アメリカの自動車部品に対する軽減税率の延長

何が延長された?

米国で最終組立を行う自動車メーカー/エンジンメーカー向けの「輸入調整オフセット(関税相殺)」が2030年10月31日まで延長・拡充。相殺額はMSRP(希望小売価格)の3.75%を継続(本来は2026年5月以降2.5%に縮小し2027年4月に終了予定だったのを3.75%で据え置き・延長)。同時に中・大型トラック(MHDV)、同部品、エンジンにも相殺プログラムが新設・拡張されます(2025年11月1日発効)。

同時に新設された関税

中・大型トラックとその部品に25%、バスに10%の追加関税(Section 232ベース)。発効は2025年11月1日午前0時1分(米国東部夏時間)。

日本企業に特に効く周辺情報(2025年9月以降)

日米フレームワーク合意により、日本産品には**「ベース15%」の新料金体系**が適用されます。MFN税率が15%未満の場合は合計で15%になるよう上乗せされ、MFN税率が15%以上の場合は追加関税ゼロとなります。自動車・部品も原則として最大15%の枠内で処理され、Section 232自動車関税は免除されます。実装は9月4日の大統領令で行われ、連邦官報告示は9月16日、遡及適用は8月7日から。議会調査局(CRS)は「15%はMFNと重ね掛けせず、合計15%を上限とする(含み込み)」と解説しています。

仕組み(実務向け・超要点)

誰が使える?
米国内で最終組立を行う完成車メーカー/エンジンメーカー。メーカーが申請し、指定したImporter of Recordだけが相殺を使えます。

相殺の中身
部品に課される232関税(25%)のうち、「車両価額の15%分の部品に25%=3.75%」を理論値として、MSRP×3.75%を上限に関税支払時に相殺。余剰は他の関税に充当不可。例:MSRP $40,000 → 3.75%=$1,500を上限に相殺。

USMCAとの関係(部品)
USMCA原産の「個別部品」は、非米国価額分にのみ25%を課税する仕組みが整備されるまで232部品関税の適用を猶予(ただしCKD/ノックダウンキットは猶予対象外で、引き続き関税対象)。

対象拡大(10/17大統領布告)
自動車だけでなくMHDV(中・大型トラック)/同部品/エンジンにも相殺プログラムを新設・横展開し、2030年10月31日までの長期運用に。「関税スタッキング(複数関税の重畳)」に関する取扱いも明文化されました。

申請実務
商務省(ITA)告示(6/13)に基づき、メーカーが年次でMSRP集計→相殺枠付与→CBPがエントリーで相殺という運用。指定IORの紐づけが必須です。

日本の自動車部品サプライヤーへの影響と対応

価格交渉
米国内組立メーカー向け(メーカーまたは指定IORが自ら輸入)の取引では、メーカー側が相殺で関税コストを圧縮できる前提となります。納入条件(DAP/DDP/FOB)と誰がIORかで価格・原価表を分けて提案することが重要です。

CKD/ノックダウン回避
CKDキットおよび同等の部品集合体(CBP判定)は相殺対象外です。キット化の度合い・HS設計を再点検する必要があります。

USMCAの活用把握(間接影響)
米・加・墨サプライチェーンを跨ぐ部品はUSMCA原産化で232部品関税の扱いが有利(非米国価額への限定課税/適用プロセス整備待ち)。原産判定書類の監査性を高めておくことが推奨されます。

日米フレームワークの15%枠
完成車・部品の最終的な適用税率は”15%枠”と232措置の組み合わせで決まります。232自動車関税が免除される日本産品については、実質的に15%が上限税率となります。個々のHSと供給ルートで試算シートを作成するのが安全です。

中国原産を含む場合の併存リスク
対中301条関税の一部除外措置は2025年11月29日まで延長されています。該当部品があれば**除外HTS(9903.88.69/9903.88.70)**での申告を検討してください。

よくある誤解・注意

全ての輸入者が使えるわけではない
これは**「全ての輸入者」に対する軽減税率ではなく**、米国内組立メーカー(とその指定IOR)向けの相殺枠です。単独で部品を輸入する代理店等には自動的には使えません。

232対象品である事実は残る
相殺しても「232の対象品」である事実は残ります(スタッキング・対象性の規定)。関税分類・記録保存・監査対応は従来以上に厳格に行う必要があります。

主要原文ソース(一次情報)

  • 大統領布告(10/17):MHDV/部品/バスの関税新設+相殺延長・拡充(2030年10月31日まで、3.75%据え置き)
  • 連邦官報(6/13):自動車部品・相殺プログラムの申請手続き
  • 連邦官報(4/3):自動車・部品に対する232関税の基本枠組み(USMCA部品の暫定的取扱い、CKD除外等)
  • 日米フレームワーク(9/4大統領命令・9/16官報):日本産品のベース15%枠組みの実装
  • 参考報道(背景理解):相殺延長とトラック関税の発表

直ちにやるべき実務チェック(スプレッドシート推奨)

  1. 米国側のIORが誰か/メーカーの相殺申請の有無を取引先ごとに確認
  2. HS別に**「15%枠」「232(相殺可否)」「301(中国原産なら除外の有無)」**を列で管理
  3. CKD該当性・USMCA原産化の可否を製品群ごとに評価
  4. 新関税(MHDV/部品25%、バス10%)の該否判定と11/1以降の見積り改定

ニュージーランド税関における事前教示制度

ニュージーランド(New Zealand Customs Service)におけるHSコードの事前教示(Advance Ruling)—同国ではCustoms ruling(関税分類=Tariff classification、原産地、評価、コンセッション)と総称—の実務概要です(確認日:2025年10月18日)。​

担当組織と連絡先

主管当局:New Zealand Customs Service(NZ Customs)​
担当部局:Valuation, Origin and Classification(VOC)​
連絡先voc@customs.govt.nz(申請・照会窓口)​

公式ページ

申請様式(C7/C7A/C7B/C7C)は「Apply for a ruling」ページから入手できます。​

申請プロセス(分類を中心に)

申請時期:輸入前の申請が原則です。輸入後に申請する場合は、長官の事前許可が必要です。申請は輸入者本人の名義で行います(代理人による提出も可能ですが、書類上の名義は輸入者本人である必要があります)。​

申請フォーム(案件に応じて選択):​

  • C7:Tariff classification(関税分類)またはDuty concession(関税減免)
  • C7A:Country of produce/manufacture(原産国)
  • C7B:Correct application of regulations(規則の適用適否)
  • C7C:Valuation(関税評価)

提出・やり取り:フォームと添付資料をVOCへ提出します。必要に応じて追加資料やサンプルの提出を求められることがあります。​

決定通知:書面でCustoms rulingとして番号付きで発給されます。通関時に利用でき、全国の税関で拘束力を持ちます。​

不服申立て:裁定(不発給・変更を含む)に不服がある場合は、Customs Appeal Authorityへ不服申立てができます。​

申請に必要な情報(分類裁定=C7の場合)

申請者情報:​

  • 輸入者の名称・住所・連絡先
  • 通関代理人の情報(該当する場合)
  • 申請名義は輸入者本人

貨物情報(分類判断に十分な技術詳細):​

  • 品名(通称・技術名)
  • 用途・主な使用方法
  • 作動原理・構造
  • 材質・組成(百分率表示)
  • 寸法・重量
  • 包装形態(小売用・バルク、セット品か部品か)
  • 図面・写真・カタログ
  • 必要に応じてサンプル

申請者の見解:HS分類の候補(NZ Working Tariffの見出し)と根拠(GIR・部注・類注)。​

既往・係属の有無:同一品に関する既存の裁定や係争の有無。​

原産地・評価の場合:該当協定の原産地規則や評価方法の適用根拠、投入材料の内訳・工程・契約・価格算定の証憑等(C7A/C7C)。​

処理期間(SLA)

標準SLA(必要情報の提出完了時点から):​

  • 分類・コンセッション等:40日以内
  • 原産地・評価:150日以内

運用目標:資料が初回から十分に揃っている場合、20営業日での発出を目指しています。​

有効期間・効力

有効期間:発給日から最長3年間(事実や法令の変更があれば改廃される場合があります)。​

適用範囲:裁定の保有者(申請者)と特定貨物にのみ適用されます。全国のすべての入港地で拘束力を持ちます。​

改定時の保護措置(増税となる改定の場合):​

  • (a) 改定通知日までに締結済みの拘束契約に基づき、通知日から3か月以内に輸入する貨物
  • (b) 改定通知日に輸出地を出発済みの貨物
  • (c) 改定通知日に既に輸入済みだが未クリアランスの貨物

上記に該当する場合は、改定適用が猶予されます。

申請費用

分類・原産地・コンセッション等:NZ$40.88/品目/裁定(GST込み)。​

評価裁定(Valuation ruling):​

  • 申請料:NZ$300(GST込み)
  • 審査完了時の実費請求:
    • 2.5時間を超える審査時間:NZ$116.48/時(GST込み)
    • その他合理的な費用(鑑定・サンプル輸送等の実費)

その他の重要事項

公開方針:裁定は公益等の要件の下で公表される場合があります(申請者の同意または匿名化が前提)。​

利用者:申請者本人のみが当該裁定を対象貨物に使用できます(第三者は直接の拘束を受けません)。​

通関での使い方:輸入申告に裁定番号を紐付け、裁定条件と同一の貨物であることを確認の上で運用します。​

相談先:VOC(Auckland)が裁定の唯一の発給部門です。​

法的根拠:Customs and Excise Act 2018(裁定の発給・改廃・不服等)および関連規則(時間枠・手数料等)。​


申請準備チェックリスト(分類裁定向け)

☐ C7フォーム(分類用)を使用し、輸入者名義で申請​
☐ 輸入前に申請​
☐ 用途・機能、作動原理、構造、材質・組成(百分率)、寸法・重量、包装形態を一次資料で準備​
☐ 図面・写真・カタログを添付(必要に応じてサンプルも)​
☐ 申請者の分類見解(GIR・部注・類注の根拠、候補見出しの比較)を明記​
☐ 既往の裁定・係属の有無を申告​
☐ 費用:分類等NZ$40.88、評価NZ$300+時間単価を確認​
☐ SLA:分類等40日、原産地・評価150日(20営業日目標もあり)を確認​
☐ 有効期間3年、改定時の保護要件(3か月・出発済み・未クリアランス)を把握​