中国レアアース輸出規制と米国追加100%関税:実務者向けアップデート

2025年10月15日(日本時間)時点


現在の状況(要旨)

中国側の措置:2025年10月9日付で、レアアース関連物品と技術の輸出管理を大幅強化。中国原産レアアースを含む国外製造品にも域外適用(価値比率0.1%以上)。一部措置は12月1日施行。技術の「みなし輸出」も対象化。

米国側の措置:トランプ大統領が11月1日から中国からの輸入品に追加で100%関税を課す方針を表明(既存関税に上乗せ)。ただし発動は中国側の対応次第で、USTRは「実施可否は協議の行方で決まる」と発言。現時点で正式な官報告示は未掲載。


タイムライン

10月9日(中国):MOFCOM公告第61号/第62号を発表。中国原産のレアアース関連製品・技術を広範に輸出許可制に。国外製造品・技術利用品にも域外適用の枠組みを導入。

10月10日(米国):トランプ大統領、11月1日(または前倒しの可能性)から追加100%関税を発表。

10月14日(米国):USTRグリア代表、「11月1日発動は中国の行動次第、前倒しの可能性も」と発言。米中は実務者協議中。

10月14–15日(中国/産業):中国は米側に事前通知済みと説明。レアアース磁石の輸出許可取得が厳格化との報道。


中国の新しいレアアース輸出規制(実務ポイント)

対象物品

レアアース関連物品と技術。永久磁石材料(NdFeBなど)、製錬分離、磁性材料製造、二次資源リサイクル関連技術等が含まれる。

域外適用(国外製造品への波及)

中国原産レアアースを0.1%以上(価値比)含む国外製造品の輸出(再輸出)にも中国の許可が必要(2025年12月1日施行)。輸出者は中国原産レアアース比率を示す「コンプライアンス通知書」の発行が義務。

技術規制・みなし輸出

外国人への社内提供(中国国内での提供)も「輸出」に該当。許可・事後報告等の義務あり。

直近の運用状況

磁石の輸出許可取得の審査が厳格化しているとの複数報道あり。

注記:JETROやCISTECの速報では、中・重希土類関連品目の拡大や対象リストの更新にも言及。対象品目の最終確認は各告示付属書を参照のこと。


米国の追加100%関税の位置づけ(現時点)

大統領は「既存の関税に上乗せ」と明言。多くの品目で合算155%程度(例:301条25%+IEEPA30%+今回100%)に達し得るとの日本向け解説が出ている。

正式発動は未確定で、USTRは中国側対応次第と説明。

法的実装の現状:この種の関税では、HTS改正・官報告示が必須。2025年10月15日時点でUSTRサイト/官報に11月1日開始の100%告示は見当たらず(現時点は「方針表明」段階)。

既存関税との関係:既存の追加関税の平均は約55%との米報道。今回が発動すると「さらに100%上乗せ」という整理。

実務メモ:米関税は「米国入港・輸入申告時点(entry)」で適用可否が決まるのが通例。船積日ではなく通関日に注意(最終は官報告示とCBPガイダンスで確認)。


影響が出やすい日本企業の領域

EV/HEVモーター用磁石、産業モーター、風力発電:レアアース磁石の供給ボトルネック化。欧州自動車業界へのリスク指摘も。

スマホ/PC、半導体製造関連、精密部材:研磨材や合金添加など希土依存の「隠れ用途」。

日系の対米輸出サプライチェーン:第3国生産品でも、中国原産レアアースを含むと中国側の輸出許可が必要(12月1日~)。


実務チェックリスト(部門別)

A. 調達・サプライチェーン

部材BOMの洗い出し:Nd、Pr、Dy、Tb、NdFeB磁石、研磨材等の中国原産レアアース含有有無と価値比を特定。0.1%閾値超の可能性を確認。

サプライヤー宣誓書:中国原産レアアース比率の記載・通知書(Compliance Notification)発行体制の整備。

代替調達の検討:非中国系の原料・磁石サプライヤーへのRFQ開始(リードタイム長期化前提)。市況のタイト化に留意。

B. 輸出管理・法務(中国発・域外適用対応)

中国向け社内規程の更新:みなし輸出(社内の外国人への技術提供)の許可要否判定フローを追加。

中国発の対外出荷:許可要否(軍事ユーザー・最終用途)を審査、事後報告などの手続を整備。

国外製造→第3国への再輸出(12月1日~):0.1%判定、通知書の発行、該当時の中国当局許可の実務を準備。

C. 対米輸入・販売(米国側)

11月1日適用品目・通関時点の管理:米国到着/輸入申告のタイミング調整(entry基準)。ブローカーとHTS・加算関税適用可否を仮設計。

価格・契約:Tariff pass-through条項、リオープナー(再交渉条項)、インコタームズの見直し(DDP/FOB/CIF)。

コスト試算例

  • 関税課税価格=$100
  • MFN 0%、既存:301条25%+IEEPA30%=55%
  • 今回:+100% → 合計155%
  • 関税=$155、到着原価(税抜)=$255(諸税・手数料別)
  • ※最終は品目ごとのMFN・免除・告示を要確認

よくある誤解と注意点

「船積日で逃げ切れる?」:多くの場合、米国通関日(entry)で判定。スケジュール遅延もリスク。

「第3国で組立てれば米100%は回避?」:米側の原産地判定は「実質的変更」が鍵。中国原産のままなら対象。逆に第3国原産になれば米100%の対象外になり得るが、中国側は0.1%域外適用で許可要になる可能性。

「もう確定発動?」:USTRは中国の対応次第と明言。官報告示と実装HTS改定の有無を必ず確認。


シナリオ別の想定

ベースケース:11月1日までに折衝継続、官報告示が出れば関税発動。

エスカレーション:前倒し発動や、対象拡大・追加的な輸出管理(米国側のソフト/技術規制強化)を併用。

ディエスカレーション:中国がレアアース規制の一部を緩和/運用緩和→100%追加関税見送りの可能性。


すぐに打つべき3アクション(日本のビジネス現場向け)

サプライヤー一斉調査(今週中):中国原産レアアース比率、磁石/粉末/合金の有無、0.1%超の可能性、通知書発行可否を調査。

輸送・通関計画の前倒し/後ろ倒し:米国通関日ベースで影響最小化。必要に応じて在庫の前倒し確保。

価格と契約の再設計:関税サーチャージ条項、価格自動調整、解除権、不可抗力条項の整備(官報告示発出をトリガーに)。


主要情報源

  • USTR発言:「11月1日発動は中国の行動次第、前倒しの可能性」
  • 大統領発表:「11月1日から追加100%、既存に上乗せ」
  • 既存関税の上に積み上げ・合算155%程度の解説
  • 中国の新輸出規制の原文要点(公告61/62)と実務
  • 磁石許認可の厳格化報道/欧州自動車業界への波及懸念

実務上の注意

本メモは報道・公表資料に基づく整理です。米国側は官報(Federal Register)とHTS改定告示が最終根拠、中国側は公告・付属書の最新版が最終根拠です。最終判断前に貴社の通関業者・法律顧問・輸出管理責任者と必ず原典確認してください。

 

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