環境、健康、安全保障で止まらないために企業が知るべき変化
2028年1月1日に発効するHS2028は、関税分類の更新という枠を超え、社会、環境、安全保障の観点で「特定品目を把握しやすくし、取締りやモニタリングをやりやすくする」方向性が明確に打ち出されています。EUの公式説明では、299セットの改正は貿易パターンや新技術の反映に加え、社会、環境、セキュリティ上の懸念に対応し、特定品目のコントロールと監視を容易にする目的を持つ、と整理されています。
WCOも、HS2028改正勧告パッケージがまとまり、2025年末に正式採択、2026年1月に公表、2028年1月1日に発効するタイムラインを示しています。(世界税関機関)
この記事では、規制や監視の対象になりやすい品目群で、HS2028が企業実務にどんな影響を与え得るかを、ビジネスマン向けに整理します。

1. なぜ「規制・監視目的の品目」がHS2028で影響を受けやすいのか
HSコードは、関税率を決めるだけの番号ではありません。輸出入許可、危険物や有害化学物質の管理、廃棄物規制、制裁や輸出管理、取引審査やリスク選別など、行政の判断トリガーとして広く使われます。
そのため、規制や監視の対象になりやすい品目ほど、HS側で区分を細かくして「見分けやすくする」メリットが大きく、改正の優先度が上がります。EUの説明でも、取締りや監視をしやすくするための改正として、プラスチック廃棄物やワクチン、健康関連グループなどが例示されています。
2. HS2028で起きやすい変化のパターン
規制・監視に効くHS改正は、企業側から見ると次の形で現れやすいです。
- 見出しや号の新設、細分化
対象品目を識別しやすくするため、区分を増やす動きです。ワクチンの粒度を上げる提案が典型例です。(WTO) - 注記や定義の追加
見分け方を明確にして、各国運用のブレを減らします。分類に必要な製品情報が増えやすい点が実務インパクトになります。 - 低取引量区分の整理
一方で、取引量の少ない見出しや号を削除して体系を簡素化する動きも併存します。統計や社内マスターの連続性を確保する工夫が必要になります。
3. 環境で取締り対象になりやすい品目群
廃棄物、有害化学物質、持続可能性関連
3-1. プラスチック廃棄物は代表格
HS2028の改正例として、プラスチック廃棄物は公式に挙げられています。
また、WCOの地域会合報告でも、HS2028改正のカテゴリーとして「プラスチック廃棄物」が言及されています。
企業目線では、廃棄物の区分が細かくなるほど、材質、混合状態、汚染の有無など、分類と規制判断に必要な証拠が増えると見ておくべきです。
3-2. 国際条約で管理される有害化学物質は、HSと連動が強い
有害化学物質や農薬を国際的に管理する枠組みの一つにロッテルダム条約があります。WCOは、HSが各改正でロッテルダム条約の対象物質の変化を反映し、正当な貿易の監視とPIC手続への適合確認を可能にする、と説明しています。(世界税関機関)
さらに、HS2028の発効を待つ間でも統計上の追跡を可能にするため、WCOは各国に対し、特定化学物質について国内統計品目で追加細分を設けるよう推奨しています。例として、デカブロモジフェニルエーテルをHS 2909.30の下、PFOAとその塩をHS 2915.90の下で細分する推奨が示されています。(世界税関機関)
ここは、化学品を扱う企業ほど影響が直撃しやすい領域です。税番の変更だけでなく、SDSや成分証明、用途説明などの整備が、通関と規制対応の安定性を左右します。
4. 健康で取締り対象になりやすい品目群
ワクチン、医薬品、パンデミック対応物資
4-1. ヒト用ワクチンは、より細かい識別へ
WTOの公表情報では、HS2028で「ヒト用ワクチン」の新見出しを設け、複数の区分を置く提案が進んでいるとされています。(WTO)
パンデミック時に、統計と政策判断のためにワクチン分類の粒度を上げたいという問題意識が背景にあり、企業側には品目マスターの再設計や、製品属性の整理が求められます。
4-2. 医薬品はコード変更より「分類運用の厳密化」が効いてくる
WCOはHS委員会の会合成果として、WHOのINNリストに基づく医薬品物質について多数の分類整理が行われたことを公表しています。(世界税関機関)
これはHS本文の改正とは別枠ですが、医薬品や関連物資が当局にとって重要な監視対象であること、そして分類の統一運用が強く求められている現実を示します。ビジネスでは、成分特定の証拠や品名管理を軽視すると、照会や差戻しのコストが増えやすくなります。
5. 安全保障で取締り対象になりやすい品目群
違法薬物製造関連、爆発物前駆体、デュアルユース
5-1. 違法薬物製造に使われる物質のトラッキング強化
WCOの会合報告を引用した地域資料では、HS2028改正のカテゴリーとして「違法薬物製造に用いられる物質」が挙げられています。
規制対象になりやすい化学品は、合法用途と違法用途が混在しやすく、HSの識別力が上がるほど、企業側には用途説明、顧客審査、出荷管理の厳密さが求められます。
5-2. 爆発物前駆体など、合法流通品の悪用がリスクになる
WCOは2025年の国際取締り作戦で、爆発物前駆体などのデュアルユース品が不正に転用され得ること、税関がリスク選別と監視で重要な役割を担うことを強調しています。(世界税関機関)
HS2028の直接改正項目そのものは別途確認が必要ですが、安全保障分野では「品目を特定しやすいHS区分」が、取締り実務の基盤になります。企業側は、輸出管理や制裁スクリーニングのルールがHS参照で組まれている場合、HS変更が誤検知や見逃しにつながる点に注意が必要です。
6. 企業が受ける実務インパクト
止まりやすいのは、通関ではなく社内の情報連携
規制・監視目的の品目は、HSの区分が細かくなるほど「説明できるデータ」が必要になります。しかも影響は関税部門だけに留まりません。
・輸出入許可、危険物、有害化学物質管理などの法令対応
・制裁、輸出管理、取引審査システムのルール更新
・ERPや品目マスター、統計分析の連続性確保
・取引先へのHS版指定と証拠要求の標準化
この連鎖を短時間で処理するには、HS2022とHS2028の対応表が鍵になります。WCOもHS2028とHS2022の相関表を整備し、実装のための重要ツールになると位置づけています。(世界税関機関)
7. いまからできる最小の準備
規制対象品目ほど、先に動いた企業が勝つ
- 規制、監視に紐づく品目を棚卸しする
環境、健康、安全保障のいずれかに関係する品目をリスト化し、現行HSと関連法令、社内ルールの紐付けを見える化します。 - 分類に効く属性情報を品目マスターに追加する
化学品は成分と用途、廃棄物は材質と混合状態、ヘルスケアは用途区分など、分類と規制判断の根拠になる情報を最小セットで整備します。(世界税関機関) - HS変更が効くシステムを先に特定する
制裁、輸出管理、危険物、許認可、物流制御、統計集計など、HS参照のルールが埋め込まれているシステムを洗い出し、相関表で一括更新できる構造にします。(世界税関機関)
まとめ
HS2028は、新技術対応だけでなく、社会、環境、安全保障の観点から、特定品目の取締りとモニタリングを強化する目的が明確に示されています。
プラスチック廃棄物、ワクチン、有害化学物質、違法用途に転用され得る化学品やデュアルユース品は、まさにその中心にある領域です。
企業にとっての勝ち筋は、番号が変わってから慌てるのではなく、規制対象品目から先に、証拠とデータ項目を整え、HS2022とHS2028を接続できる状態を作ることです。これが2028年の切替で止まらない最短ルートになります。
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