カナダ「鋼材派生品」に一律25%の追加関税:2025年12月26日施行の実務対応

要旨:
カナダ政府は、従来の鉄鋼素材(ミルプロダクト)への保護措置を下流製品(派生品)へと拡張しました。2025年12月26日より、建設用部材や金属製家具などを含む特定品目に対し、輸入相手国を問わず一律25%の追加関税(Surtax)が課されます。

項目内容
対象国全世界(※他措置との重複適用なし)
税率25%(輸入申告価額 VFDに対し課税)
施行日2025年12月26日
根拠Steel Derivative Goods Surtax Order

1. 規制の全体像:ターゲットは「素材」から「完成品・部材」へ

今回の措置の最大の特徴は、課税対象が鋼材そのものではなく、それを使用した「鋼材派生品(Steel Derivative Goods)」である点です。

カナダ政府は、建設用構造物、線材、ボルト・ナット、金属家具などを対象とする「特定リスト(HSコード指定)」を公表しました。これにより、サプライチェーンの下流工程にある完成品や部材が広く課税対象となります。

実務上の重要スケジュール

  • 2025/12/12:財務省が対象品目リスト(HSコード)および詳細を公表
  • 2025/12/26:追加関税(Surtax)の施行開始
  • ~2026/07/01:自動車・航空宇宙用途等に対する期限付き適用除外期間

2. 対象品目:日本企業が注意すべき「見落としがちなHSコード」

財務省が公表したリストは、建設・物流・設備保全で使用される鉄系完成品を広範囲にカバーしています。特に72類・73類(鉄鋼および鉄鋼製品)以外の品目が含まれている点に細心の注意が必要です。

主な対象カテゴリとHSコード例

  • 構造物・建材系
    • 橋梁、塔、ドア・窓枠、構造材(HS 7308)
    • プレハブ建築物(HS 9406)
  • ワイヤー・フェンス・金網
    • ロープ、ケーブル、有刺鉄線、金網(HS 7312~7314)
    • 鋼心アルミより線(HS 7614.10.00)※要注意(76類)
  • 締結部品・チェーン
    • ローラーチェーン等(HS 7315)
    • 釘、ボルト、ナット、ワッシャー(HS 7317~7318)
  • 家具・什器・その他
    • 金属フレームの椅子、オフィス家具、家具部品(HS 9401, 9403)※要注意(94類)
    • 照明器具の部品(HS 9405.99.00)
    • 建物用取付具・金具(HS 8302.41.90)
    • ばね(HS 7320)、その他の鉄鋼製品(HS 7326)

実務的示唆:
「鉄鋼製品(73類)だけを確認すればよい」という認識は危険です。83類(卑金属製品)や94類(家具・建屋)まで影響が波及するため、BOM(部品表)全体への網羅的なスクリーニングが不可欠です。


3. 課税ルール:計算式と優先順位

課税標準と計算式
追加関税は、対象品目の輸入申告価額(Value for Duty: VFD)の全額に対して25%が課されます。付加価値分のみへの課税ではないため、コストインパクトは甚大です。

計算式: Value for Duty × 25%

非積み上げ(Non-stackable)原則
本措置は他の貿易救済措置と重複して適用されません(二重課税の回避)。
例えば、既に「中国製鉄鋼へのSurtax」や「米国製アルミ・鉄鋼への報復関税」、「鉄鋼セーフガード(TRQ)超過分」の対象となっている貨物については、そちらの措置が優先され、今回の「派生品25%」は上乗せされません。


4. 適用除外(Exclusions)と救済措置

コスト増を回避するためには、以下の「除外要件」に該当するかどうかの判定と証憑確保が勝負となります。

自動的な適用除外(OIC明記)

  1. 他措置の対象品:前述の通り、他のSurtax等が適用される原産国の物品。
  2. 特例輸入(Chapter 98):カナダ関税率表第98類(旅行者携帯品や特定の戻り荷など)で輸入されるもの。
  3. 個人のカジュアル輸入:商業目的ではない個人輸入。

期限付き・用途限定の除外(~2026/7/1輸入分まで)
以下の特定産業用途に供される場合、一時的に除外されます。

  • 自動車産業:自動車、シャシー、部品・付属品の製造用。
  • 航空宇宙産業:航空機、宇宙船の機体および部品製造用。
  • 特定エネルギー案件:オンタリオ州/マニトバ州境以西向けの特定の風力タワー(7308.20.00)。

輸送中(In Transit)の特例
施行日(2025年12月26日)時点で、既にカナダに向けて輸送中であることが立証できる貨物は対象外となります。

減免(Remission)申請
国内調達が不可能であり、かつ関税賦課がカナダ経済に重大な悪影響を及ぼす場合、個別に減免申請を行う道(Remission process)が用意されています。


5. 日本企業への実務インパクトと対策

(1) コスト・価格転嫁への波及
鉄鋼メーカーだけでなく、機械メーカーや建設事業者への影響が避けられません。調達・営業・法務が連携し、Incoterms(DDP条件などの確認)や契約上の価格改定条項(サーチャージ条項)を見直す必要があります。

(2) HSコード分類精度の重要性
類似製品であっても、HSコードが少し異なるだけで「25%か0%か」が変わります(例:7308の構造物と判断されるか、機械の部分品と判断されるか)。分類の論拠を明確にした資料(Classification Rationale)の準備が推奨されます。

(3) コンプライアンスリスク
カナダ国境サービス庁(CBSA)は、関税回避を目的とした不適切なHSコード申告(品目ずらし)や、原産地・用途の虚偽申告に対する取締りを強化する方針です。


6. 施行直前チェックリスト(Action Items)

  1. [棚卸し] 対象HSコードの網羅的確認
    • 自社製品のSKUを、公表リスト(7308, 7318, 9403等)と照合する。
  2. [物流] 「輸送中(In Transit)」の証拠保全
    • 12/26をまたぐ船積みについて、B/L日付や積載証明など、CBSAが認める「輸送中」の定義に合致する書類を確保する。
  3. [証明] 用途除外のスキーム構築
    • 自動車・航空機用途(2026/7/1まで)の場合、輸入通関時にその用途を証明できるエンドユース・サーティフィケートや発注書の紐づけフローを確立する。
  4. [契約] コスト負担の明確化
    • 既存契約において、新規導入されるSurtaxを誰が負担するか(売主か買主か)を法的に確認し、必要に応じて顧客と交渉する。
  5. [例外] 減免(Remission)の検討
    • 代替調達不可のロジック構築や、業界団体を通じたロビーイングの必要性を検討する。

まとめ

今回の措置は、カナダ向けの輸出において「鉄鋼素材」だけでなく「鉄鋼を使った最終製品」へとリスクの軸足が移ったことを意味します。施行までの残り時間はわずかですが、「HS分類の適正化」「用途例外の活用」「契約条件の再確認」の3点を迅速に進めることが、貴社の利益とコンプライアンスを守る鍵となります。


 

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