーが単独で測定値を出すだけなら9025や9026側の検討が中心です。設定値に基づき弁やモータ等を制御する仕組みが本体に組み込まれ、客観的に自動制御装置といえる場合は9032が視野に入ります。
3-2. センサー素子・トランスデューサー・ICとして販売されるセンサー
第85類の注記を起点に整理する
第85類の注記では、半導体デバイスの定義に「半導体ベースのトランスデューサー」が含まれており、物理・化学現象を電気信号へ変換するデバイスとして定義されています。また8541および8542が他の見出しに優先する趣旨も示されています。
つまり、センサーが「計測機器」ではなく「半導体素子やICとしての性格」が強い場合、8541(半導体デバイス)や8542(電子集積回路)の検討が実務上不可欠になります。
実務アクション センサーを次の3層に分けて仕様を集めます。
- 素子層:半導体ベースのセンサー素子、MEMS、ダイ
- 回路層:信号処理IC、アンプ、A/D、制御IC
- 製品層:筐体、表示、通信、校正、電源、取り付け機構
この分解をすると、同じ「圧力センサー」でも、素子販売か計測装置販売かで論点が別物になることが、社内で共有しやすくなります。
4. 実務アクションパックの中身
現場が止まらないための成果物を「テンプレ化」する
実務アクションパックは、結論のHS番号よりも、結論に至るプロセスと証跡を先に整えることを重視します。推奨の成果物は次の6点です。
成果物1:製品インテークシート
設計部門から最短で情報を取るための共通フォーマット
以下の項目が揃えば一次判断が可能になります。
- 製品名、型番、用途、販売形態(単体・キット・ユニット組み込み)
- 機能分解(計測・制御・保護・通信・電力変換など)
- 構成部品(セル有無、半導体素子、保護回路、スイッチング機器等)
- 入出力(電圧範囲、通信規格、アナログ・デジタル)
- 写真、外観図、ブロック図、主要仕様書
成果物2:BMS分岐チャート
セル同梱・盤成立・計測機能寄りの三分岐で迷いを減らす
チャートは難しくするほど運用されません。実務では次の問いを順番に当てます。
- セルと一体で提示されるか
- 8535/8536の機器を複数備えた盤として成立しているか
- 自動制御の装置として客観的性格が立つか
- それでも残る場合は、他の見出しの該当性と除外規定を確認する
この順番にするだけで、会議が「候補の羅列」から「論点の絞り込み」に変わります。
成果物3:センサー分岐チャート
完成計測機器か素子・ICかを最初に固定する
- 表示・校正・出力が揃っていて、計測機器として販売されるか
- 目的変数が温度・圧力・流量などで、特定の見出しに当てられるか
- 自動調整または制御まで行う装置か
- 半導体素子・ICとしての性格が強いか
成果物4:分類メモ
関係者が同じ文章を読めるようにする1枚資料
分類メモの核となる6項目です。
- 申告対象の客観的特性(何が、何をするものか)
- 候補見出しと採否理由
- 採用した見出しの根拠(注記、定義、類似事例など)
- 除外した見出しの理由
- 適用範囲(どのSKU、どの仕様まで同一扱いか)
- 変更管理のトリガー(セル仕様・IC変更・筐体変更など)
成果物5:エビデンスパック
税関照会や社内監査に耐える証拠一式
米国では関税分類の裁定申請(19 CFR 177.2)において、物品の完全な記述・用途・写真やサンプルなどの提出が求められます。日本の事前教示でも書面回答が税関検査で尊重されること、EUでもBTI(拘束的関税情報)が法的確実性の手段として位置づけられていることは共通しており、いずれも判断のための資料の質が問われます。
成果物6:マスタ連携の運用設計
分類を「知識」から「データ」へ落とす
分類は担当者の頭の中に置いた瞬間に崩れます。SKUマスタに次を持たせます。
- HSコード(国別の桁まで)
- 適用開始日と根拠資料リンク
- 仕様の前提条件
- 設計変更時の再判定フラグ
5. 30日で立ち上げる運用ロードマップ
分類プロジェクトを短期で「仕組み化」する
1週目:対象範囲と型番棚卸し
- 対象SKUの一覧化
- 輸入形態別にグルーピング(セル同梱・単体基板・計測装置など)
- 不明点を設計に返すための質問票を確定
2週目:一次分類と論点リスト化
- 候補見出しの一次当て
- 分岐チャートで論点を残す
- 関係者レビュー会を30分単位で回す
3週目:証跡整備とリスク分類
- 分類メモをSKU単位で固定
- 高リスク品は事前教示・裁定の検討対象に上げる
- 監査に耐えるフォルダ構造を作る
4週目:マスタ実装と変更管理の接続
- ERPや貿易システムへ反映
- 設計変更プロセスに分類再判定を組み込む
- 月次で差分レビューを回す
6. 実務で起きがちな失敗と先回りの打ち手
仕様の説明が「機能」だけで終わっている
税関や監査で問われるのは客観的特性です。ブロック図、構成部品、形態、提示のされ方を揃えます。
国別の桁の違いを放置している
HS6桁は共通でも、国別の拡張桁は運用が分かれます。日本は9桁で申告し、国内コードの扱いもあります。EUはCN8桁を基礎にし、TARICで10桁まで管理します。
口頭の回答を「正式」と誤解している
日本の事前教示制度では、書面回答が尊重される一方、口頭回答は原則として税関検査で尊重されません。実務は必ず書面と証跡に寄せます。
参考資料
- WCO HS Nomenclature 2022(2022年1月1日発効、加速改正手続きの枠組みも参照)
- 米国商務省 ITA:HSは6桁共通、構造の概説
- 日本の統計品目番号(9桁は6桁HSと国内コードの組み合わせ)
- 第85類 注記(8507の付属部品、半導体ベースのトランスデューサー定義など)—Census.gov(米国Schedule B / HTS)
- 国連統計部(UNSD)HS見出しの定義:9025、9026、9031、9032、8536、8537、8541、8542
- EU:BTIプロセスのガイダンス(CN8桁、TARIC10桁、BTIの位置付け等)—Taxation and Customs Union
- 日本税関:事前教示(品目分類)制度の概要(書面回答の尊重、有効期間など)
- 米国:関税分類の裁定申請に求められる記載事項(19 CFR 177.2)—Cornell LII
- 米国公開裁定 HQ H155376(BMSを8507として扱う論旨の例)—Customs Mobile
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、関税分類、法令解釈、通関手続等に関する助言または保証を行うものではありません。実際のHSコードや統計品目番号の決定は、商品の客観的特性、提示形態、取引条件、各国の関税率表および税関の運用等により異なり得ます。必ず最新の法令・通達・関係当局の公表情報を確認し、必要に応じて税関への事前教示申請や通関士、弁護士等の専門家へご相談ください。本記事の内容は正確性に配慮して作成していますが、完全性、最新性、特定目的への適合性を保証するものではなく、本記事の情報に基づいて生じた損害について一切の責任を負いません。
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