HS2028のプラスチック関連細分項目新設をどう読むか

通関番号の改正ではなく、包装設計、リサイクル戦略、規制対応を動かす制度変更

HS2028は2028年1月1日に発効する第8版HSで、WCOによれば改正全体では299件の改正セット、428の新設6桁細分、172の削除6桁細分がある。中でもプラスチック分野は、WCOが主要改正の一つとして明示する重点領域で、単回使用品の見える化とプラ廃棄物の精緻化が同時に進む。経営の視点では、これは通関担当者だけの論点ではなく、包装設計、調達、リサイクル、輸出管理、原産地管理にまたがる論点として扱うべき改正である。 (世界関税機関)

HSは単なる税番表ではない。HS条約の下で、締約国は6桁レベルのHS見出しと細分を自国の関税率表と統計品目表に整合させる義務を負い、その一方で6桁を超える国別細分は各国が追加できる。つまり、HS2028の変更は世界共通言語として広がりつつ、実際の8桁や10桁、税率、許認可、統計線表は各国で上乗せされる。企業実務では、世界では同じ方向に変わっても、国別運用は同じではないという前提が不可欠になる。 (世界関税機関)

なぜ今、プラスチックがここまで細分化されるのか

今回の改正の狙いは、これまで統計上も規制上も見えにくかったプラスチックの流れを見える化することにある。WCOは、WTOのプラスチック汚染対話からの提案と他の国際機関との議論を受けて、プラスチック汚染に関わる材料や製品の可視性を高める改正を組み込んだと説明している。WCOはさらに、より細かなHSコードによって、包装のように製品に埋め込まれたプラスチックの流れまで把握しやすくなり、各国政府が規制、監視、代替材促進、循環経済政策、再生材関連の基準や表示制度を設計しやすくなると明言している。WTO側も、HS2028で単回使用プラスチックや製品に組み込まれたプラスチックを含む、より細かい細分が導入されたことを公式に紹介している。 (世界関税機関)

最大の焦点は、39.15のプラ廃棄物再設計

バーゼル条約との接続が明確になった

プラ廃棄物の改正を理解するには、2019年のバーゼル条約改正が起点になる。バーゼル条約では、A3210が有害なプラ廃棄物、Y48が特別な考慮を要するプラ廃棄物、B3011が一定条件下でPIC手続、すなわち事前通報・同意手続の対象外となる非有害なプラ廃棄物を整理し、これらの新エントリーは2021年1月1日に発効した。HS2028は、この条約上の区分に合わせて39.15を組み替え、税番と環境規制コードの距離を縮めた。 (basel.int)

そもそもHS2022では、エチレン系、スチレン系、塩ビ系以外のプラ廃棄物は、多くが残余の3915.90に吸い込まれていた。HS2028では、3915.40が有害なプラ廃棄物を識別する新設細分になり、B3011に対応する比較的クリーンな廃棄物は、非ハロゲン系単一ポリマーの3915.51から3915.59、一定条件を満たすフッ素系製造廃棄物の3915.62、PE、PP、PETの混合物を対象とする3915.91などに整理される。逆に、特別な考慮を要するY48系の廃棄物は、PVC単独の3915.61、その他のハロゲン系や混合系を含む3915.69、残余の3915.99に振り分けられる構造になった。ここで重要なのは、廃棄物がプラスチックであるかではなく、どの樹脂で、どの程度きれいで、どのように混ざっているかが税番を左右する点だ。 (世界関税機関)

実務では「材質」より「純度」「汚染」「分別」が問われる

新しい39.15は、樹脂名だけを見れば足りる世界ではない。HS2028の新しい39類の細分注は、3915.40について、重金属化合物、鉛化合物、水銀化合物、有機ハロゲン化合物などの特定物質を含み、かつ爆発性、引火性、急性毒性、腐食性、慢性毒性、生態毒性などの危険特性を示す場合に該当すると定めている。さらに、異なるポリマーのうち物理的に分離可能な混合廃棄物は、3915.40、3915.69、3915.91、3915.99のいずれかにしか分類できないとも示された。言い換えると、分別工程、汚染度、添加剤情報、分析結果、再生利用先の管理状態まで含めて、分類の裏付け資料を整える必要がある。 (世界関税機関)

単回使用品が「法文上の概念」になった意味

HS2028のもう一つの大きな変化は、39類に新しい注を置き、単回使用を、通常、一回の使用後に廃棄又は再生利用され、反復又は長期使用を予定しない物品と定義したことだ。これは単なる解説レベルではなく、分類体系の法文に単回使用という概念が明示的に入ったことを意味する。ここから先は、単回使用か否かが、包装や消費財の可視性を左右する。 (世界関税機関)

対象はストローだけではない。新設・再編された細分には、単回使用ストローの3917.24と3917.34、単回使用の箱・ケース類の3923.11と3923.12、袋の3923.22と3923.23、ボトル類の3923.31、ふた類の3923.51、その他の包装用品の3923.91、単回使用の食卓用品・台所用品の3924.21から3924.29、手袋の3926.21、プラスチック製ヘッドギアの6506.93が含まれる。さらに39類の外でも、プラスチック棒付き綿棒の5601.23、風船の9503.10、漁網やランディングネット関連の56.08、9507.41、9507.49などが見える化される。つまり、プラスチック問題は樹脂の章だけの話ではなく、生活用品、玩具、漁業関連品まで横断している。 (世界関税機関)

ここで誤解してはいけないのは、HS改正そのものが即座に輸入禁止や増税を意味するわけではないという点だ。HSはまず識別と統計の基盤であり、そのうえでWCOは、細分化により各国がプラスチック汚染に関わる物品の規制、禁止、ポリマー別監視、組成の透明化、代替材促進、循環経済政策や再生材関連基準を設計しやすくなると説明している。経営の立場では、税番が細かくなること自体より、政策の当て先が明確になることの方が重要だ。 (世界関税機関)

ビジネスへの影響をどう読むべきか

包装設計と商品設計

これまで包装材は、主たる商品に比べると統計上の存在感が弱く、社内でも原材料管理が粗くなりがちだった。しかしWCOは、HS2028によって包装のように製品に組み込まれた、あるいは製品に付随するプラスチックの流れが把握しやすくなると述べている。したがって、単一素材化、単回使用からの見直し、発泡ポリスチレンやPVCの採用是非、包装構成表の粒度は、ESGの議論だけでなく通商実務の論点にもなる。これは、製品設計部門と通関部門を分けて考えにくくなることを意味する。 (世界関税機関)

リサイクル原料と廃棄物輸出

リサイクル事業者、樹脂コンパウンド事業者、製造副産物を越境移動させるメーカーにとっては、39.15の再設計が最も重い。B3011系に入るには、単一ポリマーか、限定されたフッ素系か、PE、PP、PETの特定混合かに加え、汚染がほとんどないこと、環境上適正な再生利用に向かうことといった条件が求められる。逆に、有害性や混合度が上がるほどPIC手続側に寄っていく。実務的には、SDS、安全データシート、添加剤情報、汚染分析、分別工程の記録、再生先の証明が、そのまま分類とコンプライアンスの証拠になる。 (basel.int)

規制対応は2028年を待ってくれない

HS2028の発効は2028年だが、プラ廃棄物規制はすでに先行して厳しくなっている。欧州委員会によれば、EUでは2026年5月21日から全てのプラ廃棄物輸出にPIC手続がかかり、同年11月21日からは非OECD諸国向けの輸出が原則禁止される。HS2028はまだ先でも、規制の現場はすでに、どの種類のプラ廃棄物かを厳密に問う方向に動いている。EUと接点のある企業は、2027年待ちでは遅い。 (Environment)

EPAと原産地規則は別管理が必要になる

もう一つ見落としやすいのが、税番改正とEPAの原産地規則の改定が同時には進まない可能性だ。日本税関は2026年3月時点のRCEP協定Q&Aで、品目別規則のHS2028への変換については特段の決定がなく、各国譲許表や税率差ルール対象HSコード一覧の変換についても現時点で決定はないと案内している。少なくともRCEPでは、HSコードの運用と原産地判定の参照バージョンをしばらく並行管理する発想が必要になる。 (customs.go.jp)

2027年までに企業が着手したい実務

WCOは、2028年発効までの2年間で、HS2022とHS2028のコリレーション表、新旧コード対応表の整備、解説書の更新、各国での法改正、IT改修、手続更新、教育訓練が進むと説明している。企業側も、それを受け身で待つのではなく、先に社内データを整える方がよい。 (世界関税機関)

1つ目は、HS2022からHS2028への仮マッピング表を社内で先に作ることだ。WCOの正式な新旧コード対応表を待つにしても、ストロー、包装材、単回使用食器、手袋、プラスチック棒付き綿棒、風船、漁網、プラ廃棄物など、影響を受けやすい品群だけでも先行棚卸ししておく価値がある。 (世界関税機関)

2つ目は、材質マスターを税番マスターとつなぐことだ。ポリマー種別、単一素材か混合か、ハロゲン系か否か、製造廃棄物か、汚染度、添加剤、再生利用先といった情報がないと、HS2028の細分を安定的に引けない。 (世界関税機関)

3つ目は、包装構成表を商品構成表と同じ粒度で持つことだ。今後は、主製品の税番だけでなく、付随する包装材や単回使用部材の可視性も高まるため、調達、設計、通関の情報断絶がコストになる。 (世界関税機関)

4つ目は、税番管理と原産地管理を分けて設計することだ。少なくともRCEPでは、HS2028への変換時期が未定であり、税番と原産地規則の参照バージョンがズレる可能性がある。システムや手順書を一枚岩にしすぎると、かえって運用が壊れやすい。 (customs.go.jp)

5つ目は、主要輸出先ごとに規制マップを作ることだ。HSは共通でも、6桁超の細分、許認可、廃棄物規制、表示規制、再生材要件は各国で異なる。特にEUと取引がある場合は、プラ廃棄物の越境移動ルールを先に点検しておきたい。 (世界関税機関)

まとめ

HS2028のプラスチック関連細分項目新設は、税番が少し増えるだけの話ではない。プラ廃棄物はバーゼル条約との接続を前提に再設計され、単回使用品は法文上の概念として可視化され、包装や生活用品、玩具、漁網までが通商政策の射程に入った。企業にとっての本質は、税関対応の効率化よりも、どの製品が今後の規制、統計、ESG、設計変更の対象として見えるようになるのかを早めに掴むことにある。HS2028は、プラスチックを見えないコストから見える経営課題へ変える改正だと捉えるのが実務的だ。 (世界関税機関)

参照資料

  1. 世界税関機構「Amendments effective from 1 January 2028」 (世界関税機関)
  2. 世界税関機構「HS 2028 introduces new sub-headings for plastic products to enhance capacities to fight plastic pollution」 (世界関税機関)
  3. 世界税関機構「HS 2028 introduces new subheadings to facilitate the monitoring of plastic waste movements and tackle one of the most urgent global pollution challenges the world is facing」 (世界関税機関)
  4. 世界税関機構「2028 Recommendation」PDF (世界関税機関)
  5. バーゼル条約事務局「Basel Convention Plastic Waste Amendments」およびFAQ (basel.int)
  6. WTO「Plastics dialogue discusses MC12 plans, next steps to implement Ministerial Statement」および「Plastics Dialogue discusses revised draft ministerial statement ahead of MC14」 (世界貿易機関)
  7. 日本税関「地域的な包括的経済連携協定フォローアップセミナー Q&A」 (customs.go.jp)
  8. 欧州委員会「Plastic waste shipments」 (Environment)

免責事項

本記事は一般的な情報提供を目的として作成したもので、法的助言、税務助言、通関判断、原産地判定を提供するものではありません。実際のHS分類、規制適用、税率、EPA適用の可否は、輸入国当局の運用、国内法、協定文、事前教示その他の公式資料を必ず確認してください。

 

FTAでAIを活用する:株式会社ロジスティック

Logistique Inc.

投稿者: shima

嶋 正和 株式会社ロジスティック 代表取締役社長

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