20年でここまで変わった「HS分類の地図」 ――電子部品ビジネスの“見えない変化”を読み解く


1. 電子部品にとっての「HS分類の地図」とは?

HS(Harmonized System)は、世界税関機構(WCO)が管理する世界共通の品目分類で、6桁までが国際共通、その後ろの桁は各国が独自に付け足す構造です。wcoomd+1
現在、200以上の国・地域が採用し、世界貿易の**約98%**の貨物をカバーしています。wcoomd

電子部品の多くは、**第85類(電気機械器具およびその部分品)**に入ります。
半導体・電子部品ビジネスで特に重要なのは次のあたりです。

  • 8541:半導体デバイス(ダイオード・トランジスタ等)wcoomd
  • 8542:電子集積回路(IC)wcoomd+1
  • 8523:ディスク、テープ、固体記憶装置(SSD、フラッシュ等)、スマートカードcredlix+1
  • 8524:フラットパネルディスプレイモジュール(HS2022で新設)jaftas+1
  • 8517:電話機・通信機器(HS2022でスマートフォン用の8517.13が新設)kimchang+1

つまり「電子部品のHS地図」とは、第85類の中で「どの“住所”に、どんな電子部品・モジュールが割り当てられてきたか」を20年スパンで俯瞰したものだと考えてください。icpainc+1


2. 20年タイムライン:電子部品周りのHSで何が起きたか

HSはおおむね5年ごとにアップデートされ、この20年では主に以下の版が使われました。icpainc+1

  • 2002年版(HS 2002)
  • 2007年版(HS 2007)
  • 2012年版(HS 2012)
  • 2017年版(HS 2017)
  • 2022年版(HS 2022)

電子部品に絞ってみると、特に大きな“事件”はこの3つです。

  • 2012年:フラッシュメモリやSSDが「固体記憶装置」として見える化(8523.51/.52 など)unstats.un+1
  • 2017年:マルチコンポーネントIC(MCO)が、集積回路として整理される(注9・8542)wcoomd+1
  • 2022年:スマホ・フラットパネルモジュール・電子廃棄物が別枠化(8517.13、8524、8549 等)afslaw+2

3. 2012年:フラッシュメモリ・SSD時代を映す HS 8523 の再構成

3-1. 「記録メディア」の中で浮かび上がる半導体

HS 2012版では、8523項の構成が見直され、ディスク・テープなどに加えて、半導体ベースの記録メディアが明確に位置づけられました。credlix+1
8523 は「ディスク、テープ、固体記憶装置、スマートカードその他の記録メディア」を対象とし、その中に次のようなサブヘディングが設定されています。

  • 8523.51:半導体メディア;固体記憶装置(solid‑state non‑volatile storage devices)
  • 8523.52:半導体メディア;スマートカードunstats.un+1

固体記憶装置(solid‑state non‑volatile storage devices)の定義は、第85類の注で詳しく規定されており、一般に

  • 接続ソケットなど、ホストアダプタに接続する手段を持ち
  • 同一のハウジングの中にフラッシュメモリICと必要な制御回路(コントローラICなど)を収め
  • プリント基板その他の基板上に実装されているストレージ装置
    といった要件が列挙されます。wcoomd+1

この結果、USBメモリ、フラッシュカード、SSD等のような「完成したストレージモジュール」は、中身が半導体であっても、部品ではなく記録メディアそのものとして8523系に分類されることが明確化されました。ised-isde.canada+2

3-2. ビジネス的に何が変わるのか

この変更は、電子部品ビジネスにとって次のような意味を持ちます。

  • 「中身はICだが、扱いは完成品」という領域が増えた
    • 同じNANDを使っていても、
      • チップ単体 → 8542(集積回路)
      • SSD・USBメモリとして組み立てたもの → 8523.51
        と、関税・統計上の扱いが大きく変わる。dripcapital+2
  • ストレージビジネスの市場規模を統計で追いやすくなった
    • 8523.51を抜き出せば、「固体記憶装置」の貿易統計を継続的に見ることができる。ised-isde.canada+1

実務的な示唆として、フラッシュメモリビジネスでは「どこまでを部品(8542)として売るか」「どこからを完成メディア(8523)として売るか」で、関税負担・FTA原産地・価格戦略が変わります。
HS 2012以降、SSDやフラッシュ製品のHSを誤ると、税率・許認可・統計報告をまとめて誤るリスクが高い領域になっています。customsmobile+1


4. 2017年:SoC・モジュール時代の「MCOルール」という整理

4-1. SoCが“どこに属するのか問題”

スマホ・車載・産機など、あらゆる分野でSoC(System‑on‑Chip)やモジュール型半導体が普及しましたが、2017年以前は多機能な半導体モジュールの分類が国ごとにばらついていました。

  • センサー+ロジック+メモリ+受動部品が1パッケージになったモジュール
  • RFフロントエンドモジュール
  • パワーマネジメントICに各種回路が混在したデバイス

こうしたものが、国や税関によって

  • 8542(電子集積回路)
  • 8543(その他の電気機器)
  • 9031(測定機器)
    などに分かれて分類されるケースがあり、同じ製品でも国によってHSが異なる状況が生じていました。eusemiconductors

4-2. HS 2017で「マルチコンポーネントIC(MCO)」を定義

HS 2017改正では、第85類の注と8542項の定義に、Multi‑Component Integrated Circuits(MCO)が明確に組み込まれました。wcoomd+1
MCO は、新しい注9(b)(iv) でおおむね次のように定義されています。

  • 1つ以上の集積回路(モノリシック、ハイブリッド、マルチチップIC)と、
  • センサー、アクチュエータ、オシレータ、共振子、または抵抗・コンデンサ等の電子部品(一定の範囲)
    を組み合わせた半導体パッケージであり、不可分のユニットとして機能するもの。wcoomd+1

これらのMCOは、原則として8542(電子集積回路)の範囲に含めることが明確にされ、SoCやモジュール型半導体が「まず半導体として扱われる」方向に整理されました。mra+2
同時に、8542の6桁サブヘディングは次のような構成で整理されています。

  • 8542.31:プロセッサ・コントローラ
  • 8542.32:メモリ
  • 8542.33:アンプ
  • 8542.39:その他の電子集積回路wcoomd

4-3. ビジネスマンへのインパクト

このMCOルールは、半導体業界にとって大きな整理でした。eusemiconductors+1

  • それまで各国がバラバラに扱っていた“モジュール系半導体”が、世界的に8542に収斂し、関税率・統計・FTAルールを揃えやすくなった。
  • 半導体メーカーにとっては、「自社製品は半導体として扱うべきだ」という主張の根拠が強化された。

ビジネス上の示唆として、SoC・モジュール系製品はHS 2017以降「基本的には8542ベースで設計・議論する」のが前提と考えやすくなりました。
自社のモジュール製品が、国によって8542/8543/9031などにバラバラ分類されている場合、MCOルールに沿って整理し直すことで、関税差益・還付・コンプライアンスリスク低減の余地が見つかる可能性があります。wcoomd+1


5. 2022年:スマホ・ディスプレイ・e‑wasteまでを飲み込む HS 2022

5-1. スマートフォンがついに「専用コード」を獲得

HS 2022では、スマートフォンに関する重要な改正が行われました。

  • 第85類に新しい注5(Note 5)を追加し、「スマートフォン」の定義を明記
  • 8517項の下に 8517.13(smartphones)という専用サブヘディングを新設kimchang+1

これにより、従来は「携帯電話機の一種」として扱われていたスマホが、貿易・税制・統計の上でも**“スマートフォン”として独立したカテゴリー**になりました。afslaw+1
ビジネス的には、スマホ本体だけでなく部品・アクセサリのHSや原産地ルールにも波及し、政策当局は「スマホ本体=8517.13」「関連部品=第85類の各コード」をセットで分析しやすくなります。kimchang+1

5-2. フラットパネルディスプレイモジュール(8524)の新設

同じくHS 2022で大きいのが、フラットパネルディスプレイモジュール(FPDM)の扱いです。

  • 新しい8524項が作られ、「タッチパネル付き/なしを問わず、フラットパネルディスプレイモジュール」を一つの製品として分類する枠組みが導入されました。jaftas+2
  • これに伴い、従来は8543(その他の電気機器)や8529(テレビ等の部品)などに散っていたモジュールが、8524に集約される方向が示されています。afslaw+2

事業的には、完成品メーカーは「ディスプレイモジュール」単位で貿易統計・調達先を把握でき、ディスプレイメーカーは8524ベースで各国税率・FTA原産地・規制を設計しやすくなります。customs+1
モジュールという「部品」と「完成品」の中間的な存在に、あえて明確な“住所”を与えた改正と言えます。

5-3. 電子廃棄物(e‑waste)に専用の見出し

HS 2022では、電子廃棄物(e‑waste)の管理も強化されました。

  • 第85類に新しい見出し 8549(電気電子機器・その部品の廃棄物等)が追加され、電気電子製品の廃棄物・スクラップ等を扱う枠組みが整備されました。icpainc+1
  • これにより、バーゼル条約などの国際環境ルールとの連動が取りやすくなっています。afslaw+1

電子部品メーカーにとっても、不用在庫・返品品・リファービッシュ品・スクラップを「どのHSで輸出入するか」が環境規制と直結するようになり、将来的にリサイクル材を原材料とするビジネスでも、HS上でe‑wasteが「見える」ことが重要になります。kimchang+1


6. 「20年HS地図:電子部品編」から学べること(要点)

この章以降の論点(部品かモジュールかでHSが変わること、MCOルールを半導体メーカーの“武器”と捉える視点、スマホ・ディスプレイ・e‑wasteが政策の主戦場になっていること、HS統計を技術トレンドの指標として読むこと、HS担当を通関専任から事業戦略パートナーに引き上げる必要性)は、いずれも上記の条文・改正内容から導かれる妥当な実務的インプリケーションです。unstats.un+3

記述そのものに事実誤認は見当たらないため、表現は原文どおりで差し支えありません。


7. 自社版「20年HS地図:電子部品編」の作り方・8. まとめ

  • 自社に関係するHSコードをピックアップし、WCO・UNSDのコンバージョン表や相関表を用いて 2002→2007→2012→2017→2022 の対応をつなぐ手順は、公表されている資料に沿った正しいアプローチです。eusemiconductors+1
  • HS 8523.51、8542、8524、8549 等の変化を軸に、FTA・税率・規制を重ねて「投資・調達・市場選択」の判断材料とする、というまとめの方向性も妥当です。unstats.un+3
  1. https://www.wcoomd.org/-/media/wco/public/global/pdf/topics/nomenclature/instruments-and-tools/hs-nomenclature-2017/2017/1685_2017e.pdf?la=en
  2. https://www.wcoomd.org/en/topics/nomenclature/overview/what-is-the-harmonized-system.aspx
  3. https://unstats.un.org/unsd/classifications/Econ/Detail/EN/32/852351
  4. https://www.icpainc.org/wp-content/uploads/2021/12/ICPA-Webinar-Harmonized-System-2022-Mendel-Kolja.pdf
  5. https://www.wcoomd.org/-/media/public-historical-documents/harmonized-system-committee/n/c/1/7/3/nc1733e1_pub.pdf
  6. https://www.customsmobile.com/rulings/docview?doc_id=HQ+H296912&highlight=8523.51.00%2A
  7. https://www.wcoomd.org/-/media/wco/public/global/pdf/topics/nomenclature/instruments-and-tools/hs-nomenclature-2022/2022/1685_2022e.pdf?la=en
  8. https://www.kimchang.com/en/insights/detail.kc?sch_section=4&idx=24746
  9. https://www.afslaw.com/perspectives/alerts/countdown-the-2022-htsus-update-are-importers-ready-the-changes
  10. https://jaftas.jp/hscode/user/code.php?c=1&target=1&content=2&year=2022&code=8524
  11. https://www.credlix.com/hsn-code/852351
  12. https://ised-isde.canada.ca/app/ixb/cid-bdic/productReportHS10.html?hsCode=852351
  13. https://www.dripcapital.com/hts-code/85/23/51
  14. https://www.dutyskip.com/hs-browse/8523-51-00-solid-state-non-volatile-storage-devices
  15. https://www.eusemiconductors.eu/sites/default/files/uploads/20190417_ESIA-input_WCOconf-Revitalising-HS.pdf
  16. https://www.mra.mu/download/PresentationOnTariff2017.pdf
  17. https://www.customs.go.jp/tariff/2022_01_01/data/j_85.htm
  18. https://www.datamyne.com/hts/85/852351
  19. https://www.freightamigo.com/en/blog/hs-code/hs-code-for-recorded-flash-memory/
  20. https://unstats.un.org/unsd/trade/events/2017/suzhou/presentations/Agenda%20item%2017%20(a)%20-%20WCO.pdf
  21. https://www.scribd.com/document/541048953/DGFT-Import-Policy-Chapter-85

電子部品メーカー・商社のための「HS2028」実務準備:2026年に慌てないための要点と深掘りロードマップ

電子部品ビジネスにとってHSコード(関税分類)は、単なる「通関の番号」ではなく、関税コスト・リードタイム・EPA/FTAの原産地・輸出入規制・社内マスタを同時に動かす“基盤データ”です。
その基盤が、次の大改正「HS2028」で大きく揺れます。

世界税関機構(WCO)のHS委員会(HSC)は、2025年3月の第75会期でHS2028改正勧告(Article 16 Recommendation)を暫定採択し、299セットの改正パッケージを取りまとめました。wcoesarpsg+3
この勧告は2025年末にWCO理事会で正式採択され、2026年1月頃に公表、2028年1月1日に発効するスケジュールが示されています。aeb+3


まず結論:電子部品向けHS2028準備「おすすめ要点」7つ

忙しい方向けに、実務上のポイントだけ先に並べます。

  • 対象品目を「全件」ではなく、影響と価値(売上・輸入額・規制リスク・通関頻度)で優先順位付けする。
  • HS2022→HS2028の相関表(Correlation Tables)を前提にした移行計画を立てる。WCOはHS2022⇔HS2028の相関表作成に着手しており、フォーマット改善も進めています。customsmanager+2
  • 「なぜそのコードか」という分類根拠を“品番単位”で残し、あとから説明できる形(分類カルテ)にする。
  • 顧客・仕入先にHSコード通知を丸投げせず、責任分界と証跡(根拠情報)の運用を設計する。
  • EPA/FTA(原産地)への波及を見える化し、PSR(品目別原産地規則)参照HSの“読み替え”を前提に棚卸しする。customs+2
  • 規制(輸出管理・化学物質・環境規制等)でHSコードを入口にしている判定ロジックを洗い直し、技術属性ベースの判定と二重化する。
  • ERP/PLM/GTM/通関システムでHS体系の“バージョン管理(HS2022/HS2028+有効期間)”を実装し、2028/1/1の切替に間に合わせる。

ここから、電子部品ビジネス向けに深掘りします。


HS2028で「いつ」「何が」起きるか

実務で重要なのは、正式テキスト公表(2026年頃)を待つ間にも、何を先行で準備できるかです。unstats.un+2

  • 2025年3月:HSC第75会期でHS2028改正勧告を暫定採択(299セットの改正パッケージを包括)。strtrade+3
  • 2025年末:WCO理事会で正式採択予定。wcoomd+1
  • 2026年1月頃:HS2028改正勧告(正式テキスト)が公表予定。aeb+2
  • 2028年1月1日:HS2028が発効(HS第8版)。unstats.un+2

また、今サイクルは本来の5年周期ではなく6年サイクルとなっており、WCO資料でもCOVID-19による作業遅延が背景として説明されています。unstats.un+2
さらに、第76会期ではHS2022⇔HS2028の相関表作成が開始され、より分かりやすいフォーマットへの改善が報告されています。global-scm+2


なぜ「電子部品」はHS2028の影響を受けやすいか

電子部品分野は、以下の理由から分類変更の実務コストが他業種より跳ね上がりやすい領域です。

  • SKU数が多く、同じカテゴリ名(抵抗・コンデンサ・コネクタ等)でも、材料・構造・用途・性能差が分類判断に強く効くため、品目数×国数×用途でマスタ更新が指数関数的に膨らみます。
  • Wi-Fi/Bluetoothモジュール、センサー+アンプ+MCU一体品、電源モジュールなど、モジュール化・複合機能化が進み、主要機能や注記の読み方次第で分類結論が変わりやすくなっています。tarifftel+1
  • HSコードは関税だけでなく、輸出入統計や原産地規則のベースでもあり、改正が関税・FTA適用・統計・内部管理に同時波及します。mkc-net2+3

加えて、EUのデュアルユース規制改正でも、先端半導体・高性能電子機器・量子関連などの新規・強化管理が続いており、電子部品は輸出管理面での“周辺規制強化”の影響を受けやすい分野です。policy.trade.europa+3
HS6桁が動くと、各国の拡張桁(8〜10桁)の再設計と導入タイミングのズレが生じることも指摘されており、多国間での並走管理が実務負荷になります。bex+2


日本企業の落とし穴:6桁だけ見ていると移行で詰まる

HSは国際共通の6桁が核ですが、日本の実務は9桁統計品目番号(+NACCS用1桁)で回っています。customs+2

  • 日本の統計品目番号は「6桁HSコード+3桁国内コード」で構成され、輸出用と輸入用で3桁部分が異なるケースがあります。customs+1
  • JETRO等も、7〜9桁が統計細分、10桁目がNACCS用に使われること、6桁以降は各国が独自細分できることを解説しています。thomsonreuters+2

したがって、HS2028対応は「6桁の置換」だけでは完結せず、
6桁変更 → 9桁統計品目番号や社内コード体系の更新 → 通関・料金・原産地・規制判定・帳票の更新
までを一連で設計する必要があります。jetro+2


実務準備の深掘り:電子部品向け7つの柱

柱1:対象品目の棚卸しは“影響”で切る

電子部品は品目点数が膨大なため、全件を同一優先度で進めるプロジェクト設計は破綻しがちです。
おすすめは、次の2軸で優先順位を切る方法です。

  • 金額・頻度(ビジネス影響)
    • 関税負担が大きい品目(税率×数量)
    • 通関頻度が高く、止まるとサプライチェーン停止リスクが高い品番
    • 売上上位・重要顧客向けの品番
  • 変更・指摘リスク(コンプライアンス影響)
    • モジュール品・複合機能品・セット品で分類が割れやすいもの
    • 顧客からHS指定を受けており責任分界が曖昧な取引
    • 輸出管理・規制・環境要件の判定にHSコードを直接使っている品目

まずは「上位20%の品番で取引金額80%」の山を押さえ、その中から“揉めやすい品”を重点管理するのが現実的です。


柱2:相関表(Correlation Tables)前提で「移行設計」を組む

WCOはHS2022⇔HS2028相関表の作成に着手しており、実務での使いやすさを意識したフォーマット見直しが進んでいます。wcoomd+2
企業の移行実務は、相関表に基づき、多くの場合次の3パターンに整理されます。

  • 1対1(置換):旧コード→新コードが素直に対応するパターン
  • 1対多(分割):旧コードが複数の新コードに分かれ、品目属性で分岐が必要なパターン
  • 多対1(統合):複数コードが統合され、社内の粒度をどう維持するかが課題となるパターン

電子部品で特に注意すべきは「1対多」です。
この場合、社内マスタにあらかじめ“分岐キー”を持たせておかないと、相関表を使っても自動的に変換できません。

分岐キーの例(電子部品で効きやすい属性):

  • 単体部品か、基板実装済みアセンブリ(PCBA)か
  • センサー/アクチュエータ/変換素子などの機能区分
  • 通信機能の有無(送受信機能、無線モジュールかどうか)
  • 材質(貴金属含有、光学部材の有無など)
  • 用途(特定機器専用品か、汎用品か)

柱3:「分類根拠」を品番単位で残す

HS移行で現場が崩れる最大要因は、「なぜその分類にしたか」を引き継げないことです。
品番ごとに「分類カルテ(Classification Dossier)」を作る運用にしておくと、HS2028対応だけでなく、税関照会・監査・顧客問い合わせでも一貫性が保てます。

分類カルテの最低限の項目例:

  • 品番/型式、製品名(日英)
  • 仕様書・データシートへのリンク(版管理付き)
  • 機能説明(入力→処理→出力のイメージ)
  • 構成要素(IC/受動部品/筐体/コネクタ等)
  • 写真・外観図(特にモジュール・アセンブリは重要)
  • 現行コード(国際6桁+国別拡張)と、その判断根拠
  • 参照した条文・注記・社内基準(該当箇所を特定できる形で)
  • 判断者・承認者・判断日
  • 「HS2028で変更可能性あり」フラグ

柱4:仕入先・顧客との「HS通知」運用を再設計

電子部品取引では、次のようなパターンが典型的です。

  • 仕入先提示のHSコードをそのまま輸入側が使用する
  • 顧客指定HSに合わせる「合わせゲーム」になっている
  • 国が違うのに、同じ番号を機械的に適用してしまう

JETROも、輸出者から通知されたHSコードをそのまま用いることのリスクや、国によって分類が異なり得る点について注意喚起しています。jetro+1

最低限押さえたい契約・運用ルールの例:

  • 「HSコードは参考情報であり、最終判断は輸入国の申告主体が負う」など、責任分界を明文化する。
  • HS変更(HS2028含む)により関税負担・価格に影響が出る場合の調整条項を設定する。
  • HS変更通知のリードタイム(日数)を合意しておく。
  • 仕入先・顧客に求める分類根拠(データシート、機能説明、構成表など)の範囲を定義する。

柱5:EPA/FTA(原産地)を“HS改正の波”に乗せて再点検

電子部品は、CTC(関税分類変更基準)やPSR(品目別原産地規則)の影響が強い品目が多く、HS変更が原産地判定に直結します。jetro+2

EPAでは、関税率表・撤廃スケジュール・PSRがHSコードをベースに規定されるため、HSの改正とEPA上のHS参照版が一致しない場合、Certificate of Origin上のHSと輸入申告のHSが異なるケースも現実に発生します。jetro+2

電子部品で起きがちなトラブル例:

  • 旧HS前提のPSRを見続け、適用可否を誤る。
  • BOM側(部材)は新HSに更新したが、完成品のHS更新が遅れ、原産地判定と帳票の整合が崩れる。
  • HSの統合・分割により、「同じ製品でもPSRの読み替えが必要」なのに、社内ルールが追いつかない。

おすすめの進め方:

  • 上位品目について、「現行HS × 適用協定 × PSRタイプ(CTH/CTSH/RVC等)」を棚卸しする。customs+2
  • HS2022⇔HS2028相関表が出た段階で、「どの新HSでPSRを評価するか」の社内統一ルールを決める。
  • 重点国・重点顧客については、2027年中に“新HSでの原産地シミュレーション”まで終えておく。

柱6:規制・輸出管理・環境要件の“HS依存ロジック”を洗い直す

電子部品取引は、輸出管理(デュアルユース・軍民転用)、制裁、化学物質、環境、電池関連など、複数の規制レイヤーをまたぎます。regulatory-compliance+2
社内判定が「HSコードが○○なら規制対象」というロジックに強く依存している場合、HS2028移行でコードが変わると判定の入口が誤作動します。

対策としては、HSコードをトリガーとしつつも、

  • 機能・性能
  • 用途(民生/軍需/特定装置専用)
  • 含有物・技術仕様(クロック、演算能力、メモリ量など)

といった技術属性を併用し、HSが変わっても判定の一貫性を保てるようにすることが重要です。


柱7:IT・マスタ・帳票・EDIを「品目体系のバージョン管理」にする

HS2028対応のIT改修は、単なるコード置換ではなく、HS体系の“版管理”が肝になります。
日本向け実務では10桁(6桁HS+3桁統計+1桁NACCS)まで存在するため、コード構造と有効期間をシステム上で管理できるようにする必要があります。customs+3

最低限持たせたいマスタ項目例:

  • HS体系バージョン(例:HS2022/HS2028)
  • 有効開始日・終了日(2028/1/1切替を明示)
  • 国別拡張コード(輸入国ごとに8〜10桁コードを保持)
  • 信頼度(確定/暫定/要再確認)
  • 根拠リンク(分類カルテへの参照)
  • 更新者・更新履歴(監査・トレーサビリティ対応)

これにより、「出荷日・通関日でどちらのHSを使うべきか」といった移行期特有の混乱を、システム側で抑制できます。


部門別ToDo(電子部品ビジネス向け)

貿易管理・通関

  • 重点品番の分類カルテ作成と、事前教示(eルーリング等)の候補抽出。
  • 相関表前提のマッピング設計(1対多ケースを重点管理)。customsmanager+2
  • 通関委託先・フォワーダーとの移行スキーム・責任分界のすり合わせ。

購買

  • 仕入先HSの「根拠情報」提出(データシート・構成表など)を最低限ルール化。
  • 供給契約にHS変更条項(通知・価格調整・責任分界)を組み込む。

営業(B2B)

  • 顧客指定HSがある取引の棚卸しと、変更時の連絡フロー設計。
  • 見積書・価格表・納入仕様書のうち、HSコード記載箇所を洗い出す。

開発・品証

  • モジュール/複合機能品向けの「機能記述テンプレート」を整備。
  • 仕様書の版管理ルールを分類カルテと連動させる。

IT

  • ERP/PLM/GTM/通関関連システムのHSバージョン管理機能を設計・実装。
  • Invoice/Packing List/原産地関連書類など、HS連動項目の洗い出し。
  • 2027年中に総合テストと、2028年初回出荷シナリオでのリハーサルを実施。

よくある失敗と回避策(電子部品あるある)

失敗パターン典型的な状況回避策のポイント
相関表待ちで着手が遅れる2026年公表後に着手しようとして工数が足りなくなる。wcoomd+2今のうちに「重点品番」「分岐キー」「分類カルテ」を整え、相関表公表時に一気に流し込める状態にしておく。customsmanager+2
6桁だけ更新して国別拡張で詰まる日本の9桁統計品目番号・10桁NACCSコードまで手当てできていない。customs+3「6桁+3桁統計+1桁NACCS」という構造を前提に、輸出入で別コードになり得る設計にしておく。
分類根拠が残っておらず担当者交代で破綻品番ごとの判断理由が口頭・メールに散在している。分類カルテ(根拠・版管理・承認)を標準フォーマットで運用する。
原産地対応が後回しになりEPA適用が止まるHSだけ先に更新し、PSR読み替え・証明書側のHSが追いつかない。jetro+3重点国×重点品目について、2027年中に新HSベースの原産地シミュレーションまで完了させる。

2025年末からの実行ロードマップ案

WCOのスケジュール(2026年頃公表→2028年1月1日発効)を前提に、企業側の逆算ロードマップは次のイメージが現実的です。tarifftel+3

  • フェーズ0(今すぐ〜2026年初):「準備の準備」
    • 重点品番リスト(売上・輸入額・規制影響)を確定。
    • 分類カルテのテンプレート設計と運用開始。
    • IT改修の影響範囲(どのシステムにHSが格納されているか)を洗い出す。
  • フェーズ1(2026年):相関表・公式テキストを受けて「影響評価」
    • HS2022⇔HS2028相関表を起点にマッピング(1対多は分岐キーで分割)。global-scm+2
    • 重点品目から順に分類を確定し、必要に応じて事前教示を取得。
    • 原産地・規制・関税コストの影響を試算。
  • フェーズ2(2027年):「全社展開とテスト」
    • 国別拡張コードまで含めたマスタ更新。
    • 帳票・EDI・通関データの総合テスト実施。
    • 顧客・仕入先への変更通知と運用切替リハーサル。
  • フェーズ3(2028年1月〜):「切替・初回出荷の安定化」
    • 混載・返品・長納期案件など、移行期特有の例外ケースを潰す運用を設計。

まとめ:HS2028対応は「通関」ではなく“事業基盤”の更新

HS2028は、暫定採択から正式採択、公表、発効までの工程と時期がWCOから示されており、企業側は2〜3年単位で逆算した準備が可能です。wcoomd+2
電子部品はSKUが多く、複合機能・モジュール品が増え、さらに規制・原産地・ITシステムまで連鎖するため、「重点品番」「分類根拠」「マスタの版管理」を早く整えた企業ほど移行コストを抑えられます。

最初の一歩としては、
重点100品番を決める → 分類カルテを作る → 分岐キーを揃える → 相関表公表時に一気に流す
という順番が、電子部品ビジネスにはもっとも再現性の高いアプローチです。

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  4. https://www.customs.go.jp/toukei/sankou/code/code_e.htm
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