WCOが示す新しい線引き
WCOが2024年3月の第73回HS委員会で採択した分類意見により、Dual-die Hall sensor integrated circuit(IC)がHS 8542.39に分類されることが明文化されました。 センサー機能を内蔵したICを「測定機器」ではなく「電子集積回路」として扱う境界が、構造面から具体的に示された点が企業実務にとって重要です。

1. 分類意見とは何か
WCOの分類意見(Classification Opinions)は、HS委員会が扱った重要・難解な分類判断を、具体的な品目ごとに整理した公式資料です。 WCOは、分類意見がHS解説(Explanatory Notes)と並ぶ国際的な解釈ツールであり、特定製品に対する分類を示す点に特徴があると説明しています。[wcoomd]
実務上のポイントは次のとおりです。
- 分類意見は、各国税関が運用をそろえる際の強い参照点となる。**
- もっとも、最終的な適用は各国の法令・運用に依存するため、WCOも「各国での実施状況を確認するように」と注意書きを付しています。
- 実際にWCOは、「HS委員会の決定を適用していない、または適用できない」と通報した国の一覧を公表しています。[cbsa-asfc.gc]
したがって、分類意見は軽視できない一方で、「自国・仕向国がどう実装しているか」の確認を含めて初めてリスクが閉じます。[cbsa-asfc.gc]
2. Dual-die HallセンサーICの内容
2-1 対象品目と分類
今回センサー関連で実務に直結するのが、「Dual-die Hall sensor integrated circuit(IC)」をHS 8542.39に分類した新しい分類意見です。 HS上は85.42「電子集積回路」のうち「その他」に該当するサブヘディングに位置づけられています。[trademo]
分類意見では、同じページで「4スイッチを3ダイに集積したIC」と「Dual-die Hall sensor IC」の2件がいずれも8542.39として示されており、いずれも第85類注12(b)(iii)とGIR1・GIR6を根拠としています。
2-2 製品構造の要点
Dual-die Hall sensor ICに関する分類意見で示されている構造要件は次のとおりです。
- 1パッケージ内に、冗長構成の2つのセンサーを内蔵したDual-die Hall sensor integrated circuit(IC)である
- 2つのセンシング要素は「個別の離散部品」ではなく、同一パッケージ内で同じ横方向位置(same lateral position)に配置された要素として集積されている
- 2つのセンサーはいずれも半導体技術により製造されたモノリシック集積回路であり、互いに電気的には接続されていない
- ダイ製造時にすべての構成要素が同時に集積されており、追加の能動素子・受動素子など他の回路要素は組み付けられていない
- 用途は「角度および位置の検出(angle and position detection)」
- 適用根拠として、GIR1、GIR6、および第85類注12(b)(iii)が明記されている
ここから企業側が読み取るべきメッセージは明確です。
センサー機能を備えていても、構造が電子集積回路そのものであり、追加の回路素子(能動・受動)を組み付けていない限り、測定機器ではなく8542の電子集積回路として整理され得る、という線引きが国際レベルで示されました。[trademo]
3. なぜこの判断がビジネスに効くか
3-1 HSコード変更の連鎖
HSコードが8542か、それ以外(例えば測定機器、トランスデューサー等)かで変わると、影響は単なる関税率にとどまりません。
- 原産地規則の品目別規則(CTH、CTSH、RVC等)の該当性
- 社内マスタやERP・販売管理システム上の品目分類
- 輸出入統計および社内KPIの集計ロジック
- 取引契約書の品番・仕様欄に紐づく条文(関税・関税負担条項等)
センサーは採用品目の裾野が広く、同じ技術要素が複数製品に跨るため、一度分類が揺れると影響が部門横断で波及しやすい領域です。[perplexity]
3-2 サプライヤー資料とBOMの書き方
今回の分類意見は、構造条件(冗長センサー構成、電気的非接続、追加素子の不在など)をかなり具体的に記述しています。
- これらの条件が、サプライヤーのデータシートや仕様書、FMEA、機能安全ドキュメントのどこに記載されているか
- BOM上で「ICとして完結しているのか」「基板上の他素子と一体でモジュール化されているのか」がどう表記されているか
といった「書き方」次第で、同じ技術内容でも分類判断の強度が変わり得ます。 調達部門が受け取る仕様書の粒度が、そのまま通関時の説明可能性とリスクに直結するイメージです。[perplexity]
3-3 モジュール化による分類の変化可能性
今回の分類意見が対象とするのはあくまでICそのものです。
実務では、同じHallセンサーでも、次のレイヤーで取引されるケースが多くなります。
- 半導体ダイを一定のパッケージに封止したIC単体
- ICを基板実装し、抵抗・コンデンサ・レギュレータ等を組み合わせたセンサーモジュール
- コネクタ付き・筐体組込みのユニットとして自動車・産業機械に搭載される段階
モジュール化が進むほど、第85類注12(b)が定義する「電子集積回路」から外れ、他の見出し(例:8543のトランスデューサー類、計測機器類、車両部分品など)へ分類が移る可能性が高まります。 したがって、製品階層ごとに「どこまでがICで、どこからが装置か」を棚卸ししておく意味が大きくなります。[customsmobile]
4. 実務落とし込み:3段階の切り分け
センサー品目を整理する際は、次の3段階で切り分けると迷いを減らせます。
A. 集積回路としてのセンサーIC
- 今回の分類意見の射程に入る領域です。
- 第85類注12(b)で定義される電子集積回路に該当するかどうかが中心論点になり、「追加の回路素子が組み付けられていないこと」が重要な判断材料となります。[trademo]
B. センサーモジュール
- IC以外の能動素子・受動素子、基板、コネクタ、シールド、磁性体等が一体化した段階では、Note 12(b)から外れてくる可能性が高まります。[customsmobile]
- 構成要素や主たる機能によっては、8543や90類の測定機器、あるいは装置の部分品としての検討が必要であり、品ごとの差が大きいため先入観で決めない方が安全です。[perplexity]
C. センサー機能を含む機器・ユニット
- 自動車、産業機械、ロボット、家電等の一部として機能する段階では、機器全体の主機能、章注、部品規定(例えば第17部注2など)が判断の軸になります。[perplexity]
- この段階では、もはや「センサーであること」よりも「当該機器が何をする装置か」が分類を決める主因になります。
今回の分類意見はAの領域をクリアにしたものであり、B・Cの判断を行う際の基準点としても位置づけることができます。
5. 各国実装のばらつきへの備え
分類意見は国際的に強い参照資料ですが、各国での適用にはタイムラグや例外があり得ます。WCO自身も、分類決定を輸出入に適用する際は、相手国での実装状況を確認するよう助言しており、適用できない決定の一覧も公開しています。[cbsa-asfc.gc]
企業が取り得る現実的な対応は次のとおりです。
- 主要仕向地ごとに、税関の公表資料・事前教示・通達などを通じて、自社が想定するHSコードと当局運用が一致しているか点検する
- 差異が予見される国については、事前教示や技術資料の添付など、申告根拠を補強する運用を取る
- 国別の運用差は、社内マスタに履歴として残し、営業・物流・経営層と共有することで、「国ごとにHSが違う」ことを前提にした価格・契約設計を可能にする
6. すぐ使える社内チェックリスト
今回の分類意見を踏まえ、Hallセンサー関連のSKUを整理する際の社内チェックポイントは以下が有効です。
- 自社の「Hallセンサー関連SKU」を、IC単体、基板実装品、モジュール、ユニット等の階層に分解して一覧化する
- 「IC単体」と主張するSKUについて、追加の能動素子・受動素子を組み付けていないことを、仕様書・BOM・レイアウト図で確認する(Note 12(b)の要件を満たすかどうか)[trademo]
- 仕様書に「冗長構成」「電気的に非接続」「角度・位置の検出」など、今回の分類意見の記述と対応する文言があるかを確認し、分類根拠資料として保管する。
- 主要国(例:日本、EU、米国、韓国、中国など)で、当該分類意見がどのタイミングで反映されているかを確認し、必要に応じて事前教示を取得する。[cbsa-asfc.gc]
- HSコード変更が、原産地規則(PSR)、輸出管理、社内マスタ、取引契約、価格設定に与える影響を同時にレビューする
7. 一次情報へのアクセスルート
WCOは、HS品目表・法的注・解説・分類意見などの公式資料を「WCO Trade Tools」から参照できると案内しており、単なるPDF配布からオンラインサービスへと軸足を移しています。 継続的にHS分類を監視する企業ほど、この参照ルートを社内で固定し、定期的なアップデートを確認できる体制を持つことが、分類判断のスピードと再現性を高めます。[wcoomd]
8. まとめ
今回のポイントは、センサー機能を持つICであっても、構造が電子集積回路そのものであり、追加の回路素子を組み付けていない場合には、8542.39に整理され得るという基準が、Dual-die Hall sensor ICを例に明確に示されたことです。 センサーは技術進化に伴い形態が急速に変わる一方で、分類体系は相対的にゆっくり動きます。
分類の再現性を高めるカギは、技術理解そのものに加え、
- 製品階層の切り分け(IC/モジュール/機器)
- それぞれの階層でNote 12(b)や部品規定をどう適用するかというルールの明文化
- 根拠資料(仕様書・BOM・図面・安全認証資料等)の整理・保管
にあります。 Dual-die HallセンサーICの分類意見は、その起点として実務で活用しやすい材料と言えるでしょう。[wcoomd]
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