最終更新:2025年12月20日
日本のEPA/FTA(経済連携協定/自由貿易協定)交渉は、現在「数より質」のフェーズにあります。足元では**「中東(UAE・GCC)」と「南アジア(バングラデシュ)」**が急速に進展する一方、停滞・中断している案件との二極化が鮮明になっています。
2025年1月時点のデータでは、日本の貿易額に占めるEPA発効・署名済みの割合は**78.8%ですが、現在交渉中の案件を含めると87.1%**に達します。この「残り約8%の空白」をどう埋め、ビジネスチャンスに変えるかが、今後の通商戦略の鍵となります。
1. 交渉中FTA/EPA 最新ステータス一覧
現在動いている交渉案件を、実務レベルの進捗状況と注目ポイントで整理しました。
| 区分 | 相手国・地域 | 直近の動き(2025年) | 進捗評価 | 企業の注目ポイント |
| 中東 | UAE | 第6回交渉(12月:ドバイ) | 加速中 | 物品関税に加え「デジタル・持続可能な開発」等、新領域のルール化に注目。 |
| 中東 | GCC | 第2回交渉(6-7月:東京) | 前進中 | 湾岸6カ国への一括アクセス。原産地規則(ROO)や投資、知財のパッケージ化。 |
| 南アジア | バングラデシュ | 第7回交渉(9月:東京) | 着実 | 「ポストLDC脱却」を見据えた重要拠点。サービス、投資、電子商取引の基盤整備。 |
| 北東アジア | 日中韓 | 経済対話にて継続確認 | 不透明 | 政治情勢に左右されやすい。実務上は「RCEP」の上積みが焦点。 |
| 中東・欧州 | トルコ | 会合ブランク継続 | 長期停滞 | 欧州・アフリカへのゲートウェイだが、再始動の兆しを待機する段階。 |
| 中南米 | コロンビア | 会合ブランク継続 | 長期停滞 | 資源・農業分野で期待されるが、再開シグナルの監視が必要。 |
2. 重点エリアの分析:なぜ今「中東・南アジア」なのか
① 中東(UAE・GCC):エネルギーから「デジタル・ルール」の時代へ
UAEとの交渉は、2024年9月の開始からわずか1年強で第6回に到達するという、異例のスピードで進んでいます。
- 実務インパクト:
- 非関税障壁の撤廃: デジタル貿易章の導入により、データ移転の透明性や電子署名の法的有効性が確保される見通しです。
- サプライチェーンの再構築: 「原産地規則(ROO)」の合意内容次第で、中東をハブとした物流・製造戦略の再考が求められます。
② 南アジア(バングラデシュ):次なる製造・消費の拠点
2024年3月の開始以降、着実に回数を重ねており、実効性の高い「積み上げ型」の交渉が続いています。
- 実務インパクト:
- LDC(後発開発途上国)卒業への備え: バングラデシュのLDC脱却に伴う特恵関税の失効を、EPAによってソフトランディングさせることが至上命題です。
3. 「停滞・中断」案件への現実的な対応
「交渉中」とされていても、実態として動きが止まっている案件については、代替枠組みの活用を優先すべきです。
- トルコ・コロンビア(長期停滞): 自社の関心品目について、相手国の既存のFTA網(EU-トルコ関税同盟など)を調査し、第三国経由の可能性を含めたシミュレーションに留めるのが現実的です。
- 韓国・カナダ(中断):
- 韓国: すでに発効しているRCEPを最大限活用し、RCEPでカバーされない個別品目のみを注視。
- カナダ: **CPTPP(TTP11)**という強力な枠組みが既に存在するため、個別EPAの優先順位は低いと判断して差し支えありません。
4. 企業が「今」着手すべき5つの準備アクション
交渉が合意に達してから動くのでは出遅れます。企業は以下の「先行準備」を推奨します。
- 貿易データの棚卸し: 自社の取引を「国 × 品目(HSコード) × 金額」で整理し、交渉先との合致度を特定する。
- 原産地証明のシミュレーション: 主要製品のBOM(部品構成表)を基に、推定される原産地規則を満たせるか事前判定を行う。
- 契約条項の先行設計: 今後の契約において「特恵関税によるメリットの還元(Benefit Sharing)」に関する条項を検討しておく。
- デジタル・サステナ対応: UAE交渉などで議題となっている「データ移転」や「環境基準」が、自社のコンプライアンス体制に与える影響を精査する。
- 定点観測のルーチン化: 外務省の報道発表を四半期ごとにチェックし、「議題の追加(政府調達など)」を経営リスク・機会のシグナルとして捉える。
結論
2025年末の通商地図は、**「動いている中東・南アジア」と「既存枠組みで代替すべき停滞案件」**に二分されました。企業は、締結後の「関税ゼロ」という結果だけでなく、その過程で議論される「デジタル・投資ルール」を先読みし、HSコードと原産地データの基盤を整えることが、最短で利益を享受するための王道です。
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