HS 2028改正:自動車部品サプライチェーンへのインパクト分析

エグゼクティブサマリー

HS 2028(商品の名称及び分類についての統一システム 2028年版)は、2028年1月1日に発効予定です。改正パッケージは2025年3月のHSC(HS委員会)第75会期で暫定採択済みであり、2025年12月末の正式採択後、2026年1月に条文および新旧対照表(相関表)が公表される見込みです。

今回の改正(299パッケージ)では、**半導体やセンサー(トランスデューサ)**が重点テーマに含まれています。これにより、電装部品や測定機器の領域(第85類・第90類)で分類境界の整理(品目細分の追加、注記の整備)が行われる可能性が非常に高いです。

特に自動車のADAS(先進運転支援システム)や電動化関連コンポーネントにおいてHSコードの再編が予想され、サプライチェーン実務(原産地証明、関税分類、コンプライアンス)への影響は広範囲に及ぶと考えられます。ただし、具体的な品目移動に関する条文レベルの詳細は、2025年11月時点で未公表です。

HSコード(6桁)の変更は、FTA(自由貿易協定)の品目別規則(PSR)の再マッピングを必須とします。これにより、CPTPP、日EU・EPA、USMCAなどで使用する自己申告様式やサプライヤー宣誓書の更新が必要となります。相関表が公表される2026年から発効までの約2年間で、計画的に移行準備を進めることが現実的なアプローチです。


自動車部品サプライチェーンへの主なインパクト

1. 車載センサー・ECU・電装ユニット

センサー類(温度、圧力、加速度センサー、LiDAR/Radar関連)やMEMSデバイスの分類において、第85類(電気機器)と第90類(測定機器)の境界が再整理されると想定されます。

細分の新設や注記の変更が行われた場合、HSコードの変更がPSR(品目別規則)のCTC(関税分類変更基準)やVA(付加価値基準)の条件変更に直結するため、FTA原産判定のロジックに大きな影響を及ぼします。

現時点で「第85類から第90類へ一斉に移籍する」と断定できる一次資料は未公開ですが、ADAS市場の急成長と技術革新を背景に、センサー分類の精緻化が進む見通しです(例:位置センサー、画像センサー、慣性センサーなど)。

2. EV系コンポーネント

HS 2028はグリーン分野(環境関連)や電子分野にも重点を置いており、電池、充電器、電力制御部材の細分化が進む見込みです。

将来的な海外規制(例:EU電池規則など)との整合性強化や、統計把握の精緻化が進むと、これまで参照していた関税率、統計コード、規制適合のための参照コードが変わる可能性があります。

リチウムイオン電池、駆動用電動機、パワーエレクトロニクスといった電動化コンポーネントは、各国の関税政策や補助金制度の対象としても注目されており、正確な分類が一層重要になります。

3. 第87類「部分品」との関係

現行のHS第17部注の規定により、第84類、第85類、第90類、第91類に分類される品目(特掲品)は、原則として第87.08項(自動車の部分品)には分類されません。

したがって、これらの電装部品やセンサーが広範囲に**第87類へ編入(移籍)**されるには、条文または注記の大幅な修正が前提となります。最終的な判断には、2026年に公表される相関表と最終条文の確認が不可欠です。

4. 価格・税率・取引条件への影響

日本のMFN税率(最恵国待遇税率)では無税の品目も多いですが、仕向国によってはHSコードの変更が関税率の変動に直結します。

また、各国の国内法制化(8~10桁レベル)のタイムラグや、特恵関税の適否が変わる可能性を考慮すると、「品番—HSコード—PSR—税率—原産証明」というデータ連鎖全体の再整合が必要になります。


タイムラインと対応の考え方

移行スケジュール(想定)

  • 2025年12月末: WCO(世界税関機構)理事会による正式採択(予定)
  • 2026年 1月: 条文・相関表の公表 → 移行設計の正式スタート
  • 2026年~2027年: 以下の対応を実施
    • 各国の国内細分(8~10桁)改定、FTAのPSR改訂の動向を注視
    • 社内マスタ更新、PSR再判定、各種様式(自己申告書等)の改版
    • サプライヤー(ベンダ)への説明・教育
  • 2028年 1月 1日: HS 2028 発効(※国により適用開始日に若干の差異が生じる可能性あり)

部門別チェックリスト(推奨)

領域やること(要点)成果物/到達点
品番・マスタHS 2022→HS 2028の影響度スクリーニング(特にセンサー、ECU、EV系を優先)6桁影響リスト、再審査対象キュー
原産地/FTAPSRの再マッピング(CTC/VAへの影響確認)、自己申告様式・宣誓書の改版案作成改版テンプレート、取引先配布用ガイダンス
調達・価格税率/特恵の差分試算(主要仕向地×主要品番)コスト影響試算表、見積条件の更新指針
倉庫・通関国内8–10桁への波及を国別に確認し、優先国から運用手順を更新通関SOP(標準作業手順書)改訂、ベンダ教育資料
IT/ERP相関表をコードブックとして取り込み、移行期間中の処理(新旧コード併記)を設計データ移行計画、システム改修要件定義
法務/契約インコタームズや価格条項など、HSコードに依存する契約文言の見直し取引基本契約の付属書改定案

リスクと機会

想定されるリスク

  • 原産不適合リスク: PSR変更(特にCTC)により、従来は満たしていた特恵適格の基準から外れる。
  • 税番相違による遅延・監査: 輸出入申告時のコード不一致による通関遅延や、事後調査での指摘。
  • 多拠点でのコード不一致: 国別の切替時期の差異による、グローバルでのマスタ不整合。
  • 取引条件の再交渉: 顧客図番に紐づく契約や見積(関税条件等)の再提示が必要になる。

移行に伴う機会

  • 特恵最適化: 新設される細分を活用し、より有利なPSRや関税率を適用できる可能性。
  • 正確な統計把握: EV・ADAS関連部品の分類が精緻化され、市場分析や政策対話の根拠データが強化される。
  • 業務プロセスの標準化: マスタ、宣誓書、自己申告書の見直しを機に、業務の標準化や自動化を進め、監査耐性を向上させる。

推奨される初期対応(アクションプラン例)

相関表の公表(2026年1月予定)を待つ間にも、以下の準備に着手することを推奨します。

  1. 影響懸念在庫の特定:センサー、ECU、EV電装部品を中心に、現行のHSコード(6桁)ごとに在庫や取引量をリストアップし、変更の可能性がある「優先監視リスト」を作成する。
  2. PSR影響マップ(草案)の作成:主要FTA(CPTPP, 日EU EPA等)の対象品番について、現行6桁から「想定される新6桁」へ移った場合のPSRへの影響(CTC等)を仮試算する。(※相関表の公開後に確定版を作成)
  3. 書式雛形の改版準備:自己申告書やサプライヤー宣誓書、BOM(部品表)聴取票について、**HS欄を新旧併記(2022年版 / 2028年版)**で管理できるよう、様式のドラフト(案)を用意する。
  4. IT要件定義:ERP等の基幹システムにおいて、HSコードのテーブルを「有効開始日」付きで管理できるよう改修要件を整理する。ラベル、送り状、原産証明書への出力ロジック変更の要否も確認する。

不確定情報の取り扱い(2025年11月時点)

本分析は、2025年11月時点で入手可能な情報に基づいています。「第85類から第90類、あるいは第87類への具体的な品目移動」を示す最終的な条文・相関表は未公表です。

WCOによる2026年1月(予定)の公式発表を正式なトリガーとし、それまではリスク分析と準備作業を進め、公表後に本格的な移行作業へ移行することが推奨されます。

 

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