米EU15%関税合意と「安全弁」条項のポイント


2025年7月末、米国とEUは「多くのEU製品に15%レベルの輸入関税を適用する代わりに、EU側が米国製工業品の関税を大幅に削減する」という合意で、30%関税発動寸前だった通商紛争を回避しました。 スコットランド・ターンベリーでのトランプ大統領とフォン・デア・ライエン欧州委員長による政治合意が、その起点です。bbc+3

その後11月末、EU加盟国はこの合意をEU法に落とし込む条件として、輸入急増時に関税引き下げを一時的に止められるセーフガード(安全弁)と、2028年末までの影響評価レポートを求めました。 EU議会も18カ月サンセット条項など、追加の「安全装置」を検討しています。international.astroawani+3


1. 米EU「15%関税合意」の骨格

合意のタイミングと狙い

  • 2025年7月末、トランプ大統領とフォン・デア・ライエン委員長がターンベリーで政治合意し、8月から予定されていたEU製品への30%関税を回避しました。aljazeera+1
  • その後8月に米EU共同声明が公表され、9月25日付の連邦官報告示で具体的なHS(HTSUS)変更が実装されています。policy.trade.europa+2

米国側:EU向け輸入関税を「15%レベル」に調整

報道と連邦官報・実務解説を総合すると、米側の枠組みは次のイメージです。thompsoncoburn+2

  • 多くのEU原産品について、「通常のMFN税率+“リシプロカル関税”」の合計が概ね15%になるよう調整。
  • 自動車・自動車部品など、一部品目では従来25〜27.5%だった実効税率を15%水準まで引き下げる一方、元々低税率の品目では追加分を上乗せして15%近辺に合わせる構造です。bloomberg+1
  • ただし、航空機・一部化学品・半導体製造装置・重要原材料など戦略品はゼロ関税(あるいはMFNのみ)とする「ゼロ関税ゾーン」も設けられています。reuters+1

鉄鋼・アルミニウムについては、セクション232に基づく50%水準の追加関税が維持されており、今後の協議で調整余地があるという位置付けです。reuters+1

EU側:米国製工業品の関税をほぼ撤廃

  • EUは、米国製の多くの工業製品について関税を撤廃し、水産品・農産品の一部に関してはゼロ関税の関税割当(TRQ)を設定する方針を加盟国レベルで確認しました。gmk+1
  • さらに、エネルギーや防衛装備・半導体など米国製品・サービスを今後数年で数千億ドル規模購入するコミットメントや、追加的な対米投資拡大を盛り込んだと報じられています。bloomberg+1

この結果、「EU→米国」は多くが15%レベル、「米国→EU」は工業品ほぼゼロという非対称なディールとなっている点が、欧州側の政治的論争点になっています。reuters+1


2. EUが求める「安全弁」条項

加盟国の共通方針:セーフガードと影響評価

11月末時点で、EU加盟国政府は次のような共通方針をとっていると報じられています。gmk+1

  • 米国製工業品の関税撤廃と水産・農産物のゼロ関税枠設定には同意。
  • ただし、「米国からの輸入が急増し、EU産業に重大な損害またはそのおそれが生じた場合」に備え、関税引き下げを部分的・全面的に停止できるセーフガード条項を要求。
  • この発動には、加盟国からの要請→欧州委員会による調査→必要に応じた発動提案、というプロセスを想定しています。

加えて、欧州委員会に対し、2028年末までに関税変更がEU市場に与えた影響を評価するレポート提出義務を課すことも求めています。 2028年末というタイミングは、次の米大統領選直後に重なり、「4年間試験運用し、必要なら見直す」という政治スケジュールを意識した設計とみられます。english.almayadeen+3

欧州議会が検討する追加の「安全装置」

欧州議会は、これに加えて次のような案を検討中とされています。international.astroawani+1

  • 18カ月のサンセット条項:合意発効から18カ月で自動失効し、継続には再承認を必要とする時限措置化。
  • 米国側の約束違反への自動対応メカニズム:米国が追加関税再引き上げなど合意逸脱を行った場合に、EUが迅速に対抗措置(関税復元等)を取れる枠組み。
  • 鋼鉄・アルミ派生品への50%関税対処:合意後に米国が風力タービン等407品目に50%関税を課したことに対し、米国がこれを撤回しない限り、EUも同種の米国製品への関税を維持すべきとの主張。reuters

EU側は、「関税は下げるが、約束が崩れた場合は速やかに元に戻せる保険を条文に組み込む」ことを狙っていると言えます。english.almayadeen+1


3. EUが慎重になる背景

関税を政治カードとして使う米国への不信感

トランプ政権はこれまでも、相手の対応次第で関税引き上げ・引き下げを繰り返すスタイルを取り、「関税=外交カード」という認識を定着させてきました。 今回の米EU合意でも、投資・エネルギー購入コミットメントが履行されなければ15%を再引き上げる権限を維持する、と米側が説明していると伝えられています。cnbc+1

EUから見ると、「政治合意をしても、後から一方的に条件が変わり得る」というリスクがあるため、セーフティバルブの法的な組み込みに神経質にならざるを得ません。english.almayadeen+1

ディールの非対称性への政治的反発

数値だけ見ると、EU製品は広く15%関税、米国製工業品はEU市場でほぼゼロ関税という構図であり、エネルギー・防衛装備の巨額購入や追加的な対米投資コミットメントまで含めると、EU側の譲歩が大きいとの見方が根強くあります。 欧州議会内では、「譲歩しすぎたディールを安全弁なしで承認するのは難しい」との意見が多く、この政治事情も安全弁要求を後押ししています。reuters+3

EU産業への“二重のリスク”

  • 一方で米国製工業品が関税ゼロでEU市場に流入し、欧州企業との価格競争が激化するリスク。gmk+1
  • 他方で、米国が約束を反故にして再び関税を上げる、あるいはEUが自らセーフガードを発動せざるを得なくなるという、上振れ・下振れ双方の政策不確実性。

この“二重のリスク”が、EUに条文設計の「細部へのこだわり」を強いている背景といえます。reuters+1


4. 日本企業・投資家への実務インパクト

EU発・米国向け輸出(EU拠点の日本企業)

欧州拠点から米国へ自動車・部品・機械・化学品・医薬品等を輸出しているケースでは、合意前より高かった関税が15%水準に「落ち着く」一方、依然として無視できない負担です。 長期契約では、15%関税と将来の変動リスクを前提に、価格転嫁の方針や「通商条件が大きく変わった場合の価格再協議条項」を組み込んでおく必要があります。federalregister+2

米発・EU向けビジネスと競合する日本企業

米国メーカーと欧州市場で競合する日本企業にとっては、米製品が関税ゼロ・低関税でEU市場に入ることで、価格競争が一段と厳しくなる可能性があります。 EU市場向けのビジネスモデルについて、gmk+1

  • EU域内生産
  • 日本・第三国からの直接輸出
  • 米国拠点からの供給
    の相対的メリットを再検討するタイミングといえます。thompsoncoburn+1

サプライチェーン再設計の視点

米国は日本とも「15%相互関税」の枠組みで合意しており、EUとのディールは日本モデルと類似した構造になっています。 その結果、世界の製造業にとっては、govdelivery+1

  • 米国向け輸出:日本・EU・第三国のどの拠点から出すのが最適か
  • EU向け輸出:米国経由の方が有利になる品目がないか
    といった「米国・EU二極プラットフォーム」を前提としたサプライチェーン見直しが、数年スパンで進む可能性があります。policy.trade.europa+1

契約で押さえておきたい条項

  • 関税変動時の価格調整条項(特定の関税率変動や協定変更があった場合の再協議条項)。
  • 関税・公租公課の負担者を明確にする条項(輸入者負担を原則としつつ、相互関税については例外規定を設けるなど)。
  • 安全弁やサンセット条項を踏まえた、一定水準以上の関税に達した場合の契約解除・条件再協議のオプション。

こうした条項は、連邦官報やEU側立法の最終文言を確認しつつ、専門家と調整する必要があります。federalregister+1


5. 今後数カ月のチェックポイント

  • EU側立法プロセス:加盟国・欧州議会・理事会の三者協議を通じて、安全弁の発動条件や18カ月サンセット条項の有無がどう固まるか。international.astroawani+1
  • 米側運用:2025年9月25日連邦官報で実装されたHTS変更に加え、今後の大統領令や232・301の運用で追加の調整が行われるか。thompsoncoburn+1
  • デジタル政策とのリンク:米国は鉄鋼・アルミ追加関税の引き下げと引き換えに、EUのデジタル規制の「バランス調整」を求めていると報じられており、デジタル関連ビジネスはこのリンクにも注意が必要です。cnbc

日本のビジネスパーソンにとっては、「15%」「安全弁」といった見出しをそのまま受け取るのではなく、自社の取引フロー・価格・契約・投資計画に引き直して影響を定量化し、EU・米国双方の立法・運用の動きをフォローし続けることが重要になります。reuters+1

  1. https://www.reuters.com/business/us-eu-avert-trade-war-with-15-tariff-deal-2025-07-28/
  2. https://policy.trade.ec.europa.eu/news/joint-statement-united-states-european-union-framework-agreement-reciprocal-fair-and-balanced-trade-2025-08-21_en
  3. https://www.reuters.com/sustainability/boards-policy-regulation/eu-members-seek-safeguards-us-tariff-deal-protect-industry-2025-11-28/
  4. https://www.thompsoncoburn.com/insights/54-october-2-2025-implementation-of-u-s-eu-trade-framework/
  5. https://www.federalregister.gov/documents/2025/09/25/2025-18660/implementing-certain-tariff-related-elements-of-the-us-eu-framework-on-an-agreement-on-reciprocal
  6. https://www.bbc.com/news/articles/cx2xylk3d07o
  7. https://www.aljazeera.com/economy/2025/7/27/us-and-eu-agree-on-trade-tariffs-to-avert-economic-standoff
  8. https://www.bloomberg.com/news/newsletters/2025-07-28/us-reaches-tariff-deal-with-eu-to-avert-painful-trade-blow
  9. https://international.astroawani.com/global-news/eu-members-seek-safeguards-us-tariff-deal-protect-industry-549649
  10. https://gmk.center/en/news/eu-countries-seek-safeguards-in-tariff-agreement-with-the-us/
  11. https://english.almayadeen.net/news/Economy/eu-seeks-to-shield-industry-in-tariff-deal-with-us
  12. https://www.govinfo.gov/content/pkg/FR-2025-09-25/pdf/2025-18660.pdf
  13. https://www.cnbc.com/2025/08/17/eu-push-to-protect-digital-rules-holds-up-trade-statement-with-us-ft-reports.html
  14. https://content.govdelivery.com/accounts/USDHSCBP/bulletins/3f4360e
  15. https://www.lemonde.fr/en/economy/article/2025/07/27/eu-chief-and-trump-strike-trade-deal-in-transatlantic-standoff_6743785_19.html
  16. https://www.courthousenews.com/trump-eu-avert-trade-war-with-15-tariff-deal/
  17. https://www.cassidylevy.com/news/us-implements-certain-provisions-of-eu-framework-deal/
  18. https://www.axios.com/2025/07/27/trump-eu-trade-deal-tariffs
  19. https://uk.finance.yahoo.com/news/trump-tariffs-live-updates-us-may-exit-usmca-next-year-trump-meets-nvidias-ceo-to-talk-ai-chip-curbs-231853555.html
  20. https://www.reddit.com/r/europeanunion/comments/1pa29te/eu_members_seek_safeguards_in_us_tariff_deal_to/

EU鋼材「超過枠関税50%」が意味するもの


EUが鉄鋼輸入に対する新しい貿易措置として、関税割当枠(TRQ)を大幅に縮小し、枠超過分の関税を現行25%から50%へ引き上げる案を提示しています。 これに対し、欧州議会・国際貿易委員会(INTA)の草案は、50%関税を支持しつつ、一部条件を修正する方向で議論を進めています。eurometal+3

この記事では、

  • そもそも何がどう変わるのか
  • EU議会案で上乗せ・修正された点は何か
  • EU内外の企業への影響
  • 日本企業・ビジネスパーソンが今から準備すべきこと
    を整理します。jetro+1

1. 現行「鉄鋼セーフガード」とEC新制度案

現行セーフガード(〜2026年6月末まで)

EUは2018年、米国の鉄鋼セクション232関税(25%)発動を受けて、鉄鋼輸入にセーフガード措置を導入しました。 仕組みは「品目ごとのTRQ設定+枠超過分25%関税」というシンプルな構造で、約26カテゴリーの鉄鋼製品について枠内無税・枠超過に25%追加関税が課されています。chosun+1

WTOルール上、このセーフガードは2018年7月から8年で終了となるため、2026年6月末以降をどうするかが現在の議論の出発点です。finance.yahoo+1

欧州委員会(EC)案:2025年10月公表の新措置案

2025年10月、ECは「世界的な過剰生産からEU鉄鋼業を守る」ことを目的とした新たな鉄鋼貿易措置案を公表しました。 エッセンスは以下の3点です。eeas.europa+1

  • 無税枠(TRQ)の大幅削減
    年間の関税割当総量を18.3百万トンに制限し、2024年の枠から約47%削減するという内容です。letsrecycle+1
  • 枠超過関税を25%→50%へ倍増
    枠を超える輸入には50%の追加関税を課し、米国・カナダの水準と足並みを揃える構図になっています。reuters+1
  • 「メルト&ポア」原産地要件の導入
    鋼材がどの国で溶解・鋳造されたかを証明する「melt and pour」要件を導入し、ミルシート等で溶解国を示すことで迂回輸入を防ぐ狙いです。europa+1

対象は鉄鋼製品28品目で、現行よりやや拡大しており、ノルウェー・アイスランド・リヒテンシュタインは枠外扱い、ウクライナについては安全保障上の事情を踏まえた特例的な優遇が想定されています。 ECは、これによりEU鉄鋼の設備稼働率を現在の65〜67%程度から80〜85%へ改善し、世界的な過剰生産への防波堤にしたい考えです。eurometal+2


2. EU議会案(INTA草案)の中身

INTAのリーク草案(2025年11月24日付と報じられる文書)は、EC案をベースにしつつ、いくつか重要な修正を提案しています。eurometal+1

50%超過枠関税の維持

議会草案は、枠超過分50%関税というEC案のコア要素を支持しています。 無税枠自体も2013年輸入量を基準とする考え方を維持しており、現行枠より約半分程度の水準になるという方向性に変わりはありません。linkedin+2

キャリーオーバーの復活提案

EC案では四半期ごとのTRQ管理で「未使用枠の持ち越し不可」とされていましたが、INTA草案はこれを緩和し、未使用分の四半期枠を翌四半期にキャリーオーバーすることを認めるべきだと提案しています。 これは供給途絶と価格変動の急激な振れを抑えるためで、ユーザー産業からの強い要望を反映した修正とされています。lagrand+1

ロシア・ベラルーシ鋼の事実上の全面排除

議会草案は、ロシアまたはベラルーシで溶解・鋳造された鋼を使った製品をクオータ制度の対象外とし、EU国境で即時拒否する規定を盛り込む案を提示しています。 これは関税水準の問題を超えた安全保障・制裁措置の性格が強い提案です。eurometal

ウクライナ・EFTA3カ国の扱い

草案は、EC案と同様に、ウクライナについては戦時下の特例としてクオータ・関税を免除し、既存の一方的優遇措置の延長を想定しています。 またノルウェー・アイスランド・リヒテンシュタインについては、従来どおり制度の対象外としています。lagrand+2

発効時期:2026年中の開始見込みだが未確定

現行セーフガードは2026年6月末に失効し、新制度がその後を引き継ぐことが想定されています。 一部報道では、業界関係者が「2026年4月開始」を一つのシナリオとして挙げているものの、正式な発効日は依然として議論中であり、委員会採択・本会議・理事会との協議を経て最終決定される必要があります。eunews+3


3. EU内での評価:上流の歓迎と下流の危機感

鉄鋼メーカー側:稼働率と投資余力の回復

EUROFERなど鉄鋼メーカー側は、新措置案を「EU鉄鋼の設備稼働率を80〜85%に戻し、低価格輸入によるダメージを抑えつつ、脱炭素投資に必要な採算性を確保する措置」として強く支持しています。 彼らは、現在の輸入枠が需要に比べて過大であり、補助金付き・高炭素鋼がEU市場を侵食していると主張しています。reuters+3

自動車・機械などユーザー産業:コストと供給の両面を懸念

自動車・機械・エレクトロニクスなど鋼材ユーザー産業の業界団体は、47%のクオータ削減と50%超過関税、さらにmelt & pour要件による事務負担増の組み合わせが、コスト増と供給リスクを同時に高めると強く懸念しています。 一部の分析では、超過枠関税による追加コストが数十億ユーロ規模に達する可能性が指摘され、価格転嫁が難しいB2B取引ほどマージンが圧迫される構図です。koreapro+2


4. EU域外への波及:輸出国・英国・米国との連動

EU向け主要輸出国への影響

トルコ、インド、韓国、中国、ベトナム、台湾など、EU向け鉄鋼輸出の多い国々は、クオータ縮小と超過枠50%関税の組み合わせにより、枠内に収まらない部分の採算が厳しくなります。 その結果、輸出先の地域シフト(中東・アジア・アフリカなど)やEU向け製品の価格引き上げが進み、世界全体の鋼材フローが再配分される可能性があります。reuters+1

英国:EU市場依存ゆえの「実存的な脅威」

英国は鉄鋼輸出の大部分をEU向けに依存しているため、EUの新制度は「英国鉄鋼業にとって存在そのものを揺るがす脅威」と報じるメディアもあります。 UK Steelは国別クオータの確保を強く求めており、EUの高関税によりEU向けが減れば、代わりに安価な輸入が英国市場に流れ込む二重の影響も懸念されています。globalbankingandfinance

米国との「メタル・アライアンス」の可能性

EC案は、米国が既に導入している50%レベルの鉄鋼関税と歩調を合わせる形で、EU・米国の両方が中国などからの過剰輸出に対抗する「共同防衛ライン」を志向していると解説する向きもあります。 これは鉄鋼市場のブロック化、すなわち「北米+欧州 vs その他」という構図を強める方向に働きかねません。finance.yahoo+2


5. 日本企業・ビジネスパーソンの実務アクション

5-1 EU向けビジネスの鋼材依存度を棚卸し

まず、自社の売上・利益のうち、EU向けでかつ鋼材コスト比率が高い案件・製品を一覧化し、「EU向けにどの程度鋼材依存ビジネスがあるか」を把握することが出発点です。 そのうえで、50%関税がかかった場合の原価インパクトを粗くでも試算しておくと、社内説明や値上げ交渉の準備に役立ちます。jetro+3

5-2 HSコードとTRQカテゴリーの突き合わせ

新制度はTRQカテゴリーに基づいて運用されるため、自社の鋼材・部材のHSコードと、それがどのTRQカテゴリーに属するかを早期に確認する必要があります。 EU内部で十分な供給がない特殊鋼などは、業界団体を通じたロビーイングの論点にもなり得るため、「どのカテゴリーで、どれだけ枠が足りないか」を数字で把握しておくと有利です。thecaravelgu+2

5-3 「melt & pour」対応のトレーサビリティ構築

melt & pour要件により、EU向け鋼材や鋼材を含む製品では「溶解国情報」の提示が必須となる見込みです。 具体的には、letsrecycle+1

  • サプライヤー契約にmelt & pour情報提供義務を明記
  • 社内システムに「溶解国」フィールドを追加
  • ミルシートや長期供給者宣言のテンプレートを標準化し、サプライヤーに共有
    といった実務的なトレーサビリティ整備が求められます。eurometal+1

5-4 契約・価格条項(サーチャージ/関税条項)の見直し

2026年以降をまたぐ長期契約では、鋼材価格と関税・TRQ制度の両方の変動を織り込める条項が重要になります。 例として、reuters+1

  • 「EU鉄鋼TRQ制度の変更により当該品目の関税または関連コストがX%以上増加した場合、価格を協議・改定できる」
  • 「melt & pour要件強化に伴う追加事務コストを別途請求可能とする」
    などの条項が検討対象になります。thecaravelgu+1

5-5 立法プロセスと業界団体の動きを継続ウォッチ

制度はまだ提案+議会草案の段階であり、欧州議会本会議、理事会とのトリローグを経る中で、キャリーオーバーや対象品目などの細部が変わる可能性があります。eurometal+1

  • ECの公式発表・官報
  • 欧州議会INTA委員会の審議・修正案
  • EUROFER(上流)とACEA・Orgalim等(下流)の声明
  • JETROや各国政府の解説レポート
    といった情報源を追いながら、「決まってから対応」ではなく、「どう決まりそうか」を見越して社内シミュレーションを進めることが重要です。jetro+1

6. 50%という数字が持つメッセージ

EC案とEU議会案は、

  • 無税枠(TRQ)を2024年比47%削減し18.3百万トンに制限
  • 枠超過分の関税を25%から50%へ倍増
  • melt & pourに基づく厳格な原産地管理
    を柱とする、新しい鉄鋼貿易ルールを志向しています。europa+1

議会案は、50%関税自体は支持しつつ、四半期枠のキャリーオーバー復活、ロシア・ベラルーシ鋼の事実上の全面排除、ウクライナ・EFTA3カ国への特例といった要素を上乗せし、安全保障と実務運用のバランスを模索しています。 日本企業としては、EU向けビジネスの鋼材依存度、TRQカテゴリー、melt & pour情報のトレーサビリティ、2026年以降の価格条項といった観点で、早めに前提条件をアップデートしておくことが合理的なリスク対応となります。koreapro+3

  1. https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_25_2293
  2. https://www.chosun.com/english/industry-en/2025/10/08/C7S5WCWSCBAUZLECSFN2CCXLXI/
  3. https://eurometal.net/leaked-european-parliament-draft-on-safeguards-backs-50-steel-over-quota-duty-adds-russia-belarus-ban-quota-carryover/
  4. https://eurometal.net/2025/11/28/
  5. https://www.reuters.com/world/china/eu-halve-steel-import-quotas-revive-domestic-industry-2025-10-07/
  6. https://www.jetro.go.jp/biznews/2025/03/85badf9a4c5331d1.html
  7. https://uk.finance.yahoo.com/news/eu-plans-cut-steel-import-094823358.html
  8. https://www.eeas.europa.eu/delegations/t%C3%BCrkiye/commission-proposes-plan-protect-eu-steel-industry-unfair-impacts-global-overcapacity_en?s=230
  9. https://www.letsrecycle.com/news/eu-steel-proposal-seeks-stability-amid-global-overcapacity/
  10. https://eurometal.net/eu-unveils-quota-volumes-for-new-safeguard-system/
  11. https://www.linkedin.com/posts/eurometal_leaked-european-parliament-draft-on-safeguards-activity-7400190627092746241-IMKT
  12. https://lagrand.ch/eu-steel-market-poised-for-disruption-safeguard-draft-ukraine-scrap-ban-impact-202512021028/
  13. https://www.eunews.it/en/2025/10/07/zero-tariffs-for-lower-quotas-higher-ones-for-surpluses-eu-measures-for-steel/
  14. https://www.reuters.com/markets/commodities/eu-plans-cut-steel-import-quotas-hike-tariffs-2025-10-01/
  15. https://koreapro.org/?p=2211344
  16. https://www.thecaravelgu.com/blog/2025/10/11/kub596v0tlwetut8nfnrpm5amk48b9
  17. https://www.globalbankingandfinance.com/EU-STEEL-75902157-2ec7-4dd0-b847-5e24a4a2ba33/
  18. https://euperspectives.eu/2025/10/commission-slashes-steel-import-quotas-doubles-out-of-quota-tariff-to-50/
  19. https://www.steelorbis.com/steel-news/latest-news/eu-to-halve-steel-import-quotas-and-raise-tariffs-to-50-in-new-trade-package-1412688.htm
  20. https://x.com/EUROMETAL_/status/1994427204495933522

北米サプライチェーンの前提が変わるサイン

USTR(米通商代表部)の「カナダ・メキシコの中国ハブ化牽制」発言は、北米でビジネスを行う企業にとって、サプライチェーンの前提条件が静かに書き換わりつつあるシグナルです。reuters+1

この記事では、

  • ニュースの事実関係を整理・検証する
  • 「中国ハブ化」議論の中身を解説する
  • 日本企業を含むビジネスパーソンが取るべき実務アクションを提案する
    ことを目的とします。reuters+2

1. USTR発言で実際に何が起きたか

2025年12月4日、USTRのジャミソン・グリアー代表はワシントンの会議で、「カナダとメキシコが中国・ベトナム・インドネシアなどの輸出ハブとして使われるべきではない」と述べ、一部ではメキシコ経由の動きが既に見られると指摘しました。 同時に、USMCAには課題があるとしつつ、外国製自動車への関税など一部措置が問題を是正しつつあること、USMCAは議会が承認した法律として現時点で効力を持っていることも強調しています。news.yahoo+2

同じ12月4日、グリアー氏はPoliticoのポッドキャストで「トランプ大統領は来年、USMCAからの離脱を決める可能性がある」と述べ、カナダ・メキシコと二国間協定に分割するオプションにも言及しました。 ここで使われているのは「could」「always a scenario」といった表現であり、具体的な離脱プロセスが始まったわけではありません。newsweek+2


2. よくある誤解と冷静な整理

  • 誤解①「米国はUSMCAを来年破棄すると決めた」
    → 実際には、「来年離脱を決める可能性」に言及した段階であり、正式な離脱通知などの手続きは開始されていません。 USMCAは現時点でも有効な協定で、条文に沿って2026年の共同見直しに向けた準備が進んでいます。nytimes+3
  • 誤解②「メキシコ・カナダはすでに完全に『中国の裏口』になっている」
    → Brookingsの分析では、中国製品の関税回避ルートを「単純転送」「サプライチェーン組込み」「中国企業の現地投資」の3類型に整理したうえで、メキシコ経由の迂回は確認される一方、カナダ経由は証拠が限定的で、インフレ調整後の規模も「過度に騒ぐレベルではない」としています。brookings+1
  • 誤解③「メキシコ・カナダは中国寄りで、米国と対立している」
    → 実際には、両国とも対中関税を強化しており、スタンスはむしろ米国と歩調を合わせる方向です。brookings+1

3. なぜ「中国ハブ化」が問題視されるのか

背景にあるのは、米国の対中関税の大幅引き上げです。米国は2018年以降、通商法301条に基づき、中国製品に7.5〜25%の追加関税を広範囲に課してきました。 2024年の見直しでは、中国製EVに対する関税率が4倍の100%、半導体・太陽電池に50%、鉄鋼・アルミ・バッテリー・重要鉱物などに25%という大幅な引き上げが決定されています。jetro+2

この関税差があるため、中国企業にとっては「中国→(関税の低い)メキシコ・カナダ→米国」というルートで、USMCAの無税枠や低いMFN税率を活用しつつ米市場にアクセスする強いインセンティブが生じます。 Brookingsも、こうした関税格差がメキシコ・カナダ経由の迂回を誘発していると分析しています。jetro+1


4. メキシコはどこまで「中国ハブ」か

ジェトロのレポートによると、中国からメキシコへの輸出額は2023年に約818億ドルと10年前の約3倍に増加し、年平均伸び率は約10%強と高いペースです。 伸びているのは乗用車・小型トラック、リチウムイオン電池、EV、部品・金型・機械設備など、対米輸出を意識した「工場一式」のような品目群です。jetro

一方でBrookingsの詳細分析では、変圧器・鉄鋼・自動車部品などで中国→メキシコ→米国という迂回の兆候はあるものの、インフレ調整後の規模は限定的であり、メキシコが鉄鋼などで対中関税を引き上げた結果、中国からメキシコへの鉄鋼輸入が2023年以降大きく減少していると指摘します。 このことから、政策次第で迂回ボリュームは一定程度コントロール可能だと結論づけています。brookings

さらにメキシコ政府は、非FTA国(中国を含む)からの自動車関税を現行20%からWTO上限の50%まで引き上げる計画を打ち出しており、中国側は「米国の圧力によるものだ」と強く反発しています。 メキシコはニアショアリングの勝者として中国企業を含む多国籍企業の北米ハブになりつつある一方、米国からの警戒と圧力も最も強く受ける立場にあると言えます。chinaglobalsouth+3


5. カナダは対中EV関税で“タカ派”

カナダ政府は2024年10月から、中国製EVに100%の追加関税、中国製鉄鋼・アルミに25%の関税を導入しました。 これは米国の追加関税とほぼ同水準であり、「北米市場を守る防衛ライン」として評価されています。whitecase+1

その一方で、2025年秋以降、カナダがこの100%関税の見直し・撤廃の可能性を検討しているとの報道もあり、対中・対米関係の狭間でスタンスを微調整し始めていることもうかがえます。 Brookingsは、現状カナダ経由の迂回の証拠は限定的としつつ、将来リスクに備えて米・加・墨の三国が対中投資・貿易政策でより連携すべきと提言しています。brookings


6. 「中国ハブ化」という見出しの限界

ここまでの事実から見えるのは、メキシコ・カナダが単純な「中国の裏口」ではなく、中国・北米・各国政府の思惑が交差する最前線にあるということです。reuters+1

  • 中国企業にとって:関税回避と市場アクセスの出口
  • 米国にとって:対中デカップリングを進める防波堤
  • メキシコ・カナダにとって:投資を呼び込みつつ、米国の「レッドライン」を踏まないための綱渡り

「中国ハブ化」という見出しだけを素直に読むと「中国寄りのメキシコ・カナダVS米国」という対立図に見えますが、実態は三者がそれぞれの利害を計算しながらバランスを取り続けている構図です。reuters+1


7. USMCA 2026年レビューと「離脱カード」

USMCAは2020年7月1日に発効し、原則16年の有効期限(2036年7月まで)を持ちますが、6年目(2026年7月)に三国で共同見直しを行い、合意できればさらに16年延長、合意できなければその後は毎年レビューという仕組みです。 この構造自体が、協定の将来に一定の不透明感を組み込んでいます。jetro+1

2025年9月には、USTRがUSMCA見直しに向けたパブリックコメント募集を開始し、12月には公聴会も予定されています。 ワシントンの有識者の間では、米国がUSMCA継続に必ずしもコミットしておらず、メキシコ・カナダとの二国間協定への分割もオプションとして議論されているとの見方が多くなっています。jetro+2

グリアー氏やトランプ大統領は、「協定を失効させる」「新たなディールに置き換える」といった選択肢を交渉カードとして公然と口にし始めており、これが企業側にとっては政治リスクとしてのしかかります。 ポイントは、「USMCAがすぐ終わる」と決まったわけではないが、「いつでも終わらせられる」と受け止められることで、協定ベースの投資に上乗せのリスク・プレミアムが付くという点です。nytimes+2


8. 実務で今やるべき5つのアクション

8-1. 「どこで作るか」より「何で作るか」を管理する

USMCAレビューで有力視されているのが、「FEOC(懸念外国事業体)由来の部品が一定割合を超えるとUSMCA原産と認めない」といったルール強化です。 これは米インフレ削減法(IRA)のEV税額控除要件で導入されたFEOC規制をUSMCA原産地規則へ転用するイメージと指摘されています。jetro+1

実務としては、BOMベースで中国・香港・ロシア等の部品比率をSKU単位で把握し、「メキシコ製/カナダ製だから安全」と考えるのではなく、中身の原産国をトレースできる体制を整えることが重要です。jetro+1

8-2. USMCA・関税の3シナリオでコスト試算

最低限、以下の3パターンで試算用Excelを一度作成しておくと、経営判断のスピードが大きく変わります。jetro+1

  • ソフト:USMCA延長+中国由来部品への限定的な制限
  • タイト:USMCA延長と引き換えに自動車・EV・電池・半導体などで原産地規則が大幅強化
  • ハード:米国が「離脱カード」を切り、高関税や二国間協定で揺さぶる

それぞれのシナリオで、調達先・生産拠点(中国/メキシコ/米国/カナダ/その他)・関税+物流コストがどう変わるかをざっくりでもNPVまで落としておくと、2026年レビュー前後の意思決定に耐えられます。jetro+1

8-3. メキシコ・カナダ投資の前提条件をアップデート

従来の前提だった「中国から部品を持ち込んでメキシコで組立→USMCA無税」「カナダ経由で米国へ出せば対中関税は薄まる」といった感覚は見直し必須です。 今後は、jetro+1

  • 中国色の濃さ=政治リスク
  • FEOC規制やUSMCA原産地ルールの強化で、中国由来部品にペナルティが付く可能性
  • メキシコは対中自動車関税を最大50%まで引き上げる方向で、中国メーカーにとっても楽園ではなくなりつつあることreuters+1
  • カナダも中国製EVと鉄鋼・アルミに高関税を課し、基本的には米国と足並みを揃える方向であることbrookings

を前提に、「メキシコ/カナダ+米国」の二段構え拠点戦略や、「USMCA向け仕様(中国コンテンツを削った設計)」とその他市場向け仕様の切り分けを検討する必要があります。jetro+1

8-4. 契約・価格式に「関税変動条項」を組み込む

トランプ政権第2期、USMCAレビュー、対中関税見直しが重なる中で、「想定外の関税で採算が吹き飛ぶ」リスクは明確に高まっています。 どの追加関税(301条・232条・相互関税・対中EV100%など)が発動・変更されたら、どのようなロジックで価格改定するか、誰がどのコストを負担するかを契約条件に落としておくことが不可欠です。whitecase+3

最低限の例として、

  • 指定関税がX%以上変動した場合の価格再協議条項
  • USMCA原産認定が外れた場合の関税負担のルール
  • 関税だけでなく、通関・監査対応コストも含めた調整条項
    といった文言を検討する価値があります。jetro

8-5. データとコンプライアンス体制の強化

米国税関(CBP)はAIを活用したリスク分析・監査を強化しており、HSコード・原産地・関税率の裏付けデータやサプライヤー証明を精査する傾向が強まっています。 原産地・HSコード・関税率を支えるBOMやサプライヤー証明の整備、DDP取引における社内チェック、通関・SCM・法務・財務を横断する「関税タスクフォース」的な体制づくりが現実的な防御ラインになります。jetro+1


9. 結論:メキシコ・カナダは抜け道ではなく“試験場”

USTRの発言は、「中国ハブ化」への警告であってUSMCAの即時終了宣言ではなく、むしろ「離脱カード」を含む政治リスクの設計図を示したものと見るべきです。 メキシコ・カナダは、中国企業にとっての出口、米国にとっての防衛ライン、自国にとっての投資誘致の武器という三重構造に置かれており、単純な「中国寄りVS米国」という構図では語れません。reuters+3

企業としては、中国コンテンツの可視化、USMCA・関税のシナリオ試算、契約・価格式・コンプライアンス体制のアップデートを2026年レビュー前に走らせておくことが、今回のUSTR発言を実務に落とし込むうえで最も合理的な対応になります。jetro+1

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USMCA再検証と「離脱カード」の波紋――北米サプライチェーンは何を覚悟すべきか


1. いま何が起きているのか(エグゼクティブサマリー)

USMCA(米・メキシコ・カナダ協定)は、**2026年に初回の「6年目共同見直し(レビュー)」**を迎えます(発効は2020年7月1日)。

協定本文第34.7条は、

  • 6年目に3か国で共同見直しを行うこと
  • その際に「さらに16年間延長するかどうか」を首脳レベルで書面確認すること
  • 延長に合意しなければ、2036年に協定が自動終了する”サンセット条項”になること

を定めています。

これに加え第34.6条は、いずれの国も6か月前通告でUSMCAから単独離脱できると明記しています。

2025年12月、トランプ政権のUSTR(米通商代表部)高官が

「来年、USMCAからの離脱を決める可能性がある」

と発言し、カナダ・メキシコのみならず企業・市場に大きな波紋を広げました。

2026年レビューは、

① 短時間で延長を決めて”継続”を確認するのか
② 再交渉の場として利用されるのか
③ 最悪の場合「離脱」や「2036年失効」へのレールになるのか

という分岐点になります。

日本企業にとっては、「NAFTA → USMCA」以上に不確実性の高いイベントであり、自動車・電機・機械を中心とする北米サプライチェーン戦略の再点検が急務です。


2. USMCAの「再検証」メカニズムを整理する

2-1. サンセット条項と6年目レビュー

USMCA第34.7条は、次のような構造になっています。

1. 16年の有効期間+延長オプション

  • 協定は発効から16年後(2036年7月1日)に自動終了。
  • ただし、3か国の首脳が書面で「延長したい」と確認すれば、そこからさらに16年延長。

2. 6年目の「共同見直し」

  • 発効から6年目(2026年)に、3か国の閣僚級で**共同レビュー(joint review)**を実施。
  • 各国は事前に「協定運用に関する提案・懸念」を提出できる。

3. 延長判断と”年次レビュー”

  • 6年目レビューで3か国全てが「延長したい」と確認すれば、その時点で自動延長。
  • もし1か国でも「延長しない」とした場合:
    • 2036年の自動終了は維持
    • それまで毎年「延長するかどうか」を再協議する年次レビューが義務付けられる。

つまり、2026年レビューは

「USMCAを2036年以降も安定的に続けるのか、それとも”いつでも終わり得る協定”として残り10年を走り抜けるのか」

を決める分岐点です。

2-2. 単独離脱条項との組み合わせ

別条文の第34.6条は、

  • **一方的離脱(withdrawal)**を認め、
  • 書面通告から6か月後にUSMCAから退出できると定めています。

したがって、

  • 2026年に3か国で延長を決めたとしても、
  • その後、米国・カナダ・メキシコのいずれかが国内政治の判断で離脱カードを切る余地は残ります。

3. 「離脱示唆」はどこまで本気なのか

3-1. USTR高官の発言とトランプ政権のスタンス

2025年12月、USTRのJamieson Greer氏はインタビューで、

**トランプ大統領が「来年、USMCAから撤退するかどうかを決める可能性がある」**と発言したとされています。

さらに、USMCAをカナダ・メキシコとの2本の二国間FTAに分割する構想にも言及したと報じられています。

これは、

  • 2018〜19年のNAFTA再交渉時と同様、「離脱カード」を交渉テコとして使う典型的なスタイルと見る向きが多い一方、
  • 今回は協定本文にサンセット条項と年次レビュー義務が組み込まれているため、「本当に終わりかねない」制度的リスクも存在します。

3-2. カナダ・メキシコ側の警戒

カナダでは、オンタリオ州首相が

「トランプ大統領を信頼していない。USMCAを前倒しで再交渉しようとする可能性がある」

と警告し、連邦政府に備えを求めています。

メキシコの自動車業界は、

  • **厳格化する原産地規則(ROO)**と
  • 米国によるトラック・EVなどへの高関税

を背景に、「2026年レビューに向けて”極めて複雑な見通し”」だと懸念を表明しています。

これらは、単なる政治的レトリックではなく、企業の投資判断・サプライチェーン構築に実際の影響を与え始めているシグナルと見るべきです。


4. 2026年レビューで焦点となり得る論点

各種シンクタンクの分析や実務家のコメントを整理すると、主な争点は以下の通りです。

4-1. 自動車・電機を中心とした原産地規則(ROO)

自動車の無税適用には、純費用方式で75%の域内部品比率が求められます。

この基準は段階的に引き上げられ、

  • 2020年発効時:66%
  • 2021年:69%
  • 2022年:72%
  • 2023年:75%(最終水準に到達)

となっています 。jetro

既に業界からは

  • 「実務的に達成が難しい」
  • 「アジアからの部材を一定程度認める”緩和”が必要」

との声も上がっており、2026年レビューで再調整を求める圧力が強まる可能性があります。

4-2. 労働・環境規定とその執行

USMCAは、NAFTAに比べて

  • 労働権
  • 環境保護

の条項を強化し、メキシコの工場への査察や是正要求が活発化しています。

米国側は、

  • 「メキシコの履行状況は不十分」との主張を強める可能性があり、
  • これを理由に関税引き上げや是正措置をちらつかせる交渉に発展するリスクがあります。

4-3. 中国など「非市場経済国」との関係

USMCAには、いわゆる**「非市場経済国(実質的には中国)とのFTA締結を制限する条項」**が含まれており、北米が対中デカップリング・デリスキングを進める枠組みとしても機能しています。

2026年レビューでは、

  • 中国由来部材の取り扱い
  • EV・電池・半導体など安全保障関連サプライチェーンの優先度

が改めて俎上に載ると見られます。

4-4. エネルギー・国家安全保障・紛争解決

  • エネルギー政策(メキシコの資源ナショナリズムなど)や
  • 安全保障を理由とした232条・301条関税との整合

も、レビューの文脈で調整が求められます。

既に、パネル紛争が複数件動いており、「協定の運用上の問題」なのか「ルールの設計そのものの問題」なのかを巡って各国の認識は分かれています。


5. ビジネスが直面する4つのシナリオ

各種レポートで示されているシナリオを統合すると、企業が押さえるべきパターンはおおよそ次の4つです。

シナリオ1:小幅見直し+16年延長(ベースライン)

  • 自動車ROOなど一部ルールを微調整しつつ、2026年に3か国が16年延長を確認。
  • 市場には「しばらくはUSMCAが続く」という安心感
  • ただし「単独離脱カード」は残るという状況。

シナリオ2:激しい再交渉だが、最終的には延長

トランプ政権が

  • 「再交渉に応じなければ離脱する」とプレッシャーをかけ、
  • 自動車・農業・デジタル税などで大幅な譲歩を迫る。

ぎりぎりまで不透明感が続く一方、最終的には何らかの妥協で延長。

NAFTA再交渉時と同様、「交渉のストレス」自体がビジネスにとってコストとなるパターンです。

シナリオ3:二国間FTAへの分割・部分的な「USMCA離れ」

米国が

  • カナダとの二国間、
  • メキシコとの二国間

への分割を示唆・実行し、実質的にUSMCAの三国一体性が薄れるケース。

ルールが国・品目別にさらに複雑化し、サプライチェーン管理・原産地管理の難度が上がります。

シナリオ4:延長見送り → 2036年失効 or 単独離脱

2026年時点で1か国以上が「延長しない」と表明し、2036年の自動失効が既定路線となるケース。

さらに、政治状況次第では、

  • 米国が突然第34.6条に基づき6か月通告で離脱

という、**NAFTA撤退宣言の”再演”**も排除できません。


6. 日本企業が今から取るべきアクション

6-1. 「USMCA依存度」を見える化する

1. 売上・調達のUSMCA依存度

  • 北米向け売上のうち
    • USMCA無税を前提とした取引の割合
    • 自動車・部品、電機、機械など協定依存度の高い品目
  • を定量化する。

2. 原産地ルールに対する脆弱性

  • ROOが厳しい品目(完成車・主要部品、ハイテク製品など)をリストアップし、
  • 「ルール変更」「原産地証明の厳格化」による影響度を試算。

6-2. ルール変更・関税復活を前提にしたシミュレーション

上記4シナリオをベースに、

  • 関税がNAFTA前水準/WTO税率に戻るケース
  • USMCAは継続するが、自動車ROOがさらに厳格化するケース
  • 二国間FTA化で、米国向けとカナダ・メキシコ向けのルールが分かれるケース

を、それぞれ原価・価格・利益に落とし込んで試算しておくことが重要です。

6-3. 北米サプライチェーン戦略の再点検

メキシコ拠点の役割見直し

近年の「メキシコ・ニアショアリング」ブームを背景に、多くの日系企業がメキシコ拠点を北米向け輸出のハブとして位置付けています。

USMCAの将来が不透明な中、

  • 米国国内生産の比重
  • カナダ・メキシコでの補完生産

のポートフォリオ・バランスを再検討する必要があります。

中国・アジア由来部材の扱い

対中制裁関税や「非市場経済国」条項との関係で、中国由来部材を通じた北米市場アクセスは今後さらに精査される可能性が高い。

調達先の多様化・友好国シフトのスケジュールを前倒しで検討すべき局面です。

6-4. 契約・ガバナンス・情報収集の仕組み

長期取引契約の見直し

2026年〜2030年を跨ぐ長期契約には、

  • USMCAの見直し・離脱
  • 関税率変更

に対応する価格調整条項・再協議条項を標準搭載しておくことが望ましい。

HQ主導のモニタリング体制

本社レベルで、

  • USTRのレビュー手続き(公聴会・パブコメ)
  • カナダ・メキシコ政府の公式発言
  • 業界団体の要望書

を定期的にフォローし、各事業部に「シナリオ更新」をフィードバックする体制が必要です。


7. まとめ:USMCAは「制度リスクを抱えた成長市場」に変わった

USMCAは、

  • 北米をひとつの生産・販売プラットフォームとして機能させるうえで、依然として非常に強力な枠組みです。

しかし、

  • サンセット条項と6年ごとのレビュー
  • 6か月通告での単独離脱

を組み合わせた制度設計の結果、

「政治状況次第で”揺さぶり”が繰り返される協定」

へと性格を変えました。

日本企業としては、

  1. USMCAを前提にした現行ビジネスを冷静に棚卸しし、
  2. 関税復活・ルール変更・二国間化など複数シナリオの定量シミュレーションを行い、
  3. メキシコ拠点・米国内生産・アジア調達のバランスを戦略的に再設計する

ことが求められます。

「USMCA再検証と離脱示唆の波紋」を、**”危機”としてだけでなく、”北米戦略をアップデートする契機”**として捉えられるかどうかが、今後10年の競争力を左右すると言っても過言ではありません。

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  22. https://www.jetro.go.jp/biznews/2023/07/bc64d9351922882a.html
  23. https://www.jastpro.org/files/libs/1328/202110221627026698.pdf
  24. https://www.jetro.go.jp/biznews/2025/05/1dbb57c62bf5aa16.html
  25. https://www.mizuhobank.co.jp/corporate/industry/mra/pdf/vol030.pdf
  26. https://www.jbic.go.jp/ja/information/investment/image/inv_mexico202402.pdf