医薬品の関税動向:なぜ「ほぼ無税」のはずなのに通商リスクが高まっているのか


医薬品の関税動向:なぜ「ほぼ無税」のはずなのに通商リスクが高まっているのか

医薬品産業は、世界的に見れば「関税優遇」を受けてきた数少ない分野です。geneva-network
それでもいま、米国発の関税再編や新興国の保護政策によって、グローバル製薬ビジネスの前提が静かに変わりつつあります。unctad+1

世界の医薬品関税の現在地

WTO データを基にした推計では、医薬品に対する世界の平均 MFN 適用税率は約 2.1%に過ぎない一方、各国が WTO に約束している上限(約束税率)の平均は約 22%とされています。geneva-network
さらに、米国・EU・日本など主要な先進国は、ウルグアイ・ラウンドで合意した「医薬品ゼロ・フォー・ゼロ・イニシアティブ」に参加し、多くの医薬品およびその化学中間体の関税を撤廃してきました。geneva-network

結果として、

  • 先進国市場:完成医薬品・主要中間体は関税 0% が標準
  • 世界平均:実際に課されている関税は 2% 前後
  • ただし法的には 20%超まで引き上げ可能な余地が残る

という構図になっています。geneva-network
この「適用税率は低いが、約束税率との乖離が大きい」状態が、今後の地政学的緊張や財政悪化の局面で、医薬品にも関税カードが切られる余地を生んでいます。geneva-network

コロナ後の潮目:一時免税から選択的ゼロ関税へ

COVID‑19 パンデミック期には、多くの国がワクチンや検査キット等に対する関税を一時的に引き下げ、医療物資の安定供給を優先しました。geneva-network
その後、非常事態を脱した各国の措置は、恒久的ゼロ関税化・期間限定の優遇措置・従来税率への回帰といった複数パターンに分かれつつあります。geneva-network

企業側から見ると、「コロナ対応で一度 0% まで下がった関税」が、今後も維持されるのか・いつ元に戻るのかが国ごとに異なっており、長期の価格・供給契約を組む際の前提条件を揺らがせる要因となっています。geneva-network

米国発ショック:高関税時代の中で医薬品は「別枠」

関税全体は急上昇、その中で医薬品は供給安全保障の対象に

2025 年、米国は「貿易赤字是正」を掲げ、追加 10% 関税と国別の上乗せ措置を組み合わせた新たな関税パッケージを導入し、途上国を含む多くの国に対して平均関税が 2.8% から 25%超に達し得る新制度を運用し始めました。unctad
この「高関税時代」のなかで、医薬品は、対外的には関税カードの対象でありながら、国内的には不足リスクを避けるべき戦略物資という二重の位置づけになっています。dcatvci+1

米国のジェネリック医薬品は、完成品と原薬の両方でインドおよび中国への依存度が高く、両国からの供給が米国のジェネリック薬全体の 7〜8 割を占めるとする分析もあります。uscc+2
医薬品に高関税を課せば、既に懸念されている医薬品不足をさらに悪化させるとの警鐘も上がっており、結果として医薬品は他産業よりも慎重な扱いを受けています。ft+1

代表的な二国間・地域協定

  • 米英:ゼロ関税と新薬支出 25%増
    米国と英国は、英国産の医薬品・原薬・医療機器に対する関税を少なくとも 3 年間 0% とする一方で、英国側が新しい治療への公的支出(価格閾値を含む)を約 25% 引き上げることで合意したと報じられています。bbc+3
    この合意は、英国の輸出品を米国の高率関税から保護する代わりに、英国の薬価・支出側が調整される「ゼロ関税と薬価政策のパッケージ」として位置づけられます。apnews+1
  • 米 EU:ジェネリックは極めて低い関税へ
    2025 年 8 月の米 EU 共同声明および通商当局の説明では、ジェネリック医薬品やその原料・前駆体に対する米国関税を、ゼロまたはゼロに近い水準で維持・調整する方針が示されています。dcatvci
    同時に、多くの EU 向け製品については 15% 程度の関税上限が設定される一方、医薬品分野はより低い税率枠が別立てされており、「高関税の中での低関税枠」として扱われています。unctad+1
  • 韓国:ジェネリックはゼロ、バイオシミラーはグレー
    米韓間の交渉では、韓国製医薬品に対して MFN ベースで 15% の上限を確認しつつ、ジェネリック(コピー薬)についてはゼロ関税を維持することが合意され、懸念されていた大幅な関税引き上げが回避されたと報じられています。biz.chosun+1
    一方で、バイオシミラーなどバイオ医薬品のコピー薬については扱いが明示されておらず、今後の通商交渉での論点として残されています。chosun+1

新興国市場:医薬品は依然「5〜10%関税ビジネス」

インド:対米輸出はほぼ無税、国内では 5〜10% 課税

米国から見ると、2025 年時点でインド産医薬品に対する平均関税は約 0.01% とされ、主要輸入品目の中でも最も低いグループに属しています。india-briefing
一方、インドは米国産医薬品に対して 5〜10% 程度の関税を課しているとの指摘があり、インドの全品目ベース MFN 平均適用税率は 2023 年時点で 17% と主要国の中でも高い水準です。euagenda+1

2025 年には、米国がインド製品全般に対して 50% までの「報復関税」を適用し得る枠組みを導入しましたが、医薬品・一部セクターは対象外とされ、医薬品輸出に対する直接の打撃は限定的と報じられています。newindianexpress+3
ビジネス的には、「インド → 米国」は関税よりも数量規制・品質規制リスクが支配的であり、「米国 → インド」は 5〜10% の関税を価格にどう転嫁するかが収益に大きく影響します。ddnews+1

ブラジルなど:非農産品平均 9% クラス

ブラジルの MFN 適用税率を見ると、非農産品の単純平均は約 9% であり、その中に医薬品も含まれます。papers.ssrn+1
多くのラテンアメリカ・アジア新興国でも、医薬品は 5〜10% クラスの関税収入源かつ国内産業保護の対象として位置付けられており、完成品輸入か原薬輸入+現地製剤かといった事業モデルの選択が競争力を左右します。euagenda+1

実務インプリケーション:4つの論点

① ジェネリック・バイオ・原薬でリスクが異なる

  • ジェネリック
    米国・EU・英国・韓国など主要市場では、ジェネリック医薬品について「ゼロまたはゼロに近い関税」を維持する方向性が共有されつつあります。biz.chosun+3
    その代わりに、薬価引き上げや新薬への公的支出増、投資・雇用コミットメントなど、非関税面での条件がセットになるケースが増えています。theguardian+2
  • バイオ医薬品・バイオシミラー
    米韓のように、ジェネリックだけゼロ関税が明記され、バイオシミラーの扱いが意図的に曖昧にされている例も出てきており、「化学合成薬とバイオ医薬品で関税を差別化する」可能性があります。chosun+1
  • 原薬・中間体
    先進国間では、ゼロ・フォー・ゼロに含まれる原薬・中間体も多い一方で、新興国では原薬・中間体に一定の関税を残し、将来的な引き上げ余地を確保しているケースもあります。india-briefing+2
    API 供給拠点の偏在リスクと合わせて、調達先の国別関税・約束税率を長期的にモニタリングする必要があります。euagenda+1

② 「ゼロ関税」の裏の取引条件を見る

米英・米 EU の事例が示すように、ゼロ関税はもはや無条件の「善」ではなく、薬価・公的支出・投資・雇用などのコミットメントとパッケージで交渉されます。apnews+2
自社が享受する関税メリットと、その見返りとして相手国が負担する薬価・財政・投資条件をセットで読み解き、自社ビジネスモデルにとって中長期的にプラスかどうかを評価する視点が不可欠です。theguardian+2

③ 新興国の 5〜10% 関税を前提条件として設計する

インド・ブラジルなどの新興国では、医薬品に対する 5〜10% 前後の関税が当面続くとみなす方が現実的です。ddnews+2
そのうえで、原薬輸入+現地製剤、完成品輸入+現地販売、ライセンスアウトなど、関税・税制・規制をトータルで見た最適な組み合わせを国ごとに設計することが求められます。india-briefing+1

④ 関税だけでなく「約束税率」と政治リスクを監視する

現在の平均適用税率が 2.1% と低くても、約束税率は平均 22% まで余地があるため、政策変更次第で医薬品に対する関税が引き上げられる潜在リスクは残ります。geneva-network
特に、米国を中心とした報復関税や国別追加関税が他産業で拡大するなか、「医薬品だけゼロ」という状態が政治的に批判されれば、医薬品分野にも選択的な関税引き上げが波及する可能性があり、今後も重要なリスクファクターとなり得ます。dcatvci+1


以上を踏まえると、医薬品関税は「低いから安心」ではなく、「低いからこそ政治・外交・薬価政策と連動して変動し得る領域」であり、サプライチェーン設計や価格戦略において継続的なモニタリングが不可欠と言えます。unctad+2

  1. https://geneva-network.com/wp-content/uploads/2021/06/2021-how-tariffs-impact-access-to-medicines-SHORT.pdf
  2. https://unctad.org/news/mapping-size-new-us-tariffs-developing-countries
  3. https://www.india-briefing.com/news/us-india-tariff-50-percent-new-rules-impact-exporters-39458.html/
  4. https://prosperousamerica.org/u-s-dangerously-reliant-on-high-risk-imported-drug-supply/
  5. https://www.uscc.gov/sites/default/files/2019-11/Chapter%203%20Section%203%20-%20Growing%20U.S.%20Reliance%20on%20China%E2%80%99s%20Biotech%20and%20Pharmaceutical%20Products.pdf
  6. https://americanaffairsjournal.org/2024/02/foreign-government-subsidies-and-fda-regulatory-failures-are-causing-drug-shortages-in-the-united-states-heres-how-to-fix-it/
  7. https://www.theguardian.com/business/2025/dec/01/uk-us-agree-zero-tariff-pharmaceuticals-deal
  8. https://www.bbc.com/news/articles/cn0k520v4xro
  9. https://www.aljazeera.com/economy/2025/12/1/us-uk-agree-to-zero-tariffs-on-medicines-uk-commits-to-higher-spending
  10. https://apnews.com/article/uk-us-pharmaceuticals-tariff-deal-ea38985e971bf9aedd73f9def7985462
  11. https://www.dcatvci.org/features/global-impact-us-tariffs-pharma/
  12. https://www.chosun.com/english/industry-en/2025/10/30/KMY4QMQ7CZE6VMJIQ7GW27PEIU/
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  14. https://www.newindianexpress.com/business/2025/Aug/26/us-issues-draft-notice-to-enforce-50-tariffs-on-india-from-aug-27-pharma-electronics-exempted
  15. https://ddnews.gov.in/en/industry-expert-says-india-unlikely-to-be-impacted-by-us-pharma-tariffs/
  16. https://papers.ssrn.com/sol3/Delivery.cfm/SSRN_ID4070499_code4928395.pdf?abstractid=4070499&mirid=1
  17. https://euagenda.eu/publications/download/104794
  18. https://geneva-network.com/wp-content/uploads/2021/06/2021-how-tariffs-impact-access-to-medicines.pdf
  19. https://www.ft.com/content/b5ed8bf5-fdd2-462b-a92c-96f0d985a685
  20. https://www.chosun.com/english/industry-en/2025/05/21/N5SSKJ4BBBHMNPA2XQVN6RAQJM/
  21. https://www.nationalacademies.org/read/13386/chapter/8
  22. https://www.koreatimes.co.kr/business/companies/20250220/korean-biotechs-on-alert-over-trumps-tariff-threats
  23. https://www.navlindaily.com/article/28401/korean-biopharma-breathes-sigh-of-relief-over-u-s-tariff-deal-still-uncertain-about-biosimilars
  24. https://www.seattletimes.com/opinion/u-s-dependence-on-china-for-medicine-is-a-major-problem/
  25. https://www.statnews.com/2025/10/06/onshoring-tariffs-pharmaceuticals-biosimilars-generics-efficiency/
  26. https://abcnews.go.com/Health/wireStory/uk-us-agree-zero-tariff-deal-pharmaceuticals-128003967
  27. https://insights.citeline.com/scrip/business/strategy/us-tariffs-major-korean-biopharma-firms-ready-different-strategic-responses-HTMKHPAKWJBCLN72UAURX77SEM/
  28. https://kpmg.com/kpmg-us/content/dam/kpmg/pdf/2023/generics-2030.pdf
  29. https://www.taxtmi.com/news?id=63292
  30. https://freemarketfoundation.com/how-tariffs-impact-access-to-medicines/
  31. https://www.ndtv.com/india-news/any-tariff-on-pharma-will-hit-india-as-40-exports-go-to-us-report-9049267
  32. https://www.linkedin.com/posts/willydunbar_2021-how-tariffs-impact-access-to-medicines-shortpdf-activity-7267925003432595456-70PA
  33. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2666776221001964
  34. https://unctad.org/topic/trade-analysis/tariffs/tariff-dashboard
  35. https://accesstomedicinefoundation.org/medialibrary/2022-access-to-medicine-index-1668514375.pdf
  36. https://www.dhl.com/content/dam/dhl/global/microsites/dhl-nyu/pdf/dhl-trade-atlas-2025-analytical-chapters-only.pdf
  37. https://www.europarl.europa.eu/document/activities/cont/201201/20120130ATT36575/20120130ATT36575EN.pdf
  38. https://ustr.gov/sites/default/files/files/reports/2025/2025%20Trade%20Policy%20Agenda%20WTO%20at%2030%20and%202024%20Annual%20Report%2002282025%20–%20FINAL.pdf
  39. https://asia.nikkei.com/economy/trade-war/trump-tariffs/indian-exporters-say-50-us-tariff-impossible-to-cope-with
  40. https://www.oecd.org/content/dam/oecd/en/publications/reports/2018/11/pharmaceutical-innovation-and-access-to-medicines_g1g98d77/9789264307391-en.pdf

2025年、鉄鋼・金属サプライチェーンを揺さぶる関税再編――現場のビジネスマンが押さえるべきポイント


世界の鉄鋼・金属市場は、ここ数年で「自由貿易」から「管理貿易+安全保障+脱炭素」へと、完全にカラーが変わりました。
とくに鉄鋼・アルミ・銅などの金属は、各国の産業政策や安全保障、気候変動政策の”ど真ん中”にあるため、関税・セーフガード・税還付の見直しが立て続けに起きています。
この記事では、「鉄鋼・金属」にフォーカスした関税動向を整理しつつ、製造業・商社・加工業などのビジネスマンが、実務上なにをチェックすべきかをコンパクトにまとめます。

1. ざっくり言うと:鉄鋼・金属の関税は「高止まり+環境要件付き」の時代へ

直近の大きな流れだけ整理すると、次の3つです。

  • 米国:セクション232関税(鉄鋼・アルミ)の大幅引き上げ
    2025年6月、米国は鉄鋼・アルミに対するセクション232関税を、原則25%→50%に倍増。英国など一部を除き、USMCA域内(メキシコ・カナダ)も対象となったことが最大の衝撃です 。strtrade+1
  • EU:輸入鋼材への関税率引き上げ+関税枠(TRQ)の大幅縮小
    欧州委員会は、2026年から適用する新たな制度案として、無関税枠の数量を2024年比で約47%削減し、枠超過分には50%関税を課す方針を打ち出しています 。secnewgate+1
  • 中国:アルミ・銅などの輸出税還付(リベート)を廃止
    中国は2024年12月1日から、アルミ・銅など主要金属の輸出税還付を廃止・縮小し、実質的な輸出インセンティブを削除しました 。english.www+1

これに加えて、**EUのCBAM(炭素国境調整メカニズム)や、米国との交渉材料としてのメキシコの対中輸入高関税(最大50%)**など、鉄鋼・金属を直撃する制度が連鎖的に動いています 。ttnews

2. 米国:Section 232関税の再強化

対米ビジネスは「50%関税前提」が新常態

  • 何が起きているのか
    2025年6月4日以降、米国の鉄鋼・アルミ輸入にかかるセクション232関税は、原則50%に引き上げられました。
    特筆すべきは、これまで免除対象だったメキシコやカナダからの輸入にも50%が適用された点です 。英国向けについては25%に据え置かれていますが、それ以外の供給国にとっては極めて厳しい状況となっています 。また、対象品目は素材だけでなく、釘やワイヤーなどの派生製品(Derivatives)にも拡大しており、HSコードごとの確認が不可欠です。whitecase+1
  • ビジネスマン視点:なにが変わる?
    • 対米輸出モデルの再設計が必須
      50%の関税コストを吸収できる高付加価値品か、それとも米国内生産(現地化)に切り替えるか。事業戦略レベルの二択を迫られています。
    • 「melted and poured(溶解・鋳造)」ルールの厳格化
      原産地判定において「どの国で溶かし、どこで鋳造したか」の証跡管理が義務化されています。中国産鋼材が第三国で加工されて流入することを防ぐ狙いがあり、ミルシートのトレーサビリティが税率を左右します 。eurometal

3. EU:輸入鋼材への「量&価格」ダブル防衛+CBAM

新しい鉄鋼防衛策(セーフガード後継案)

  • 鉄鋼防衛策の激変
    EUは、2026年6月で終了する現行セーフガード措置に代わる新スキームとして、以下の厳しい提案を行っています 。euperspectives+1
    • 無関税枠(TRQ)を約33百万トン → 18.3百万トンへ約47%削減
    • TRQを超えた輸入には、従来の25% → 50%の関税
    • 枠の「繰り越し(Carry-over)」廃止
      つまり、**「輸入量を半減させ、超過分には倍のペナルティを課す」**という強烈な保護政策です。背景には、中国等の過剰生産に対するEU域内産業の危機感があります。
  • CBAMで「CO2コスト」も上乗せ
    これと並行してCBAMが進行しており、2026年からは本格的な課金フェーズに入ります。枠内(無関税)で輸入できたとしても、CO2排出量に応じた炭素コストの支払いが必須となります。

4. 中国:輸出税還付見直しで、アルミ・銅のグローバル供給に変化

輸出税還付(リベート)廃止・縮小

  • 何が起きたか
    中国は2024年12月1日より、アルミ半製品・銅製品などの輸出税還付(13%)を廃止しました 。これは長年、中国製品の価格競争力を支えていた「補助金的」な仕組みでしたが、これを撤廃することで、実質的な輸出価格の引き上げ(またはメーカーのマージン悪化)を招いています。bsstainless+1
  • ビジネスへの影響
    • LME価格および実勢価格の上昇
      還付廃止分を価格転嫁する動きが進んでおり、中国材の「安さ」というメリットが薄れています 。think.ing
    • 調達ソースの分散
      中国一辺倒だった非鉄金属の調達は、東南アジアや中東、リサイクル材へのシフトが加速しています。

5. メキシコ:対中高関税は「対米交渉」の切り札

北米サプライチェーン再編の正念場

  • 背景にある「対米交渉」
    2025年12月現在、メキシコ議会では中国などFTAを持たない国からの輸入に最大50%の関税を課す法案が審議されており、12月8日には下院委員会を通過しました 。bloomberg+1
    この動きの最大の動機は、米国によるメキシコ産鉄鋼への50%関税(6月発動)を解除してもらうことにあります。メキシコは「中国からの迂回輸出ルート(Backdoor)」を自ら塞ぐ姿勢を示すことで、米国からの制裁関税免除(Relief)を勝ち取ろうとしています 。financialpost
  • なにがポイントか
    • 「中国→メキシコ→米国」ルートの完全遮断
      メキシコでの加工を前提とした中国材ビジネスは、メキシコ側の入口で50%、米国側の入口でも原産地規則で弾かれるという「二重の壁」に直面します。
    • 生産拠点の再考
      メキシコが「北米の工場」としての地位を維持できるか、それとも米国南部への回帰が進むか、この法案の成立と米国の反応(関税解除の有無)が2026年の分水嶺となります。

6. 鉄鋼・金属ビジネスマンのための「明日からの」実務チェックリスト

最後に、今すぐ着手すべき実務アクションを整理します。

  1. 関税エクスポージャーの再計算(特にUSMCA圏)
    米国向けだけでなく、メキシコ・カナダ向けの輸出についても、現在の50%関税が適用されるのか、迂回防止措置に抵触しないかをHSコード単位で精査する。
  2. 契約・価格条件(インコタームズ)の防衛
    DDP条件での契約は、突発的な関税コスト(50%)を売り手が被るリスクがあるため極力避ける。「関税率の変更は買い手負担(Pass-through)」とする条項の明記が必須。
  3. 「中国離れ」の在庫戦略
    中国の還付廃止とメキシコの対中関税により、中国材の流動性が低下しています。東南アジアやインドなど、第二・第三のソース確保を急ぐとともに、TRQ枠が逼迫する前の「期初(1月・4月)の輸入枠確保」が勝負になります。
  4. 「Melted & Poured」とCO2データのセット管理
    「どこで溶かしたか(原産地)」と「CO2はどれくらいか(CBAM)」、この2つのデータがないと、欧米市場では土俵にすら上がれない時代です。サプライヤーからのミル証明書取得プロセスをデジタル化・厳格化しておくことが、将来のコスト削減に直結します。

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ソースを確認

  1. https://www.whitecase.com/insight-alert/trump-administration-increases-steel-and-aluminum-section-232-tariffs-50-and-narrows
  2. https://financialpost.com/pmn/business-pmn/mexico-to-hike-china-tariffs-raising-hopes-of-us-steel-relief
  3. https://www.ttnews.com/article/mexico-china-raise-tariffs
  4. https://eurometal.net/meps-international-understanding-the-eus-steel-defence-proposal/
  5. https://euperspectives.eu/2025/10/commission-slashes-steel-import-quotas-doubles-out-of-quota-tariff-to-50/
  6. https://www.strtrade.com/trade-news-resources/tariff-actions-resources/section-232-tariffs-on-steel-aluminum
  7. https://www.secnewgate.eu/the-future-of-a-critical-sector-for-the-eu-addressing-the-overcapacity-of-steel/
  8. https://english.www.gov.cn/news/202411/15/content_WS67374d69c6d0868f4e8ed074.html
  9. https://www.spglobal.com/energy/en/news-research/latest-news/crude-oil/111524-china-to-end-export-tax-rebates-on-aluminum-copper-biofuel-feedstock-dec-1
  10. https://www.bsstainless.com/market-mayhem-china-cancels-tax-rebate-on
  11. https://think.ing.com/articles/the-commodities-feed-lme-aluminium-jumps-after-china-ends-export-tax-rebate/
  12. https://www.bloomberg.com/news/articles/2025-12-08/mexico-to-hike-china-tariffs-raising-hopes-of-us-steel-relief
  13. https://www.china-briefing.com/news/navigating-chinas-latest-export-tax-rebate-adjustments-implications/
  14. https://apps.fas.usda.gov/newgainapi/api/Report/DownloadReportByFileName?fileName=UCO+Export+Tax+Rebate+Terminated_Beijing_China+-+People%27s+Republic+of_CH2024-0149.pdf
  15. https://www.metal.com/en/newscontent/103044495
  16. https://www.whitehouse.gov/fact-sheets/2025/06/fact-sheet-president-donald-j-trump-increases-section-232-tariffs-on-steel-and-aluminum/
  17. https://www.argusmedia.com/es/news-and-insights/latest-market-news/2730867-mexico-to-raise-auto-import-tariffs-to-50pc
  18. https://www.reuters.com/markets/commodities/china-cut-or-cancel-export-tax-rebates-products-including-aluminium-copper-2024-11-15/
  19. https://www.internationaltradeinsights.com/2025/06/amendment-to-imports-of-aluminum-and-steel-increases-232-tariffs-to-50/
  20. https://www.bruegel.org/first-glance/eu-should-moderate-its-steel-protection-plan

世界の鉄鋼・金属に「50%関税」と「グリーン関税」が同時に迫っている――2025年末時点で何が起きていて、何を準備すべきか


修正文(全体)

世界の鉄鋼・金属に「50%関税」と「グリーン関税」が同時に迫っている
――2025年末時点で何が起きていて、何を準備すべきか

2025年末、鉄鋼・金属を取り巻く関税環境は、これまでとは別世界と言えるレベルに変化しつつあります。
大きく整理すると、次の3つの壁が同時に立ち上がっています。

  • 50%クラスの超高関税(米国の Section 232 など)strtrade+1
  • セーフガード/TRQ+「melted & poured」などの原産地縛りreuters+1
  • EU CBAM に代表される「グリーン関税」+その周辺拡張europa

鉄鋼メーカーだけでなく、鋼材・アルミ・銅を大量に使う自動車・機械・建設・家電メーカーにとっても、仕入れ価格・調達経路・原産地証明のあり方を根本的に見直さざるを得ない局面です。
以下、主要地域ごとの動きを整理しつつ、日本企業としての打ち手を考えます。


1. 米国:232条は「50%」へ、対象も素材から製品へ拡大

1-1. 鉄鋼・アルミ:一律50%(英国のみ25%)

2025年6月、トランプ政権は Section 232 関税を鋼 25%・アルミ 10%から、ほぼ一律 50%へ引き上げる大統領布告を発出しました。whitehouse+1
2025年6月4日以降、英国を除く全ての国(カナダ・メキシコ等を含む)からの鉄鋼・アルミ輸入に 50%の 232 条関税が適用され、英国のみ通商合意に基づき 25%据え置きとなっています。thompsonhinesmartrade+2

  • 2018年:鋼 25%/アルミ 10%
  • 2025年2月:再就任後に 25%関税を再導入
  • 2025年6月:それを原則 50%に引き上げ(英国は 25%)whitehouse+1

同年夏以降、対象を「鋼・アルミを多く含む二次製品(機械、芝刈り機など)」に広げる動きもあり、「鋼そのもの」だけでなく「鋼・アルミを含む製品」にも 232 関税が波及しつつあります(対象品目は告示・HSベースで随時追加)。bis+1

1-2. 銅にも 232 関税拡大の動き

2025年末時点では、鋼・アルミに加え、一部の銅関連製品についても Section 232 の枠組みを用いた追加関税の導入・拡大が議論されており、特定の半製品や加工品に高率の関税が課されるケースが出てきています(対象 HS・税率は告示ごとに要確認)。whitecase+1
対象は主に半製品や一部の銅加工品で、スクラップなど原料段階は除外される方向が中心とされ、FTA の有無を問わず広範な国・地域が検討対象になっています。strtrade+1

銅・アルミを多く使う配電機器・EV 関連部品・精密機器にとって、「鋼→アルミ→銅」と金属全体に 232 関税・高関税の波が広がりつつある点は押さえておく必要があります。cfr+1

1-3. EU との新枠組みと“相互関税”構図

EU との新たな貿易枠組みでは、自動車・半導体など多くの工業品関税を 15%を上限に管理する一方で、鋼・アルミ・一部金属については EU から米国への輸出に高関税が残る構図が示されています。cfr+1
EU からの鉄鋼・アルミ輸出には、事実上高率の関税負担が固定される一方、EU 側も米国製品に対する報復関税や追加措置を維持しており、「鋼・金属だけ別枠で高関税」という相互関税の構図が鮮明になっています。wikipedia+1


2. EU:2026年までは25%セーフガード、その後は「50%案」+CBAM

2-1. 現行:2026年6月まで続くセーフガード TRQ(超過分25%)

EU の鉄鋼セーフガードは、2026年6月30日までの延長が正式に決定されています。europa+1
仕組みは、品目別・国別の関税割当(TRQ)を設定し、枠内は通常関税(多くはゼロ)、枠超過分には 25%の追加関税を課すというものです。reuters+1

2025年春以降、輸入急増への対応として、一部カテゴリーで残余枠への国別キャップ導入や未使用枠のキャリーオーバー制限など、TRQ の運用を引き締める改定が行われており、形式上の枠構造を維持しつつ“実効的な無税枠”を絞り込む方向に動いています。eeas.europa+1

2-2. 2026年7月からの新案:枠47%削減+超過分50%案

2025年10月、欧州委員会は現行セーフガードに代わる新しい鉄鋼防衛制度案を公表しました。eurometal+1
主な骨子は次の通りです。

  • 全体 TRQ(無税枠)を約 3,300 万トン → 約 1,800 万トンへ、約 47%削減
  • 枠超過部分の追加関税率を現行 25% → 50%に引き上げる案
  • 「melted and poured(溶解・鋳造)」の産地申告義務化
  • 未使用枠の持越し原則禁止と、対象品目拡張の裁量を欧州委員会に付与
  • 想定発効:2026年7月1日~2031年(2027年に見直し条項)europa+1

これに対し、EU の金属ユーザー団体などは「50%は過度であり、現行と同じ 25%にとどめるべき」と強く反対しており、2026年に向けて“25%か 50%か”を巡る政治・業界ロビーが続いています。orgalim

2-3. フェロアロイ向けセーフガードと細分化の流れ

さらに EU は、フェロクロムなどフェロアロイ向けに 3 年間の TRQ 制度を導入し、2022–24年平均輸入量より 25%低い水準で割当を設定する案を示しています。spglobal+2
TRQ 超過分については、追加課徴金等により実質的な追加負担を課す仕組みを検討しており、今後の制度設計次第では、鉄鋼全体の「50%案」と整合する形に吸収される可能性もあります。argusmedia+1

つまり、EU は「鉄鋼全体を一本のセーフガードで守る」段階から、「フェロアロイ・特殊鋼など細かいピースごとに個別の防御ラインを引く」段階へ移行しつつあると言えます。eurometal+1

2-4. CBAM:2026年から“CO₂コスト”を上乗せする第3の関税

これに重なるのが CBAM(炭素国境調整メカニズム)です。
対象セクターは、鉄鋼・アルミ・セメント・肥料・電力・水素など 6 分野からスタートします。europa

  • 2023–25年:移行期間(報告義務のみ)
  • 2026年1月1日:本格稼働し、輸入者は埋込 CO₂ 量に応じて CBAM 証書を購入・償却europa

2025年のレビューでは、自動車のドア、家電、工具など「鋼を多く含む下流製品」に対象を拡大する案が議論されており、今後の立法プロセス次第で対象範囲が広がる可能性があります。europa
したがって、EUに鋼材を輸出する場合だけでなく、自動車車体系部品・家電・機械など「鋼を大量に使う完成品」も、2026年以降は関税+セーフガード(または新 TRQ)+CBAM という三重コストを意識せざるを得ない局面になり得ます。reuters+1


3. カナダ・英国:25%“中国鋼”サーチャージとセーフガード

3-1. カナダ:「melted & poured in China」に25%サーチャージ

カナダは 2024 年に中国産鋼・アルミに 25%サーチャージを導入したのに続き、2025年7月31日から、「中国で溶解・鋳造された鋼・アルミ」を含む一定の製品に対して追加 25%サーチャージを課す措置を導入しました。gazette+2
ここでの対象は、「中国製」と表示されていなくても、鋼が中国で melted & poured されていれば 25%サーチャージの対象となる点が特徴です。cbsa-asfc+1

その結果、サプライチェーン上に中国由来の鋼が紛れ込んでいると、通常関税+反ダンピング・相殺関税+25%サーチャージが累積し得る構造となります。ey+1
中国側は WTO 協定違反だと強く反発し、農産品などへの報復関税も発動しているため、鉄鋼を含むカナダ–中国間の貿易は政治リスクを含め非常に不安定になっています。pcb+1

3-2. 英国:EU型セーフガードを維持、枠超過25%

英国は EU 離脱後も、EU とほぼ同じ内容の鉄鋼セーフガード(TRQ+枠超過 25%)を維持しており、2026年6月30日までの延長が推奨・手続き中です。gov+2
TRQ 枠内は通常関税(多くはゼロ)、枠超過分は 25%関税という構造で、EU・米国など他市場の制限により余剰鋼材が英国に殺到するのを防ぐことが主目的です。gov+1

一方、英国から米国への鋼・アルミ輸出については、他国向け 50%と比べると軽減されているものの、2025年以降も Section 232 に基づく 25%関税が概ね維持されており、以前の TRQ ベースの広範な免除は基本的に失われています。thompsonhinesmartrade+1


4. メキシコ:5〜50%の暫定関税+「最大50%案」でハブ化抑制

4-1. 2024年:5〜50%の暫定輸入関税(鋼・アルミ含む)

メキシコは 2024 年 4 月以降、544 品目に対して 5〜50%の暫定輸入関税を導入しました。trade+1
対象には鋼・アルミ・木材・プラスチック・電機部品・輸送用機器などが含まれており、主なターゲットは中国など自由貿易協定を締結していない国からの輸入です。bbvaresearch+1

目的は、国内産業保護に加え、米国の 232 条・301 条への“対抗カード”として、自国の通商ポジションを強化することにあります。trade+1

4-2. 2025年:最大50%の恒久案(鋼材・金属も含む)へ

さらに 2025 年秋には、2026 年経済パッケージの一環として、約 1,463 の HS 類別について関税法(TIGIE)の上限税率を 35〜50%まで設定可能にする改正案が議会に提出されています。internationaltradecomplianceupdate+1
鋼・アルミ・自動車部品・電子機器などが主要なターゲットとされ、対象は中国・インド・韓国・タイ・インドネシアなど FTA を持たないアジア諸国が中心です。internationaltradecomplianceupdate+1

2025年12月時点では、あくまで「最大 50%まで設定可能とする案」の段階ですが、メキシコ産業界の強い反発を受け、鋼材・自動車部品については段階的な引き上げや税率水準の修正が検討されていると報じられています。bbvaresearch+1
この動きは、「中国製鋼・金属をメキシコ経由で USMCA 市場に流し込む“ハブ化”」を防ぎたい米国の意向と、「国内鉄鋼・製造業を守りたい」メキシコ政府の思惑が一致した結果と見ることができます。trade+1


5. 3つのキーワードで見る「鉄鋼・金属の関税時代」

ここまでの動きをビジネスの視点で整理すると、次の 3 点がキーワードになります。

キーワード①:50%クラスの“懲罰的”関税の常態化

  • 米国 Section 232:鋼・アルミに原則 50%(英国のみ 25%)whitehouse+1
  • EU 案:2026 年以降、TRQ 枠超過分の追加関税を 25%→50%に倍増する提案eurometal+1
  • メキシコ:最大 50%まで関税を設定可能とする法案を提出internationaltradecomplianceupdate+1

「25%ですら重い」と言われていた時代から、「50%クラスが普通に俎上に載る時代」へとパラダイムが変わりつつあると考えるべき局面です。

キーワード②:“melted & poured”と「原産地の二重管理」

  • カナダ:「中国で溶解・鋳造された鋼・アルミ」を含む場合に 25%サーチャージgazette+1
  • EU 新案:「melted & poured」情報の申告義務化により、供給源をミルレベルでトレースeurometal+1
  • 米国:232 関連の免除スキームや政府調達等で、「米国で melted & poured された鋼」を優遇する運用が各所で採用されているstrtrade+1

従来の「最終実質加工地=原産地」だけを見ていればよい世界から、「どこで溶かしたか/鋳造したか」まで問われる世界にシフトしていると言えます。

キーワード③:「鉄鋼×CO₂」の CBAM が第3の関税に

  • EU CBAM:2026 年から、鉄鋼・アルミなど 6 セクターで CO₂ 排出量に応じた支払い義務europa
  • レビューでは、自動車のドア・家電・工具など「鉄を多く含む完成品」まで対象を広げる案が議論中europa

その結果、EU 向け輸出では、通常関税+セーフガード/新 TRQ(25〜50%)+CBAM という「三重の負担」が重なり得る構造になっています。reuters+1


6. 日本の鉄鋼・金属ビジネスが今やるべき5つのこと

① 市場別に「50%リスク」をマッピングする

  • 米国向け:自社の鋼材・鋼材を含む製品に 232 条 50%(または 25%)が現在・将来かかり得るかを一覧化する。whitehouse+1
  • EU 向け:現行セーフガードの TRQ 枠の利用状況と、2026 年以降に「枠 47%削減+50%案」が通った場合の採算性をシミュレーションする。eurometal+1
  • メキシコ・カナダ向け:中国由来の鋼・アルミを使っていないか、サプライチェーン単位で可視化し、追加サーチャージ・高関税リスクを把握する。gazette+1

どの案件に 50%クラスのリスクが乗るのかを、顧客別・プロジェクト別に棚卸ししておくことが第一歩です。

② “melted & poured”情報を取れるサプライチェーンに切り替える

カナダや EU 向けでは、「melted & poured」情報が取れないと、サーチャージ対象になったり TRQ 枠を使えなかったりするリスクがあります。gazette+1
サプライヤーに対し、溶解・鋳造地点を明記したミルシート/証明書を標準フォーマットで取得し、ERP や貿易管理システム上でロット単位に紐づけて管理する体制が重要です。

日本発の鋼材だけでなく、第三国からの鋼材→日本で加工→輸出という流れも多いため、「二重・三重の原産地情報」を追跡できる仕組みを設計することが求められます。

③ CBAM 前提で「CO₂情報」まで設計に組み込む

2026 年以降、EU 向けには t-CO₂/t 鋼など CO₂ 排出原単位の提示が求められるため、製鉄所レベルだけでなく、製品・グレード別の CO₂ データが必要になる可能性があります。europa
自社の CBAM 対応だけでなく、「日本製鋼材を用いることで EU 顧客の CBAM 負担がどれだけ減るか」を定量的に示せれば、営業面での差別化要素にもなり得ます。

結果として、「安いが高 CO₂」の鋼は、関税+CBAM を含めた総コストでは割高になるシナリオも現実的です。europa

④ 価格条件・契約条項に「関税セーフティバルブ」を入れる

232 条 50%や EU の 50%案のように、「契約期間中に関税が倍増する」ケースは、もはや珍しくありません。whitehouse+1
契約条件に次のような条項を織り込んでおくことで、一方的にコストを被るリスクを減らせます。

  • 特定関税(232 条、セーフガード、相殺関税など)の新設・引き上げ時の再交渉条項
  • HS コード・原産地変更や CBAM 負担増が必要になった場合の価格見直し条項

⑤ 「相互関税」前提で、通商モニタリングをルーティン化

鉄鋼・金属は、米国 vs EU、米国 vs カナダ・メキシコ、カナダ vs 中国、EU vs 中国など、複数の対立軸で“相互関税”が飛び交う代表業種になりました。pcb+1
したがって、次のような「通商インフラ」を社内に組み込むことが、鉄鋼・金属ビジネスにとっての新しい必須条件になりつつあります。

  • 経営会議・投資委員会の前に、関税・セーフガード・CBAM の最新状況をアップデートする定例プロセスを設ける
  • 米国 232 条、EU セーフガード/新 TRQ、CBAM、メキシコ・カナダの措置を月次でモニタリングする「通商・関税ダッシュボード」を構築するtrade+1

おわりに:鉄鋼・金属は「一番早く嵐が到来した」業種

鉄鋼・金属分野は、

  • 50%クラスの高関税
  • 原産地の二重・三重チェック(melted & poured 等)
  • CO₂ を価格に織り込む CBAM

といった新しい通商ルールが最初に本格適用される“実験場”になっています。gazette+2
ここで構築した「高関税+melted & poured+CBAM を前提にしたサプライチェーン・価格設計」は、今後アルミ・銅・バッテリー・化学品など他の素材ビジネスにも横展開できる「型」になる可能性があります。trade+1

2026 年に向けて、自社の鉄鋼・金属ビジネスを「関税 3.0 時代」の標準仕様にどこまでアップデートできるか。
それが、次の 10 年の競争力を左右する重要な分岐点になりつつあると言えます。whitehouse+1

  1. https://www.whitehouse.gov/fact-sheets/2025/06/fact-sheet-president-donald-j-trump-increases-section-232-tariffs-on-steel-and-aluminum/
  2. https://www.strtrade.com/trade-news-resources/tariff-actions-resources/section-232-tariffs-on-steel-aluminum
  3. https://www.reuters.com/markets/commodities/eu-plans-cut-steel-import-quotas-hike-tariffs-2025-10-01/
  4. https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_25_2293
  5. https://gazette.gc.ca/rp-pr/p2/2025/2025-08-13/html/sor-dors154-eng.html
  6. https://www.trade.gov/market-intelligence/mexico-tax-and-tariff-increase-2024
  7. https://www.internationaltradecomplianceupdate.com/2024/04/23/mexico-ministry-of-economy-published-in-the-federal-official-gazette-an-amendment-to-the-tariff-schedule-of-the-general-import-and-export-duties-law-tigie-for-its-acronym-in-spanish/
  8. https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/2025/06/adjusting-imports-of-aluminum-and-steel-into-the-united-states/
  9. https://www.thompsonhinesmartrade.com/2025/06/section-232-aluminum-and-steel-tariffs-increased-to-50-except-for-uk-significant-changes-made-to-calculating-and-stacking-of-tariffs/
  10. https://www.bis.gov/press-release/department-commerce-adds-407-product-categories-steel-aluminum-tariffs
  11. https://www.whitecase.com/insight-alert/trump-administration-increases-steel-and-aluminum-section-232-tariffs-50-and-narrows
  12. https://www.cfr.org/article/guide-trumps-section-232-tariffs-nine-maps
  13. https://en.wikipedia.org/wiki/Tariffs_in_the_second_Trump_administration
  14. https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_25_2698
  15. https://www.eeas.europa.eu/delegations/t%C3%BCrkiye/commission-proposes-plan-protect-eu-steel-industry-unfair-impacts-global-overcapacity_en?s=230
  16. https://eurometal.net/meps-international-understanding-the-eus-steel-defence-proposal/
  17. https://orgalim.eu/wp-content/uploads/New-EU-steel-safeguards-a-devastating-threat-for-European-steel-users.pdf
  18. https://www.spglobal.com/commodity-insights/en/news-research/latest-news/metals/111325-ecs-proposed-safeguard-to-curb-eu-ferroalloy-imports-by-25
  19. https://eurometal.net/eu-proposes-trq-to-reduce-ferro-alloy-imports-by-25-percent/
  20. https://gmk.center/en/news/eu-introduces-quotas-to-restrict-imports-of-ferroalloys/
  21. https://www.argusmedia.com/en/news-and-insights/latest-market-news/2754260-eu-states-to-vote-on-trq-variable-duty-alloy-safeguard
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  28. https://www.bbvaresearch.com/wp-content/uploads/2024/05/aranceles_240517_eng.pdf