ATIGA・AJCEPの遡及発給とバックトゥバック発給を実務で使い切るための要件整理

原産地証明が「間に合わない」「経由地で積み替える」「一度輸入してから別国へ再輸出する」。この手の事象は、現場では珍しくありません。ところが、原産地証明の発給タイミングや記載ルールを外すと、関税メリットが消えるだけでなく、輸入側での差し戻し、追加資料対応、社内外の手戻りが発生します。

本稿では、ASEAN域内のATIGAと、ASEANと日本のAJCEPについて、遡及発給とバックトゥバック発給の要件を条文ベースで整理し、ビジネス担当者が運用設計できるところまで掘り下げます。国別の細かな申請手続は発給当局ごとに異なるため、最後に運用の考え方とチェックポイントもまとめます。

0. まず押さえる前提と用語

ATIGAの「Proof of Origin」は3つある

ATIGAでは、原産地証明に使える書類を総称してProof of Originと呼び、次の形態があります。
・原産地証明書 Form D
・電子原産地証明 e-Form D
・認定輸出者が作成する原産地申告 Origin Declaration (ASEAN Main Portal)

また、バックトゥバックは「最初の輸出国が出したProof of Originを根拠に、中継国が発行するProof of Origin」と定義されています。 (ASEAN Main Portal)

AJCEPの基本は原産地証明書 CO、様式はForm AJ

AJCEPはOperational Certification Procedures(OCP)とImplementing Regulations(IR)でCO(原産地証明書)の運用を定め、IRの添付様式としてASEAN側様式と日本側様式が提示されています。日本側様式ではForm AJとして示されています。 (Ministry of Foreign Affairs of Japan)

1. 遡及発給とは何か

遡及発給は、ざっくり言えば「出荷時点までに原産地証明が出せなかったときの救済措置」です。重要なのは、遡及発給は原産地の要件を緩める制度ではない点です。あくまで、原産性が成立していることを前提に、手続上の遅れを補正するための仕組みです。

実務で遡及発給が問題になるのは、次のようなときです。
・輸出許可は切ったが、原産地証明の申請が間に合わず船が出た
・書類不備や入力ミスで発給が遅れた
・インボイスやB Lなど、証明書記載に必要な情報の確定が遅れた
・輸出側は間に合ったつもりでも、発給日が出荷日より後になっていた

ここから先は、ATIGAとAJCEPで要件が微妙に違うので、分けて整理します。

2. ATIGAの遡及発給の要件と実務ポイント

条文上の要件

ATIGAでは、Form Dは原則として出荷前または出荷時に発給されるべきもの、とされています。

そのうえで、次の場合に遡及発給が認められます。
・Form Dが、出荷時点で発給されなかった理由が、不可抗力的な誤りや記載漏れ、その他の正当な理由であること
・宣言した出荷日以後に遡及発給できる
・ただし、出荷日から1年を超えての遡及発給は不可
・遡及発給であることをIssued Retroactivelyとして明確に表示する

2022年以降の運用上の落とし穴

ATIGAのOCP改正により、Form Dが宣言出荷日より後に発給される場合は、Issued Retroactivelyの表示が必要になる、という運用が明確化されています。シンガポール税関の通達では、出荷日の翌日に発給されたケースでもIssued Retroactively欄をチェックする例が示され、従来の「出荷後3日を超えたらチェック」という扱いとの違いが明記されています。 (Singapore Customs)

実務上の示唆はシンプルです。
・宣言する出荷日を誤ると、意図せず遡及扱いになる
・輸出側の申請プロセスが短い場合でも、発給日が出荷日をまたぐだけで遡及表示が必要になり得る

いつまでに輸入側へ出せばよいか

ATIGAのProof of Originは、原則として発給日(Origin Declarationなら作成日)から12か月有効で、その期間内に輸入国税関へ提出する必要があります。 (ASEAN Main Portal)

遡及発給は「発給できる期限」と「輸入側へ提出する期限」が別物です。
・発給できる期限:出荷日から1年以内
・輸入側へ提出する期限:発給日から12か月以内
この2本立てで管理すると、輸入側への提出遅れを防ぎやすくなります。 (ASEAN Main Portal)

運用の組み方

遡及発給を起こさないのが最善ですが、起きる前提でプロセスを決めると事故率が下がります。
・出荷確定から発給申請までの社内締切を、出荷前日ではなく出荷2営業日前に置く
・インボイス番号と出荷日が確定しない案件は、案件管理上、黄色扱いにして目視で追う
・輸入者へは、遡及発給になる可能性と、受領予定日を早めに共有する

3. AJCEPの遡及発給の要件と実務ポイント

条文上の要件

AJCEPのIRでは、COは原則として出荷時点まで、または出荷日から3日以内に発給されるべきものとされています。

それでも間に合わなかった例外的な場合には、次の条件で遡及発給が可能です。
・輸出者の要請に基づき、輸出国の法令に従って遡及発給できる
・期限は出荷日から12か月以内
・Issued Retroactivelyの表示欄をチェックする
・遡及発給COには、出荷日を所定欄に記載する
・輸入者は、輸入国の法令に従う範囲で、遡及発給COを提出して特恵申告できる

いつまでに輸入側へ出せばよいか

AJCEPのOCPでは、COは発給日から1年以内に輸入国税関へ提出する必要があるとされています。さらに、不可抗力など正当な理由があれば期限後でも受理され得る旨が規定されています。 (Ministry of Foreign Affairs of Japan)

運用の組み方

AJCEPでは、出荷後3日以内なら原則として通常発給に収まる設計です。とはいえ、輸出国当局の審査や繁忙で3日を超えることは現場では起こり得ます。
・出荷後3日を超えそうな兆候が出た時点で、輸入者へ遡及発給の可能性を連絡
・輸入者側で、CO後追い提出や申告訂正が可能かどうかを事前に確認しておく
・COのIssued Retroactively欄のチェック漏れは、輸入側差し戻しの典型なので、社内点検項目に固定する

4. バックトゥバック発給とは何か

バックトゥバックは、物流的には次のような構図のときに問題になります。
・最初の輸出国で原産地証明を取っている
・しかし、いったん中継国に入れて、そこから別の国へ再輸出する必要がある
・最終輸入国で特恵を取るには、中継国から最終輸入国への輸出に対応した証明が必要になる

ATIGAでは、バックトゥバックを「中継国が、最初の輸出国のProof of Originを根拠に発行するProof of Origin」と明示しています。 (ASEAN Main Portal)
AJCEPでも、輸入国(中継国)の当局が、原本COを根拠に新しいCOとしてバックトゥバックCOを発給できる、と規定しています。 (Ministry of Foreign Affairs of Japan)

ここで実務的に重要なのは、バックトゥバックは単なる積み替えだけの話ではない点です。中継国での在庫保管、分割出荷、コンソリなど、商流と物流が動くときの制度です。

5. ATIGAのバックトゥバック発給の要件と実務ポイント

発給主体と基本条件

ATIGAでは、中継国にあたる中間輸出加盟国の発給当局が、輸出者の申請に基づいてバックトゥバックForm Dを発給できます。

条件は多いのですが、実務的に効くところを絞ると次です。
・最初の輸出国が発行した有効なProof of Originを1通以上提示する
・原本が提示できない場合は、certified true copyを提示する

記載と紐付けの要点

バックトゥバックForm Dは、元のProof of Originと同種の情報を一定程度引き継ぎつつ、全ての欄を埋めることが求められます。

さらに、次の点は現場で差し戻しの原因になりやすいので要注意です。
・元のProof of Originの発給日と参照番号を、バックトゥバックForm Dの所定欄に記載する(複数ある場合も含む)
・中継国でのFOB価格を所定欄に反映する

分割出荷とコンソリの管理

ATIGAでは、分割出荷とコンソリについて、バックトゥバックの扱いが明示されています。
・分割出荷の場合、元の証明書の全額ではなく、分割した分の輸出価格を示す
・コンソリ(複数の元証明を束ねる)場合、最終輸入国への提示期限は、元のProof of Originのうち最も早く失効するものに合わせる
・中継国は、再輸出される数量の合計が元証明の数量を超えないように管理する責任がある

ここは運用で差が出ます。おすすめは、元証明ごとに残数量を管理する台帳を作り、分割出荷のたびに残を減らすシンプルな管理です。台帳がないと、倉庫と書類の整合が崩れて、発給当局の審査で詰まります。

最終輸入国の追加要求と検証リスク

最終輸入国側で、情報が不十分、または迂回の疑いがある場合、元のProof of Originの提出を求められる可能性があります。
また、バックトゥバック発給国にも、検証手続が適用され得ることが明記されています。

つまり、バックトゥバックは便利な一方で、書類の紐付けが弱いと検証リスクが上がります。特に、複数の元証明を束ねるコンソリは、照合可能性を最優先に設計すべきです。

認定輸出者によるバックトゥバック原産地申告

ATIGAでは、認定輸出者がバックトゥバックOrigin Declarationを作成できる枠組みもあります。条件はForm Dと同様の考え方で、元のProof of Originの保有、FOB価格の反映、数量超過防止、検証適用、同一品目について認定を受けた認定輸出者であることなどが求められます。

記録保持の最低ライン

ATIGAでは、輸出者や生産者、認定輸出者が、Proof of Originに関する記録を少なくとも3年間保持することが定められています。 (ASEAN Main Portal)
バックトゥバックは特に紐付け資料が命なので、元証明の写し、倉庫出入庫記録、分割台帳、インボイス連番、B Lなどを同じ案件フォルダに固定して保管するのが安全です。

6. AJCEPのバックトゥバック発給の要件と実務ポイント

発給主体と基本条件

AJCEPでは、元のCOが発給されている原産品が、輸入国(中継国)から別の締約国へ輸出される場合、輸入国(中継国)の当局が新しいCOとしてバックトゥバックCOを発給できる、とされています。発給には、輸入国(中継国)の輸出者または代理人の申請と、有効な元のCOの提示が必要です。 (Ministry of Foreign Affairs of Japan)

ここはATIGAと同じ発想ですが、AJCEPは条文上、元のCO原本提示を前提に書かれています。原本管理を社内統制の対象にする価値があります。

経由輸送の追加資料

AJCEPでは、貨物が一つ以上の締約国または非締約国を経由して輸入される場合、輸入国税関が、通し船荷証券などの輸送書類、または貨物が荷卸し、積替え、良好な状態を保つための作業以外を受けていないことを示す証明書や情報の提出を求め得る、とされています。 (Ministry of Foreign Affairs of Japan)

バックトゥバック案件はハブ経由が多いので、この追加資料要件を最初から織り込むと、輸入側の詰まりが減ります。

分割出荷の要件

AJCEPのIRでは、分割出荷のバックトゥバックでは、分割分の輸出価格と数量をバックトゥバックCOに示し、分割の合計数量が元のCO記載数量を超えないよう中継国が管理することが求められます。 (Ministry of Foreign Affairs of Japan)

様式上の表示

AJCEPのASEAN側様式では、所定欄にThird Country Invoicing、Back-to-Back CO、Issued Retroactivelyのチェック欄があり、バックトゥバックCOの場合はBack-to-Back CO欄、遡及発給の場合はIssued Retroactively欄をチェックするよう注記されています。 (Ministry of Foreign Affairs of Japan)

日本側様式ではForm AJとして示され、Issued Retroactivelyのチェック欄が別の欄に配置されています。どの欄を使うかは様式に依存するため、使用様式を最初に固定するとミスが減ります。

紛失時の対応もセットで決める

AJCEPのIRでは、COの盗難、紛失、滅失があった場合に、輸出者が当局に新しいCOの発給や、適用可能な場合はcertified true copyの発給を求められる枠組みがあり、certified true copyは原本発給日から1年以内に発給されるべきことが示されています。

バックトゥバックは原本提示が前提になりやすいので、原本の物理管理と、紛失時のリカバリルートを同じ業務手順書に入れるのが現実的です。

期限管理

AJCEPのOCPでは、COは発給日から1年以内に輸入国税関へ提出する必要があります。 (Ministry of Foreign Affairs of Japan)
バックトゥバックは、元COの期限、再輸出スケジュール、輸入申告の締切が絡むため、案件開始時点で期限表を作るのが安全です。

7. ATIGAとAJCEPを横断した実務チェックリスト

最後に、遡及発給とバックトゥバック発給で、現場で事故が起きやすい点をチェックリストにします。

A. 遡及発給での典型的なミス

・出荷日と発給日の前後関係の見落とし
・Issued Retroactively表示のチェック漏れ
・輸入側提出期限(有効期間)の管理漏れ
・輸入者へ遡及発給になることを伝えず、輸入申告が先に確定してしまう

ATIGAでは宣言出荷日をまたぐだけで遡及表示が必要になり得る運用が示されているので、出荷日の確定フローを丁寧に作るほど強くなります。 (Singapore Customs)

B. バックトゥバックでの典型的なミス

・元のProof of OriginやCOの原本管理が甘く、提示できない
・分割出荷の合計数量が元証明の数量を超えるリスク管理がない
・複数の元証明を束ねたときに、期限が最短の元証明に引きずられることを見落とす(ATIGA)
・経由輸送の追加資料要求(通し船荷証券、保全作業以外の非実施証明など)を想定していない(AJCEP) (Ministry of Foreign Affairs of Japan)

C. 書類保存と検証対応

・原産性の根拠資料は、税関照会や検証の対象になり得る
・少なくとも3年の記録保持が要請される枠組みがある(ATIGA、AJCEPとも) (ASEAN Main Portal)
バックトゥバックは、倉庫と書類の整合が崩れた瞬間に説明が苦しくなるので、案件フォルダに紐付け資料一式を固定する運用が向きます。

8. まとめ

遡及発給とバックトゥバック発給は、どちらも「例外処理」ですが、例外処理こそ運用設計で差が出ます。

・ATIGAの遡及発給は、出荷日以後の発給を遡及扱いとし、出荷日から1年以内に発給、Issued Retroactively表示が必要
・AJCEPの遡及発給は、出荷時点または出荷後3日以内が原則で、それを超えた例外は12か月以内の遡及発給とチェック欄表示
・ATIGAのバックトゥバックは、分割出荷とコンソリの要件、元証明の参照番号記載、数量超過防止、期限は最短の元証明に合わせるなど、管理ポイントが多い
・AJCEPのバックトゥバックは、元CO提示を前提に新しいCOとして発給され、分割出荷の価額と数量表示、経由輸送の追加資料要求を想定する必要がある (Ministry of Foreign Affairs of Japan)

明日からできる最小アクションとしては、次の2つが効きます。

  1. 出荷日確定から原産地証明発給までの社内締切を前倒しする
  2. バックトゥバック案件は、元証明番号と残数量を管理する台帳を案件単位で持つ

参考資料として、本文で参照したATIGAのOCP(Annex 8)、AJCEPのOCP(Annex 4)とImplementing Regulations、各国税関通達を一度通読しておくと、社内手順書の精度が一段上がります。

改訂ATIGAでの「再製造品」の扱い

改正ATIGAは、再製造品を「中古品扱い」から「正規商品」として流通させやすくする方向に大きく舵を切ろうとしています。ただし、(1)協定本文はまだ全面公開されておらず、(2)発効もこれからであるため、以下は公表されている公式資料・報道、他FTA(CPTPP等)やWCOの分析をベースにした「現時点で読める範囲の整理とビジネス的インプリケーション」です。fungry+3

1. 改正ATIGA(Upgraded ATIGA)の位置づけとタイムライン

ATIGA(ASEAN Trade in Goods Agreement)は2009年に署名、2010年に発効したASEAN域内の物品貿易自由化の中核協定です。2022年から「アップグレード(改正)」交渉が開始され、持続可能性・循環経済・再製造品・環境と貿易・サプライチェーン連結性など新テーマを取り込むことが目標とされてきました。kenbunsya+3

2025年10月、クアラルンプールで開催された第47回ASEANサミットで「Upgraded ATIGA(第2次改正議定書)」に各国が署名しました。協定は「全加盟国が署名を完了してから18か月後」に発効する見込みとされています(ASEAN事務局の発表)。fungry+2

発効時期の見通し:2025年11月時点では、署名は完了していますが、まだ発効前です。実務的な適用開始は各国の批准スピード次第ですが、早くとも2027年前後と見込まれます。sambushi+3

2. 「再製造品(remanufactured goods)」の定義

WCOや米国・EUのFTAで使われる一般的な定義を整理すると、以下のようになります。c-edge+1

再製造品:中古品や使用済み製品(コア)を回収し、分解・洗浄・摩耗部品の交換・再組立・試験などの工程を経て、新品と同等の性能・寿命・保証を持つレベルまで再生した製品です。例としては、再製造エンジン、再製造トランスミッション、再製造プリンタカートリッジ等が挙げられます。kenbunsya+3

中古品(used goods):使用済みだが、特段の再製造工程を経ていないもの(簡単な清掃や調整のみ)を指します。sambushi+1

修理品(repaired goods):壊れた箇所だけを修理したもので、全体として新品相当の性能・寿命を保証しているとは限りません。fungry+1

多くの国では、再製造品が関税・輸入規制上「中古品」とみなされ、輸入禁止、特別なライセンス義務、高い検査負担などの障壁に直面しています。改正ATIGAは、この扱いを変えて「循環経済の重要な一部としての再製造品」を適切に位置づけ直すことを目的としています。kenbunsya+3

3. 改正ATIGAで再製造品が取り上げられる背景

3-1. 新しい「サステナビリティ・循環経済」軸

改正ATIGAは、従来の関税自由化や原産地規則に加え、「循環経済」「再製造品」「環境と貿易」「サプライチェーン連結性」といった新テーマを包含すると各種公式声明で説明されています。c-edge+1

シンガポールMTIの資料では、サステナビリティの柱として、環境財の貿易障壁削減と再製造品の流通円滑化が明示されています。kenbunsya+1

3-2. 再製造品に特化した新ルールの必要性

米国・CPTPP・EU等のFTAでは、再製造品について明確な定義、原産地規則(どのレベルの再製造をすれば「原産」と認めるのか)、「再製造品である」という理由だけで輸入禁止・差別的規制を課さないこと、ラベリング(再製造品であることの表示)のルールなどを定めるのが一般的になりつつあります。WCOやASEANの研究でも「同様の枠組みを導入すべき」と指摘されていました。sambushi+2

4. 改正ATIGAにおける再製造品ルールの骨格

2025年11月時点では、Upgraded ATIGAの条文全文は公式にはまだ一般公開されていません。専門家レポートでも「テキストは未公表だが、17の新章が含まれる」とされています。fungry+2

以下は、公表されている政府プレスリリース・インフォグラフィック、ASEAN・WCO・EU-ASEAN Business Council等の分析から読み取れる「方向性」です。c-edge+2

4-1. 「再製造品の流通円滑化」の明示

シンガポール貿易産業省(MTI)のプレスリリースでは、サステナビリティの項目として次のポイントが挙げられています。kenbunsya+1

  • 環境財の貿易障壁を下げるための協力
  • 「環境にやさしい製品やリサイクル製品を含む再製造品」の流通円滑化

これは「ASEANのFTAとして新しい特徴」であり、まずは「準備の整った加盟国(ブルネイ、マレーシア、シンガポール)」から導入されます。他の加盟国は、協定発効から以下のスケジュールで実施協議を開始します。sambushi+3

  • インドネシア・フィリピン・タイ:5年以内に実施協議を開始
  • カンボジア・ラオス・ミャンマー・ベトナム:7年以内に協議開始
  • いずれも協議開始から2年以内に結論を出す

同趣旨の説明は、シンガポール政府のインフォグラフィックでも「再製造品(環境配慮型・リサイクル品を含む)の貿易拡大が期待される」とされており、再製造品が改正ATIGAの重要な要素であることが強調されています。c-edge+1

4-2. 定義・分類・輸入手続き・原産地の整理

ASEAN Investment Report 2025の要約によると、アップグレードでは以下の点が整理されます。fungry+1

  • 再製造品の定義
  • 分類基準(HS・AHTNとの紐づけ方法)
  • 再製造品の輸入手続き・規制のあり方
  • 再製造品の原産地の扱い

US-ASEAN Business Councilのレビューでは、各加盟国が定義、分類基準・輸入手続・原産地の判断などに懸念を示しており、解決策として「循環経済向けのゼロ関税・優遇関税」「再製造品の重要性を前提としたルール化」が提案されています。sambushi+1

つまり、「再製造品をどう定義し、どう税番を付け、どう輸入させ、どの条件で原産品扱いにするか」が改正ATIGAの重要テーマになっていると理解できます。fungry+2

4-3. 関税面:新品との同等・優遇が方向性

EU-ASEAN Business Councilなどのビジネス側からの提言では、「中古・再利用・再製造・リサイクル品に対し、ゼロ関税や優遇関税を明示すべき」と求めており、循環経済推進の観点から、新品と同等またはより良い税率を与える方向性が示されています。c-edge+1

改正ATIGAの全体像としても、域内貿易の「99%超の貿易自由化」を目標としていますので、再製造品についても既存の関税譲許スケジュールに基づき、新品と同じ優遇関税(多くは0%)を適用する方向と見られます。kenbunsya+2

4-4. 原産地規則(RoO)との関係

WCOの研究では、他のFTA(CPTPPやEU協定など)での再製造品ルールとして、以下のパターンが一般的です。sambushi+1

  • 「再製造工程」自体を実質的変更(substantial transformation)として認める
  • 回収コア+新部品を組み合わせた再製造品が原産品となる条件を明記
  • 再製造過程で生じる廃材・回収材の扱い(原産性の付与)を整理

改正ATIGAも、再製造工程をどの程度行えば「原産」とみなすか、ASEAN域内で回収されたコアや部品をどう累積(cumulation)として扱うかなどを整理する方向で設計されているとみられますが、具体的なCTCやVAの数値条件はまだ公表されていません。fungry+1

5. ASEAN各国の導入タイムライン(フェーズ分け)

再製造品に関する新ルールは、加盟国一斉スタートではなく、フェーズ導入が明記されています。kenbunsya+1

グループ対象国導入タイミング(目安)
第1フェーズ:Ready AMSブルネイ、マレーシア、シンガポールUpgraded ATIGA発効とほぼ同時に再製造品規定を実施
第2フェーズインドネシア、フィリピン、タイ協定発効から5年以内に実施方法を協議開始→協議開始から2年以内に結論
第3フェーズカンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム協定発効から7年以内に協議開始→協議開始から2年以内に結論

※実際の適用開始日は、各国の国内法整備・批准状況に依存します。c-edge+1

当面(2027年〜2030年頃)は「ブルネイ・マレーシア・シンガポール間」で再製造品ルールが先行し、他のASEAN諸国は中長期的に追随するという時間差が予定されています。sambushi+1

6. 日本企業へのビジネス・インパクト

ここからは、日本企業(特にASEANに生産拠点・販社を持つ企業)の視点で、想定される影響を整理します。fungry+1

6-1. ビジネスチャンス:再製造ビジネスの「公認」ルートの確立

これまで、多くのASEAN諸国では再製造品が「中古品」として扱われ、輸入禁止、数量制限、輸入ライセンス・検査の負担、税関での分類トラブルが頻発していました。c-edge+1

改正ATIGAは、再製造品を循環経済の一部として位置づけた上で「流通円滑化」を明示しているため、再製造品が新品と同じ税番・関税率で扱われ、「再製造品であること」だけを理由にした輸入禁止・差別的扱いが制限される方向が期待されます。kenbunsya+2

これにより、自動車部品・建機部品・産業機械・プリンタ/複合機などでの再製造ビジネス、グリーン調達・循環型ビジネスモデル(リース+回収+再製造)が設計しやすくなります。sambushi+1

6-2. サプライチェーン設計:ASEAN内の「リマニュファクチャリング・ハブ」

実務的には、まずマレーシア・シンガポールを中心に「ASEAN内再製造ハブ」を設け、ASEAN域内の拠点同士をATIGAの優遇関税でつなぐというモデルが現実的です(同2か国は第1フェーズで即時導入)。kenbunsya+1

例えば、タイ・インドネシア等で販売された製品の使用済みコアをマレーシアのリマニュファクチャリング工場に集約し、再製造品として再びASEAN各国に供給する方法が考えられます。将来的に、各国の再製造ルール導入後は、ローカル拠点での再製造ビジネスも拡大する見込みです。fungry+2

6-3. 通関・コンプライアンスで注意すべきポイント

HS分類と「中古品扱い」のリスク

HS上、再製造品も基本的には新品と同じ品目・機能で分類されるのが原則ですが、実務ではしばしば「中古品」扱いされます。改正ATIGAの狙いは、ここを整理・標準化することです。c-edge+3

以下を明確に文書化しておくことが、税関との議論・将来の紛争予防に重要です。sambushi+1

  • HS分類根拠
  • 再製造工程の内容(分解・検査・交換・試験等)
  • 品質保証・保証期間

輸入規制との整合

再製造品ルールができても、各国の廃棄物輸入規制、中古機器規制、衛生・安全・環境関連の国内法は残ります。従って、関税面ではATIGAで優遇される一方、非関税規制は各国法を個別に確認するという二段階アプローチが必要です。fungry+2

原産地証明(Form Dなど)

再製造品の原産地規則がどう整理されるかは今後のポイントですが、回収コアがどこの国から来たのか、どの国でどの工程を行ったか、使用した新部品の原産性などを証明するためのトレーサビリティと記録管理は確実に重要になります。c-edge+1

6-4. 社内的な備え:品質・保証・ラベリング

改正ATIGAの条文を待たずに、現時点から実施可能な対策として以下が挙げられます。sambushi+2

  • 再製造品を新品と同等の性能・保証レベルで設計・運用すること(これが国際的な「remanufactured」の前提)
  • 「ReMAN」「Refurbished」などのラベルや取扱説明書に、再製造工程の概要、性能保証、環境メリット(CO₂削減、資源使用削減など)を分かりやすく盛り込むこと
  • 品質管理・認証(ISO、IATF等)とリンクさせ、規制当局にも説明しやすい形にしておくこと

7. 日本企業が今から取るべきアクション(チェックリスト)

ビジネスマン視点での「当面のTo-Do」は以下のとおりです。c-edge+1

自社ポートフォリオの棚卸し

自動車部品、建機・産機、OA機器など「再製造ビジネスに回せる製品」「コアを回収しやすい製品」を洗い出します。fungry+1

ASEAN内フローのマッピング

どの国で販売し、どの国で再製造が現実的か(特にマレーシア・シンガポール)、将来的な他ASEAN諸国での展開余地を検討します。kenbunsya+1

税関・規制当局との対話チャネル準備

各国の通関業者・法務・業界団体と連携し、再製造品に対する当局のスタンス・ローカル規制を事前に把握しておきます。sambushi+1

原産地・トレーサビリティの仕組みづくり

コア回収・再製造工程・新部品の原産性を追跡できるシステムを構築し、将来のATIGA改正RoOへの対応を見越して、データ項目を設計します。fungry+1

社内の定義統一と教育

「中古品」「修理品」「再製造品」の社内定義を明確化し、営業・サプライチェーン・品質部門に対して、今後のATIGA改正の方向性を周知します。c-edge+1

情報モニタリング

協定本文の公開・各国の批准状況、再製造品に関するガイドライン・通達(特にマレーシア・シンガポール)を定期的にチェックします。kenbunsya+1

まとめ

改正ATIGAは、再製造品を含む循環経済を本格的に組み込んだ「次世代のASEAN物品貿易協定」に進化しつつあります。kenbunsya+2

具体的条文はまだ非公開ですが、再製造品の定義・分類・輸入手続・原産地、新品との同等・優遇関税、非関税障壁削減という方向性は各種公式資料からほぼ明らかです。sambushi+1

当面はマレーシア・シンガポール等での先行導入から、他ASEANへの段階展開となる見込みで、日本企業にとっては再製造ビジネスをASEAN内で立ち上げる好機である一方、原産地管理・品質・規制対応の高度化が求められる時期となります。fungry+3

特定業界(自動車・産機・OA機器など)ごとの影響整理や、「再製造品向けForm D/RoO管理のための社内テンプレート案」など、さらに実務寄りのアウトプットが必要な場合は、追加で作成可能です。c-edge+1

  1. https://c-edge.jp/column/kouseikouetsu/
  2. https://sambushi.jp/article/proofreading/
  3. https://kamisommelier.jp/717/
  4. https://kiji-sniper.com/blog/calibration-discrimination/
  5. https://fungry.co.jp/cnaps/blog/kousei-kouetsu/
  6. https://www.kenbunsya.jp/commusapu/design/4882/

ATIGA改訂の内容

エグゼクティブサマリー

ATIGAアップグレードは、ASEAN域内の物品貿易をデジタル・持続可能社会に対応させる包括的な近代化改訂です 。2025年5月に交渉が実質妥結し、「ATIGA改正第二議定書」として2025年10月26-28日の第47回ASEANサミット(マレーシア・クアラルンプール)で署名予定です 。発効は各国の国内手続完了後となります 。

改訂の柱は、非関税措置の透明性向上原産地規則の簡素化通関のデジタル化・ペーパーレス化AEO・事前教示等のTFA+要素SPS/TBT強化(GRP導入含む)、および環境・循環経済やMSME支援等の新分野の包含です 。

交渉ステータスとタイムライン

交渉妥結: 2025年5月25日のAECC(ASEAN経済共同体理事会)会合でATIGAアップグレード交渉の妥結が正式確認されました 。

署名予定: 第二議定書は2025年10月26-28日の第47回ASEANサミットで署名予定です 。マレーシアが議長国として開催します 。

発効見通し: 署名後、各国で批准・国内実装手続きを経て発効します。具体的な発効条件・移行期間は議定書テキスト及び各国通達で確定されるため、企業は官報・税関通達の継続的モニタリングが必要です 。

改訂の主要内容

関税・市場アクセス/非関税措置

現在のATIGAは既に98.6%の品目で関税撤廃を達成しているため、今後の焦点は非関税障壁の解消にあります 。改訂では、定量規制の不実施確認、輸入ライセンス・輸出規制・輸出補助金の規律強化、通知・透明性要件、是正メカニズムの整備を図ります 。

原産地規則の近代化

**「シンプル・ビジネスフレンドリー」**を基本原則として、PSR(付加価値基準・関税分類変更基準・加工工程基準の組合せ)、累積活用、証明手続きの明確化を進めます 。特に、e-Form D/ASWの活用拡大、原産地申告制度、検認・免除閾値・記録保存義務の整備により、事務負担・リードタイム削減が期待されます 。

通関・貿易円滑化の強化

WTO貿易円滑化協定(TFA)を上回る水準(TFA+)を目指し、自動化・標準化・簡素化事前教示制度(品目分類・評価・原産地規則)、AEO制度ペーパーレス化、エクスプレス貨物、ASW/ACTS高度化を柱とする包括的拡充を行います 。

SPS・TBT・GRP強化

SPS(衛生植物検疫措置): WTO-SPS協定の再確認に加え、同等性認定の迅速化、国際基準活用、意思決定情報共有、国内手続公表、技術協議メカニズムを強化します 。

TBT・GRP(良好規制慣行): WTO-TBT協定のTBT+実装、国際規格使用・相互承認、GRP原則適用、ACCQ(ASEAN基準・品質協議会)連携を推進します 。

新分野の導入

環境・持続可能性: 多国間環境協定履行確認、各国規制主権保持、循環経済促進を明記します 。

MSME支援: 中小零細企業の市場アクセス・情報・デジタル化支援を制度化します 。

企業への影響と対応準備

重要な変化点

非関税措置への対応: 通関・検査・規格・検疫手続きのコスト・時間短縮が期待される一方、透明性・通知要件の遵守強化が求められます 。

原産地規則の高度化: ASW/e-Form D・原産地申告・記録保存要件整備によりリードタイム短縮が期待されますが、サプライチェーン情報のトレーサビリティがより重要になります 。

準備チェックリスト

制度対応:

  • 2025年10月署名後の官報・通達監視体制構築
  • 社内原産地判定SOP及び記録保存規程のATIGA改訂対応更新

サプライチェーン管理:

  • PSRデータ整備(部材別原産・非原産区分、RVC計算、累積活用方法)
  • e-Form D/ASW利用拡大及び自己申告要件確認

貿易円滑化:

  • 事前教示活用計画作成及びAEO取得・維持の費用対効果評価
  • ペーパーレス化対応(権限管理・監査ログ整備)

品質・環境管理:

  • SPS/TBT手続変更点の製品カテゴリー別棚卸
  • 循環経済・環境データ(再生材比率等)管理システム構築

今後の展望

第47回ASEANサミットでの署名により、ASEAN域内貿易の新たな段階が始まります 。企業は署名後に公表される議定書正文及び各国実施通達を注視し、段階的実装に備える必要があります 。特に、デジタル化・持続可能性・サプライチェーン強靭化といった今後のトレンドに対応した貿易実務への移行が重要となります 。