企業にとって何が「確定」したのか
2026年1月21日、世界税関機構(WCO)は、国際貿易における品目分類の共通言語であるHS(Harmonized System)の次期改正となる「HS2028」について、改正が受諾され、2028年1月1日に発効することを公表しました。wcoomd+1
この改正は299セットの変更から成り、結果として見出しは1,229、号(6桁サブヘディング)は5,852となり、HS2022と比較して見出しが6追加・5削除、号が428追加・172削除という大規模な見直しです。wcoomd+3
HSは各国の関税率表と貿易統計の基盤であり、輸出入申告、関税コスト、各種規制の適用、社内品目マスタ、販売・収益分析など幅広い領域に影響します。wcoomd+2
今回のHS2028改正は、健康危機への備え、疫病対策、環境汚染・プラスチック廃棄物、サステナビリティ関連など、政策課題との接続を一段と強める内容となっており、企業にとっては「基盤データの大型アップデート」と位置づけるべきタイミングに入ったと言えます。linkedin+3
以下では、2026年1月21日の「受諾公表」が手続き上何を意味するのかを整理したうえで、HS2028の重要な改正領域と、企業が今すぐ始めるべき実務対応を解説します。

1. 2026年1月21日に何が起きたか
なぜ今が重要なのか
WCOは2026年1月21日のニュースリリースで、HS2028改正が正式に受諾されたこと、改正パッケージが確定したこと、および2028年1月1日に発効することを公表しました。wcoomd+2
この改正パッケージは、前述のとおり299セットの変更で構成され、見出し1,229、号5,852という新たな体系を形成します。linkedin+3
WCOは別途、HSが200以上の国・地域の関税率表および貿易統計の基礎として用いられていること、そして当該改正が全世界で2028年1月1日に発効する旨を繰り返し説明しています。omnitrans+1
したがって、影響は特定国や特定業界に限定されるものではなく、多数の国・地域に生産・販売拠点を持つ多国籍企業ほど、品目マスタの変更が連鎖的に波及することになります。wcoomd+2
2. 「勧告の採択」と「改正の受諾」
HS改正が確定するまでの手続き
HS改正は、HS条約(「商品の名称及び分類についての統一システムに関する国際条約」)にもとづき進められます。[wcoomd]
実務上ポイントとなるのは、次の3段階です。
2-1. WCO理事会による勧告(Council Recommendation)
HS条約第16条は、WCO理事会が締約国に対して改正を勧告できる旨を定めています。[wcoomd]
HS2028改正については、WCO文書NG0304Baの表紙に、2025年6月26日の理事会勧告に基づき受諾された改正であり、2028年1月1日に発効することが明記されています。linkedin+3
制度上の起点としては、この2025年6月26日の理事会勧告が「改正パッケージ」が形成された時点と位置付けられます。wcoomd+1
2-2. 異議申立て期間を経た「受諾」の成立
HS条約第16条第3項は、事務総長による改正の通報から6か月の間に締約国からの異議申立てが残っていなければ、その改正は受諾されたものとみなされる、と規定しています。wcoomd+1
この仕組みにより、理事会勧告後、通報から6か月間は締約国が異議を申し立てることができ、その期間経過時点で異議が残っていなければ「受諾成立」となります。ddcustomslaw+1
企業実務の観点では、改正が受諾され、条約上「確定した」時点で初めて、差分を前提とした詳細な影響分析や社内外の合意形成に進みやすくなります。wcoomd+1
2026年1月21日のWCO発表は、まさにこの「受諾が成立し、発効日に向けた実装段階に入った」ことを示す節目と言えます。freightnews+2
2-3. 発効日までの準備期間
HS条約第16条第4項は、事務総長による通報の時期に応じて、改正の発効日を、原則として通報の2年後または3年後の1月1日とする仕組みを定めています。[wcoomd]
WCOは、HS改正には実質2年半程度の実装期間が組み込まれており、うち約半年を締約国の異議申立て期間、残り約2年を新旧対応表(コリレーションテーブル)の整備、解説書の更新、翻訳、各国法令・ITシステムの改修、通関当局と取引当事者の教育訓練などに充てるという整理を示しています。[wcoomd]
つまり、企業側の準備に一定の時間を要することは制度設計上あらかじめ織り込まれており、「2年半のうち残り約2年」が実務上の準備期間として位置付けられていることになります。[wcoomd]
3. HS2028の重点改正
ビジネスに直撃しやすい3領域
HS2028の特徴は、従来以上に公衆衛生や環境保護などの政策課題に直結する粒度・定義が強化されている点にあります。linkedin+3
WCOは、健康危機への備え、疫病対策、環境汚染・プラスチック廃棄物、サステナビリティなどを反映した改正であると説明しています。wcoomd+2
ここでは、企業への影響が特に大きい3領域に絞って見ていきます。
3-1. 公衆衛生と緊急対応
ワクチンと医療物資の「見える化」
HS2028では、ワクチン分類が大きく再編されます。
WCOは、従来の見出し30.02に含まれていたワクチンを再構成し、人用ワクチンを扱う見出し30.07と、それ以外(獣医用など)を含む見出し30.08に分けることを示しています。linkedin+2
また、人用ワクチンを扱う30.07の下では、疾病ごと・組合せごとに細分化された多数の6桁号が導入されることが各種解説で紹介されており、全体としてワクチン貿易の可視性を高める構造になっています。linkedin+1
これは、緊急時の優先通関や関税軽減などの措置を制度化しやすくするとともに、COVID-19で顕在化したデータ不足の課題を踏まえ、ワクチンや医療機器の供給網をより精度高く設計できるようにする意図と説明されています。wcoomd+1
医療緊急対応物資についても、救急車や移動診療所、防護用フェイスシールドやマスク、パルスオキシメータや患者モニタ、吸引ポンプ、人工呼吸器などを対象とする新たな号が追加されることが紹介されています。linkedin+2
これにより、従来は他の号に吸収され統計上把握しにくかった緊急対応関連品目が、より明確にコードとして立ち上がる方向にあります。wcoomd+1
医療機器やヘルスケア製品を扱う企業にとっては、輸出入申告だけでなく、地域別の需給見通し、緊急時の供給計画、調達契約の条件設計など、サプライチェーン全体に影響が及ぶことになります。linkedin+2
3-2. サプリメントの新設見出し
食品と医薬の境界整理
HS2028では、サプリメント(dietary supplements)向けに新見出し21.07が設けられ、その適用範囲を定める新たな法的注(Notes)が導入されます。wcoomd+3
WCOは、この改正により、食品と医薬品の境界で長年続いてきた分類上の難しさを緩和し、法的確実性と統計の質を高める狙いがあると説明しています。wcoomd+1
サプリメント市場は、健康食品としての販売に加え、原材料供給、OEM製造、越境ECなど、多様なビジネスモデルが並行しています。
分類が揺れやすい領域ほど国ごとの解釈差や通関上の不確実性が大きくなり、輸出入停止や追加資料要求などのリスクが高まりがちです。wcoomd+1
見出し21.07の新設と法的注の整備は、こうしたグレーゾーンを制度面から整理し、各国で一貫した分類を促す試みと評価できます。wcoomd+1
3-3. プラスチック汚染と廃棄物管理
バーゼル条約との整合
環境分野では、プラスチック廃棄物の分類がバーゼル条約の枠組みに合わせて再編されることが、HS2028改正の大きな柱となっています。freightnews+2
WCOは、見出し39.15を再構成し、有害なプラスチック廃棄物、事前同意手続(PIC)の対象となるプラスチック廃棄物、その他のプラスチック廃棄物を区別する新たな6桁号を導入することを明らかにしています。freightnews+1
各種解説では、新設されるサブヘディングの一例として3915.40が示され、バーゼル条約のプラスチック廃棄物区分(Y48、A3210、B3011)との対応を明確化することで、当局による越境移動のモニタリングを容易にする狙いが説明されています。basel+2
規制対象の区分(バーゼル区分)とHSコードが近づくほど、企業にはコンプライアンス対応の精緻化が求められる一方、適正な品目管理を行う企業にとっては手続きや要件が明確になり、取引コストを抑えられる余地もあります。basel+2
さらに、プラスチック製品についても、汚染と関係が深い物品の可視性向上が図られます。
WCOは、ストロー、包装材、台所用品、手袋、綿棒(プラスチック棒付き)、風船、漁網・ネット関連など、環境汚染に関連しやすい品目群について新たな号や明確化を行うと説明しています。wcoomd+2
また、プラスチック関連章では「シングルユース」の概念が法的注として導入され、単回使用のプラスチック製品について、より一貫した分類とデータ収集が可能になるとされています。wcoomd+2
4. 経営に効く論点
HS改正は関税だけの話ではない
HS条約上、締約国はHSの見出し・号とその数値コードを用いて自国の関税率表および貿易統計表を整合させる義務を負い、6桁より下の細分(国別8桁、10桁など)は各国が任意に設定できます。[wcoomd]
したがって、国際6桁が変われば、各国の下位桁も原則として連動して見直されることになります。omnitrans+1
一方で、HSは品目分類の枠組みを定める条約であり、税率水準そのものを拘束するものではありません。
HS条約は、締約国が「関税率に関して義務を負うものではない」と明記しており、改正によって税率が自動的に変わるわけではありません。[wcoomd]
しかし、適用税率が紐づく「号」が変更されれば、結果として実効税率が上がる・下がる可能性があるため、企業は分類変更と税率影響を切り分けて検証する必要があります。omnitrans+1
さらにHSコードは、関税だけでなく、輸出入規制、許認可、検疫・安全規制、環境規制、統計・市場分析、社内の品目マスタ・収益管理などに直接関わっています。wcoomd+2
WCO自身も、HSを貿易規制の実装と国際貿易統計の基盤と位置付けており、企業としては「税金の話」に矮小化せず、広い意味でのコンプライアンス基盤として捉えることが重要です。wcoomd+2
5. 企業が今すぐ着手すべき実務
2026年からのロードマップ
改正発効まで約2年あるとはいえ、品目数が多い企業にとっては決して長いとは言えません。
WCOは、残りの実装期間においてコリレーションテーブルの作成や解説書更新、関連ツール整備などを行うと説明しており、企業はこれらの公表タイミングと整合させて社内移行計画を設計するのが現実的です。wcoomd+2
以下では、企業が2026年時点から着手しやすい実務ステップを整理します。
5-1. 影響範囲の特定
どの部門を巻き込むかを先に決める
最初のステップとして、関税・通関部門だけでなく、調達、物流、販売、経理、法務、品質保証、サステナビリティ、IT・マスタ管理などを関係部門として明確に定義します。
HS改正は品目マスタ変更と規制対応が同時並行で進むため、部門間で情報が分断されていると、誤分類や対応漏れが重大なリスクとなります。
5-2. 品目ポートフォリオの優先順位付け
全SKUを一度に精査するのは現実的ではないため、次の観点で重要度をスコアリングし、上位群から対応を始めると効率的です。
- 売上高・利益への寄与
- 輸入金額・関税コスト
- 通関件数・仕向け国数
- 規制該当品目(医療・化学・環境関連など)
- 過去のトラブル・問い合わせ履歴
5-3. コリレーションテーブルを前提にしたマスタ移行設計
WCOはHS2022とHS2028のコリレーションテーブルを整備する方針を示しており、HS改正ごとに同様のツールが提供されてきました。wcoomd+2
ただし、コリレーションテーブルは「自動変換ツール」ではなく、1対1で移行できるケースもあれば、統合や分割により企業側の判断が必要となるケースも含みます。[wcoomd]
したがって、コリレーションテーブルはあくまで出発点と位置付け、最終的なコード決定は、品名・用途・材質・規格など実際の仕様情報に基づく分類レビューで行う必要があります。
この前提で、ERPや通関システム、WMS、BIなどのマスタ構造をどう移行するかを、2026年の早い段階から検討しておくことが望まれます。
5-4. 国別実装タイムラインのモニタリング
HSは国際6桁が共通基盤ですが、実際の申告は各国の関税率表・統計品目表(8桁・10桁など)で行われます。omnitrans+1
各国は、WCO改正に合わせて国内法令およびシステムを改定するプロセスを進めます。
例として米国では、USITC(米国国際貿易委員会)がHS2028改正への整合を目的としたHTS改定プロセスを開始し、2025年8月11日のニュースリリースで、2026年2月に暫定案(preliminary draft modifications)を公表して意見募集を行い、同年9月に大統領向け報告書を提出する想定を明らかにしています。usitc+1
これは、主要国で既に国別実装作業が走り始めている具体例として、海外展開企業がタイムライン設計の参考にしうる情報です。usitc+1
5-5. 重要品目では先行して当局判断を取得する
分類は一定の解釈余地を伴う領域であり、特に税率差や規制有無が大きい品目については、移行後のコードをめぐる不確実性がリスクになります。
各国の事前教示制度(Binding Tariff Information等)や相談制度を活用し、主要品目については2028年の発効前に当局判断を得ておくことで、発効直後の混乱を最小化しやすくなります。
6. 社内で今日から使えるチェックリスト
以下は、経営層と実務担当が共通で使えるチェック項目です。
A. ガバナンス
- HS2028移行の全社責任者(オーナー)を決めたか
- 通関・財務・IT・サステナビリティ・事業部を含む横断プロジェクト体制を整えたか
- 分類変更・税率影響・価格改定などの意思決定フローを文書化したか
B. データとシステム
- 品目マスタの管理主体と変更手順が明確になっているか
- 取引先から必要な技術情報(材質・用途・規格・組成など)を収集できる仕組みがあるか
- ERP、WMS、通関システム、BIなどでHSコード情報が一貫しているか
- 過去統計との比較(旧HSと新HSのブリッジ)をどう設計するか方針を持っているか
C. コストとリスク
- 主要品目について、関税率表の変更に伴うコスト影響を試算する準備ができているか
- 輸出入規制・許認可・環境規制など、HSコード連動の法令を洗い出しているか
- 誤分類に伴う遅延・追徴・罰則・取引停止などの影響を定量的に把握しているか
D. 外部情報のウォッチ
- WCOが整備するコリレーションテーブルや解説書等のアップデートを定期的に確認する体制があるか。wcoomd+3
- 主要国(例:米国のUSITC)の関税率表改定プロセスと公表スケジュールを継続的にフォローしているか。usitc+1
7. 2026年1月21日は「準備開始の合図」
2026年1月21日のWCO発表は、HS2028改正が正式に受諾され、2028年1月1日の発効に向けて各国当局および企業が本格的な移行作業に入るべき段階に到達したことを示すものです。freightnews+3
改正は299セットという大規模なものであり、ワクチンや医療緊急対応物資、サプリメント、プラスチック汚染と廃棄物管理など、政策課題に直結する領域で粒度と定義が強化されています。linkedin+5
HS改正は、通関コストの最適化とコンプライアンス強化を同時に進めるチャンスである一方、準備が遅れれば2028年初頭に申告エラーや物流停滞、統計の断絶、規制違反リスクが一気に顕在化しうるイベントです。wcoomd+2
今の段階で求められるのは、全品目の結論を出し切ることではなく、影響範囲を「見える化」し、優先順位を付け、社内外の情報収集と意思決定プロセスを先に整えることです。wcoomd+1
WCOが想定する実装期間には限りがあります。
準備を早く始めるほど、損失を抑えつつ、改正を競争優位につなげる余地を広げることができます。wcoomd+2
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