「うちの製品、全部“モジュール”なんだけど、HS2028になったら何をやればいいの?」
輸出入をしている製造業・商社の現場から、最近よく聞こえてくる声です。
この記事では、モジュール型製品(バッテリーモジュール、表示モジュール、モジュール建築ユニットなど)を扱う企業が、
HS2028改正に向けてどのように分類変更とHSコード接続(マッピング)を進めるべきかを、ビジネスマン向けにかみ砕いて解説します。
内容は以下の流れです。
- そもそもHS2028とは何か(いつ、何が変わる?)
- モジュール型製品で起きがちな分類の論点
- HS2028で影響が出そうなモジュール関連分野
- 企業が今からやるべき「分類変更&HS2028接続」5ステップ
- モジュール型製品のミニケースと注意ポイント
- まとめ:2026〜2027年は「コード移行プロジェクトの勝負どころ」
※以下は一般的な情報であり、最終的なHSコードの判断は各国税関や専門家のアドバイスを前提としてください。
1. HS2028とは何か?いつ何が変わるのか
HS(ハーモナイズド・システム)のおさらい
- HSはWCO(世界税関機構)が維持する国際共通の6桁品目分類。
- 200を超える国・地域が関税表や貿易統計の基盤として利用し、世界貿易の約98%をカバーしています。(Wikipedia)
- 各国はこの6桁をベースに、8桁・10桁へ細分して自国の関税率や統計に使っています。(customs.go.kr)
HS2028改正のスケジュール(国際6桁レベル)
国際的な6桁HSについて、次のようなスケジュールで動いています。(WCOOMD)
- 2025年3月:HSC(HS委員会)第75会期で
- HS2028改正パッケージが暫定採択
- 299セットの改正案、WHO INNに基づく医薬品441品目などを含む大規模改正が合意
- 2025年12月末(見込み):WCO理事会で正式採択
- 2026年1月頃(見込み):
- 改正勧告(HS2028条文)と
- HS2022 ⇔ HS2028 の相関表(Correlation Tables) が公表予定
- 2028年1月1日:HS2028が世界同時発効
通常は5年周期のHS改正ですが、今回はコロナ禍による審議遅延のため6年周期に延長され、HS2022 → HS2028という飛び方になります。(AEB)
HS2028改正のテーマ
公開情報や専門家の解説を総合すると、HS2028の柱はだいたい次の3本です。(FTAの専門家:ロジスティック)
- 環境・グリーン関連
- EV、蓄電池、リサイクル・廃電池、環境規制対象物質、電子廃棄物(e-waste)など
- 医薬品・バイオ
- WHO INNベースで医薬品有効成分や製剤を大幅に整理
- 新興技術
- ドローン(UAS)、センサー/トランスデューサ、先端電子部品など
モジュール型製品は、このうちエレクトロニクス/グリーンテック/建設あたりで特に影響を受けやすい領域です。
2. モジュール型製品で起きがちな分類の論点
「モジュール型」と一口に言っても、HS上の扱いはさまざまです。実務でよく揉めるポイントを整理しておきます。
① 「完成品」か「部品・モジュール」か
- 1個のモジュールが単体で完結した機能を持つのか
- それとも、他の機器に組み込まれて初めて機能するのか
で、完成品側に寄せるか「部品」「モジュール」として見るかが変わります。
例)
- フラットパネルディスプレイモジュール(FPDモジュール)
→ HS2022では専用の見出し85.24が新設され、モジュールとしての扱いが明確化。(WCOOMD) - 太陽電池モジュール(PVモジュール)
→ **8541.43「Photovoltaic cells assembled in modules or made up into panels」**として区分。
② 「セット」「機能単位」としての扱い
モジュール型製品は、複数のモジュールを組み合わせて機能ユニットを構成することが多く、
- 通関時にセットで輸入する場合
- サプライチェーンの都合でモジュール単位で別送する場合
で、分類ルールの適用(解釈規則2(a)、3(b)など)が変わりやすい点も注意です。
③ 「どの章・類に属するか」が揺れやすい
モジュールが
- 電気機器(第85類)
- 機械装置(第84類)
- 測定・制御機器(第90類)
- 建築ユニット(第94類)
など複数の類にまたがる性質を持つと、「どの類に属するのか」で各国の解釈が割れやすくなります。
HS2022時点でも、例えば
- **モジュール建築ユニット(Modular building units, of steel)**が新たに94.06.20として細分されるなど、モジュール型製品をめぐる整理は進みつつあります。
3. HS2028で影響が出そうなモジュール関連分野
HS2028の条文そのものは2026年1月まで一般公開されませんが、WCOの決定や各種解説から、モジュール型製品に関係しそうな方向性は見えています。(WCOOMD)
1)EV・蓄電システム関連モジュール
- リチウムイオン電池、バッテリーモジュール、廃電池、リサイクル資源などは、
トレーサビリティ強化と環境政策対応の観点から細分化・整理が進むと見込まれています。(FTAの専門家:ロジスティック) - 自動車の電動化コンポーネント(インバーターモジュール、バッテリーパックなど)は、
自動車部品としての扱いか、電気機器としての扱いかで境界が見直される可能性が高いと指摘されています。(FTAの専門家:ロジスティック)
2)センサー・電子モジュール
- HS2022で「半導体・センサー・トランスデューサ」が強化された流れを受け、
HS2028でもADAS(先進運転支援システム)や産業用センサー類を中心に、
分類境界の整理・注記の見直しが行われる可能性が高いとされています。(FTAの専門家:ロジスティック)
3)再エネ・省エネモジュール
- 太陽光パネル、PVモジュール、ヒートポンプなどの省エネ機器は、
HS2022での新設・細分化に続き、さらに整理が進むと予測されています。 - 一部の解説では、電子廃棄物(e-waste)やカーボンキャプチャ技術のコード拡充もHS2028で想定されるテーマとして挙げられています(あくまで「有力な見込み」であり、最終条文は2026年公表時に確認が必要)。(eximtutor.com)
4. 企業が今からやるべき「分類変更&HS2028接続」5ステップ
ここからが本題です。
「モジュール型製品が多い会社」が、HS2028に備えて何をどう進めるかを、プロジェクト風に5ステップで整理します。(FTAの専門家:ロジスティック)
ステップ1:自社の「モジュール型製品リスト」をつくる
まず、HS2028以前に
- どの製品が「モジュール」なのか
- どこまでを「完成品」と見なしているのか
を社内で共通化することが最優先です。
具体的には:
- 売上・輸出入量の多い製品から順に
- バッテリーモジュール/パック
- 各種電子モジュール(通信モジュール、センサーモジュール、表示モジュールなど)
- 機械ユニット(ポンプユニット、制御ユニット、ロボットセル など)
- モジュール建築ユニット/プレハブユニット
- について、
- 現行HS2022ベースの6桁コード
- 各国の8–10桁コード
- 用途/主要構成部品/組込み先製品
を一覧化しておきます。
ここでのポイントは、「通関実績ベース」で洗い出すこと。
社内の品番だけを見るより、実際に申告に使われているHSコードから遡るほうが漏れが少なくなります。
ステップ2:現行HS2022で分類方針を安定させる
HS2028の話をする前に、まず現行HS2022での分類を固めておく必要があります。(FTAの専門家:ロジスティック)
- HS2022で新設された
- フラットパネルディスプレイモジュール(85.24)
- LED関連モジュール・ランプ(85章)
- PVモジュール/パネル(8541.43)
- モジュール建築ユニット(9406.20)
- 電気・電子廃棄物(85.49)
などは、モジュール型製品の代表例です。
- こうした改正を「まだ自社コードに反映していない」場合は、
- まずHS2022への追いつきを優先
- 社内HSマスタを「2022版準拠」で整理し直す
ことが推奨されています。(FTAの専門家:ロジスティック)
理由はシンプルで、HS2028の相関表も「HS2022 → HS2028」を前提に作られるからです。
土台がHS2017のままだと、「2017 → 2022 → 2028」という二段階の読み替えが必要になり、作業が一気に複雑になります。
ステップ3:HS2022 → HS2028 相関表を前提にしたマッピング設計
WCOのHSC第76会期では、HS2022とHS2028の相関表の作成が正式にスタートしました。(WCOOMD)
2026年以降、企業がやるべき重要タスクは次の通りです。
- 相関表を入手し、自社マスタと一括突合
- 各品目ごとに
- 「1 → 1」か
- 「1 → 多」か
- 「多 → 1」か
をタグ付けする(“分割・統合・移動”を見える化)
- 各品目ごとに
- モジュール型製品を優先的にチェック
- EV関連モジュール、センサー、PV・再エネモジュールなどは
改正対象になる可能性が高いため、優先順位高でレビュー。
- EV関連モジュール、センサー、PV・再エネモジュールなどは
- 影響度評価
- 「取引金額 × 関税率の変動幅」
- FTA特恵の有無
- デュアルユースや規制品目との紐付き度
などをスコアリングし、対応順を決める。
このフェーズでのゴールは、**「新HS2028コードの仮割り当て」と「影響度の見える化」**です。
ステップ4:システム・マスタデータの二重管理期間を設計する
HS2028対応は、ほぼ確実にIT・マスタデータのプロジェクトになります。(FTAの専門家:ロジスティック)
おすすめの設計は、
- 2026〜2027年:二重管理期間を明確に決める
- ERP / 販売管理 / WMS / 貿易管理(GTM)などの製品マスタに
- 「HS2022コード」
- 「HS2028コード(予定)」
を併記できる状態にしておく。
- ERP / 販売管理 / WMS / 貿易管理(GTM)などの製品マスタに
- 2027年後半:テスト環境でHS2028に切替テスト
- モジュール型製品について
- 受発注~出荷~通関データまで一連のテストを実施
- 通関業者・フォワーダーとも、HS2028コードでのドライラン申告を試す。(FTAの専門家:ロジスティック)
- モジュール型製品について
- 2028年1月1日:本番切替
- システム上の基準コードをHS2028に切り替え
- 不具合があれば初期数か月で集中的に修正する体制を準備
特に日本企業の場合、HS6桁に国内の3桁統計品目(9桁)やNACCS用10桁コードがぶら下がります。
国際6桁だけでなく、国内細分との整合も含めてテーブル設計しておくことが重要です。(FTAの専門家:ロジスティック)
ステップ5:ルール化と「グレーゾーン品目」の事前教示
モジュール型製品はどうしても境界線上の品目が多くなります。
HS2028に合わせて、次のような社内ルールと外部確認をセットで進めるのがおすすめです。(FTAの専門家:ロジスティック)
- 社内ルール化
- 「どこまで組み立てたら完成品扱いか」
- 「どの機能を基準に類を決めるか」(例:電気機能優先か、機械機能優先か)
- 「部品として扱うモジュールの定義」
をガイドラインに落とし込み、設計・営業・ロジ部門と共有。
- 税関への事前教示・BTIの活用
- 分類に迷うモジュール型製品は、
- 日本の事前教示制度
- EUのBTI、米国の事前裁定 など
を活用し、主要相手国の公式見解を早めに取得しておく。
- 分類に迷うモジュール型製品は、
- FTA原産地への波及確認
- HSコードの変更は**品目別原産地規則(PSR)**の改訂に直結します。
- HS2028対応で原産性が変わらないか、主要FTAごとにチェックし、必要ならサプライヤーから証明を取り直します。(FTAの専門家:ロジスティック)
5. モジュール型製品のミニケースと注意ポイント
ケース1:EV用バッテリーモジュールをグローバル供給している企業
想定課題
- EV向けバッテリーモジュールが
- 「電池(第85類)」として細分されるのか
- 「自動車部品(第87類)」としてまとめられるのか
により、関税率やFTAルールが大きく変わる可能性がある。(FTAの専門家:ロジスティック)
やっておきたいこと
- HS2022での電池・廃電池・リサイクル資源の分類を整理し直す
- HS2028の相関表が出たら、EV・蓄電池関連品目を優先的にマッピング
- 原産地規則(CTH/CTSHなど)の条件を、HS2028版でも満たせるか事前にシミュレーション
ケース2:産業用センサーモジュールを世界中の工場に供給している企業
想定課題
- センサー/トランスデューサはHS2028改正のフォーカス分野とされており、
機械装置側に属するのか、測定機器側に属するのかでコードが変わる可能性が高い。(FTAの専門家:ロジスティック)
やっておきたいこと
- 「センサー単体」と「制御ユニットに組み込まれたモジュール」を区別してマスタ管理
- 類・項レベルでの境界に関する税関の過去判断・解説を整理
- 境界線上の製品については、主要国で事前教示を取得し、HS2028でも継続できるかウォッチ
ケース3:モジュール建築ユニットを扱う建設・住宅系ビジネス
背景
- HS2022で**「Modular building units, of steel(9406.20)」**が新設され、
モジュール建築ユニットの扱いがより明確になりました。
実務的な論点
- 「プレハブユニット」なのか、「建材の集合」なのかでコードが変わる
- 仕向け国によってはモジュール建築に特別な規制や認証が絡む場合もある
対応のポイント
- 製品仕様書上で、「ユニット単体で建築物としての機能を果たすのか」を明確に記載
- HS2028での変更は大きくない可能性もありますが、
FTA原産地ルールや建築関連規制との紐付けは要確認
6. まとめ:モジュール型製品は「早めに動いた会社」が有利
最後に、ビジネスパーソン向けに要点をギュッとまとめます。
HS2028とモジュール型製品のポイント
- HS2028は2028年1月1日発効予定。改正パッケージは2025年3月に暫定採択済みで、299セットの改正案を含む大規模改正です。(WCOOMD)
- テーマは環境・医薬品・新興技術。EV、蓄電池、センサー、ドローン、再エネ設備など「モジュール型」の多い分野が直撃します。(FTAの専門家:ロジスティック)
- WCOはHS2022⇔HS2028の相関表作成を開始しており、2026年以降、この表が企業にとって最重要の参考資料になります。(WCOOMD)
企業が取るべきアクション(超要約)
- 今やること(〜2026年)
- モジュール型製品のリストアップ
- HS2022準拠で現行コードを安定させる
- 通関実績・FTA利用状況を含めたデータ棚卸し
- 相関表公表後(2026〜2027年)
- HS2022→HS2028マッピング(特にモジュール型製品を優先)
- 関税・FTA・規制への影響分析
- ERP・GTMなどシステム・マスタの二重管理&改修
- 発効直前〜直後(2027後半〜2028初)
- グレーゾーン品目について税関の事前教示・BTI取得
- 取引先・サプライヤーへのHSコード変更通知
- 本番切替後のモニタリングと是正プロセスの整備
モジュール型製品を多く持つ会社ほど、「あとでまとめてやろう」と思うと手に負えなくなります。
- 「まずはHS2022にきちんと追いつく」
- 「モジュール型製品を一覧化して、HS2028での影響度を可視化する」
この2つから着手すれば、社内のプロジェクトとしても動かしやすくなります。
