HS2028移行で始まるFTA転記作業の初期兆候

現場が混乱する前に、企業が先回りできるサインと実務手順

HS2028は、単なるHSコード改訂ではありません。関税率表や通関実務だけでなく、FTAやEPAの品目別原産地規則(PSR)や附属書、運用手続、各国の原産地証明制度まで、連鎖的に更新を促します。WCOはHS2028が2028年1月1日に発効すること、そして残りの準備期間で相関表(Correlation Tables)や解説資料の整備を進めることを明示しています。 (wcoomd.org)

問題は、FTA側の更新が各協定ごとに別のテンポで動くことです。つまり企業は、HS2028の発効日だけを見ていても間に合いません。実務の世界では、その前段階として「転記作業の初期兆候」が必ず現れます。本稿では、そのサインを具体化し、見えた瞬間に着手すべき準備を整理します。


1. FTAの転記作業とは何か

HS改訂が、PSRと附属書を動かす理由

FTAやEPAの原産地規則は、HSコードを前提に設計されています。PSRは多くの場合、HSの類、項、号のどこかを条件にして、CTC(関税分類変更基準)やRVC(付加価値基準)などを定義します。HSが改訂されると、次の問題が起きます。

・品目番号が分割、統合、移動し、旧番号のままではPSRの適用対象が曖昧になる
・附属書の品目表や脚注、例外規定が、参照先を失う
・協定上の用語定義(章、項、号など)の整合性が崩れる
・各国の原産地証明運用(検索ツール、申告様式、監査手順)に更新が必要になる

この更新は、単なる置換ではなく、協定の手続に沿って「技術的更新」または「転記(transposition)」として行われます。WCOは、HS改訂に伴う優遇原産地規則の技術的更新の進め方をガイドとして整理し、FTAsのPSR見直し対象の洗い出しにも役立つと説明しています。


2. HS2028の公式タイムラインを押さえる

企業が見るべきは発効日だけではない

WCOは、HS2028が2028年1月1日に発効することを明確にしています。 (wcoomd.org)
また2026年1月21日付で、HS2028改正が受け入れられ、相関表の作成など実装に向けた次の工程に入ることを公表しています。 (wcoomd.org)

さらにWCOは、準備期間に実施する中核タスクとして、HS2022とHS2028の相関表作成、HS解説資料の更新、加盟国支援を挙げています。 (wcoomd.org)

ここから読み取れる実務上の結論は一つです。
FTAの転記作業は、発効直前に突然始まるのではなく、相関表や運用資料の整備と並走して、段階的に立ち上がります。


3. 転記作業の初期兆候

兆候は、政府側と民間側の両方に出る

以下は、HS2028対応の転記が現実のタスクとして動き始めたと判断できるサインです。

3-1. 公式ツールや案内に「協定のHSバージョン差」が強調される

日本税関のPSR検索画面は、協定ごとに採用しているHSバージョンが異なり、違うバージョンで検索すると結果が誤ることがあると明示しています。さらに相関表の確認も促しています。 (税関総合情報)
こうした注意書きが強調され始めるのは、改訂期の混乱を見越して、実務者にバージョン管理を徹底させる動きが出ているサインです。

3-2. FTAの共同委員会や附属書改正で、HSベース更新が正式議題になる

転記は「協定上の手続」を通ります。典型例として、日本とインドネシアのEPAでは、PSRの附属書(Annex 2)をHS2002ベースからHS2017ベースへ更新することが改正目的として明示されています。 (mofa.go.jp)
つまり、HS改訂は実務作業ではなく、協定の改正作業として扱われるということです。HS2028でも同様に、協定ごとの手続が動き始めた瞬間が初期兆候になります。

3-3. 協定本文に「転記」の概念が明文化され、実装期限が意識される

RCEPは、HS改訂に合わせてPSRを更新するための転記手続を条文で定義し、改訂HSの発効前に協議して更新を準備し、共同委員会で採択し公表する流れを規定しています。 (世界と日本)
このような枠組みを持つ協定では、HS2028が近づくほど、共同委員会や実務会合で転記が具体議題化しやすく、企業側も早期に影響を受けます。

3-4. 相関表の議論や更新が、各国の制度改修と結びつく

WCOが相関表の開発を主要タスクとして掲げている時点で、各国はそれを前提に法令やITを更新します。 (wcoomd.org)
この段階で起きやすいのが、政府ポータルや通関システム側が「新旧コード併記」「暫定マッピング」「移行期間の扱い」を示し始めることです。これも初期兆候です。


4. 企業現場で先に起きる、もう一つの初期兆候

官報より先に、取引先とシステムが動く

HS2028の転記は政府間の話に見えますが、企業の現場では次の形で先に顕在化します。

・長期契約の更新時に、取引先からHS2028相当コードの提示を求められる
・フォワーダーや通関業者が、品目マスターの更新計画を共有してくる
・顧客監査で、PSRの適用根拠をHSバージョン付きで説明するよう求められる
・原産地証明関連の業務で、協定ごとのHS年次差がボトルネックになる

ここで重要なのは、企業が扱うFTAが複数あるほど、協定ごとにHS年次が異なる状態が長期化しやすいことです。税関も協定ごとのHSバージョン差を明確に注意喚起しています。 (税関総合情報)
つまりHS2028対応は、全社一括の切替ではなく、協定別の並走管理になる可能性が高いという前提で設計すべきです。


5. 初期兆候を見たら、最初にやるべきこと

転記が始まってから慌てないための実務順序

5-1. 自社が使う協定ごとに、参照HS年次を棚卸しする

協定ごとに採用HS年次が違うと、同じ品目でもPSRが参照するコード体系が変わります。まずは協定別に、現行運用がどのHS年次に基づいているかを一覧化します。税関もこの点を誤ると検索結果が誤る可能性を示しています。 (税関総合情報)

5-2. HS2022からHS2028へのマッピングを、業務単位で準備する

相関表はWCOが開発すると明示していますが、実務では相関表が出てから検討開始では遅れます。 (wcoomd.org)
自社の重点品目については、次の粒度で事前準備します。

・HS6での変化点を想定し、分割や統合が起きそうな品目を特定
・自社品目マスターに、旧コード、暫定新コード候補、根拠メモ欄を作る
・品目別に、分類根拠資料と原産地判定の根拠資料を結びつけておく

5-3. PSRの再判定が必要になるパターンを先に決める

転記は原則として既存PSRの趣旨を損なわずに行われますが、品目構造が変われば運用上の解釈や適用範囲の説明が難しくなることがあります。RCEPでも、転記はPSRを損なわずに行うことを求めています。 (世界と日本)
そこで、社内ルールとして次のトリガーを定義しておくと早いです。

・HS6が変わる品目は必ずPSRを再確認
・分割統合がある場合は、材料表と工程情報をセットで再レビュー
・協定の転記版PSRが出たら、旧版と差分比較を実施

5-4. 転記対応は、通関と原産地証明を分けて設計する

税関は、協定のHS年次とは別に、輸入申告は最新HSを使うべきことも示しています。 (税関総合情報)
つまり現場は、通関側は最新HS、原産地証明側は協定HSという二重管理を迫られます。これを前提に、システムと帳票の設計を先に決めることが、移行期の混乱を減らします。


6. 初期兆候を見逃すと、どこで損をするか

コスト増は関税だけではない

転記対応が遅れると、起きる損失は追加関税や否認リスクだけに留まりません。

・特恵適用の判断遅延による出荷リードタイム悪化
・監査での説明コスト増、資料再作成
・取引先からのコード整合性要求に対応できず、受注条件が不利になる
・品目マスター混乱による、社内の原価計算や購買条件の誤り

WCOのガイドも、HS改訂に合わせた原産地規則更新が、誤適用防止やリスク評価の効率化につながると述べています。
逆に言えば、更新を後追いすると、リスク評価と統制コストが上がります。


7. まとめ

HS2028の本番は、FTAの転記が動き出した瞬間から始まる

HS2028は2028年1月1日発効で、WCOは相関表や解説資料更新を含む準備期間を示しています。 (wcoomd.org)
しかし企業にとっての実質的な開始点は、次の初期兆候が見えた時です。

・協定HS年次差の注意喚起が強まる
・共同委員会や附属書改正でHS更新が正式化する
・協定条文に基づく転記手続が具体化する
・ポータルやシステムが新旧併記、移行運用を示し始める
・取引先と社内システムが先に動き、二重管理が現実になる

最も堅い戦略は、協定別のHS年次棚卸しと、重点品目のマッピング準備を先に終え、転記版PSRが出た瞬間に差分検証へ入れる体制を作ることです。これが、HS2028移行をコストではなく競争力に変える、現実的な先回りになります。


免責

本稿は一般的な情報提供を目的としています。個別取引におけるHS分類、特恵適用、原産地規則の判断は、協定正文、当局ガイダンス、専門家助言に基づき確認してください。

 

FTAでAIを活用する:株式会社ロジスティック

Logistique Inc.

投稿者: shima

嶋 正和 株式会社ロジスティック 代表取締役社長

コメントを残す