2026年3月4日時点における、米国の輸入関税の国別状況

現行制度の構造(2026年2月24日以降)

2026年2月20日、連邦最高裁が6対3でIEEPA関税を違憲と判決(Learning Resources, Inc. v. Trump)。同日中にトランプ大統領がSection 122に基づく大統領令に署名し、翌21日に15%へ引き上げ、2月24日より施行されました。

Section 122 基本関税(輸入課徴金)
原則すべての輸入品に一律15%(2026年2月24日〜7月24日の150日間適用)。
※例外(除外品目 Annex II):USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)適格品のほか、エネルギー関連、重要鉱物、医薬品、民間航空機・同部品(全国共通のグローバル除外)、特定の電子部品、国内供給が不足する農産物・肥料などは15%の対象外。

Section 232 品目別追加関税(全国共通)
鉄鋼50%・アルミ50%・自動車(乗用車)25%・銅50%など。Section 122と重複せず、こちらが優先適用。なお、半導体および医薬品については「今後Section 232が発動される可能性がある」としてSection 122から除外されていますが、現時点では未発動です。

Section 301 追加関税(対中国など)
対象国向けには、Section 122の15%に上乗せして適用されます。

De Minimis(少額輸入免税)の停止
低価格の国際郵便・宅配貨物に対する免税措置は引き続き停止されており、これらにもSection 122の15%が課されます。


国別関税率一覧(アルファベット順)

国・地域2025年4月 相互関税(参考)IEEPA税率(〜2026/2/23)Section 122(現行 2026/2/24〜7/24)備考・特記
Australia10%10%15%
Bangladesh37%20%15%
Brazil10%10%15%
Cambodia49%19%15%
Canada25%(非USMCA)35%(非USMCA)/ 0%(USMCA)15%(非USMCA)/ 0%(USMCA)USMCA適格品は引き続き免除
China34%→145%フェンタニル20%+相互関税最大125%(合計最大145%)15%Section 301追加関税が別途上乗せ(実効税率は高止まり)
European Union20%15%15%鉄鋼・アルミはSection 232(50%)が優先
India26%25%15%一律15%化によりIEEPA時代から実質的な関税引き下げ
Indonesia32%19%15%
Israel17%15%15%
Japan24%15%15%自動車はSection 232優先、民間航空宇宙品はSection 122除外(全国共通)
Jordan20%15%
Kazakhstan27%15%
Liechtenstein37%15%15%スイスと同率
Malaysia24%15%
Mexico25%(非USMCA)25%(非USMCA)/ 0%(USMCA)15%(非USMCA)/ 0%(USMCA)2026年7月にUSMCAレビュー予定
Pakistan29%19%15%
Philippines17%15%
South Korea25%15%15%自動車・関連部品はSection 232が優先
Switzerland31%15%15%
Taiwan32%20%15%
Thailand36%19%15%
United Kingdom10%10%15%鉄鋼・アルミ・自動車で独自税率あり
Vietnam46%20%15%トランスシップメント(迂回)品には追加40%

品目別追加関税(Section 232・全国共通)

品目税率備考
鉄鋼・派生品(英国以外)50%
アルミ・派生品(英国以外)50%
自動車(乗用車)25%
銅・半製品50%
半導体(特定品目)未発動※将来的なSection 232発動を見据え、Section 122(15%)からは適用除外済
医薬品未発動※同上(Section 122からは適用除外済)


日本企業へのポイント

  • 除外品目(Exemptions)の精査: 航空宇宙品(民間機・同部品)、エネルギー関連、重要鉱物、医薬品などはSection 122の15%課税から全国共通で除外されています。自社製品が除外リスト(Annex II)に該当するかどうか、早急にHSコードベースでの確認が必要です。
  • De Minimis(少額免税)停止によるコスト増: 越境ECやBtoBの少額サンプル・部品輸送においても、免税枠の停止により15%の関税と通関手続きが発生します。物流・サプライチェーンのコスト見直しが急務です。
  • 時限措置(150日)と契約の見直し: Section 122の15%は2026年7月24日が法定上の期限です。政権は現在、150日の猶予期間中に新たなSection 301調査などを準備していると見られており、7月以降の税率も流動的です。今後の取引契約には必ず「税率変動条項(Tariff Clause)」を盛り込むことが必須となります。
  • USMCAルートの活用: USMCA対応のメキシコ・カナダ経由輸出は引き続き0%の優遇が維持されています。原産地規則を満たす形での現地生産・北米サプライチェーンの戦略的活用が、以前にも増して重要になっています。

免責事項

本レポートは情報提供のみを目的として作成されており、いかなる法的効力も持ちません。関税制度・貿易規制は予告なく変更される場合があります。記載内容は2026年3月4日時点のものであり、それ以降の制度変更を反映していない可能性があります。個別案件への適用可否については、必ず有資格の専門家および最新の公式情報源に基づいてご判断ください。本レポートを利用したことによって生じたいかなる損害についても、作成者は責任を負いかねます。

HS2028とFTA別PSRの基準差を読み解く

2028年に向けた原産地管理の実務ポイント

はじめに

HS2028への移行は、単なる品目番号の更新ではありません。多くのFTAやEPAの品目別原産地規則(PSR)は、協定本文や附属書で参照するHSの版が固定されているため、通関実務で使う最新HSと、PSR評価で参照すべきHSの版がズレることがあります。ズレを放置すると、原産性判定の誤り、優遇税率の取りこぼし、事後検証での説明負荷に直結します。 (税関総合情報)


1. HS2028は何が変わるのか

HS2028は2028年1月1日に発効する

WCO(世界税関機構)は、HS2028がHS(品目分類)の第8版として2028年1月1日に発効するとしています。 (世界 Customs Organization)

改正規模は大きく、分類の再設計が含まれる

WCOによれば、HS2028の改正は299セットの改正から成り、体系としては1,229の項(heading)と5,852の号(subheading)になると説明されています。HS2022と比べて、新設・削除も含む構造的な変更が行われるため、品目番号の読み替え(転記)が実務上不可避になります。 (世界 Customs Organization)

企業実務に効く、HS2028の注目ポイント

HS2028は、特定分野で分類の切り直しが示されています。例としてWCOは、ワクチンの分類を見直し、従来30.02に含まれていたものを、人用ワクチンとそれ以外で別の項に再分類する構造変更を挙げています。また、栄養補助食品については新しい項(21.07)を設け、プラスチック廃棄物の分類(39.15)もバーゼル条約の区分に整合させる方向で再構成するとしています。 (世界 Customs Organization)

2028年までに相関表が整備される見込みだが、協定の転記とは別問題

WCOは、HS2022とHS2028の相関表(correlation tables)の作成や解説書類の更新を進める方針を示しています。これは分類移行の強い助けになりますが、FTAやEPAのPSRが自動的にHS2028に切り替わることを意味しません。協定側でPSRの転記や運用変更が決まらない限り、原産性判定は従来版HSを参照するケースが残ります。 (世界 Customs Organization)


2. PSR基準差はなぜ起きるのか

基準差の正体は3層ある

現場で起きる「基準差」は、だいたい次の3層で発生します。

1層目:協定が参照するHSの版の違い
同じ品目でも、協定ごとにHS2012、HS2017、HS2022など参照版が異なることがあります。 (税関総合情報)

2層目:PSR設計の違い
PSRは、関税分類変更(CC、CTH、CTSH等)、付加価値基準(RVCや非原産材料割合の上限)、特定加工工程など、複数タイプが組み合わさって規定されます。協定によって、同じ産品でも採用する条件が異なり得ます。

3層目:転記(transposition)の時期差
HS改正に合わせてPSR表を新HSへ転記する作業は、協定ごとに進捗と適用時期が異なります。よって「ある協定はすでにHS2022」「別の協定はHS2017のまま」といった状態が同時に起きます。

日本の実務で特にややこしい点:申告HSと協定HSは一致しないことがある

日本の税関サイトは、EPA等のPSR検索に関して「入力したHSコードと協定が採用しているHS版が異なると、検索結果に誤りがある場合がある」旨を明示しています。さらに「輸入通関申告の際には最新のHSコードを使用する」旨も記載されています。
つまり、申告は最新HS、PSR判定は協定HS、という二重運用が起き得る前提で設計しないと事故になります。 (税関総合情報)


3. 協定別に見る「PSRが参照するHS版」の現在地

ここでは、HS2028を見据えて影響を受けやすい「協定の参照HS版」と「転記の実績・状況」を、根拠資料ベースで整理します。

RCEP:PSRはHS2022に転記済み、ただし例外的にHS2012が残る領域がある

RCEPのPSR(品目別規則)は、HS2022に転記されたPSRが2022年6月30日に採択され、各締約国が2023年1月1日から実施すると明記されています。
一方、日本の経済産業省は、2023年1月1日以降の日本の原産地証明ではPSRはHS2022版を使うが、協定第2.6条第3項に基づきRCEP原産国を決定するための附属書I付録については、HS2022に変換された付録の最終版が通知されるまでHS2012版を継続適用すると説明しています。
RCEPは「すでにHS2022へ完全移行」と思い込みやすいですが、用途や条項により参照HSが混在し得る、という点が重要です。 (経済産業省)

AJCEP:附属書2(PSR)をHS2017へ更新し、2023年3月1日発効

日本の外務省は、AJCEP協定の附属書2(品目別規則)をHS2002ベースからHS2017ベースへ更新する改正であり、改正附属書2が2023年3月1日に発効する旨を公表しています。 (外務省)

日インドネシアEPA:附属書2(PSR)をHS2017へ更新し、2024年2月5日発効

外務省は、日インドネシアEPAの附属書2(PSR)改正について、HS2002ベースからHS2017ベースへ更新することが主目的であり、改正附属書2は2024年2月5日に発効するとしています。 (外務省)

日EU・EPA:PSR表はHS2017ベースで整理されている

日本税関が公開している日EU・EPAのPSR(Annex 3-B)資料では、PSR表の見出しとして「Harmonized System classification (2017)」が示されています。HS版が明示されているため、HS2028時代には「申告HS2028」と「PSR評価用のHS2017」の橋渡しが必要になります。

日英EPA:Annex 3-A/3-B等がHS2017(2017年1月1日改正のHS)ベース

日英EPAの附属書(Annex 3-A)では、Annex 3-A、Annex 3-B、Annex 3-Cが「2017年1月1日に改正されたHSに基づく」と明記されています。日英も、HS2028への移行局面では協定側転記の有無を確認しながら運用する必要があります。

CPTPP:PSR(Annex 3-D)はHS2012ベース、転記は段階的に議論・合意が進む

CPTPP(TPP11)のPSR(Annex 3-D)は、表の見出しとしてHS Classification (HS2012)が明記されています。 (ニュージーランド外務貿易省)
そのうえで、CPTPPの委員会文書では、PSRをHS2012からHS2017へ転記する作業について、メンバーが転記に同意したことが示されています。ただし、改訂されたHS版をどう採用するかのプロセスは未解決で、次回以降も議論する旨が記載されています。 (国際問題カナダ)
さらに、別の委員会文書では、HS2017からHS2022への転記案が検討され、提案された変更の多くが暫定確認された一方で、一部は追加議論が必要とされています。
また、2022年時点の文書では、HS2012からHS2017の転記作業の残課題の整理や、将来的なHS2022実装時期の見通し(理想として2024年1月開始)などが議論されていたことが分かります。

ここから言えるのは、CPTPPは転記の方向性が進んでいるものの、企業側は「いつ、どの版を、どの手続で」使うのかを公的情報で都度確認しながら運用設計する必要がある、ということです。


4. HS2028で現場が詰まりやすいパターン

パターン1:HS改正でコードが分割され、PSR条文が見当たらない

HS2028では、ワクチンや栄養補助食品、プラスチック関連などで構造的な再分類が示されています。こうした分割・新設が起きると、申告用の新HSコードでPSR表を引いても、協定側のPSR(旧HSベース)に該当行が存在しない、という検索上の違和感が発生しやすくなります。 (世界 Customs Organization)

パターン2:同じ製品でも協定ごとに満たすべきPSRが違う

たとえば、ある協定ではCTH(4桁変更)で足りるのに、別の協定ではRVC条件もセット、あるいは特定工程条件が必要、ということが起こり得ます。PSRは協定附属書で規定され、要件の種類(関税分類変更、加工工程、非原産割合、域内価値割合など)が明示されています。

パターン3:社内外の証憑が「HS版違い」で混在し、監査対応が難しくなる

取引先から受け取る原材料明細やサプライヤー申告書がHS2017表記、社内ERPの品目がHS2022表記、輸入申告が最新HS表記、という具合に、証憑が版違いで並ぶことがあります。税関側も「協定が採用しているHS版で検索すべき」と明示しているため、版違いを説明可能な形で証憑体系を整えることが重要です。 (税関総合情報)


5. 2026年からの実務ロードマップ

(本稿執筆時点は2026年3月)

ステップ1:協定ごとに「PSRの参照HS版」を棚卸しする

まず、対象協定ごとにPSRがどのHS版に基づいているかを棚卸しします。税関の注意書きのとおり、協定のHS版を外すと検索や判定の誤りが起き得ます。 (税関総合情報)
最低限、次の管理項目を持つだけで事故率が下がります。

・協定名
・PSRの参照HS版(HS2012、HS2017、HS2022など)
・参照版の根拠資料(条文・附属書・政府公表)
・自社運用の適用開始日(自社の判定基準日)

ステップ2:マスターデータに「申告HS」と「協定HS」を分けて持たせる

実務上は、次の2つを分離して管理する設計が現実的です。

・通関申告用の最新HSコード(日本の申告要件に合わせる) (税関総合情報)
・協定別のPSR判定用HSコード(協定が採用する版に合わせる) (税関総合情報)

HS2028移行期は、申告HSが更新されても協定のPSRが直ちに転記されない可能性があるため、この分離が効きます。 (世界 Customs Organization)

ステップ3:相関表と転記情報が公表されたら、影響分析を自動化する

WCOはHS2022とHS2028の相関表整備を進める方針を示しています。相関表が出てから慌てないために、以下を先に決めておきます。 (世界 Customs Organization)

・自社品目ごとに、HS改正で分割・統合されそうな領域を抽出する
・分割が起きた場合に、どの根拠資料で新コードへ割り当てるかのルールを決める
・協定別に、PSRが転記された場合の差分検知(ルール変更か、単なる番号読み替えか)を分けて扱う

ステップ4:原産地証明の根拠書類を「HS版込み」で保全する

PSRの根拠は、材料表、工程表、原価資料、仕入書類など複数にまたがります。CPTPPに関する日本税関のガイドラインでも、PSRを満たすための証憑例(材料表、工程表、原価資料など)が示されています。 (税関総合情報)
HS2028移行期は、同じ品目でもHS版が違うと説明が通りにくくなるため、保全時に次の一言を必ず付ける運用が現場で効きます。

・この資料のHSコードは、どの版に基づく表記か
・PSR判定に用いた協定と、参照したPSR表のHS版は何か
・相関表を使ったなら、どの相関表で、どう読み替えたか


6. まとめ

HS2028は2028年1月1日に発効予定で、改正規模も大きく、分類の切り直しが含まれます。 (世界 Customs Organization)
一方で、PSRは協定ごとに参照するHS版が異なり、転記や適用開始の時期も揃いません。さらに日本の実務では、申告は最新HS、PSR判定は協定HSという二重運用が起き得ることが明示されています。 (税関総合情報)

だからこそ、HS2028対応は「分類担当だけの仕事」にせず、原産地管理の仕組みとして、協定別に参照HS版を持つ、相関表で読み替えた痕跡を残す、という運用設計に落とし込むことが最短ルートになります。



免責事項

本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の取引、品目分類、原産性判定、申告手続についての法務・税務・通関上の助言を構成するものではありません。実際の適用にあたっては、最新の協定本文・附属書、税関・関係当局の公表資料、並びに必要に応じて専門家の助言をご確認ください。

米裁判所が「90日先延ばし」を認めなかった意味  トランプ関税の還付局面で、企業実務が一気に動き出す


米連邦最高裁は2026年2月20日、トランプ政権下で国際緊急経済権限法(IEEPA)を根拠として課された一連の追加関税について、IEEPAは大統領に関税を課す権限を与えていないとする判断を、6対3の賛否で示しました。これを受け、企業の関心は「違法なら返金されるのか」から「いつ、誰に、どの手続きで返るのか」へ移っています。

その分岐点になったのが、米政府が求めた「返金手続きの開始を90日止めたい」という要請を、米連邦巡回控訴裁(Federal Circuit)が3月2日に認めなかったことです。ここで重要なのは、返金が確定したという話ではなく、返金の制度設計を具体化する手続きが前に進み、国際貿易裁判所(CIT)で実務の詰めが始まりやすくなった、という点です。

本稿では、ニュースの見出しだけでは見えにくい論点を、資金繰りと実務オペレーションの視点で整理します。


1. 何が決まったのか

争点は返金の是非ではなく、返金手続きを動かすタイミング

今回の判断で焦点になったのは、還付そのものを改めて判断することではありません。Federal Circuitはすでに原告勝訴の判決を確定しており、最高裁もそれを支持しました。その後、確定した判決をCITが実施段階に移せる状態にするための正式命令(マンデートの発行)を、政府の希望どおり90日遅らせるかどうか、それだけが問われました。

Federal Circuitは、政府側が求めた「マンデート発行の停止」を全員一致で認めず、CITでの救済枠組みの設計が直ちに動き出す流れを維持しました。企業から見ると、制度設計の議論が先送りされにくくなった、という意味を持ちます。

ただし注意点があります。前に進むことと、早期入金は別です。最高裁は返金方法・対象・計算・利息・手続きの一本化については具体的な指示を出していません。一方で、トランプ政権は最高裁判決以前から「判決で違法とされれば、利息付きで返金する」と繰り返し確約しており、返金そのものは既定路線に近い状況です。ここから先は、CITでの枠組み整理と行政実装の成否が、現金化の速度を左右します。


2. 最高裁判決のポイント

IEEPAに関税賦課権限はない、という整理が企業実務の前提になる

最高裁が示した骨格は、「IEEPAは大統領に関税を課す権限を与えていない」という点です。今回の対象は、①薬物密輸対応を名目に課したカナダ・メキシコへの25%、中国への10%関税と、②貿易赤字対応の「相互関税」として全貿易相手国に課した最低10%(一部はより高率)の関税の、いずれも含みます。これにより、IEEPAを根拠とした当該関税は法的な根拠を失いました。

一方で、企業側が誤解しやすいのは「関税が永久に消える」と決め打ちしやすいことです。米国の通商制度には、Section 232(国家安全保障)やSection 301(不公正貿易慣行)など、別の法律に基づく関税措置のルートが存在します。したがって、還付を見込む局面でも、将来の政策変更や別根拠での関税再導入リスクを織り込んだ、価格・契約・サプライチェーン設計の見直しは引き続き課題として残ります。


3. なぜ還付が簡単に終わらないのか

米国の通関構造と当事者のねじれがボトルネックになる

返金の設計役がCITになる理由

最高裁が返金の具体策を提示していない以上、実務としてはCITが関係当事者の主張を踏まえ、返金の枠組みや手続きを整理していくことになります。返金実現までには「違法判断」の次に「返金の実装設計」という別の難所が残る構図です。

輸入者が多すぎる問題

最高裁判決後、FedEx、Revlon、Costcoをはじめとする大企業から中小企業まで、CITへの提訴が急増しています。対象者が巨大になるほど個別処理では回らず、一定の標準化が必要になりますが、その標準化自体が争点になり得ます。

記録上の輸入者と実際の負担者が一致しない問題

還付は原則として、通関上の当事者、すなわちCBP上の「記録上の輸入者(Importer of Record)」を起点に進みます。しかし実務では、次のようなねじれが起きがちです。

  • 米国子会社・販売代理店・3PL、場合によっては顧客側が記録上の輸入者になっているケース。日本本社が実質的に負担していても、書類上の主体が異なると、返金の入口に立てません。
  • 関税コストを価格やサーチャージで転嫁していた場合。返金が実現すると、帰属をめぐって取引先との精算問題が発生し得ます。契約条項だけでなく、取引実態と説明の整合が問われます。

4. 企業が今すぐやるべき実務

還付は「待つ」ではなく「取りに行く」準備が勝負

ここから先は、法務・通関・会計・営業の横断プロジェクトになります。裁判所の動きを注視しながら、社内の基礎データと権利関係を先に固めることが重要です。

4-1. 対象エントリーの棚卸しを最優先で終える

どの輸入申告で当該関税を支払ったかを確定させます。最低限、以下の情報を紐づけて管理できる状態にします。

  • 輸入申告番号・輸入日
  • 輸入品目・課税価格・税率・支払税額
  • ブローカー情報・インボイス・B/Lなどの証憑
  • 取引契約書・価格条件・関税サーチャージの有無

これがないと、還付の入口に立てないだけでなく、監査対応や取引先精算に支障が生じます。

4-2. 記録上の輸入者を確定し、社内の意思決定ラインを整理する

輸入者が米国子会社の場合、日本本社側でデータを即時に引き出せる体制を作ります。稟議や承認フローが国内に閉じていると、米国側の期限や手続きに間に合わなくなるリスクが高まります。

4-3. キャッシュフローはレンジで管理し、業績見通しに単線で織り込まない

政府は利息付き返金を確約していますが、返金の実行は手続きの設計と実装次第です。資金繰りや業績予想は、早期回収シナリオと長期化シナリオの両方で持ち、金融機関との与信枠や運転資金を含めて手当てします。

4-4. 会計と開示は、結論待ちにしない

返金見込みを資産として認識できるかは、不確実性と回収可能性の評価が必要です。社内での主な論点は以下のとおりです。

  • いつの時点で回収可能性を評価できるか
  • 過去に費用計上した関税を、どの範囲で戻し得るのか
  • 重要性が高い場合の注記やリスク開示をどうするか
  • 取引先精算が絡む場合、実質的な自社取り分はいくらか

ここは監査人や会計アドバイザーと早めに擦り合わせるべき領域です。

4-5. 清算前か清算後かで手続きが変わり得る

米国の通関実務では、エントリーが清算(liquidation)される前後で選択肢が変わることがあります。対象エントリーの状態を把握し、どのルートで動くべきかを整理しておくと、後から慌てずに済みます。


5. 日本企業が特に注意すべき落とし穴

米国側の書類と契約条項が整っていないと、還付が「権利の渋滞」になる

日本企業にとって最大の落とし穴は、通関上の主体が米国子会社にあり、契約や価格転嫁のルールが日米間で整合していないまま、還付局面に入ってしまうことです。返金が見えてから慌てて契約を見直すと、取引先やグループ内で「誰の金か」が争点となり、回収に時間がかかります。

これを避けるには、社内で以下の順番を徹底することが有効です。

  1. 通関データの確定
  2. 記録上の輸入者と実質的負担者の特定
  3. 契約条項と実態の突合
  4. 取引先精算方針の決定
  5. 会計処理と開示の整合

まとめ:このニュースが示す実務メッセージ

  • 90日先延ばしが認められず、CITでの返金枠組み設計が前に進みやすくなった。
  • トランプ政権は利息付き返金を繰り返し確約しているが、返金の具体的方法・時期は今後のCITでの整理次第。
  • 企業側の勝負どころは、通関データと権利帰属の確定・契約精算・会計開示を横断して「回収できる状態」に先行して整えること。

出典・参考資料

本文の事実関係は、下記の一次資料および主要報道、実務解説を突き合わせて確認しています。


免責事項: 本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、法務・税務・会計・投資その他の専門的助言を提供するものではありません。個別の取引や手続きについては、必ず弁護士、通関士、税理士、公認会計士等の専門家にご相談ください。記載内容は執筆時点の公開情報に基づいており、今後の法令改正、裁判手続きの進展、行政運用の変更等により内容が変わる可能性があります。本記事の内容に基づいて被ったいかなる損害についても、筆者および当サイトは一切の責任を負いません。