ワイヤーハーネスは、見た目も用途も明らかに自動車向けです。にもかかわらず、米国税関CBPの裁定では、しばしば自動車部品の8708ではなく、導線としての8544に分類されます。
ここを誤解すると、申告修正や追徴、追加関税の取りこぼし・過払い、サプライチェーン原価計算の崩れにつながりかねません。
本稿では、CBPの代表的な裁定(HQ・NY)を軸に、「導線としての8544」と「自動車部品としての8708」の境界がどこに引かれるのかを、ビジネスの意思決定に使えるレベルまで整理します。
※本稿は一般的な情報提供であり、個別案件の分類を確定するものではありません。最終判断には製品仕様、構成部品、輸入時の状態、提出資料が強く影響します。重要案件ではCBPのバインディングルーリング取得を推奨します。

1. まず結論:8708に行く前に、8544に「吸い込まれる」仕組みがある
誤解が生じやすい最大の理由は、「用途だけで考えてしまう」ことです。
確かにワイヤーハーネスは車両専用に設計され、車の中でしか使われませんが、HTSUSは用途だけでなく、章注・部注による「門番ルール」で分類の行き先を決めています。
その典型が、HTSUS Section XVII(車両等)の注2(f)です。
この注記では、車両の部品として識別できるものであっても、Chapter 84・85に該当する物は、Section XVIIの「parts and accessories(部品・付属品)」の範囲から除外すると定めています。
言い換えると、「Chapter 85にきちんと分類できるものは、原則として8708には入れない」という構造です。
この門番ルールがあるため、ワイヤーハーネスを8708に入れたい側の主張は、出発点から不利になります。
8708に至るための「勝ち筋」は単純で、輸入時の状態の製品が、Chapter 85のどの見出しにも当てはまらないことを示せるかどうかにかかっています。
2. CBPが8544を選ぶときのロジック
本質が「絶縁導体+コネクタ」なら8544
2-1. 事例A:HQ 955026(1993年)
CBPが8544を選んだ代表例として、HQ 955026があります。対象は、乗用車に搭載されるインストルメントパネル用ワイヤーハーネスアセンブリで、導体、配線トラフ、端子、絶縁体、グロメット、束線材、ヒューズ、リレー、ライトソケットなどから構成されていました。
このアセンブリは、ボディコンピュータ、計器クラスター、ラジオ、エアバッグモジュール、スイッチ類、車体配線、エンジンルーム配線など、インストルメントパネル周辺の各モジュールを相互接続する役割を持ちます。
CBPは、Explanatory Note 85.44に触れながら、「絶縁された電線・ケーブル等は、長さに切断されていても、端にコネクタ類が付いていても、依然として8544にとどまり得る」と整理しました。
そのうえで、対象品の本質は「絶縁された導体にコネクタ等を付した配線セット」であり、ヒューズやリレー、ライトソケット等は電気の導通を補助するにとどまるとして、8544.30.00(車両等に用いる配線セット)への分類を確定しています。
さらに重要なのは次の点です。
HQ 955026では、たとえ用途が自動車であっても、対象がChapter 85(8544)に分類される以上、Section XVII注2(f)により8708への分類は排除される、と明言されています。
当時の裁定では、検討対象となった8708.99.50の一般税率が3.1%、8544.30.00が5%と記載されており、分類による税率差がコストに直結することが示されていました(税率は改定され得るため、実務では必ず最新HTSを確認する必要があります)。
ビジネス上の示唆
- 自動車専用設計であっても、それだけで8708にはならない。
- コネクタ、端子、束線材、グロメット、ヒューズ、リレー程度の追加要素は、8544から外す決定打になりにくい。
- 議論の中心は、「電気の導通・配線」という本質を超える独立機能が、輸入時点でどこまで実装されているかに移る。
3. では、いつ8708になり得るのか
8544に当てはまらないほど「機能モジュール化」しているとき
3-1. 事例B:HQ 088477(1991年)
8708側に振れた有名例がHQ 088477です。
ここで対象となったのは、インストルメントパネルに組み込まれる配線アセンブリですが、その内容は単なるハーネスを超えたものでした。
裁定文によれば、このアセンブリには、19本のヒューズを収めたヒューズボックス、ランプとランプソケット、マイクロプロセッサを含むランプ監視モジュール、ドア開状態検知モジュール、ランプ付きグローブボックススイッチ、エンジン警告系ドライバモジュール、複数のリレーやサーキットブレーカーなどが含まれていました。
CBPは、Section XVII注2(f)(Chapter 85該当品は車両部品扱いしない)を前提としながらも、次のようにロジックを組み立てています。
- 構成要素の一部(ヒューズ、スイッチ、電線など)はChapter 85で個別に説明できる。
- しかし、輸入時の状態の「全体」としては、Chapter 85のどの見出しにも当たらない。
- 特に8544については、単なるコネクタ付き導体の範囲を超えて、監視・制御・警告等の装置が相当量一体化しており、85.44の用語を満たさない。
- 8543(個別機能を有する電気機器)についても、本件全体を説明するには適切でない。
- 以上から、全体を最もよく表す見出しは8708.99.50である。
この結果、当該アセンブリは「自動車用のその他の部分品」として8708.99.50に分類されています。
ビジネス上の示唆
- 同じ「ハーネス」と呼ばれていても、輸入時点で監視・制御・診断などのモジュール群を抱き込むと、8544の「安全地帯」から外れる。
- 8708に行けるかどうかは、「車の部品だから」ではなく、「Chapter 85のどれにも当たらないほど一体化した機能モジュールになっているか」という消去法の勝負になる。
- 設計変更や構成部品の追加が、既存の分類前提を壊しうる。
4. 現代の実務感
スイッチ・リレー・ヒューズ入りでも8544に残ることがある
4-1. 事例C:NY N326429(2022年)
近年の実務に直結する例として、NY N326429があります。
ここで扱われたのは、LED作業灯やオフロード用ライトバー向けの「プラグ・アンド・プレイ」配線ハーネスで、ロッカースイッチ、ヒューズ、リレー、複数のコネクタを備え、12V系で車両に使用される製品でした。
輸入者側は、回路の接続・保護・スイッチング等を行う電気機器を含むことから、8536と8544のどちらか、あるいは複合として別のサブヘディングを提案しました。
しかしCBPは、保護・接続・スイッチング・導通など複数の機能が並立しており、単一の機能を「本質」と特定しにくいとして、GRI 3(c)を適用しています。
GRI 3(c)では、2以上の見出しに同程度に該当し、本質を決定できない場合、番号順で最も後ろにある見出しに分類すると定められています。
このルールを踏まえ、CBPは最終的に8544.30.0000(Ignition wiring sets and other wiring sets of a kind used in vehicles, aircraft or ships)を選択しています。
さらに、この裁定では、中国原産で8544.30.0000に分類される場合、原則として追加25%関税(Chapter 99の9903.88.01)の対象となり得ること、申告時にChapter 99番号を併記する必要があることも明記されています。
ビジネス上の示唆
- スイッチ、ヒューズ、リレーを内蔵していても、必ずしも8536や8708に移るわけではなく、8544.30にとどまるケースがある。
- 分類は基本税率だけでなく、Section 301の追加関税の適用有無やコンプライアンスコストにも直結する。
- 設計段階から、部品構成と輸入時の状態を前提に、分類シナリオと追加関税シナリオをセットで検討する価値が高い。
5. 境界線を実務に落とす
判断軸は3つに絞れる
CBP裁定の積み重ねから見える「8544と8708の境界線」は、次の3つの軸に整理できます。
5-1. 軸1:全体として8544の説明に収まるか
HQ 955026では、ヒューズやリレー、ライトソケットなどが含まれていても、「電気の導通を補助する範囲」にとどまるとして、全体を8544.30.00に分類しました。
一方、HQ 088477では、監視モジュールやマイクロプロセッサ等、導通補助の域を超えた装置が相当量一体化している点が決定的であり、85.44の範囲から外れると判断されています。
5-2. 軸2:Section XVII注2(f)の門番を越えられるか
「Chapter 85にきちんと分類できる限り、8708は閉ざされる」というルール自体が非常に強力です。
したがって、8708を主張するのであれば、輸入時の状態の「全体」がChapter 85のいずれの見出しにも当てはまらないことを示す必要があります。
HQ 088477は、まさにこの構造で8708に到達した事例です。
個々の構成品はChapter 85で説明できるものの、全体としては特定の見出しの文言に合致せず、結果として8708.99.50が最も適切とされた、というロジックになっています。
5-3. 軸3:輸入時点で「完成品機能」を持っているか
特に照明系などでは、輸入時にどこまで完成しているかが重要です。
CBPは過去裁定において、GRI 2(a)の考え方を用いて、未完成品であっても、主要な構成要素を備えた灯具アセンブリを8512(自動車用照明・信号装置)で扱う方向に整理し、従前の一部ハーネス系裁定を修正・撤回したことがあります(HQ 954945など)。
要するに、「配線だから8544」「自動車に付くから8708」といった短絡ではなく、「輸入時点でどの機能がどこまで完成しているか」が分類を動かすということです。
6. 実務で使えるチェックリスト
分類検討の初動で、最低限そろえておきたい情報を、通関実務の観点から整理します。
6-1. A:製品定義を固める
- 導体は単線か、多芯ケーブルか、束線か。
- コネクタ、端子、ソケットの有無と種類(車両専用か、汎用か)。
- ヒューズ、リレー、スイッチ、モジュール類の有無。
- それらが「導通・配線を補助する機能」にとどまるのか、「監視・制御・診断などの独立機能」を持つのか。
- 輸入時点でランプや他の装置が同梱・取り付け済みか(分納の場合を含めて確認)。
6-2. B:資料の整備(監査・裁定取得に効く)
- 回路図・配線図、BOM(部品番号と数量)。
- 輸入時の状態が分かる写真、梱包形態。
- 機能説明書(何を制御し、何を監視し、どの信号・電力を処理するか)。
- 車両への搭載位置と接続先一覧(どのECU・モジュールと接続するか)。
6-3. C:リスクの見積もり
- 8544.30前提の設計でも、構成変更によりHQ 088477型(8708側)に「化ける」可能性がないか。
- 原産国が中国の場合、Section 301追加関税の適用可能性と、Chapter 99番号の併記運用を含めた管理フローが設計されているか(NY N326429は、分類判断と同時に追加関税管理を求めている)。
- 分類変更が価格・契約条項・原価計算・移転価格に与える影響を、あらかじめ試算しているか。
7. まとめ:境界線は「名称」ではなく「輸入時点の全体像」で決まる
ワイヤーハーネスを8708に入れる発想は自然ですが、HTSUSの構造上、Chapter 85に該当する限り、Section XVII注2(f)により8708は原則として閉ざされます。
CBPは、絶縁導体とコネクタを核とし、導通を補助する範囲の部品が付く程度であれば8544.30に分類し、8708を排除する判断をHQ 955026などで明確に示しています。
一方で、監視・制御モジュールやプロセッサ等を相当量抱え込み、Chapter 85のどれにも当てはまらないレベルの一体品となると、消去法により8708に到達する余地が生まれることも、HQ 088477が示す通りです。
そして近年でも、スイッチ・ヒューズ・リレーを備えた車両用配線ハーネスが8544.30に整理され、同時にSection 301追加関税の管理が求められる例(NY N326429)が存在します。
次のアクションとしては、社内で「導通補助の範囲」と「モジュール化している領域」を整理し、設計変更がその境界を越えるタイミングを検知できる体制を作ることが重要です。
そのうえで、金額インパクトの大きい品目については、CBPのバインディングルーリング(19 CFR Part 177)を活用し、分類と追加関税の両面で不確実性を減らすことが、費用対効果の高い打ち手になります。
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