RCEP加盟拡大が本格化:日本企業が押さえるべき戦略的チェックポイント

はじめに

世界最大規模の自由貿易圏である地域的な包括的経済連携協定(RCEP)が、発効から4年を経て新たな段階に入ろうとしています。2025年9月に開催された第4回RCEP閣僚会合では、加盟拡大プロセスを正式に開始することが決定され、香港、スリランカ、チリ、バングラデシュの4つの国と地域が新規加盟を申請している状況です。さらに、2025年10月の首脳会合では2027年の包括的見直しに向けた準備を開始することが指示され、現代的かつ新興の課題に対応する規定を盛り込む選択肢が検討されることになりました。english.adnkronos+3

本稿では、RCEP加盟拡大と協定見直しの動向が日本企業のビジネスにどのような影響を与えるのか、そして今から準備すべき戦略的ポイントを詳しく解説します。

RCEP加盟拡大の現状と今後の見通し

加盟手続きの枠組みが確立

2024年9月にRCEP合同委員会(RJC)が「RCEP協定への加入手続き」を正式に採択したことにより、新規加盟を希望する国と地域の受け入れプロセスが明確化されました。これは、RCEP協定が発効して以来、初めての具体的な加盟拡大の枠組み整備となり、協定の開放性と包摂性を示す重要な一歩です。info+2

2025年9月の第4回RCEP閣僚会合では、アドホック加入作業部会(AWG)の付託事項が採択され、RJC合同委員会に対して加盟申請の検討を進めることが正式に指示されました。インドネシアのディヤ・ロロ副貿易大臣は会合後の記者会見で「加盟手続きは順調に進行しており、現在4カ国が関与している。反対意見はなく、全員が支持している」と述べ、加盟拡大に対する加盟国の強い支持を明らかにしました。asean.bernama+2

日本の経済産業大臣である武藤容治氏も、「様々な意見を聞きましたが、その多くは非常に前向きです。ルールに基づいて他の加盟国とよく調整したいと思います。手続きを通じて加盟国が増えることは良い方向だと思います」と述べ、日本政府として加盟拡大を積極的に支持する姿勢を示しています。[asean.bernama]​

加盟申請国の現状と戦略的意義

現時点でRCEP加盟を正式に申請している国と地域は、香港、スリランカ、チリ、バングラデシュの4つです。このうち香港は、2022年1月にRCEP協定が発効した直後に正式な加盟申請を提出した最初の地域であり、香港特別行政区政府は加盟実現を重要な政策優先事項として位置づけています。cedb+3

特筆すべきは、香港が最初に申請を行ったからといって、必ずしも最初に交渉が開始されるとは限らないという点です。これは、各申請国や地域がRCEP協定の基準と約束事項を遵守できる能力について個別に審査が行われるためです。crdb+1

チリの参加は地理的にアジア太平洋地域の外にある南米諸国との初めての連携となり、RCEP協定の世界的な関連性を高める重要な一歩となります。また、バングラデシュとスリランカの参加は、南アジア地域との経済統合を深化させ、アジア全体のサプライチェーンネットワークをさらに拡大することにつながります。[global.chinadaily.com]​

RCEP 2.0に向けた2027年包括的見直し

リビングアグリーメントとしての進化

RCEP協定は、いわゆる「リビングアグリーメント(生きた協定)」として設計されており、2027年に包括的な見直しが組み込まれています。2025年10月にマレーシア・クアラルンプールで開催された第5回RCEP首脳会合では、この2027年の包括的見直しに向けた準備を開始することが正式に指示されました。afpbb+3

首脳会合後に発表された共同声明によれば、RCEP協定が地域的および世界的な課題に継続的に対応するため、閣僚および関係当局に対して次の3つの事項を指示しました。第一に、RCEP協定の完全かつ効果的な履行の強化。第二に、RCEP協定の基準を維持しつつ、加入申請国および地域の加入プロセスの推進。第三に、2027年に予定されている協定の包括的見直しに向けた準備を開始し、公平な競争環境を確保するとともに、強靭な国内および地域成長を促進するため、RCEP協定の履行加速に関する方策について議論を継続することです。jetro.go+1

見直しの焦点となる分野

包括的見直しでは、現代的かつ新興の課題に対応する規定を盛り込む選択肢が検討されることになっています。具体的には、電子商取引、サービス貿易、税関手続き、女性の経済的エンパワーメントなどの重要分野におけるアップグレード交渉が支持されています。ussc+2

2025年9月の閣僚会合では、日本が主催したRCEP電子商取引対話の報告書が歓迎され、各国が電子商取引の発展と利用促進に向けた努力を継続することが奨励されました。また、RCEP合同委員会が2025年8月にRCEPビジネス諮問評議会(RBAC)との初めての協議を開催したことも注目されます。これは、民間セクターからの戦略的な意見や具体的な提言を収集し、協定の実施強化に活用する取り組みの一環です。[crdb]​

東アジアビジネス評議会(EABC)は、「東アジアサプライチェーン調整諮問評議会」の設立を提案しており、同評議会を通じて政府と産業界が連携し、リスクの監視、サプライヤー不足への対応、物流やデジタル化に関する課題への対処を推進することを提唱しています。[afpbb]​

日本企業にとってのビジネスインパクト

特恵関税アクセスの拡大機会

RCEP加盟国の拡大は、日本企業にとって特恵関税アクセスの対象市場が拡大することを意味します。現在のRCEP加盟15カ国は、世界人口の約30パーセント、世界のGDPの約30パーセント、世界貿易の約28パーセントを占める巨大な経済圏を形成していますが、新規加盟国が追加されることで、この経済圏はさらに拡大します。bernama+1

日本の貿易額の約半分はRCEP加盟国との取引が占めており、RCEP協定は日本企業の生産ネットワークと最も親和性が高い枠組みとなっています。特に、RCEP協定によって初めて日中間、日韓間のFTAが実現し、多くの関税が撤廃されたことは日本企業にとって大きなメリットとなっています。jiia+1

香港が加盟すれば、アジアの金融ハブとしての香港を経由した貿易や投資に特恵待遇が適用されるようになり、日本企業の国際展開がさらに円滑化します。チリが加盟すれば、南米市場への足がかりとして活用できる可能性が広がります。バングラデシュとスリランカの加盟は、繊維産業や製造業のサプライチェーンを多様化する新たな選択肢を提供します。

累積原産地規則の戦略的活用

RCEP協定の最大の特徴の一つは、柔軟で使いやすい累積原産地規則です。累積原産地規則とは、同じ自由貿易協定に加盟する複数の国で生産工程が行われた場合、それらの原産価値を合算して原産地認定を行う仕組みです。jiia.or+3

例えば、RCEP加盟国であるL国、M国、N国が関与する生産プロセスを考えてみましょう。M国原産の原材料Y1をL国が半製品Y2に加工し、さらにそのY2をN国が原材料として使用して最終製品Y3を生産した場合、RCEP累積原産地規則により、Y1とY2はすべてY3を生産するための原材料価値に累積され、すべてN国原産とみなされます。[allbrightlaw]​

この仕組みにより、日本企業は中国、韓国、ASEAN諸国、オーストラリア、ニュージーランドにまたがる複雑なサプライチェーンを構築しながらも、特恵関税の恩恵を受けることが可能になります。RCEP加盟国が増えれば、この累積原産地規則を活用できる範囲がさらに拡大し、サプライチェーン設計の柔軟性が大幅に向上します。

原産地規則の厳格化リスク

一方で、2027年の包括的見直しでは協定基準の強化が予想されるため、日本企業は変化する貿易ルールへの適応準備が必要です。新規加盟国が増えることで、RCEP協定の高い基準を維持するための審査がより厳格になる可能性があります。tradenotes.substack+1

原産地規則が厳格化されれば、現在利用している特恵関税スキームが使えなくなったり、追加的な証明手続きが必要になったりする可能性があります。企業は、現在の原産地証明書の取得プロセスを見直し、2027年の見直しに向けて準備を進めておくことが重要です。

今から準備すべき5つの戦略的チェックポイント

1. 加盟拡大国とのビジネス機会の早期評価

香港、スリランカ、チリ、バングラデシュの4つの申請国が正式に加盟した場合、これらの市場での関税削減や非関税障壁の緩和がどの程度のビジネス機会をもたらすかを早期に評価する必要があります。特に香港は金融サービス、バングラデシュは繊維産業、チリは鉱物資源において日本企業との補完性が高い市場です。

加盟が正式決定される前から、これらの市場における自社製品の競争力分析、潜在的な取引先の調査、現地規制の把握を進めておくことで、加盟後の市場参入をスムーズに行うことができます。

2. 累積原産地規則を活用したサプライチェーン再設計

RCEP協定の累積原産地規則は、従来のASEAN+1型のFTAよりも柔軟で使いやすい仕組みです。新規加盟国が追加されることを見越して、サプライチェーンの再設計を検討する価値があります。jiia+1

例えば、現在中国とタイで分散している生産工程に、将来的にバングラデシュや香港を組み込むことで、コスト削減と特恵関税の両方を実現できる可能性があります。累積原産地規則を最大限に活用するためには、各国での付加価値率や関税分類変更基準(CTC)を正確に把握し、最適な生産配置を計画することが不可欠です。

3. 原産地証明書の管理体制強化

RCEP協定では、従来の第三者証明制度に加えて、認定輸出者による自己証明制度や輸出者による自己申告制度が導入されています。これらの制度を活用することで、原産地証明書の取得コストと時間を削減できますが、企業側には原産地判定の正確性を担保する責任が求められます。[shigyo.co]​

2027年の包括的見直しでは、原産地規則の運用がより厳格化される可能性があるため、現時点から原産地証明書の管理体制を強化しておくことが重要です。具体的には、原材料の調達先や製造工程の記録を詳細に保管し、税関監査にいつでも対応できる体制を整えることが必要です。

4. 電子商取引とデジタル貿易への対応準備

2027年の包括的見直しでは、電子商取引が重要な焦点分野となることが明らかになっています。RCEP協定は既に電子商取引章を含んでいますが、越境データフローの自由化、データローカライゼーション要求の制限、電子署名の相互承認など、さらに踏み込んだ規定が追加される可能性があります。ussc+1

日本企業、特にデジタルサービス、電子商取引プラットフォーム、クラウドサービスを提供する企業は、これらの規定変更が自社のビジネスモデルにどのような影響を与えるかを事前に評価し、必要に応じてシステムやオペレーションの調整を行う準備が必要です。

5. 政府や業界団体との連携強化

RCEP合同委員会は、2025年8月にRCEPビジネス諮問評議会との初めての協議を開催し、民間セクターからの意見を収集する仕組みを本格化させています。また、東アジアビジネス評議会が提案する「東アジアサプライチェーン調整諮問評議会」のような新しい官民連携プラットフォームが設立される可能性もあります。afpbb+1

日本企業は、経済産業省、日本貿易振興機構(ジェトロ)、業界団体を通じて、2027年の包括的見直しに向けた意見提出や情報収集を積極的に行うべきです。特に、自社のビジネスに直接影響を与える可能性がある規定については、早期に政府に要望を伝え、交渉プロセスに反映してもらうことが重要です。

まとめ

RCEP協定の加盟拡大作業の本格化と2027年の包括的見直しは、日本企業にとって大きなビジネス機会をもたらす一方で、新たな対応課題も生み出します。特恵関税アクセスの拡大、累積原産地規則の活用可能性の拡大、電子商取引やデジタル貿易の促進などは、企業の国際競争力を強化する追い風となります。

しかし、協定基準の厳格化、原産地規則の複雑化、新規加盟国の規制環境の多様化といった課題にも備える必要があります。今から戦略的な準備を進めることで、RCEP 2.0時代の到来を最大限に活用し、アジア太平洋地域での事業展開をさらに拡大することができるでしょう。

日本企業は、この歴史的な転換期を単なるリスク管理の対象として捉えるのではなく、長期的な成長戦略の中核として位置づけ、積極的に取り組むことが求められています。


免責事項

本記事は、2026年2月8日時点で公開されている情報に基づいて作成されたものです。RCEP協定の加盟拡大プロセスや2027年の包括的見直しの内容は、今後の交渉や加盟国間の協議により変更される可能性があります。本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、特定のビジネス判断や法的助言を提供するものではありません。実際のビジネス戦略の策定や投資判断を行う際には、必ず専門家に相談し、最新の公式情報を確認してください。本記事の内容に基づいて行われた行動の結果について、筆者および関係者は一切の責任を負いません。

2026年2月7日(土)現在の「相互関税(Reciprocal Tariffs)」の合憲性に関する判決はどうか

結論から申し上げますと、米連邦最高裁判所による「相互関税(Reciprocal Tariffs)」の合憲性に関する判決は、土曜日である本日も公表されておらず、依然として「判決待ち」の状態です。

しかし、この24時間以内に実務面と政治面で重要な進展がありました。

1. 【実務】還付金の「電子受取」義務化がスタート(2月6日~)

昨日、2月6日より米税関・国境取締局(CBP)の**「関税還付の全面電子化(ACH限定)」**が正式に運用開始されました。

  • 背景: 万が一、最高裁で「相互関税は違憲」との判決が出た場合、数千億ドルという天文学的な金額を還付する必要があります。政府は、小切手による郵送では事務処理が破綻すると判断し、システムを電子送金に一本化しました。
  • 企業の対応: 還付を確実に受けるためには、CBPへの電子送金登録が必須となります。

2. 【政治】トランプ大統領による司法への牽制

週末に入り、トランプ大統領は自身のSNSで、裁判の遅れと還付システムの準備について言及しました。

  • 「我々の関税はアメリカを再び豊かにしている。一部の判事がこの偉大な進歩を止めようとしているなら、それは非常に悲しいことだ」と述べ、司法判断を強く牽制しています。
  • また、もし敗訴した場合でも、「国際緊急経済権限法(IEEPA)」以外の法的根拠を用いて関税を継続する準備があることを改めて強調しました。

3. 今後の確定スケジュール

最高裁は現在冬期休廷中のため、今後の焦点は以下の日程に絞られます。

注目日予定・見通し
2月20日(金)最高裁の活動再開日。 ここが判決が出る可能性のある最短の日となります。
2月23日(月)週明けの判決公表日として、市場が最も警戒している日です。
2月26日頃12月の口頭弁論から約3ヶ月が経過するため、この時期までに判決文がまとまるとの見方が有力です。

まとめ:現在のフェーズ

現在は、**「司法(最高裁)が結論を出す前の嵐の静けさ」**の状態です。政府側は「敗訴(還付)」という最悪の事態に備えたシステム構築を完了させ、一方でトランプ政権は外交交渉(インドとの合意など)で既成事実を作ろうとしています。

貴社において、もし「還付の対象となる可能性がある輸入時期」や「電子還付登録(ACH)の具体的な確認方法」など、実務面で気になる点があれば詳細にお調べいたします。

FTA原産地規則の加工工程基準(Specific Process)とCO監査対応チェックリスト

化学品・繊維で特恵否認を防ぐための実務ガイド

FTAやEPAで関税を下げるためには、製品が協定上の原産品であることを、輸入国税関に説明できなければなりません。その説明の中でも、最も誤解が起きやすく、監査や検証で追加資料を求められやすいのが加工工程基準(特定の製造・加工工程要件、Specific Process)です。

本稿では、加工工程基準が何か、どこが難しいのか、化学品と繊維で頻出する工程要件の読み方、そして最後にCO(原産地証明書または原産地声明を含む、原産性の証明)監査に耐えるチェックリストを、一次情報に基づいて整理します。

なお、協定ごとに条文構造や用語が異なるため、本稿では加工工程基準を「品目別原産地規則(PSR)の中で、関税分類変更や付加価値ではなく、特定の工程の実施を求めるルール」として説明します。 (税関公式サイト)


1. 加工工程基準とは何か

加工工程基準とは、非原産材料を使っていても、協定で定められた特定の加工工程が締約国域内で行われれば、当該産品を原産品として扱うという考え方です。 (税関公式サイト)

実務上のポイントは2つです。

1つ目は、加工工程基準は、品目別原産地規則(PSR)に組み込まれ、関税分類変更基準や付加価値基準と並んで選択肢として提示されることが多い点です。つまり、同じ品目でも「CTCか、RVCか、特定工程か」のように、複数の合格ルートが用意されているケースがあるということです。 (EU貿易)

2つ目は、加工工程基準は、工程の実体と記録が全てです。品名やHSコードが合っていても、工程の定義に合致しない、または証拠が出せないと、特恵が否認されるリスクが高まります。日EU・EPAでも、輸入国税関が原産性に疑義を持てば、輸入者への照会や、輸出国税関を通じた輸出者・生産者への検証が行われ得ます。


2. なぜ加工工程基準は誤解されやすいのか

加工工程基準の難しさは、関税分類変更のように番号の比較だけで終わらず、製造内容の細部が問われる点にあります。特に化学品では、現場の感覚として「化学的な処理をした」つもりでも、協定上の定義では化学反応に該当しないケースがあります。 (EU貿易)

また、RCEPのように「不十分な作業(Minimal Operations)」を列挙し、単純な混合や単なる希釈などは原産性を与えないと明示する協定もあります。これに該当すると、加工工程基準を主張しても通りません。 (外務貿易省)


3. 加工工程基準が出てきやすい品目領域

加工工程基準は協定や品目によりますが、少なくとも日EU・EPAのPSRの読み方としては、次の領域で工程定義が体系化されています。

  • HS第5部から第7部(鉱物製品、化学工業品、プラスチック・ゴム等)に関して、PSRで参照される工程の定義が整理されている (EU貿易)
  • HS第11部(繊維・繊維製品)に関して、用語定義や加工要件に関する注釈が置かれている (EU貿易)

大事なのは、特定の章に必ず加工工程基準があると決め打ちしないことです。加工工程基準の有無は、必ず自社品目のPSR本文で確認します。


4. 化学品領域で頻出する加工工程の定義

ここでは、日EU・EPAの注釈で定義されている工程をベースに、監査対応で何が問われるかを整理します。化学品・鉱物・プラスチック等のPSRで参照される工程の定義は、協定上かなり具体的です。 (EU貿易)

4.1 化学反応

化学反応は、分子内の結合が切断され、新しい結合が形成される、または原子の空間的配列が変わることで、新たな構造の分子が生じる工程と定義されています。 (EU貿易)

重要なのは除外事項です。たとえ化学品の取り扱いでも、次の操作は化学反応に含まれないと明記されています。

  • 水その他の溶媒への溶解
  • 溶媒の除去
  • 結晶水の付加または除去 (EU貿易)

監査で見られる資料の例

  • バッチ記録(反応条件、時間、温度、圧力、投入量)
  • 反応前後の分析結果(同一物質の単なる溶解や希釈ではないことの説明材料)
  • 製造指図書、工程フロー、品質規格書

日EU・EPAの説明資料でも、非原産材料に対して化学反応を施すことで加工工程基準を満たす例が示されています(例:同一号内で変化が起きないケースでも、化学反応を根拠にできる構造)。

4.2 蒸留

蒸留は、大気圧または減圧下での蒸留により、定義された沸点範囲に基づいて成分を分離する工程として定義されています。 (EU貿易)

監査で見られる資料の例

  • 蒸留塔の運転ログ(温度、圧力、カットポイント)
  • 分留前後の組成分析(目的成分が分離されたことの説明)

4.3 精製

精製は、少なくとも不純物の含有量の80パーセントを除去する工程と定義されています。また、単に溶媒や希釈剤を加えて純度を上げたように見せる行為は精製に含まれないとされています。 (EU貿易)

監査で見られる資料の例

  • 精製前後の不純物プロファイル
  • 工程条件(吸着、再結晶、洗浄、ろ過などの条件)

4.4 粒径の変更

粒径の変更は、単なる破砕ではなく、制御された方法で特定の粒度分布に調整する工程として定義されています。 (EU貿易)

監査で見られる資料の例

  • 粒度分布の測定データ、規格
  • 工程条件(分級、ふるい分け、ジェットミル等の条件)

4.5 異性体分離

異性体分離は、異性体の混合物から1種以上の異性体を分離する工程として定義されています。 (EU貿易)

4.6 混合・ブレンド

混合・ブレンドは、秤量や比例制御を伴う意図的な混合(溶解を含む)であり、単に希釈剤を加えるだけの行為は含まれない、という構造で定義されています。さらに、少なくとも製品の90パーセントが意図した物性・化学特性を満たすことなど、条件が置かれています。 (EU貿易)

ここは誤解が出やすい領域です。RCEPでも、単純な混合や単なる希釈は「不十分な作業」として列挙されており、原産性を与えません。協定ごとの定義と、実際の混合の管理レベルを突き合わせる必要があります。 (外務貿易省)

4.7 生物工学的工程

細胞培養、発酵、酵素反応などを含む工程として定義されています。 (EU貿易)

4.8 標準物質の生産

分析や計測に用いる標準物質(参照物質)を製造する工程が定義されています。 (EU貿易)


5. 繊維・アパレル領域の「工程要件」は協定差が大きい

繊維は、PSRで「どこまでの工程を締約国内で行うか」が協定ごとに大きく変わります。さらに、同じ協定の中でも品目により要件が違います。

5.1 第三者証明制度の協定では、CTCに加えて特定加工要件が乗ることがある

経済産業省の繊維ガイドラインでは、第三者証明制度を採用する協定(例:日ASEAN等)において、繊維製品はCTCが基本である一方、品目により「製織」「染色」等の特定加工要件の確認が必要になることが示されています。 (経済産業省)

染色・捺染などの加工では、協定によっては追加の要件が付されることがあり、ガイドラインでも工程証明のための情報収集や、作業内容の整理が重要である旨が示されています。 (経済産業省)

5.2 RCEPは繊維でも比較的シンプルだが、別の落とし穴がある

同ガイドラインでは、RCEPの繊維製品の原産地規則はCTCのみで、特定加工要件が求められないと整理されています。 (経済産業省)

ただし、RCEPには別のチェックポイントがあります。

  • 不十分な作業として、単純な混合や単なる希釈が列挙されている (外務貿易省)
  • デミニマスは原則FOBの10パーセントだが、第50類から第63類は重量10パーセントという特則がある (外務貿易省)
  • 直送要件(Direct consignment)があり、第三国を経由する場合は、さらなる加工をしていないことや税関管理下にあったこと等の説明が必要になり得る (外務貿易省)

5.3 ASEAN地域での工程合算は便利だが、第三国が混じると崩れる

経済産業省ガイドラインは、繊維の特定加工要件(例:製織と染色、製織・編立と裁断・縫製)について、工程の1つを日本ではなく他のASEAN締約国で行っても、原産資格判定上その加工工程分を合算できる考え方が示されています。

同時に、第三国での加工は合算できない点や、「累積」と混同しない注意も明示されています。

5.4 CPTPPはヤーンフォワードを原則とし、例外管理が重要

税関資料では、CPTPP(TPP11)の繊維製品の原産地規則は、紡ぐ・織る・縫製の3工程を原則として域内で行うヤーンフォワードであること、例外として供給不足品目リスト(SSL)の考え方があることが整理されています。 (税関公式サイト)

この領域は、工程要件だけでなく、例外規定の適用管理(何を、どの用途で、どの条件で域外調達できるか)が監査ポイントになります。


6. CO監査対応チェックリスト

ここからが実務の核心です。加工工程基準は、うまく使えば関税コストを下げられますが、監査対応に失敗すると否認リスクが上がります。

以下は、加工工程基準を含む原産性管理を、監査に耐える状態へ持っていくためのチェックリストです。日EU・EPAの実務資料やRCEP条文で示されている検証・保存・直送要件の考え方に沿って作っています。

6.1 企画段階でやること

  1. 対象品目のHSコードを確定し、社内で固定する(変更管理対象にする)
  2. 適用する協定を確定し、当該協定のPSR条文を保管する
  3. 原産性の合格ルートを決める
    • CTCで行くのか
    • 付加価値で行くのか
    • 加工工程基準で行くのか
      代替ルートがある場合、どれか1つ満たせばよいのか、複数要件を同時に満たす必要があるのかを条文で確認する (EU貿易)

6.2 加工工程基準を使う場合の証拠設計

化学品の場合

  1. 協定の工程定義に照らして、自社工程が該当するかを文書化する(化学反応、精製、蒸留など) (EU貿易)
  2. 除外事項に該当しないことを説明できるようにする(溶解、溶媒除去、結晶水など) (EU貿易)
  3. 証拠書類のひな型を決め、製造部門の記録項目を固定する
    • バッチ記録、運転ログ、品質分析、工程フロー、製造指図書

繊維の場合

  1. 要求される工程(製織、染色、裁断・縫製等)をPSRで特定する
  2. 工程ごとに、国、事業者、工場、期間、対象ロットを紐づけて追えるようにする
  3. 地域ワイド合算や累積を使う場合は、要件の違いを整理し、証明の取り方を決める

6.3 原産地証明(CO)作成・受領時のチェック

日EU・EPAのような自己申告型(例)

  1. 輸入時に原産品申告書を提出し、原産性を説明する資料(明細書等)の準備をする
  2. 輸出者・生産者の自己申告文言が協定所定の形式に合っているかを確認する

RCEPのように複数の証明形態がある協定(例)

  1. 証明が「原産地証明書」か「原産地申告」かを区分し、社内手順を分ける (外務貿易省)
  2. 有効期間(例:発給日から1年)を管理し、適用可否を誤らない (外務貿易省)

6.4 直送要件と非改変要件の管理

第三国経由があり得るサプライチェーンでは、ここが監査で刺さりやすいです。

  • RCEPでは、第三国を経由しても、さらなる加工をせず、税関管理下に置かれたことなどを満たせば直送と扱える構造が示されています (外務貿易省)
  • 日EU・EPAでも、第三国経由の場合に、税関管理下で協定に規定されていない作業をしていないこと等がポイントになります

監査で説明できるように、通し船荷証券や保税管理を示す資料など、輸送証憑の保管ルールを決めておくべきです。 (外務貿易省)

6.5 保存期間のルールを一本化する

協定と国によって保存期間が異なります。運用は「最も長い要件」に合わせて一本化すると事故が減ります。

  • 日EU・EPAの日本側では、輸入者は輸入許可日の翌日から5年間、書類保存が求められる整理が示されています (税関公式サイト)
  • 輸出者・生産者側は作成日から4年間の保存が示されています (税関公式サイト)

6.6 変更管理と棚卸し

  1. BOM変更、仕入先変更、製造委託先変更、工程変更があったら、原産判定を必ずやり直す
  2. 年に1回は、主要品目を抜き取りで社内監査し、証拠書類が揃うかをテストする
  3. 「不十分な作業」に落ちていないかを、工程説明書の観点で再点検する (外務貿易省)

7. まとめ

加工工程基準は、化学品や繊維を中心に、関税分類変更だけでは実態を表しにくい品目で活用されやすい一方、工程定義の誤解と証拠不足がそのまま特恵否認につながる領域です。 (EU貿易)

成功のポイントは、次の3点に集約されます。

  1. PSRの合格ルートを協定本文で確定し、加工工程基準を使うなら工程定義と除外事項まで条文ベースで理解する (EU貿易)
  2. 製造記録と物流証憑を、検証で提出できる粒度に揃える(直送要件や不十分な作業も含む) (外務貿易省)
  3. 保存期間と変更管理を一本化し、監査に耐える運用へ落とし込む (税関公式サイト)

免責事項

本稿は、公開情報に基づき一般的な実務上の留意点を整理したものであり、特定の取引や個別事案に対する法的助言または通関判断を提供するものではありません。原産地規則の適用可否は、品目、HSコード、協定条文、製造実態、証拠書類、輸送経路、輸入国の運用等により結論が変わり得ます。実際の申告・運用にあたっては、必ず最新の協定本文・税関等の一次情報を確認し、必要に応じて税関の事前教示制度や通関士・専門家へ相談してください。

原産地規則とCO監査(検認)対応チェックリスト:特恵を守るための実務設計

はじめに:COは「発行して終わり」ではなく「説明できて初めて完了」

FTAやEPAの特恵関税は、利益に直結します。一方で、特恵を使った輸入取引は、輸入後に原産性が検証されることがあります。日本の税関も、輸入後に原産性を確認する手続(原産地の事後確認)を行い、確認できない場合は特恵が否認され、追徴やペナルティの対象になり得ることを明示しています。(日本関税局)

この記事では、ビジネスの現場で使えるように、原産地規則の要点を押さえつつ、CO監査対応のためのチェックリストを深掘りします。なお本記事では、COを広義の原産地証明(Proof of Origin)として扱い、第三者機関が発給する原産地証明書と、輸出者・生産者・輸入者による自己申告(Declaration of Origin、Statement on Originなど)を含めます。(日本関税局)

1. CO監査とは何か:税関の「原産地の事後確認」を前提に設計する

1-1. 監査で実際に起きること

日本の税関が説明する原産地の事後確認では、まず輸入者に対して文書で情報提供を求め、提出された情報と書類にもとづいて原産性を判断します。輸入者の回答だけでは確認できない場合、輸出者や生産者への照会、または工場や事務所への訪問確認が行われることがあります。原産性が確認できないと特恵は否認され、事案によっては追徴やペナルティが発生し得ます。(日本関税局)

実務上のポイントは、監査対応を通関部門だけの仕事にしないことです。購買、製造、設計、経理、物流、ITまで含めた情報のつながりが、原産性の説明力を決めます。

1-2. 「証明書があるのに否認される」が起きる理由

原産地証明書や自己申告は、あくまで特恵を請求するための根拠資料です。日本の税関は、輸入者が特恵を請求する貨物について、原産性を確保する責任を負う旨を明確にしています。また、証明書があっても輸入者が原産性を自ら確認すべきだという注意喚起の位置付けで、否認事例を公表しています。(日本関税局)

言い換えると、CO監査で問われるのは、紙の正しさよりも、原産性の説明可能性です。

2. 原産地規則を誤解しないための最短整理

2-1. 原産地規則には「優遇関税」と「非特恵」がある

原産地規則は、大きく分けて優遇関税を適用するための原産地規則と、WTO税率の適用や統計、原産地表示などに使われる非特恵の原産地規則に分かれます。日本の税関も、この区分と適用目的を整理しています。(日本関税局)

またWTOの協定では、原産地規則を「物品の原産国を決定するために加盟国が適用する法令・規則・行政判断」と定義し、非特恵の制度運用に関する規律を置いています。(世界貿易機関)

ここで重要なのは、あなたの案件で問われている原産地が、どの制度の原産地かを最初に切り分けることです。FTAやEPAの監査対応では、基本的に優遇関税の原産地規則が中心になります。(日本関税局)

2-2. 原産性の判定軸は主に3つ

日本の税関が示す整理では、優遇関税の原産性は、主に次の類型で整理できます。(日本関税局)

  1. 完全生産品(Wholly obtained)
  2. 原産材料のみから生産された産品
  3. 品目別規則(PSR)を満たす産品

PSRの代表的な条件は、次の3パターン、またはその組合せです。(日本関税局)

・関税分類変更基準(CTC)
・付加価値基準(QVCまたはRVC)
・特定工程基準(化学反応、蒸留、精製などの特定工程)

監査対応でつまずきやすいのは、PSRの読み違いと、計算根拠や工程根拠を説明できないことです。チェックリストでは、ここを最優先で固めます。

2-3. 「軽微な作業」では原産性は生まれない

非特恵の説明ですが、原産地を与える加工と、与えない加工の境界は監査でも頻出論点です。日本の税関資料では、たとえ関税分類の変更が起きても、輸送・保管のための保存作業や、単純な切断、詰め替え、ラベル貼付などは実質的変更と見なされない旨が示されています。実務では、優遇関税でも同様に、単純作業では原産性が認められない協定が多い点に注意が必要です。(日本関税局)

3. 監査対応を強くする設計思想:証憑は「再現できる」ことが重要

3-1. 監査で必要なのは、結論ではなくプロセス

監査で求められるのは、原産品だと言い切ることではありません。どの規則を使い、どんなデータにもとづき、誰がいつ判断したのかを追えることです。

そのために、次の3点を満たす証憑設計が有効です。

・トレーサビリティ:原材料から製品までのつながりが追える
・再現性:同じ条件なら同じ結論が再現できる
・改ざん防止:版管理とログがあり、後から変えた痕跡が残る

3-2. 役割分担は「輸出者・生産者・輸入者」で分けて考える

自己申告制度では、輸入者・輸出者・生産者のいずれが原産地証明を作成するかで、必要なデータの持ち方が変わります。WCOも、第三者証明、輸出者・生産者の自己証明、輸入者ベースなど、制度類型を整理しています。(世界税関機構)

どの制度でも、事前教示(アドバンス・ルーリング)が確実性を高めるという考え方は共通です。日本の税関も輸入者向けに、原産性について税関に事前教示を求めることを検討するよう促しています。(日本関税局)

4. 原産地規則とCO監査対応チェックリスト

ここからが本題です。チェックリストは、監査の質問順に近い流れで並べます。実務では、全てを一度に完璧にしようとせず、まず高リスク品目から整備してください。

4-1. 適用協定と証明スキームの確定

□ 対象取引が、どの協定の特恵か(EPA、CPTPP、RCEPなど)を特定した
□ 協定ごとの証明スキーム(第三者発給の証明書、輸入者・輸出者・生産者の自己申告、承認輸出者など)を確定した (日本関税局)
□ 相手国側の要求(書式、言語、電子化、提出タイミング)を確認した。輸出時は相手国制度の確認が必要という前提を共有した (日本関税局)
□ 申告の有効期間、複数出荷への対応など、運用ルールを社内手順に落とした(協定により異なる)

なぜ重要か
協定とスキームを取り違えると、原産地規則そのものが別物になります。監査で最初に崩れるポイントです。

4-2. HS品目分類と品目別規則(PSR)の特定

□ HSコードを6桁以上で確定し、その根拠資料を残している
□ HSコード変更や統計品目の見直しが起きた場合の再判定フローがある
□ PSRを条文と附属書で特定し、適用する原産基準(CTC、RVC、特定工程など)を1つに決めている (日本関税局)
□ 例外規定(例外的に許容される非原産材料、特定部材の扱い)を読み落としていない

なぜ重要か
PSRはHS分類が前提です。分類がずれると、正しい計算をしても監査では通りません。

4-3. 原材料の出自管理とサプライヤー統制

□ 総部品表(BOM)を製品単位で固定し、原材料の品名、型番、供給元、HS、原産国、単価、数量を紐づけている
□ 仕入先から、原産性に関する根拠(サプライヤー申告、仕様書、工程情報)を継続的に入手する仕組みがある
□ 仕入先変更、材料変更が起きたら、原産判定を自動的に再計算する運用がある
□ 仕入先監査までは難しくても、リスクの高い部材については、追加資料の提出条件を契約条項に入れている

監査でよく聞かれる質問例
・非原産材料は何か
・その材料はどこで作られたのか
・証憑として何を持っているのか

4-4. 製造工程と「どの加工が原産性を与えるか」の説明

□ 製造工程表(プロセスフロー)を作成し、工程ごとに場所(国)と外注先を明確にした
□ PSRが特定工程基準の場合、該当工程が実際に行われていることを示す記録(製造指図、工程条件、検査記録など)がある (日本関税局)
□ CTCの場合、非原産材料のHSと完成品HSの差分を一覧化し、変更が起きる理由を工程と結びつけて説明できる (日本関税局)
□ 単純な詰替えやラベル貼付のような軽微工程に依存していない。軽微工程では原産性が否定され得ることを理解している (日本関税局)

実務の勘所
監査で強いのは、工程とBOMが一対一でつながっている企業です。工程表だけ、BOMだけでは説明が弱くなります。

4-5. RVCなど価額基準の計算管理

□ 協定が求める計算式(Build-down、Build-up、Net costなど)を手順書に明記し、担当者が迷わないようにしている
□ 計算に使った単価、為替、原価配賦ルールが、当時の数字で再現できる
□ 原価の根拠が、会計帳簿や支払記録と矛盾しない(監査では数値の整合が見られる)

補足
日本の税関資料でも、PSRの要素としてRVCが整理され、価額が一定割合を超える必要があると説明されています。(日本関税局)

4-6. 累積、デミニミス、代替規定の適用判断

□ 累積を使う場合、どの国の原産材料を、どの根拠で原産材料として扱ったかを説明できる
□ デミニミスや容認規定を使う場合、計算対象と除外対象が協定どおりになっている
□ 代替規定を使う場合、輸出先税関の運用も含めて実務的に通る設計になっている

ここは協定差が大きいため、条文と当局のガイダンスの確認を優先してください。

4-7. 輸送要件と第三国経由の証憑

□ 直送や非加工要件がある場合、B/L、AWB、積替え関連書類など、運送ルートが追える資料を保管している
□ 第三国での保税保管や積替えがある場合、加工が行われていないことを示せる(倉庫記録、コンテナシール、写真など)
□ インボイスが第三国発行でも成立するかを協定と当局資料で確認し、社内基準を置いた

4-8. CO作成・発給プロセスと書類保存の設計

□ COの作成者が誰か(輸入者、輸出者、生産者)を品目ごとに固定している (日本関税局)
□ COの元データを、案件単位で保存し、後から同じ結論に戻れる
□ 保存期間を協定と国内法令の両面で確認し、システム上の自動保管に落とした

保存期間は協定や国によって異なります。例として、日本の税関ガイドラインでは、CPTPPの自己証明制度において、輸入者は輸入許可日の翌日から5年間、原産性を示す記録を保存すること、輸出者・生産者が作成する場合も発行日から5年間保存することが示されています。(日本関税局)

また、日英EPAについてJETRO資料では、日本の輸入者は輸入許可日の翌日から5年間、輸出者・生産者は自己申告の作成日から4年間、関連資料を保存する整理が示されています。(ジェトロ)

日EU・EPAの自己申告に関しても、日本の輸出者・生産者が作成した原産品申告書について、作成日から4年間の保存が必要だとする整理が税関資料に示されています。(日本関税局)

現場で使いやすいように、保存期間の例を表にしておきます。

区分保存期間の考え方の例参照例
輸入者の保存日本への輸入で自己証明を使う輸入許可日の翌日から5年CPTPPの税関ガイドライン (日本関税局)
輸出者・生産者の保存日本から輸出者自己申告を作成作成日から4年日EU・EPAの税関資料 (日本関税局)
輸入者・輸出者の保存日英EPAの整理輸入者は5年、輸出者は4年JETRO資料 (ジェトロ)

注意
ここで挙げた期間は例です。協定ごとに保存義務や起算点が異なるため、必ず対象協定と相手国制度で再確認してください。(日本関税局)

4-9. 変更管理と再判定のトリガー

□ 仕入先、材料、製造工程、外注先、HS分類のいずれかが変わったら自動的に再判定する
□ 設計変更や原価変動でRVCが閾値を割る可能性がある品目を、警告対象として管理する
□ COのテンプレート、品目別規則の参照版、為替・原価データの版を保存し、過去時点の再現ができる

4-10. 内部監査と訓練

□ 年に1回以上、品目をサンプリングして、原産判定から証憑提出までを机上で再現する
□ 回答文書のテンプレートを用意し、税関照会の質問に対して、誰がどの資料を出すかを訓練する
□ 監査で不足しがちな資料(工程根拠、原価の橋渡し、サプライヤー証憑)を重点的に整備する

5. 監査が来たときの対応フロー:スピードより整合性

5-1. 初動:回答の前に、事実を確定する

  1. 照会内容と期限を社内で共有し、担当と決裁者を確定する
  2. 対象ロット、対象インボイス、対象COを特定し、証憑を凍結する(後から差し替えない)
  3. HS、PSR、原産判定ロジック、計算根拠を再確認する

5-2. 回答パッケージの作り方

・結論(原産基準、適用協定、対象品目)
・根拠の道筋(BOM、工程、計算、輸送)
・添付証憑(資料一覧と、どこを見れば分かるかのガイド)

日本の税関ガイドラインでも、輸入後に書面で情報提供を求めることがあり、輸入者は保有する記録にもとづいて原産性の結論に至った経緯を説明する必要がある、という趣旨が整理されています。(日本関税局)

5-3. 不備が見つかったときの実務

不備が見つかった場合は、結論ありきで資料を作らないことが重要です。再発防止まで含めた説明ができると、監査対応が安定します。

・どの要件が未充足か(PSR、輸送要件、証明書の不備など)
・影響範囲はどこまでか(過去出荷、他品目、他拠点)
・是正策は何か(再判定、供給元変更、CO運用変更)

6. よくある落とし穴と、先回りの対策

6-1. 「COの書式は正しいが、中身が追えない」

対策
COに紐づく原産判定ファイルを、案件単位で固定してください。BOM、工程表、計算、サプライヤー証憑がセットになっていないと、説明が分断されます。

6-2. 「軽微工程で原産性が取れると思い込む」

対策
軽微工程が原産性を与えないという考え方は、非特恵の説明でも明確に示されています。少なくとも、詰替えやラベル貼付だけで原産性が成立する前提で設計しないのが安全です。(日本関税局)

6-3. 「小さな記載ミスで全否認になる」と過度に恐れる

対策
記載の正確さは大前提ですが、日本の税関は、原産性が確認でき、真正性に疑いがない場合、軽微な誤りを許容し得るという趣旨を示しています。運用は協定や相手国で異なるため、過信は禁物ですが、修正可能性の余地を知っておくことは、初動の冷静さにつながります。(日本関税局)

7. すぐ使える「監査対応ファイル」構成例

社内共有フォルダや原産管理システムに、最低限この形で格納すると、監査のたびに探し回らずに済みます。

・00_協定とPSR(協定名、条文リンク、PSRの抜粋、社内解釈メモ)
・01_HS分類(分類根拠、過去の変更履歴、事前教示があればその控え)
・02_BOM(製品BOM、原材料一覧、供給元、原産国情報)
・03_サプライヤー証憑(申告書、仕様書、工程情報、契約条項)
・04_製造工程(工程表、製造指図、外注先情報、検査記録)
・05_原価と計算(RVC計算シート、原価台帳との突合、為替根拠)
・06_輸送(B/L、AWB、積替え資料、保税書類)
・07_CO(発給済みCO、自己申告、作成手順、承認番号等)
・08_監査対応(照会状、回答書、添付一覧、再発防止策)

おわりに:CO監査対応は、組織の「説明力」を鍛えるプロジェクト

CO監査は、通関の専門論点に見えて、実はサプライチェーン全体の情報品質が問われます。制度の選択、HSとPSRの確定、BOMと工程の整合、原価計算の再現性、そして保存と版管理。これらを地道に整えるほど、特恵の安定運用と、監査のストレス低減につながります。

免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の取引や品目に対する法務・税務・通関上の助言ではありません。協定本文、税関当局の公表資料、相手国の制度運用を必ず確認し、必要に応じて通関士・弁護士・専門家に相談してください。

世界のFTA/EPA交渉状況とビジネスへの影響(2026年2月7日時点)

グローバルビジネスにおいて自由貿易協定(FTA)と経済連携協定(EPA)は、関税削減や通関手続きの円滑化だけでなく、投資環境の整備、知的財産権の保護、デジタル取引のルール策定など、企業活動全般に影響を及ぼす重要な制度インフラとなっています。2026年に入り、世界では歴史的な協定の妥結や新たな交渉の進展が相次いでおり、各国企業は迅速な対応を迫られています。本稿では、2026年2月7日時点における世界のFTA/EPA交渉の最新状況を整理し、日本企業を含むビジネスパーソンが押さえるべきポイントを解説します。jetro.go+1

署名済み・発効間近の主要協定

日本・バングラデシュ経済連携協定(EPA)

2026年2月6日、日本とバングラデシュは経済連携協定(EPA)に正式署名しました。この協定は2024年3月に交渉が開始され、約1年9カ月という異例のスピードで妥結に至りました。バングラデシュにとっては初めてのEPAであり、同国の経済政策において歴史的な転換点となります。crdb+3

協定の内容は、物品貿易における関税撤廃・削減に加え、原産地規則、税関手続と貿易円滑化、投資、電子商取引、知的財産など幅広い分野をカバーしています。日本側は鉄鋼、自動車部品、織物、電子部品などの高関税品目で関税撤廃を獲得しており、特に自動車関連産業への恩恵が大きいと見られています。meti+1

ビジネス上の重要ポイントとして、バングラデシュは後発開発途上国(LDC)からの卒業が予定されており、これまで享受していた特恵関税措置が将来的に失われる可能性があります。このEPAは、そうした制度移行リスクを吸収する安定化策として機能すると期待されています。日本企業は発効前の準備期間を活用し、原産地規則の確認や社内体制の整備を進めることで、競合他社に先行した市場開拓が可能となります。global-scm+1

欧州連合(EU)・インド自由貿易協定(FTA)

2026年1月27日、EUとインドは20年近くにわたる交渉の末、FTA交渉の妥結を発表しました。この協定は双方にとって過去最大規模のFTAであり、発効すれば世界の国内総生産(GDP)の約25パーセント、世界貿易の約3分の1を占める巨大な自由貿易圏が誕生します。jetro+3

協定の具体的内容として、EUはインドからの輸入品の99.5パーセント(輸出額ベース)について市場アクセスを認め、90.7パーセントについては即時関税撤廃、20.3パーセントについては発効後3年から5年で段階的に撤廃します。一方インドはEUに対し、輸出額ベースで97.5パーセントについて市場アクセスを認め、49.6パーセント(品目ベース)について即時関税撤廃、39.5パーセントについては5年から10年で段階的に撤廃します。[afpbb]​

特に注目されるのは、インドのEU製自動車に対する関税が現行の110パーセントから10パーセントへと段階的に引き下げられる点です(ただし年間25万台の割当枠内に限定)。また機械類への最大44パーセントの関税や化学品への最大22パーセントの関税の大部分が撤廃されます。農産品では、EU産ワインへの関税が現行の150パーセントから20~30パーセントへ、EU産オリーブオイルへの関税は5年で撤廃されます。[afpbb]​

今後の批准手続きとして、インド側の国内手続きに加え、EU側ではEU理事会の承認と欧州議会の同意が必要となります。各加盟国による個別承認は不要であることから、比較的早期の批准が期待されており、インド政府関係者は1年以内の発効を見込んでいます。nna+1

日本企業への影響として、EU企業がインド市場での競争力を大きく強化することになり、特に自動車部品、機械、化学品分野では競合環境が変化します。日本企業は既存のRCEP協定を最大限活用するとともに、インド市場での差別化戦略の見直しが求められます。dlri+1

英国・インド自由貿易協定(FTA)

2025年7月24日、英国とインドは包括的経済貿易協定(CETA)に正式調印しました。3年にわたる交渉の末に達成された協定であり、2040年までに2国間貿易を255億ポンド(約340億ドル)拡大することを目指しています。英国にとっては2020年のEU離脱以降で最大の貿易協定であり、インドにとっても先進国との最大の戦略的パートナーシップとなります。jetro+1

協定では、インドは自動車関税を現行の100パーセント以上から10パーセントへ段階的に引き下げる(割当制に基づく)ほか、インド製の電気自動車とハイブリッド車が英国市場への優遇アクセスを得ます。批准手続きを経て、1年以内の発効が見込まれています。[newsweekjapan]​

インドは米国との関税交渉が難航する中、英国およびEUとの協定締結を優先することで、先進国市場へのアクセス確保を進めています。この動きは地政学リスクへの対応として、複数の貿易パートナーとの関係強化を図る戦略の一環です。reuters+1

欧州連合(EU)・メルコスール(南米南部共同市場)FTA

EUとメルコスール(アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイで構成)は、25年以上にわたる交渉を経て、2026年1月17日に自由貿易協定に署名しました。具体的には「EU-メルコスール連携協定(EMPA)」と「暫定貿易協定(iTA)」の2つに署名しています。sustainablejapan+1

この協定が発効すれば、7億人以上をカバーし、世界のGDPの20パーセントを占める世界最大級の自由貿易圏が誕生します。暫定貿易協定については、欧州議会とEU理事会の承認を経て先行発効する可能性があります。newsphere+1

ただし、協定の先行きには不透明要素も残ります。欧州議会は2026年1月21日、この協定がEUの規則に適合するかどうかについて欧州司法裁判所に判断を求めることを決議しました。この手続きにより、批准が18カ月から2年程度遅れる可能性が指摘されています。特にフランスを中心とする農業国からは、南米産農産品の流入増加に対する懸念が表明されています。jetro+2

日本企業への影響として、EU企業の南米市場における競争力強化が予想されます。特に自動車部品や機械分野では、原産地規則の精査やESG基準への適合、サプライチェーンの再設計が戦略的課題となります。[youtube]​

交渉中の主要協定

日本・アラブ首長国連邦(UAE)経済連携協定(EPA)

日本とUAEのEPA交渉は、2024年9月に開始が決定され、現在第6回交渉会合まで進行しています。直近では2025年12月16日から19日にドバイで第6回会合が開催され、物品、原産地規則、サービス、競争政策に加え、貿易及び持続可能な開発、知的財産、デジタル貿易、政府調達などが議論されました。global-scm+1

日本にとってUAEは重要な自動車輸出市場であり、2023年の対UAE輸出は約1兆4,661億円で、金額ベースで世界第7位、台数ベースで世界第3位の規模です。このため、本協定は単なる「資源国との協定」ではなく、完成車・部品・周辺産業に直接影響を与える重要な協定として位置づけられています。[global-scm]​

企業実務の観点から注目すべきは、デジタル貿易や知的財産、政府調達が交渉議題に含まれている点です。これらのルール章は、現地での販売形態、データ移転、委託先管理、入札参加要件に波及しやすく、貿易部門だけでなく法務、IT、営業、調達部門も巻き込んだ準備が必要となります。crdb+1

次回の第7回会合の日程は現在調整中ですが、交渉のペースは比較的速く、今後の進展が期待されています。企業は発効前の段階で、HSコードとBOM(部材表)をEPA利用前提で棚卸しし、製造工程のどこを「原産性を作る工程」にするかを設計しておくことが推奨されます。[global-scm]​

日本・湾岸協力理事会(GCC)経済連携協定(EPA)

日本とGCC(サウジアラビア、UAE、バーレーン、クウェート、オマーン、カタールの6カ国)のEPA交渉は、2006年に開始されたものの2009年に中断し、その後2023年7月に再開が決定されました。再開後の第1回会合は2024年12月にリヤドで開催され、第2回会合は2025年6月30日から7月3日に東京で実施されています。murc+2

交渉議題には物品、原産地規則、サービス、通関円滑化、投資、知的財産、電子商取引などが含まれており、現代的な章立てが早期から議題に入っています。日本にとってGCC諸国はエネルギー安全保障の観点で極めて重要であり、外交青書でも重点地域として位置づけられています。murc+1

日本の対GCC貿易では、主に自動車を輸出する一方、原油などの鉱物性燃料を輸入しています。日本の原油に対する関税は既に無税であるため、EPA締結による直接的な関税削減メリットは限定的ですが、エネルギー資源の安定的な確保につながると期待されています。[murc]​

企業実務の課題として、GCCは6カ国を束ねる交渉であるため、関税や原産地規則だけでなく、制度運用の整合が最後の難所となりがちです。企業は発効時点の実務運用を見据え、輸入通関のルール、原産地証明の提出形態、事後検証の運用など、運用設計の詳細を注視する必要があります。[crdb]​

日本・中国・韓国自由貿易協定(FTA)

日中韓FTAの交渉は、外務省が公表する会合一覧では第16回が2019年11月で、以降の交渉会合は明示されていません。事実上、交渉は長期停滞状態にあります。global-scm+2

しかし、2024年5月のソウルにおける第9回日中韓首脳会議を受けて、交渉加速に向けた動きが報じられています。2025年3月には、3カ国の貿易担当閣僚が「高いレベル」の3国間FTA締結に向けた協力を強める方針を確認しました。さらに2026年1月には、中国商務部が中韓FTA第2段階交渉の早期の実質的成果獲得を推進する方針を表明しています。jetro+2

企業目線では、制度が明文化されるまでは準備に過剰投資せず、ただし再起動の兆候が出た瞬間に動けるよう社内の基礎データを整えておくことが最も費用対効果が高いアプローチです。日中韓FTAが発効すれば、東アジア域内のサプライチェーン最適化に大きな影響を与えるため、交渉再開のシグナルを注視する必要があります。jetro.go+1

その他の交渉状況

長期停滞案件

日本・トルコEPAは、外務省ページ上で交渉会合の公表が2019年10月の第17回までとなっており、長期化しています。経団連も2025年に早期締結を求める文書を公表していますが、具体的な進展は確認されていません。global-scm+1

日本・コロンビアEPAは、外務省ページ上で交渉会合の公表が2015年9月の第13回までとなっており、こちらも長期停滞状態です。近年も在コロンビア日本大使館から「交渉中」との言及は見られますが、交渉再開の明確な情報は確認されていません。global-scm+1

これらの案件については、情報の鮮度に注意が必要であり、企業は一次情報の確認を優先すべきです。[crdb]​

交渉中断中の案件

日本・韓国EPAは、外務省で交渉中断中に分類されており、ページ上は2011年の局長級事前協議までが整理されています。日本・カナダEPAも交渉中断中に分類され、ページ上は2014年11月の第7回会合までが整理されています。global-scm+1

両国とも、日本側には既にRCEPやCPTPPなどの他の経済枠組みが存在するため、企業実務としては現在進行中の交渉案件を優先的に注視するのが合理的です。[crdb]​

ビジネス実務への影響と準備

RCEP協定の電子原産地証明書(e-CO)相互認証

2026年2月2日、RCEP(地域的な包括的経済連携)協定において、加盟15カ国すべての間で電子原産地証明書(e-CO)を完全に相互認証する運用体制が確立されました。これは貿易実務の歴史的転換点であり、書類作成・郵送・保管のコストと時間が大幅に削減されます。[global-scm]​

日本企業は、この新しい電子システムを活用することで、通関手続きの迅速化とコスト削減を実現できます。特に中小企業にとっては、原産地証明の取得負担が軽減され、EPA/FTA活用のハードルが大きく下がります。

企業が今すぐ始めるべき準備

FTA/EPA交渉は外部からはブラックボックスになりやすい一方、企業の準備は公開情報だけでも前倒しで進めることができます。以下の3つのステップが推奨されます。[crdb]​

第一に、取引棚卸しをEPA視点で作成することです。対象国向けの売買を、相手国、HSコード、取引額、調達国、加工工程で整理し、関税メリットよりも先に原産地規則で詰まりそうな品目を先にあぶり出します。[crdb]​

第二に、原産地の証拠を先に固めることです。サプライヤー証明、工程表、BOM(部品表)、原産材料の原産国を社内監査に耐える形でまとめておきます。協定発効後に駆け込みで対応すると、証明の品質が落ちやすいため、事前準備が重要です。[crdb]​

第三に、ルール章の影響を部署横断で点検することです。UAEやGCCのようにデジタル、投資、知的財産が議題に入る案件では、貿易部門だけでなく、法務、IT、営業、調達も巻き込み、想定される義務や権利を洗い出しておくことで、発効後の手戻りを減らせます。[crdb]​

トランプ米政権の関税政策への対応

2026年2月5日時点で、米国は「相互関税(Reciprocal Tariff)」を国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づき発動しており、各国に対して追加関税(従価税)を課しています。日本企業も対米輸出において関税負担増加の影響を受けており、本格的な影響評価や対策検討が進んでいます。global-scm+1

この状況下で、日本企業は既存のFTA/EPA枠組みを最大限活用することが重要です。特にUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)の活用や、メキシコ経由での対米輸出における原産地規則の厳格な遵守が求められます。また、第三国経由の迂回輸入と見なされないよう、サプライチェーンの透明性確保が必要です。[jetro.go]​

まとめ

2026年2月時点において、世界のFTA/EPA交渉は活発な動きを見せています。署名済みまたは発効間近の協定としては、日本・バングラデシュEPA、EU・インドFTA、英国・インドFTA、EU・メルコスールFTAが挙げられます。交渉中の案件では、日本・UAE EPA、日本・GCC EPA、日中韓FTAが重要な進展を見せています。meti+4

最も実務が動く可能性が高いのは、既に大筋合意に到達した日本・バングラデシュEPAです。次いで、交渉会合が継続して積み上がっている日本・UAE EPAと日本・GCC EPAが続きます。日中韓FTA、トルコ、コロンビアについては、再開や加速のシグナルを見極める局面にあります。meti+1

日本企業は、これらの協定がもたらす機会とリスクを的確に把握し、発効後に慌てるのではなく、発効前に社内データを整え、制度が明確になった瞬間に社内意思決定を迅速に実行できる体制を構築することが求められます。公開情報を活用した継続的なモニタリングと、部署横断での準備体制の整備が、グローバル競争を勝ち抜く鍵となります。[crdb]​

世界貿易機構(WTO)のデータベースによれば、通知済みで発効中の地域貿易協定(RTA)は既に380件に達しており、今後もこの数は増加し続けると予想されます。各国が保護主義的な動きを強める中で、FTA/EPAは自由貿易体制を維持する重要な役割を果たしており、企業にとって戦略的な活用が不可欠な経営資源となっています。global-scm+2

免責事項

本稿は2026年2月7日時点で公開されている情報に基づいて作成されています。FTA/EPA交渉は流動的であり、各国政府の発表、交渉の進展、批准手続きの状況などにより内容が変更される可能性があります。本稿の情報は参考情報として提供されるものであり、特定の法的助言や投資判断の根拠として使用されることを意図していません。ビジネス上の意思決定を行う際には、必ず最新の一次情報を確認し、専門家への相談を行ってください。本稿に記載された情報の正確性、完全性、有用性について、筆者は一切の保証を行わず、本稿の利用により生じたいかなる損害についても責任を負いません。

日・バングラデシュEPA署名で何が変わるか

無税化の割合、品目別の関税削減スケジュール、原産地規則を実務目線で整理

2026年2月6日、日本とバングラデシュは「経済連携協定(EPA)」に署名しました。署名はゴールではなくスタートで、今後は両国の国内手続を経て発効に至ります(発効前は優遇税率の適用は始まりません)。(外務省)

本稿は、貿易実務に直結する「関税が無税になる割合」「商品カテゴリーごとの原産地規則と関税削減スケジュール」「対象外品目」「関税以外の注目条項」を、公式資料と協定本文に基づいてまとめます。(外務省)


1. 関税が無税になる商品の割合

1-1 まず押さえるべき数字(貿易額ベース)

本EPAでは、最終的に関税が撤廃される水準を、主に「貿易額(輸入額)ベース」で整理した公式説明があります。

・バングラデシュ側(対日輸入):輸入額ベースで約83パーセントが関税撤廃(無税化)
・日本側(対バングラデシュ輸入):輸入額ベースで約91パーセントが関税撤廃(無税化)(外務省)

ここで重要なのは、これは「品目数ベース」ではなく「輸入額ベース」の全体像だという点です。自社が扱う個別HSコードで、何年目にいくらになるかは、別途スケジュール(譲許表)で確認が必要です。(外務省)

1-2 品目数ベースで見える範囲(鉱工業品の例)

鉱工業品については、バングラデシュ側の譲許が「品目数ベース」で整理されており、約88パーセントの鉱工業品品目で関税撤廃(無税化)とされています。(外務省)


2. 関税削減スケジュールの読み方

A、B5、B18、E-MFN、R、X とは何か

協定の譲許表は、各品目に「削減カテゴリ(Staging Category)」が付され、それに従って段階的に税率が下がります。カテゴリの意味は協定附属書(Annex 1)の注記に明確に定義されています。(外務省)

2-1 バングラデシュ側の主なカテゴリ

バングラデシュ側(対日輸入)の基本は次のとおりです。(外務省)

・A:発効日に無税
・B5:発効日から均等な年次削減で最終的に無税(削減回数は注記で定義)
・B8、B10、B12、B15、B18:同様に、より長い年次削減で最終的に無税(最長はB18)
・E-MFN:バングラデシュが他国との協定等で与える最良の特恵を下回らない扱い(関税をゼロにすることを約束するカテゴリではなく、他国に劣後しないことを確保する趣旨)
・X:関税削減・撤廃の対象外(外務省)

実務上は、バングラデシュ国境で課される負担は関税だけでなく、付加価値税や各種課徴金が絡むことがあります。EPAで下がるのは原則として「協定上の関税(customs duties)」部分であり、他税目がどう扱われるかは輸入国側制度の確認が不可欠です(ここは品目ごとに差が出ます)。(外務省)

2-2 日本側の主なカテゴリ

日本側(対バングラデシュ輸入)は、次のカテゴリが定義されています。(外務省)

・A:発効日に無税
・B3、B5、B7、B10、B15:発効日から均等な年次削減で最終的に無税(回数は注記で定義)
・TRQ:数量枠(関税割当)。枠内は段階的に無税化する一方、枠外は優遇の対象外となる設計
・R:発効後90日以内に開始する当事国間レビュー(再協議)対象
・X:関税削減・撤廃の対象外
・-:国家貿易や別途関税割当の対象などで、本協定の関税コミットメントの適用外(外務省)


3. 原産地規則の全体像

どの「産地」ならEPA税率を使えるのか

EPAの関税優遇は「原産品」であることが前提です。原産地規則(Rules of Origin)は、関税削減と同じくらい重要で、誤ると追徴やペナルティの原因になります。協定の第3章が原産地規則を定めています。(外務省)

3-1 原産性の判定ルートは3本立て

協定上、原産品の基本ルートは次の3つです。(外務省)

  1. 完全生産品(Wholly obtained)
  2. 原産材料のみから生産(Produced entirely from originating materials)
  3. 非原産材料を使っても、品目別原産地規則(PSR)を満たす(関税分類変更、付加価値基準、特定加工など)(外務省)

3-2 完全生産品の典型例(農水産品で特に重要)

完全生産には、例えば次が含まれます。(外務省)

・当事国で生まれ育った動物、収穫された植物
・当事国の排他的経済水域などで、当事国の船舶が採捕した海産物
・その海産物を当事国の加工船で加工したもの(外務省)

ここで「当事国の船舶」の定義(登録、旗国、所有、乗組員比率など)も協定で定義されています。水産物を扱う場合は、漁獲証明など周辺書類も含め、輸入者側で検証耐性を持たせるのが安全です。(外務省)

3-3 付加価値基準(QVC)と、その計算方法

PSRの中には「QVC40」「QVC30」など、一定の付加価値割合を求めるルールがあります。定義は附属書(Annex 2)にあり、計算式は協定本文にあります。(外務省)

・ビルドダウン方式:FOB価格から非原産材料価額を控除して割合算出
・ビルドアップ方式:原産材料、直接労務費、製造間接費、利益などを積み上げて算出(外務省)

3-4 日・バングラデシュ間の累積(Accumulation)

本協定は、相手国側で行った工程や付加価値を、自国側の原産判定に加算できる考え方(累積)を明確に規定しています。分業型サプライチェーンを組むほど効いてきます。(外務省)

3-5 デミニマス(少量の例外)

PSRの関税分類変更(CTC)を満たさない非原産材料が少量なら無視できる「デミニマス」も規定されています。附属書(Annex 2)では、原則として次の水準が示されています。(外務省)

・HS第1章から第49章、及び第64章から第97章:製品価格の10パーセント(価額基準)
・HS第50章から第63章(繊維関連):製品重量の10パーセント(重量基準)(外務省)

3-6 非原産とみなされる軽微な加工(注意)

ラベル貼付、単純包装、単純混合など「それだけ」では原産にならない操作が列挙されています。外注工程や第三国での手直しがある場合は、ここに引っかかると優遇が使えません。(外務省)

3-7 原産地証明は3類型、英語、原則1年有効

本協定の原産地証明(Proof of Origin)は次のいずれかです。(外務省)

・輸出国の権限当局等が発給する原産地証明書
・認定輸出者(approved exporter)による申告
・輸入者、輸出者または生産者による申告(自己申告型)

さらに、協定は「日本は発効日から、輸入者による申告を原産地証明として考慮できる」旨を置いています(運用手続の整備状況に左右され得るため、発効後の当局ガイダンス確認は必須です)。(外務省)

証明は英語で、原則として発給・作成から1年有効とされています。(外務省)


4. 商品カテゴリー別

原産地規則と関税削減スケジュールの要点

以下は、公式説明資料と協定のPSRを突き合わせた「カテゴリー別の実務まとめ」です。実際の適用は、必ず自社品目のHSコード(6桁から各国の詳細桁)でスケジュールとPSRを引き当ててください。(外務省)

4-1 日本からバングラデシュへ輸出する場合(日本企業の輸出)

1) 鉄鋼・金属材料(HS第72章、第73章など)

関税削減・撤廃の方向性
・鉄鋼分野はバングラデシュ側の関税水準が高く、最大で56.6パーセントという説明があり、品目数ベースで約90パーセントを18年以内に撤廃する整理が示されています。(外務省)
・具体例として、熱延鋼板は12年、冷延鋼板は12年または18年、鋼棒は10年または15年で撤廃の例が示されています。(外務省)

原産地規則(PSRの要点)
・第72章は多くが「関税分類変更(CTH)またはQVC40」型(品目によりCCやCTHの範囲差あり)
・第73章も多くが「CTHまたはQVC40」、一部は「CTSHまたはQVC40」型(外務省)

実務メモ
・加工度が低い材料取引ほど、第三国材の混入でQVCやCTCが崩れやすいので、ミルシートと原材料調達経路の証跡を早い段階で固めるのが安全です。(外務省)

2) 自動車関連(部品、CKD、完成車など)

関税削減・撤廃の方向性
・自動車部品は原則15年以内で撤廃、CKDは15年で撤廃の整理が示されています。(外務省)
・完成車(乗用車)は「将来にわたり他国に劣後しない特恵待遇を確保」とされ、譲許表カテゴリではE-MFN型の考え方と整合的です(無税化を約束する表現ではない点がポイント)。(外務省)
・部品の具体例として、エンジンは即時から15年、タイヤは15年などの例示があります。(外務省)

原産地規則(PSRの要点)
・HS第87章(車両など):87.01から87.07は「CTHまたはQVC40」
・HS第87.08(自動車部品):多くが「CTSHまたはQVC40」(外務省)

実務メモ
・部品はCTSHが要求されやすく、サプライヤーのHS付番差異がリスクになります。輸出前に相手国側の分類見解も含めたすり合わせを推奨します。(外務省)

3) 電子・電機部品(半導体、スイッチ等)

関税削減・撤廃の方向性
・集積回路は5年から18年、スイッチ等は8年から18年で撤廃の例が示されています。(外務省)

原産地規則(PSRの要点)
・HS第85章は広く「CTHまたはQVC40」、品目により「CTSHまたはQVC40」も混在(外務省)

4) 一般機械(工作機械、産業機械など)

関税削減・撤廃の方向性
・一般機械は約80パーセントの品目が即時撤廃(例として織機など)と整理されています。(外務省)

原産地規則(PSRの要点)
・HS第84章は多くが「CTHまたはQVC40」もしくは「CTSHまたはQVC40」型(外務省)

5) 繊維原料・生地(綿織物、合成繊維織物など)

関税削減・撤廃の方向性
・綿織物は15年、合成又は再生繊維の織物は18年で撤廃の例示があります。(外務省)

原産地規則(PSRの要点)
・繊維(第50章から第60章)は、CCやCTHが中心で、品目によっては「染色・捺染が当事国で行われること」を条件にCTC不要とする選択肢が付く条項もあります。(外務省)
・繊維のデミニマスは重量10パーセント基準という点も、原料混合の多い品目で効いてきます。(外務省)

6) 医療機器・精密機器

関税削減・撤廃の方向性
・医療機器は即時から15年で撤廃の整理が示されています。(外務省)

原産地規則(PSRの要点)
・HS第90章(光学・医療用機器等)は多くが「CTHまたはQVC40」、一部は「CTSHまたはQVC40」(外務省)

7) 農林水産品・食品(和牛、水産物、果実、茶、調味料など)

関税削減・撤廃の方向性
・和牛、水産物(例:ぶり、たい、ホタテ)、果実(例:りんご、ぶどう)、緑茶、しょうゆ等について、即時から18年で撤廃される整理が示されています。(外務省)

原産地規則(PSRの要点)
・農産物は「完全生産(栽培・収穫)」で整理できるケースが多い一方、加工食品はCCやCTHなどPSRの適用になるため、原材料表の管理が重要です。(外務省)


4-2 バングラデシュから日本へ輸出する場合(日本企業の調達・輸入)

1) 繊維製品・アパレル(HS第61章、第62章、第63章)

関税削減・撤廃の方向性
・日本側は、バングラデシュ産繊維製品について「現行の無税措置を維持する」整理が示されています(日本の繊維輸入における制度変更リスクを抑える意味合いが大きい)。(外務省)

原産地規則(PSRの要点)
・第61章、第62章はいずれも「CC(章変更)」がPSRとして示されています。つまり、衣類(61、62章)を作る際に使う非原産材料が他章(例:生地は第50章から第60章)であれば、原則としてCTC要件を満たしやすい設計です。(外務省)
・繊維関連のデミニマスは重量10パーセントで運用されます。(外務省)

実務メモ
・縫製が「軽微な加工」に当たるかが問題になることは通常少ない一方、第三国での単純なラベル貼付や詰め替えは非原産扱いの論点になり得ます。輸送途中の加工工程がある場合は要注意です。(外務省)

2) 水産物(えび、かに等)および水産加工品

関税削減・撤廃の方向性
・水産品(えび、かに等)は、関税撤廃の対象として整理されています。(外務省)

原産地規則(PSRの要点)
・漁獲・養殖の形態によっては完全生産(当事国の漁業、船舶要件等)で原産を組み立てられます。(外務省)
・加工品はCCなどのPSRで判定することもあります。(外務省)

3) 茶、香辛料等(HS第9章)

関税削減・撤廃の方向性
・茶、香辛料等も関税撤廃の対象として整理されています。(外務省)

原産地規則(PSRの要点)
・第9章は品目によりCCまたはCTSHなどがPSRとして示されています(例:09.02から09.10はCC)。(外務省)

4) 皮革・履物(HS第41章から第43章、第64章)

関税削減・撤廃の方向性
・皮革・履物は「EPA発効後に再協議」と整理されています。(外務省)
・日本側譲許表でも、皮革・皮革製品等の一部に「R(発効後90日以内に開始するレビュー)」カテゴリが付されている箇所が確認できます。(外務省)

原産地規則(PSRの要点)
・第41章から第43章、第64章はPSRがCC(章変更)として示されています。(外務省)

実務メモ
・Rは「直ちに無税化される」ことを意味しません。発効後の当局協議と結果を継続フォローする必要があります。(外務省)


5. 関税が削減されない対象外商品

X、-、TRQ、R をどう読むか

5-1 日本側の主な対象外の考え方

日本側譲許表では、少なくとも次のパターンが「実質的に対象外」になり得ます。(外務省)

・X:関税撤廃・削減の対象外
・-:国家貿易や既存の関税割当等により、本協定の関税コミットメントの適用外
・TRQ:枠外は優遇対象外
・R:レビュー対象(結論が出るまで確定的な優遇と見なさない)(外務省)

また、公式説明として、日本側はコメ等の重要5品目(米、麦、牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源作物)を中心に、農林水産品で多くの除外がある旨が示されています。(外務省)

5-2 バングラデシュ側の主な対象外の考え方

バングラデシュ側譲許表では、Xが「対象外」、E-MFNが「他国に劣後しない扱い(必ずしも無税化ではない)」として定義されています。(外務省)

自動車の完成車は、公式説明上「他国に劣後しない特恵待遇確保」と整理されており、品目によってはE-MFN型の読み方が実務上重要になります。(外務省)


6. 関税以外で特筆されるEPAの内容

取引コストと投資リスクに効く条項

本EPAはモノの関税だけでなく、サービス、投資、電子商取引、知財、通関などを幅広く含みます。実際、公式説明資料では次の点が「特筆事項」として整理されています。(外務省)

6-1 サービス分野の開放拡大

バングラデシュが開放するサービス分野数が、WTO上の約150分野中、従来の開放16分野から、本EPAでは約100分野へ拡大すると整理されています。製造業の輸出入だけでなく、現地での保守、物流、IT、専門サービス等の展開にも影響します。(外務省)

6-2 電子商取引(データ、サーバー、ソースコード)

データ流通の確保や、データ保存のためのサーバー設置要求の禁止、ソースコード移転要求の禁止などが、公式説明の中で明示的に触れられています。クロスボーダーの業務システム、クラウド、ソフトウェア提供を含むビジネスには重要です。(外務省)

6-3 知的財産(国際出願、データ保護など)

特許・商標の国際出願条約への加入義務や、医薬品のテストデータ保護義務などが、公式説明で挙げられています。医薬・化学・ブランドビジネスでは、ライセンス戦略や模倣対策の観点で注目点になります。(外務省)

6-4 通関・貿易円滑化(スピードと透明性)

バングラデシュ側の通関について「48時間以内通関目標」が掲げられている点が、公式説明にあります。納期リードタイムが価値の中核になる産業(部品、ファストファッション、医療機器など)では、制度が実装されるかどうかが競争力を左右します。(外務省)

6-5 競争政策、投資環境の見える化、反贈賄

突然の政策変更などカントリーリスクの軽減、外資規制・投資制度の可視化、贈賄行為に対する措置などが、公式説明で挙げられています。取引コストだけでなく、現地投資や長期契約のリスクプレミアムに関わる論点です。(外務省)


7. 実務者向けチェックリスト

発効前後で準備しておくべきこと

7-1 まずHSコードを確定し、譲許表のカテゴリを読む

・自社品目のHSコードを、輸出国側と輸入国側で突合(国ごとに詳細桁が異なるため)
・譲許表でカテゴリ(A、B10、B18、E-MFN、Xなど)を確認
・発効後、何年目に税率がどう動くかを社内の価格表と契約条項に落とし込む(外務省)

7-2 原産判定の型を決め、証跡を設計する

・完全生産で行けるのか
・PSRでCTH、CTSH、QVC40などが要求されるのか
・デミニマスや累積の活用余地があるのか
・軽微加工扱いにならない工程設計になっているか(外務省)

7-3 原産地証明の運用を決める

・原産地証明書、認定輸出者申告、自己申告のどれが使えるか(発効後の運用手続を確認)
・証明は英語、原則1年有効
・輸入通関時の提示、事後検証への備え(帳票保管、サプライヤー証明書の回収)(外務省)


免責

本稿は一般的な情報提供を目的としたもので、個別案件の法的助言ではありません。実際の申告・契約・規制適合は、対象国の法令と最新の当局公表、必要に応じて専門家見解に基づき判断してください。

FTA原産地証明監査で見えた、現場がつまずく2つの盲点

証拠書類とHSコードが揃っていても、監査で崩れる理由

監査のご依頼を受けました

ある企業様から、FTA原産地証明に関する証拠書類の監査をご依頼いただきました。
今回は、共同でご一緒する機会の多いTSストラテジー株式会社 代表の藤森様と連携し、現場ヒアリングから証拠書類の整合確認まで、実務目線で監査を実施しました。

監査の目的は「書類の有無」ではなく「説明できる状態」か

原産地証明は、発給や申告の時点で完了ではありません。輸入国税関の事後検証など、後から説明を求められる局面で、根拠を一貫して示せるかが勝負になります。
そのため監査では、書類があるかどうか以上に、次の点を重視します。
・判断の前提が明確か
・証拠が一本のストーリーとしてつながるか
・第三者に説明しても結論がぶれないか

現場で見えた課題

対象企業様は、担当者の皆様が非常に努力されており、資料もよく整備されていました。一方で、監査の観点から見ると、将来の検証局面でリスクになり得るポイントがいくつか見つかりました。

課題1 証拠書類の作り方が属人化しやすい

検認や事後検証の経験が少ない場合、資料は揃っていても、次のような状態になりがちです。
・どの書類が、どの論点を支えるのかが明示されていない
・部材表、工程、計算、原産地証明の主張が、相互参照できない
・担当者が変わると、同じ結論でも説明の組み立てが変わる

この状態は、普段の運用では気づきにくい一方で、検証局面では弱点として表面化します。

課題2 HSコード付番とCTC判定の前提が揺らぐ

今回、特に気になったのが、完成品のHSコードと、CTC判定に用いる部材HSコードの付番根拠でした。
CTCは、前提となるHSコードが変われば結論が変わる制度です。つまり、HSコードの根拠が弱いままCTCを組むと、証明書や申告全体の説明力が落ちます。

なぜHSコードのズレが監査で致命傷になるのか

HSコードは、FTAの原産地規則を適用する起点です。ここが揺らぐと、以降のロジックが連鎖的に崩れます。

CTCはHSコードの差分を証明する仕組み

CTCは、材料と製品の分類差に着目して原産性を説明する枠組みです。
そのため、材料HSの付番が不安定だと、次のような疑義が生まれます。
・材料側の分類が適切か
・差分の前提が正しいか
・製品側の分類が変わった場合、結論は維持できるか

人に依存した付番は、再現性の壁にぶつかりやすい

現場の経験は重要ですが、人の判断だけに依存すると、担当者差や拠点差で結論が微妙に揺れることがあります。監査で問われるのは、経験の有無よりも、第三者が追試できる根拠の形です。

そこで今回、HS Code Finder(HSCF)を用いた付番事例と、企業様の現行付番結果を突合し、差分が生じる箇所を中心に根拠の補強ポイントを整理しました。
重要なのは、ツールが正しいと言い切ることではなく、差分が出たときに、なぜその分類が妥当かを説明できる状態にすることです。

監査で行ったこと

監査では、単なる指摘ではなく、次に何を整えれば説明力が上がるかまで落とし込みます。

1 原産地主張のストーリーを再構築

・製品の分類根拠
・適用する原産地規則
・部材情報と工程情報
・証拠書類の配置
これらを、第三者が追える順序に並べ替え、説明の骨格を整えました。

2 HSコードとCTC判定の整合を重点点検

・完成品HSの根拠確認
・主要部材HSの根拠確認
・CTC判定の前提となる比較軸の妥当性確認
差分が出る箇所は、どの資料を追加すれば強くなるかまで具体化しました。

3 組織体制と運用ルールの改善提案

・誰が分類判断を承認するのか
・どのタイミングで更新するのか
・変更時にどこまで遡って影響確認するのか
監査対応は、担当者の頑張りだけでは限界があります。仕組みで守れる体制にすることが、継続運用の鍵になります。

当社のFTA監査支援で提供できること

当社では、HSコードの確認に加え、FTA原産地証明の弱点がどこで露呈するかを監査視点で点検し、実務に落ちる改善策までご提案します。

監査で扱う主な領域

・原産地証明の主張と証拠の整合性
・HSコード付番根拠の妥当性と再現性
・CTCを含む原産地規則の前提確認
・証拠書類の不足箇所の特定と補強案
・運用ルール、承認体制、変更管理の設計

こんな状態なら、早めの監査が効果的です

・担当者が変わると説明に不安が残る
・部材HSの根拠が担当者の経験に依存している
・品目追加や設計変更のたびに原産判定が揺れる
・取引先や輸入国側から、根拠提示を求められることが増えてきた

ご相談について

監査は、問題を指摘するためではなく、説明できる状態を作るための投資です。
現状の資料を前提に、どこを補強すれば監査耐性が上がるかを短期間で可視化できます。
FTA原産地証明の監査、HSコードとCTCの整合点検、体制整備のご相談があればお問い合わせください。

インド向け輸入実務で、HSコードの誤記載が単なる事務ミスとして扱われにくくなっています。

背景にあるのは、海上貨物情報の提出ルールを刷新するSCMTRの運用高度化と、それを支える関税法(Customs Act, 1962)の罰則枠組みです。

インド税関のSCMTR関連文書と関税法条文、税関ゾーンの公示(Public Notice)を確認できます(下記参照)。

・ICEGATE(インド税関EDIポータル)のSCMTR利用者向けアドバイザリにおいて、Arrival Manifest(到着マニフェスト)に8桁HSコードの記載が必須であることが明記されています。
・SCMTR(Sea Cargo Manifest and Transhipment Regulations, 2018)自体が、到着・出港マニフェストの提出タイミングを前倒しし、誤りや遅延がある場合の取扱い(修正・補完の許容条件)を規定しています。
・関税法(Customs Act, 1962)第30条は、マニフェスト提出遅延に対する罰金(上限5万ルピー)と、内容が不完全・不正確な場合の補正許容(不正意図なしの場合)を規定しています。
・同法第114AA条は、虚偽または重要事項の不正確な申告・書類利用を「故意に」行った場合、貨物価値の5倍までの罰金を規定しています。
・税関ゾーン単位では、SCMTRの新フォーマット提出を港ごとに段階的に必須化する公示が出ており、実務移行が「運用として」進んでいます(例:Chennai Customs)。

厳格化は、単に「罰金額が上がった」という話に限りません。実務上は次の2層で効いてきます。

SCMTRは、従来のIGMに代わるArrival Manifest等を、最終外国寄港地からの出港前に電子提出する運用へ寄せています。ここでHSコード(少なくとも所定桁数)が必須項目として扱われ、欠落・不整合があると、訂正対応や照会でリードタイムが伸びやすくなります。

関税法第30条は、マニフェストの提出遅延に対して上限5万ルピーの罰金を置きつつ、内容が不正確・不完全でも「不正意図なし」であれば補正を許容する枠組みを持っています。つまり、誤記載が発見されたときに「直ちに罰則」ではなく、「迅速な補正と説明で収束できる余地」が制度上は残っています。

一方で、誤ったHSコードが、関税回避や規制逃れ(輸入規制・認証対象の回避など)と結びつくと、虚偽・重要事項の不正確記載として第114AA条の射程に入り得ます(貨物価値の5倍までの罰金)。

HSコードの誤りは、単発の訂正で終わらず、マスターデータに誤りが残ると同一品番の再出荷で繰り返します。SCMTRのように事前提出が前提になると、港到着後に気づくのではなく、出港前後に差戻しが発生し、輸送計画そのものに影響します。

誤分類による追徴リスクに加え、滞船料・保管料、納期遅延の違約金、緊急輸送への切替コストが膨らみます。加えて、マニフェストの不備は物流事業者側の修正費用や手数料に転嫁されやすく、総コストが見えにくい形で増えます。

制度上、誤りの補正が許容される場合でも、説明が弱いと「なぜそのHSだったのか」「誰が判断したのか」「同種案件がないか」という論点に発展しやすい。ここで社内統制が弱いと、個別ミスが組織的リスクに格上げされます。虚偽・重要事項の不正確記載と評価されると、制裁は急に重くなります。

・誰が最終判断者か(貿易管理、品目分類担当、外部専門家)
・判断根拠(GRI、品目の機能・材質・用途、類似裁定、社内標準)
・インド固有の8桁運用(ITC(HS)相当)の扱い

この3点を最低限ひも付け、監査で再現できる状態にします。

・インボイス品名と梱包明細の品目説明
・HSコード(6桁と8桁)
・マニフェスト/申告データ(Arrival ManifestやBill of Entryに連なる情報)

書類間で品目説明とHSがずれていると、誤記載として見つかりやすくなります。SCMTRはまさにこの整合性を前提に設計されています。

・発見した時点で、補正の可否と必要資料を即判断
・不正意図がないことを示す材料(社内承認記録、仕様書、過去の一貫性)を添付
・補正の根拠として、制度上の補正許容(不正意図なし)を踏まえて説明

関税法第30条およびSCMTRには、不正意図がない不完全・不正確について補正を許容する設計が読み取れます。

SCMTRは段階的に新フォーマット必須化が進みます。例えばChennai Customsでは港ごとに必須化日程が公示されています。自社貨物が入る港とフォワーダーの運用準備がずれていると、誤記載が「訂正の遅れ」へ連鎖しやすくなります。

・主要品目のHSコードは、直近12か月で再検証したか
・HSコードと品目説明の整合を、出荷前に機械的に検知できるか
・誤記載が見つかったとき、補正と説明のテンプレートがあるか
・物流パートナーに渡すHSコードは「単なる情報」ではなく、社内承認済みのものか
・故意と見られないための記録(判断根拠・承認ログ)を保持しているか

・ICEGATE:SCMTR利用者向けアドバイザリ(Arrival Manifestに8桁HS必須の記載あり)
・Sea Cargo Manifest and Transhipment Regulations, 2018(SCMTR本体。誤り・遅延時の補正の考え方を含む)
・Customs Act, 1962(第30条:マニフェスト遅延罰と補正、第114AA条:虚偽・重要事項の不正確記載の罰則)
・Chennai Customs:SCMTRの段階的必須化に関するPublic Notice(港別の適用日程)

免責

本稿は一般的な情報提供を目的としたもので、個別案件の法的助言ではありません。実際の申告・契約・規制適合は、対象国の法令と最新の当局公表、必要に応じて専門家見解に基づき判断してください。

英国のCPTPP加盟で変わる対英貿易。日英EPAとの「二刀流」活用術

2026年2月6日、英国が環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)に正式加盟してから一定期間が経過しました。現在、日本の貿易現場では、既存の「日英経済連携協定(日英EPA)」と、新たに使用可能になった「CPTPP」のどちらを選択すべきかという、戦略的な使い分けの議論が非常に活発化しています。

同じ日本と英国の間の貿易でありながら、二つの異なるルールが存在する現在の状況は、企業にとってコスト削減の大きなチャンスであると同時に、実務的な複雑さも増しています。本稿では、ビジネスマンが押さえておくべき二つの協定の決定的な違いと、最適な選択を行うための視点を深掘りします。


どちらを選ぶべきか。判断を分ける三つの核心

日英間で二つの協定が共存する「ダブル・トラック」体制において、企業が優先順位を決める際の基準は、単なる関税率の低さだけではありません。以下の三つの要素が、活用の鍵を握っています。

1. 原産地規則における「累積」の範囲

これが実務上で最も大きな違いです。

日英EPAでは、欧州連合(EU)産の原材料や部品を「自国(日本または英国)産」とみなして計算に含めることができる「EU累積」が認められています。これは、ドイツやフランスなどのEU諸国から部品を調達して英国で組み立てを行う、あるいは日本でEU産部材を使って製品化する企業にとって、極めて有利なルールです。

対して、CPTPPでは、ベトナム、マレーシア、オーストラリア、カナダといったCPTPP加盟国全体の部材を合算できる「CPTPP広域累積」が適用されます。アジア圏のサプライチェーンを広く活用している企業にとっては、CPTPPの方が「日本産」としての資格を満たしやすくなるケースが多いのです。

2. 関税撤廃スケジュールの微妙な差

日英EPAは、基本的に日欧EPAの成果を継承しており、多くの品目ですでに即時撤廃、あるいは高度な削減が実現しています。

一方で、CPTPPは加盟国間での独自の譲許表(関税撤廃スケジュール)を持っており、特定の品目、例えば農産品や一部の工業製品においては、CPTPPの方が最終的な無税化までの期間が短かったり、枠組みが異なったりする場合があります。輸出入を行う品目ごとに、両方の協定の譲許表を突き合わせ、数年先の税率まで見越したシミュレーションを行うことが不可欠です。

3. 証明手続の利便性と柔軟性

日英EPAでは、輸出者または輸入者が自ら原産地を証明する「自己申告制度」が採用されています。

CPTPPも同様に自己申告が基本ですが、長年CPTPPを他の太平洋諸国との間で使い慣れている企業にとっては、共通のフォームや社内管理体制をそのまま英国向けにも横展開できるという運用上のメリットがあります。複数の協定をバラバラに管理するコストを避けるため、あえて他の国と同じCPTPPに統一するという経営判断も増えています。


ビジネスマンが取るべき実務アクション

戦略的な使い分けを実現するために、今すぐ着手すべき具体的なアクションは以下の通りです。

  1. サプライチェーンの再点検自社製品に使用されている主要部材の原産地を改めて特定してください。EU産が多いのか、それともASEAN(CPTPP加盟国)産が多いのかによって、勝負すべき協定は自動的に決まります。
  2. 二つの譲許表の「現行税率」比較税関やJETROが提供しているデータベースを活用し、当該HSコードにおける本日の実行関税率を比較してください。日英EPAではすでに0%でも、CPTPPでは段階削減の途上であるといった逆転現象も起こり得ます。
  3. 認定輸出者制度等のステータス確認自己申告を行うための社内エビデンス(原産地判定書など)が、両方の協定のルールに対応できているかを確認してください。特に累積規定を利用する場合、根拠となるサプライヤー証明書のフォーマットが異なる場合があります。

まとめ:協定を「選べる」強みを利益に変える

英国のCPTPP加盟により、日本企業は強力な武器を二つ手に入れました。これまでは「日英EPA一択」だった思考を切り替え、調達ルートの変化に合わせて柔軟に協定を使い分けることが、2026年以降のグローバル競争を勝ち抜くための新常識となります。

関税コストの削減は、直接的に営業利益を押し上げます。法務や物流の担当者だけでなく、営業や経営企画の部門も巻き込んで、この「二刀流」のメリットを最大限に引き出す戦略を構築してください。

免責

本稿は一般的な情報提供を目的としたもので、個別案件の法的助言ではありません。実際の申告・契約・規制適合は、対象国の法令と最新の当局公表、必要に応じて専門家見解に基づき判断してください。

USMCA適格の中・大型車 232追加関税を非米国分だけにする申請手続が正式化

中・大型車(MHDV: Medium- and Heavy-Duty Vehicles)の米国向け輸入では、USMCAの原産地規則を満たしていても、232条に基づく追加関税(原則25%)の論点が残ります。

今回の動きの本質は、USMCAの特恵適格そのものではなく、232追加関税の課税ベースを「車両の総額」ではなく「非米国分の価値」に限定するための、商務省(Commerce)への申請手続が連邦官報で明文化された点です。

何が正式化されたのか

2026年2月2日付の連邦官報(Department of Commerce / International Trade AdministrationのNotice)で、USMCAの特恵関税待遇に適格な中・大型車について、輸入者が「米国コンテンツ(U.S. content)」をモデル単位で申請し、承認されれば232追加関税を「非米国分の価値」にだけ適用できる仕組みの提出・審査手続が示されました。

提出先メールアドレス、必要情報、認証者、審査後のCBP連携などが具体化しています。

ここでいう「米国コンテンツ」は、米国の生産および生産関連活動に帰属する価値として商務長官が判断すると整理されています。具体的には、USMCAのArticle 4.1における「production」の定義と整合的に解釈されます。

時系列で見る全体像

日付主な出来事実務への意味
2025年10月17日大統領布告10984(中・大型車、特定部品、バスに232追加関税)中・大型車に原則25%(バス等は10%)、2025年11月1日から適用開始
2025年10月29日CBPがCSMSで申告方法(Chapter 99)を提示9903.74.01〜等の使い分けを提示。米国分・非米国分の分割申告は「追加ガイダンスまで申告しない」注意喚起も
2026年2月2日Commerceが申請手続を連邦官報で公表輸入者が申請できる要件と提出書類が確定。遡及の扱い、過大申告時のリスクも明記

2025年11月3日付のジェトロビジネス短信では、USMCA原産の中・大型車は非米国分のみ課税となり得るが、商務長官の承認と追加ガイダンスが必要で、CBPは当面その制度を用いた申告を控えるよう求めた、という整理をしています。

対象になる輸入と対象外

対象(申請できる)

次の両方を満たす中・大型車です。

  • メキシコまたはカナダから輸入される
  • USMCAの特恵関税待遇に適格(原産性要件を満たす)

対象外

  • USMCA域外(メキシコ・カナダ以外)からの中・大型車
  • カナダ・メキシコからでもUSMCA特恵に適格でない中・大型車

申請手続の中身:何を、誰が、どこへ出すか

いつから、どこへ

誰が認証するか

提出書類は、輸入者側のCFO、法務責任者(General Counsel)、または同等レベルの上級役員による認証が求められます。

何を提出するか(モデル単位)

連邦官報の手続では、モデルごとに少なくとも次の情報を含めることが求められます。

  1. 輸入時点の申告価格(Customs value、19 U.S.C. 1401aベース)
  2. 米国コンテンツの価値(商務長官の考え方に基づき算定)
  3. 非米国コンテンツの価値(総額から米国コンテンツを控除)
  4. 生産地、最終組立国
  5. USMCA特恵適格の裏付け
    • 署名済みの原産地証明(origin certification)
    • 鉄鋼・アルミ要件、労働価値要件に関する承認済み認証(CBPと労働省が共同でレビュー・承認したもの)
    • 代替ステージング(Alternative Staging Regime)の承認対象かどうか
  6. 輸入者名、IOR番号、メーカー情報、原産国、モデル情報
  7. 遡及適用を求める場合は、過去のエントリー番号も提示

なお、モデル内で価格や構成がぶれる場合、USMCA自動車付属書(Automotive Appendix Article 5)にある平均化手法の利用が想定されています。

審査後に何が起きるか

Commerceは提出内容を審査し、不足があれば追加資料や説明を要求できます。

整合性が確認され、米国コンテンツと非米国コンテンツの価値が決まると、輸入者とCBPへ通知し、承認済みの輸入者・モデルのリストもCBPへ連携するとしています。

重要なのはここからで、承認されたモデルについては、232追加関税(25%)を「非米国分の価値」にだけ課す扱いになります。

遡及適用と有効期間

遡及適用

大統領布告およびCommerceの手続では、2025年11月1日以降に輸入された適格モデルについて、商務長官の裁量で遡及適用を認め得るとされています。

有効期間と締切(2027年以降に効いてくる実務)

  • 2026年12月31日以降の輸入に係る適格判断は、原則として暦年1年のみ有効
  • 翌年分の適格判断を確実に間に合わせるため、輸入年の前年10月1日までに提出するよう求める設計
  • 新モデルは随時申請できるが、その年末までしか有効にならない

この「10月1日締切」は、車種追加や年次変更が多い中・大型車ビジネスでは、社内のBOM・原価・原産証明の更新サイクルを前倒しで固定化する必要が出ます。

過大申告リスクが非常に重い

CBPが、米国コンテンツの申告が過大である、または商務長官が承認した米国コンテンツ値と整合しないと判断した場合のペナルティ設計が強烈です。

  • 232追加関税(25%)が、非米国分だけでなく車両の総額に対して遡及的・将来的に適用され得る
  • 同一輸入者・同一モデルの全輸入に波及し得る

つまり、申請で攻めるほど、ガバナンスと証跡品質がないと後で跳ね返る構造です。

通関実務(Chapter 99)で何が変わるか

CBPのCSMS(2025年10月29日)では、MHDV関連のChapter 99として、次の枠組みが示されています。

  • 9903.74.01: 中・大型車(該当見出し)に25%
  • 9903.74.02: バス等(8702の該当)に10%
  • 9903.74.03: USMCA適格でCommerce承認を得たモデルの「非米国分」に25%
  • 9903.74.06: 同モデルの「米国分」は0%
  • 9903.74.10: USMCA適格の中・大型車部品(ノックダウンキット等を除く)は0%

ただしCSMSは、9903.74.03と9903.74.06による米国分・非米国分の分割申告について、追加ガイダンスが出るまで申告しないよう明示しています。

今回Commerce側の申請手続は整いましたが、現場では通関システム(ACE)上の具体的な入力・配賦方法や必要コード運用が追加で整備される可能性が高い点は、引き続き注視が必要です。

日本企業にとっての実務インパクト

中・大型車は、完成車の輸出入だけでなく、北米域内サプライチェーンで部品を供給する日本企業にも波及します。

理由はシンプルで、USMCA適格の維持と、米国コンテンツ算定の裏付けのために、メーカーや輸入者からサプライヤー情報の提出要求が増えるからです。

典型的には次が増えます。

  • 原産性の裏付け(PSR適用、原産証明の整合)
  • 鉄鋼・アルミ、労働価値など自動車系の追加要件に関する証跡連携
  • 商務省申請に耐える原価・価値の説明(どこまでが米国内活動に帰属するか)

企業が今すぐ整えるべきチェックリスト

対象判定

  • 自社の取引が「MHDV」か、バス(8702)を含むか
  • 輸入ルートがメキシコ・カナダ経由でUSMCA適格になっているか

証跡パック整備

  • モデル単位で、申告価格、米国コンテンツ、非米国コンテンツの算定根拠
  • origin certification、関連認証(該当する場合)

ガバナンス

  • CFOまたは法務責任者が認証できるレベルまで、社内の数字と原産根拠を一本化
  • 変更管理(調達先・工程変更で米国分が下がる場合は速やかに再判定申請)

遡及の判断

  • 2025年11月1日以降の輸入について、遡及申請の費用対効果とリスクを試算

よくある誤解

誤解1: USMCAの原産性判定が簡素化される

事実: USMCA特恵の適格性は別枠で、今回の申請は232追加関税の課税ベースを調整するためのものです

誤解2: USMCA適格なら自動的に非米国分だけ課税

事実: Commerceの承認が前提です

誤解3: 米国コンテンツは多少盛っても大丈夫

事実: 過大申告のダメージが非常に大きく、モデル単位で波及し得ます

まとめ

USMCA適格の中・大型車について、232追加関税を非米国分の価値に限定するための申請手続が、2026年2月2日に連邦官報で正式化されました。

一方で、通関現場ではCBPが分割申告の実装ガイダンスを段階的に整える運用であり、制度メリットを取りに行くほど、原産・原価・証跡の品質とガバナンスが勝負になります。


免責: 本稿は一般情報であり、個別案件は通関業者・弁護士等の専門家と事実関係を確認のうえ判断してください。