2026年1月31日、世界税関機構(WCO)から、全世界の貿易実務者にとって極めて重要なマイルストーンとなる情報が発信されました。それは、2028年1月1日に発効する第8次HS条約改正(HS 2028)における、世界共通の6桁コードの変更内容が最終確定し、現行のHS 2022との相関表(Correlation Tables)のドラフト配布が開始されたというニュースです。
これは単なる事務連絡ではありません。2年後に迫った新ルールへの移行に向け、企業のシステム改修やマスタデータ更新のカウントダウンが正式に始まったことを意味します。
本記事では、今回確定した変更内容のポイントと、このニュースを受けてビジネスマンが今すぐ着手すべき準備について解説します。

HSコードの6桁が確定したことの重大な意味
貿易実務においてHSコードは世界共通言語ですが、厳密に世界で統一されているのは上6桁までです。それ以降の桁数は国ごとに自由に設定されます。今回、WCOが確定させたのは、この世界共通部分である6桁の構造です。
これが確定したということは、もはや議論のフェーズは終わり、実装のフェーズに入ったことを示唆します。これから2028年にかけて、日本、米国、EUなどの各加盟国は、この6桁をベースに自国の関税率表(9桁や10桁)を作成する作業に入ります。
企業にとって重要なのは、相関表(Correlation Tables)が提示された点です。これは、今のコードが将来どのコードに変換されるかを示す対照表であり、システム移行のための設計図そのものです。これが入手可能になったことで、IT部門や通関部門は具体的な影響範囲の特定が可能になりました。
今回の改正を貫く2つの主要テーマ
HS 2028の改正内容は多岐にわたりますが、ビジネスに直結する大きな潮流は環境とテクノロジーの2点に集約されます。
環境物品の可視化と循環経済への対応
もっとも大きな変更点は、環境関連物品の細分化です。これまでのHSコードでは、廃棄物やリサイクル原料は大雑把な分類しかされていませんでした。しかし、HS 2028では、使用済みプラスチック、電子廃棄物(e-waste)、そしてバイオ燃料などの分類が劇的に細かくなります。
これは、国境を越えるリサイクル資源の移動を管理しやすくするためであり、同時に環境物品への関税撤廃や、逆に環境負荷の高い物品への課税強化を行うための布石でもあります。サステナビリティを掲げる企業にとって、自社のリサイクル材がどの新コードに落ちるかは、コンプライアンス上の最重要確認事項となります。
新技術製品の独立分類
もう一つの柱は、急速に普及した新技術への対応です。例えば、ドローン、3Dプリンター、特定のAIハードウェア、次世代半導体素材などが、従来のその他分類から独立し、固有の場所を与えられます。
これにより、ハイテク製品の貿易統計が正確になると同時に、特定の技術製品を狙い撃ちにした関税設定や輸出管理が容易になります。該当製品を扱うメーカーは、関税率が変動するリスクを織り込む必要があります。
最大のリスクはFTA原産地規則との乖離
コードが変わることで最も警戒すべき実務上の落とし穴は、自由貿易協定(FTA/EPA)の原産地証明です。
多くのFTAでは、原産地規則(関税分類変更基準など)が、協定発効時の古いHSコードに基づいて定義されています。HS 2028が導入されると、通関申告は2028年版で行う一方、原産地判定は2017年版や2022年版のコードに変換して行わなければならないという、二重管理の状態が発生します。
WCOによる相関表の公開は、この変換作業を正確に行うための公式な定規が配られたことを意味します。この定規を使わずに感覚で変換を行えば、原産地規則の適用ミスによる脱税や事後調査での否認につながります。
企業が今すぐ開始すべき3つのアクション
2028年はまだ先だと思われるかもしれませんが、基幹システムの改修には年単位の時間を要します。以下の3つのステップで準備を開始することを推奨します。
影響分析の予算化とチーム組成
まず、自社が取り扱っている製品のうち、どの程度がHS 2028の影響を受けるかを洗い出す必要があります。今回配布された相関表を用いれば、コードが変わる品目のリストアップが可能です。IT部門と通関部門によるタスクフォースを立ち上げ、システム改修に必要な予算を来期の計画に盛り込む必要があります。
マスタデータのクレンジング
移行作業をスムーズにするためには、現状のデータが綺麗であることが大前提です。現在使用しているHSコードに誤りがないか、製品情報(成分、材質、用途)が最新の状態に更新されているかを確認してください。ゴミデータのまま新コードへ移行しようとすると、自動変換の精度が落ち、手作業の修正コストが膨れ上がります。
サプライチェーン全体への周知
自社だけでなく、海外のサプライヤーや現地法人に対しても、2028年改正に向けた準備を促す必要があります。特に、部品表(BOM)のHSコード更新は、サプライヤーからの情報提供がなければ完了しません。早期にアナウンスを行うことで、直前の混乱を避けることができます。
まとめ
WCOによるHS 2028の最終確定は、グローバルビジネスにおけるルール変更の合図です。
新しいコード体系は、環境配慮や新技術といった時代の要請を反映したものであり、これに適応できない企業は、通関の遅延や関税コストの増加というペナルティを支払うことになります。
相関表という地図は手渡されました。あとは、2028年1月1日というゴールに向けて、着実にシステムと業務を適合させていく実行力が問われています。
FTAでAIを活用する:株式会社ロジスティック
