(ビジネスレポート/2025年10月30日)
エグゼクティブサマリー
2025年は、C/O発給体制の再編と税関の原産地審査プロセスの明文化により、原産地詐称や迂回輸出(トランシップメント)対策が強化されました。発給と審査の両方でデジタル化(eCoSys)とリスクベースの監視が進んでいます。
- 発給体制の一元化: VCCI(ベトナム商工会議所)のC/O発給権限は4月21日付で撤回され、MOIT(工業貿易省)傘下に一元化されました。企業は移管後の手続きや窓口への対応が急務です。
- 税関審査の強化: 税関は決定467/QD-CHQ(4月29日)で原産地の検査・確認手順を公表。通関時および事後調査での原産地検証の頻度と深度が増加しています。
- 対外リスク(米国): 米国向け輸出の迂回判定が強化され(違反時最大40%課税の可能性が示唆)、ベトナム政府は企業に対し原材料の来歴管理を強く要請しています。高リスク品目(家具、電機、金属など)への監視が厳格化しています。
- 国内表示規制: 国内表示規制(Decree 111/2021:原産国表示の適正化)の運用も徹底され、偽装「Made in Vietnam」への取り締まりが常態化しています。
1. 2025年に何が起きたか(主な出来事と日付)
- 4月10日: MOITが原材料の原産地・来歴管理強化を業界団体・企業に要請(Official Letter 2515/BCT-XNK)。
- 4月15日: MOITが指令09/CT-BCTを発出し、原産地詐称や不正C/Oの抑止を指示。
- 4月21日: 決定1103/QD-BCTにより、VCCIのC/O発給およびREX登録権限を撤回し、MOIT傘下に集約(5月5日以降、VCCIでの発給停止)。
- 4月29日: ベトナム税関が決定467/QD-CHQを公布。原産地の検査・確認手順(通関時・事後調査、リスク評価)を明確化。
- 5月13日~6月15日: 首相電文65/CD-TTgに基づき、国家反密輸・偽造品対策委員会(389委員会)が原産地詐称の全国一斉取締キャンペーンを実施。
- 7月1日: MOIT通達40/2025/TT-BCTが発効。C/O発給手順と輸出者の自己申告承認の枠組みを明確化(eCoSys経由)。
- 9月23日: 「ベトナム産の認定基準」整備に向けた検討が公表(国内制度の明確化)。
- 10月: 政府・389委員会が原産地規則のさらなる強化を発表。偽装「Made in Vietnam」による対外的な通商問題化を回避する方針を再確認。
2. 取締の柱(制度 × 運用)
A. C/O発給の一元化とデジタル化 VCCI権限の撤回により、MOITへの集約で審査基準の統一と不正抑止を図る体制が整備されました。 eCoSys(電子C/Oシステム)の機能が強化され、リアルタイム検知、データ連携、審査ログの可視化が進んでいます。地方レベルでの手続き運用も一体的に整備される見込みです。
B. 税関の検査・事後調査の明文化(決定467) Circular 33/2023/TT-BTCを基に、通関時審査と事後監査で原産地検証を強化。高リスク品目・企業を重点的に選定します。 審査はリスクベースで実施され、申告書・C/Oの整合性、BOM(部品表)・製造工程、RVC(地域価値含有率)/CTC(関税分類変更)適合性を多角的に確認します。
C. 表示(ラベリング)規制の厳格運用 Decree 111/2021により、原産国表示は真実で正確、関連法令と整合するものが義務付けられています。輸出入品にも適用され、「Made in Vietnam」の濫用は摘発対象です。
D. 対外要因:米国のトランシップメント規制強化 米国向けの不正迂回認定で最大40%課税の可能性が示唆され、家具・電子・金属製品が監視対象となっています。ベトナム政府は企業に原産地管理の強化を指示しています。
3. 高リスク品目・典型的シグナル
- 高リスク品目: 電機・家電、繊維・履物、自転車、木製家具、鉄鋼、太陽電池関連。
- 典型的シグナル:
- 対米向けC/O申請の急増
- 輸入原材料の急増と輸出の連動
- 加工工程の軽微さ
- RVCが閾値近辺
- サプライヤ変更の頻発
- 当局はeCoSysや税関データでこれらを捕捉可能となっています。
4. 実務影響(日本企業・在越サプライヤー)
- EU向け(EVFTA): EUR.1の発給・運用はMOIT主導。6,000ユーロ以下の小口は原産地宣言が可能ですが、裏付け資料の整備が不可欠です。
- 米国向け(非FTA): 実質的変更(Substantial Transformation)の立証負担が増大。実務ではRVC40%超を目安に工程の実質性を文書化する動きが広がっています(法定要件ではなくリスク低減策)。
- アジア向け(RCEP/ATIGA等): C/Oの電子化と事後検証が強化され、生産工程・原材料のトレーサビリティ説明を求められるケースが増加しています。
5. 90日アクション・プラン(すぐやる運用強化)
0–30日(初期対応)
- C/O発給窓口の変更対応(eCoSys設定、社内フロー刷新、委任状・印章管理)。
- 原産地責任者(Origin Officer)の任命と社内教育(EVFTA/EPA、Circular 33の要点)。
31–60日(体制整備)
- コスト入りBOMと原材料来歴(証跡)の整備:仕入先宣言、サプライヤの階層トレース、RVC計算の定型化。
- 高リスク製品のモック審査(C/O申請書類と実態の突合、工程の実質性メモ作成)。
61–90日(運用・定着)
- 事後調査対応キット(チェックリスト)の完成と、半期ごとの内部監査の定例化。
- ラベル表示・梱包仕様書のDecree 111/2021整合性確認。
6. 税関・当局に提示できる「原産監査パック」最低限セット
- 製品別BOM(コスト入り)、RVC計算表、適用原産地規則(CTC/RVC/PSR)の根拠。
- 製造工程フローチャート(要所の付加価値と加工内容)。
- サプライヤ宣言・原産証憑(上位原材料までの来歴)。
- C/O申請ログ(eCoSys)、過去の問合せ・差戻し記録。
- 出荷書類一式(インボイス、BL、パッキング)と検品・品質記録。
- 表示(ラベル)設計書・写真(Decree 111/2021整合)。
- 対米向け追加資料: 「実質的変更メモ」(工程の実質性、主要部材の出所、比較表)。
7. よくある論点
- Q:VCCIでC/Oが取れなくなった?
- A: 4月21日付で権限が撤回されました。今後はMOIT(輸入輸出局)と委任先が発給します。eCoSys経由の申請に統一されます。
- Q:検査は何が厳しくなる?
- A: 決定467に基づき、通関時審査と事後監査で原産地検証が強化されます。C/O・BOM・工程の一貫性、RVC/CTCが重点です。
- Q:EVFTAでの自己申告は?
- A: 6,000ユーロ以下は原産地宣言が可能です。それを超える場合はEUR.1が原則となります(ベトナム側は自己認証の全面適用を未通知)。
8. 主要法令・公表物(出所)
- 決定467/QD-CHQ(2025年4月29日):原産地の検査・確認手順(税関)。
- Circular 33/2023/TT-BTC:輸出入品の原産地決定の一般ルール。
- 決定1103/QD-BCT(2025年4月21日):VCCIのC/O発給権限撤回。
- 通達40/2025/TT-BCT(2025年7月1日発効):C/O発給手順・自己申告承認。
- Decree 111/2021(ラベリング):原産国表示の適正化。
- 対外環境の要点(米国):原産地詐称・迂回対策強化の動き。
9. 直ちに見直すべき内部統制(チェックリスト)
- C/O発給権限移管後の社内RACI(責任分担)。
- eCoSysアカウント・権限(申請/承認/監査ログの分離)。
- BOM・工程・表示の一貫性監査(月次)。
- 高リスク製品の四半期ごとのモック審査(対米・対EUは別立て)。
- サプライヤに対する来歴証憑SLAと抜取監査。