用語は次のとおり統一します。
- 類=Chapter、項=Heading(4桁)、号=Subheading(6桁)、部=Section、注=Notes(部注/類注)
0. まず結論:この類に入るもの/入らないもの(超要約)
- この類に入る代表例(3〜6個):
- メタノール(有機溶剤・原料)
- アセトン(溶剤)
- 酢酸(基礎化学品)
- アニリン(染料・ゴム薬品等の中間体)
- カフェイン(複素環化合物)
- ビタミン類・ホルモン・アルカロイド・抗生物質(例:ビタミンC、ホルモン原体、各種アルカロイド、ペニシリン系等)
- この類から除外されやすい代表例(3〜6個/除外先の類・項も併記):
- エチルアルコール(エタノール):第22類(2207/2208)
- メタン・プロパン:第27類(2711)
- 尿素:第31類(3102/3105)
- 有機染料・蛍光増白剤・ルミノフォア等:第32類(3204等)
- 酵素:第35類(3507)
- 免疫学的産品:第30類(3002)
- 実務での最重要分岐(1〜3個):
- 「化学的に単一の化合物(単離化合物)」か?(混合物・製剤だと第29類から外れやすい)
- 溶媒に溶かしている理由が“安全・輸送上の通常の方法”か?(用途調整=製剤化だと他類へ)
- 複数の官能基がある場合、どの項が最後になるか(類注3)
- (任意)この類で特に“誤分類が高コスト”になりやすい場面:
- 国際条約・規制対象物質(例:PFOS等、化学兵器禁止条約関連物質、麻薬条約関連物質等)を「その他」で雑に申告すると、規制チェック漏れや差し止め/追加手続のリスクが上がります。HS2022改正でも、こうした監視・規制目的の細分が増えています。

1. 区分の考え方(どうやってこの類に到達するか)
1-1. 分類の基本ルール(GIRの使いどころ)
- この類で特に効くGIR
- GIR1(見出し+部注/類注で決める)が中心です。第29類は「何の化合物か(官能基・骨格)」を注で縛っているため、商品名よりも化学構造が決定打になります。
- GIR6(6桁の号まで落とす)では、サブヘディングノート(号注)も効きます。特に「類注3(最後の項)」が号には適用されない点は事故要因です。
- 「品名だけで決めない」ための観点(第29類で必須になりやすい)
- CAS番号/IUPAC名/構造式(官能基)
- 純度と不純物の扱い(“単一化合物+不純物”は第29類に入り得る)
- 異性体の混合か(ただし「非環式炭化水素の異性体混合」は例外で第27類へ行き得る)
- 溶液(溶媒種類、濃度、溶解理由)
- 添加剤(安定剤、固結防止、識別用着色、催吐剤等)の有無と目的
1-2. 判定フロー(疑似フローチャート)
- Step1:その貨物は「有機化学品」か?
- 有機系でも、注で**別類に飛ぶ例(エタノール、染料、酵素、免疫学的産品等)**があるので、まず除外規定を確認します。
- Step2:「第29類が扱う形」か?(単一化合物/異性体混合/溶液/必要最小の添加)
- 単一化合物(不純物可)、同一化合物の異性体混合、水溶液、必要な溶媒溶液、必要な安定剤・識別添加は第29類に残り得ます。
- ただし「特定用途に適するようにした」=実質製剤化なら、第38類などへズレやすいです。
- Step3:官能基・骨格で項(4桁)を決める
- 2901〜2935は主に官能基・構造で分類、2936〜2941は特定グループ(ビタミン等)、2942がその他という整理で考えると迷いが減ります。
- 複数の項に入れそうなら、原則として**「数字上最後の項」**へ(類注3)。
- よく迷う境界(例:第○類と第○類の境界):
- 第27類 vs 第29類:非環式炭化水素の異性体混合(立体異性体以外)は第27類へ行き得ます。
- 第29類 vs 第32類:染料・蛍光増白剤は第32類へ(第29類から除外)。
- 第29類 vs 第30類:医薬用途で小売用・定量用にしたものは第30類へ(Section VIのルール)。
- 第29類 vs 第38類:混合・調製して用途(洗浄、塗料、消火、インク除去等)に最適化すると第38類へ寄りやすい。
2. 主な項(4桁)とその内容
2-1. 4桁(項)の主なもの一覧表(必須)
ここでは実務で頻出・誤分類が起きやすい項を中心に挙げ、残りは「その他」にまとめます(HS6桁の最終決定は条文・解説で要確認)。
| 項番号(4桁) | 見出しの要旨(日本語) | 典型例(製品名) | 重要な分岐条件/除外/注意点 |
|---|---|---|---|
| 2901 | 非環式炭化水素 | エチレン、プロピレン、ブタジエン | 「異性体混合」の扱いに注意(第27類へ行く例外あり) |
| 2902 | 環式炭化水素 | ベンゼン、トルエン、キシレン | 単一異性体か、混合異性体かで号が分かれます(例:混合キシレン) |
| 2903 | 炭化水素のハロゲン化誘導体 | ジクロロメタン、クロロホルム | HS2022で一部細分が再編(規制物質の監視目的) |
| 2904 | 炭化水素のスルホン化/ニトロ化/ニトロソ化誘導体 | ニトロベンゼン等 | PFOS等の規制物質は専用号が設定され得る(HS2017以降) |
| 2905 | 非環式アルコール | メタノール、イソプロパノール | エタノールは第22類(除外規定) |
| 2907 | フェノール類 | フェノール、クレゾール | 染料(第32類)との混同に注意 |
| 2909 | エーテル類・有機過酸化物等 | ジエチルエーテル、各種有機過酸化物 | 有機過酸化物の扱いは注・改正で要注意(29.09/29.11境界) |
| 2912 | アルデヒド類等 | ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド | 「溶液」でも第29類に残る条件あり(用途調整は別) |
| 2914 | ケトン類・キノン類 | アセトン、MEK等 | 反応性・用途でなく官能基で決める |
| 2915 | 飽和非環式一価カルボン酸等(酸塩化物等含む) | 酢酸、無水酢酸 | 「酸」「酸塩化物」「無水物」等の誘導体でもこの系統に入る(注の取扱い) |
| 2916 | 不飽和非環式一価カルボン酸等 | アクリル酸、メタクリル酸 | HS版移行で一部サブヘディング整理がある(低取引量削除等の例) |
| 2917 | 多価カルボン酸等 | フタル酸、シュウ酸等 | 多官能基で他項と競合する場合は類注3に注意 |
| 2918 | 付加的酸素官能基を有するカルボン酸等 | 乳酸、クエン酸等 | 「酸素官能基」の定義に注意(注4) |
| 2921 | 非環式アミン類 | エチルアミン、アニリン等 | 塩の扱い、混合/製剤化の有無を確認 |
| 2922 | 酸素官能基を有するアミノ化合物 | エタノールアミン類、アミノ酸系 | 複数官能基で項が競合しやすい→類注3 |
| 2924 | アミド類 | DMF、尿素系の一部(※尿素自体は除外) | 尿素は第31類へ(除外) |
| 2926 | ニトリル類 | アクリロニトリル等 | 危険物・規制対象になりやすいのでSDS確認推奨 |
| 2930 | 有機硫黄化合物 | チオール類、スルフィド類 | HS2022で特定物質の細分新設あり |
| 2933 | 窒素複素環化合物 | ピリジン、カフェイン等 | HS2022でフェンタニル等の監視目的細分あり |
| 2934 | 核酸・その他複素環化合物 | 核酸塩、複素環中間体 | HS2022で「フェンタニル類」細分新設あり |
| 2936 | ビタミン等 | ビタミンC、ビタミンE等 | 「化学的に単一であるかないかを問わない」扱いがあり得る(注1(c)) |
| 2937 | ホルモン | 各種ホルモン、誘導体 | 用語定義(ホルモンの範囲)に注あり |
| 2939 | アルカロイド | エフェドリン系等 | HS2022でエフェドラ由来アルカロイド誘導体の扱い調整あり |
| 2941 | 抗生物質 | ペニシリン、ストレプトマイシン等 | 医薬品形態(定量・小売用)だと第30類へ移る可能性 |
| 2942 | その他の有機化合物 | 他に当てはまらない単一化合物 | 「その他」だからこそCAS/構造で根拠固め必須 |
| その他 | 2906, 2908, 2910, 2911, 2913, 2919, 2920, 2923, 2925, 2927〜2929, 2931, 2932, 2935, 2938, 2940 など | 例:エポキシ(3員環)(2910)、有機リン/有機金属(2931)、スルホンアミド(2935)、配糖体(2938)、糖エーテル(2940) | 類注4〜7、塩・錯体・誘導体の扱い(注5)、複素環の除外(注7)を必ず確認 |
2-2. 6桁(号)で実務上重要な分岐(必須)
- 分岐条件の整理(第29類で多い順)
- 化学物質の同定(CAS、IUPAC、構造式、官能基)
- 異性体(単一異性体か混合か/例外として第27類へ飛ぶか)
- 溶液・添加(溶媒の種類、濃度、溶解の目的、添加剤の目的)
- 規制対象の特定(条約名で“監視用の専用号”が設定されている物質がある)
- 間違えやすい6桁ペア/グループ(2〜5組):
- キシレン:単一異性体 vs 混合異性体(2902.41/42/43 と 2902.44 等)
- どこで分かれるか:o-/m-/p-などの単一異性体か、混合キシレン異性体か
- 判断に必要な情報:GC分析(異性体比率)、SDSの組成、CAS(混合のCAS)
- 典型的な誤り:「キシレン」だけで単一異性体の号に固定してしまう(実態は混合)
- エタノール:第29類(2905)ではなく第22類(2207/2208)
- どこで分かれるか:注の除外規定で強制的に第22類へ
- 判断に必要な情報:成分(エタノールか)、変性の有無、濃度、用途よりも“物としての形態”
- 典型的な誤り:「工業用アルコールだから有機化学品」と短絡する
- PFOS等:専用号(2904.31〜2904.36 等) vs “その他”(2904.99等)
- どこで分かれるか:PFOS、その塩、PFOSFなどの該当物質かどうか
- 判断に必要な情報:化学名、CAS、塩の形態、含有の有無(混合/製剤なら別章の可能性も)
- 典型的な誤り:規制物質を「その他」へ入れてしまい、規制対応のトリガーを逃す
- 有機過酸化物:29.09(2909.60等)と29.11周辺の境界
- どこで分かれるか:有機過酸化物の範囲(注・改正で移動が発生し得る)
- 判断に必要な情報:官能基(–O–O–)、製品の反応性、SDS、構造式
- 典型的な誤り:アセタール系/ヘミアセタール系の過酸化物を旧来の感覚で29.11側に置く(HS2022で移動に言及)
- フェンタニル類等:2933/2934の新設号 vs “その他”
- どこで分かれるか:INN(一般名)や構造でフェンタニル類・前駆体に該当するか
- 判断に必要な情報:INN、CAS、構造式、塩の形態
- 典型的な誤り:「麻薬規制は別部署の話」として分類側で同定が浅くなる(実務上は相互依存)
- キシレン:単一異性体 vs 混合異性体(2902.41/42/43 と 2902.44 等)
3. 部注と類注の詳細解釈(条文→実務的な意味)
3-1. 関連する部注(Section Notes)
- ポイント要約:
- (Section VI注2):医薬品等で定量・小売用にしたものは、該当見出し(例:3004等)に分類し、この部(第29類など)に戻しません。
- (Section VI注3):複数成分を一緒にして「混ぜて使うセット」は、完成品側の見出しに寄せる考え方があります(ただし条件あり)。
- 実務での意味(具体例つき):
- 例:抗生物質でも、原薬のバルクなら第29類(2941)の検討余地がありますが、錠剤・小売包装・用法が明確なら第30類側を優先検討、という方向になります。
- “この部注で他章に飛ぶ”代表パターン:
- 医薬・化粧品・接着剤・殺虫剤などの「小売用・用途特化」で他章が優先される(部注2の思想)。
3-2. この類の類注(Chapter Notes)
- ポイント要約:
- 類注1:第29類は原則として
- (a) 化学的に単一の有機化合物(不純物可)
- (b) 同一化合物の異性体混合(ただし非環式炭化水素の異性体混合は例外)
- (d)(e) 水溶液/必要な溶媒溶液
- (f)(g) 保存・輸送・識別・安全のための最小限の添加
- (h) アゾ染料製造用に標準濃度にした特定物質
など“限られた形”を対象にしています。
- 類注2:エタノール、染料、酵素、免疫学的産品などは明確に除外。
- 類注3:2つ以上の項に入るなら「数字上最後の項」。
- 類注4〜7:複合誘導体の扱い、官能基の定義、エステル・塩・錯体の分類、複素環の除外など、化学構造での“落とし穴”が多数。
- 類注1:第29類は原則として
- 用語定義(定義がある場合):
- 例:ホルモン(2937)の範囲(放出因子、拮抗物質等を含む)など。
- 除外規定(除外先の類・項も明記):
- エチルアルコール→22.07/22.08、染料→32.03/32.04/32.12、酵素→35.07、免疫学的産品→30.02等。
4. 類注が分類に与える影響(“どこでコードが変わるか”)
- 影響ポイント1:「単一化合物」か「用途調整された製剤」か(類注1(e)(g)×部注2)
- 何を見れば判断できるか(必要情報):
- 溶媒の種類と目的(安全/輸送か、用途最適化か)
- 添加剤(安定剤、着色、香気、催吐)の目的(識別/安全か、用途性能か)
- 現場で集める証憑:
- SDS、仕様書、配合表、用途説明、ラベル表示、輸送規格(UN番号等があれば)
- 誤分類の典型:
- 「溶液だから化学品」→実は用途特化(洗浄剤等)で第38類だった、など
- 何を見れば判断できるか(必要情報):
- 影響ポイント2:異性体混合の例外(類注1(b))で第27類に飛ぶ
- 何を見れば判断できるか:
- 対象が「非環式炭化水素」か、混合が「立体異性体以外」か
- 現場で集める証憑:
- 組成分析(GC)、CAS、工程(分留・精製の程度)、製品規格
- 誤分類の典型:
- “混合溶剤”を第29類の「異性体混合」と誤解(実態は第27類の石油系留分)
- 何を見れば判断できるか:
- 影響ポイント3:多官能基化合物の「最後の項」ルール(類注3)
- 何を見れば判断できるか:
- 官能基の一覧(酸、アルコール、アミン、ニトロ、ハロゲン等)
- 競合し得る項番号の並び(どれが“最後”か)
- 現場で集める証憑:
- 構造式、IUPAC名、反応式(中間体なら特に)
- 誤分類の典型:
- “主用途”で決めてしまい、注が要求する「官能基・並び」を見落とす
- 何を見れば判断できるか:
- 影響ポイント4:塩・錯体・酸塩化物など誘導体の帰属(類注5等)
- 何を見れば判断できるか:
- その物質が「塩」「錯体」「金属アルコラート」「酸ハロゲン化物」等に該当するか
- 現場で集める証憑:
- 反応・中和の有無、カウンターイオン、金属結合の有無、SDS(組成)
- 誤分類の典型:
- “別物質”として2942等に逃がす(実は元化合物の扱いに寄せるべき)
- 何を見れば判断できるか:
5. 分類でよくある間違い(原因→対策)
- 間違い:エタノールを2905(アルコール)で申告
- なぜ起きる:一般感覚で「アルコール=有機化学品」と連想する
- 正しい考え方:類注2で**エチルアルコールは第22類(2207/2208)**に除外
- 予防策:
- 確認資料:成分表、濃度、変性の有無
- 社内質問例:「主成分はエタノールですか?変性剤は何ですか?」
- 間違い:“溶液”というだけで第29類に固定
- なぜ起きる:SDSに溶媒が書かれているだけで「化学品だから」と判断
- 正しい考え方:類注1(e)は「安全/輸送のための通常の溶液」に限定し、用途最適化なら外れ得る
- 予防策:
- 確認資料:用途説明、ラベル、添加剤の目的
- 社内質問例:「溶媒は輸送上の理由?それとも塗布/洗浄など用途のため?」
- 間違い:染料・蛍光増白剤を第29類で処理
- なぜ起きる:原料が有機化合物なので“有機化学品”だと誤解
- 正しい考え方:類注2で有機系の着色料等は第32類へ除外
- 予防策:
- 確認資料:用途(着色/蛍光)、製品名(dye, pigment, brightener等)、社内の使用部門
- 間違い:単一化合物かどうかの確認不足(商標名で分類)
- なぜ起きる:取引名が“剤”“ソリューション”など曖昧
- 正しい考え方:第29類は「単一化合物(不純物可)」等が原則
- 予防策:
- 確認資料:CAS、純度、主要成分の含有率、複数成分の有無(混合なら第38類等)
- 間違い:非環式炭化水素の異性体混合を第29類で処理
- なぜ起きる:「異性体混合は第29類」と一般化してしまう
- 正しい考え方:類注1(b)に例外があり、非環式炭化水素の異性体混合は第27類に行き得る
- 予防策:
- 確認資料:炭化水素かどうか、環式かどうか、異性体の種類(立体/構造)
- 間違い:多官能基化合物を“主用途”で決めて類注3を見落とす
- なぜ起きる:営業・研究の説明が用途中心で、構造を見ない
- 正しい考え方:2つ以上の項に入り得るときは、原則「最後の項」(類注3)
- 予防策:
- 確認資料:構造式、官能基一覧
- 社内質問例:「官能基は何が入っていますか?酸/アミン/アルコールなど全部列挙できますか?」
- 間違い:塩・錯体・酸塩化物を別物扱いで2942等に“逃がす”
- なぜ起きる:SDSの名称が別名で、元化合物と結びつかない
- 正しい考え方:誘導体の扱いは注(エステル・塩・錯体等)に従って“元の系統”に寄せる考え方がある
- 予防策:
- 確認資料:反応前後の名称、塩形成の情報、金属結合の有無
- 間違い:規制対象物質(PFOS等、条約対象)を“その他”で申告
- なぜ起きる:規制チェックと分類が分業で、分類側が“監視用細分”を意識しない
- 正しい考え方:HS改正で条約対応の細分が設定されており、同定が分類品質に直結
- 予防策:
- 確認資料:CAS、条約リスト照合(社内コンプラ部門と連携)、税関相談
6. FTAやEPAで原産地証明をする際に気をつける点
6-1. HSコードとPSR(品目別規則)の関係
- HSの付番がPSR選択に直結します。第29類は「原料=化学品」になりやすく、最終製品HSが1桁違うだけでPSRが別物になることが普通にあります。
- よくある落とし穴
- 原料(複数)のHSが曖昧(混合物・溶液・塩など)
- 最終製品が第29類ではなく、第30類(医薬)、第32類(染料)、第38類(調製品)にズレる
6-2. 協定が参照するHS版の違い(HS2012/2017/2022のズレ)
- 経済連携協定等は、採用しているHS版が異なることがあります(協定によってHS2012/2017など)。検索時にバージョン違いだと誤判定になり得ます。
- トランスポジション(旧→新対応)の扱い方(一般論)
- 協定の参照HS版でPSRを確認 → 現行申告HS(HS2022/国内コード)に対応付け(相関表で確認)という順番が安全です。
6-3. 実務チェック(原産性判断に必要なデータ)
- 最低限そろえるもの(第29類は特に“同定情報”が重要)
- BOM(材料表)、原産国、各材料のHS(できればHS6桁まで)、非原産材料の比率
- 工程(反応・精製・混合のどこまで行うか)
- 原価(RVC方式の場合)
- 証明書類・保存要件(一般論)
- 供給者証明、SDS、分析表、製造工程図、インボイス品名の整合、保存年限は協定・社内規程に従う
7. HS2022とそれ以前のHSコードでの違い(違うことになった根拠)
7-1. 変更点サマリー(必須:表)
| 比較(例:HS2017→HS2022) | 変更タイプ(新設/削除/分割/統合/文言修正/範囲変更) | 該当コード | 変更の要旨 | 実務への影響 |
|---|---|---|---|---|
| HS2017→HS2022 | 分割/再編 | 2903.31/2903.39 → 2903.41〜2903.69 等 | Kigali改正(モントリオール議定書)関連物質の監視目的で細分再編 | 冷媒・発泡剤等の特定品は「その他」逃げが難化、CAS同定が必須 |
| HS2017→HS2022 | 範囲明確化(注修正) | 29.09/29.11(例:2911.00→2909.60への移動言及) | 類注・見出しの明確化により、特定の有機過酸化物(アセタール/ヘミアセタール過酸化物)が29.09側へ | 旧分類慣行のままだと差異が出るため、SDS/官能基で再点検 |
| HS2017→HS2022 | 新設 | 2930.10 | 2-(N,N-ジメチルアミノ)エタンチオール用の号新設(化学兵器禁止条約関連の監視) | 規制対応(輸出入届出等)のトリガーになり得る |
| HS2017→HS2022 | 分割/再編+新設 | 2931.31〜2931.39 → 2931.41〜 等、2931.54新設 | CWC(化学兵器)対象の監視強化+ロッテルダム条約対象(トリクロルホン)号新設 | 有機リン/有機金属等はサブヘディング再確認必須 |
| HS2017→HS2022 | 新設 | 2932.96 | カルボフラン(carbofuran)用の号新設(ロッテルダム条約) | 農薬原体等の同定・規制チェックが重要に |
| HS2017→HS2022 | 範囲拡大+新設 | 2933.33の範囲拡大、2933.34/35/36/37新設 | フェンタニル類・前駆体、3-キヌクリジノール等の監視(国連麻薬単一条約/CWC) | 輸出入規制・社内コンプラの連携必須(INN/CAS管理) |
| HS2017→HS2022 | 新設 | 2934.92 | フェンタニル類(その他)向け号新設(国連麻薬単一条約) | 同上(2934側に分類される対象もある) |
| HS2017→HS2022 | 範囲変更 | 2939.71 → 2939.45/2939.49等 | エフェドラ由来アルカロイド誘導体の扱いを他の誘導体と整合 | 旧コード運用の品は相関確認が必要 |
7-2. 「違うことになった根拠」(必須)
- 根拠資料(相関表)として、WCOの**HS2022↔HS2017相関表(Table I)**に、Chapter 29の具体的な改正理由(条約名・監視目的・新設/再編)が明記されています。上表の要旨は、当該相関表の記載(例:Kigali改正、化学兵器禁止条約、ロッテルダム条約、国連麻薬単一条約等)に基づいて整理しました。
- 併せて、HS2022の**第29類注(Note 1〜Subheading Notes)**により、対象範囲(単一化合物/溶液/添加/除外/最後の項ルール等)が確認できます。
8. HS2022以前で付け加えられたHSコード/削除されたHSコード
主要な追加・削除・再編(例)を、HS2007→2012→2017→2022の流れで整理します(代表例)。
| HS版移行 | 主要な追加・削除・再編(例) | 旧コード→新コード(例) | 背景/狙い(要旨) |
|---|---|---|---|
| HS2007→HS2012 | 2916.35削除(低取引量)等 | 2916.35 →(統合/整理先へ) | 取引量・統計整備の観点 |
| HS2007→HS2012 | 2931の細分(有機金属等) | 2931.00 → 2931.10/2931.20/2931.90 等 | ロッテルダム条約(PIC)等に伴う監視・管理 |
| HS2007→HS2012 | 2939.44新設(ノルエフェドリン等) | (旧2939.49等)→ 2939.44等 | 規制・統計上の識別強化 |
| HS2012→HS2017 | PFOS等の専用号新設 | 2904.90(ex)→ 2904.31〜2904.36 | ストックホルム条約/ロッテルダム条約の監視・管理 |
| HS2012→HS2017 | クロロピクリン等の細分新設 | 2904.90(ex)→ 2904.91 等 | 有害化学物質の国際移動の把握 |
| HS2017→HS2022 | 冷媒系(2903)の大規模再編 | 2903.31/2903.39 → 2903.41〜2903.69 | Kigali改正対応(オゾン層・温室効果ガス管理) |
| HS2017→HS2022 | 化学兵器/麻薬等に関連する細分強化 | 2930/2931/2933/2934 等に新設・再編 | CWC、国連麻薬単一条約、ロッテルダム条約等への対応 |
注:表の「旧→新」は代表例です。実務では対象物質のCAS/INNと、相関表の該当行(ex表記含む)で突合してください。
9. 類注違反による通関トラブル(想定事例)
- 事例名(短く):“溶液だから第29類”で申告したら製剤扱い
- 誤りの内容(どの類注/部注に抵触):類注1(e)の「安全/輸送上の通常の溶液」要件を満たさず、実態が用途特化(部注2の思想にも抵触)
- 起きやすい状況:洗浄用、塗布用に濃度・添加剤を調整した“ソリューション”
- 典型的な影響:税番更正、追加資料要求、検査・遅延
- 予防策:SDS+用途説明+「溶解理由(輸送か用途か)」の文書化
- 事例名:エタノールを2905で申告
- 誤りの内容:類注2(b)の除外(エタノールは22.07/22.08)
- 起きやすい状況:“工業用アルコール”とだけ記載、変性情報が不足
- 影響:税番訂正、場合により酒税・許認可の論点が発生
- 予防策:変性の有無、濃度、用途(飲用でないこと)等を明確化
- 事例名:PFOS等を「2904.99 その他」で申告
- 誤りの内容:HS改正で設定された監視用細分に合致する可能性を見落とし
- 起きやすい状況:CASの照合をせず、化学名が略称のみ
- 影響:規制チェック漏れ→差止め/追加手続/是正
- 予防策:CASで同定→条約/規制対象の社内照合→必要なら税関相談
- 事例名:フェンタニル類を“その他の複素環”で処理
- 誤りの内容:HS2022での監視用新設号(2933/2934側)を見落とす
- 起きやすい状況:INN不明、塩の形態だけが伝票に記載
- 影響:輸出入規制(麻薬等)確認の遅れ、通関保留
- 予防策:INN/CAS/塩の種別を必須入力項目にする
10. 輸出入規制事項(コンプライアンス観点)
- {日本}前提で、この類で頻出の規制・許認可・検疫を整理(該当があるものだけ)
- 検疫・衛生(SPS等)
- 第29類自体は検疫というより、危険物・毒劇物・薬物など別法令での管理が中心になりやすいです(個別物質で判断)。
- 安全保障貿易管理(該当する場合)
- 化学兵器禁止条約関連物質などは、輸出入実績の届出等が必要となり得ます(物質・数量・制度要件で判断)。
- その他の許認可・届出(代表例)
- 麻薬及び向精神薬:輸出入や所持等が厳格に規制(対象物質は法令・別表等で判断)。
- 税関の輸出入禁止・規制品目として、麻薬等は明示されています。
- 確認先(行政・公式ガイド・窓口)
- 税関(規制品目・手続)、経済産業省(化学兵器関連等)、厚生労働省(麻薬等)
- 実務での準備物(一般論)
- SDS、成分表、CAS/INN、用途説明、数量・濃度、契約書/インボイスの品名整合、必要な場合は許可証・届出書
11. 実務チェックリスト(分類→通関→原産地→規制)
- 分類前チェック(製品情報の収集)
- CAS/IUPAC名、構造式(官能基)、純度、不純物
- 異性体の有無(単一/混合)
- 溶媒・添加剤の種類と目的(安全/輸送/識別か、用途最適化か)
- SDS(最新版)
- 分類後チェック(注・除外・境界の再確認)
- 類注1(単一化合物/溶液/添加の条件)に適合するか
- 類注2(除外:エタノール、染料、酵素等)に当たらないか
- 類注3(最後の項)を適用すべきか/ただし号には適用されない点を認識
- HS版改正の影響(相関表で旧→新のズレ確認)
- 申告前チェック(インボイス品名、数量単位、補足資料)
- インボイス品名は「一般名+化学名+CAS」等で誤解を減らす
- 危険物・規制物質は、必要情報(濃度、UN番号等)が書類に揃っているか
- FTA/EPAチェック(PSR・材料・工程・保存)
- 協定参照HS版でPSR確認→相関で現行HSへ接続
- BOM、工程、原価、材料HS(非原産)を保存
- 規制チェック(許可/届出/検査)
- 麻薬等:該当の有無、許可・届出手続
- 化学兵器関連:指定物質等の届出の要否
12. 参考資料(出典)
- WCO(HS2022条文、相関表、改正パッケージ等)
- HS2022 Chapter 29 “Organic chemicals”(条文・類注)[参照日:2026-02-19]
- HS2022 Section VI Notes(部注)[参照日:2026-02-19]
- HS2022↔HS2017 Correlation Table (Table I)[参照日:2026-02-19]
- HS2017↔HS2012 Correlation Table (Table I)[参照日:2026-02-19]
- HS2012↔HS2007 Correlation Table (Table I)[参照日:2026-02-19]
- {日本}税関・公的機関のガイド
- 税関「関税率表解説(第29類 有機化学品)」[参照日:2026-02-19]
- 税関「関税率表第29類の概要(分類整理資料)」[参照日:2026-02-19]
- 税関:輸出入禁止・規制品目(麻薬等)[参照日:2026-02-19]
- FTA/EPA本文・付属書・運用ガイダンス
- 税関「品目別原産地規則(PSR)検索」—HS版違い注意[参照日:2026-02-19]
- その他(規制関係)
- 経済産業省:化学兵器禁止法関連物質(輸入・届出等)[参照日:2026-02-19]
- 厚生労働省:麻薬及び向精神薬取締法(条文)[参照日:2026-02-19]
付録B. 税関の事前教示・裁定事例の探し方(任意)
- どの情報を揃えると相談が早いか(一般論)
- 第29類は特に、CAS/IUPAC名、構造式、純度、不純物、溶媒・添加剤の目的が重要です(SDSはほぼ必須)。
- 「どの項・号を想定しているか」「なぜそこで迷うか」を文章化すると、照会が通りやすいです。
- 探し方(日本税関)
- **品目分類の事前教示制度(カスタムスアンサー)**で制度概要を確認
- 事前教示回答(品目分類)検索で、類似品・類似物質の回答を探す
- **輸入貨物の品目分類事例(類別一覧)**で、整理された代表事例を確認
免責事項
本資料は、HSコード(品目分類)、通関、FTA/EPA原産地、輸出入規制等に関する一般的な情報提供を目的として作成したものであり、特定の取引に対する法的助言、税務・関税上の助言、または通関上の最終判断を提供するものではありません。HSコードの最終的な決定は輸出入国の税関当局の判断により行われ、同一または類似の商品であっても、仕様・成分・用途・形状・加工度・取引実態・提出書類等により分類結果が異なる場合があります。関税率、原産地規則、輸出入規制、必要な許認可・検疫要件等は改正等により変更される可能性がありますので、必ず最新の法令・公的機関の公表情報・協定本文等をご確認ください。重要な取引については、税関の事前教示制度の活用、通関業者、弁護士・税理士等の専門家への相談を含め、必要な検証を行った上でご判断ください。本資料の内容の利用または利用不能により生じたいかなる損害についても、作成者は一切の責任を負いません。
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