監査で困らないHSコード管理:監査対応に耐える3種のドシエ雛形

HSコードの見直しは、単に番号を合わせる作業ではありません。監査で問われるのは「その番号にした理由を、第三者が追跡できる形で説明できるか」です。
そのために必要なのが、結論ではなく根拠と証跡を束ねたドシエです。

本記事では、監査対応に耐えるためのドシエを3種類に分解し、雛形としてそのまま社内展開できる粒度まで深掘りします。なお、個別商品の最終判断は税関照会や専門家レビューを前提にしてください。


そもそもHSコードは何が「監査対象」になりやすいのか

HSは、世界税関機構が策定する国際的な品目分類で、6桁コードを世界標準として運用します。各国は6桁の後に自国用の細分を追加できます。(世界税関機関)
HS分類は、見出し語だけでなく、解釈ルールに従って行うことが前提です(一般解釈規則)。(世界税関機関)
さらに、分類の公式解釈の中核資料として解説書(Explanatory Notes)が位置づけられています。(世界税関機関)

日本実務で重要な注意点は「申告で使う桁数」です。日本では申告に9桁の統計品目番号を用い、上6桁は国際共通のHS、下3桁は国内細分です。輸出と輸入で国内細分が一致しない場合があります。(税関総合情報)
この「国際6桁と国内細分のズレ」や「製品仕様変更に伴う分類影響」が、監査で火種になりやすいポイントです。


監査でよく出る質問は、だいたいこの5つ

監査対応を強くするには、質問パターンを先に固定しておくのが近道です。

  1. その商品は何か(機能、材質、構造、用途、セットの有無)
  2. なぜその分類か(どの解釈ルールと注に基づくか)
  3. 競合する分類は何で、なぜ排除したか
  4. 過去から何が変わったか(仕様、用途、構成、梱包、販売形態、資料)
  5. 申告や帳簿書類にどう紐づくか(どの申告・許可番号が裏付けか)

この5つに機械的に答えられるように作るのが、次の3種ドシエです。


監査対応に耐える3種のドシエ雛形

ドシエ1:製品ファクトドシエ(事実を確定する箱)

目的は、分類の前提となる客観情報を、監査で通るレベルで固定することです。
分類の議論が揉める多くの原因は、法解釈より先に「製品の事実関係」が社内で曖昧な点にあります。

雛形:最低限の構成(そのまま章立てに使えます)

  1. 基本情報
    ・社内品番、型式、取引名、申告品名候補
    ・サプライヤー、製造者、製造国
    ・用途(業務用、一般消費者用など)
    ・販売形態(単品、セット、バンドル、同梱物)
  2. 製品の中身が分かる情報
    ・材質と配合、主要成分の割合
    ・部品構成(BOM)と各部品の役割
    ・寸法、重量、電気仕様などのスペック
    ・製造工程の要点(分類に影響する場合)
  3. 機能と動作原理
    ・何をする製品か
    ・どうやってそれを実現するか(センサー、駆動、加熱、化学反応など)
  4. 画像・図面・資料
    ・外観写真(複数アングル)
    ・断面図や構造図
    ・取扱説明書、仕様書、技術資料
    ・マーケ資料は補助扱いに留め、技術資料を主にする
  5. セット・容器・包装の情報
    ・小売用セットか、部品の寄せ集めか
    ・専用ケースや容器があるか(分類影響が出やすい領域)

監査で強い書き方のコツ

・形容詞を減らす(高性能、最新、便利ではなく、数値と構造で書く)
・用途は「実際の販売・使用実態」を優先(想定用途だけだと弱い)
・仕様変更履歴を必ず残す(いつ、何が、なぜ変わったか)


ドシエ2:分類ロジックドシエ(結論に至る道筋を固定する箱)

目的は、第三者が追試できる分類判断の再現性を作ることです。
HS分類は一般解釈規則に従い、見出し語、部注・類注などを踏まえて決定します。(世界税関機関)
また、公式解釈資料として解説書が重要視されます。(世界税関機関)

雛形:分類ロジックの章立て

  1. 対象範囲の宣言
    ・この判断がカバーするSKUの範囲(色違い、容量違い、付属品違いの扱い)
    ・判断の対象外(仕様が異なる派生品)
  2. 適用するコード体系の明示
    ・国際6桁HS
    ・日本の申告用9桁(統計品目番号)
    日本では申告に9桁を用い、6桁HSと国内3桁で構成されます。(税関総合情報)
  3. 分類の結論
    ・章、項、号、国内細分までの結論
    ・品名表現(申告品名の推奨表現)
  4. 判断プロセス(一般解釈規則に沿って書く)
    ・ルール1:見出し語と注で決まるか (世界税関機関)
    ・ルール2:未完成品、混合品、組立前等の論点があるか (世界税関機関)
    ・ルール3:競合する見出しがある場合、最も具体的、主要な特性、最後の順等で整理 (世界税関機関)
    ・ルール4:類似品での整理が必要か (世界税関機関)
    ・ルール5:ケースや包装の扱いが影響するか (世界税関機関)
    ・ルール6:号以下の決定の論理 (世界税関機関)
  5. 競合見出しの排除理由
    ・候補Aを排除する理由(注により除外、機能が異なる、材質が違う等)
    ・候補Bを排除する理由
  6. 根拠資料リスト
    ・参照した解説書、分類意見、税関公表情報、社内過去判断
    解説書は国際的な公式解釈として位置づけられています。(世界税関機関)
    日本でも分類支援資料や事前教示の公表を行っています。
  7. 変更に弱い点(監査で一番効くパート)
    ・材質が変わると分類が変わる閾値
    ・付属品や同梱でセット扱いになる条件
    ・用途の変更で見出しが変わり得る条件
    ここを先に書いておくと、仕様変更時に自動でアラートを出せます。

ドシエ3:ガバナンス・証跡ドシエ(監査での説明責任を支える箱)

目的は、個々の分類の正しさだけでなく、会社としての管理体制と証跡の連鎖を示すことです。
監査対応の勝負どころは「資料があるか」だけではなく、「会社として再発防止できる統制があるか」です。

雛形:ガバナンスの章立て

  1. 役割分担
    ・分類の一次作成(貿易管理、通関部門など)
    ・技術情報の提供責任(開発、品質、購買)
    ・最終承認(責任者)
    ・通関業者が関与する場合の境界(最終責任は誰か)
  2. 品目マスター運用ルール
    ・新規採用品の分類フロー(いつ分類し、いつマスターに登録するか)
    ・既存品の見直しトリガー(仕様変更、用途変更、セット構成変更、HS改正など)
    日本税関の統計コード運用上、輸出入で国内細分が異なることがあるため、用途別にマスターを分ける判断も現実的です。(税関総合情報)
  3. 証跡と申告の紐づけルール
    日本の制度では、輸入者等に帳簿書類の保存義務があります。輸入では帳簿7年、書類5年、電子取引情報5年が基本です。
    さらに、帳簿の記載事項と書類の関係が明らかになるよう整理して保存することが求められます(許可書番号などで紐づける考え方)。
    ドシエ3には、次の紐づけ仕様を明文化して入れます。
    ・社内品番 と 申告統計品目番号 の対応
    ・社内品番 と 輸入許可情報 の対応
    ・許可書番号 と インボイス、契約書、BOM、ドシエ一式 の対応
  4. 監査対応手順(当日の動きまで決める)
    ・事前通知が来たら誰が窓口か
    ・何日分の申告を、どの粒度で出せるか
    ・質問への回答テンプレート(事実、判断、証拠、影響範囲、是正案)

輸入事後調査では、帳簿書類等の提示・提出を求められることがあり、正当な理由なく拒否等をすると罰則が科され得る旨が説明されています。
このため、ドシエ3は「出せる状態」を維持するのが核心です。

  1. 文書管理
    ・版管理(作成日、改定日、改定理由、承認者)
    ・保管場所(電子保管の場合のルール)
    ・保存期間(社内規程を関税法上の期間に合わせる)

3種ドシエを最短で立ち上げる手順

一気に全品目を完璧にしようとすると止まります。ビジネス向けには、リスクベースで回すのが現実解です。

  1. 対象選定
    ・関税額が大きい品目
    ・分類が揺れやすい品目(複合材、セット品、用途が幅広いもの)
    ・過去に修正申告や指摘があった領域
  2. ドシエ1を先に作る
    分類会議の前に、開発や購買からファクトを回収して確定させる。ここが最重要です。
  3. ドシエ2で判断を固定
    一般解釈規則の順に、競合見出しの排除理由まで書き切る。(世界税関機関)
  4. ドシエ3で運用に落とす
    マスター登録、変更管理、保存、監査対応の導線を決める。保存義務と紐づけ要件は外せません。
  5. 年次の見直しをスケジュール化
    HSは定期的に改正されます。運用としては、年次で棚卸しの枠を確保しておくと事故が減ります。(世界税関機関)

監査対応の最終兵器:事前教示をどう組み込むか

分類が難しい品目や金額影響が大きい品目では、税関への事前教示(書面回答)を戦略的に使うべきです。
事前教示は、輸入前に関税分類と税率等について照会し、回答を得られる制度で、回答書の添付により審査で尊重される旨が示されています。有効期間は3年です。
また、日本税関は文書による事前教示回答を原則公開し、品名や番号等で検索できる形にしています(非公開期間は最長180日)。

ドシエへの組み込み方はシンプルです。
・ドシエ2の根拠資料として回答書を格納
・ドシエ3に、回答書の有効期限管理と再照会トリガーを登録
・品目マスターに、回答書の参照番号と版を持たせる

これで、監査での説明は格段に短くなります。


文章校正後のまとめ

監査対応に強いHSコード管理は、個人の経験や通関会社任せでは成立しません。
製品の事実を固める箱、分類ロジックを再現できる箱、統制と証跡の連鎖を示す箱。この3つに分けてドシエ化すると、監査対応は仕組みに変わります。

まずは、関税影響が大きい上位品目から、ドシエ1と2を作り、最後にドシエ3で運用を固定してください。保存期間と紐づけの要件を最初から満たしておくことが、監査での最大の防御になります。

培養肉は「肉」か「食品」か。米国CBPが下した分類決着とフードテックへの衝撃


2026年2月4日、米国の税関・国境警備局(CBP)は、急速に商業化が進むラボ肉(培養肉)の輸入実務におけるHSコード分類基準について、暫定的な決定を下しました。

これは、食品業界における長年の哲学的かつ実務的な問いである「細胞培養で作られた肉は、関税法上の肉(Meat)なのか」という論争に対し、世界で初めて貿易大国が明確な解釈指針を示した歴史的なニュースです。

本記事では、HSコードの専門家として、この決定が意味する「関税の境界線」と、フードテック企業が直面する新たなビジネスルールについて深掘り解説します。

第2類の壁。なぜ「肉」として扱われないのか

まず、この問題の核心にある関税率表(HSコード)の構造的な定義について解説します。

我々が普段スーパーマーケットで買う牛肉や豚肉は、HSコードの「第2類(肉及び食用のくず肉)」に分類されます。しかし、この第2類の解説には、伝統的に「と畜(Slaughter)」というプロセスを経ていることが前提とされてきました。つまり、生きている動物を屠殺して得られたものが「肉」であるという定義です。

一方で、培養肉はバイオリアクターの中で細胞を増殖させて作られます。動物を殺すプロセスが存在しません。

今回、CBPが示した基準の骨子は、この製造工程の違いを厳格に適用するというものです。つまり、生物学的には肉と同じ組成であっても、関税法上は伝統的な第2類の「肉」とは区別し、第21類(その他の調製食料品)、あるいはその成分構成によっては**第16類(肉の調製品)**の特殊な項へと分類する方向性を示しました。

これは、「見た目や味が肉であれば肉とする」という機能重視の考え方ではなく、「どのように作られたか」というプロセス重視の基準をCBPが採用したことを意味します。

関税率と輸入枠に生じる巨大なギャップ

この分類の違いは、単なるコード番号の違いではありません。企業の利益率を左右する関税率と輸入割当(クオータ)に直結します。

牛肉セーフガードの対象外になる可能性

もし培養肉が第2類の「牛肉」として分類されれば、既存の牛肉輸入枠(低関税枠)を巡って、伝統的な畜産農家や食肉商社との激しい枠取り合戦に巻き込まれることになります。また、輸入急増時に発動されるセーフガード(緊急輸入制限)の対象にもなります。

しかし、今回のように第21類(調製食料品)などの別枠として扱われることになれば、これらの伝統的な牛肉規制の対象外となる可能性があります。これは、輸出企業にとっては、厳しい輸入数量制限を回避し、自由な数量を米国市場に投入できるという巨大なメリットになり得ます。

関税率の予見可能性

一方で、第21類は「その他」の食品が入るカテゴリであり、品目によっては高い関税率が設定されている場合もあります。今回のCBPの暫定決定により、培養肉に対する具体的な税率が固定されることになります。これまで「いくらの関税がかかるか分からないから輸出できない」と足踏みしていたフードテック企業にとって、事業計画(PL)が引けるようになったことは大きな前進です。

ラベル表示規制との複雑なねじれ

ビジネスマンが注意すべきは、この税関の決定が、国内販売時の表示ルール(FDA/USDA管轄)とは必ずしも一致しないという点です。

米国内の食品表示規制では、消費者の誤認を防ぐために「Cultivated Chicken(培養鶏肉)」といった表示が義務付けられていますが、あくまで「肉」の一種として扱われる傾向にあります。

しかし、貿易の入り口(税関)では「肉ではない(第2類ではない)」として処理され、国内に入った瞬間に「肉」として流通する。このような「ねじれ現象」が発生することになります。

輸入担当者は、インボイス上の品名記述(Description)において、税関用のHSコード分類根拠となる「細胞培養由来であること」を明確にしつつ、販売用のパッケージには食品表示法に適合した記載を行うという、高度な整合性管理が求められます。

まとめ

米国CBPによる培養肉の分類基準決定は、フードテックという新しい産業を、既存の貿易ルールの中に無理やり押し込むのではなく、新しい枠組みで管理しようとする現実的なアプローチです。

この決定は、培養肉が「農産物」ではなく「工業製品」に近い扱いを受ける時代の幕開けとも言えます。関連企業は、自社製品の成分と製造プロセスをHSコードの視点から再定義し、最も有利かつコンプライアンスに則った輸入戦略を構築する時期に来ています。

汎用部品という隠れ蓑の消滅。HS 2028改正が半導体サプライチェーンに迫る「スペック管理」の徹底

2026年2月4日、世界税関機構(WCO)から半導体業界および関連する機械メーカーにとって、極めて重い意味を持つ提案がなされました。それは、2028年のHSコード改正(HS 2028)において、半導体製造装置の部分品(パーツ)を分類するコードを劇的に細分化するという案です。

これまで、多くの半導体関連パーツは、第8486項の「部分品および附属品」という大きなバスケットの中に一括りで分類されてきました。しかし、今回の提案はその「ドンブリ勘定」の時代を終わらせるものです。

本記事では、HSコードの専門家の視点から、この細分化の真の狙いである経済安全保障との連動と、企業が直面する実務上の課題について深掘り解説します。

「その他」に隠れていた戦略物資の可視化

まず、現状のHSコードの問題点をおさらいします。

現在のHS 2022では、半導体製造装置(露光装置やエッチング装置など)の部品は、主に「8486.90」というコードに分類されます。ここには、高度な光学レンズや制御基板といった戦略的な重要部品から、単なる金属製のカバーやネジのような汎用的な部品までが、すべて同じ番号の下に混在しています。

この状態では、各国の規制当局は、どの国にどれだけの「重要技術」が流れているのかを統計データから正確に把握することができません。

今回WCOが提示した細分化案は、この不透明さを解消するためのものです。具体的には、従来の「部分品」というコードを分解し、例えば「プラズマ制御用部品」や「搬送用ロボットアーム」、「特殊光学系ユニット」といった機能や用途に基づいた固有のコード(サブヘディング)を新設しようとしています。

これにより、税関は輸入申告された貨物が、単なる修理用パーツなのか、それとも製造能力を左右するコアコンポーネントなのかを、HSコードを見るだけで判別できるようになります。

輸出管理との完全な紐付け

ビジネスマンが最も警戒すべきは、この改正が単なる統計の精緻化ではないという点です。これは明らかに、各国の輸出管理(安全保障貿易管理)の実効性を高めるための布石です。

HSコードが細分化され、特定の高性能部品に固有の番号が振られるということは、その番号に対して輸出規制のフラグを立てやすくなることを意味します。

これまでは、8486.90というコードで申告されただけでは、それが規制対象かどうかは税関のシステム上では判別できず、審査官の知識や企業の自己申告に依存していました。しかし、2028年以降は、特定のコードが入力された瞬間に、自動的に該非判定書の提出を求めたり、検査対象としてロックしたりするシステム運用が可能になります。

つまり、HSコードの選定ミスが、即座に「無許可輸出」の疑いという重大なコンプライアンス違反に直結するリスクが高まるのです。

エンジニアと通関士の連携が必須になる未来

この改正案がそのまま採用された場合、企業の実務にはどのような変化が求められるのでしょうか。最大の変化は、通関部門だけではHSコードを決められなくなるという点です。

図面と仕様書が分類の決定打

これまでの「8486.90(部分品)」であれば、それが半導体装置に使われることさえ分かれば分類が可能でした。しかし、細分化された新コードでは、「それがどのような機能を持つか」「どの工程(前工程か後工程か)に使われるか」「汎用品か専用品か」といった技術的な詳細情報が必要になります。

通関担当者が、製品の外見や名称だけでこれらを判断することは不可能です。設計図面や仕様書を読み解けるエンジニアが、分類プロセスに関与しなければなりません。

「専用品」の証明責任

また、新コード体系では「専ら半導体製造装置に使用されるもの」と「汎用性があるもの」の境界線が厳格化される見込みです。

企業側は、自社の部品が他の用途(例えば医療機器や一般産業機械)には転用できない「専用設計」であることを、客観的な資料で税関に証明する準備が求められます。

まとめ

WCOによる半導体製造装置用パーツの細分化案は、ハイテク貿易における透明性を極限まで高めようとする国際社会の意思表示です。

2028年はまだ先の話ではありません。数万点に及ぶ補修部品マスタを持つメーカーや商社にとって、すべての部品のスペックを洗い出し、新コードへ移行する作業は年単位のプロジェクトになります。

「たかがパーツのコード変更」と侮らず、今のうちから技術部門と連携し、製品情報のデータベース化を進めること。それが、2028年以降も世界のサプライチェーンから締め出されないための唯一の防衛策です。

EUによる医療AIの「モノ」対「データ」論争への回答。媒体別HSコード分類指針が示す課税の境界線

2026年2月2日、欧州連合(EU)は、急速に普及する医療用AIソフトウェアの貿易実務において、長年の懸案事項であったHSコード分類に関する新たな解釈指針を提示しました。

焦点となったのは、USBメモリやハードディスクなどの「物理媒体」に格納されて国境を越えるAIソフトウェアを、関税法上どう扱うかという問題です。これらは「単なる記録媒体」なのか、それとも「医療機器そのもの」なのか。

この分類の違いは、単なるコード番号の違いにとどまらず、ライセンス料に対する関税評価や、輸入時の付加価値税(Import VAT)の算出根拠を大きく左右します。本記事では、今回示された指針がヘルスケア・テック企業の欧州戦略にどのような影響を与えるのかを深掘り解説します。

ソフトウェアは「記録媒体」か「医療機器」か。長年のグレーゾーン

まず、この問題の背景にある通関実務のジレンマを整理します。

税関は原則として「有体物(モノ)」を管理・課税する機関です。そのため、インターネット経由でダウンロードされるソフトウェア(無体物)は、通関手続きの対象外となります。しかし、インストール用としてUSBメモリやDVD、SSDなどの物理媒体に入れて送られる場合、それは「モノ」として通関の対象になります。

ここで問題となるのが、その物理媒体の中身が、高度な診断を行う「医療用AI」だった場合です。

輸入者側としては、ソフトウェアの価値(ライセンス料など数千万円規模)を含まず、単なるUSBメモリ(数百円)として、HSコード第85類の「記録媒体」で申告したいと考えます。しかし、税関側は、そのソフトウェアが診断機能を持つならば、それは実質的に第90類の「医療機器」であり、ソフトウェアの価値を含めた金額で申告すべきではないか、という解釈をする余地がありました。

特にEUでは、医療機器規則(MDR)の適用を受けるソフトウェアについて、関税分類上も医療機器として扱うべきかどうかが曖昧なままでした。

示された指針の核心。USBメモリに入ったAIは「メディア」として扱われる

今回提示された指針において、EUは実務的な割り切りを行いました。結論として、物理媒体に記録された医療用AIソフトウェアは、原則としてハードウェア(MRI装置など)に組み込まれていない限り、HSコード第8523項の「記録媒体(ソフトウェア)」として分類されるという解釈を明確化しました。

これは、医療用であっても、ゲームソフトやビジネスソフトと同様に、関税分類上は「メディア」として扱われることを意味します。

一見すると、現状追認のように見えますが、ビジネス上の含意は重大です。なぜなら、第90類の「医療機器」として分類された場合にかかる可能性のある規制や関税率の変動リスク(例えば、将来的に医療機器への関税が復活した場合など)を回避できる一方で、第8523項に分類されることによる「評価額」のルールが厳格に適用されるからです。

恐ろしいのは関税率ではなく「輸入付加価値税」の課税標準

HSコードが「記録媒体」に決まったことで、企業が最も注意すべきは「関税評価(Customs Valuation)」です。

WTOの評価協定およびEUの規定では、輸入される記録媒体の課税価格を決定する際、媒体そのもののコスト(キャリアメディア)と、そこに記録されているデータ・ソフトウェアのコストを区別して扱うことが認められています。

しかし、今回の指針により、分類が明確化されたことで、インボイス上の記載方法がより厳しく問われることになります。もしインボイス上で、媒体代とソフトウェアライセンス料が明確に区分されていなければ、税関はライセンス料を含めた総額に対して輸入付加価値税(VAT)を課す可能性があります。

EU各国のVATは20パーセント前後と高率です。数億円のライセンス契約を含むAIソフトをUSB 1本で送った場合、その記載ミス一つで、通関時に数千万円のVAT支払いを現金で求められるリスクがあります。VATは後で還付されるとはいえ、多額のキャッシュフローが一時的に拘束されることは経営上の大きな痛手です。

企業が取るべき戦略。物理媒体からの脱却とクラウド化の加速

この指針を受けて、医療AIベンダーや医療機器メーカーは以下の対応を検討すべきです。

物理媒体輸送の廃止とクラウドデリバリーへの完全移行

最も確実な対策は、物理媒体での納品をやめることです。今回の指針はあくまで「物理媒体」に対するものです。クラウド経由でのダウンロード販売や、SaaS形式での提供であれば、そもそも通関手続きが発生せず、輸入VATの即時払いも不要(リバースチャージ方式などで処理)になります。

これまで保守的な病院側の要望で物理メディアを送っていたケースもあるかもしれませんが、通関リスクとコストを説明し、デジタル配信へ切り替える交渉材料としてこの指針を使うべきです。

インボイス記載の厳格化

やむを得ず物理媒体を送る場合は、インボイスの明細行を分け、媒体の価格(ハードウェアコスト)と、ソフトウェアのライセンス料(知的財産権使用料)を明確に区別して記載する必要があります。そして、EU側の輸入通関業者に対し、ソフトウェア価格分を課税価格に算入するかどうかの指示(評価加算・減算のルール適用)を的確に出す体制を整えなければなりません。

まとめ

EUの新たな解釈指針は、医療AIを「魔法の医療機器」ではなく「単なるデータが入ったメディア」としてドライに扱うことを宣言したものです。

これにより、法的な予見可能性は高まりましたが、同時にインボイス作成や契約形態における実務的なミスが許されなくなりました。物理的なモノの移動を伴うソフトウェア貿易は、もはやリスクでしかありません。デジタルヘルスケアの時代にふさわしい、デジタルの国境の越え方(クラウド化)へ、ビジネスモデルを完全にシフトさせる時期が来ています。

テクノロジーの進化に追いつく貿易ルール。HS 2028改正で6Gや量子技術が「その他」から脱却する日

2026年2月2日、世界税関機構(WCO)において、今後のハイテク製品の貿易実務を左右する重要な定義案が承認されました。それは、2028年のHSコード改正(HS 2028)に向けて、次世代通信規格(6G)関連機器や量子コンピュータ部材を、独立した固有の品目として定義するという決定です。

これまで、最先端のテクノロジー製品の多くは、既存の分類表に該当する項目がないため、その他という大雑把なカテゴリに分類されてきました。しかし、今回の決定により、これらの戦略物資に世界共通の背番号(HSコード6桁)が与えられることになります。

本記事では、なぜ今WCOがこの定義を急いだのか、そして製品コードが特定されることが、企業のコンプライアンスや関税コストにどのような影響を与えるのかを解説します。

その他に隠れていた最先端技術の可視化

貿易実務において、技術の進化スピードとHSコードの改正サイクル(5年ごと)のズレは長年の課題でした。

統計の空白地帯を埋める

現在、開発が進んでいる6G通信機器や量子コンピュータの部品は、多くの場合、第85類(電気機器)や第84類(自動データ処理機械)の中にあるその他の機器というバスケットカテゴリーに分類されています。

この状態では、世界でどれだけの量子関連部材が流通しているのか、正確な貿易統計を取ることが不可能です。WCOが新コードの定義を承認した最大の目的は、これらの次世代技術を独立した項目として切り出し、グローバルなサプライチェーンの実態を可視化することにあります。

6Gと量子技術の定義が確定

今回承認された定義案により、例えば量子プロセッサや極低温制御装置といった量子コンピュータ特有のハードウェア、そして6Gネットワークを構成するテラヘルツ波対応の基地局設備などが、明確な品目定義を持つことになります。

これにより、2028年以降は、その他として申告する曖昧さが排除され、製品のスペックとHSコードの定義を厳密に照らし合わせる作業が必須となります。

経済安全保障と輸出管理の強化

ビジネスマンが最も警戒すべきは、このコード変更が単なる統計目的だけではないという点です。HSコードが特定されることは、各国の輸出管理(安全保障貿易管理)の精度が格段に上がることを意味します。

ピンポイントでの規制が可能に

これまでは、量子コンピュータ部品を輸出規制の対象にしようとしても、HSコードが汎用的なその他の電子部品と同じであったため、税関のシステム上で当該貨物だけを自動的に止めることが困難でした。

しかし、2028年改正で固有のコードが割り当てられれば、当局はそのHSコードに対して輸出ライセンスの必須要件を紐付けることができます。つまり、通関システム上で自動的にフラグが立ち、審査対象として抽出される精度が飛躍的に向上します。

企業にとっては、該非判定(リスト規制に該当するかどうかの判定)とHSコードの紐付け管理が、これまで以上にシビアになることを示唆しています。

関税率への影響とITA(情報技術協定)

もう一つの重要な視点は関税コストです。ハイテク製品だからといって、自動的に関税がゼロになるわけではありません。

新コードは無税になるのか

多くのIT製品は、WTOの情報技術協定(ITA)によって関税撤廃の恩恵を受けています。しかし、新しく新設されたHSコードが、自動的にITAの対象リストに含まれるかどうかは、各国の解釈や新たな交渉に委ねられる場合があります。

もし、6G機器や量子部材が新しいコードに移行した結果、従来のITA対象コードから外れ、一時的に有税扱いになるような事態になれば、サプライチェーンのコスト構造は大きく変わります。2028年に向けて、業界団体を通じた各国政府への働きかけや、関税譲許表の確認が重要になります。

企業が今から準備すべきこと

2028年はまだ先の話ではありません。特に製品開発サイクルが長いハイテク産業においては、今の設計段階から将来のHSコードを意識する必要があります。

R&D部門と通関部門の連携

開発中の次世代製品が、2028年の新定義のどこに該当する可能性があるのか、R&D部門と通関部門が情報を共有する必要があります。特に、製品の機能説明書(スペックシート)において、WCOの新定義に合致する用語を使用しているかどうかが、将来のスムーズな通関を左右します。

システム改修のロードマップ

基幹システム(ERP)の商品マスタにおいて、2028年版のHSコードを登録するフィールドの準備や、輸出管理システムとの連携ロジックの更新計画を立てる必要があります。

まとめ

WCOによるIT・デジタル技術品目の定義案承認は、次世代技術が実験室からグローバル貿易の表舞台へと正式に移動したことを象徴しています。

透明性が高まることは、ビジネスの予見可能性を高める一方で、規制当局による監視の目も厳しくなることを意味します。その他で逃げることができなくなる2028年に備え、自社のハイテク製品の戸籍(HSコード)を正しく管理する体制づくりが求められています。

HS2022からHS2028へ 品目別原産地規則PSRをクロスウォークする実務手順

経営と実務を止めないための更新設計

1. PSRクロスウォークが急に難しくなる理由

PSRは品目別原産地規則のことで、協定ごとに、品目分類にひもづけて原産地判定の条件が定められています。多くは関税分類変更基準CTCや付加価値基準RVC、または特定工程基準などです。

一方、HSは定期改正され、HS2028は2028年1月1日に発効予定です。改正時には新設、削除、範囲変更が大量に起きるため、PSRが参照している品目番号の体系も影響を受けます。結果として、関税分類は最新HSで行うのに、原産地判定は協定が採用する旧HSで行う、という二重運用が現場に発生しやすくなります。WCOも、分類と原産地で異なるHS版を使うと、判定が複雑化し時間がかかり、誤適用リスクが上がると整理しています。

この状況を止めるために必要なのが、HS2022とHS2028の間でPSRを技術的に読み替えるクロスウォークです。

2. まず押さえる前提

2-1. HSは1つではない

協定ごとに採用しているHS版が異なることがあります。日本税関のPSR検索でも、協定が採用するHS版と入力したHSコードの版が違うと検索結果が誤りになり得る、と明示されています。さらに、輸入申告では最新のHSコードを使う必要がある、とも書かれています。(税関ポータル)

つまり、企業側は次の二系統を同時に管理する必要が出ます。

  1. 申告と統計のための最新HS
  2. 協定の法文に紐づくPSR用HS

2-2. HS2028の確定と相関表の位置づけ

WCOによれば、HS2028は2028年1月1日に発効し、その準備期間にHS2022とHS2028の相関表の整備などが進む、とされています。(世界関税機関)
また、2026年1月時点でHS2028改正が受諾され、相関表整備などの実施期間に入ったこともWCOニュースで整理されています。(世界関税機関)

重要なのは、相関表は実務のための道具であり、法的効力そのものではない点です。WCOのガイドでも、相関表は実装を助ける目的で作成され、法的地位を持たない、と説明されています。

3. PSRクロスウォークとは何を作る作業か

目的は単純です。
HS2022で書かれているPSRを、HS2028の品目体系に読み替えても、同じ商品範囲に同じ原産地条件を適用できる状態にすることです。

ここで言うクロスウォークは、次の2つを分けて考えると整理しやすいです。

  1. 社内用クロスウォーク:自社の品目とサプライチェーンに照らして、影響と対応を判断するための表
  2. 協定改正としての技術更新:相手国との手続を経て協定附属書のPSR表を更新する行為

EUのPEM関係では、HS更新に伴うPSRの理解を助けるため、HS2022への技術的読み替え資料が提供されています。発想としては、品目分類の変更でルールの趣旨が変わるわけではないが、PSR表は新HSに合わせて書き直す必要がある、という整理です。(Taxation and Customs Union)

4. 手順全体像

ここからが実務手順です。現場が迷いやすい順に並べます。

手順1 対象協定と対象品目を棚卸しする

最初にやるべきは、協定と品目の棚卸しです。

  1. 自社が実際に使っている協定を列挙する
  2. 各協定のPSRが採用しているHS版を確認する
  3. 自社の輸出入品目をHS2022で確定させ、品目別に該当PSR条項を紐づける

この時点で、協定によってはPSRが古いHS版で書かれていることが普通にあります。英国の対日CEPAのガイダンスでも、PSRはHS2017で規定されており、HS改正でコードが変わる場合は相関表を参照する、という趣旨の案内があります。(GOV.UK)

手順2 HS2022→HS2028のマッピングを準備する

基本はWCO相関表を使います。HS2028の相関表は、WCOが準備期間に整備すると明記しています。(世界関税機関)
ただし、相関表は法文ではなく、更新途中の版や注釈の読み違いが起きやすい領域です。社内のクロスウォークでは、必ず次の情報を同時に持ちます。

  1. 相関表上の対応関係
  2. 変更タイプ 新設、削除、範囲変更、分割、統合
  3. 自社製品の実際の仕様と用途

手順3 PSRを構造分解してから移し替える

PSRを文章のまま移すのではなく、構造に分解します。最低限、次のタグを付けます。

  1. ルール型 CTC、RVC、工程、複合型、例外
  2. レベル CC、CTH、CTSHなど
  3. 例外条件 例 外部材の除外や許容条件
  4. 追加要件 最小工程否認、累積、許容誤差など

この分解ができると、HSの分割や統合が起きても、ルールの意図を保ったまま再組立てできます。

手順4 変更タイプ別に読み替え規則を適用する

WCOガイドでは、HS改正は大きく、新設、削除、範囲変更の3類型に整理でき、単純ケースの更新方法も例示されています。
HS2022→HS2028でも、この考え方で十分に回せます。

ケースA 1対1で対応する

最も簡単です。PSR文章は基本的にそのまま移せます。
注意点は、号の説明や範囲注記が変わる場合があることです。品目名だけで判断しないでください。

ケースB 1つの号が複数に分割される

現場で事故が起きる典型です。
対応は、分割後の各号が、元のどの範囲を受け継いだのかを仕様と照合し、PSRの例外条件を再設計します。WCOガイドでも、分割後の各号に対して、元ルールを維持しつつ、相互に例外を置く形で記述できることが示されています。

実務上のコツは、分割後の号ごとに、主要な非原産材料のHS分類がどこへ落ちるかを同時に確認することです。CTC型のPSRは材料側の分類にも依存するため、ここを飛ばすと誤判定が起きます。

ケースC 複数の号が統合される

統合されると、PSRの適用範囲が広がって見えるため、ルールを強めてしまう誤りが起きます。
基本は、統合前に別々だったルールを、統合後の号の中で品目群ごとに分岐する形で管理することです。協定文の改正が完了するまでは、社内クロスウォークでは分岐注記で運用します。

ケースD 範囲が変わる

最も危険です。番号は同じでも、含まれる製品範囲が変わると、見かけ上の読み替えは成立しません。
この場合は、協定の法的更新を前提に、社内では暫定措置として次を行います。

  1. 旧HSでのPSR対象範囲を文章で定義する
  2. 新HSでその範囲に該当する品目集合をリスト化する
  3. その集合に同一PSRを当てる

EUがHS更新に合わせてPSR表の書き直しを支援する資料を出しているのは、まさにこのケースでの混乱を抑える狙いです。(Taxation and Customs Union)

手順5 検証は机上ではなく取引データで行う

クロスウォークが正しいかは、実際のBOMと工程で検証しないとわかりません。
おすすめの検証は二段階です。

  1. 過去の代表案件を抽出し、HS2022版PSRで原産判定結果を再現する
  2. 同じ案件をHS2028クロスウォーク版で判定し、結果の差分を説明できる状態にする

差分が出た場合、原因はだいたい次のどれかです。

  1. 材料側のHS分類が分割で変わった
  2. 例外条件の読み替えが不十分
  3. 範囲変更を見落とした

手順6 成果物は1枚の表に落とす

経営レビューと監査対応を両立させるには、成果物の形が重要です。最低限、次の列を持つクロスウォーク表があると回ります。

内容
協定名利用協定、相手国
PSR採用HS版協定附属書が採用するHS版
自社品目 HS2022現行管理コード
対応 HS2028相関表に基づく候補コード群
変更タイプ1対1、分割、統合、範囲変更
元PSR要件CTC、RVC、工程、例外条件
読み替え方針そのまま、分岐、集合適用など
検証結果代表案件での判定差分
リスク判定高 中 低 と理由
根拠リンク相関表、協定条文、社内仕様書

日本税関の案内が示すとおり、HS版の取り違えは検索結果や判定結果の誤りに直結し得ます。表で版管理を明示し、誰が見ても間違えない状態にするのが最短です。(税関ポータル)

手順7 運用設計としての版管理を入れる

HS2028発効後も、すべての協定が同時にHS2028へ更新されるとは限りません。WCOガイドが述べるように、協定にはPSR更新の手続があり、簡易改正条項を持つものもありますが、タイミングは協定ごとに異なります。

したがって経営としては、次の二重管理を前提にします。

  1. 申告HSはHS2028へ移行
  2. 原産判定は協定ごとのHS版に合わせて継続

この二重管理を前提に、社内システム、マスタ、教育、監査資料の更新計画を組むべきです。

5. 2026年から2028年までの進め方の目安

WCOはHS2028発効までの準備期間で相関表整備などを進める、としています。(世界関税機関)
企業側はそれに合わせて、次の順で進めると失速しにくいです。

  1. 2026年 棚卸しとクロスウォーク表の骨格を作る
  2. 2027年 代表案件で検証し、例外ケースを潰す
  3. 2027年末 協定別の更新状況を確認し、運用を確定する
  4. 2028年初頭 申告HSの移行と、原産判定の版管理を同時に稼働させる

6. まとめ

HS2022からHS2028へのPSRクロスウォークは、関税分類の変更に追従する作業ではなく、原産判定の誤適用を防ぎ、協定利用を止めないための版管理プロジェクトです。
相関表を使いつつ、変更タイプ別の読み替え規則、取引データでの検証、協定別のHS版管理をセットで回すことで、2028年の移行は管理可能になります。

免責
本稿は一般的な実務整理であり、個別案件の原産地認定や協定解釈は、当該協定の正文と当局運用、必要に応じて専門家助言に基づいて判断してください。

米国CBPが下したセット分類の否認。多機能タブレットとキーボードの分離課税がもたらすコスト増の衝撃

2026年2月1日、米国税関国境警備局(CBP)から、電子機器メーカーや輸入業者にとって看過できない重要な裁定が下されました。それは、タブレット端末と着脱式キーボードがセットで販売される製品について、今後は一つの製品(セット)として扱わず、それぞれ個別のHSコードに分類して課税するという方針決定です。

これまで、多くの企業はこれらのセット品を自動データ処理機械(ノートパソコン等と同等)として一括で申告し、関税上の恩恵を受けてきました。しかし、今回の決定はその商習慣を根底から覆すものです。

本記事では、この技術的な分類変更がなぜ行われたのか、そして企業実務にどのような金銭的・事務的負担を強いることになるのかを深掘り解説します。

通則3の解釈変更、セット品としての特権喪失

まず、これまでの通関実務の常識をおさらいします。

通常、異なる物品(タブレット本体とキーボード)が小売用にセット販売される場合、HSコードの分類ルールである関税率表の解釈に関する通則3(b)が適用されます。これは、セット全体に本質的な特性を与えている構成要素(この場合はタブレット本体)のHSコードで、セット全体を分類するというルールです。

これにより、附属のキーボードもタブレット本体と同じコード(通常は8471.30項など)に分類され、本体が無税であればキーボードも無税で輸入することが可能でした。

しかし、今回のCBPの裁定は、この解釈を厳格化しました。CBPは、着脱式キーボードはタブレットの機能に必須ではなく、それ単体でも独立した商品価値を持つ周辺機器であると判断しました。その結果、セットとしての分類を否認し、タブレットはタブレット、キーボードは入力装置(8471.60項など)として、別々に申告することを求めたのです。

なぜこれがコストアップに直結するのか

HSコードが分かれるだけであれば、単なる事務手続きの問題に見えるかもしれません。しかし、この分離には致命的なコストリスクが潜んでいます。

最大の懸念は、対中制裁関税(通商法301条)やその他の懲罰的関税の適用です。

IT製品の多くは、WTOの情報技術協定(ITA)により基本税率は無税です。しかし、米国が中国などの特定国に対して課している制裁関税は、HSコードごとに細かく指定されています。

もし、タブレット本体(8471.30)が制裁関税の除外対象であっても、分離されたキーボード(8471.60)が制裁対象リストに入っていれば、キーボードの価格分に対して25パーセント等の追加関税が発生します。これまではセット全体の価格に対して関税ゼロだったものが、今後はキーボード部分だけ高率の課税を受けることになるのです。

さらに、品目分類が変わることで、これまで適用できていたFTA(自由貿易協定)の原産地規則を満たせなくなるリスクもあります。セット品としての原産地判定と、単体部品としての原産地判定では、計算式や必要となる部材の要件が異なるためです。

実務担当者が直面するインボイス作成の苦悩

この決定は、通関書類(インボイス)の作成業務にも多大な負荷をかけます。

これまでは、製品セット1式として1行で記載すれば済みました。しかし今後は、一つの箱に入っている商品であっても、インボイス上では本体とキーボードを別の行に分け、それぞれの単価(FOB価格)を明記しなければなりません。

ここで問題になるのが、セット価格の内訳です。

多くのメーカーはセット品としての販売価格しか設定しておらず、附属品の個別の原価や振替価格をインボイスに記載する準備ができていません。税関に対して妥当な価格内訳を提示できなければ、恣意的な価格操作(ダンピングや評価申告漏れ)を疑われるリスクが生じます。

企業が今すぐ着手すべき対応策

このCBPの方針転換を受けて、米国向けに電子機器を輸出する企業は、以下の3つの対策を講じる必要があります。

第一に、影響品目の洗い出しと関税試算です。

自社の製品ラインナップの中で、キーボードやペン、ドックなどが同梱されている製品をすべてリストアップし、それらが分離課税された場合の関税コストをシミュレーションしてください。特に対中関税の対象となるか否かは最優先の確認事項です。

第二に、インボイスシステムの改修です。

セット品番を入力した際に、自動的に本体と付属品の行に分解し、適切な単価を割り振って出力できる仕組みを構築する必要があります。手書き修正はミスの温床となるため推奨されません。

第三に、製品構成の見直しです。

関税コストが許容できないレベルになる場合、セット販売をやめて別売り(アンバンドル)にするか、あるいは付属品の調達先を関税のかからない国へ変更するサプライチェーンの再編を検討する必要があります。

まとめ

米国CBPによる多機能タブレットの分離分類決定は、単なるコードの変更ではなく、企業の利益率を直撃する実質的な増税措置です。

この決定は、今後タブレット以外の製品(スマートウォッチとバンド、ゲーム機とコントローラーなど)にも波及する可能性があります。セット品という魔法のヴェールが剥がされた今、企業は一つひとつの構成品に対する厳密なコンプライアンスとコスト管理を求められています。

WCO相関表が出た瞬間、HS2028対応は現実になる


企業が今やるべき準備と、相関表の読み方

2026年1月、WCOはHS2028改正(HS2028 Amendments)が受諾されたことを公表しました。発効日は2028年1月1日です。残り約2年は、企業にとって「まだ先」ではなく、分類とデータ、システム、契約をつなぐ移行計画を具体化する猶予期間です。(wcoomd.org)

その中で、実務上のスタートラインになり得るのが「WCO相関表(Correlation Tables)」です。相関表は、HS2022とHS2028の間で、どの品目コードがどう移るのかを体系的に示す地図です。HS2028の条文(改正パッケージ)が公表されても、企業の現場がすぐに全社影響を把握できるとは限りません。相関表が出ることで、初めて「自社の品目マスタをどこからどこへ動かすか」を俯瞰できるようになります。

ここでは、WCO相関表がなぜ「出発点」なのか、そして公開後に慌てないために、公開前から企業がやるべきことを深掘りします。


1. HS2028は何が変わるのか

相関表が必要になる背景

HS2028は、299セットの改正で構成され、結果として1,229の見出し(headings)と5,852の小見出し(subheadings)になります。HS2022と比較すると、新設は見出し6、HS6桁小見出し428。削除は見出し5、HS6桁小見出し172です。(wcoomd.org)

テーマも、単なる貿易統計の更新ではなく、規制・政策目的との連動が前提になっています。WCOが強調している主なポイントは次の通りです。(wcoomd.org)

・公衆衛生
救急車、個人防護具、人工呼吸器、診断・モニタリング機器など、健康危機で必要となる物資の可視性を高める新しい区分が入ります。

・ワクチンの構造変更
従来30.02に含まれていたワクチン関連を、人体用の30.07、その他(獣医用など)の30.08へ再編し、疾病別などの詳細な下位区分を設ける、とされています。

・サプリメントの新見出し
食品と医薬品の境界で揉めやすい領域に、新見出し21.07(dietary supplements)と新しい法的注記を設け、統一的な枠組みを目指す、とされています。

・環境分野
プラスチック廃棄物39.15を、バーゼル条約の区分との整合を意識して再編し、有害・PIC対象・その他を識別する新小見出しを導入する、とされています。さらに、単回使用の概念を第39類の新しい法的注記で明示し、ストロー等の幅広い品目で透明性を高める、と説明されています。

この手の改正は、品目コードが「番号だけ変わる」話ではありません。品目の定義が揺れるので、関税率、輸入規制、統計、原産地規則、社内マスタの整合性まで連鎖します。だからこそ、移行の地図として相関表が必要になります。


2. WCO相関表とは何か

誤解されやすい法的地位と限界

まず大前提として、WCO相関表は「法令」ではありません。WCOは、相関表について次の位置づけを明確にしています。

・相関表は、HS委員会の分類決定そのものとみなすものではない
・実装を容易にするためのガイドであり、法的地位はない(wcoomd.org)

この注意書きは、ビジネス側が一番見落としやすいポイントです。現場では「相関表が出たら、旧コードを新コードに置換して終わり」と考えがちですが、相関表は置換表ではなく、移行の参考情報です。

またWCOは、HS2022の相関表公表時に、相関表は法的文書ではない一方で、導入準備に不可欠なツールになっているとも述べています。つまり、法的拘束力はないが、実務上の標準的参照資料として扱われる、という現実があります。(wcoomd.org)


3. 相関表はどういう形で出てくるのか

HS2022の前例から読み解く

HS2022の前例では、WCOは相関表を2つの表として公表しました。(wcoomd.org)

・Table I:新しい版から旧版へ(新コード側を起点)
加えて、多くの相関に「備考」が付き、移動する品目の性格や関連条文の参照が示されるケースがある。

・Table II:旧版から新版へ(旧コード側を起点)
基本的にTable Iを機械的に反転した表で、備考は付かない。

さらに、WCOの相関表解説では、exという接頭表示が重要な意味を持ちます。exは「その旧コードの範囲の一部だけが移る」ことを示し、1対1の単純移行ではない、というサインです。(wcoomd.org)


4. なぜWCO相関表の公開がHS2028改訂の出発点なのか

出発点と言い切れる理由は3つあります。

4-1. 全社影響を一気に棚卸しできる

条文だけで影響を追うと、読み落としが発生します。相関表があれば、HS6桁ベースで「動くコード」を一覧化でき、影響範囲を見積もれます。

4-2. 曖昧さが可視化され、判断ポイントが特定できる

exや分岐・統合は、判断を要する場所です。相関表は、曖昧さを表面化させることで、社内ルール化を促します。(wcoomd.org)

4-3. 国別実装の監視が始めやすくなる

WCOの相関表は共通骨格であり、各国が自国のタリフラインに落とす過程で追加の分割や法令反映が入ります。(wcoomd.org)


5. HS2028の相関表はいつ出るのか

今わかっていることだけで整理する

現時点でWCOが公式に言っていることは、次の2点に集約されます。

・2025年9月のHS委員会で、HS2022とHS2028の相関表の開発に関する議論を開始し、形式を改善した(明確さと使いやすさの向上が目的)(wcoomd.org)

・2026年1月時点で改正は受諾されており、残る2年間で相関表の作成、解説書などWCOツールの更新、加盟国支援を進める(wcoomd.org)


6. 公開前から企業がやるべき準備

相関表が出ても詰まらないための実務設計

相関表が出てから着手すると、必ず間に合わない作業を先に片付けます。

6-1. 品目マスタの現状の正しさを固める

HS移行で一番危険なのは、現行コードが曖昧なまま新コードへ移してしまうことです。

6-2. 相関表を置換ではなく分岐ルールに落とす設計にする

分岐と統合、そしてexは、業務ルールと判断ログが必要です。

6-3. 国別実装を前提に、監視ポイントを先に置く

実務は国別枝番と税率、規制コードで動きます。相関表は国別実装の入口です。(wcoomd.org)

6-4. 参照情報の取り方を決めておく

相関表や関連資料は複数チャネルに出る可能性があり、社内で一次情報の定義が必要です。(wcoomd.org)


7. 相関表公開後に、企業がやってはいけない3つのこと

7-1. 相関表の自動変換を、そのまま申告に使う

相関表は法的文書でも分類決定でもありません。(wcoomd.org)

7-2. exや分岐を放置して、とりあえずどれかに割り付ける

判断が必要な場所は、判断に必要な製品属性を揃えるところからです。(wcoomd.org)

7-3. HS6桁だけ更新して満足する

国別枝番と税率、規制コードまで落とし込む必要があります。(wcoomd.org)


まとめ

相関表公開は開始合図。しかし準備は公開前に終わらせる

WCOは、HS2028が2028年1月1日に発効すること、そして残る2年で相関表の整備を含む実装準備を進めることを明確にしています。(wcoomd.org)

相関表が公開された瞬間に走り出せるよう、品目マスタの整備、分類根拠の棚卸し、分岐判断の設計、国別実装の監視体制を、公開前に作っておく。

HS2028対応は、貿易実務だけの問題ではありません。サプライチェーンとデータ、コンプライアンスをつなぐ経営課題です。相関表公開を出発点にするために、今日から準備を始めてください。


HS2028に備える 主要国ポータルの対応状況を確実に押さえる実務ガイド

2028年1月1日、HSコードが更新されます。HS2028は、世界税関機構が定めるHS品目表の第8版で、国際取引で使われる分類コードの基盤そのものです。2026年1月21日にHS2028改正が受理され、発効までの準備期間が公式にカウントダウンに入りました。(世界関税機関)

このタイミングで、最初に手を付けたいのが「主要国ポータルのHS2028対応状況を確認する」ことです。理由はシンプルで、通関申告や関税計算、規制対応の現場は、最終的に各国の公式ポータルに載っているコード体系と税率に従うからです。

この記事では、単にポータルを眺めるだけで終わらせず、ビジネスの意思決定に直結する見方と、国別にどこをチェックすべきかまで掘り下げます。

HS2028で何が変わるのか

まず、確実に押さえるべき事実は次の3点です。

1つ目。HS2028は2028年1月1日に発効します。(世界関税機関)
2つ目。改正は299セットに及び、見出しは1,229、子目は5,852という規模です。HS2022比で新設や削除もあり、単なる文言調整ではありません。(世界関税機関)
3つ目。WCOは残り2年間で、HS2022とHS2028の相関表の整備、解説書やツールの更新、加盟国支援を進めると明記しています。加盟国側も、国内法令、IT、手続、研修を更新するとされています。(世界関税機関)

テーマ面では、公衆衛生や環境が中心です。医療機器や防護具の識別強化、ワクチンの再編、栄養補助食品の新見出し、プラスチック廃棄物の再構成など、実務上インパクトの大きい領域が含まれます。(世界関税機関)

ここまでを踏まえると、HS2028は「ある日突然、コードが変わる」イベントではなく、2年間かけて各国が段階的に制度とシステムを移行するプロジェクトだと捉えるのが現実的です。

なぜ主要国ポータル確認が最優先になるのか

HS改正に関して、現場がつまずく典型パターンは、社内のマスタや取引書類の更新タイミングが各国の実装タイミングとズレることです。ズレると何が起きるか。

・輸入申告でコードが通らず、差し戻しや保留が増える
・税率や追加措置の適用判断が揺れ、コスト見積りが不安定になる
・統計品目や国内追加桁の変更に引きずられて、取引先やフォワーダーとの照合に時間が溶ける

このズレを最小化するうえで、各国の公式ポータルは一次情報の集合体です。更新日、適用日、改正履歴、データ形式、関連法令への導線など、移行の手がかりがまとまって出てきます。

つまり「主要国ポータルのHS2028対応状況を確認する」とは、単なる閲覧ではなく、次の問いに答えを出すための情報収集です。

・その国では、いつから新コードが申告に使えるのか
・旧コードはいつまで受け付けられるのか
・相関表や変換資料はどこで入手できるのか
・国内追加桁まで含めた変更はどの粒度で提供されるのか
・自社のITや業務が追随できる形式でデータを取れるのか

対応状況を見抜く 6つのチェックポイント

ポータルの見方は国によって違いますが、見るべきサインは共通化できます。

  1. 表示されている版と適用日
    年次版、基本版、改正号などの表示があるか。適用日が明記されているか。
  2. 改正履歴と更新頻度
    いつ、何が、どの根拠で変わったかが追えるか。更新が日次なのか、年次なのか、随時なのか。
  3. 日付指定で検索できるか
    HS改正は発効日で切り替わるため、取引予定日を入れて結果が変わる設計になっているかは重要です。
  4. 相関表や変換資料への導線
    WCO相関表に加え、国内追加桁を含む国別クロスウォークが出るか。その掲載場所が分かりやすいか。
  5. ダウンロードやAPIの有無
    画面で確認するだけでは、社内マスタ更新が回りません。CSVやJSON、Excelなどで取得できるか。
  6. 法令や公的通知へのリンク
    ポータルの表示は便利ですが、最終的な根拠は法令や告示です。リンクが整理されているかで信頼性が変わります。

この6点で見れば、HS2028対応状況は、専用ページの有無だけでなく、更新の兆候と実装の成熟度として評価できます。

主要国ポータル別に見るべき場所

以下は、主要国で実務上よく参照される公式情報源と、その読み解き方です。ここでは、今ある機能を使ってHS2028の到来をどう検知するかに焦点を当てます。

日本 税関の品目分類検索で確実に追う

日本税関の品目分類検索は、検索対象を輸入と輸出で切り替えられ、実行関税率表や輸出統計品目表など複数コンテンツを対象にできます。さらに、税番は上位2桁、4桁、6桁、全9桁の指定が可能で、検索対象日時も指定できます。(税関総合情報)

HS2028対応状況を確認するうえでの実務ポイントは、検索対象日時です。発効日をまたぐ案件では、同一品目でも結果が変わり得ます。ポータル側がHS2028に切り替われば、2028年1月1日以降の日付指定で新しいコード体系の検索結果が出るはずです。社内側では、案件の通関予定日に合わせたコード参照という運用を、今のうちに定着させると移行が楽になります。

アメリカ合衆国 米国国際貿易委員会 の改正履歴で変化点を捕まえる

USITCのHTSアーカイブは、版が体系的に保存されており、年次の基本版に加えて複数の改正を時系列で追えます。改正ごとに日付があり、HTMLに加えてCSVやXLS、JSONでのダウンロードが用意され、改正根拠として公的な文書への参照も付いています。(アメリカ合衆国国際貿易委員会)

HS2028対応の観点では、ここが最大の観測地点になります。大きなコード再編が起きると、年次基本版だけでなく、複数の改正に分割されて反映される可能性があります。社内データ連携を見据えるなら、画面で眺めるよりも、ダウンロード形式で取得し、マスタ差分を機械的に検知できる体制に寄せるのが現実的です。

欧州連合 欧州委員会 TARICで日次更新の中から大改正を見分ける

TARICはEUの統合関税データベースで、関税措置だけでなく商業・農業関連の措置も統合して扱う多言語データベースです。加盟国に対して日次でデータが送信され、加盟国システムの通関処理にも使われることが明記されています。Excel形式のraw dataも提供されています。(Taxation and Customs Union)

HS2028対応状況の確認は、日次更新に埋もれがちです。ポイントは、日々の更新そのものではなく、品目体系の土台が変わるタイミングです。TARICは法令根拠も示しているので、HS2028に絡む大きな改正は、関連する法令の動きとセットで追うのが安全です。

イギリス 英国歳入関税庁 Trade Tariffは日付入力と更新情報が鍵

UKの関税検索サービスは、取引予定日を入力でき、品目、税率、割当などが時間とともに変わることを前提に設計されています。ページ上には最新ニュースと最終更新日、改正の参照導線もあります。(GOV.UK)

さらに、Trade TariffデータをAPIで取得できることも明記されています。(API Catalogue)
HS2028対応状況の確認では、日付入力欄がそのまま検証装置になります。将来日付が受け付けられる仕様であれば、2028年1月1日を入れて結果がどう変わるかを定点で観測できます。APIがある場合は、手作業確認から抜けて、定期ジョブで差分検知する運用に移しやすいのも利点です。

カナダ カナダ国境サービス庁 関税ファイルと告知をセットで見る

CBSAは、カナダの関税分類を知りたい事業者向けに、関税ファイルへのアクセス、ガイド、過去版アーカイブ、分類や原産地などの裁定、カスタムズノーティスの一覧などをまとめています。カナダの税則はWCOのHSに基づくことも明記されています。(カナダ国境サービス局)

章別に見られる関税スケジュールは、適用日と形式が整理されています。(カナダ国境サービス局)
HS2028の対応状況確認では、次の2点を並行で追うのがコツです。関税ファイルの版更新と、告知や通知の情報。版だけ見ていると背景が取りこぼれますし、告知だけ読んでいると現場適用に落ちません。

オーストラリア オーストラリア国境警備隊 Working Tariffの説明文が先行指標になる

ABFのWorking Tariffは、現行の関税分類のオンライン版であること、WCOの改正で始まった変更や、2022年1月1日開始の統計コード変更、その後の法令や統計コード変更を含むことが明記されています。分類はSchedule 3で参照する、といった構造も説明されています。(Australian Border Force Website)

ここは、HS2028対応状況の早期検知ポイントになり得ます。なぜなら、説明文がどの改正サイクルを取り込んでいるかを示しているからです。HS2028に向けて準備が進めば、説明文や対象範囲の表現が更新される可能性があります。画面の検索結果より先に、こうした概要説明が更新されることもあります。

韓国 韓国関税庁 10桁DBと6桁共通ルールを押さえる

KCSはHSコードの基本として、先頭6桁は世界共通で、7桁目以降は国ごとに異なるという構造を説明しています。韓国は10桁コードを使うことも明記されています。(韓国関税庁)
また、関税DB検索では10桁のHSコードまたは品名で検索できることが示されています。(韓国関税庁)

HS2028は6桁部分の変更を含むため、まず影響が出るのは6桁です。ただし実務で使うのは10桁です。ここがミソで、6桁の相関表だけでは社内マスタ更新が終わらない可能性があります。KCS側が国内追加桁をどう組み替えるかまで含めて、DBで早期に確認できる体制が重要になります。

中国 国務院関税税則委員会 中華人民共和国財政部 の公告を一次情報として組み込む

中国では、進出口税則が公告として公表され、例えば2026年版は2026年1月1日から実施される旨とPDFの掲載が確認できます。(関税司)

中国市場を扱う場合、現場ではポータル検索に加えて公告PDFが一次情報になります。HS2028移行でも、制度変更の根拠と施行日、変更点がどこで示されるかを見誤らないことが重要です。社内の観測リストに公告の発表ページを入れておくと、更新を取りこぼしにくくなります。

ポータル確認を社内の成果に変える運用設計

ポータルを確認して終わりではなく、社内の移行プロジェクトに落とすときの型を最後に整理します。

  1. 重要市場から優先順位を付ける
    全世界を同時に追うと疲弊します。売上、仕入れ、制裁や規制、リードタイムなどの観点で上位市場を決め、そこから始めます。
  2. 版と日付の観点でマスタを持つ
    国別に、現行版、切替予定日、確認日、参照元ポータル、担当者を持ちます。日付指定検索ができる国は、取引予定日ベースの照会に統一します。
  3. 相関表が出たら、6桁と国内追加桁を分けて管理する
    WCO相関表は6桁の基盤です。そこから先の国内追加桁は国ごとに別プロジェクトになります。両者を混ぜると、関係者が混乱します。
  4. 社内システムと外部委託先を同じタイムラインに乗せる
    ERP、PIM、貿易管理システム、フォワーダー、通関業者が別々に更新すると事故が起きます。ポータルの更新兆候をトリガーに、関係者に同報する設計にします。

まとめ

HS2028は、2028年1月1日発効の大規模改正です。2年間の準備期間で、WCO側は相関表や解説などを整備し、各国は国内法令とITを更新していきます。(世界関税機関)

だからこそ、主要国ポータルのHS2028対応状況を定点観測し、変化の兆候を早期に拾うことが、最も費用対効果の高い一手になります。画面の見た目より、版、適用日、改正履歴、日付指定検索、データ取得手段、法令根拠。この6点で見れば、HS2028移行は予測可能なプロジェクトに変わります。

情報確認日: 2026年1月31日

CBP裁定で読み解く「導線(8544)」と「自動車部品(8708)」の境界線

ワイヤーハーネスは、見た目も用途も明らかに自動車向けです。にもかかわらず、米国税関CBPの裁定では、しばしば自動車部品の8708ではなく、導線としての8544に分類されます。
ここを誤解すると、申告修正や追徴、追加関税の取りこぼし・過払い、サプライチェーン原価計算の崩れにつながりかねません。

本稿では、CBPの代表的な裁定(HQ・NY)を軸に、「導線としての8544」と「自動車部品としての8708」の境界がどこに引かれるのかを、ビジネスの意思決定に使えるレベルまで整理します。

※本稿は一般的な情報提供であり、個別案件の分類を確定するものではありません。最終判断には製品仕様、構成部品、輸入時の状態、提出資料が強く影響します。重要案件ではCBPのバインディングルーリング取得を推奨します。


1. まず結論:8708に行く前に、8544に「吸い込まれる」仕組みがある

誤解が生じやすい最大の理由は、「用途だけで考えてしまう」ことです。
確かにワイヤーハーネスは車両専用に設計され、車の中でしか使われませんが、HTSUSは用途だけでなく、章注・部注による「門番ルール」で分類の行き先を決めています。

その典型が、HTSUS Section XVII(車両等)の注2(f)です。
この注記では、車両の部品として識別できるものであっても、Chapter 84・85に該当する物は、Section XVIIの「parts and accessories(部品・付属品)」の範囲から除外すると定めています。
言い換えると、「Chapter 85にきちんと分類できるものは、原則として8708には入れない」という構造です。

この門番ルールがあるため、ワイヤーハーネスを8708に入れたい側の主張は、出発点から不利になります。
8708に至るための「勝ち筋」は単純で、輸入時の状態の製品が、Chapter 85のどの見出しにも当てはまらないことを示せるかどうかにかかっています。


2. CBPが8544を選ぶときのロジック

本質が「絶縁導体+コネクタ」なら8544

2-1. 事例A:HQ 955026(1993年)

CBPが8544を選んだ代表例として、HQ 955026があります。対象は、乗用車に搭載されるインストルメントパネル用ワイヤーハーネスアセンブリで、導体、配線トラフ、端子、絶縁体、グロメット、束線材、ヒューズ、リレー、ライトソケットなどから構成されていました。
このアセンブリは、ボディコンピュータ、計器クラスター、ラジオ、エアバッグモジュール、スイッチ類、車体配線、エンジンルーム配線など、インストルメントパネル周辺の各モジュールを相互接続する役割を持ちます。

CBPは、Explanatory Note 85.44に触れながら、「絶縁された電線・ケーブル等は、長さに切断されていても、端にコネクタ類が付いていても、依然として8544にとどまり得る」と整理しました。
そのうえで、対象品の本質は「絶縁された導体にコネクタ等を付した配線セット」であり、ヒューズやリレー、ライトソケット等は電気の導通を補助するにとどまるとして、8544.30.00(車両等に用いる配線セット)への分類を確定しています。

さらに重要なのは次の点です。
HQ 955026では、たとえ用途が自動車であっても、対象がChapter 85(8544)に分類される以上、Section XVII注2(f)により8708への分類は排除される、と明言されています。

当時の裁定では、検討対象となった8708.99.50の一般税率が3.1%、8544.30.00が5%と記載されており、分類による税率差がコストに直結することが示されていました(税率は改定され得るため、実務では必ず最新HTSを確認する必要があります)。

ビジネス上の示唆

  • 自動車専用設計であっても、それだけで8708にはならない。
  • コネクタ、端子、束線材、グロメット、ヒューズ、リレー程度の追加要素は、8544から外す決定打になりにくい。
  • 議論の中心は、「電気の導通・配線」という本質を超える独立機能が、輸入時点でどこまで実装されているかに移る。

3. では、いつ8708になり得るのか

8544に当てはまらないほど「機能モジュール化」しているとき

3-1. 事例B:HQ 088477(1991年)

8708側に振れた有名例がHQ 088477です。
ここで対象となったのは、インストルメントパネルに組み込まれる配線アセンブリですが、その内容は単なるハーネスを超えたものでした。

裁定文によれば、このアセンブリには、19本のヒューズを収めたヒューズボックス、ランプとランプソケット、マイクロプロセッサを含むランプ監視モジュール、ドア開状態検知モジュール、ランプ付きグローブボックススイッチ、エンジン警告系ドライバモジュール、複数のリレーやサーキットブレーカーなどが含まれていました。

CBPは、Section XVII注2(f)(Chapter 85該当品は車両部品扱いしない)を前提としながらも、次のようにロジックを組み立てています。

  • 構成要素の一部(ヒューズ、スイッチ、電線など)はChapter 85で個別に説明できる。
  • しかし、輸入時の状態の「全体」としては、Chapter 85のどの見出しにも当たらない。
  • 特に8544については、単なるコネクタ付き導体の範囲を超えて、監視・制御・警告等の装置が相当量一体化しており、85.44の用語を満たさない。
  • 8543(個別機能を有する電気機器)についても、本件全体を説明するには適切でない。
  • 以上から、全体を最もよく表す見出しは8708.99.50である。

この結果、当該アセンブリは「自動車用のその他の部分品」として8708.99.50に分類されています。

ビジネス上の示唆

  • 同じ「ハーネス」と呼ばれていても、輸入時点で監視・制御・診断などのモジュール群を抱き込むと、8544の「安全地帯」から外れる。
  • 8708に行けるかどうかは、「車の部品だから」ではなく、「Chapter 85のどれにも当たらないほど一体化した機能モジュールになっているか」という消去法の勝負になる。
  • 設計変更や構成部品の追加が、既存の分類前提を壊しうる。

4. 現代の実務感

スイッチ・リレー・ヒューズ入りでも8544に残ることがある

4-1. 事例C:NY N326429(2022年)

近年の実務に直結する例として、NY N326429があります。
ここで扱われたのは、LED作業灯やオフロード用ライトバー向けの「プラグ・アンド・プレイ」配線ハーネスで、ロッカースイッチ、ヒューズ、リレー、複数のコネクタを備え、12V系で車両に使用される製品でした。

輸入者側は、回路の接続・保護・スイッチング等を行う電気機器を含むことから、8536と8544のどちらか、あるいは複合として別のサブヘディングを提案しました。
しかしCBPは、保護・接続・スイッチング・導通など複数の機能が並立しており、単一の機能を「本質」と特定しにくいとして、GRI 3(c)を適用しています。

GRI 3(c)では、2以上の見出しに同程度に該当し、本質を決定できない場合、番号順で最も後ろにある見出しに分類すると定められています。
このルールを踏まえ、CBPは最終的に8544.30.0000(Ignition wiring sets and other wiring sets of a kind used in vehicles, aircraft or ships)を選択しています。

さらに、この裁定では、中国原産で8544.30.0000に分類される場合、原則として追加25%関税(Chapter 99の9903.88.01)の対象となり得ること、申告時にChapter 99番号を併記する必要があることも明記されています。

ビジネス上の示唆

  • スイッチ、ヒューズ、リレーを内蔵していても、必ずしも8536や8708に移るわけではなく、8544.30にとどまるケースがある。
  • 分類は基本税率だけでなく、Section 301の追加関税の適用有無やコンプライアンスコストにも直結する。
  • 設計段階から、部品構成と輸入時の状態を前提に、分類シナリオと追加関税シナリオをセットで検討する価値が高い。

5. 境界線を実務に落とす

判断軸は3つに絞れる

CBP裁定の積み重ねから見える「8544と8708の境界線」は、次の3つの軸に整理できます。

5-1. 軸1:全体として8544の説明に収まるか

HQ 955026では、ヒューズやリレー、ライトソケットなどが含まれていても、「電気の導通を補助する範囲」にとどまるとして、全体を8544.30.00に分類しました。
一方、HQ 088477では、監視モジュールやマイクロプロセッサ等、導通補助の域を超えた装置が相当量一体化している点が決定的であり、85.44の範囲から外れると判断されています。

5-2. 軸2:Section XVII注2(f)の門番を越えられるか

「Chapter 85にきちんと分類できる限り、8708は閉ざされる」というルール自体が非常に強力です。
したがって、8708を主張するのであれば、輸入時の状態の「全体」がChapter 85のいずれの見出しにも当てはまらないことを示す必要があります。

HQ 088477は、まさにこの構造で8708に到達した事例です。
個々の構成品はChapter 85で説明できるものの、全体としては特定の見出しの文言に合致せず、結果として8708.99.50が最も適切とされた、というロジックになっています。

5-3. 軸3:輸入時点で「完成品機能」を持っているか

特に照明系などでは、輸入時にどこまで完成しているかが重要です。
CBPは過去裁定において、GRI 2(a)の考え方を用いて、未完成品であっても、主要な構成要素を備えた灯具アセンブリを8512(自動車用照明・信号装置)で扱う方向に整理し、従前の一部ハーネス系裁定を修正・撤回したことがあります(HQ 954945など)。

要するに、「配線だから8544」「自動車に付くから8708」といった短絡ではなく、「輸入時点でどの機能がどこまで完成しているか」が分類を動かすということです。


6. 実務で使えるチェックリスト

分類検討の初動で、最低限そろえておきたい情報を、通関実務の観点から整理します。

6-1. A:製品定義を固める

  • 導体は単線か、多芯ケーブルか、束線か。
  • コネクタ、端子、ソケットの有無と種類(車両専用か、汎用か)。
  • ヒューズ、リレー、スイッチ、モジュール類の有無。
  • それらが「導通・配線を補助する機能」にとどまるのか、「監視・制御・診断などの独立機能」を持つのか。
  • 輸入時点でランプや他の装置が同梱・取り付け済みか(分納の場合を含めて確認)。

6-2. B:資料の整備(監査・裁定取得に効く)

  • 回路図・配線図、BOM(部品番号と数量)。
  • 輸入時の状態が分かる写真、梱包形態。
  • 機能説明書(何を制御し、何を監視し、どの信号・電力を処理するか)。
  • 車両への搭載位置と接続先一覧(どのECU・モジュールと接続するか)。

6-3. C:リスクの見積もり

  • 8544.30前提の設計でも、構成変更によりHQ 088477型(8708側)に「化ける」可能性がないか。
  • 原産国が中国の場合、Section 301追加関税の適用可能性と、Chapter 99番号の併記運用を含めた管理フローが設計されているか(NY N326429は、分類判断と同時に追加関税管理を求めている)。
  • 分類変更が価格・契約条項・原価計算・移転価格に与える影響を、あらかじめ試算しているか。

7. まとめ:境界線は「名称」ではなく「輸入時点の全体像」で決まる

ワイヤーハーネスを8708に入れる発想は自然ですが、HTSUSの構造上、Chapter 85に該当する限り、Section XVII注2(f)により8708は原則として閉ざされます。
CBPは、絶縁導体とコネクタを核とし、導通を補助する範囲の部品が付く程度であれば8544.30に分類し、8708を排除する判断をHQ 955026などで明確に示しています。

一方で、監視・制御モジュールやプロセッサ等を相当量抱え込み、Chapter 85のどれにも当てはまらないレベルの一体品となると、消去法により8708に到達する余地が生まれることも、HQ 088477が示す通りです。
そして近年でも、スイッチ・ヒューズ・リレーを備えた車両用配線ハーネスが8544.30に整理され、同時にSection 301追加関税の管理が求められる例(NY N326429)が存在します。

次のアクションとしては、社内で「導通補助の範囲」と「モジュール化している領域」を整理し、設計変更がその境界を越えるタイミングを検知できる体制を作ることが重要です。
そのうえで、金額インパクトの大きい品目については、CBPのバインディングルーリング(19 CFR Part 177)を活用し、分類と追加関税の両面で不確実性を減らすことが、費用対効果の高い打ち手になります。