米国相互関税(Reciprocal Tariff:2025年10月11日現在)

2025年10月11日現在

凡例

  • 関税率:相互関税としての追加率(MFN税率に上乗せ)
  • 出所:Annex I = 2025年7月31日EO Annex I、個別EO = 国別大統領令
  • 備考:特則(別枠関税・合意・上書き等)

主要国・地域(アルファベット順)

国名関税率出所備考
Afghanistan(アフガニスタン)15%Annex I
Algeria(アルジェリア)30%Annex I
Angola(アンゴラ)15%Annex I
Bangladesh(バングラデシュ)20%Annex I
Bolivia(ボリビア)15%Annex I
Bosnia & Herzegovina(ボスニア・ヘルツェゴビナ)30%Annex I
Botswana(ボツワナ)15%Annex I
Brazil(ブラジル)50%Annex I + 個別EO重要:10%(相互関税)+ 40%(2025年7月30日EO)= 合計50%。8月6日発効。694品目が除外(鉱物・エネルギー・基礎金属・肥料・パルプ等、2024年ブラジル輸出の約44%相当)。スタッキング適用(Section 232除く)。10月5日までに入港した積込前貨物は10%のみ適用。
Brunei(ブルネイ)25%Annex I
Cambodia(カンボジア)19%Annex I
Cameroon(カメルーン)15%Annex I
Canada(カナダ)*35%北部国境EO別枠:2025年7月31日の北部国境EOで25%→**35%**へ引上げ(8月1日発効)。USMCA原産品は0%、エネルギー・カリ(potash)は10%。相互関税10%の一般規定より別枠が優先(重複課税回避の調整規定あり)。
Chad(チャド)15%Annex I
China(中国)*10%(暫定)→130%予定中国特則EO重要変更:2025年5月12日の合意EOで国別上乗せを停止し10%に一本化。8月11日のEOで11月10日まで延長確定しかし10月10日にトランプ大統領が追加100%関税を発表(現行30%+100%=合計130%)、11月1日または早期発効予定。Section 301関税・フェンタニル20%関税等は別途スタッキング。
Costa Rica(コスタリカ)15%Annex I
Côte d’Ivoire(コートジボワール)15%Annex I
DR Congo(コンゴ民主共和国)15%Annex I
Ecuador(エクアドル)15%Annex I
Equatorial Guinea(赤道ギニア)15%Annex I
EU(欧州連合)品目別:MFN<15%は差額上乗せで15%に、MFN≧15%は追加0%Annex IEU枠組み合意の実装通知(Federal Register 2025年9月25日)あり。品目のColumn 1 Duty Rateが15%未満なら差額を上乗せして合計15%、15%以上なら相互関税の追加は0%。
Falkland Islands(フォークランド諸島)10%Annex I
Fiji(フィジー)15%Annex I
Ghana(ガーナ)15%Annex I
Guyana(ガイアナ)15%Annex I
Iceland(アイスランド)15%Annex I
India(インド)*50%Annex I + 個別EO重大変更:Annex Iでは**25%だったが、2025年8月6日のEO(「Addressing Threats to the US by the Government of the Russian Federation」)により、ロシア産石油の間接輸入を理由に追加25%**を課し、**8月27日から合計50%**に引上げ。Section 232関税(鉄鋼・アルミ・銅等)を除き、既存関税とスタッキング。インド政府は「不当・不合理」と反発。
Indonesia(インドネシア)*19%Annex I
Iraq(イラク)35%Annex I
Israel(イスラエル)15%Annex I
Japan(日本)*15%日米合意EO2025年9月4日の実施EO(EO 14345)で15%に確定(自動車も15%)。半導体・医薬品はMFN(最恵国待遇)確保(将来の第三国優遇も自動追随)。過徴収分のリファンド(返還)も規定。
Jordan(ヨルダン)15%Annex I
Kazakhstan(カザフスタン)25%Annex I
Laos(ラオス)40%Annex I
Lesotho(レソト)15%Annex I
Libya(リビア)30%Annex I
Liechtenstein(リヒテンシュタイン)15%Annex I
Madagascar(マダガスカル)15%Annex I
Malawi(マラウイ)15%Annex I
Malaysia(マレーシア)19%Annex I
Mauritius(モーリシャス)15%Annex I
Mexico(メキシコ)*25%南部国境EO別枠:南部国境EOで非USMCA原産品に25%USMCA原産品は0%、一部potash等10%)。7月31日に相互関税30%案の90日猶予が公表されたが、10月11日時点では別枠25%が継続。
Moldova(モルドバ)25%Annex I
Mozambique(モザンビーク)15%Annex I
Myanmar(ミャンマー)40%Annex I
Namibia(ナミビア)15%Annex I
Nauru(ナウル)15%Annex I
New Zealand(ニュージーランド)15%Annex I
Nicaragua(ニカラグア)18%Annex I
Nigeria(ナイジェリア)15%Annex I
North Macedonia(北マケドニア)15%Annex I
Norway(ノルウェー)15%Annex I
Pakistan(パキスタン)19%Annex I
Papua New Guinea(パプアニューギニア)15%Annex I
Philippines(フィリピン)19%Annex I
Serbia(セルビア)35%Annex I
South Africa(南アフリカ)30%Annex I
South Korea(韓国)*15%Annex I7月31日発表で15%確定(8月7日発効)。ただし自動車の15%引下げは未実装(日本は9月16日実装済み)。書面合意は未完了、投資パッケージ(3,500億ドル)の条件交渉が継続中。
Sri Lanka(スリランカ)20%Annex I
Switzerland(スイス)39%Annex I
Syria(シリア)41%Annex I
Taiwan(台湾)20%Annex I
Thailand(タイ)19%Annex I
Trinidad & Tobago(トリニダード・トバゴ)15%Annex I
Tunisia(チュニジア)25%Annex I
Turkey(トルコ)15%Annex I
Uganda(ウガンダ)15%Annex I
United Kingdom(英国)*10%Annex IG7サミット(6月30日)で貿易協定署名・実装。Annex Iに**明示的に10%**として掲載。Section 232(鉄鋼・アルミ)は25%維持(EPD運用に応じ調整可能性あり)。
Vanuatu(バヌアツ)15%Annex I
Venezuela(ベネズエラ)15%Annex I
Vietnam(ベトナム)20%Annex I
Zambia(ザンビア)15%Annex I
Zimbabwe(ジンバブエ)15%Annex I
その他Annex I非掲載国10%一般規定Annex Iに掲載されていない国・地域は、EO 14257の一般規定により**一律10%**の相互関税が適用(8月7日発効)。

重要注記

1. EU(欧州連合)の品目別課税方式

Annex I本文の規定により、品目の現行MFN税率(Column 1-General)が15%未満なら差額を上乗せして合計15%15%以上なら相互関税の追加は0%。2025年9月25日のFederal Register通知で実施要領が確定。

2. 日本の最恵国待遇(MFN)条項

7月23日の枠組み合意→9月4日のEO(EO 14345)で包括的に**15%へ。半導体・医薬品は「常に最も低い関税率を自動適用」**の条項を確保し、将来の第三国優遇があっても自動的に最安税率へ引下げ。過徴収分のリファンド(返還)も規定。

3. 中国の急速な情勢変化

  • 11月10日まで:10%で延長確定(8月11日EO)
  • 10月10日発表:トランプ大統領が追加100%関税を発表(現行30%+100%=合計130%)。11月1日または早期発効予定。中国の稀土類輸出規制強化への報復措置。
  • 注意:Section 301関税(7.5%または25%)、フェンタニル20%関税、MFN税率は別途スタッキング可能。

4. インドへの懲罰的関税

2025年8月6日のEO「Addressing Threats to the US by the Government of the Russian Federation」により、**ロシア産石油の間接輸入を理由に追加25%**を課し、8月27日から合計50%(25%+25%)に引上げ。インド政府は「不当・不合理(unjustified and unreasonable)」と反発し、「自国の国益を守るため必要な措置を講じる」と表明。今後、他のロシア産石油輸入国にも同様の措置が検討される可能性。

5. ブラジルの高率関税

Annex Iの10%に加え、2025年7月30日のEO「Addressing Threats to the US by the Government of Brazil」で**+40%**を課し、合計50%(8月6日発効)。米国デジタルプラットフォーム企業へのコンテンツ削除要求・ユーザーデータ提供要請を「検閲」と見做した措置。694品目が除外(鉱物・エネルギー・基礎金属・肥料・パルプ・紙・化学品・民間航空機用品等、2024年ブラジル輸出の約44%相当)。主要農産物(肉類・コーヒー・果物・砂糖等)は対象。

6. カナダ・メキシコの別枠制度

カナダ:北部国境EOで25%→35%(8月1日発効)。USMCA原産品は0%、エネルギー・カリは10%。

メキシコ:南部国境EOで非USMCA原産品に25%USMCA原産品は0%。7月31日に相互関税30%案の90日猶予が公表されたが、現時点では別枠25%が継続。

7. 韓国の実装遅延

IEEPAの15%は8月7日発効済みだが、自動車・部品の15%引下げは未実装(日本は9月16日実装済み)。書面合意は未完了、3,500億ドル投資パッケージの資金形態(現金vs融資・保証)を巡る協議が膠着。韓国自動車メーカーは25%関税により、8月の対米輸出が前年比15.2%減少。

8. 実務上の適用ルール

  • 発効日:8月7日午前0時1分(EDT)以降の消費引取り・保税引取り貨物に適用。
  • 積込前貨物の経過措置:8月7日前に船積み完了し、10月5日までに米国第一港に到着した海上貨物は、旧税率(一般10%)を適用。
  • トランスシップメント(迂回輸出):CBPが迂回輸出と判断した貨物には40%の懲罰的関税を課し、原産国関税との重複適用、罰金・ペナルティ(19 USC 1592等)も併科。CBPは6ヶ月ごとに迂回輸出に利用された国・施設リストを公表。
  • スタッキング(積上げ)原則:相互関税は原則として他のIEEPA関税・AD/CVD・MFN税率と積上げ可能。ただしSection 232関税(鉄鋼・アルミ・銅・自動車等)とは積上げ不可(調整規定あり)。

9. CBP実務ガイダンス

CSMS(Cargo Systems Messaging Service)「Reciprocal Tariff Updates Effective August 7, 2025」で、HTS 9903見出し新設、国別申告要領、原産地証明、スタッキング計算等の実務を提示。


10月9日→10月10日の差異

中国の重大変更:10月10日、トランプ大統領が追加100%関税を発表(現行30%+100%=合計130%)。11月1日または早期発効予定。これにより、中国の注記を「10%(11月10日まで延長)」から「10%(暫定)→130%予定」に更新する必要があります。

その他の国・地域では、10月9日〜10月10日にかけて相互関税率を変更する新たな大統領令・官報告示・CBPガイダンスは確認されませんでした。木材のSection 232プロクレメーション(9月29日公表、10月14日発効)は「相互関税と重複しない(除外)」規定を含みますが、相互関税率そのものは不変です。


主要一次情報出所

  1. 相互関税Annex I(最新版):2025年7月31日EO「Further Modifying the Reciprocal Tariff Rates」(Annex I)
  2. EU実装告示:Federal Register「Implementing Certain Tariff-Related Elements of the U.S.–EU Framework…」(2025年9月25日)
  3. 日本:2025年9月4日EO「Implementing The United States–Japan Agreement」(EO 14345)
  4. 中国:2025年5月12日EO「Modifying Reciprocal Tariff Rates to Reflect Discussions with the PRC」および8月11日延長EO、10月10日の追加100%関税発表
  5. インド:2025年8月6日EO「Addressing Threats to the US by the Government of the Russian Federation」
  6. ブラジル:2025年7月30日EO「Addressing Threats to the US by the Government of Brazil」
  7. カナダ:2025年7月31日EO「Amendment to Duties to Address the Flow of Illicit Drugs Across Our Northern Border」
  8. CBP実務:CSMS「Reciprocal Tariff Updates Effective August 7, 2025」

韓米総合関税協議の現在地と日米合意との対比分析(2025年10月11日現在)

日本企業の競争戦略への示唆

エグゼクティブサマリー

韓米は7月31日に15%関税で枠組み合意したものの、実装は深刻に遅延しており、日本との競争格差が拡大しています。IEEPA一般関税の15%は8月7日に発効済みですが、自動車の15%引下げは未実装のまま25%が継続し、韓国自動車メーカーの対米輸出は8月単月で前年比15.2%減少しました。一方、日本は9月5日の大統領令署名により9月16日から自動車15%を適用開始し、競争優位を確立しています。半導体・医薬品では、日本がMFN(最恵国待遇)を正式確保したのに対し、韓国は「他国より不利にしない」との口頭表明に留まり、法的確約が未了です。10月31日-11月1日の慶州APEC首脳会議前に安全保障パッケージでの打開を模索していますが、3,500億ドル投資の資金形態(現金vs融資・保証)を巡る対立が解消されず、為替への波及懸念も残存しています。


時系列比較:韓米vs日米(2025年7月-10月)

日付韓米日米
7月23日枠組み合意発表:15%関税、自動車15%、5,500億ドル投資
7月31日枠組み合意発表:15%関税、自動車15%、3,500億ドル投資+1,000億ドルエネルギー
8月1日韓国政府「書面合意は未完了」と説明
8月7日IEEPA 15%発効(自動車は25%継続)
8月28日李大統領・トランプ大統領会談、共同声明なし(懸案未解決)
9月5日トランプ大統領が大統領令(EO 14345)に署名
9月16日韓国大統領府「協議停滞」発表自動車15%関税の適用開始
9月27-28日米側が「前払い」要求、韓国側は「一括支払い不可能」と反論
10月1日為替非ターゲティング共同声明(スワップ含まず)
10月11日現在自動車25%継続、投資条件交渉中実装完了、MFN確定

主要論点の日韓対比スコアカード

論点韓国の現状日本の現状日本企業への示唆
ベース関税(IEEPA)15%発効済(8/7)15%確定・実装済(9/16)同水準だが、日本は法的安定性で優位
自動車・部品(Section 232)25%継続(15%未実装)15%実装済(9/16~)日本車に10%の競争優位:韓国車は月間4,000-7,000億ウォンの追加コスト負担
半導体・医薬品「他国より不利にしない」(口頭表明)MFN正式確保(将来の第三国優遇も自動追随)日本メーカーは将来の関税引下げリスクをヘッジ済み、韓国サプライヤーは価格競争で不利
鉄鋼・アルミ・銅50%継続(対象外)50%継続(対象外)同条件
投資パッケージ3,500億ドル(造船1,500億、半導体等2,000億)+エネルギー1,000億ドル、資金形態で対立5,500億ドル(融資・保証・出資上限枠)、実装工程明確日本モデルは米政府が投資委員会で監督、利益配分も規定済み
為替非ターゲティング共同声明(スワップなし)市場決定原則再確認、過度のボラティリティ時のみ介入日本は既存の介入枠組みを維持
法的文書書面未完了(8/1時点)**大統領令(EO 14345)**発効日本は執行可能な法的枠組みを確保

セクター別実務インパクト(日韓競争の観点)

自動車・部品

韓国の苦境:Hyundai・Kiaは25%関税により、Hyundaiは月間4,000億ウォン(約2.9億ドル)、Kiaは3,000億ウォンの追加コストを負担し、8月の対米輸出は前年比15.2%減少しました。韓国政府は年末までの15%実装を目指していますが、9月時点の専門家見解では「年内適用は困難」との見方が優勢です。

日本の優位確立:トヨタ・ホンダ・日産は9月16日から15%関税が適用され、韓国車との価格競争で実質10%の構造的優位を獲得しました。日本の大統領令(EO 14345)では、従来のMFN税率(乗用車2.5%)に補足関税を加えた形で一律15%とする「包括的(inclusive)」運用が明確化されています。

実務アクション

  • 韓国向けサプライヤーは、顧客が25%前提で価格設定している間に、15%実装後の価格再調整条項を契約に盛り込む必要があります。
  • 日本メーカーとの競合製品は、10%の関税差を織り込んだ競争力分析の再実施が必須です。

半導体・医薬品

日本のMFN確保の実質的意味:日本は「将来のSection 232関税において、日本製半導体・医薬品は他のいかなる国に適用される税率をも超えない」との条項を9月の共同声明で確保しました。これは、例えば台湾が5%で合意した場合、日本も自動的に5%へ引下げられる仕組みです。

韓国の不透明性:韓国は商務長官Lutnickが7月31日に「他国より不利にしない(not be treated any worse than any other country)」と発言しましたが、書面合意が未了のため、法的強制力がありません。

実務アクション

  • 日本の半導体・医薬品メーカーは、将来の第三国優遇があっても自動追随するため、長期契約での価格フォーミュラに「MFN連動条項」を組み込めます。
  • 韓国サプライヤーと取引する日本企業は、韓国側が将来の関税引下げを享受できない可能性を織り込み、代替調達先の確保が推奨されます。

素材(鉄鋼・アルミ・銅)

日韓ともに50%の232関税が継続適用され、同条件です。電池・半導体用素材のコスト上振れは構造化しており、米国内調達への再設計が共通課題です。

エネルギー

韓国は米国産LNG/LPG等の1,000億ドル購入を約束しましたが、為替・物流コストの複合リスク管理が前提です。日本は年間70億ドルのエネルギー購入を約束しており、韓国の規模は日本の約14倍となります。


韓国交渉の停滞要因と日本との決定的相違

1. 投資パッケージの資金形態

韓国の対立点:米側は「前払い(up-front payment)」を要求し、トランプ大統領は9月27日に「3,500億ドルを支払えないのか」と発言しました。韓国大統領府は「一括現金支払いは不可能で、融資・保証中心になる」と反論し、膠着しています。

日本の成功モデル:5,500億ドルは「投資・融資・融資保証の上限枠」として設定され、9月4日のMOU(覚書)で利益配分(米政府に有利)、投資委員会(商務長官が議長)、2029年1月までの実施期限を明記しました。現金vs融資の配分問題は構造化により回避しています。

2. 実装スケジュールの明確性

韓国:7月31日の発表後、書面合意が未了のまま8月1日に韓国政府が「書面なし」と公表し、自動車関税の実装時期も未定です。

日本:7月23日の発表後、9月5日に大統領令署名、9月16日に自動車関税適用開始と、45日間で法的実装を完了しました。

3. 安全保障とのリンケージ

韓国は10月31日-11月1日の慶州APEC首脳会議前に、防衛費分担増額(GDP比3.5%への引上げ)、使用済み核燃料の再処理・ウラン濃縮制限緩和(123協定の改定)を含む安全保障パッケージで打開を図っています。韓国外相は「安全保障では大筋合意済み、関税交渉が遅れても個別発表する可能性」と述べており、交渉の分離を示唆しています。


直近90日のウォッチリスト(優先順位順)

  1. 韓国自動車15%の実装時期:大統領令・官報公示のタイミングが韓国車の価格競争力を直接規定します。年内実装は不透明であり、2026年への越年リスクも存在します。
  2. APEC首脳会議(10月31日-11月1日)での成果:李大統領・トランプ大統領の二国間会談で、安全保障パッケージの先行発表または全体合意のブレークスルーが焦点です。
  3. 3,500億ドル投資の条件確定:現金比率、融資・保証比率、利益配分(米側は「利益の90%は米国民へ」と発言)、投資監督メカニズムの詳細が、為替への波及や財政負担に直結します。
  4. IEEPA関税の司法判断:最高裁審理の帰趨により、15%の法的根拠や適用継続性が変動するシナリオがあります。
  5. 半導体・医薬品への新規関税:トランプ大統領は9月26日にブランド医薬品への100%関税を示唆しましたが、日本のMFN条項により15%上限が適用される見込みです。韓国の扱いは不透明です。

日本企業の戦術的アクションプラン

対韓国競合製品

  1. 自動車・部品:韓国車との競合モデルは、10%の関税差を活用した価格戦略または追加装備での差別化を検討します。韓国サプライヤーからの調達は、15%実装後の価格変動条項を必須とします。
  2. 半導体・医薬品:日本はMFN確保により将来の関税引下げリスクをヘッジ済みです。韓国製との競合では、関税の不確実性を強調し、長期契約での価格安定性を訴求できます。

米国市場戦略

  1. 価格設定:対米見積は「IEEPA 15%前提」を基本とし、自動車は「韓国15%実装前後の二本立て単価」を用意します。
  2. 契約条項:関税エスカレーター条項、MFN連動価格調整条項、Section 232追加品目への対応条項を標準化します。
  3. サプライチェーン再設計:232の50%素材(鉄鋼・アルミ・銅)は米国内加工または第三国原料置換で関税負担を分離します。

情報収集体制

  1. 官報監視:自動車・半導体・医薬品関連の大統領令、商務省規則、CBP実施ガイダンスの常時モニタリングを制度化します。
  2. 韓国動向の追跡:韓国の15%実装日、APEC首脳会議の成果、投資パッケージの確定内容が、日本企業の競争優位の持続性を左右します。

参考:制度的背景

KORUS FTAとの関係:韓米は本来KORUS FTA(2012年発効)で大半の関税を撤廃済みですが、2025年のIEEPA/Section 232による上乗せ関税が上書きしています。KORUS FTAとの整合性や議会承認要否は未解決の論点です。

日本の実装モデルの優位性:7月23日の枠組み合意→9月5日の大統領令署名→9月16日の実装完了と、政治決着から制度実装までの導線が明確であり、MFN条項確保も競争上の決定的差異です。


主要情報源

  • 韓米7月31日発表(15%・投資・エネルギー):Reuters, White House
  • 韓国「書面未了」(8/1):Reuters
  • 米国議会調査局(CRS)報告書(韓米・日米):Congress.gov
  • 韓国自動車輸出減少(8月):Chosun Ilbo, Donga Ilbo
  • 日本MFN確保(9月):Japan Times, Reuters
  • 韓国APEC安全保障戦略(10月):Anadolu Agency, Yonhap
  • 日本大統領令(EO 14345):White House, AFS Law

米国鉄鋼・アルミニウム関税(Section 232)の現状と企業対応の包括的整理(2025年10月11日現在)

2025年10月11日 アップデート

エグゼクティブサマリー

2025年3月12日に全世界一律25%へ再拡大されたSection 232関税は、6月4日に原則50%へ倍増され、8月には407品目の派生品が追加されました。英国のみ米英経済繁栄取引(EPD)により25%を暫定維持していますが、7月9日以降の見直し条項が付帯されています。ロシア原産アルミニウムには200%の懲罰的関税が継続適用され、含有価額ベースの二行申告とメルト&ポア/スモルト&キャストのISO国コード報告が義務化されています。


現段階での制度状況

関税率の推移と国別取扱い

2025年3月12日発効:全世界一律25%へ統一され、EU・日本・韓国・カナダ・メキシコ・英国の代替取決め及びTRQ(無税枠)が一括終了しました。商務省(BIS)の製品除外プロセスも停止され、一般承認除外(GAE)は3月11日24時をもって失効しています。

2025年6月4日発効:鉄鋼・アルミニウム及び派生品の関税率が50%へ倍増されましたが、英国のみEPD(5月8日署名)に基づき25%を維持しています。大統領布告では、商務長官が7月9日以降、英国のEPD遵守状況に応じてTRQ設定または50%への引上げ権限を有すると規定されています。

ロシア産アルミニウム:2023年3月のProclamation 10522により設定された200%の追加関税が継続適用されています。さらに、2025年6月28日以降、スモルト&キャスト原産国が不明または特定不能な派生アルミニウム製品にも200%関税が適用される運用が開始されました。

適用品目の大幅拡大

派生品の範囲拡張:商務省BISは2025年8月18日、407のHTSUS品目を新たに追加し、Chapter 72/73(鉄鋼)及びChapter 76(アルミニウム)以外の完成品・部材への適用を拡大しました。追加品目には風力タービン、モバイルクレーン、ブルドーザー、鉄道車両、家具、コンプレッサー、ポンプなど産業機器・消費財が含まれます。

含有価額課税の導入:派生品については、鉄鋼・アルミニウム含有部分の価額に対してのみ50%関税を適用し、非金属部分には相互関税(Reciprocal tariff、現行10%)が適用されます。この二重課税構造により、企業はBOM(部品表)精度の向上が必須となっています。

自動車部品の追加プロセス:2025年9月17日、商務省は乗用車・軽トラック向け自動車部品をSection 232対象に追加するための暫定最終規則を公表しました。国内自動車・部品メーカーまたは業界団体が、年4回(1月・4月・7月・10月)の申請期間に追加要請を提出でき、ITA(国際貿易管理局)が60日以内に判断します。


申告実務とコンプライアンス要件

二行申告の義務化

CBPは、派生品の鉄鋼・アルミニウム含有価額と非金属部分を別行で申告する二行仕立て(Two-line entry)を義務化しました。

第1行(非金属部分):Chapter 1-97の通常HTSコード、総申告価額から金属含有価額を控除した金額、製品全体の数量、相互関税・AD/CVD等の適用関税を記載します。

第2行(金属含有部分):同一HTSコード、金属含有価額、数量ゼロ(製品数)、Section 232関税(HTS 9903.81.91等)、金属重量(kg単位)を記載します。金属含有価額が不明または申告価額と同一の場合は、全額に対して232関税を適用し、一行申告となります。

メルト&ポア/スモルト&キャスト報告

鉄鋼:メルト&ポア(溶解・注湯)が行われた国をISO国コードで報告する義務があります。派生品の場合は、原鋼のメルト&ポア国または「OTH」(その他)を記載します。

アルミニウム:スモルト&キャスト(製錬・鋳造)国をISO国コードで報告します。ロシア由来の混入を防ぐため、スモルト&キャスト国が不明な場合は200%関税が適用されるリスクがあります。

米国鋼材活用の特例措置

米国内でメルト&ポアされた鋼材を用いて海外で加工された派生品は、HTS **9903.81.92(関税率0%)**の適用対象となります。この措置は、米国鋼材産業の支援とサプライチェーン再構築を促進する戦略的インセンティブです。

FTZ・ドローバックの制約

FTZ(外国貿易地域):Section 232対象品目をFTZに搬入する場合、Privileged Foreign Statusでの取扱いが必須となりました。3月12日以前にPFSとして搬入された貨物も、消費引取時には232関税が適用されます。

ドローバック不可:Section 232関税は払戻対象外(No drawback)であり、再輸出時の関税還付が認められません。


企業に求められる対応

A. 輸入実務・コンプライアンス体制の再構築

HTSコード総点検:全SKUについて407品目追加を反映したHTS見直しと232該当性の再評価が必要です。特にChapter 73/76以外の派生品の追加指定を確認し、自社製品ポートフォリオへの影響を定量化します。

含有価額算定システム:サプライヤーから鉄鋼・アルミニウム含有価額($/kg)、重量(kg)、メルト&ポア/スモルト&キャスト国のISO国コード、ロシア由来有無の証明書を取得する仕組みを構築します。請求書・BOM・梱包明細を二行申告フォーマットに整合させます。

監査対応準備:CBPは「過少申告には重大な金銭的制裁、輸入特権の喪失、刑事責任を含む厳格な措置を講じる」と明示しており、証跡管理の強化が急務です。

ロシア規制の徹底:アルミニウム製品については、サプライチェーン全体でロシア由来混入リスクを評価し、200%関税回避のためのトレーサビリティを確保します。

B. サプライチェーン・調達戦略の見直し

米国鋼材活用戦略:HTS 9903.81.92(0%)適用により、米国メルト&ポア鋼材を用いた海外加工モデルの経済性を検証します。米国内サプライヤーとの連携強化や、自社設備の米国内増強を検討します。

代替材・リサイクル材の評価:アルミニウムは50%関税による需要破壊リスクが指摘されており、リサイクル材の活用や設計変更による使用量削減を評価します。

現地化・統合の加速:日本製鉄のU.S. Steel買収(2025年6月18日完了)のように、米国内での生産体制統合により232リスクを構造的に回避する選択肢を検討します。

C. 価格・契約条項の整備

サーチャージ条項の高度化:Section 232(50%)、IEEPA相互関税(10%)、中国向けフェンタニル関税(20%)の積上げ/非積上げルールを反映した価格式を導入します。6月4日布告では、232対象の非金属部分に相互関税が適用される運用変更があったため、価格式の見直しが必須です。

イベントドリブン改定条項:BIS派生品追加、関税率変更、EPD運用変更等のトリガーイベント発生時に自動価格改定する契約条項を設定します。

資金繰り対策:50%関税により輸入1件あたりの関税支払額が倍増するため、信用状・担保枠・運転資金の再評価と、Cash Conversion Cycle(CCC)への影響分析が必要です。

D. ガバナンス・継続的監視体制

規制更新の定点観測:BIS派生品追加(次回窓口:2025年10月)、英国EPD実装状況、CBP CSMS更新、木材製品への232拡大(10月14日発効)等を継続監視します。

横断組織の設置:関税・SCM・購買・設計・法務・経理の横断チームを編成し、SKU単位のリスク台帳・シナリオ分析・対策ロードマップを維持します。


具体的企業の対応事例

日本製鉄(Nippon Steel)

2025年6月18日、CFIUSの国家安全保障協定(NSA)に基づきU.S. Steelの買収を完了しました。NSAには「Golden Share」(米国政府が取締役1名を指名し、本社移転・社名変更・生産移転・工場閉鎖等に拒否権を保有)が含まれ、日本製鉄は2028年までに110億ドル(うちペンシルベニア州モンバレー地域に24億ドル)の設備投資を約束しました。この統合により、232輸入関税リスクを回避しつつ米国内供給基盤を強化する戦略を実現しています。

UACJ(アルミ圧延大手)

2025年3月12日の25%関税導入(後に50%へ移行)を受け、価格サーチャージの導入、定期的な価格見直しメカニズム、米国内生産能力の増強方針を明示しました。

自動車OEM

GMは2025年決算説明で、Section 232の50%関税および他関税の重畳がコスト構造を圧迫していると公表しました。トヨタ・ホンダも、米国輸入関税と円高の影響により減益圧力に直面しており、価格戦略・仕向地配分の見直しを進めています。

金属缶製造業界

Can Manufacturers Institute(CMI)は、50%への引上げが食料品・飲料価格の押上げにつながるとして反対を表明しました。

下流産業への波及

8月の派生品追加により、建設機械部品・家具・ポンプメーカーなど400超の品目を扱う企業が新たに対象となり、設計変更・価格見直し・サプライチェーン再編を迫られています。


実務Tips

  1. BOMからの価額抽出:社内BOMシステムから鉄鋼・アルミニウム含有価額を抽出し、請求書項目を二行申告フォーマット(製品行+232行)に整備します。232行には重量(kg)も記載します。
  2. 仕入先証明テンプレート:メルト&ポア/スモルト&キャストのISO国コード、ロシア由来有無、含有価額比率、重量を記載した証明書取得用テンプレートを作成し、全サプライヤーに展開します。
  3. 米国鋼戦略の検証:対象派生品について、米国メルト&ポア鋼+海外加工モデルで**HTS 9903.81.92(0%)**適用の可否を確認します。
  4. 動的価格条項:Section 232・IEEPA・相互関税の非積上げ/積上げルールに対応し、トリガーイベント発生時に自動改定する価格式を導入します。
  5. 規制監視ダッシュボード:BIS派生品追加窓口(10月1日開始)、英国EPD運用状況、CBP CSMSメッセージング、木材製品232(10月14日発効)をウォッチする定点観測体制を構築します。

制度根拠(一次情報)

Proclamation 10896(鉄鋼、2025年2月10日):代替取決め/TRQ終了、製品除外停止、25%統一関税を規定。

Proclamation 10895(アルミニウム、2025年2月10日):同上のアルミニウム版、ロシア産200%継続を明記。

Proclamation(2025年6月3日):鉄鋼・アルミニウム関税50%への引上げ、英国25%維持、含有価額課税・計算ルールを明確化。

BIS Federal Register Notice(2025年8月19日):407品目追加の公示。

CBP CSMS # 64348411(2025年3月7日):鉄鋼の二行申告、ISO国コード報告、TRQ・GAE終了、FTZ/ドローバック実務を提示。

CBP CSMS # 65236374(2025年6月3日):50%への増税に伴う申告指示の更新。

Commerce Interim Final Rule(2025年9月17日):自動車部品の追加プロセス確立。


補足:影響度試算の考え方

鉄鋼含有価額$1,000の輸入品の場合、232関税(50%)により**$500の追加コスト**が発生します。派生品の非金属部分(例:$2,000)には相互関税(10%)=$200が別途適用されるため、合計$700の追加関税となります。BOMの精度向上により金属含有価額を正確に切り分けることが、節税の最重要ポイントです。


この改訂版は、提出された調査内容の正確性を確認した上で、最新の規制動向(自動車部品追加プロセス、木材製品への拡大、不明原産国への200%適用等)、実務詳細(二行申告の具体的記載方法、Golden Shareの詳細等)、企業事例の補強を行いました。