HS2022の次の年をAIに尋ねる

AIの回答が今でも間違うことが多い。現行HSコードの年次は2022だが、次回はHS2028。しかし、AIの回答は間違う。

気を付けなければ、

Gemini 3 Pro

結論から申し上げますと、HS2028ではなく、「HS2027」が正解です。
HSコード(世界税関機構・WCOが定めるもの)は、原則「5年ごと」に改定されます。
改定のサイクル

  • 前回:HS2017
  • 現在:HS2022(2022年1月1日発効)
  • 次回:HS2027(2027年1月1日発効予定)
  • 次々回:HS2032(予定)
    展示会でのトーク・戦略への活かし方
    現在開発されている「HS Code Finder Gemini」にとって、この情報は「製品の将来性」をアピールする良い材料になります。
    アピール案:

「2027年にはまた大規模な『HS2027改正』が控えています。紙の表を買い直して覚え直すのは大変ですが、このAIなら2027年版へのアップデートも自動で対応します(※予定であれば)。」

このように伝えることで、「今だけのツールではなく、将来の法改正リスクもヘッジできるツール」としての価値が高まります。

ChatGPT GPT Thinking

はい、その認識で大丈夫です。
現行の HS2022 の次の年次版は「HS2028」です。

なぜ HS2028 なのか(ごく簡単に)

  • 本来は 5年ごと:
    HS2012 → HS2017 → HS2022 → HS2027(予定) というサイクルでした。
  • しかし、コロナ禍などで見直し作業が遅れ、
    今回のサイクルだけ 6年に延長され、発効年が 2028年1月1日にスライドしました。
  • WCO のハーモナイズド・システム委員会(HSC)の公式ニュースでも、
    HS 2028 Nomenclature の改正案を審議・採択した」と明記されています。

そのため、ビジネス文書やブログ、社内説明では:

現行:HS2022(第7版)
次期:HS2028(第8版、2028年1月1日発効予定)

と書くのが、2025年時点での最新かつ公式情報に沿った整理になります。

【2025年11月版】主要国の関税・制裁・輸出管理トレンドと「1年間の猶予」


2025年11月時点の「最新告示」に基づき、ビジネスパーソンが押さえるべき貿易管理のトレンドを整理します。

結論から言うと、現在の潮流は以下の3本柱です。ただし、米中間の規制合意により、一部の規制に「1年間の猶予(一時停止)」が生じたことが最大のニュースです。

  1. 「米中50%ルール」の一時停止:サプライチェーン分断の決定打となるはずだった規制が、2026年11月まで凍結。
  2. 「対ロシア・イラン包囲網」の完成:G7とEUはエネルギー・金融・海運(シャドーフリート)への制裁を最高レベルに引き上げ。
  3. EUの「環境・ハイテク要塞化」:CBAM(炭素国境調整)の義務化と、AI・量子技術などの独自管理が進行。

本記事は2025年11月29日時点の公表情報に基づく整理です。最終判断は必ず原文・専門家の確認を経て行ってください。


1. 米国:対中関税と輸出管理は「一時休戦」へ

1-1. 対中301関税:除外178品目の延長 & 新たな措置の一時停止

USTR(米通商代表部)は、対中301条関税のうち178品目の関税除外を2026年11月10日まで延長しました。これらは2025年11月29日で失効予定でしたが、11月1日発表の米中経済・貿易合意を受け、土壇場で延長が決まりました。()ustr+1
対象は産業用ポンプ・モーター、医療関連機器、一部のソーラー製造設備などで、企業のコスト増回避に繋がります。()ey+1

また、同じ合意に基づき、中国の海運・物流・造船セクターを標的とした新たな301措置(追加関税等)についても、2025年11月10日から1年間の発動停止が告示されています。()ustr+1

👉 実務ポイント
301関税対象品を扱う企業は、「自社のHSコードが延長リスト(178品目)に含まれるか」を再確認してください。また、今後1年間の米中協議の行方次第で関税率が変動する可能性があるため、契約上の価格調整条項を見直す良い機会です。

1-2. BIS輸出管理:米国版「50%ルール」も1年間停止

【重要修正】
2025年9月30日、米商務省BISは**「Affiliates Rule(50%ルール)」**と呼ばれる暫定最終規則を発表しました。これはEntity List等の規制対象を「50%以上所有する子会社」に自動拡張する厳しい内容です。()sidley+1
しかし、この規則も11月4日、米中合意の一環として「2026年11月まで施行を一時停止する」ことが発表されています。()thompsonhinesmartrade

当初は「リスト記載企業のグループ会社すべてが自動的に規制対象」となるリスクが高まりましたが、現在は1年間の猶予期間に入っています。

👉 実務ポイント
「直ちに対応が必要」という緊急度は下がりましたが、BISはこの1年を使ってルールを微調整する見込みです。中国等の取引先について「親会社がEntity Listに載っていないか」という資本関係の洗い出し(KYC)は、この猶予期間中に済ませておくべきでしょう。

1-3. 対ロシア・イラン:エネルギー制裁の「総仕上げ」

対中規制が休戦する一方、対ロシア・イラン制裁は強化の一途です。
米国・EU・英国は連携し、ロシアのLNGプロジェクト(Arctic LNG 2等)や、制裁逃れを行う「シャドーフリート(影の船団)」への指定を拡大しています。()finance.europa+1


2. EU:第19次対ロシア制裁 & CBAMの「50トン免除」

2-1. 対ロシア第19次制裁パッケージ(2025年10月23日採択)

欧州委員会は第19次対ロシア制裁を採択し、規制の網をさらに広げました。()skadden+1

  • LNG輸入禁止の拡大:ロシア産LNGのEU域内への輸入禁止措置を導入。
  • 金融制裁の強化:ロシアのSPFS(金融メッセージングシステム)に関連する銀行・インフラを追加指定。
  • 所有・支配基準の明文化:50%未満の出資でも「実質的支配」がある場合を制裁対象とする基準を明確化。

2-2. デュアルユース品目リストの改正(2025年11月)

2025年11月14日、EUはデュアルユース(軍民両用)輸出管理リストを改正しました。()gov+1
従来の国際レジーム(ワッセナー等)に加え、半導体製造装置、量子技術、先端計算機などを対象とする**「500番台」の独自品目コード**を導入しています。

👉 実務ポイント
EU向けにハイテク製品を輸出する日本企業は、製品が新設の「500番台」に該当しないか、パラメータシートや該非判定書の更新が必要です。

2-3. CBAM(炭素国境調整):小口輸入の「50トン免除」

2026年の本格稼働に向け、2025年10月には制度を簡素化する改正規則(EU規則 2025/2083)が発効しました。()eurometal+1

  • 50トン・デミニミス(免除):対象品目の年間輸入量が**「事業者あたり50トン以下」**の場合、CBAM義務が免除されます。(※電力・水素は除く)()sustainabilityinbusiness+1
  • これにより、中小規模のサンプル出荷や補修部品等の輸出における事務負担が大幅に軽減されます。

3. 中国:「報復措置」の一時停止と管理強化の裏側

3-1. 「中国版50%ルール」とレアアース規制も一時停止

中国商務部・税関総署は2025年11月7日、告示第70号を発表し、直前の10月〜11月に打ち出していた以下の厳しい輸出規制を2026年11月10日まで一括して停止しました。()resilinc+1

  • 停止された規制
    • レアアース、リチウム電池、人工黒鉛等の輸出管理強化(告示55-58号等)
    • 中国版「50%ルール」(外国企業への域外適用・再輸出規制を含む告示61・62号)

これは米国の「BIS 50%ルール停止」に対するバーター(交換条件)措置であり、米中双方が「相手企業のグループ会社網を寸断する規制」を同時に引っ込めた形です。()gvw

👉 実務ポイント
中国からのレアアースやバッテリー材料の調達リスクは、2026年11月まで一旦落ち着きます。しかし、あくまで「停止」であり「撤回」ではないため、調達先の多様化(チャイナ・プラス・ワン)を進める時間は、この1年しかありません。


4. 日本:対ロシア制裁とエネルギー安全保障

4-1. ロシア産原油の価格上限引き下げ

日本政府は2025年9月、G7・EUと足並みを揃え、ロシア産原油の価格上限(プライスキャップ)を従来の60ドルから47.60ドルへ引き下げました。()discoveryalert+1
実質的な輸入はほぼないため直接的な影響は限定的ですが、海上保険の付保要件に関わるため、海運・保険業界は厳格な運用が求められます。

4-2. サハリン・プロジェクトの維持

一方で、サハリン1・2については方針を変えていません。経産省は2025年11月にも「日本のエネルギー安全保障上、極めて重要」との立場を崩しておらず、米英の制裁強化の中でも、特例的な維持を図る姿勢を示しています。([の文脈参照])


5. 英国:制裁の独自色と「Sanctions Hub」

5-1. ロシア大手石油・シャドーフリートへの制裁

英国は2025年10月15日、**Lukoil(ルクオイル)とRosneft(ロスネフチ)**というロシア石油大手2社を資産凍結対象に追加し、さらにシャドーフリート関連船舶への制裁も拡大しました。()mayerbrown+1
これにより、英国系金融機関や保険会社を経由する取引のリスク許容範囲が極めて狭まっています。

5-2. 輸出管理の改正と「Sanctions Hub」

英国は2025年12月16日施行の輸出管理改正で、EU同様の「500番台」品目を導入します。()gov
また、複雑化する制裁情報を検索できる公式ツール「Sanctions Hub」の運用を強化しており、実務者は「Consolidated List」だけでなく、このHubでのクロスチェックが推奨されます。


6. まとめとアクションリスト

1年間の「猶予期間」をどう使うか

米中双方が「50%ルール」等の決定的な規制を2026年11月まで棚上げしたことで、ビジネスには1年間の猶予が生まれました。この期間にやるべきは以下の3点です。

  1. サプライチェーンの資本関係マッピング(KYC)
    • 今のうちに、中国・ロシア等の取引先について「誰が50%以上出資しているか」を調査しておく。2026年に規制が復活した際、即座に影響範囲を特定できるようにするためです。
  2. 「500番台」品目の該非判定
    • EU・英国向け輸出製品が、新設された量子・半導体関連の規制スペックに抵触しないかを確認する。
  3. CBAMデータの整備(50トン超の企業)
    • EU向け輸出が年間50トンを超える場合は、2026年の本格義務化に向け、CO2排出量データの算定フローを確立する。

2025年は「規制の激化」から「一時的な休戦と準備」のフェーズに入りました。この静けさが続く間に、体制を整えることが肝要です。


※本記事は2025年11月29日時点の情報を整理したものです。個別取引においては必ず各国の最新法令をご確認ください。

  1. https://ustr.gov/about/policy-offices/press-office/press-releases/2025/november/ustr-extends-exclusions-china-section-301-tariffs-related-forced-technology-transfer-investigation
  2. https://www.roic.ai/news/ustr-extends-178-china-301-tariff-exclusions-through-november-2026-11-26-2025
  3. https://www.ey.com/en_gl/technical/tax-alerts/ustr-extends-product-exclusions-subject-to-section-301-tariffs-through-29-november-2025
  4. https://kpmg.com/us/en/taxnewsflash/news/2025/11/ustr-extends-product-exclusions-china-section-301-tariffs.html
  5. https://ustr.gov/about/policy-offices/press-office/press-releases/2025/november/ustr-suspension-action-section-301-investigation-chinas-targeting-maritime-logistics-and
  6. https://www.thompsonhinesmartrade.com/2025/11/ustr-announces-one-year-suspension-of-section-301-countermeasures-targeting-chinas-maritime-logistics-and-shipbuilding-sectors/
  7. https://www.sidley.com/en/insights/newsupdates/2025/10/us-commerce-department-bureau-of-industry-and-security-adopts-50-percent-rule-for-export-controls
  8. https://www.hklaw.com/en/insights/publications/2025/10/bis-expands-impact-of-us-export-controls-with-50-percent-rule
  9. https://finance.ec.europa.eu/news/eu-adopts-19th-package-sanctions-against-russia-2025-10-23_en
  10. https://www.arnoldporter.com/en/perspectives/advisories/2025/10/uk-and-us-impose-major-new-sanctions-on-russian-oil-sector
  11. https://www.skadden.com/insights/publications/2025/11/eu-adopts-19th-sanctions-package
  12. https://www.gov.uk/government/publications/notice-to-exporters-202530-updates-to-export-control-regulations/nte-202530-updates-to-export-control-regulations
  13. https://www.hoganlovells.com/en/publications/eu-updates-dualuse-control-list-new-controls-on-emerging-technologies-and-shift-in-export-control
  14. https://eurometal.net/eu-adopts-cbam-amendment-introducing-50-mt-exemption-and-simplified-reporting/
  15. https://fn.legal/en/cbam-amendment-regulation-entered-into-force/
  16. https://www.sustainabilityinbusiness.blog/2025/10/new-cbam-simplified-rules-finalized-time-for-companies-to-prepare-for-compliance/
  17. https://resilinc.ai/blog/chinas-export-pause-reveals-trade-policy-supply-chain-risk/
  18. https://www.cirs-group.com/en/chemicals/china-temporarily-suspends-export-controls-on-key-raw-materials-including-rare-earths-lithium-batteries-and-diamond
  19. https://www.gvw.com/en/news/blog/detail/china-export-control-update
  20. https://discoveryalert.com.au/russian-oil-price-cap-2025-japan-g7-sanctions/
  21. https://www.reuters.com/business/energy/japan-cuts-price-cap-russian-oil-4760-additional-sanction-2025-09-12/
  22. https://www.mayerbrown.com/en/insights/publications/2025/10/uk-weekly-sanctions/uk-weekly-sanctions-update-week-of-october-13-2025
  23. https://www.lw.com/en/insights/sanctions-update-eu-uk-sanctions-target-russian-lng-major-russian-companies
  24. https://www.federalregister.gov/documents/2025/12/01/2025-21671/notice-of-product-exclusion-extensions-chinas-acts-policies-and-practices-related-to-technology
  25. https://www.ghy.com/trade-compliance/section-301-tariff-exclusions-further-extended-through-november-29-2025/
  26. https://www.chrobinson.com/es-us/resources/insights-and-advisories/client-advisories/2025q3/09-02-2025-client-advisory-section-301-tariff-exclusions-extended-through-ovember-2025/
  27. https://www.strtrade.com/trade-news-resources/tariff-actions-resources/301-investigation-china-shipbuilding-maritime-logistics
  28. https://www.mofo.com/resources/insights/251001-bis-adopts-50-percent-affiliates-rule-implications
  29. https://www.ashurst.com/en/insights/overview-of-the-eus-19th-sanction-package/
  30. https://policy.trade.ec.europa.eu/news/2025-update-eu-control-list-dual-use-items-2025-09-08_en
  31. https://www.businesstimes.com.sg/international/global/us-extends-one-year-tariff-exclusions-some-chinese-industrial-goods-part-trade-truce
  32. https://www.clarkhill.com/news-events/news/china-hits-pause-on-rare-earth-export-controls-and-what-it-means-for-supply-chains/
  33. https://www.china-briefing.com/news/chinas-rare-earth-export-controls-impacts-on-businesses/
  34. https://globaltradealert.org/state-act/95168-china-temporary-suspension-of-additional-export-controls-for-rare-earth-related-technologies
  35. https://finance.yahoo.com/news/japan-cuts-price-cap-russian-143000860.html
  36. https://research.hktdc.com/en/article/MjE2NTI4MjQ4NA
  37. https://english.mofcom.gov.cn/News/SpokesmansRemarks/art/2025/art_c202dcc0433d476db52b1e7f7fe53926.html
  38. https://sustainability.slaughterandmay.com/post/102lr0h/eu-cbam-amended-to-exclude-90-of-importers-but-include-99-of-emissions
  39. https://energynews.oedigital.com/crude-oil/2025/09/12/japan-increases-sanctions-on-russia-by-reducing-the-price-of-russian-oil-to-4750
  40. https://www.gov.uk/government/publications/list-of-russia-sanctions-targets-15-october-2025/list-of-russia-sanctions-targets-15-october-2025

メキシコ関税法改正:2026年1月施行へ――電子通関ファイルと罰則強化で「見える化」される貿易実務


1. 何が起きたのか:19年の大改正、2026年1月から本格スタート

2025年11月19日、メキシコ政府は官報(Diario Oficial de la Federación)で「関税法(Ley Aduanera)の改正・追加・削除」を定める大きな政令を公布しました。対象条文はなんと113条に及びます。(info.expeditors.com)

この改正は、

  • 2026年1月1日に原則施行
  • 一部の条文は施行後1か月または3か月後に段階的に適用

というスケジュールになっています。(dlapiper.com)

改正の狙いとして、各種解説では共通して次の点を挙げています。

  • 通関手続のデジタル化・トレーサビリティの徹底
  • 税関当局(SAT・ANAM)の統制強化と税収拡大
  • 密輸・過少申告・虚偽原産地証明など「huachicol fiscal(税の抜け穴)」への対策 (GPF ASESORIA DE NEGOCIOS)

日本企業にとっては、「関税率が上がる」話ではなく、通関実務の管理・証憑・ITシステムが一気に重くなる改正と理解するのが出発点です。

なお、日本語で「メキシコ関税法」と呼ばれることが多い法律は、ここでいう**「Ley Aduanera(税関法)」です。
別に
関税率表を定める「一般輸入・輸出税法(LIGIE)」の改正案(約1,400品目の関税引き上げ)は、今回とは別トラック**で進んでおり、後述のとおり審議が先送りされています。(dlapiper.com)


2. 改正の3つの柱

2-1. 電子通関ファイルの中身が激変:契約書・支払証憑まで必須に

今回の改正で、電子通関ファイル(expediente electrónico aduanero)に保管すべき資料の最低要件が、質・量ともに大きく引き上げられました。

KPMG や各種法律事務所の解説では、以下のような書類が**「最低限」**求められるとされています。(KPMG)

  • インボイス、B/Lなど従来の通関書類に加え
  • 電子税務証憑(CFDI)
  • 国内輸送用のCFDI+Carta Porte補完(車両・ルート・ドライバー情報を含む)(alvarezandmarsal.com)
  • 送金明細・銀行振込記録
  • 保険料・運賃・その他通関関連コストの支払証憑
  • 売買・委託加工・リースなど関連契約書一式
  • 価値申告・バリュエーション分析(Transfer Pricing との整合が問われる部分)

さらに、通関ファイルと在庫管理システム・監視カメラ・トラッキング情報を連動させた「統合電子システム」の義務化が、保税蔵置場やRFE(Recinto Fiscalizado Estratégico)などにも課されます。これらのシステムには、税関当局がリモートで常時アクセスできることが要求されています。(GPF ASESORIA DE NEGOCIOS)

👉 日本企業への含意

  • 「インボイス+パッキングリストさえあれば通関できる」という世界は終わりに近づいている
  • メキシコ子会社の会計・契約・物流情報を、通関ファイルに一元紐づける体制が必要
  • 日本本社側も、契約スキームや価格決定ロジックを説明できる形で文書化しておかないと、監査で突かれやすくなる

2-2. 通関業者(ブローカー)・倉庫・物流事業者への規制強化

(1) 「一生モノ」だった通関士ライセンスが20年更新制+3年ごとの認証に

これまで、メキシコの通関業者(agente aduanal)は、実務上「終身ライセンス」とも言える形で活動してきました。
しかし改正後は、以下のように制度が大きく変わります。(GPF ASESORIA DE NEGOCIOS)

  • 通関士ライセンスの有効期間:20年(同期間の更新可)
  • ライセンスは個人的かつ譲渡不可
  • 3年ごとの技術認定(試験・更新)が義務化
  • 公職にある者は、通関士ライセンスを取得・維持できない
  • 繰り返しの違反や重い犯罪での訴追・起訴で、停止・取消のリスクが大幅増

さらに、これまで存在した**「荷主が虚偽情報を出した場合はブローカーは免責」という条項が削除**され、
荷主の誤った申告に対しても、通関業者が連帯責任を負う方向に転じています。(alvarezandmarsal.com)

>その結果、通関業者は「自分を守るために、荷主へのデューデリジェンスと社内監査を強化せざるを得ない」と各所で指摘されています。(dlapiper.com)

(2) 倉庫・保税区画へのハイレベルなシステム要件

保税蔵置場やRFEなどの施設については、電子在庫管理・ビデオ監視・リアルタイム追跡などのシステム導入が、許可要件として明文化されます。(GPF ASESORIA DE NEGOCIOS)

  • 税関電子システムとの相互接続(インターオペラビリティ)
  • 当局への24時間リモートアクセス
  • 物流・在庫データと通関ファイルの一致性

を求められるため、IT投資なしに倉庫ビジネスを続けることは難しくなります。

(3) 物流・ECオペレーターにも直接規制

Expeditors のまとめによれば、改正は以下のようなプレイヤーにも直接影響を与えます。(info.expeditors.com)

  • 輸入貨物を保管する一般倉庫
  • 航空・宅配便などのクーリエ事業者(簡易通関スキームの明文化)
  • 越境ECプラットフォーム(登録義務や上限の見直し)

👉 日本企業への含意

  • ブローカー側がリスクを嫌い、書類の要求水準や質問のレベルが一段と厳しくなる
  • 「今まで付き合いでやってくれていた」ブローカーが、リスクの高い貨物の取扱いを断る可能性も
  • メキシコ側の倉庫・3PLに対し、システム要件・コンプライアンス状況を確認するデューデリジェンスが必要

2-3. 罰則・税務リスクの大幅強化

関税法そのものに加え、連邦税法典(Código Fiscal de la Federación)の改正もセットで行われ、
密輸・脱税・虚偽申告に対する行政・刑事リスクがかなり強化されています。(dlapiper.com)

代表的なポイントは以下の通りです。

  • 制限品・禁止品の輸入や、非関税措置(NOM・衛生規制・許可等)の不履行に対して
    貨物価値の250〜300%に相当する罰金が科され得る(dlapiper.com)
  • 価値申告(Manifestación de Valor)や電子価格証明(COVE)での誤り
    ⇒ 1件あたり約29,000〜53,500ペソの罰金(約25〜45万円規模)(alvarezandmarsal.com)
  • ラベリング違反、申告住所に貨物が存在しない場合など、新たな差押え(embargo)事由が追加(alvarezandmarsal.com)
  • FTA上の特恵関税を不正に得るための虚偽原産地証明について、
    税法典上の**「脱税」「虚偽申告」等の刑事リスク**が明確化(dlapiper.com)

👉 日本企業への含意

  • RCEP・日メキシコEPA・USMCA原産地証明などをメキシコ側が利用する場合、
    日本本社が出すサプライヤー証明や原産地情報に虚偽・過失があると、メキシコ側で刑事リスクに直結する可能性
  • 移転価格税制のみならず、関税バリュエーションの整合性が、これまで以上に重要な経営課題になる

3. IMMEX・RFEなど製造優遇スキームへの直撃

今回の改正は、単なる「通関ルール改正」にとどまらず、IMMEX・RFEといった製造優遇スキームに特に厳しいメッセージを発しています。(dlapiper.com)

3-1. RFE(Recinto Fiscalizado Estratégico)

  • RFEへの貨物導入にあたり、関税保証口座や信用状による保証義務を明文化(dlapiper.com)
  • 貨物の加工・保管・分配等を行う場合、実際に工程が行われたことを示す技術・会計資料を保持しなければならない
  • RFEが港・税関と隣接していない場合、認定された「認定商業パートナー(socio comercial certificado)」のみが輸送・通関を実施可(dlapiper.com)

3-2. IMMEX(マキラ)企業

  • IMMEX間の移転取引について、**拡張版の通関ファイル(Article 59 V)**を作成・保管する義務
    • 通常の通関書類に加え、工程資料・原材料使用実績・会計記録などを含めて一体管理 (dlapiper.com)
  • 在庫管理・工程トレーサビリティ・リモート監査に対応できるシステム導入が必須

DLA Piper は、これらの改正を踏まえ、2026年にメキシコの貿易税収が約1517億ペソから2547億ペソに増加するとの政府見通しを紹介しており、その相当部分が監査・検査強化による追加徴収と見られています。(dlapiper.com)

👉 日本企業への含意

  • メキシコでの組立・加工拠点(マキラ・IMMEX工場)を持つ企業は、最優先で影響分析が必要
  • 工場内の在庫管理・実績データと、通関データ・会計データの**「三位一体」管理**が求められる
  • RFEを活用した在庫バッファ・再輸出スキームは、保証や証憑負担の増加を前提に再設計すべき段階

4. 「関税率引き上げ法案(LIGIE改正)」との関係

今回の関税法(Ley Aduanera)改正とは別に、メキシコ政府は一般輸入・輸出税法(LIGIE)の大改正案も提出しています。

  • 1,463の関税分類を改正し、主にFTAのない国(中国など)からの輸入品に35%前後の高関税を課す構想(Eje Central)
  • しかし、このLIGIE改正案は、議会での審議が先送りされ、現行会期末の2027年8月31日まで棚上げされる可能性があるとDLA Piperは指摘しています。(dlapiper.com)
  • とはいえ、大統領は緊急権限に基づき個別に関税を引き上げる権限を維持しており、完全にリスクが消えたわけではありません。(dlapiper.com)

したがって、

  • 「2026年1月に変わるのは主に手続と罰則」
  • 「関税率そのものの大幅引き上げ(LIGIE改正)は、別の政治日程で動き続けている」

という二重の時間軸でメキシコリスクを見ておく必要があります。


5. 日本企業が今からやるべき5つのチェックポイント

最後に、日本のビジネスマンの視点で、2026年1月までに最低限チェックしたいポイントを整理します。

5-1. メキシコ側の「電子通関ファイル」体制の棚卸し

  • メキシコ法人がどの程度、
    • CFDI+Carta Porte
    • 契約書・見積り・支払証憑
    • バリュエーション資料
      一元的に保管・紐づけできているかを確認
  • ERP・WMS・TMS と通関システムが「バラバラ」になっている場合、
    2025年のうちに統合作業をどこまで進められるかが勝負

5-2. 通関ブローカーとの関係性の再構築

  • 改正後は、ブローカーも自らのライセンスを守るために保守的になります
  • 現在取引しているブローカーに対し:
    • 改正関税法への対応方針
    • 必要書類の増加や、質問項目の変化
    • 社内監査(due diligence)の頻度
      事前にすり合わせておくことが重要です

5-3. IMMEX・RFE利用スキームの総点検

  • 工場の在庫・工程データと通関データが、
    「いつでも監査対応できるレベル」でリンクしているかを確認
  • RFE利用を検討・利用中の企業は、
    • 保証口座・信用状のコスト
    • 限定された輸送業者・通関業者の利用制約
      を考慮してビジネスケースの再計算が必要です

5-4. 原産地証明・バリュエーションのガバナンス強化

  • 日本本社が発行する
    • サプライヤー証明
    • 原産地証明用の情報
    • 移転価格ポリシー
      が、メキシコでの通関・税務監査に耐えうる文書になっているか再点検
  • 特に、虚偽原産地証明に対する刑事リスクが明確化されたため、
    FTA/EPA対応部門と税務・コンプライアンス部門の連携が必須です。(dlapiper.com)

5-5. メキシコを「低コスト拠点」とだけ見ない

  • 改正は明らかに、「税関・税務コンプライアンスが重い国」としてのメキシコを前提にした制度設計です
  • 中国+1、USMCA向け生産拠点としての魅力は依然高いものの、
    「安い・緩いからメキシコ」という発想は通用しなくなるタイミングと言えます

6. まとめ:2026年のメキシコは「通関DX+監査強化」元年

  • 2025年11月19日に公布された関税法改正は、113条を一気にいじる大規模な制度変更であり、
    2026年1月1日から本格施行されます。(info.expeditors.com)
  • 中心テーマは
    • 電子通関ファイルとITシステムの義務化・高度化
    • 通関業者・倉庫・IMMEX/RFEへの規制強化
    • 罰則・刑事リスクの大幅引き上げ
      であり、実務の透明性と当局の監視能力を一気に高める内容です。
  • 関税率そのものをいじるLIGIE改正案(約1,400品目の高関税化)は、
    議会で先送りされたとはいえ、政治状況次第で再浮上し得るリスクとして残っています。(dlapiper.com)

日本企業としては、

「関税率はまだ上がっていないから安心」ではなく、
「通関・税務コンプライアンスの管理レベルを2026年仕様に引き上げる」

という発想で準備を進めることが重要です。


※本記事は、KPMG、DLA Piper、Alvarez & Marsal、Mijares、Expeditors など複数の専門家レポートを比較・確認したうえで、ビジネス向けに要約したものです。個別案件への適用には、必ず現地の専門家・顧問弁護士等の助言を受けてください。(KPMG)

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関税ショックは先送り:USTRの中国301条除外延長があなたのビジネスに意味すること

USTR、中国の「301条関税除外」を2026年11月まで延長──ビジネスパーソンは何を押さえるべきか

1. まずは「3行」で今回のポイント

2025年11月25日、米通商代表部(USTR)は、中国に対する301条追加関税のうち178件の「除外(exclusions)」を約1年延長し、**2026年11月9日23:59(米東部夏時間)**まで有効とすることを発表しました 。ustr+1

対象は、太陽光パネル製造装置14カテゴリーと、産業・医療機器など164カテゴリー(電動モーター、血圧計、ポンプ部品、自動車用エアコンプレッサー、プリント基板など)で、いずれも主にB2B用途の中間財です 。ustr

背景には、**米中間の新たな経済・貿易合意(Kuala Lumpur Joint Arrangement)**があり、中国側のレアアース輸出規制の緩和や米農産品輸入拡大と「パッケージ」で決まった措置です 。cassidylevy+1

以下では、この決定がグローバル調達・生産戦略、価格交渉、リスク管理にどのような意味を持つのかを整理します。

2. そもそも「301条関税」とは何か、なぜ除外があるのか

2-1. 301条は「不公正貿易」に対する”何でも屋”条項

米国通商法301条(Section 301 of the Trade Act of 1974)は、相手国の不公正な貿易慣行に対して、米国が一方的に是正措置(関税引き上げなど)を取る権限を大統領・USTRに与える条文です。

2017年に米国は、中国の技術移転強要・知的財産権侵害・イノベーション政策を巡って301条調査を開始し、2018年以降、いわゆるList1〜4と呼ばれる段階的な追加関税(25%や7.5%など)を導入しました。

2-2. 「除外(exclusions)」とは何か

301条関税には、プロダクトごとに追加関税を免除する「除外」制度があります:

  • 10桁のHSコード+商品説明の組み合わせで「この条件に合致する製品は301条の追加関税を免除する」と定義
  • 該当製品は、WTO上の通常関税(MFN税率)のみ、301条分はゼロ
  • 企業がUSTRに申請し、代替供給源の有無・米国産業への影響などを踏まえて判断される仕組み

この除外は期限付きで、ここ数年は3〜6カ月単位で延長されてきました。特に今回延長の対象となったのは:

  • 2024年5月に164件の除外が2025年5月31日まで延長
  • 2024年9月に太陽光製造装置に関する14件の新たな除外を追加
  • その後、合計178件が2025年8月31日まで、さらに2025年11月29日まで延長されていた案件ですey+1

3. 今回の決定:延長された178件の中身

3-1. 有効期限は「2026年11月9日23:59(米東部夏時間)」まで

今回公表された連邦官報(Federal Register)通知では、以下のように定義されています:

  • 対象: 現在有効な178件の除外
  • 期間: 2025年11月30日0:01(米東部標準時)以降に輸入される貨物で、**2026年11月9日23:59(米東部夏時間)**までに米国に輸入されたもの

USTRのプレスリリースでは「2026年11月10日まで」と表現されていますが、実務的には11月9日深夜までの通関分が対象と理解するのが安全です 。kpmg+1

3-2. どんな品目が対象か

報道やUSTRの説明によれば、対象は主に以下の2グループです:ustr

太陽光パネル製造関連(14カテゴリー)

  • ウエハーやセルの生産ラインに用いる装置
  • コーティング、エッチング、検査装置など

産業・医療用途を中心とする中間財(164カテゴリー)

  • 電動モーター
  • 血圧測定装置
  • ポンプのコンポーネント
  • 自動車用エアコンプレッサー
  • プリント基板(PCB)など

いずれも、最終消費財というより、設備・部品・医療機器などの中間財です。B2Bの製造業・医療機器産業にとって重要な入力財である、というのが共通点と言えます。

連邦官報では、これらはHTSUS(米国輸入統計品目表)の特定の臨時番号(9903.88.69・9903.88.70)および関連する注記で定義されており、「記載条件を満たすすべての輸入者に適用される」と明記されています。

4. なぜ米国は「除外」をさらに延長したのか

4-1. 公募コメント:代替調達の難しさと”猶予期間”の要望

USTRは2025年9月16日付けで、178件の除外を2025年11月以降も延長すべきかどうか、パブリックコメントを募集しました。評価軸として、以下を挙げています:

  • 中国以外からの代替調達の可否とその量
  • 米国または第三国から調達するための取り組み状況
  • 追加の時間がなぜ必要か
  • 延長が、最終的に中国依存からの脱却に寄与するか
  • 米国の政策優先事項(サプライチェーン強靭化、安全保障など)との整合性

その結果、178件中147件が延長支持のコメントを受け、反対意見があったのは10件のみでした。多くの企業が、「現時点で中国以外の供給源は量・品質ともに十分ではない」「急激な関税復活は、米国内の製造や医療提供に悪影響を与える」といった趣旨の懸念を表明したとされています。

4-2. 米中「Kuala Lumpur Joint Arrangement」とのパッケージ

さらに大きな要因が、**2025年10月30日に韓国で開催されたトランプ大統領と習近平国家主席の会談を受けて合意された「Kuala Lumpur Joint Arrangement」**です 。cassidylevy+1

ホワイトハウスの資料によると、この合意で中国は以下を約束しました:whitehouse

  • レアアースやその他重要鉱物に対する世界的な輸出規制の延期・実質的な撤廃
  • 米半導体企業などへの報復措置の見直し
  • 大豆・ソルガム・木材など米農産品の輸入拡大
  • 米国製品に対する自国側の関税除外プロセスを2026年12月31日まで延長

これに対して米国側は:

  • 中国製品への「引き上げ済みの相互関税」を2026年11月10日まで凍結・低い水準に据え置く
  • その一環として、301条の178件の除外を2026年11月まで延長

することを約束しました 。whitehouse

今回の除外延長は、こうした一連の「貿易休戦」の一部と位置付けられます 。cassidylevy

4-3. 対中強硬姿勢は維持したままの”部分的な緩和”

注意すべきは、対中政策が「軟化」したわけではないという点です。

2024年5月には別途、電気自動車(EV)、リチウムイオン電池、重要鉱物、医療用手袋などに対して、今後数年にわたって301条関税を引き上げる方針が示されています(EVは最大100%)。

今回延長されたのは、代替サプライヤーが限られ、米国内の製造業・医療・エネルギー政策にとって短期的な課税が「自傷行為」になりうる品目にほぼ限定されています。つまり、「戦略的に守る分野」と「一定の猶予を与える分野」を切り分けた結果と見るのが妥当です。

5. 日本・アジア企業にとってのインパクト

5-1. 中国工場から米国向けに輸出している企業

中国拠点から米国へ設備・部品・医療機器コンポーネントなどを輸出している企業は、まず次の点を確認する必要があります:

  • 自社製品が301条のどのリストに該当するか
  • その中で、今回延長された178件の除外に該当するかどうか(HSコードと品目説明ベース)

該当する場合、2026年11月9日(米東部夏時間)まで追加関税なしで輸出できる見通しが立ちます。一方、除外に該当しなければ、従来通りの追加関税負担が継続します。

今回の延長により、「2025年末で採算が合わなくなる」と見込んでいた案件が、あと1年弱は現状条件を維持できるケースも出てくるはずです。

5-2. 「China+1」戦略への影響

ここ数年、多くの企業が301条関税や地政学リスクをきっかけに、中国からベトナム・メキシコ・インドなどへの生産移管を進めてきました。

今回の延長により:

  • 対象品目については、「急いで移管しないと関税で赤字」という状況が一旦後ろ倒し
  • ただし、2026年11月以降の扱いは未定であり、「さらに延長される」という保証はない

という意味で、完全なブレーキではなく、「時間を与えられた」という性格が強いと言えます。

経営的には、キャパ増設や新工場投資は計画通り進めるが、稼働タイミングや投資回収シナリオを1年シフトさせる、といった微調整があり得る局面です。

5-3. 米国顧客との価格交渉・契約条件

301条関税は、サプライ契約の中で「関税分は価格に転嫁する」「関税が変わった場合は再交渉する」といった条項(tax pass-through clause)として組み込まれていることが多くあります。

今回予定されていた2025年末の関税復活が回避されたことにより:

  • すでに2026年価格を「関税復活前提」で見積もっていた場合、値決めの見直し余地
  • 逆に、顧客側から「関税かからないなら値下げを」と逆提案される可能性

も出てきます。

調達側・販売側とも、**「想定していた前提条件が変わった」**という認識を共有し、契約条項の読み直しが必要です。

5-4. HSコードと実務リスク

除外はHSコード(10桁)と商品説明の組み合わせで機械的に判定されます。わずかな仕様差や組み立て工程の違いで、**「同じと思っていた品目が別のコード扱い」**になることも少なくありません。

税関での判定が変われば、突然301条関税の対象になるリスクがあります。

したがって:

  • 米国側輸入者・通関ブローカーと連携し、HTSコードの再確認
  • 過去の輸入実績と今回の除外リストを突き合わせ、該当の有無を「コードレベル」で確認

することが、今回の延長を活かす前提条件になります。

6. ビジネスパーソン向け「2026年11月まで」のアクション・チェックリスト

6-1. 自社影響の棚卸し

輸出入・調達データの抽出

  • 「中国→米国」向けの輸出品目(または米国法人の輸入品目)を洗い出す

HSコード/商品説明と除外リストの照合

  • 自社品目が今回延長された178件のどれかに当たるかを確認
  • 当たる場合は、コストシミュレーションを「延長後の前提」で更新する価値があります

6-2. 「2026年11月9日」をXデーとした逆算

2026年11月9日以降:

a. さらに延長される
b. 一部だけ延長され、多くは失効する
c. 全面失効し、フル関税復活

という複数シナリオを想定し、それぞれについて:

  • 価格・利益率
  • サプライチェーン構成
  • 代替調達・生産移管のロードマップ

を「逆算スケジュール」で描いておくと、政策変更があっても慌てずに済みます。

6-3. 米国の産業政策との整合性を見る

301条関税は、単体で動いているわけではなく:

  • EV・バッテリー・太陽光などへの関税引き上げ方針
  • CHIPS法、インフレ抑制法(IRA)などの国内投資インセンティブ

とセットで設計されています。

自社の事業が:

  • 「米国内生産を増やせば恩典が受けられる分野」なのか
  • 「中国発サプライチェーンに依存すると、今後も関税リスクが高い分野」なのか

を整理することで、投資先・生産地の優先順位も見えやすくなります。

6-4. 「政治リスクを価格に織り込む」文化づくり

今回のように、関税が3カ月延長→さらに3カ月→一気に約1年延長と、政治判断により前提条件が揺れ動く状況が続くと:

  • 「法改正や関税変更は突発的に起きるもの」として
  • 長期契約の価格設定
  • 投資回収期間の設定
  • リスクマージン(政治リスク・地政学リスク)

をあらかじめ**「上乗せしておく」発想**が重要になります。

7. まとめ:関税は「終わる」より「続く」と考える

今回のUSTRによる301条除外の2026年11月までの延長は:

  • 中国依存の高い中間財について、米国企業・産業に「もう少し時間を与える」ための措置であり
  • 同時に、米中間の新たな貿易合意(Kuala Lumpur Joint Arrangement)を履行するための外交パッケージの一部でもありますcassidylevy+2

一方で:

  • EV・バッテリーなど戦略分野では関税引き上げが続いていること
  • 延長はあくまで期限付きの暫定措置であり、恒久的な免除ではないこと

を踏まえると、**「関税リスクが去った」のではなく、「タイムリミットが1年延びた」**と捉えるのが現実的です。

最後に一言

本稿は公開情報に基づく一般的な情報提供であり、法的・税務的アドバイスではありません。実際の取引・投資判断に際しては、必ず通関ブローカー、弁護士、税理士など専門家と相談のうえ、最新のUSTR通知・連邦官報の原文を確認することをお勧めします 。kpmg+1

  1. https://ustr.gov/about/policy-offices/press-office/press-releases/2025/november/ustr-extends-exclusions-china-section-301-tariffs-related-forced-technology-transfer-investigation
  2. https://kpmg.com/us/en/taxnewsflash/news/2025/11/ustr-extends-product-exclusions-china-section-301-tariffs.html
  3. https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/2025/11/modifying-reciprocal-tariff-rates-consistent-with-the-economic-and-trade-arrangement-between-the-united-states-and-the-peoples-republic-of-china/
  4. https://www.cassidylevy.com/news/us-and-china-reach-trade-arrangement-begin-implementation/
  5. https://www.ey.com/en_gl/technical/tax-alerts/ustr-extends-product-exclusions-subject-to-section-301-tariffs-through-29-november-2025
  6. https://www.strtrade.com/trade-news-resources/tariff-actions-resources/section-301-tariffs-on-china
  7. https://www.chrobinson.com/es-us/resources/insights-and-advisories/client-advisories/2025q3/09-02-2025-client-advisory-section-301-tariff-exclusions-extended-through-ovember-2025/
  8. https://x.com/DeItaone/status/1993724259642839126
  9. https://www.fibre2fashion.com/news/textile-news/ustr-extends-tariff-exclusions-on-some-chinese-industrial-goods-306765-newsdetails.htm
  10. https://www.chinadaily.com.cn/a/202511/27/WS6927b8f0a310d6866eb2bae9.html

なぜ世界の自動車マネーは「アメリカ行き」なのか

1. データで見る「自動車投資の重心移動」

1-1. EV関連投資はどこに向かっているか

欧州シンクタンクTransport & Environmentが、主要19社(欧州・米国・日本・韓国・中国OEM)によるEV・電池・充電インフラ投資(2021〜23年、総額2,650億ユーロ)を地域別に分析しています 。結果は明確です:transportenvironment

  • 北米: 37%(970億ユーロ)
    • そのうち81%が米国向け投資(790億ユーロ)
  • 欧州: 26%(700億ユーロ)
  • 中国: 19%
  • その他地域: 残り

つまり、大手自動車メーカーの約4割近いEV関連投資が北米、特に米国に向かっており、欧州や中国よりも「投資先としての魅力」が高いことが数字で裏付けられています 。transportenvironment

1-2. 米国だけを見るとどうか

米国内だけを切り取ると、インパクトはさらに大きく見えます。Biden政権発足(2021年)以降、EVとバッテリーの製造・サプライチェーン向け投資は累計3,120億ドル(約47兆円、1ドル=150円換算)に達しました 。transportenvironment

Rhodium Groupの「Clean Investment Monitor」によると、IRA施行からの3年間で:

  • クリーンエネルギーとクリーンテック製造への実投資は3,510億ドル
  • 未使用の将来投資パイプラインは5,170億ドル
  • そのうち製造向けが1,120億ドルで、その88%がEVサプライチェーン(電池・EV組立・資源)向けtransportenvironment

「EV・電池という成長分野の投資重心は、明確に米国へ移っている」──これが、数字から見える現状です。

2. なぜ投資マネーは米国に集まったのか

2-1. インフレ抑制法(IRA)の”政策効果”

Transport & Environmentの分析は、北米の投資優位の主因を2022年に導入されたIRAと結論づけています 。IRAのポイント:transportenvironment

  • EV購入補助: 最大7,500ドルの税額控除(北米最終組立・一定割合の北米/FTA締結国由来の電池・資源を条件)evdances
  • 電池生産クレジット(45X): 電池セル1kWhあたり35ドル、モジュール10ドルの生産税額控除transportenvironment
  • 低炭素車工場向け融資: 30億ドル規模の融資プログラムtransportenvironment

これらにより、**「EVを売るためには北米で作るのが一番得」**という構図が世界のメーカーに共有されました 。transportenvironment

2-2. 中国EV封じの”100%関税”と欧州の追随

バイデン政権は2024年に対中制裁関税を強化し:

  • 中国製EVへの関税を25%→**100%**に引き上げ
  • EV用リチウムイオン電池や重要鉱物にも**25%**の関税を段階的に導入transportenvironment

欧州連合も2024年に中国EVに対し、最大45.3%の追加関税(既存の10%輸入関税に上乗せ)を導入しました 。transportenvironment

これにより、「中国から完成車を輸入して売る」モデルは成立しにくくなり、北米と欧州の大市場に入りたいなら、その地域で作るか、域内生産拠点(北米ならメキシコ・カナダ)を置く必要が出てきました 。transportenvironment

3. 日本・韓国メーカーはどう動いたか

3-1. トヨタ:ノースカロライナの電池メガプラント

2025年11月、トヨタはノースカロライナ州リバティの電池工場で量産開始を発表しました:automotivelogistics

  • 投資額: 約140億ドル(当初12.9億ドルから段階的に拡大)
  • 能力: 年間30GWh、14ライン(HEV・PHEV・BEV向け)
  • 雇用: 最終的に5,100人規模
  • 追加投資: 今後5年間で100億ドルを北米にコミット

トヨタのEV関連投資の89%は北米向けで、欧州向けはわずか10%です 。transportenvironment

3-2. ホンダ:電池調達と車両生産を”米国寄り”へ

ホンダも米国リスクに直接対応:

  • トヨタの米国工場からハイブリッド車用電池を年間約40万台分調達
  • シビック・ハイブリッド5ドア版の生産を日本からインディアナ州に移管(2025年6〜7月完了予定)reuters
  • 次世代シビックもメキシコからインディアナへ移管予定(2028年5月開始、年産約21万台)reuters

これは「米国内で電池と車をセットで作り、『中国製部材+輸入完成車』という構図から距離を置く」明確なサプライチェーン再構築の動きです。

3-3. 韓国・欧州勢も北米寄り

Transport & Environmentの分析では:

  • ホンダのEV投資の58%、現代自グループの43%が北米向け
  • ステランティスはEV投資の74%を北米に、欧州はわずか10%transportenvironment

欧州はEV投資全体の26%しか引きつけられておらず、その大半が欧州メーカー自身による”身内投資”で、アジア勢からの大型投資は北米ほど集まっていません 。transportenvironment

4. 2025年、「米国一強」に陰り?トランプ政権の逆風

4-1. OBBBA(One Big Beautiful Bill Act)によるクレジット縮小

トランプ政権の法案「One Big Beautiful Bill Act(OBBBA)」は2025年7月に成立し:univis-america+1

  • IRAの気候関連税額控除を大幅削減
  • EV購入クレジット(30D)や商用EVクレジット(45W)は2025年9月30日終了reuters+1
  • 電池製造クレジットは2028年終了(4年前倒し)reuters

4-2. クリーン投資の減速とプロジェクトのキャンセル

Rhodium Groupの2025年Q2レポートによると:

  • 2025年Q2のクリーンエネルギー・輸送投資は前年比+1%の微増ながら、3四半期連続で前期比減少
  • 製造セグメント(電池・EV等)は前年同期比**▲19%**
  • 製造プロジェクトのキャンセル額(50億ドル)が新規アナウンス額(40億ドル)を上回る

AP通信によると、2025年に入ってから140億ドル超のクリーンエネルギー投資がキャンセル・延期され、1万人規模の雇用が失われました。

4-3. EV市場の減速と「ハイブリッド回帰」

トランプ政権下で:

  • 2030年までのEV販売50%目標が撤回federatedhermes
  • 厳格な排ガス規制が緩和
  • 7,500ドルのEV税控除が段階的に終了

結果、2030年のEVシェア見通しは40%→27%に下方修正されました。トヨタやVWなど複数メーカーが、EVシフト一辺倒から**ハイブリッド・ガソリン車を含む”マルチパスウェイ戦略”**に舵を切り直しています 。automotivelogistics

5. それでも「米国シフト」は終わらない:構造的な3つの理由

(1) すでに積み上がった投資パイプラインの大きさ

建設中のクリーンテック製造・エネルギー関連プロジェクトの未投資残高は5,170億ドル、うち製造分が1,120億ドルで、その約9割がEVサプライチェーン関連です。これらは埋没費用として数年かけて投資が継続される性格のものです。

(2) 中国EVへの”関税の壁”と代替生産拠点としての価値

  • 米国:中国製EVに100%関税、EV電池と重要鉱物に25%関税
  • カナダ:ほぼ同水準の関税
  • 欧州:中国EVに最大45.3%の追加課税transportenvironment

結果として、中国メーカーにとって北米・欧州は「現地生産を真剣に検討せざるを得ない市場」となり、北米・欧州に工場を持つ既存OEMとそのサプライヤーにとっては構造的な参入障壁が生まれています。

(3) 欧州の魅力度が”政策面で”出遅れている

  • 欧州は2021〜23年のEV投資のうち26%しか取り込めず
  • その80%は欧州メーカー自身による投資
  • Transport & Environmentは「EUがIRAに対抗する産業政策を欠き、半分近い欧州向けバッテリー投資が対米流出リスクに晒されている」と指摘transportenvironment

**「米国の追い風は弱まったが、欧州がそれ以上に出遅れている」**というのが、2025年時点の冷静な見立てです。

6. 日本企業がとるべき戦略的スタンス

6-1. 「米国一本足打法」は危険だが、「米国軽視」はもっと危険

キャッシュ創出拠点としての北米

高単価SUV・ピックアップ・ハイブリッドを中心に、利益創出の”母屋”として北米を位置づける発想は依然として合理的です 。一方で、OBBBAによる税制変更、規制の振れ幅の大きさ、州政府レベルの政策差を踏まえると、**「州ごとのインセンティブ頼みで過大投資しない」「設備を複数パワートレインに転用可能な設計にする」といった”オプション価値を残す投資設計”**が鍵になります。automotivelogistics

6-2. サプライチェーン設計:3ブロック対応

今後10年を見据えると、自動車サプライチェーンは以下の3ブロックで考えるのが現実的です:

北米ブロック(US+カナダ+メキシコ)

  • 45Xなどの生産クレジットは一定期間残存
  • 100%関税に守られた中国EV不在の市場

欧州ブロック(EU+UK+周辺国)

  • CO2規制が2025年以降強化
  • 中国EVへの関税導入で現地生産の魅力が上昇

中国+新興国ブロック

  • 中国はEV販売の約2/3を占める”EVの本丸”
  • 価格競争と技術進化のスピードが最速

日本企業視点では、実需と収益を取る「北米」、規制・ブランド構築の「欧州」、技術・コスト競争力を磨く「中国・新興国」という役割分担を明確にする必要があります。

6-3. 非OEMプレーヤーにとってのチャンス

完成車メーカーだけでなく、部品・素材・設備メーカーにもチャンスがあります:

  • 電池材料・分離膜・電解液・リサイクル
  • モーター、インバータ、パワーモジュール
  • 熱マネジメントシステム
  • 工場自動化・検査装置

これらは北米に建設中のEV・電池工場群に対して長期的な需要が見込める分野です。

まとめ:米国に傾く潮流を「前提条件」として、どう勝ち筋を描くか

  • EV・電池関連投資の重心はこの数年で米国・北米に大きく傾いたtransportenvironment
  • その原動力はIRAを中心とした積極的な産業政策と対中関税であり、欧州は政策・投資両面で出遅れているtransportenvironment
  • 一方で、2025年のトランプ政権によるOBBBAと環境規制の巻き戻しで、「補助金頼みのEV投資」は明確に逆風に入ったkiplinger+1
  • それでも、すでに積み上がった巨額の投資パイプラインと巨大な国内市場、中国EVを阻む関税の壁がある限り、北米は当面、自動車投資の最大級の受け皿であり続ける

したがって、日本企業にとって重要なのは、「米国シフトの波に乗るか/乗らないか」ではなく、**「どの程度のリスクを取り、どれだけオプション性を確保しながら米国を活用するか」**という設計です:

  • 設備とサプライチェーンは複数パワートレイン対応・複数地域調達可能にしておく
  • 政権交代や関税、規制変化を前提としたシナリオプランニングを経営計画に織り込む
  • 北米・欧州・中国+新興国それぞれの役割を決めたうえで、自社が「どのブロックで何を取りに行くのか」を明文化する

こうした視点を持てるかどうかが、「米国に傾く自動車投資の潮流」をチャンスに変えられるかどうかの分かれ目になっていきます。


※本記事の内容は、公開データ・公的機関・主要メディア(Rhodium Group, Transport & Environment, Reuters, AP等)の情報をもとに確認し、日本語として読みやすい形に整理・校正しています 。reuters+5

  1. https://www.automotivelogistics.media/nearshoring/toyota-to-invest-10bn-in-us-operations-over-five-years-as-battery-manufacturing-plant-opens-in-north-carolina/2127389
  2. https://www.telemetryagency.com/post/november-13-2025-toyota-launches-1st-north-american-battery-plant
  3. https://www.kiplinger.com/taxes/ev-tax-credit
  4. https://www.edmunds.com/fuel-economy/the-ins-and-outs-of-electric-vehicle-tax-credits.html
  5. https://www.univis-america.com/individual-tax/obbba/
  6. https://www.reuters.com/business/energy/trump-hits-brakes-electric-vehicle-growth-now-2025-07-28/
  7. https://www.dir.co.jp/report/research/economics/usa/20250711_025201.html
  8. https://www.reuters.com/business/autos-transportation/honda-shift-production-us-bound-5-door-civic-hybrid-indiana-japan-2025-04-16/
  9. https://www.reuters.com/business/autos-transportation/honda-produce-next-civic-indiana-not-mexico-due-us-tariffs-sources-say-2025-03-03/
  10. https://www.transportenvironment.org/uploads/files/2024_06_OEM_EV_investment_briefing_compressed.pdf
  11. https://evdances.com/blogs/blog/understanding-the-inflation-reduction-act-ira-tax-incentives-for-electric-vehicles-and-clean-energy
  12. https://www.federatedhermes.com/us/insights/article/trump-administration-makes-an-ev-u-turn.do
  13. https://www.irs.gov/credits-deductions/credits-for-new-clean-vehicles-purchased-in-2023-or-after
  14. https://electrificationcoalition.org/work/federal-ev-policy/inflation-reduction-act/
  15. https://www.energystar.gov/about/federal-tax-credits
  16. https://www.transportenvironment.org/articles/europes-automotive-industry-at-a-crossroads
  17. https://www.bruegel.org/policy-brief/smart-european-strategy-electric-vehicle-investment-china
  18. https://about.bnef.com/insights/clean-transport/global-electric-vehicle-sales-set-for-record-breaking-year-even-as-us-market-slows-sharply-bloombergnef-finds/
  19. https://climate.ec.europa.eu/news-your-voice/news/innovation-fund-2024-investing-future-net-zero-technologies-and-electric-vehicle-battery-cell-2025-05-14_en
  20. https://www.virta.global/global-electric-vehicle-market

【お知らせ】ついに公開。「HSコード・ファインダー(HSCF)」公式サイトを立ち上げました。

長らく開発を続けてまいりました「HSコード・ファインダー(HSCF)」ですが、 いよいよ本日、正式に利用が可能となりました。

貿易実務や通関業務において、やはり「HSコード」の特定は悩ましい課題のひとつ。 その課題に真っ直ぐ向き合うツールとして、ようやく皆様にお届けできます。

▼ 新サイトはこちら [https://global-scm.com/hscf/]

今後、HSCFに関する操作方法のQ&Aや、HSコードにまつわる最新情報、FAQなどのコンテンツは、すべてこの新サイトに集約して発信していきます。

ぜひブックマークしていただき、日々の業務にお役立てください。 今後ともよろしくお願いいたします。

メキシコ自動車関税案:「棚上げ」の深層と日本企業の対応策

1. 背景:50%関税案は「廃案」ではなく「延期」へ

2025年9月の改正案提出と衝撃
2025年9月、メキシコのシェインバウム政権は2026年度予算関連法案の一環として、輸出入関税法(LIGIE)の改正案を議会に提出しました。その核心は、一般関税率(MFN税率)の大幅な引き上げにあります 。spglobal+1

  • 対象品目: 自動車、同部品、鉄鋼、繊維など1,463品目
  • 関税率:
    • 自動車(EV含む):現行15〜25% → 最大50%argusmedia
    • 自動車部品:多くの品目で35%前後へ引き上げargusmedia
  • 影響範囲: メキシコとFTAを締結していない国(中国、韓国、インド、タイ、トルコ、ロシアなど)からの輸入約500億ドル相当photonpay+1

重要事項: 日墨EPAやCPTPP、USMCA(米国・カナダ)の要件を満たす「FTA相手国原産品」は、今回の引き上げ対象外です。日本原産品は引き続き無税または低関税が維持されます。

最新動向:2027年までの審議凍結
しかし、2025年10月28日、メキシコ連邦下院・経済通商競争委員会は、同法案の最終案取りまとめ期限を**「2027年8月末まで延長」**することを決定しました。これにより、法案が本会議で採決されるのは数年先となり、事実上の「棚上げ」となりました 。mex.news.o-abroad

【注意】ここが最大のリスクです
法案審議は止まりましたが、メキシコ憲法第131条および貿易法第4条に基づき、大統領は**「政令(Decreto)」によって関税率表(TIGIE)を随時変更する権限**を持っています。「包括的な法改正」は延期されましたが、「政令による特定品目のピンポイント利上げ」はいつでも発動可能な状態にある点に警戒が必要です 。whitecase+1

2. 延期の要因:国内産業の混乱と中国の反発

今回の決定の背景には、内外からの強い圧力がありました。

(1) 国内産業界からの悲鳴
急激な関税引き上げは、非FTA国からの輸入に依存するメキシコ国内産業を直撃します。

  • 自動車ディーラー協会(AMDA): 「中国ブランド車等を扱う約800店舗・3.2万人の雇用が危機に瀕する」と警告。
  • 自動車部品工業会(INA): 北米で調達不可能な部材をアジアに依存しており、製造コスト増による競争力低下を懸念。
  • 経営者団体(COPARMEX): 「中国対策の必要性は理解するが、一律50%への急激な引き上げはインフレを招く」として、段階的導入を要請しました 。bloomberg

(2) 中国による対抗措置の示唆
中国商務省は2025年9月、メキシコの関税方針に対し「貿易・投資障壁調査」の開始を発表し、強く牽制しました 。メキシコ新車市場における中国製車両(中国ブランドおよび欧米メーカーの中国生産車)のシェアは20.2%に達しており、経済的な結びつきは無視できないレベルにあります 。cfr+1

(3) 「2027年まで」の政治的意味
委員会による審査期限の延長は、以下のバランスを取るための高度な政治的判断といえます。

  • 財界へ: 「当面の間、急激な変更は行わない」という安心感を与える。
  • 中国へ: 「法案は確定していない」と逃げ道を残す。
  • 米国へ: 「法案自体は撤回していない」と対中姿勢をアピールする。

3. 延期の裏にある「3つの政治的意図」

公表情報と報道 から読み解く、政府の本音は以下の通りです。unav+1

  1. サプライチェーン再編のための時間稼ぎ
    名目は「国内生産の促進」ですが、現状のメキシコ産業はアジア製の部材・設備に依存しており、即時の50%関税に耐えられません。2027年までの猶予期間中に、調達網の北米シフト(ニアショアリング)を進めさせる狙いがあります。
  2. 米中対立の緩衝材(クッション)
    メキシコは「最大の顧客である米国」と「重要な供給元である中国」の板挟み状態にあります。期限延長は、米国の圧力(中国締め出し)に応える姿勢を見せつつ、中国からの即時の報復を回避するための「時間軸による調整弁」として機能しています。
  3. 2026年USMCA見直しへの「交渉カード」
    2026年に予定されるUSMCA(T-MEC)の再検討に向け、メキシコは「対中関税強化」というカードを温存しました。これを交渉材料として、米国から投資優遇や関税緩和などの有利な条件を引き出そうとする意図が透けて見えます 。reuters

4. 日本企業への影響:リスクと好機

4-1. 「日本原産」は安全だが、「メキシコ生産」は別問題
日本からの輸出品(日本原産)はEPA/CPTPPで守られますが、**「メキシコ工場がアジアから調達している部材」**はMFN関税引き上げの対象となり得ます。

4-2. リスクが高い企業の特徴

  • アジア部材依存型: 中国・韓国・タイ等の部材をメキシコで組み立てている(原産地規則上、非FTA原産となるケース)。
  • 経由輸出(迂回)型: 日本製品を中国・アジア経由でメキシコへ入れているケース。
  • IMMEX活用企業: 将来的に特定品目が免税対象から外れ、事後的に高関税が課されるリスク。

4-3. 日本企業にとってのチャンス
中国製品のコスト競争力が低下すれば、日本製品や北米生産品への回帰が進む可能性があります。品質と信頼性を武器に、メキシコ市場でのシェアを拡大する好機ともなり得ます 。automotivelogistics

5. 実務担当者が今すぐ取るべき5つのアクション

  1. 関税影響マップの作成(HSコード × 原産国)
    現在の輸入部材について、「現行税率」と「50%適用時の税率」を比較し、コストインパクトを可視化してください。これがサプライチェーンの健康診断となります。
  2. 「脱・非FTA国」調達のシミュレーション
    調達先を中国・非FTA国から、日本・北米・ベトナム(CPTPP加盟国)等へ切り替えた場合のコスト・リードタイムを試算してください。単価が多少上がっても、50%関税より安価なケースは多々あります。
  3. PROSEC / レグラ・オクターバの活用準備
    産業分野別生産促進プログラム(PROSEC)や、部材の無税輸入許可(レグラ・オクターバ)の適用可能性を確認してください。政令による突発的な関税変更に備え、事前登録だけでも済ませておくことを推奨します 。monarch-global
  4. 契約への「関税変動条項」の明記
    将来の関税上昇分を誰が負担するか、価格改定のトリガー条件などを、サプライヤーおよび顧客との契約書に明文化してください。
  5. 2026-2027年を見据えたシナリオプランニング
    「2026年 USMCA再交渉」と「2027年 法案審議期限」を節目として、関税が発動された場合の在庫戦略や資金繰りへの影響を今のうちにシミュレーションしておくことが重要です。

6. まとめ:猶予期間を活かせるか

  • 「廃案」ではなく「延期」: 2027年まで法案審議は止まるが、政令によるリスクは残る 。mex.news.o-abroad
  • ターゲットは明確: 自動車・電機・機械分野における「非FTA原産品」が狙い撃ちされている 。argusmedia
  • タイムリミットは2〜3年: この期間に関税耐性のあるサプライチェーンへ組み替えられた企業だけが、北米市場での勝者となります。

本記事は2025年11月27日時点の情報に基づいています。メキシコの通商政策は流動的であるため、最新の官報(DOF)および専門家のレポートを継続的に確認してください。

  1. https://www.spglobal.com/ratings/en/regulatory/article/mexican-tariffs-a-speedbump-to-chinese-auto-firms-overseas-expansion-s101645512
  2. https://www.whitecase.com/insight-alert/mexico-proposes-significant-customs-and-tariff-reforms-part-2026-economic-package
  3. https://www.argusmedia.com/en/news-and-insights/latest-market-news/2730867-mexico-to-raise-auto-import-tariffs-to-50pc
  4. https://www.reuters.com/business/autos-transportation/mexico-auto-industry-warns-complex-outlook-ahead-usmca-review-2025-10-02/
  5. https://mex.news.o-abroad.com/~/economy/178543-en-mexico-doubts-over-tariff-reform-approval-70-billion-peso-revenue-expected.html
  6. https://monarch-global.com/2025/08/16/friendshoring-brings-industrial-sized-investment-opportunity-2-2-5-3/
  7. https://www.photonpay.com/hk/blog/article/mexico-tariff-policy-2025?lang=en
  8. https://www.bloomberg.com/news/articles/2025-11-10/sheinbaum-s-china-tariffs-plan-meets-business-party-backlash
  9. https://www.cfr.org/article/china-latin-america-september-2025
  10. https://www.unav.edu/web/global-affairs/sheinbaums-trade-calculus
  11. https://www.reuters.com/business/autos-transportation/mexico-discuss-tariff-hikes-with-china-others-before-making-law-2025-10-09/
  12. https://www.automotivelogistics.media/supply-chain/port-congestion-competition-pressures-loom-as-mexico-set-to-increase-tariffs-on-chinese-vehicle-imports/1608705
  13. https://www.jetro.go.jp
  14. https://mexicobusiness.news/automotive/news/mexicos-auto-industry-prepares-tariff-supply-chain-shocks
  15. https://www.prodensa.com/insights/blog/how-tariffs-are-shaping-automotive-manufacturers-in-mexico
  16. https://radiocomply.com/mexico-ift-delays-enforcement-of-ift-seal-requirements-amid-institutional-changes/
  17. https://www.argusmedia.com/es/news-and-insights/latest-market-news/2745164-mexico-s-reforms-constrain-gdp-growth-imef
  18. https://economic-research.bnpparibas.com/Media-Library/en-US/impact-will-Mexico-tariffs-have-imports-example-automotive-sector-10/21/2025,c44343
  19. https://www.alvarezandmarsal.com/thought-leadership/mexico-s-2026-customs-law-key-changes-for-global-trade
  20. https://www.dallasfed.org/research/pubs/25trade/a3
  21. https://www.lemonde.fr/en/economy/article/2025/09/14/china-outraged-by-mexico-s-automotive-tariffs_6745399_19.html

国際取引の新常識:「関税変動条項」導入の実務ガイド

~トランプ関税・報復関税リスクへの「攻め」の契約戦略~

現代の国際取引環境において、契約書に「関税変動条項(Tariff Adjustment Clause)」が含まれているかどうかで、ビジネスリスクの所在は劇的に変わります。本稿では、日本企業の海外事業・法務担当者向けに、その重要性と導入のポイントを整理します。

※免責事項
本稿は一般的な情報提供を目的としており、法的助言を意図したものではありません。最終的な契約条項の策定にあたっては、必ず管轄法域の弁護士にご相談ください。


1. なぜ今、「関税変動条項」が必須なのか

「関税は固定コスト」という前提の崩壊

トランプ政権(第2次)による広範な関税政策や、それに対する各国の相互関税(レシプロカル関税)により、関税率は「一夜にして」変動する変数となりました。米国の対中追加関税や大統領令による緊急的な税率変更はその典型です。
一部の調査では、過去のトランプ関税を受けて契約見直しを検討した日本企業は約2割にのぼるとされていますが、現場レベルでは依然として「価格は数年間固定」「DDP(関税込持込渡し)条件だが、関税急騰時の免責がない」といった契約が多く見受けられます。

コスト転嫁の失敗を防ぐ

関税変動条項がない場合、突然の関税引き上げ分は、インコタームズ上の関税負担者(DDPなら売り手、FOB/CIFなら買い手)が全額被ることになります。薄利な取引であれば、一度の関税引き上げで利益が吹き飛び、赤字事業へ転落するリスクがあります。
こうした背景から、国際的な法律事務所やロジスティクス業界では、関税リスクを契約上の「変動要素」として定義することが強く推奨されています。


2. 「関税変動条項」の基本概念

2-1. 定義と目的

関税変動条項とは、**「契約期間中に、関税や関連する政府賦課金(サーチャージ等)が変動した場合に、そのコスト増減を価格にどう反映させるか、あるいは誰が負担するかをあらかじめ定めた条項」**です。

海外の実務では以下のような名称で呼ばれ、導入が進んでいます。

  • Tariff Adjustment Clause(関税調整条項)
  • Trade War Clause(貿易戦争条項)
  • Price Escalation Clause with Pass-through(転嫁メカニズム付き価格調整条項)

2-2. 「不可抗力(Force Majeure)条項」との決定的な違い

多くの企業が「関税が上がったら不可抗力条項で逃げられる」と考えがちですが、これは危険な誤解です。

  • 不可抗力条項: 戦争や天災などにより「履行が不可能」になった場合に適用されます。裁判所はこれを狭く解釈する傾向があり、「単にコストが上がって採算が合わない(経済的困難)」というだけでは、履行免除が認められないケースが大半です。
  • 関税変動条項: 履行が可能であることを前提に、「コストの変動分をどう処理するか」を定めるものです。

したがって、現代の契約実務では**「不可抗力条項+関税変動条項」のセット運用**が世界的なトレンドとなっています。


3. 代表的な3つの条項パターン

関税変動条項は、リスクの分担方法によって大きく3つに分類できます。自社の立場(売り手か買い手か)と交渉力に応じて使い分ける必要があります。

3-1. 単純パススルー型(全額転嫁型)

  • 内容: 契約締結後に発生した追加関税や税率引き上げ分の「実費全額」を、相手方に請求(価格上乗せ)する。
  • メリット: 計算が単純で、負担の所在が明確。
  • デメリット: 一方の当事者に負担が集中するため、相手方の抵抗が強く、合意形成の難易度が高い。

3-2. リスク分担型(コストシェア型)

  • 内容: 「関税コストが契約時点比でX%を超えて上昇した場合、その超過分を当事者間で折半(50:50)する」といった設計。
  • メリット: 双方が痛みを分け合うため、長期的なパートナーシップを維持しやすい。
  • デメリット: どこまでを「関税由来のコスト」とするかの計算根拠で揉める可能性がある。

3-3. トリガー付き再交渉・解除型

  • 内容: 「関税変動により総コスト(Landed Cost)がY%以上上昇した場合、価格について再協議を行う。一定期間内に合意できない場合は契約を解除できる」とするもの。
  • メリット: 「これ以上の負担増はビジネスとして成立しない」という撤退ライン(損切りライン)を明確にできる。
  • デメリット: 再交渉決裂による契約終了のリスクがあるため、供給安定性を重視する顧客からは敬遠される場合がある。

4. 日本企業がとるべき実務ステップ

Step 1:リスクの棚卸し(インコタームズ×HSコード)

まず、既存契約のインコタームズを確認し、自社が関税負担者となっている取引(DDP等)を特定します。次に、それらの製品のHSコードが「報復関税や輸入制限の対象になりやすい品目(自動車、鉄鋼、半導体、EV関連等)」かどうかを洗い出します。

Step 2:シナリオ分析とボトルネックの特定

「米国関税一律+10〜20%」「特定国向け報復関税+60%」など、現実的なシナリオを策定し、現在の粗利率でどこまで耐えられるか(損益分岐点)を試算します。これにより、「関税発動で即赤字になる契約」を優先的な対策対象として特定します。

Step 3:新規契約への標準搭載

今後締結する契約には、以下の要素を含む条項を標準的に盛り込むべきです。

  • 変動の定義: 新税の導入、税率変更、アンチダンピング税、HSコード変更による税率増など。
  • 基準点: どの時点の税率をベースラインとするか(契約日か見積提出日か)。
  • トリガー: どの程度の変動で発動するか(例:5%超の変動)。
  • 調整方法: 自動的な価格改定か、協議か。

Step 4:既存契約の「追補(覚書)」検討

長期契約については、契約更新時や中間レビューのタイミングで覚書(Amendment)を締結し、条項を追加します。「昨今の地政学リスクの高まりを受け、安定供給を維持するために相互のリスクヘッジが必要」という文脈で提案するのが有効です。

Step 5:運用体制の構築(三位一体)

条項があっても運用できなければ意味がありません。

  • 貿易・通関部門: 関税変更のモニタリングと影響額の計算。
  • 法務・購買部門: 契約条項の解釈と通知書の作成。
  • 事業部門: 顧客への説明と価格交渉。
    この3部門が連携して動ける体制を作ることが重要です。

5. ドラフティング(条文作成)の注意点

効果的な条項にするために、以下のポイントを押さえてください。

  1. トリガーを数値化する:
    「著しい変動」などの曖昧な表現を避け、「当初見積もりの関税額から○%以上の増加」など、客観的な数値を基準にします。
  2. 対象範囲を広げる:
    単に「Customs Duty」とするだけでなく、「Tariffs, levies, surcharges, import taxes, quotas(割当)」など、政府による貿易制限措置を包括的に含めます。
  3. 証拠書類を指定する:
    価格改定の根拠として、どのような書類(輸入許可通知書、税関の公式発表など)を提示するかを明記し、紛争を予防します。
  4. 「値下げ」も規定する(公平性):
    関税が下がった場合には価格を引き下げる条項も入れておくことで、契約の公平性(Fairness)をアピールでき、相手方の合意を得やすくなります。

6. 条文イメージ(サンプル)

条文例(概要)

第○条(関税等の変動)

  1. 本契約締結日以降、対象製品の輸入に関連して適用される関税、輸入税、その他公租公課(以下「関税等」という)の新設、税率変更、または分類変更が生じ、これにより売主(または買主)が負担すべき関税等の額が契約締結日時点と比較して【○%】を超えて増加した場合、当事者は信義誠実の原則に基づき協議を行い、当該増加分を反映した価格改定を行うものとする。
  2. 前項の協議開始から【△日】以内に価格改定の合意に至らない場合、不利益を被る当事者は、相手方に対する書面による通知をもって、本契約の全部または一部を解除することができる。
  3. 関税等の負担額が契約締結日時点と比較して【○%】を超えて減少した場合も第1項と同様とし、買主からの請求に基づき、売主は価格の引下げについて協議するものとする。

まとめ:関税変動条項は「経営を守る盾」

関税リスクが常態化した現在、関税変動条項は単なる法務上のテクニックではなく、企業の利益を守るための必須の経営ツールです。「先に条項を入れておく」ことで、突発的な事態における交渉の主導権を確保し、予見可能性を高めることができます。

まずは自社の主要な海外取引について、「どの契約が無防備か」を棚卸しすることから始めてみてはいかがでしょうか。

【メキシコ】最大50%関税案、2027年まで「棚上げ」の背景と日本企業への影響

【メキシコ】最大50%関税案、2027年まで「棚上げ」の背景と日本企業への影響

現在報じられている「メキシコ財界による最大50%関税案の延期要請」というニュースは、要約すると以下の通りです。

「中国などFTA非締約国からの約1,400品目に対し、最大50%の関税を課すという法改正案に対し、メキシコ経済界が『急激な実施は経済への打撃が大きい』として、少なくとも2027年までの延期・段階的適用を議会に働きかけ、審議が延長された」

これは単なる「対メキシコ輸出」の話ではなく、**「メキシコ生産拠点で、中国・アジア製の部材や設備を使用している日本企業」**のコスト構造に直結する重要な局面です。


1. 何が起きているのか(現状の整理)

シェインバウム新政権下の経済政策(および前政権からの流れ)の一環として、中国、インド、韓国、台湾など**「FTAを締結していない国」からの輸入品(約1,400〜1,500品目)に対し、最大50%の関税を課すLIGIE(一般輸出入税法)改正案**が下院で議論の遡上に載りました。

  • 対象分野: 自動車・EV部品、鉄鋼・アルミ、繊維・衣料、プラスチック、家具、玩具、電子機器など多岐にわたります。
  • 影響規模: 輸入額ベースで約500億ドル規模(メキシコ全輸入の約8〜9%)に及ぶと試算されています。
  • 目的:
    1. 対アジア貿易赤字の縮小と国内産業の保護(”Plan México”)。
    2. 2026年のUSMCA(米墨加協定)見直し協議を見据え、米国が求める「対中包囲網」に同調する姿勢を示すこと。

2. すでに進行している「関税強化」の流れ

今回の法案は突発的なものではなく、2024年から続く一連の保護主義的政策の延長戦上にあります。

  • 2024年4月(大統領令):鉄鋼、アルミ、繊維、電機など544品目に対し、5〜50%の臨時輸入関税を導入(2026年4月まで有効)。ターゲットは主に中国などのFTA非締約国。
  • 2024年末(繊維・アパレル規制):糸・生地(15%)、衣類(35%)への関税引き上げに加え、IMMEX(保税加工プログラム)の対象外リスト(Annex I)を拡大。「免税で輸入し、加工して再輸出」という抜け道を塞ぐ動きが強まっています。
  • 2025年以降の構想:今回のLIGIE改正案では、MFN(最恵国待遇)関税率そのものを底上げし、自動車(中国製完成車など)の関税を一律50%へ引き上げる案なども浮上していました。

3. 財界の懸念と「延期要請」の理由

メキシコ経営者連盟(Coparmex)などの産業界は、以下の理由から急激な関税引き上げに強く反対しています。

  1. コスト急増とインフレ懸念多くの製造業がアジア製部材や設備に依存しており、最大50%の関税は製造原価を直撃します。これが最終製品価格に転嫁されれば、インフレを加速させ、消費者の実質所得を圧迫します。
  2. 輸出競争力の低下(ニアショアリングへの逆風)コスト増は対米輸出の価格競争力を削ぎます。自動車業界などでは「採算悪化による雇用喪失」への懸念も示されています。
  3. サプライチェーンの断絶リスク金型や特定電子部品など、北米内で代替調達が困難な品目も多く、「代替先がないのに関税だけ上がれば操業停止を招く」との悲鳴が上がっています。
  4. 中国との関係悪化中国はメキシコにとって第2の貿易相手国です。中国側は既に対抗措置を示唆しており、EV投資や部材供給における地政学リスクが高まっています。

【財界の要求】

「2026年の一括実施ではなく、2027年までの段階的導入とし、品目ごとに国内供給能力を見極めた調整を行ってほしい」とロビー活動を展開しました。

また、与党モレナ(MORENA)所属のポレンスキー下院議員(元党首)も「中国からの投資誘致と雇用創出を優先すべき」と述べ、拙速な関税引き上げが招くインフレや企業倒産のリスクに警鐘を鳴らしています。

4. 政府・議会の対応:事実上の「棚上げ」へ

  • 行政府(大統領府):シェインバウム大統領は、関係国との協議や案の修正を検討するため、議会での即時承認を急がない姿勢を示唆しました。
  • 議会(下院経済委員会):10月末、下院の経済通商競争委員会は、LIGIE改正案の審査期限を**「2027年8月末まで」延長**することを決定しました。

これにより、「議会を通じた法改正による大幅な関税引き上げ」は、当面の間(2027年まで)凍結される公算が高まりました。

⚠️ 注意点:リスクは消えていない

議会審議は延期されましたが、メキシコでは大統領令(政令)によって関税率を変更することが可能です。法改正が停滞しても、行政判断で突発的に関税が引き上げられるリスクは依然として残っています。

5. 日本企業へのビジネスインパクトと対策

5-1. 影響を受けやすい企業
  • アジア部材依存型: メキシコ工場で中国・韓国・インド等の部材を多用している(自動車部品、電子機器、機械など)。
  • 迂回輸出型: 日本から中国・アジアを経由してメキシコへ供給している商流。
  • IMMEX活用企業: 一部品目がIMMEXの恩恵を受けられなくなっており、「免税のつもりがあとで課税される」リスクがあります。
5-2. 日本企業の優位性

日墨EPA(経済連携協定)があるため、「日本原産品」はMFN関税引き上げの影響を直接受けません。

中国製品のコスト増により、メキシコ市場において日本製品(または日本企業の北米生産品)への切り替え需要が発生するチャンスでもあります。

5-3. 推奨されるアクション

この「猶予期間(〜2027年)」をどう使うかが鍵となります。

  1. 「関税影響マップ」の作成主要部材について「HSコード(2022年版)×原産国」を洗い出し、MFN税率引き上げ時のインパクトを可視化する。
  2. 調達先の見直し(脱・非FTA国)日墨EPA、CPTPP、USMCAをフル活用し、原産地をアジアから「日本・北米・ベトナム(CPTPP)」などへシフトするコストシミュレーションを行う。
  3. PROSEC / Regla Octava の活用産業分野別生産促進プログラム(PROSEC)への登録や、特別無税輸入許可(Regla 8ª)の活用準備を進め、関税引き上げ時の「防波堤」を作っておく。
  4. 契約条件の再交渉関税コストの負担区分について、顧客やサプライヤーと条項を見直しておく。

まとめ:ビジネスマンが押さえるべき3点

  1. 50%関税案は「消滅」ではなく「延期」:議会ルートは2027年まで棚上げだが、大統領令による奇襲的な引き上げ余地は残っている。
  2. ターゲットは「非FTA原産 × 戦略物資」:日本企業のメキシコ拠点が得意とする自動車・電機・機械分野が狙い撃ちされている。
  3. 2027年までが「構造改革」のタイムリミット:2026年のUSMCA再交渉とセットで、北米の通商ルールは激変する。今のうちにサプライチェーンを「関税耐性」のある形へ組み替える必要がある。