EUにおけるHSコード事前教示制度

EUにおけるHSコード事前教示制度の実務ガイド

EUでは品目分類についてBTI(Binding Tariff Information:品目分類の拘束的事前情報)、原産地について**BOI(Binding Origin Information:原産地の拘束的事前情報)と呼ばれる事前教示制度が整備されています。法的根拠はUCC(Union Customs Code:EU関税法、規則952/2013)**で、2019年10月1日以降はEU Customs Trader Portalを通じた電子申請が義務化されました。

運用主体と公式URL

運用主体:各EU加盟国の税関当局がBTI/BOIを発給します。申請はEU Customs Trader Portal(eBTI)経由で行います。

主要リンク

  • 欧州委員会BTI概要・申請ガイド(TAXUD)
  • BTI公開データベース(EU全加盟国の決定を検索可能、機密情報を除く)
  • 各国税関サイト(ルクセンブルク、アイルランド、フィンランド等が詳細な実務案内を提供)

申請から裁定までのプロセス

1. 申請者・提出先

申請者は自社の所在する加盟国、または決定を使用する予定の加盟国の税関に対し、EU Trader Portal上で申請します。EORI番号(EU共通の経済事業者登録識別番号)が必須です。

2. 申請方法(電子提出)

EU Customs Trader PortalからeBTIにログイン→申請フォーム入力→裏付資料(写真、図面、組成データ等)を添付→送信。

3. 受理判断

税関は申請受領後30日以内に受理可否を判断し、申請者に通知します。受理日が以後の法定審査期限の起算点となります。

4. 裁定の発出

受理日から120日以内にBTI/BOIを発給します。審査に追加情報や分析が必要な場合、最大30日の延長が認められます(BOIについても同様)。

5. 通関での使い方

申告書の所定欄に文書コードC626とBTI/BOI番号を記載します。BTI/BOIは申請者(保有者)のみが使用でき、全EU税関を拘束します(同一の事実・条件に限る)。


申請に必要な情報

BTI申請では、品目の詳細な技術情報を提供する責任が申請者にあります:

  • 品目の用途・機能・構造・作動原理
  • 材質・組成(重量%)、製造工程
  • 図面・写真・カタログ・取扱説明書、必要に応じサンプル
  • 申請者の分類見解(CN8桁/HS6桁)と法的根拠(GIR、部注、類注)
  • EORI番号および連絡先

BOI申請では、製造工程、投入材の内訳、適用する原産地規則、証憑など、原産判定に必要な全情報を添付します。

原則:1申請=1品目(分類に影響しない軽微な差異のみを束ねることが可能)。


処理期間

  • 受理まで:30日以内
  • 裁定まで:受理日から120日以内(必要に応じ最大30日延長)

有効期間と拘束力

有効期間:原則3年(BTI・BOI共通)。

早期失効・取消:法改正、CN・HS改訂、EU裁判所判決、WCO勧告等により、有効期間内でも失効・取消されることがあります。

経過措置(延長使用):失効・取消となった場合でも、既存の拘束的契約に基づく取引に限り、最大6か月の使用継続が認められる場合があります。


費用

発給手数料:無料。ただし、サンプル分析・専門鑑定・返送等の実費は申請者負担となり得ます。


実務上の重要事項

公開データベース:BTI決定は公開DBで検索可能(機密部分を除く)。先例調査に有用です。

申告義務:BTI/BOI番号(C626)を申告書に必ず記載。保有者本人またはその代理人のみ使用可能です。

適用範囲:申請時の事実関係と同一貨物が前提。仕様変更・工程変更時は再検討が必要です。

不受理の典型例:仮想案件(実需の裏付けがない)、同一事案が既に係属中、情報不足。

不服申立・手続保障:UCCに基づき、不利益処分前の聴聞権(right to be heard)および二段階以上の不服申立の権利が保障されています。

申請先の選択:自社所在国が通常ですが、決定を使用する加盟国に出す選択肢も規定されています。

最近の動向BVI(Binding Valuation Information:評価の拘束的情報)制度が2027年12月1日から導入される予定です(EU規則2024/1071および2024/1072)。将来的に分類(BTI)/原産(BOI)/評価(BVI)の三位一体運用が実現します。


申請準備チェックリスト

  1. EORI登録:未取得なら先に登録
  2. 技術資料の整備:用途・機能/構造/組成%/工程+写真・図面・カタログ
  3. 申請単位の確認:1申請=1品目(同質品の束ね方を検討)
  4. スケジュール管理:30日(受理)+120日(審査)を逆算。照会・分析が入ると延びるため余裕を確保
  5. 先例検索:BTI DBで類似品を確認(他社のBTIは自社を直接拘束しない点に注意)
  6. 通関運用の準備:C626+BTI/BOI番号の記載漏れ防止、同一性(仕様不変)チェック、失効・取消時の6か月猶予の可否判断

主要根拠法令・ガイダンス

  • 欧州委員会(TAXUD):BTI/BOI概要、eBTI申請方法、審査枠組み(2025年2月改訂版公表)
  • 各国税関公式案内:EU Trader Portal提出、EORI要件、C626記載、3年有効等
  • BOIガイダンス:3年有効、120日以内の発給
  • UCC(規則952/2013)第34条:有効期間と経過措置(最大6か月の延長使用)
  • 費用:発給無料、分析等の実費は申請者負担

(確認日:2025年10月15日)